東京高等裁判所 平成10年(行ケ)250号 判決 1999年9月29日
アメリカ合衆国、ペンシルベニア州19424、ブルーベル、
ピイ.オー.ボックス 500、タウンシップ ライン アンド
ユニオン ミーティング ローズ(番地なし)
原告
ユニシス コーポレーション
代表者
マーク ティ.スタール
訴訟代理人弁理士
大塚康徳
同
丸山幸雄
同
松本研一
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 近藤隆彦
指定代理人
斉藤操
同
森田信一
同
井上雅夫
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成4年審判第15993号事件について、平成10年3月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1987年9月30日にアメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和63年9月23日、名称を「ディスクアクセス時間に基づくコマンド選択機能をもつキャッシュ/ディスク・システム」とする発明(以下「本願特許発明」という。)にっき、国際出願(PCT/US88-03272、特願昭63-508501号)をしたが、平成4年4月28日に拒絶査定を受けたので、同年8月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成4年審判第15993号事件として審理した上、平成10年3月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月2日、原告に送達された。
2(1) 本願特許発明の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願第1発明」という。)の要旨
ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースへの前記ディスクキャッシュ内のデータの転送を命令するコマンドを作成し、作成された該コマンドをコマンド優先度と共に前記コマンドキューに格納し、前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇した場合には、前記コマンドキューの複数のコマンドからこのコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
(2) 同請求項3に記載された発明(以下「本願第2発明」という。)の要旨
ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇した場合には、このコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
(3) 同請求項5に記載された発明(以下「本願第3発明」という。)の要旨
ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシユ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1~第3発明が、いずれも、特開昭55-112664号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)、特開昭59-66755号公報(以下「引用例2」という。)及び米国特許第4523206号明細書(以下「引用例3」という。)に記載された各発明並びに周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
1 審決の理由中、本願第1~第3発明の要旨の認定、引用例1~3の記載事項の認定、本願第1~第3発明と引用例発明1との各相違点の認定、これらの相違点に関する判断は、いずれも認める。
2 本願特許発明は、平成5年4月14日付け手続補正書(甲第8号証)によって、第4回目の補正が行われたものであるところ、特許庁は、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書(甲第9号証)において、上記補正書の特許請求の範囲の請求項(以下「最終補正前請求項」という。)1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していない。
原告は、平成8年8月2日付け手続補正書(甲第10号証)において、最終の補正を行い(以下「最終補正」という。)、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明とし、同請求項5に係る発明と実質的に同一又はこれを限定した発明を本願第3発明としたものである。
これに対し、審決は、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3、4及び5に係る発明を含む、本願第1~第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから、同法159条2項が準用する同法50条の規定に違反し、違法として取り消されなければならない。
3 被告は、本願第3発明の「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、」という構成要件が、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないから、本願第3発明は、上記設計的事項を適用して、最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明にすぎないと主張する。
しかし、本願第3発明が、設計的事項を適用して最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明と解する余地があるとしても、それと同時に本願第3発明は、「コマンド数が所定数以上の場合に」基準を使用するものであり、最終補正前請求項5に係る発明と同様に、当然、「コマンド数が所定数以上でない場合に」基準を使用することがない旨が明確に表現されているから、本願第3発明と拒絶理由が通知されていない同請求項5に係る発明とは、互いに異なる発明ではなく、本願第3発明は、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものである。
すなわち、最終補正前請求項5に係る発明は、同請求項1に係る発明である、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行させ、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」を前提として、「前記制御手段は、幾つのコマンドが実行待ちになっているかに基づいて複数のコマンドから実行すべき次のコマンドを選択するが、前記コマンドキューに実行待ちであるコマンド数が所定数より少ない場合には、次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のキャッシュ/ディスク・サブシステム。」としたものである。
したがって、最終補正前請求項5に係る発明の「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」とは、同請求項1に係る発明の、コマンド数の全範囲で(言い換えれば、コマンド数による条件なしに)「基準」を使用する構成について、「コマンドキューに実行待ちであるコマンド数」による条件として、「所定数より少ない場合には、」「基準」を使用しない条件を追加したものである。しかし、この点が必ずしも明確な記載となっておらず、どの場合に基準を使用するのか疑義が生じるおそれがあったことから、不明瞭な記載部分をより明確化すべく、最終補正において、「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合」「基準」を使用するものと補正し、本願第3発明としたものである。
第4 被告の反論の要点
1 特許庁が、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書において、最終補正前請求項1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していないこと、原告が、平成8年8月2日付け手続補正書による最終補正において、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明としたことは、いずれも認める。
したがって、審決が、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3及び4に係る発明を含む、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法があることは認める。
しかし、本願第3発明の「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、」という構成要件は、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないから、本願第3発明は、上記設計的事項を適用して、拒絶理由を通知した最終補正前請求項1に係る発明をより限定した発明にすぎない。したがって、審決が、本願第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法はない。
2 原告は、本願第3発明と最終補正前請求項5に係る発明とが互いに異なる発明ではなく、本願第3発明が、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものであると主張する。
しかし、最終補正前請求項1に、上記「コマンド数が所定数以上の場合には」という事項を加えた本願第3発明は、「待ちコマンド数が所定数」「以上」以外の選択肢を全く含まないものである。
これに対して、最終補正前請求項5の、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しない」という事項は、「待ちコマンド数が所定数」「未満」である場合に対応するものである。
以上のように、最終補正前請求5に係る発明は、「待ちコマンド数が所定数」「未満」である処理を全く含まない本願第3発明とは、その構成を異にする発明である。
したがって、審決の認定判断は結論において正当であって、原告主張の取消事由は理由がない。
第5 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本願第1~第3発明の要旨の認定、引用例1~3の記載事項の認定、本願第1~第3発明と引用例発明1との各相違点の認定、これらの相違点に関する判断は、いずれも当事者間に争いがない。
また、特許庁が、平成8年1月18日付け拒絶理由通知書において、最終補正前請求項1、2、6、7、8、10、11、15、16、17及び18に係る発明に対して、拒絶理由を通知し、同請求項3、4、5、9、12、13、14及び19に係る発明に対しては、拒絶理由を通知していないこと、原告が、平成8年8月2日付け手続補正書による最終補正において、最終補正前請求項1、2及び3に係る発明を合体させて本願第1発明とし、同請求項1及び4に係る発明を合体させて本願第2発明としたこと、したがって、審決が、上記拒絶理由を通知していない最終補正前請求項3及び4に係る発明を含む、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法があることも、当事者間に争いがない。
そこで、審決が、本願第3発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことに、手続上の違法が存するか否かを検討する。
2 最終補正前請求項1に係る発明が、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、キャッシュメモリと、前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行させ、前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」であり、同請求項5に係る発明が、同請求項1に係る発明を前提として、「前記制御手段は、幾つのコマンドが実行待ちになっているかに基づいて複数のコマンドから実行すべき次のコマンドを選択するが、前記コマンドキューに実行待ちであるコマンド数が所定数より少ない場合には、次に実行すべきコマンドを選択するための基準を使用しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のキャッシュ/ディスク・サブシステム。」であることは、当事者間に争いがない。
他方、本願第3発明の要旨は、前示のとおりであり、この本願第3発明と最終補正前請求項1に係る発明とを対比してみると、最終補正前請求項1に係る発明の「前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」について、本願第3発明では、「前記制御手段は、『前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、』次のコマンドにより指定された・・・」として、『前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、』との構成要件を追加するものである。この追加された構成要件は、コマンドキューに格納された複数のコマンドから次のコマンドを選択する際に、実行待ちであるコマンド数が所定数以上あればこれを選択するというものであって、当業者が必要に応じて任意になし得る設計的事項にすぎないことが明らかである。
したがって、本願第3発明は、最終補正前請求項1に係る発明について、上記設計的事項を適用して、同請求項1に係る発明をより限定したものと認められる。
原告は、最終補正前請求項1に係る発明の、コマンド数の全範囲で「基準」を使用する構成を前提として、最終補正前請求項5に係る発明においては、「所定数より少ない場合には、」「基準」を使用しない条件を追加したものであり、さらに、どの場合に基準を使用するのかをより明確化するために、本願第3発明において、「前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合」「基準」を使用するものと補正したのであるから、本願第3発明と同請求項5に係る発明とは、互いに異なる発明ではなく、本願第3発明は、同請求項5に係る発明と実質的に同一の発明であるか、あるいは、同発明に包含されるものであると主張する。
しかし、最終補正前請求項5に係る発明では、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」の使用について、「所定数より少ない場合」にこれを使用しないことを特定しているのみであって、「所定数以上の場合」における基準使用の有無は何ら記載されていないから、「所定数以上の場合」に、基準を使用する構成と基準を使用しない構成の双方が含まれることになる。
これに対し、本願第3発明では、「次に実行すべきコマンドを選択するための基準」の使用について、「所定数以上の場合」にこれを使用する旨を特定しているのみであって、「所定数より少ない場合」における基準使用の有無は何ら記載されていないから、「所定数より少ない場合」に、基準を使用する構成と基準を使用しない構成の双方が含まれることになる。
そうすると、最終補正前請求項5に係る発明と本願第3発明とが一致しないことは明らかであり、しかも、本願第3発明では、「所定数より少ない場合」において、当該基準を使用する可能性が加わることとなるので、この点において最終補正前請求項5に係る発明とは相違するものであるから、本願第3発明が、最終補正前請求項5に係る発明を実質上減縮したものということもできない。
したがって、原告の主張は理由がなく、到底採用することができない。
3 以上のとおり、審決が、本願第1、第2発明について、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したことには手続上の違法があるものの、本願第3発明についての判断に関しては、手続上の違法が認められず、原告主張の取消事由に理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成4年審判第15993号
審決
アメリカ合衆国、ベンシルバニア州 19424、ブルーベル、ビイ.オー.ボツクス 500、タウンシツプ ライン アンド ユニオン ミーテイング ローズ(番地なし)
請求人 ユニシス コーポレーシヨン
東京都千代田区麹町5丁目7番地 紀尾井町TBRビル507号室大塚国際特許事務所
代理人弁理士 大塚康徳
東京都千代田区麹町5丁目7番地 紀尾井町TBRビル507号室大塚国際特許事務所
代理人弁理士 松本研一
昭和63年特許願第508501号「デイスクアクセス時間に基づくコマンド選択機能をもつキヤツシユ/デイスク・システム」拒絶査定に対する審判事件〔(平成1年4月6日国際公開WO89/03089、平成2年6月14日国内公表特許出願公表平2-501776号)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1、本願は、昭和63年9月23日(優先権主張1987年9月30日、アメリカ合衆国)の国際出願(PCT/US88-03272)であって、補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、請求項3、請求項5に記載された、その各発明の要旨は、次のとおりのものと認める。
「(1)ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースへの前記ディスクキャッシュ内のデータの転送を命令するコマンドを作成し、作成された該コマンドをコマンド優先度と共に前記コマンドキューに格納し、
前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇した場合には、前記コマンドキューの複数のコマンドからこのコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、
前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」(以下、第1発明と云う)
「(3)ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されるこどが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇した場合には、このコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、
前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」
(以下、第2発明と云う)
「(5)ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段と、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行し、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」(以下、第3発明と云う)
2、これに対して、当審において引用された、特開昭55-112664号公報(以下、引用例1と云う)、及び原審において引用された、特開昭59-66755号公報(以下、引用例2と云う)、同じく引用された、米国特許第4523206号明細書(以下、引用例3と云う)、には、以下の記載がある。
引用例1には、
「複数の要求を同時に受けることができるディスクシステムにおいて、シーク距離に対するシーク時間を格納する第1の記憶手段と、複数の前記要求のシリンダ位置と回転位置を格納する第2の記憶手段と、現在のシリンダ位置から各要求のシーク距離を算出する距離計算手段と、前記第1の記憶手段から前記距離計算手段で得られたシーク距離をアドレスとし読み出した各要求のシーク時間と前記第2の記憶手段に入れられている各要求の回転位置と現在のディスクの回転位置から各要求のシーク時間と回転待ち時間の和を求めるアクセス時間計算手段と、前記アクセス時間計算手段で得られた各要求のアクセス時間のうち最小のアクセス時間を有する要求を決定する比較手段とから構成され、前記比較手段によって決定された要求を優先してサービスすることを特徴とするディスクアクセス時間最適化装置。」(特許請求の範囲の欄)と記載され、
「以上のようにして、メモリM1に格納された要求のうち最もアクセス時間の小さい要求が選択される。第3図は本発明の一実施例を示すものであり、マイクロプログラム等の実現を束縛するものではない。
実際の応用では、運の悪さによって長い間サービスを待たされる要求が現れることがあり、この解決法として、各要求に対して待ち時間を計測し、不当に長く待たされている要求はここで提案した最適化によるスケジューリングを一時無視し、その要求を優先してサービスすることが行われる。」(第4頁右上欄)と記載されている。
引用例2には、
「複数の記録表面と、該記録表面の各々に設けられ且つ対応するシリンダを構成する各トラックを別個に走査する変換ヘッドと、該変換ヘッドに対する前記トラック上の記憶データの回転位置を指示する手段とを有するディスク記憶装置に記憶された複数のレコードをアクセスする方法であって、
1つの前記シリンダにおける予定の前記レコードをアクセスするための一連のコマンドを設定し且つ該コマンドを予定のシーケンスを有するコマンド・チェーンへ編成する段階と、
前記変換ヘッドによって前記トラック上の現レコードをセンスして該変換ヘッドに対する該現レコードの現回転位置を決定する段階と、
前記現回転位置と前記現レコードの予定位置との比較結果に従って前記コマンド・チェーン中の1つのコマンドを前記予定のシーケンスにおけるその論理的位置とは関係なく実行すべき最初のコマンドとして選択する段階と、
前記1つのシリンダにおける複数のレコードが前記記録表面の回転に起因する最小険度の待時間遅延を伴ってアクセスされるように、前記選択された最初のコマンドから前記コマンド・チェーンの最後のコマンドまでを実行し、次いで前記コマンド・チェーンの最初のコマンドから前記選択された最初のコマンドの直前にあるコマンドまでを実行する段階とから成る、ディスク記憶装置のアクセス方法。」(特許請求の範囲の欄)と記載され、
「キャッシュ40はバス41及びチャネル・アダプタ32を経由してホスト11とデータ信号を転送する。」(第7頁右上欄10~14行)と記載されている。
引用例3には、
「キャッシュメモリとバルクメモリとを有し、且つ、そこで実行されることを待っている貯蔵されたコマンドを保持しているコマンドキューを有するシステムにおいて、
各コマンドはそのキュー内の他のコマンドを跳び越えて実行される一つの優先レベルをもっている。
複数のコマンドがデータセグメントをキャッシュメモリからバルクメモリへ転送するために発生されるが、そのデータセグメントはキャッシュメモリ内に一時書き込まれている。
各発生されたコマンドは与えられた一つの優先レベルを有するものであり、その優先レベルはキャッシュメモリに書かれてはいるがバルクメモリにはまだコピーされていない多数のセグメントにおいて書き込まれるために個々に与えられる。
第2の優先レベルはキャッシュメモリにそのセグメントが最初に書き込まれてから所定時間が経過したことに依存して発生されるもので、その優先レベルは他のいかなるものより高い優先レベルをそのコマンドに与える。」(概要=アブストラクトの欄)と記載されている。
3、対比と 4、検討
3-1、本願第1発明と引用例1のものとを対比する。
両者は、「プロセッサからのコマンドに応答するディスク・システムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段(ディスク4に相当すると認められる)と、
前記プロセッサと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段(最適化装置3に相当すると認められる、)とを備え、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応したプロセッサ・コマンドを、前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースへのデータの転送を命令するコマンドを作成し、作成された該コマンドを前記コマンドキューに格納し、
前記制御手段は、コマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするディスク・システム」では同じであり、
(1)本願第1発明は、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行、
することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム」であるのに対し、
引用例1のものは、各要求のシーク時間と回転待ち時間の和を求めて制御するディスクアクセス時間最適化装置ではあるが、
キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備える、キャッシュ/ディスク・サブシステムにおけるものではない点、
(2)本願第1発明は、「前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応した複数のホストプロセッサ・コマンドを、コマンド優先度と共に前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースへの前記ディスクキャッシュ内のデータの転送を命令するコマンドを作成し、作成された該コマンドをコマンド優先度と共に前記コマンドキューに格納し、
前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇した場合には、前記コマンドキューの複数のコマンドからこのコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、
前記制御手段は、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム」であるのに対し、
引用例1のものは、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇した場合には、コマンドキューの複数のコマンドからこのコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、所定の優先度レベルよりも高いコマンド優先度を有するコマンドに遭遇しなかった場合には、そのような選択(和に従って)をするものではない点、
で相違すると認められる。
4-1、上記相違点について検討する。
(1)について;
キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段において、最小限度の待ち時間遅延を伴ってアクセスされるようにした、キャッシュ/ディスク・システムは周知(引用例2、参照)であるから、
引用例1のものに換えて上記相違点のごとくすることは当業者が必要に応じて容易に想到することと認められる。
(2)について;
引用例3に、キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段において、優先レベルはキャッシュメモリに書かれてはいるがバルクメモリにはまだコピーされていない多数のセグメントにおいて書き込まれるために個々に与えられ、優先度によって選択・制御されることも記載されているから、
引用例1のものに換えて上記相違点のごとくすることは当業者が必要に応じて容易に想到することと認められる。
3-2、本願第2発明と引用例1のものとを対比する。
引用例1における「----実際の応用では、運の悪さによって長い間サービスを待たされる要求が現れることがあり、この解決法として、各要求に対して待ち時間を計測し、不当に長く待たされている要求はここで提案した最適化によるスケジューリングを一時無視し、その要求を優先してサービスすることが行われる。」ものは、
本願第2発明の「所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇した場合には、このコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、
前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択する」ことに対応すると認められる。
そして、両者は、「プロセッサからのコマンドに応答するディスク・システムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、データを格納するディスクドライブ手段(ディスク4に相当すると認められる)と、
前記プロセッサと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段(最適化装置3に相当すると認められる)とを備え、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応したプロセッサ・コマンドを、前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇した場合には、このコマンドを次に実行すべきコマンドとして選択し、
前記制御手段は、所定の回数選択されなかったコマンドに遭遇しなかった場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするディスクシステム」では同じであり、
本願第2発明は、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行、
することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム」であるのに対し、
引用例1のものは、キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備える、キャッシュ/ディスク・サブシステムにおけるものではない点、
で相違すると認められる。
4-2、上記相違点について検討する。
キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段において、最小限度の待ち時間遅延を伴ってアクセスされるようにした、キャッシュ/ディスク・システムは周知(引用例2、参照)であり、
引用例3に、「第2の優先レベルはキャッシュメモリにそのセグメントが最初に書き込まれてから所定時間が経過したことに依存して発生されるもので、その優先レベルは他のいかなるものより高い優先レベルをそのコマンドに与える。」ことも記載さているから、
引用例1のものに換えて上記相違点のごとくすることは当業者が必要に応じて容易に想到することと認められる。
3-3、本願第3発明と引用例1のものとを対比する。
両者は、「プロセッサからのコマンドに応答するディスクシステムであって、
少なくとも1つのディスクと該ディスクと連動して該ディスクスペースをアクセスする放射方向に位置決め可能な信号変換器とを含み、デーダを格納するディスクトライブ手段(ディスク4に相当すると認められる)と、
前記プロセッサと前記ディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段(最適化装置3に相当すると認められる)とを備え、
前記制御手段は、ディスクアクセスを必要とするコマンドに応答して、前記ディスクドライブ手段の所定のディスクスペースをアクセスするために、前記信号変換器を制御し、
前記制御手段は、コマンドキューを含み、ディスクアクセスを要求してまだ実行されていない、前記ディスクドライブ手段の指定されたディスクスペースに対応したプロセッサ・コマンドを前記コマンドキューに記憶させ、
前記制御手段は、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするディスクシステム」では同じであり、
(1)本願第3発明は、「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ホストプロセッサ・コマンドを実行、
することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム。」であるのに対し、
引用例1のものは、各要求のシーク時間と回転待ち時間の和を求めて制御するディスクアクセス時間最適化装置であるが、
キャッシュメモリと、ホストプロセッサとキャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備える、キャッシュ/ディスク・サブシステムにおけるものではない点、
(2)本願第3発明は、「前記制御手段は、前記コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合には、次のコマンドにより指定されたディスクスペースをアクセスするために必要となる信号変換器のシーク時間と回転潜伏時間との和に従って、前記コマンドキューに格納された複数のコマンドから実行すべき次のコマンドをシーク開始前に選択することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム」であるのに対し、
引用例1のものは、コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上の場合に、そのような選択(和に従って)をするものではない点、
で相違すると認められる。
4-3、上記相違点について検討する。
(1)について;
「ホストプロセッサからのコマンドに応答するキャッシュ/ディスク・サブシステムであって、
キャッシュメモリと、
前記ホストプロセッサと前記キャッシュメモリとディスクドライブ手段間のデータ転送を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、ホストプロセッサ・コマンドを実行する際に使用されることが予期される前記ディスクに格納されたデータを、前記キャッシュメモリに格納させ、
前記制御手段は、前記ディスクドライブ手段のアクセスを待つことなく、前記キャッシュメモリ内に格納されたディスクデータを使用して、ボストプロセッサ・コマンドを実行、
することを特徴とするキャッシュ/ディスク・サブシステム」は周知(引用例2、3、参照)であるから、
引用例1のものに換えて上記相違点のごとくすることは当業者が必要に応じて容易に想到することと認められる。
(2)について;
コマンドキューで実行待ちであるコマンド数が所定数以上(たとえば、4以上)の場合に、そのような選択(和に従って)をすることは、当業者において必要に応じて任意になし得る設計的事項と認められるから、
引用例1のものに換えて上記相違点のごとくすることは当業者が必要に応じて容易に想到することと認められる。
そして、上記各相違点のごとく構成することによって得られる効果も当業者の予測できる範囲のものにすぎないと認められる。
5、したがって、本願第1、第2、第3、発明は、いずれも、各引用例に記載されたもの、及び上記既に知られたことに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成 10年 3月 16日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人 被請求人