東京高等裁判所 平成10年(行ケ)59号 判決 1998年10月29日
東京都中央区銀座四丁目5番11号
原告
セイコー株式会社
代表者代表取締役
井上仲七
訴訟代理人弁理士
鹿谷俊夫
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官
伊佐山建志
指定代理人
小池隆
同
廣田米男
同
小林和男
"
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 原告が求める裁判
「特許庁が平成2年審判第14646号事件について平成9年12月15日にした審決を取り消す。」との判決
第2 原告の主張
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和63年4月12日、「EQUIPMENT FOR PROFESSIONAL」の欧文字を横書きしてなり、旧第23類「時計 眼鏡 これらの部品および附属品」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について登録出願(昭和63年商標登録願第42020号)をしたが、平成2年6月22日に拒絶査定を受けたので、同年8月8日に拒絶査定不服の審判を請求し、平成2年審判第14646号事件として審理された結果、平成9年12月15日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、平成10年1月28日にその謄本の送達を受けた。
2 審決の理由
別紙審決書「理由」写しのとおり
3 審決の取消事由
審決は、本願商標は、その指定商品中の「専門家向けの装備を有する商品」に使用すると、商品の品質を表示するものと理解されるため、自他商品の識別力を有しないし、上記商品以外の商品について使用すると、商品の品質の誤認を生ずるおそれがある旨判断している。
(1)しかしながら、原告は、昭和44年に「PROFESSIONAL」の標章を付したダイバーズウオッチの販売を開始し、昭和53年にはその高級機種を「プロフェッショナルシリーズ」と銘打って、今日までその販売を継続している。そして、この間、広範な広告を行った結果、「PROFESSIONAL」あるいは「プロフェッショナル」の標章は、本願商標の登録出願前に、原告が販売するダイバーズウオッチの表示として、取引者・需要者の間で、広く認識されていたものである。
なお、原告は、登録第915084号商標「PROFESSIONAL」(指定商品は旧第23類「時計 眼鏡 これらの部品および附属品」、昭和46年7月31日登録、昭和56年7月31日存続期間満了、同57年3月18日登録抹消)、登録第1625308号商標「PROFESSIONAL」(指定商品は旧第23類「時計 眼鏡 これらの部品および附属品」、昭和61年3月26日登録)、登録第1849268号商標「プロフェッショナル」(指定商品は旧第23類「時計 眼鏡 これらの部品および附属品」、昭和61年3月26日登録)、登録第2108205号商標「ダイバープロフェッショナル」(指定商品は旧第23類「潜水用時計 水中眼鏡」、平成元年1月23日登録)、登録第3185418号商標「DIVER PROFESSIONA」(指定商品は第14類「潜水用時計」、平成8年8月30日登録)の商標権者である。そして、これらの商標が登録を受けたということは、「PROFESSIONAL」あるいは「プロフェッショナル」の標章が、自他商品の識別力を持つことを意味する。
以上のとおり、本出願当時、「PROFESSIONAL」の文字を含む本願商標は、これを付した商品が原告の業務に係るものであると識別させる力を持っていたことは明らかであるから、本願商標が商標法3条1項3号の規定に該当する旨の審決の判断は、誤りである。
(2)また、「EQUIPMENT」は、「備品」等を意味する英語であるから、本願商標は、「原告が販売するダイバーズウオッチの部品・付属品」の観念を生ずる。したがって、本願商標が商標法4条1項16号の規定に該当する旨の審決の判断も、誤りである。
第3 被告の主張
原告の主張1、2は認めるが、3(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。
1 原告は、本出願当時、「PROFESSIONAL」の文字を含む本願商標は、これを付した商品が原告の業務に係るものであると識別させる力を持っていたから、本願商標が商標法3条1項3号の規定に該当する旨の審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、「PROFESSIONAL」は、「専門家」、「職業選手」あるいは「プロ仕様」、「プロ用」等を意味する極めて平易な英語であるから、取引者・需要者が、これを原告が販売するダイバーズウオッチの表示として認識することはありえず、原告の上記主張は誤りである。このことは、原告以外の複数の時計業者が、「PROFESSIONAL」、「プロフェッショナル」あるいは「プロ」などの語を、その商品であるダイバーズウオッチの表示に使用していることからも明らかである。
2 また、原告は、本願商標は「原告が販売するダイバーズウオッチの部品・付属品」の観念を生ずるから、本願商標が商標法4条1項16号の規定に該当する旨の審決の判断も誤りである旨主張する。
しかしながら、「EQUIPMENT」も、「装備」等を意味する平易な英語であるから、本願商標は、「専門家向けの装備」等の観念を生ずる。したがって、本願商標が商品の品質の誤認を生ずるおそれがあることは否定できないから、原告の上記主張も失当である。
理由
第1 原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、被告も認めるところである。
第2 そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。
1 原告は、本出願当時、「PROFESSIONAL」の文字を含む本願商標は、これを付した商品が原告の業務に係るものであると識別させる力を持っていたことは明らかであるから、本願商標が商標法3条1項3号の規定に該当する旨の審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、「PROFESSIONAL」は、「専門的な」等を意味する形容詞、あるいは「専門家」等を意味する名詞として、児童ですら理解できる極めて平易な英語である。したがって、たとえ原告が昭和44年に「PROFESSIONAL」の標章を付したダイバーズウオッチの販売を開始し、今日まで広範な広告を行っているとしても、本願商標に接した時計等の取引者・需要者が、直ちにこれを、原告が販売するダイバーズウオッチの表示としてのみ認識することはありえないと解される。
現に、甲第13号証、乙第1ないし第6号証によれば、世界的に著名な時計業者であるシチズン、EXALT、OMEGA、TAG HEUER、BREITLINGの各社が、その商品であるダイバーズウオッチに、「PROFESSIONAL」、「PROFESSIONAL DIVER」、あるいは「PROFESSIONAL DIVER'S」の標章を付して、日本国内において販売していることが認められる。したがって、「PRFESSIONAL」の標章は、単に、「専門的な」等を意味する語として、ダイバーズウオッチに広く使用されていることが明らかである。
そして、「EQUIPMENT」は、「備品、装置」等を意味する比較的平易な英語であるから、本願商標は、全体として、「専門家向けの装置」、あるいはこれに類似する観念を生ずることになるが、これは、商品の品質、用途等を表示するにすぎず、自他商品の識別力を有しないものといわざるをえない。したがって、本願商標は商標法3条1項3号の規定に該当する旨の審決の判断に、誤りはない。
2 また、原告は、本願商標は「原告が販売するダイバーズウオッチの部品・付属品」の観念を生ずるから、本願商標が商標法4条1項16号の規定に該当する旨の審決の判断も誤りである旨主張する。
しかしながら、本願商標は、原告が販売するダイバーズウオッチに関連する観念を生ずるものではなく、全体として「専門家向けの装置」、あるいはこれに類似する、高い品質を意味する観念を生ずることは、前項の説示から明らかである。したがって、本願商標は商標法4条1項16号の規定に該当する旨の審決の判断にも誤りはない。
3 以上のとおりであるから、本願商標は登録することはできないとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張のような違法はない。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成10年9月22日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)
理由
本願商標は、「EQUIPMENT FOR PROFESSIONAL」の文字よりなり、第23類「時計、眼鏡、これらの部品および附属品」を指定商品として昭和63年4月12日に登録出願されたものである。
これに対し、原査定は、「本願商標は、『プロフェッショナル用の装備、用具』の意を理解させる『EQUIPMENT FOR PROFESSIONAL』の文字を書してなるから、これをその指定商品中の専門スポーツ(例えば、ダイバー、ラリー)用の時計・眼鏡に使用するときは、単に該商品がプロの使用に耐え得る優秀なものであることを表示したにすぎず、自他商品の区別標識としての機能を果たし得ない。したがつて、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当する。」旨認定して、本願を拒絶したものである。
よって按ずるに、本願商標は、「EQUIPMENT FOR PROFESSIONAL」の文字よりなるものであるが、その前半部を構成する「EQUIPMENT」は「エクイップメント」と読まれ、「装備」等の語意を有する英語であり、また後半部を構成する「FOR PROFESSIONAL」は「フォー プロフェッショナル」と読まれ、「専門家向け」の語意を有する英語であり、全体としては「専門家向けの装備」という意味合いを容易に理解させるものであることは各種英和辞典、カタカナ語辞典等の記載に徴し認め得るところである。しかして、上記の語意を有する本願商標をその指定商品との関係において、特に「潜水用時計(ダイバーズウォッチ)」との関係でみると、時計業界各社は当該時計の文字板上に「PROFESSIONAL 〇〇〇m」の如き語句を使用しており、かつ該商品についての記事中においては「本格的深海用ダイバーズウォッチ『プロフェッショナル600m』」「プロフェッショナルダイバー1300m」の如く紹介されている。さらに当該商品については「プロ仕様」「プロのための道具」「プロダイバー用モデル」「プロフェッショナルタイプ」「プロ用」等の語句が使用されているのが実情である(例えば、株式会社ワールドフォトプレス昭和59年6月3日発行「腕時計 GADGETmono モノ・マガジン別冊」95頁、同60年8月3日発行「How To Wrist Watch 腕時計 GADGETmono モノ・マガジン別冊」60、76頁、株式会社光文社平成6年1月1日発行「Gainer」35頁)。
そうとすれば、該文字に接する該商品の取引者、需要者は、これより「専門家向けに装備した商品」もしくはこれを端的に表す「プロ仕様の商品」の如き意味合いを容易に看取することができるものとみるのが相当といわなければならない。
しかして、かかる専門家向けの装備を有する商品は前記商品(時計)にとどまらず、一般に高級品全般について広く通じるものであって、プロ仕様の商品は数多く存在することを推認することができる。
してみれば、本願商標は、これをその指定商品中の「専門家向けの装備を有する商品(プロ仕様の商品)」について使用しても、取引者、需要者が商品の品質を表示するにすぎないものと理解するに止まり、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるといわなければならず、また、これを前記商品以外の商品について使用した場合には、該商品が恰も前記プロ仕様の商品であるかの如く、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものであるから、これを登録することはできない。