東京高等裁判所 平成10年(行ケ)374号 判決 1999年6月30日
兵庫県西脇市蒲江517番地の12
原告
株式会社カツイチ
代表者代表取締役
中川明紀
訴訟代理人弁理士
江原省吾
同
白石吉之
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
鍋田和宣
同
足立光夫
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成9年審判第2384号事件について、平成10年10月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成7年5月10日、本意匠を登録第913337号意匠とする類似意匠登録出願として、意匠に係る物品を「釣針」とし、その形態を別添審決書写し別紙第1記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(意願平7-13134号)をしたが、平成8年11月29日に拒絶査定を受けたので、平成9年2月10日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成9年審判第2384号事件として審理したうえ、平成10年10月5日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月29日、原告に送達された。
2 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願意匠が、その出願日前に外国において頒布された刊行物である「THE SPORTING GOODS DEALER」1981年10月号付録のカタログ「EAGLE CLAW」45頁に記載された釣針の意匠であって、形態を同審決書写し別紙第2記載のとおりとする意匠(以下「引用意匠」という。)と、意匠に係る物品が共通し、形態についても類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当して意匠登録を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の理由中、本願意匠と引用意匠との差異点(2)及び同(4)についての判断並びにこれに基づく両意匠の類否判断は争い、その余は認める。
審決は、上記差異点(2)及び同(4)についての判断を誤った結果、両意匠の類否判断を誤るに至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 差異点(2)及び同(4)についての判断の誤り(取消事由)
(1) 審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(2)、すなわち「本願意匠は、環状部の末端に押し広げた扁平部・・・を有する点」(審決書3頁16~18行)につき、「この種物品の形態として、釣糸の抜け止め防止等のため扁平部を形成することは従来より普通に行われることであるが、本願意匠の扁平部は、本願意匠の出願前より多数見られる極めてありふれた態様の略小長円形状のものにすぎないから、本願意匠のみに新規の態様と言えず」(同4頁10~15行)と判断し、また、差異点(4)、すなわち「本願意匠は、扁平部と環状部の首の付近との間にわずかな隙間がある点」(同3頁19行~4頁1行)につき、「機能上の効果に相違があるとしても、本願意匠に施された隙間は限られた方向から注視して見える程度の態様であって形態全体としては、極めて細部の差異にすぎず」(同4頁18行~5頁1行)としたうえで、「これら差異点を総合しても、部分的かつありふれた形態の僅かな変更と細部の差異にとどまり、両意匠の類否判断に影響があるほどのものと認められない」(同5頁1~5頁)と判断したが、それは誤りである。
(2) すなわち、意匠の類否判断をするに当たっては、意匠に係る物品の性質、用途、使用形態等を参酌して、看者が最も注意を惹かれる部分がどこであるかを判断し、その部分を当該意匠の要部とすべきである。
ところで、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品である釣針の需要者たる釣人又はフライフィッシング愛好家は、審決の認定した基本的構成態様(審決書3頁3~7行)に係る部分に注目することはもちろんであるが、釣針は、鉤素に繋いで使用するものであるから、鉤素をどのように結び付けるのか、鉤素を結び付ける作業が容易かどうか、結び付けた鉤素が抜け落ちないようになっているかどうか、といった諸点にも深い関心を注ぐのが通常である。そして、本願意匠の差異点(2)及び同(4)に係る環状部及び扁平部は、釣針を鉤素に繋ぐ部分であり、需要者は、上記基本的構成態様に係る部分にもまして、環状部及び扁平部の具体的構成態様を重視して当該物品を観察するものであるから、本願意匠の要部に当たるものというべきである。
したがって、審決が、差異点(2)及び同(4)につき「部分的かつありふれた形態の僅かな変更と細部の差異にとどまり、両意匠の類否判断に影響があるほどのものと認められない」としたことは誤りである。
(3) のみならず、差異点(2)に関して、扁平部自体はありふれた態様の略小長円形状のものであるが、本願意匠は環状部の末端に下向きに扁平部を配置したものであって、軸の上端部に上向きの扁平部を形成したものとは構成態様が異なり、当該部分を全体的に観察するときは、看者に異なる美感を起こさせるものであるから、審決が、差異点(2)につき「本願意匠の扁平部は、本願意匠の出願前より多数見られる極めてありふれた態様の略小長円形状のものにすぎないから、本願意匠のみに新規の態様と言えず」と判断したことも誤りである。
(4) また、差異点(4)に関して、本願意匠のように、環状部の首の付近に隙間を設けて、環状部を部分的に開いておくことにより、鉤素の輪を該隙間からすべり入らせて環状部に引っかけるだけで、環状部に鉤素を結び付けることができるのであり、引用意匠のような閉じた環状部に鉤素を通すことに比べると、作業が極めて容易となる。このように意匠に係る物品の機能上重要な部分であれば、たとえ、その部分の大きさが物品全体の大きさのなかでは僅かな割合に止まるとしても、需要者である看者の注意を強く惹くものであるから、審決が、差異点(4)につき「機能上の効果に相違があるとしても、・・・形態全体としては、極めて細部の差異にすぎず」としたことも誤りである。
被告は、「1992 GAMAKATSU Fishing Hooks」(乙第5号証の1~4)に掲載された「ちょっと背鈎」、「新サカサB」(同号証の3)を引用して、本願意匠の出願前から、釣針の環状部に釣糸を通すことを容易にする機能を持たせるため、環状部の首の付近に僅かな隙間を施した態様の意匠が広く見受けられると主張するが、上記「ちょっと背鈎」、「新サカサB」は、鮎の友釣り仕掛け用で、囮鮎の背や腹に刺し、鉤素を結び付けるのではなく、引っかけて使用するものであり、軸から折り返した環状部は完全に閉じていて、その閉じた部分の弾性変形を利用して鉤素を挟み込んで保持させるようにしたものであるから、被告の上記主張は誤りである。
第4 被告の反論の要点
1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(差異点(2)及び同(4)についての判断の誤り)について
(1) フライフィッシング用の釣針の取引の際、看者(需要者)は、釣針の針先から針穴に至る各部分及びその各部分が連続して形成する態様の全体を観察し、また、釣針のサイズ等についても比較検討するのが当然であり、さらに、釣針に羽毛等の擬餌を取り付けて使用するために、対象魚を考慮に入れながら、釣針の胴部、針先等の部分にも注意を払うのが通常であるから、本願意匠及び引用意匠は、鉤素を繋ぐ部分に止まらず、その形態全体の構成が看者の注意を惹く対象となり得るものである。
したがって、鉤素を繋ぐ部分であるからといって、当然に意匠の要部となるかのような主張は失当であるのみならず、次に述べるとおり、本願意匠における差異点(2)及び同(4)に係る部分は、形態上の特徴を表す部分とは認められないものであって、看者の注意を惹く部分とはならないから、本願意匠の要部に当たるものということはできない。
(2) 本願意匠の差異点(2)に係る部分は、針穴が針先側に向き、針先側に略「く」の字状に曲げた環状部の末端を押し広げて扁平部を形成したものであるが、環状部は、釣針に鉤素を繋ぎ止めるための形状としてありふれた態様であって、広く一般的に知られており、また、鉤素を繋ぐ部分の末端を押し広げて扁平部を形成することも広く一般に行われるものであるから、本願意匠のみに格別新規な創作がなされたものとは認められず、形態上の特徴を表した部分として看者の注意を惹くところとならない。
(3) 本願意匠の差異点(4)について、一般に、機能上の工夫が形状に現われ、意匠の特徴として評価される場合があり得ることを否定するものではないが、本願意匠の同差異点に係る部分の扁平部と環状部の首の付近との間の隙間は、限られた方向から注視した場合に見える程度であり、極めて細部の態様に係るものであって、形態全体としては意匠的効果が微弱であり、看者の注意を惹くところとはならない。なお、機能面に着目して見た場合でも、「1992 GAMAKATSU Fishing Hooks」(乙第5号証の1~4)に掲載された「ちょっと背鈎」、「新サカサB」(同号証の3)のように、本願意匠の出願前から、釣針の環状部に釣糸を通すことを容易にする機能を持たせるため、環状部の首の付近に僅かな隙間を施した態様の意匠が広く見受けられるから、環状部の首の付近に隙間を施すこと自体は、本願意匠のみの特徴ではない。
(4) したがって、審決が差異点(2)及び同(4)についてした判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由(差異点(2)及び同(4)についての判断の誤り)について
(1) 本願意匠の意匠に係る物品がフライフィッシング用釣針であり、引用意匠の意匠に係る物品が海釣り用釣針であって、ともに各種擬餌と組み合せて用いる釣針として共通すること、両意匠の形態が、釣針の胴から針先にかけて長い略「し」の字状に形成し、釣糸を繋ぐ環状部の首を針先側に略「く」の字状に曲げた態様を基本的な構成態様とするほか、各部の具体的な態様において、環状部の針穴が針先側に向き、胴部は直線形状がかなり長く、釣針の腰の曲げは針先側に比べ胴部側がやや緩やかな弧状であって、針先の内側下方に刺状の返しを斜め下向きに形成し、針先と胴部との間隔(ふところ)を同様に設けた態様が共通することは、当事者間に争いがない。
しかるところ、原告は、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品の需要者(釣人又はフライフィッシング愛好家)が、釣針を鉤素に繋ぐ部分である差異点(2)及び同(4)に係る環状部及び扁平部の具体的構成態様を、上記基本的構成態様に係る部分にもまして重視して当該物品を観察するものであるから、該部分が本願意匠の要部に当たる旨主張する。
しかしながら、両意匠の意匠に係る物品が各種擬餌と組み合せて用いる釣針であることに照らせば、その用途及び使用態様に鑑みて、需要者は、針先から鉤素を繋ぐ部分に至るまでの各部分が連続して形成するサイズを含む全体形状や、擬餌の取付けに関係する胴部及び針先等の部分、すなわち、前示の基本的構成態様、及び各部の態様のうちの胴部の形状、腰の曲げの形状、針先と胴部との間隔等に係る部分に注目する度合が高いものと考えるのが自然である。たとえ、鉤素を結び付ける作業の難易や、鉤素の抜落ちの可能性等に関係するとしても、需要者が、前示各部分をさしおいて、釣針を鉤素に繋ぐ部分にとりわけ注意を惹かれるものと解する根拠はなく、そのように認め得る証拠もない。
したがって、原告の前示主張を直ちに採用することはできない。
(2) ところで、本願意匠と引用意匠の差異点(2)は、「本願意匠は、環状部の末端に押し広げた扁平部・・・を有する」点であるところ、該扁平部が略小長円形状であることは当事者間に争いがなく、平成4年2月7日に特許庁が受け入れた株式会社ゴーセン発行のカタログである「GOSEN FISHING LINE & HOOKS '92CATALOGUE」(乙第4号証の1~3)に掲載された「No.94840」(同号証の2)等の釣針のように、胴部(軸)の上端部に上向きの扁平部又はその首を針先側に略「く」の字状に曲げた斜め上向きの扁平部を形成した態様自体、及びその扁平部を略小長円形状としたものは、本願出願前から多数存在するものと認められるものの、本願意匠のように、扁平部を環状部の末端に下向きに形成したものは、本願意匠の本意匠(甲第4号証)のほか、本願出願前に存在していたことを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、釣糸を繋ぐ環状部を形成すること自体は、引用意匠と共通するのみならず、弁論の全趣旨によれば、極めてありふれた態様であると認められ、また、前示のとおり、扁平部を形成すること及びその扁平部を略小長円形状とすることも本願出願前から多数存在するものであるほか、後記のとおり、扁平部の位置(環状部の末端)と環状部の首の付近との間に隙間を設ける態様も格別新規ということができないことに鑑みれば、該環状部の末端に扁平部を形成したことが、とりたてて看者(需要者)の注意を惹くような意匠的効果を有するものとは認められず、本願意匠と引用意匠の差異点としては、前示共通点と比較して、軽微な差異に止まるものというべきである。
そうすると、審決が、差異点(2)につき「この種物品の形態として、釣糸の抜け止め防止等のため扁平部を形成することは従来より普通に行われることであるが、本願意匠の扁平部は、本願意匠の出願前より多数見られる極めてありふれた態様の略小長円形状のものにすぎないから、本願意匠のみに新規の態様と言えず」と判断したことは、扁平部を環状部の末端に下向きに形成した点を看過した点に不備があるものの、審決の結論に影響する誤りがあるものということはできない。
(3) また、本願意匠と引用意匠の差異点(4)は、「本願意匠は、扁平部と環状部の首の付近との間にわずかな隙間がある」というものであるところ、本願に係る類似意匠登録願(甲第2号証)添付の図面によれば、該隙間は限られた方向から注視して見える程度の極めて細部の態様に係るものであることが認められ、とりたてて看者(需要者)の注意を惹くような意匠的効果を有するものとは認められず、本願意匠と引用意匠の差異点としては、前示共通点と比較して、軽微な差異に止まるものといわざるを得ない。
原告は、該隙間を設けることにより、鉤素の輪を該隙間からすべり入らせて環状部に引っかけるだけで、環状部に鉤素を結び付けることができるのであり、引用意匠のような閉じた環状部に鉤素を通すことに比べると、作業が極めて容易となるとしたうえで、意匠に係る物品の機能上重要な部分であれば、たとえ、その部分の大きさが物品全体の大きさのなかでは僅かな割合に止まるとしても、看者の注意を強く惹くものであると主張するが、主張の機能的役割の故に、本願意匠の該隙間が特徴的な意匠的効果を備えるに至ったものとは認められないのみならず、平成4年2月7日に特許庁が受け入れた株式会社がまかつ発行のカタログである「1992 GAMAKATSU Fishing Hooks」(乙第5号証の1ないし4)に、輪状にした釣糸をすべり入らせて環状部に通す目的のわずかな隙間を、釣針の環状部の首の付近に設けた態様の意匠であると認められる「ちょっと背鈎」、「新サカサB」(同号証の3)が掲載されていることに照らして、環状部の首の付近に隙間を施すこと自体、本願意匠の新規な特徴であるともいえないから、該隙間部分が看者の注意を強く惹くと認めることもできない。
なお、原告は、この点について、該「ちょっと背鈎」、「新サカサB」は鉤素を結び付けるのではなく、引っかけて使用するものであり、軸から折り返した環状部は完全に閉じていて、その閉じた部分の弾性変形を利用して鉤素を挟み込んで保持させるようにしたものであると主張するが、少なくとも「ちょっと背鈎」の番号4の意匠は環状部が開いていることを明瞭に看取し得るものであるから、該主張を採用することもできない。
そうすると、審決が、差異点(4)につき「機能上の効果に相違があるとしても、本願意匠に施された隙間は限られた方向から注視して見える程度の態様であって形態全体としては、極めて細部の差異にすぎず」と判断したことに誤りはない。
(4) 前示(1)~(3)のとおり、本願意匠と引用意匠の差異点(2)及び同(4)に関して、本願意匠の該差異点に係る環状部及び扁平部が、釣針を鉤素に繋ぐ部分であるからといって、その故に本願意匠の要部に当たるとすることができないことはもとより、本願意匠と引用意匠との差異点としても、共通点と比較して細部の差異に止まるものであって、意匠の類否判断に影響を及ぼすような要部における差異ということはできない。したがって、審決が該各差異点を含む「これら差異点を総合しても、部分的かつありふれた形態の僅かな変更と細部の差異にとどまり、両意匠の類否判断に影響があるほどのものと認められない」とした判断に誤りがあるとはいえない。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 清水節 裁判官石原直樹は、海外出張中につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 田中康久)
理由
本件出願の意匠(以下、本願意匠)は、願書及び願書添付図面の記載によれば、平成7年5月10日の類似意匠登録願(本意匠は意匠登録第913337号)であって、意匠に係る物品を「釣針」とし、形態は別紙第1に示すとおりのものである。
これに対し、原審において拒絶の理由に引用した意匠(以下、引用意匠)は、外国刊行物「THE SPORTING GOODS DEALER」1981年10月号付録のカタログ「EAGLE CLAW」(昭和56年12月6日特許庁資料館受入)第45頁に所載の「NEW PACIFIC BASS 550CAD/TIN PLATED」と表示された釣針の意匠(意匠課公知資料番号第56049556号)であって、その形態は別紙第2に示すとおりのものである。
そこで、両意匠を対比すると、意匠に係る物品について、本願意匠のものはフライフィッシング用とし、引用意匠のものが海釣り用とする点で、対象魚に相違はあるが、海水魚あるいは淡水魚の釣りに各種の擬餌を釣針と組み合わせて用いることはいずれも広く一般に行われるところであるから、両意匠に係る物品は共通し、両意匠の形態については、釣針の胴(以下、胴部、審判請求理由書では軸部)から針先にかけて長い略「し」の字状に形成し、釣糸を繋ぐ環状部の首を針先側に略「く」の字状に曲げた態様を基本的な構成態様とし、各部の具体的な態様では、環状部の針穴は針先側に向き、胴部は直線状部分がかなり長く、釣針の腰の曲げは針先側に比べ胴部側がやや緩やかな弧状であって、針先の内側下方に刺状の返しを斜め下向きに形成し、針先と胴部との間隔、いわゆる「ふところ」を同様に設けた態様が共通している。
一方、両意匠の形態には以下の点に差異が認められる。(1)胴部の直線状部分について、本願意匠は引用意匠よりやや短い点、(2)本願意匠は、環状部の末端に押し広げた扁平部(以下、扁平)を有する点、(3)環状部の胴部に対する傾斜の角度が相違する点、(4)本願意匠は、扁平部と環状部の首の付近との間にわずかな隙間がある点。
そこで、これらの共通点及び差異点を総合し、両意匠を全体として考察すると、差異点のうち、(1)については、この種物品の形態として、釣針の腰部、針先を含む返し部分、そして針先と胴部との間のふところの態様が同様であって、胴部の直線状部分の長さのみを釣魚のサイズ等に合わせて多少長短に形成することは、広く普通に行われる機能上の構成にほかならず、(2)については、この種物品の形態として、釣糸の抜け止め防止等のため扁平部を形成することは従来より普通に行われることであるが、本願意匠の扁平部は、本願意匠の出願前より多数見られる極めてありふれた態様の略小長円形状のものにすぎないから、本願意匠のみに新規の形態とは言えず、(3)については、環状部はいずれも針先側に傾斜したもので傾斜の度合の僅かな差異にとどまり、そして、(4)については、機能上の効果に相違があるとしても、本願意匠に施された隙間は限られた方向から注視して見える程度の態様であって、形態全体としては、極めて細部の差異にすぎず、これら差異点を総合しても、部分的かつありふれた形態の僅かな変更と細部の差異にとどまり、両意匠の類否判断に影響があるほどのものと認められない。
これに対し、共通点は、略「く」の字状に曲げた環状部の首から針先にかけての形態全体に及び、両意匠の形態の基調なすものと認められ、しかも両意匠の類否判断を左右する主要部に係るから、両意匠は、前記の差異点があるにも係わらず形態全体として類似するものと言わざるを得ない。
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、その形態についても差異点に対し共通点が依然支配的であるから、意匠全体として類似するものである。そして、引用意匠は、本願意匠の出願日より前に頒布された刊行物に記載されたものであるから、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号に該当し、同条の規定により意匠登録を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成10年10月5日
審判長審判官(略)
審判官(略)
審判官(略)
別紙第1 本願の意匠
意匠に係る物品 釣針
<省略>
別紙第2 引用の意匠
<省略>