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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)296号 判決 1999年4月14日

神奈川県川崎市高津区末長1116番地

原告

株式会社富士通ゼネラル

代表者代表取締役

八木紹夫

訴訟代理人弁理士

松田治躬

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

板垣健輔

小林和男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年異議第90157号事件について、平成10年7月10日にした商標登録異議の申立てについての決定のうち、登録第4011155号商標の指定商品中「電気通信機械器具」についての登録を取り消すとした部分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成元年9月27日、別紙本件商標目録表示のとおり、「HOME THEATER」の欧文字を横書きしてなる商標(以下「本件商標」という。)につき、指定商品を第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)、電気材料」として(指定商品の類別は平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による、以下同じ。)商標登録出願(商願平1-109581号)をし、平成9年6月13日に設定登録(登録第4011155号)を受けた。

松山巌は、平成9年10月17日、本件商標につき登録異議の申立てをした。

特許庁は、同申立てを平成9年異議第90157号事件として審理したうえ、平成10年7月10日、「登録第4011155号商標の指定商品中『電気通信機械器具』についての登録を取り消す。本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品についての登録を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年8月19日、原告に送達された。

2  本件決定の理由

本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、本件商標が、単に商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ないから、商標法43条の3第2項の規定により、その指定商品中「電気通信機械器具」についての登録を取り消すべきものであるとした。

第3  原告主張の本件決定取消事由の要点

1  本件決定は、事実の認定を誤り、本件商標が、単に商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由

本件決定は、本件商標が単に商品の品質、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるとの判断の前提として、「『ホームシアター』の文字は、『家に居ながらにして映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できる装置』を表す語としてテレビジョン受信機、音声周波機器等の製造、販売業界はもとより一般需要者間にも広く知られるに至っているものと言い得るものであり、」(決定書5頁8~13行)と認定したが、それは誤りである。

(1)  HOME」(家庭)と「THEATER」(劇場、映画館)とは、前者が、少人数の家族が自由気ままに居住する狭い空間であるのに対し、後者が、見知らぬ多数の人が集合し、周囲の気配を意識しながら身を置く音響効果のための巨大な空間であり、全く相容れない異なった価値を有する場所である。したがって、このような両極端の意味を有する「HOME」と「THEATER」とを対比的に羅列した「HOME THEATER」の語が、あり得ないものを内容とする創造的な造語であり、自他商品の識別力を有することは明らかである。

原告は、本件商標の設定登録を受けるまでに、既に、別紙原告商標目録1表示の構成よりなる登録第633015号商標(昭和37年12月8日登録出願、昭和38年12月25日設定登録)、同目録2表示の構成よりなる登録第656278号商標(昭和38年9月11日登録出願、昭和39年10月22日設定登録)及び同目録3表示の構成よりなる登録第2158664号商標(昭和61年12月15日登録出願、平成元年7月31日設定登録)の各商標権を得ており(以下、これらの商標を併せて「原告商標」という。)、遅くとも昭和62年1月に原告商標の使用を開始し、その使用は、本件商標を含めて、現在に至るまで一貫して続けられている。そして、昭和61年5月に三洋電機株式会社が、平成3年7月に三菱電気株式会社が、平成5年4月にはパイオニア株式会社が、それぞれ原告に対し、上記各会社の製品に「ホームシアター」の表示をすることを中止する旨の通知をしている(甲第9号証の2~4)ことから明らかなように、原告の同業他社は、原告商標及び本件商標が原告の登録商標であることを十分認識理解しているのであり、このことは一般需要者も同様である。

(2)  本件決定が、その認定の資料としたもののうち、「ホームシアターシステム」の語が掲載されている株式会社集英社発行の「カタカナ語・欧文略語辞典(imidas1997別冊付録)」(異議甲第2号証、本訴甲第10号証)及び「外来語・略語辞典(imdas1993別冊付録)」(異議甲第3号証、本訴甲第10号証)は、同一出版社の発行する単一の辞典にすぎず、これらとほぼ同時期に発行された株式会社研究社発行の「新英和大辞典」(甲第11号証添付資料1)、株式会社岩波書店発行の「広辞苑第四版」(同資料2)、株式会社研究社発行の「新和英大辞典」(同資料3)、株式会社朝日出版社発行の「現代ビジネス用語1996」(同資料4)、自由国民社発行の「現代用語の基礎知識1997」(同資料5)及び株式会社岩波書店発行の「広辞苑第五版」(甲第12号証)に、そのような語が掲載されていないことからみて、軽率な過誤記載といわざるを得ないものである。このことは、株式会社集英社が原告に対し、「カタカナ語・欧文略語辞典」の該記載について、普通名詞と登録商標との区別が明確でない不十分な記載であったことを認める旨の平成10年12月18日付書状(甲第18号証)を送付していることからも明らかである。

のみならず、該掲載語は「ホームシアター」ではなく、これに各機材を組み合せてセットにする意味合いを有する「システム」が付加された「ホームシアターシステム」が一体の語として掲載されており、商品単体について表現したものではない。

本件決定が用いた資料のうち、「電波新聞」(異議甲第4号証、本訴甲第10号証)、「日経産業新聞」(異議甲第5、第7号証、本訴甲第10号証)、「電化新聞(異議甲第6号証、本訴甲第10号証)、「日本経済新聞」(異議甲第8号証、本訴甲第10号証)の各掲載記事は、テレビを扱わないオーディオ関連製品のメーカーが、何の基準もなく、ムード的に「ホームシアター」の語を用いていることを示すにすぎない。本件決定においては、「ホームシアター」の語が、大型テレビの音量・音響の優れたもの又は大型テレビにスピーカーやアンプをセットしたものをいうとしているように推測されるが、「ホームシアター」の語に「シアター(THEATER、劇場)」の語が含まれている以上、ビジュアルな動きが見える画面のような装置(テレビ)が重要であって、これが存在しないスピーカーやアンプのような部品的な装置について、直接、商品の品質、用途を表示するものであるとは到底解されない。

本件決定が用いた資料のうち、取扱説明書類(異議甲第9号証、本訴甲第10号証)、カタログ類(異議甲第10、第11号証、本訴甲第10号証)には、「ホームシアターサウンドシステム」、「ホームシアターアクティブスピーカーシステム」、「DVDマイホームシアター」との表現が、「AVアクティブスピーカーシステム」、「バーチャル・シアター・サウンドシステム」、「ドルビーデジタルAC-3」、「デジタルシアター」、「デジタルムービー」、「劇場コンポ」、「AVシアター」等の表現とともに用いられているが、これらは、単にキャッチフレーズ的に用いられているにすぎず、特定の品質、用途を表現するものではない。

さらに、本件決定が資料とした雑誌類(異議甲12~26号証、本訴甲第10号証)のうちでは、「ホームシアター」の片仮名文字を横書きしてなる登録第2325803号商標(指定商品第26類「新聞、雑誌」、昭和63年8月12日登録出願、平成3年8月30日設定登録)の商標権者である株式会社ステレオサウンドの発行する「Hivi」誌(異議甲第26号証、本訴甲第10号証)が、最も積極的に「ホームシアター」の語を用いているが、これは、自己の有する上記商標権め価値を高めようとするものである。他の雑誌は、「Hivi」誌に追随して用いているにすぎない。

以上のように、「ホームシアター」の語は、キャッチフレーズ的な、極めて間接的、曖昧な表現に紛らわせて使用されているもので、商品の明確な品質・用途の表示として用いられているものではない。

(3)  被告は、「ホームシアター」の意味として、「Telepal」誌平成10年12月5日号(乙第4号証)の「映画に味付けをするというのは音響のこと。いくつかの方式があるが、その方式を取り入れて再生すれば、家庭でも劇場のような臨場感が味わえることになる。これがホームシアターだ。」との記載に基づく主張をするが、このように音響を過大に重視することは、本件異議手続において提出された各証拠の用例と必ずしも概念が一致せず、取引者・需要者間で「ホームシアター」が特定の概念を表す熟した表現となっていないことを示すものである。また、この音響についても、上記のように「いくつかの方式がある」とされているとおり、「ホームシアター用」の音質、音量、機材の特性、機材の構成等が明らかとなっておらず、具体性を欠くものである。

なお、原告が、電波新聞及び日経産業新聞の平成10年10月中の記事から、上記「Telepal」誌の記載するものに近い概念を表現する記載を抽出したところ、電波新聞においては、47回の表現記載のうち、「AVシアター」が15回、「デジタルシアター」が7回あるのに、「ホームシアター」は4回しかなく、また、日経産業新聞においては、5回の表現記載のうち「ホームシアター」は1回しかなく、2回は「家庭で劇場並み音響」、「家庭で映画館並みの音響・映像(AV)空間を楽しむ」との記述的記載である(甲第16、第17号証)。このことは、「ホームシアター」が品質表示用語として熟していないことを示すとともに、上記記述的記載の内容を「ホームシアター」の1語で表現しきれていないことを意味するものである。

第4  被告の反論の要点

1  本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  原告主張の取消事由について

(1)  「ホームシアター」とは、「Telepal」誌平成10年12月5日号(乙第4号証)に「映画に味付けをするというのは音響のこと。いくつかの方式があるが、その方式を取り入れて再生すれば、家庭でも劇場のような臨場感が味わえることになる。これがホームシアターだ。」とあるとおり、音響と大型画面テレビ、各種プロジェクターとによって、「家に居ながら、映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できること」との意味合いの語として用いられ、後記のとおり、この意味を表す語として、テレビジョン受信機、音声周波機器の製造に係る原告の同業他社はもとより、一般の需要者の間にも広く知られるに至っているものである。そして、本件商標は、この「ホームシアター」の語を英語で表記したものと需要者に直ちに看取されるものであるから、本件商標が創造的造語であるとすることはできない。

また、原告が、原告商標について、一部の同業他社に対し、「ホームシアター」の使用を差し控えさせている事実があるとしても、それは、原告と同業他社との当事者間の問題であって、本件商標が、自他商品識別標識として機能するかどうかとの判断に影響を及ぼすものではない。

(2)  本件異議手続において提出された各種新聞(異議甲第4~甲第8号証、本訴甲第10号証)、同業他社のカタログ、取扱説明書(異議甲第9~第11号証、本訴甲第10号証)、各種雑誌類(異議甲第12ないし第24号証、本訴甲第10号証)には、「ホームシアター」、「HOME THEATER」、「ホームシアター用」、「ホームシアター対応の」、「ホームシアター向けの」、「ホームシアターのための」等の記載を多数見ることができ、「ホームシアター」、「HOME THEATER」等の語は、いずれも「家に居ながら、映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できること」を意味するものとして、「ホームシアター用」、「ホームシアター対応の」、「ホームシアター向けの」、「ホームシアターのための」等の語は、そのような用途を表したものとして、取引者・需要者に認識されるものである。すなわち、これらの使用例は、いずれも自他商品の識別標識としての使用ではなく、「家に居ながら、映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できること」の意味合いを表現するために、これらの語を使用しているものと解されるところである。このことは、本件商標に係る登録査定時以後についても同様である(乙第1~第5号証)。したがって、「ホームシアター」の語がキャッチフレーズ的に使用され、商品の明確な品質・用途の表示として用いられているものではないとの原告主張は失当である。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由について

(1)  本件商標の商標登録原簿(写)(甲第2号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件商標の登録出願に対しては、拒絶査定不服の審判請求に対する平成9年4月14日の審決によって、登録すべき旨の査定がなされたものと認められるところ、本件異議手続において「ホームシアター」の語の意味内容を明らかにするために提出された新聞・雑誌等の記事(広告を除く。)、製品取扱説明書・カタログ類のうち、同日までに頒布されたものと認められるものは、

(イ) 異議申立人から提出された平成7年12月20日、平成8年1月12日、同年4月11日、同月19日、同年5月16日、同月24日、同年6月28日、同年7月12日、同月17日、同年9月12日、同年11月1日、同年12月9日、平成9年1月7日、同月31日、同年2月20日、同年3月28日及び同年4月2日付各「日経産業新聞」記事(異議甲第7号証、本訴甲第10号証)、平成7年12月25日、平成8年1月10日、同月17日、同年4月11日、同年5月13日、同年5月24日、同年6月18日、同月22日、同年9月14日、同年10月27日、同年11月30日、同年12月14日及び平成9年2月28日付各「日本経済新聞」記事(異議甲第8号証、本訴甲第10号証)、ソニー「AVアクティブスピーカーシステム」取扱説明書(異議甲第9号証、本訴甲第10号証)、デンオン「ホームシアターカタログ」(異議甲第10号証、本訴甲第10号証)、ソニー「DVDプレーヤーDVP-S7000」カタログ、パイオニア「DVDプレーヤーカタログ」、松下電器産業「DVDシステム」カタログ及びハヤミ工産カタログ(異議甲第11号証、本訴甲第10号証)、「日経ビジネス」誌平成8年12月9日号記事(異議甲第12号証、本訴甲第10号証)、「stereo」誌平成8年8月号、同年9月号、同年11月号、平成9年3月号各記事(異議甲第13号証、本訴甲第10号証)、「FMファン」誌平成9年1月27日号記事(異議甲第16号証、本訴甲第10号証)、「Senka21」誌平成8年10月~12月号、平成9年1月号、同年2月号各記事(異議甲第17号証、本訴甲第10号証)、「AV REVIEW」誌平成7年4月号、同年10月号、平成8年4月号、同年10月号、平成9年2月号各記事(異議甲第24号証、本訴甲第10号証)、「AV village」誌平成8年4月号、同年6月号、同年10月号、同年12月号、平成9年2月号各記事(異議甲第25号証、本訴甲第10号証)、「HiVi」誌平成7年1月号、同年3月号、同年8月号、同年10月~12月号、平成8年1月~8月号、同年10月~12月号、平成9年1~3月号各記事(異議甲第26号証、本訴甲第10号証)、

(ロ) 商標権者(原告)から提出された原告の「プラズマテレビPDW4201形」カタログ(甲第11号証添付資料6、8)、原告の「プラズマディスプレイPDS4202J-H形」カタログ(同資料9)、原告の「全製品カタログ96秋冬号」(同資料7)、平成8年9月26日付「日刊工業新聞」記事(同資料16)、同日付「日本経済新聞」記事(同資料19)、同日付「朝日新聞」記事(同資料21)、同年10月1日付、同月3日付、同月12日付各「電波新聞」記事(同資料22~24)、同年11月30日付「日本工業技術新聞」記事(同資料39)、である。

(2)  しかるところ、前示(1)の(イ)のうち、平成7年12月25日付「日本経済新聞」記事に「家庭で映画館の雰囲気を楽しめる『ホームシアター』が静かなブームとなっている。居間などに大型スクリーンとオーディオ装置を設置すれば、映画館にいるような“臨場感”を体験できる。・・・オーディオ機器の性能も向上し、狭い家でも工夫次第で楽しむことが可能。・・・背丈ほどある大型スクリーンに映し出される。スピーカーも巧みに配置してサラウンド効果を出し・・・ホームシアターに使われるような大画面用ビデオプロジェクター」と、また、平成8年1月10日付同新聞記事に「家の中で映画やスポーツ中継を楽しめる『ホームシアター』が、今年の有力商品として注目されている。単にワイドテレビにスピーカーを付けたものではない。ハイテクを駆使した音響装置を用いて映画館並みの音と映像の空間を作りだす。」と記載されていることによれば、「ホームシアター」とは、プロジェクター及び大型スクリーンあるいはワイド画面テレビと、オーディオ機器とを組み合せることによって、家庭において、映画館にいるかのような大画面映像と立体的音響とを鑑賞できることを意味する語として用いられていることが認められる。なお、被告が、「ホームシアター」の語につき、「Telepal」誌平成10年12月20日号(乙第4号証)の「映画に味付けをするというのは音響のこと。いくつかの方式があるが、その方式を取り入れて再生すれば、家庭でも劇場のような臨場感が味わえることになる。これがホームシアターだ。」との記載を引用し、音響と大型画面テレビ、各種プロジェクターとによって、「家に居ながら、映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できること」との意味合いの語として用いられる旨主張するのも、これと同趣旨であるものと認められる。

そして、前示(1)の(イ)掲記の各新聞・雑誌記事、取扱説明書・カタログ類には、「ホームシアター」、「ボームシアター用」、「ホームシアター効果」、「ホームシアター市場」、「ホームシアター需要」、「ホームシアター向け」、「ホームシアター対応の」、「ホームシアターシステム」等の表現を用いた「ホームシアター」に関する記載があるところ、当該各記載は、「ホームシアター」が前示の意味合いを有する語である旨を内容とし、あるいはそれを前提として、家庭内の居室に「ホームシアター」のシステムを組む方法や工夫の解説、現実の設置例を内容とするもの、それらの機器の売れゆきを報じたもの等、「ホームシアター」に関する一般的な記載をしたものや、「ホームシアター」が前示の意味合いを有する語であることを前提として、画質の優秀さや画面の大きさ等に特色を有するプロジェクター、スクリーン、ワイド画面テレビ等の映像関係機器、あるいは映画用ソフトウェアに用いられている音響技術による録音効果を再生し得ることに特色を有するスピーカーシステム、アンプ等の音響機器が、「ホームシアター用」、「ホームシアター対応」等の映像・音響機器として発売されることを報ずるもの、これら個別の映像・音響機器の特色、性能等を紹介したもの等であって、このような内容の刊行物が多数頒布されている事実に鑑みれば、本件商標の登録査定の当時において、テレビジョン受信機、音声周波機器等の製造販売業者のみならず、一般需要者の間においても、「ホームシアター」の語が、前示のとおり、プロジェクター及び大型スクリーンあるいはワイド画面テレビと、オーディオ機器とを組み合せることによって、家庭において、映画館にいるかのような大画面映像と立体的音響とを鑑賞できることを意味する語として、広く認識されていた事実を認めることができる。

他方、商標・書誌表示(登録第633015号、登録第656278号商標、登録第2158664号、に係るもの、甲第4号証の1~3)によれば、原告が、主張の原告商標(指定商品はいずれも第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」)に係る商標権を取得していることが認められるところ、前示(1)の(ロ)掲記の各カタログ及び新聞記事には、原告の販売に係る「ホームシアター」又は「Home theater」の商標が付されたプラズマテレビが記載されているほか、平成元年10月現在から平成9年2月現在までの原告の各カタログ(甲第5号証の2~36)に、原告の販売に係る「ホームシアター」、「Home Theater」又は「Home theater」の商標が付されたプロジェクションテレビ、衛星放送チューナー内蔵テレビ、プラズマテレビが記載されており、また、平成2年11月から平成4年1月までの放映期間に係るテレビスポットスケジュール表(甲第6号証の1~7)に、同期間、原告の販売に係る「ホームシアター」との商標を付した衛星放送チューナー内蔵テレビのテレビコマーシャルが放映されたことが記載され、平成2年2月から平成6年5月までの「電波新聞」、「電化新聞」、「電波タイムズ」、「全ラ連」、「日本農業新聞」、「家電販売新聞」、「ツーウエイ」、「SOUND MARKET」、「東海電化新聞」、「オール電気」、「家電流通新聞」、「電氣新聞」、「ラジオ電気」、「株式新聞」、「ラジオ商業新聞」、「日本ラジオ新聞」、「日本経済新聞」、「北海道新聞」、「朝日新聞」各紙(甲第7号証の1~23)に、原告の販売に係る「ホームシアター」との商標を付した衛星放送チューナー内蔵テレビの広告が掲載されていることが認められ、さらに、三菱電機株式会社の原告宛て平成3年7月19日付書面、三洋電機株式会社の原告宛て昭和61年5月14日付書面、パイオニア株式会社の原告宛て平成5年4月12日付書面(甲第9号証の2~4)には、いずれも、原告の登録商標(原告商標)との関係で、該各会社がそのカタログにおいて「ホームシアター」との語を使用することを中止する旨が記載されていることが認められる。

これらの事実によれば、原告は、平成元年ころから本件商標の登録査定までの間、その保有する原告商標をプロジェクションテレビ、衛星放送チューナー内蔵テレビ、プラズマテレビに使用してきたこと(もっとも、原告の昭和62年1月20日現在のカタログ(甲第5号証の1)には、大画面テレビに、チューナーアンプ、2本組のフロントスピーカー、2本組のリア用スピーカー等を組み合せたものをAVシステムとし、これに「ホームシアター」の商標を付していることが記載されており、原告においても、商標とはいえ、大画面テレビとオーディオ機器との組合せを「ホームシアター」と称していたことがあったことも認められる。)、また、原告は、三菱電機株式会社、三洋電機株式会社及びパイオニア株式会社の3社から、その各カタログにおいて「ホームシアター」の語を使用しないとの約束を得たこと(但し、パイオニア株式会社は、前示書面の差入れ後も、前示(1)の(イ)のパイオニア「DVDプレーヤーカタログ」(平成9年3月現在のもの)において、「ホームシアター」の語を前示(1)の意味合いを有するものとして使用している。)が認められるが、これらの事実が存在するからといって、一般のテレビジョン受信機、音声周波機器等の製造販売業者及び一般需要者が、本件商標の登録査定当時、「ホームシアター」を前示(1)の意味合いを有する語として認識していたとの事実を覆すに足りるものとはまいえない。

なお、原告は、前示各新聞・雑誌記事等及び取扱説明書・カタログ類の記載につき、オーディオ関連製品のメーカーが、何の基準もなく、ムード的に「ホームシアター」の語を用いていることを示すにすぎないとか、「ホームシアター」の語がキャッチフレーズ的な、極めて間接的、曖昧な表現に紛らわせて使用されているもので、商品の明確な品質・用途の表示として用いられているものではない等と主張し、また、ホームシアター用音響機器につき、「ホームシアター用」の音質、音量、機材の特性、機材の構成等が明らかとなっていないから貝体性を欠くとも主張するが、「ホームシアター」の語が前示の程度に具体性を有すれば、商品の品質・用途の表示として不足はないものと認められるから、該各主張を採用することもできない。

(3)  さらに、本件異議手続において提出された平成9年8月25日、同年9月1日、同月17日、同月20日付各「電波新聞」記事(異議甲第4号証、本訴甲第10号証)、同年8月26日、同年9月17日付各「日経産業新聞」記事(異議甲第5号証、本訴甲第10号証)、同年8月11日付「電化新聞」記事(異議甲第6号証、本訴甲第10号証)、同年5月2日、同月9日、同月16日、同年6月6日付各「日経産業新聞」記事(異議甲第7号証、本訴甲第10号証)、「ビデオSALON」誌平成9年8月号記事(異議甲第14号証、本訴甲第10号証)、「無線と実験」誌平成9年8月号記事(異議甲第15号証、本訴甲第10号証)、「FMファン」誌平成9年4月21日号、同年5月5日号、同月19日号、同年6月2日号、同年9月22日号各記事(異議甲第16号証、本訴甲第10号証)、「Senka21」誌平成9年5~9月号各記事(異議甲第17号証、本訴甲第10号証)、「日経ゼロワン」誌平成9年10月号記事(異議甲第18号証、本訴甲第10号証)、「BS fan」誌平成9年8~10月号各記事(異議甲第19号証、本訴甲第10号証)、「Telepal」誌平成9年6月21日号、同年7月5日号各記事(異議甲第20号証、本訴甲第10号証)、「ビデオでーた」誌平成9年7月号記事(異議甲第21号証、本訴甲第10号証)、「DVDワールド」誌平成9年夏号記事(異議甲第22号証、本訴甲第10号証)、「SOUND PAL」誌平成9年8月号、同年10月号各記事(異議甲第23号証、本訴甲第10号証)、「AV REVIEW」誌平成9年4月号、同年8月号各記事(異議甲第24号証、本訴甲第10号証)、「AV village」誌平成9年4月号、同年5月号、同年7月号、同年9月号各記事(異議甲第25号証、本訴甲第10号証)、「HiVi」誌平成9年4~8月号各記事(異議甲第26号証、本訴甲第10号証)、並びに本件決定後に頒布された刊行物である平成10年8月13日付、同月5日付、同月11日付、同月20日付、同月27日付、同年9月3日付、同月11日付各「日経産業新聞」記事(乙第1号証の1~7)、同年8月23日付、同月24日付各「日本経済新聞」記事(乙第2号証の1、2)、同月20日付日刊工業新聞記事(乙第3号証)、前示「Telepal」誌平成10年12月5日号記事(乙第4号証)、「Telepal」誌同年10月10日号記事(乙第10号証の1~3)には、それぞれ前示(1)の(イ)の新聞、雑誌等と同様の「ホームシアター」に関する記載があり、これらの刊行物が頒布されている事実に鑑みれば、テレビジョン受信機、音声周波機器等の製造販売業者、一般需要者の間において、「ホームシアター」の語が、プロジェクター及び大型スクリーンあるいはワイド画面テレビと、オーディオ機器とを組み合せることによって、家庭において、映画館にいるかのような大画面映像と立体的音響とを鑑賞できることを意味する語として、テレビジョン受信機、音声周波機器等の製造販売業者及び一般需要者の間に広く認識されている状況は、本件商標の登録査定以降、本件決定を経て、現在に至るまで変わっていないことを認めることができる。

原告は、電波新聞及び日経産業新聞の平成10年10月中の記事に係る調査の結果に基づいて、「ホームシアター」が品質表示用語として熟しておらず、「家庭で映画館並みの音響・映像(AV)空間を楽しむ」との内容を「ホームシアター」の1語で表現しきれていない旨主張するが、電波新聞に係る調査結果(甲第16号証の1、2)は、同一記事中から同一の表現記載を重複して抽出したり、商標と認められるものを表現記載として抽出したりするほか、主にDVD機器を用いるものに限定して使用される用語と認められる「デジタルシアター」の語を抽出するなど、その正確性に疑問があるといわざるを得ないし、日経産業新聞に係る調査結果(甲第17号証の1、2)は母数が僅少に過ぎるから、これらの調査結果から、原告の該主張事実を認めることはできない。

(4)  そうすると、本件商標の登録査定当時から現在まで、「ホームシアター」の語は、プロジェクター及び大型スクリーンあるいはワイド画面テレビと、オーディオ機器とを組み合せることによって、家庭において、映画館にいるかのような大画面映像と立体的音響とを鑑賞できることを意味する語として、テレビジョン受信機、音声周波機器等の製造販売業者及び一般需要者の間に広く認識されているものと認めることができるから、本件決定が、「『ホームシアター』の文字は、『家に居ながらにして映画館と同じような質の音声と画像を鑑賞できる装置』を表す語としてテレビジョン受信機、音声周波機器等の製造、販売業界はもとより一般需要者間にも広く知られるに至っているものと言い得るものであり、」と認定したことに原告主張の誤りはないというべきである。

そして、本件商標は、「ホームシアター」の語を英語で表記したものと需要者に直ちに看取されるものであるから、本件商標が創造的造語であるとする原告主張を採用することもできない。

2  以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

(別紙)

本件商標目録

<省略>

(別紙)

原告商標目録

<省略>

平成9年異議第90157号

商標登録異議の申立てについての決定

神奈川県川崎市高津区末長1116番地

商標権者 株式会社富士通ゼネラル

埼玉県所沢市緑町3丁目30番21号

登録異議申立人 松山巌

東京都千代田区三番町7番地 三番町ビル

代理人弁理士 中山清

登録第4011155号商標の登録について、次のとおり決定する。

結論

登録第4011155号商標の指定商品中「電気通信機械器具」についての登録を取り消す。

本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品についての登録を維持する。

理由

1 本件商標

本件登録第4011155号商標(以下、「本件商標」という。)は、「HOME THEATER」の欧文字を横書きしてなり、平成1年9月27日登録出願、第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」を指定商品として、平成9年6月13日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立がされた指定商品

第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く)電気材料」

3 取消理由の通知

登録異議申立人の提出に係る証拠を総合勘案すれば、「HOME THEATER」に相当する「ホームシアター」の文字が「スピーカー、アンプ、テレビジョン受信機等の電気通信機械器具」については品質、用途を表すものとして普通に使用されている事実を認めることができる。

そうとすれば、「HOME THEATER」の文字よりなる本件商標は、これをその指定商品中「ホームシアター用のスピーカー、アンプ、テレビジョン受信機等の電気通信機械器具」について使用する場合、これに接する取引者、需要者は、その商品の品質、用途を表しているものと理解するに止まるとみるのが相当である。

してみれば本件商標は、その指定商品中前記「ホームシアター用電気通信機械器具」については、その商品の品質、用途を表示するというべきであって、自他商品の識別標識としての機能を有するとはいえず、また、前記商品以外の「電気通信機械器具」に使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである旨の商標登録の取消理由を通知した。

4 商標権者の意見

商標権者は、概略次のように主張し、資料1から資料57を提出している。

本件商標が「家庭内での劇場又は家庭内での映画館」といった概念を看取されるとしても、その語義自体が機器そのものを直接的に指し示すものではなく、何ら品質を直接的に示すものでなく、単に間接的、比喩的、抽象的に観念づけられるものであって、品質表示には該当しない。

また、商標権者は、商標法第73条に定めてあるとおり、「ホームシアター」、「ホームシアター(TM)」及び「ホームシアターは当社の登録商標です。」のように商標が登録商標である旨の表示を付すよう努めている。

さらに、登録異議申立人の証拠に記載されているいわゆる「ホームシアター」用の機器が、普通の機器と何がどのように違うのか特定し得ず、たとえ品質を特定し得たとしても、それは間接的な表示であり、特性を暗示するものに止まるものであって、取引者、需要者間においては普通に用いられるものではなく、取引者、需要者毎に異なる観念を生じさせるため品質表示ではないと確信する。

以上より、本件商標は、登録異議申立人が主張するとおり、近年本件商標を「品質」かのように使用され、誤った使用が散見されているが、本件商標は、商標権者が商標として使用し業界において自他識別可能な商標としての評価を専有してきたものであって、何ら商品の品質を直接的かつ具体的に看取されるものでなく、取引者、需要者間においても共通の観念を認識するのは困難である。

したがって、本件商標を指定証品中「電気通信機械器具」以外の商品に使用しても品質の誤認や混同を生じるものでないから、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号にも該当しないものと確信する。

5 当審の判断

申立人の提出に係る甲第2号証「カタカナ語・欧文略語辞典(imidas1997別冊付録)」及び甲第3号証「最新版外来語・略語辞典(imidas1993別冊付録)をみると、「ホームシアターシステム(home theater system)」の欄に「家庭で映画館と同じような質の画像・音声を楽しむやり方」の記載があり、また、甲第4号証から甲第8号証(電波新聞、日経産業新聞、電化新聞、日本経済新聞)、甲第9号証から甲第11号証(音響機器の取扱説明書、商品カタログ)及び甲第12号証から甲第24号証(音響・画像機器関係の専門誌、その他の雑誌)をみると、「ホームシアター」の語は勿論のこと、「ホームシアター用のスピーカー」、「ホームシアター用テレビ」、「ホームシアター用アンプ」、「ホームシアター用機器」、「HOME THEATER SYSTEM」、「ホームシアター関連市場」等の各語及びこれらの語に相応する各種の音声・画像機器関係の記載が多数見出し得るところである。

そして、上記甲各号証の記載からすれば、「ホームシアター」の文字は、「家に居ながらにして映画館と同じような質の音声と画像を観賞できる装置」を表す語としてテレビジョン受信機、音声周波機器等の製造、販売業界はもとより一般需要者間にも広く知られるに至っているものと言い得るものであり、かつ、通常のテレビジョン受信機、音声周波機器とは異なるテレビジョン受信機、スピーカー、アンプ等が製造販売されている事実が認められるものである。

また、本件商標は、「HOME THEATER」の文字よりなるところその構成中の「HOME」及び「THEATER」は、一般に親しまれている語であるところから、「ホームシアター」の語を英語をもって表示したものと直ちに看取されるというのが相当である。

そうとすれば、該ホームシアター用の機器と普通の機器との違いを特定し得ないとしても、以上の実情からして、本件商標は、単に商品の品質、用途を普通に用いられる法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ない。

したがって、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件商標は、商標法第43条の3第2項の規定により、その指定商品中「電気通信機械器具」についての登録を取り消すべきものであり、本件登録異議の申立てに係るその余の指定商品については、取り消すべき理由がないものであるから、同第4項の規定により登録を維持する。

よって、結論のとおり決定する。

平成10年7月10日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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