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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)366号 判決 1999年10月28日

原告

東洋システム開発研究所株式会社

(審決上の表示

東洋システム開発株式会社)

代表者代表取締役

【A】

被告

特許庁長官【B】

指定代理人

【C】

【D】

【E】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  請求

特許庁が平成9年審判第3553号事件について平成10年10月9日にした審決を取り消す。

第2  前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成2年6月29日名称を「鍵、ならびに鍵を携帯するのに適したネックレス、ネクタイピン、腕時計およびブレスレット」とする考案(後に「鍵、ならびに鍵を携帯するのに適した腕時計」と補正。以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(実願平2ー68590号)をしたが、平成9年1月7日拒絶査定を受けたので、平成9年3月7日拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成9年審判第3553号事件として審理した結果、平成10年10月9日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、平成10年10月25日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

(1)  本件請求項1に係る考案の要旨

腕時計バンドの三つ折、又は腕時計本体の裏面に収納部を設けた腕時計。

(2)  本件請求項2に係る考案の要旨

該収納部が、鍵の取付部である請求項1記載の腕時計。

(3)  本件請求項3に係る考案の要旨

該収納部に、鍵の取付部に設けられた着脱手段で、該鍵が着脱される請求項1記載の腕時計。

(4)  本件請求項4に係る考案の要旨

歯状凹凸の形成の前、又は該形成の後の鍵が、歯状凹凸に相当する部分も含めて複数ブロックに分割され、該複数ブロックがゆるく連結され、使用時には、該複数ブロックが一体化される鍵。

(5)  本件請求項5に係る考案の要旨

該ゆるく連結が、複数ブロックの中心をその配列方向に貫通した穴にゆるく挿通され、かつ両端が両端部に位置するブロックにそれぞれ固定された牽引線でなり、該一体化が、後端のブロックとそれに隣接するブロックとの位置の移動による牽引線の張りでなされる請求項4記載の鍵。

(6)  本件請求項6に係る考案の要旨

該鍵に取付部を設け、該取付部に着脱手段が設けられた請求項4、又は5記載の鍵。

3  審決の理由

審決の理由は、別紙2審決書の理由(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本件請求項3に係る考案は刊行物1(実願昭63ー552219号(実開平1ー159070号)のマイクロフィルム)記載の考案及び周知技術に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるから、本願考案は、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない旨判断した。

第3  審決の取消事由

1  認否

(1)  審決の理由Ⅰ(手続きの経緯及び本願考案)、同Ⅱ(引用例)及び同Ⅲ(引用例の記載事項)は認める。

(2)  審決の理由Ⅳ(対比・判断)のうち、審決書5頁5行「刊行物1」から9行まで、及び6頁7行「この周知の技術手段」から16行までは争い、その余は認める。ただし、審決書5頁12行に「(刊行物1記載の考案)はその点が不明」とあるが、刊行物1記載の考案が収納部に鍵の取付部に設けられた着脱手段により着脱されるようになっていないことは明らかである。

(3)  審決の理由Ⅴ(むすび)は争う。

2  取消事由

審決は、一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点についての判断を誤り(取消事由2)、本件請求項3に係る考案が奏する顕著な効果を看過したものであるから(取消事由3)、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

審決は、「刊行物1記載の考案の「容器」は、請求項3に係る考案の「収納部」に相当するから、両者は「腕時計本体の裏面に収納部を設け、該収納部に鍵を収納する腕時計。」の点で一致しており、」(審決書5頁5行ないし9行)と認定するが、誤りである。

刊行物1記載の考案の「容器」は、それ自体で鞘柄(3)を収容する独立した器であり、この器を時計の下面に爪(14’)で取り付けたものである。

これに対し、本件請求項3に係る考案の「収納部」は、本願明細書に「一方、腕時計本体82の裏面には取付板101を収納するための凹所83が形成されている。」(甲第2号証4頁8行、9行)と記載され、第3図(A)(甲第2号証)に、符号82が腕時計本体を示し、符号83の示す線の先が本体82の裏面よりも奥まった箇所を指しているように曲がっていることが図示されていることから明らかなように、時計の裏面に設けた収容スペースであって、時計の一部である。

したがって、刊行物1記載の考案の「容器」と本件請求項3に係る考案の「収納部」とは、収納を実現するための手段が異なっているものである。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、「この周知の技術手段を採用し、刊行物1記載の考案の腕時計本体の収容部に収容する鍵の取付部に取付手段を施し、本件請求項3に係る考案のようにすることは、当業者にとってきわめて容易になし得る程度の事柄にすぎないものと認められる。」(審決書6頁7行ないし12行)と判断するが、誤りである。

刊行物1記載の考案において、腕時計本体の収容部に収容する鍵は、「鍵本体と、該鍵本体を抜き挿し収納する鞘柄とからなり」(甲第4号証3頁15行、16行)、「(14)及び(15)は本考案鍵の鞘柄(3)を収納する容器であり」(同6頁15行、16行)との記載及び第11図(別紙1第11図参照)の記載から見て、鍵穴挿し込み先部(1’)と把持部となる鞘柄(3)とから構成された伸縮鍵である。

しかしながら、刊行物1記載の考案において、伸縮鍵が「収容器」の鍵収容空間(16)に収められていれば、それだけで紛失防止の目的は達成されるため、更に鞘柄に取付手段を施して鍵収容空間(16)に着脱できるようにする必要はない。しかも、刊行物1記載の考案は、ただでさえ嵩高く、重量感があるのに、更に携帯性に反するものを設けるようなことは、理に反することである。

本件請求項3に係る考案は、鍵そのものを腕時計に直接取り付けることを考えたものであり、本件請求項3に係る考案のように、腕時計の裏面に凹所を設け、鍵本体のみを取付板で取付けるという構成にすることは、当業者でも容易になし得ないことである。

(3)  取消事由3(顕著な効果の看過)

審決は、「本件請求項3に係る考案の構成によってもたらされる効果も刊行物1に記載された考案及び周知技術から当業者であれば予測できる程度のものであって格別なものとはいえない。」(審決書6頁13行ないし16行)と判断するが、誤りである。

本件請求項3に係る考案は、本願明細書添付の第3図(A)(甲第2号証)から見ると、鍵103が腕時計の底面に収まっており、第3図(B)から見ると、鍵103が腕時計バンド81及び腕時計本体82と同一面を形成しているため、鍵を携帯していてもそれを感じさせないものである。

これに対し、刊行物1記載の考案は、第11図(甲第4号証。別紙1第11図参照)をみると、あたかも2つの腕時計を携帯しているかのように重く、またバンドと収納容器(上蓋(14)と底蓋(15)からなる容器)とは同一面を形成していないので、携帯するにおいては甚だ不便なものである。

したがって、本件請求項3に係る考案は、軽さ、時計に嵌め込まれているという斬新さ、嵩高くないという薄さ、時計に内蔵されているようでキーを携帯しているということを感じさせないという顕著な効果を奏するものである。

第4  審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

原告主張の審決の取消事由は争う。

2  反論

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

ア 本件請求項3に係る考案は、本件請求項3に係る考案の要旨及び本件請求項1に係る考案の要旨から見て、「腕時計バンドの三つ折、又は腕時計本体の裏面に収納部を設けた腕時計」であって、「該収納部に、鍵の取付部に設けられた着脱手段で、該鍵が着脱される」ことを特徴とするものである。

これに対し、刊行物1(甲第4号証)には、「第11図~第13図(別紙1第11図ないし第13図参照)は本考案鍵を収容して携帯するための他の例を示すものであり、第11図は公知の腕時計の下面に収納容器を取付けた状態の断面図、第12図は同じく、下面底蓋が開放した状態を示す断面図、第13図は同じく下面底蓋が開放した状態の斜視図である。すなわち、(13)は公知の腕時計であり、両端にバンド(12)が取付けられている。(14)及び(15)は本考案鍵の鞘柄(3)を収納する容器であり、上蓋(14)の爪(14’)により、腕時計(13)の底面に取付けられる。」(6頁9行ないし17行)と記載されている。

したがって、両者は「腕時計本体の裏面に収納部を設け、該収納部に鍵を収納する腕時計」の点で一致するとした審決(審決書5頁7行ないし9行)の認定に誤りはない。

イ 原告は、本件請求項3に係る考案の収納部は腕時計本体の裏面に設けられた凹所を意味する旨主張するが、その主張は、一実施例についてのもので、本件請求項3に係るの要旨に基づく主張ではないから、失当である。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

ア 刊行物2(実願昭58ー144070号(実開昭60ー53966号)のマイクロフィルム。乙第1号証)には、予備鍵の止め布2b表面の保護紙24を剥がして粘着層23を臨出させ、自動車バンパー内面等の固定部へ圧着することが示され、刊行物3(実願昭50ー39812号(実開昭51ー128791号)のマイクロフィルム。乙第2号証)には、キーに磁石、吸着盤、はり合わせファスナー、二又ピン等を取り付けて、保管、所持を容易として紛失防止を図ったことが示されている。このように、鍵を保管場所に保管したり携帯しやすくするため、鍵に着脱部材を取り付けることは本願出願前に周知の事項にすぎないから、刊行物1に記載された腕時計の裏面の収納部に鍵を収納するに当たり、鍵を着脱自在に固定することは当業者にとって極めて容易になし得たことにすぎない。

イ これに反する原告の主張は、本件請求項3に係る考案の一実施例に関するものであって、本件請求項3に係る考案の要旨に基かないものである。

(3)  取消事由3(顕著な効果の看過)について

原告は、本件請求項3に係る考案が軽さ、時計に嵌め込まれているという斬新さ、嵩高くないという薄さ、時計に内蔵されているようでキーを携帯していることを感じさせないという顕著な効果を奏する旨主張する。

しかしながら、原告主張の効果は、本件請求項3に係る考案の要旨に基づかない構成である腕時計本体の裏面の「収納部」を腕時計本体の裏面の「取り付け部を収納するための凹所」とすることによって奏する効果にすぎないから、原告の上記主張は失当である。

理由

1  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

(1)  審決の一致点、相違点の認定(審決書5頁4行ないし6頁2行)のうち、本件請求項3に係る考案と刊行物1記載の考案とを対比すると、刊行物1記載の考案の「容器」は、本件請求項3に係る考案の「収納部」に相当するから、両者は「腕時計本体の裏面に収納部を設け、該収納部に鍵を収納する腕時計。」の点で一致していること(審決書5頁5行ないし9行)を除く事実は、当事者間に争いがない。

(2)ア  刊行物1の記載事項の認定(審決書4頁1行ないし5頁2行)は、当事者間に争いがなく、刊行物1の第11図ないし第13図(別紙1参照)に記載されたものは、腕時計の裏面に鍵の鞘柄を収納するための容器を設けているものである。

そして、本件請求項3に係る考案の要旨は、前記のとおり、「該収納部に、鍵の取付部に設けられた着脱手段で、該鍵が着脱される請求項1記載の腕時計。」というものであり、請求項1に係る考案の要旨は、「腕時計バンドの三つ折、又は腕時計本体の裏面に収納部を設けた腕時計。」というものである。

したがって、刊行物1記載の考案の「容器」は、本件請求項3に係る考案の「収納部」に相当し、両者は「腕時計本体の裏面に収納部を設け、該収納部に鍵を収納する腕時計。」の点で一致しているものであるから、これと同旨の審決の認定(審決書5頁5行ないし9行)に誤りはない。

イ  原告は、本件請求項3に係る考案の収納部は腕時計本体の裏面に設けられた凹所を意味する旨主張する。しかしながら、前記説示のとおり、本件請求項3に係る考案の要旨は、「腕時計本体の裏面に収納部を設けた」というものであり、その収容部の形状については何ら限定されていないものであるから、刊行物1の第11図ないし第13図に記載されたもののように腕時計の裏面に鍵の鞘柄を収納する容器を設けたものも含むものである。したがって、原告の上記主張は、本件請求項3に係る考案の要旨に基づく主張ではなく、採用することができない。

ウ  よって、原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

(1)  乙第1号証によれば、刊行物2(実願昭58ー144070号(実開昭60ー53966号)のマイクロフィルム)には、予備鍵の止め布2b表面の保護紙24を剥がしてループ片等の粘着層23を臨出させ、自動車バンパー内面等の固定部へ圧着することが記載され、乙第2号証によれば、刊行物3(実願昭50ー39812号(実開昭51ー128791号)のマイクロフィルム)には、キーに磁石、吸着盤、はり合わせファスナー、二又ピン等を取り付けて、保管、所持を容易として紛失防止を図ったものが記載されていることが認められる。これらの事実によれば、鍵を保管場所に保管したり携帯しやすくするため、鍵に着脱部材を取り付けることは本願出願前に周知の事項であると認められるから、刊行物1の第11図ないし第13図に記載された腕時計の裏面の容器に鍵を収納するに当たり、鍵を着脱自在に固定することは当業者にとって極めて容易になし得たことと認められる。

(2)ア  原告は、刊行物1記載の考案において、伸縮鍵が「収容器」の鍵収容空間(16)に収められていれば、それだけで紛失防止の目的は達成されるため、更に鞘柄に取付手段を施して鍵収容空間(16)に着脱できるようにする必要はなく、しかも、刊行物1記載の考案は、ただでさえ嵩高く、重量感があるのに、更に携帯性に反するものを設けるようなことは、理に反することである旨主張する。

しかしながら、刊行物1の第11図によれば、鞘柄に着脱部材を設けて収納容器内に着脱自在とすることは、スペース的に可能であり、しかも、上記のように着脱部材を設けて着脱自在とすることは、鞘柄が収納容器内でがたつくことや、収納容器を解放した際に誤って鍵が落下することを防止するとの作用効果を奏することはあっても、かかる適用を妨げる技術的理由は何ら認められない。

したがって、原告の上記主張は採用することができない。

イ  さらに、原告は、本件請求項3に係る考案は、鍵そのものを腕時計に直接取り付けることを考えたものであり、本件請求項3に係る考案のように構成することは、当業者でも容易になし得ないことである旨主張する。

しかしながら、本件請求項3に係る考案は、刊行物1の第11図ないし第13図に記載されたもののように腕時計の裏面に鍵の鞘柄を収納するための容器を設けたものも含むものであることは、前記説示のとおりであるから、原告の上記主張は、本件請求項3に係る考案の要旨に基づく主張ではなく、採用することができない。

(3)  よって、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(顕著な効果の看過)について

(1)  原告は、本件請求項3に係る考案には、軽さ、時計に嵌め込まれているという斬新さ、嵩高くないという薄さ、時計に内蔵されているようでキーを携帯しているということを感じさせないという顕著な効果がある旨主張する。

しかしながら、前記説示のとおり、本件請求項3に係る考案は、その収容部の形状についてはなんら限定されておらず、鍵が腕時計バンド及び腕時計本体と同一面を形成しているものに限定されないから、原告主張の効果は、本件請求項3に係る考案の一実施例の奏する効果であり、本件請求項3に係る考案の奏する効果であるとはいえないから、原告の上記主張は、理由がない。

(2)  よって、原告主張の取消事由3も理由がない。

4  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成11年10月7日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

<省略>

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