大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(行ケ)263号 判決 1999年6月03日

群馬県桐生市境野町六丁目460番地

原告

株式会社三共

代表者代表取締役

毒島秀行

訴訟代理人弁理士

今崎一司

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

小泉順彦

砂川克

井上雅夫

廣田米男

主文

特許庁が平成7年審判第14480号事件について平成10年7月10日にした「平成7年1月17日付けの手続補正を却下する。」との決定、「平成7年8月4日付けの手続補正を却下する。」との決定及び「平成8年12月27日付けの手続補正を却下する。」との決定をいずれも取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年10月31日に発明の名称を「パチンコ遊技機」とする発明について特許出願(昭和61年特許願第260310号。以下「原出願」という。)をし、平成5年11月1日に原出願の一部を新たな特許出願(平成5年特許願第297265号。この出願に係る発明を以下「本願発明」という。)としたが、平成7年5月30日に拒絶査定を受けたので、同年7月6日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成7年審判第14480号事件として審理を受けることになった。この間、原告は、平成7年1月17日、平成7年8月4日及び平成8年12月27日に手続補正書を提出した(これらの手続補正書による補正を、以下順次「第一次補正」、「第二次補正」、「第三次補正」という。)。しかるに、特許庁は、平成10年7月10日に、第一次補正、第二次補正及び第三次補正をいずれも却下する旨の決定をし、同月23日に各謄本を原告に送達した。

2  第一次補正前の本願発明の特許請求の範囲(別紙図面参照)

遊技盤に設けられる可変表示装置と、

パチンコ球の通過に基づいて前記可変表示装置の表示結果を導出する第1の通過領域と、

前記可変表示装置の表示結果が予め定めた特定表示結果になった場合に特定遊技状態を発生させる特定遊技状態発生手段と、

遊技者にとって有利な第1の状態と不利な第2の状態とに変化自在な可変入賞球装置と、

前記特定遊技状態発生手段の出力のある期間中に前記可変入賞球装置を第1の状態に変化できるように定められた第2の通過領域と、

前記第1の通過領域へのパチンコ球の通過に基づいて表示結果を導出させるように前記可変表示装置を表示駆動制御する表示駆動制御手段と、

前記特定遊技状態発生手段の出力のある期間中に前記第2の通過領域へのパチンコ球の通過に基づいて前記可変入賞球装置を第1の状態に駆動制御する駆動制御手段と、

前記特定遊技状態発生手段の出力期間中である旨を報知する特定遊技状態報知手段と、

前記可変入賞球装置が第1の状態に駆動されていることを報知する第1状態報知手段と、を備え、

前記表示駆動制御手段は、前記可変表示装置が前記特定表示結果を低確率で導出するように表示駆動制御する第1表示駆動制御手段と、前記特定表示結果を高確率で導出するように表示駆動制御する第2表示駆動制御手段とを含み、

遊技状態における予め定めた遊技条件が成立したことに基づいて前記第1表示駆動制御手段と第2表示駆動制御手段のいずれかを選択する表示駆動選択手段と、

少なくとも前記第2表示駆動制御手段が選択されている旨を報知する高確率報知手段と、をさらに備えたことを特徴とするパチンコ遊技機。

3  各補正の内容

(1)第一次補正

第一次補正前の特許請求の範囲の最終段落を、

「前記第2表示駆動制御手段が選択されている旨を報知する高確率報知手段と、

前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を報知する高確率制御回数報知手段と、をさらに備えたことを特徴とするパチンコ遊技機。」

と補正するものである。

(2)第二次補正

第一次補正によって補正された部分を、

「前記第2表示駆動制御手段が選択されている旨を報知する高確率報知手段と、

前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段と、をさらに備えたことを特徴とするパチンコ遊技機。」

と補正するものである。

(3)第三次補正

特許請求の範囲を次のように補正するものである。

「遊技盤に設けられる可変表示装置と、

前記遊技盤の遊技領域を落下するパチンコ球の通過を検出する検出手段を有し、その検出手段の出力に基づいて前記可変表示装置の表示結果を導出する第1の通過領域と、

前記可変表示装置の表示結果が予め定めた特定表示結果になった場合に遊技状態を権利発生遊技状態とする権利発生手段と、

遊技者にとって有利な第1の状態と不利な第2の状態とに変化自在な可変入賞球装置と、

前記権利発生手段の出力のある期間中に前記遊技盤の遊技領域を落下するパチンコ球の通過を検出する検出手段を有し、その検出手段の出力に基づいて前記可変入賞球装置を第1の状態に変化させる第2の通過領域と、

前記第1の通過領域へのパチンコ球の通過に基づいて表示結果を導出させるように前記可変表示装置を表示駆動制御する表示駆動制御手段と、

前記権利発生手段の出力のある期間中に前記第2の通過領域へのパチンコ球の通過に基づいて前記可変入賞球装置を第1の状態に駆動制御する駆動制御手段と、

前記権利発生手段の出力期間中である旨を報知する特定遊技状態報知手段と、

前記可変入賞球装置が第1の状態に駆動されていることを報知する第1状態報知手段と、

少なくとも前記第2の通過領域へのパチンコ球の入賞個数が所定個数に達したときに前記権利発生手段の出力の導出を禁止する権利発生消滅手段と、を備え、

前記表示駆動制御手段は、前記可変表示装置が前記特定表示結果を低確率で導出するように表示駆動制御する第1表示駆動制御手段と、前記特定表示結果を高確率で導出するように表示駆動制御する第2表示駆動制御手段とを含み、

遊技状態における予め定めた遊技条件が成立したことに基づいて前記第1表示駆動制御手段と第2表示駆動制御手段のいずれかを選択する表示駆動選択手段と、

前記第2表示駆動制御手段が選択されている旨を報知する高確率報知手段と、

前記第2表示駆動制御手段が選択された回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段と、をさらに備えたことを特徴とするパチンコ遊技機。」

4  各決定の理由

別紙各決定書の理由写しのとおり

5  決定の取消事由

(1)第一次補正について

第一次補正の却下の決定は、第一次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を報知する高確率制御回数報知手段」の構成は、本願発明の願書添付の明細書又は図面に記載されておらず、それらの記載から自明な事項とも認められない旨説示している。

しかしながら、本願発明の実施例を図示した第5図には、発光ダイオード66a、66b、66cが記載されているところ、発光ダイオード66aの点灯は低確率の権利発生状態であることを報知し、発光ダイオード66bの点灯は1回目の高確率の権利発生状態であることを報知し、発光ダイオード66cの点灯は2回目の高確率の権利発生状態であることを報知するのであって、発光ダイオード66a、66b、66cの下に記載されている「1、2、3」の数字はこのことを意味するものである。したがって、発光ダイオード66b、66cは、高確率による表示駆動制御の回数を報知しているということができるから、第一次補正に係る事項は願書添付の明細書又は図面に記載されていないとした上記決定の判断は誤りである。

(2)第二次補正について

第二次補正の却下の決定は、第二次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」の構成は本出願の願書添付の明細書又は図面に記載されておらず、それらの記載から自明な事項とも認められない旨説示している。

しかしながら、第二次補正は、第一次補正の「回数を報知」の部分を、「回数を視覚的に報知」と補正するものにすぎない。そして、前記発光ダイオード66b、66cの点灯が視覚的に確認できるものであることは当然であるから、上記決定の判断は誤りである。

(3)第三次補正について

第三次補正の却下の決定は、第三次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」の構成は本出願の願書添付の明細書又は図面に記載されておらず、それらの記載から自明な事項とも認められない旨説示している。

しかしながら、第三次補正の上記部分は、第二次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」から、技術的に重複する「高確率による表示駆動制御の」を削除するものにすぎず、この削除によって本願発明の技術内容が変化するわけではないから、上記決定の判断も誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし4は認めるが、5(決定の取消事由)は争う。各決定の認定判断は正当であって、これらを取り消すべき理由はない。

原告の主張は、要するに、本願発明の実施例を図示した第5図に記載されている発光ダイオード66bの点灯は1回目の高確率の権利発生状態であることを報知し、発光ダイオード66cの点灯は2回目の高確率の権利発生状態であることを報知するのであって、発光ダイオード66a、66b、66cの下に記載されている「1、2、3」の数字はこのことを意味するから、発光ダイオード66b、66cは、高確率による表示駆動制御の回数を報知しているということができるというものに尽きる。

しかしながら、願書添付の明細書及び図面には、第5図の発光ダイオード66a、66b、66cの下に記載されている「1、2、3」の数字がどのような技術的意義を持つのか、何ら記載されていないから、原告の上記主張は失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(第一次補正前の本願発明の特許請求の範囲)、3(各補正の内容)及び4(各決定の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第5号証(公開特許公報)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる(別紙図面参照)。

1  技術的課題(目的)

本件発明は、遊技者にとって有利な第1の状態と不利な第2の状態とに変化する可変入賞球装置を備えたパチンコ遊技機に関するものである(1欄37行ないし40行)。

近時のパチンコ遊技機には、種々の入賞球装置が配設されている。例えば、パチンコ球が特定の領域に入賞したときは第1の可変入賞球装置を変化させてパチンコ球が入賞しやすい状態にし、この第1の可変入賞球装置にパチンコ球が入賞したときは第2の可変入賞球装置を遊技者にとって有利な状態に駆動するものである(1欄42行ないし49行)。

しかしながら、従来の入賞球装置では、第1及び第2の可変入賞球装置の入賞確率を変化させることができないので、第1及び第2の可変入賞球装置にパチンコ球が入賞するか否かの単純な遊技となり、遊技者を十分満足させることができない(2欄2行ないし10行)。

本件発明の目的は、遊技状態に応じて入賞確率を変化させることによって、遊技者の興趣を十分満足させることができるパチンコ遊技機を創案することである(2欄10行ないし14行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明はその特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1欄2行ないし34行)。

3  作用効果

本件発明によれば、可変表示装置が特定表示結果を導出する確率が低確率と高確率のいずれかとなる遊技状態で遊技を行うことができるため、可変入賞球装置への入賞の確率を変化させることができ、遊技者の興趣を満足させることができる。また、各遊技状態が報知手段によって報知されるので、遊技者は、遊技がどのような進行状態にあるかを容易に知ることができる(13欄15行ないし23行)。

第3  そこで、原告主張の各決定の取消事由の当否について検討する。

1  第一次補正の適否について

原告は、本願発明の実施例を図示した第5図に記載されている発光ダイオード66bの点灯は1回目の高確率の権利発生状態であることを報知し、発光ダイオード66cの点灯は2回目の高確率の権利発生状態であることを報知するから、発光ダイオード66b、66cは、高確率による表示駆動制御の回数を報知しているということができる旨主張する。

検討するに、前掲甲第5号証によれば、本願発明の実施例を図示した第5図には、発光ダイオード66a、66b、66cが記載されているが、これについて、発明の詳細な説明には次のような記載があることが認められる。

a  「大当り表示として3つの発光ダイオード66a、66b、66cを配設し、第1の大当り表示の発光ダイオード66aを点灯しているときの、(中略)デジタル表示部材37の予め定められた識別情報が例えば「7」に設定され、権利発生のための確率が1/10に設定され、また、第2の大当り表示の発光ダイオード66bが点灯しているときの前記デジタル表示部材37の予め定められた識別情報が例えば「3」、「7」に設定され、権利発生のための確率が2/10に設定され、また、第3の大当り表示の発光ダイオード66cが点灯しているときの、前記デジタル表示部材37の予め定められた識別情報が例えば「3」、「5」、「7」に設定され、権利発生のための確率が3/10に設定されている」(8欄15行ないし28行)

b  「所定遊技終了検出回路190の出力は、特定識別情報発生確率変更回路192に与えられ、該特定識別情報発生確率変更回路192の出力がデジタル表示駆動回路103に与えられ、(中略)大当り表示としての3つの発光ダイオード66a、66b、66cの点灯位置を移動させ、(中略)権利発生の確率も変更されるものである。」(12欄5行ないし18行)

これらの記載によれば、発光ダイオード66a、66b、66cは、権利発生状態が「低確率→高確率→より高い高確率」の順序で繰り返される実施例において、66aが点灯しているときの権利発生状態は低確率であり、66bが点灯しているときの権利発生状態は高確率であり、66cが点灯しているときの権利発生状態はより高い高確率であることを報知するものであることが明らかである。したがって、発光ダイオード66b、66cは、第一次補正前の特許請求の範囲に記載されている「少なくとも前記第2表示駆動制御手段が選択されている旨を報知する高確率報知手段」に該当する。そして、66bは1回目の高確率権利発生状態を、66cは2回目の(より高い)高確率権利発生状態を報知するのであるから、発光ダイオード66b、66cは、高確率による表示駆動制御の回数をも報知しているということができる。

したがって、第一次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を報知する高確率制御回数報知手段」の構成は、本願発明の願書添付の明細書又は図面に記載されていないとした第一次補正の却下の決定は、誤りである。

2  第二次補正の適否について

第二次補正は、第一次補正の「高確率による表示駆動制御の回数を報知する高確率制御回数報知手段」の部分を、「高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」と補正するものである。

そして、前記発光ダイオード66b、66cの点灯が視覚的に確認できるものであることは当然であるから、第二次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」の構成は本願発明の願書添付の明細書又は図面に記載されていないとした第二次補正の却下の決定は、明らかに誤りである。

3  第三次補正の適否について

第三次補正は、第二次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」から、「高確率による表示駆動制御の」を削除するものである。

そして、上記削除によって本願発明の技術内容に異同を生ずるものでないことは明らかであるから、第三次補正の「前記第2表示駆動制御手段が選択された回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段」の構成は本願発明の願書添付の明細書又は図面に記載されておらず、それらの記載から自明な事項とも認められないとした第三次補正の却下の決定も、誤りである。

4  以上のとおり、第一次ないし第三次補正を却下した決定は誤りであって、各決定はいずれも違法なものとして取消しを免れない。

第4  よって、各決定の取消しを求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年5月18日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面

<省略>

「37…可変表示装置、65a~65c…大当り数字表示器(高確率報知手段)」

本願は、昭和61年10月31日に出願した特願昭61年260310号の一部を分割して平成5年11月1日に新たな特許出願としたものであって、平成7年1月17日付けの手続補正によって、特許請求の範囲の欄を補正しようとすると共にそれに合わせて発明の詳細な説明の欄を補正しようするものである。

そして、上記補正された特許請求範囲の【請求項1】に記載の「・・・前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を報知する高確率制御回数報知手段と、・・・」の構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面に何も記載されておらず、また、それらの記載からみて自明な事項とも認められない。

したがって、上記補正は、明細書の要旨を変更するものであり、特許法第159条第1項の規定により準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本願は、昭和61年10月31日に出願した特願昭61年260310号の一部を分割して平成5年11月1日に新たな特許出願としたものであって、平成7年8月4日付けの手続補正によって、特許請求の範囲の欄を補正しようとするものである。

そして、上記補正された特許請求範囲の【請求項1】に記載の「・・・前記第2表示駆動制御手段が選択された高確率による表示駆動制御の回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段と、・・・」の構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面に何も記載されておらず、また、それらの記載からみて自明な事項とも認められない。

したがって、上記補正は、明細書の要旨を変更するものであり、特許法第159条第1項の規定により準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

本願は、昭和61年10月31日に出願した特願昭61年260310号の一部を分割して平成5年11月1日に新たな特許出願としたものであって、平成8年12月27日けの手続補正によって、特許請求の範囲の欄を補正しようとするものである。

そして、上記補正された特許請求範囲の【請求項1】に記載の「・・・前記第2表示駆動制御手段が選択された回数を視覚的に報知する高確率制御回数報知手段と、・・・」の構成は、願書に最初に添付した明細書又は図面に何も記載されておらず、また、それらの記載からみて自明な事項とも認められない。

したがって、上記補正は、明細書の要旨を変更するものであり、特許法第159条第1項の規定により準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例