東京高等裁判所 平成10年(行ケ)64号 判決 1998年7月07日
香川県高松市花園町1丁目2番29号
原告
朝日スチール工業株式会社
代表者代表取締役
中山秀之
訴訟代理人弁理士
中村恒久
東京都千代田区五番町6番地2
被告
トーア・スチール株式会社
代表者代表取締役
神谷春樹
訴訟代理人弁理士
宮滝恒雄
同
松原美代子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者が求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成8年審判第11889号事件について平成10年1月14日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、意匠に係る物品を「フェンス」とし、別添審決書別紙第一に記載されている態様によって構成される意匠登録第950339号に係る意匠(平成5年10月13日に登録出願、平成8年1月11日に意匠権設定登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
原告は、平成8年7月17日、本件登録意匠の意匠登録の無効の審判を請求し、特許庁は、同請求を平成8年審判第11889号事件として審理した上、平成10年1月14日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成10年2月5日に原告に送達された。
2 審決の理由
別添審決書「理由」の写のとおりである。なお、審決の甲号証と本訴の甲号証の対応関係は、別紙甲号証対照表のとおりである。以下、本件登録意匠と審決にいう甲号意匠の相違点として審決が認定した、<1>本件登録意匠が、網状パネル体2枚を2本の端支柱と1本の中間支柱で形成しているのに対して、甲号意匠は、網状パネル体1枚を2本の中間支柱で形成して、連続するフェンス体の1単位の単体としている点を「相違点<1>」と、<2>装飾具を、本件登録意匠が、略円錐台形状の台部と支柱直径と略同径の球体からなる装飾具を台部が支柱頂部を覆う態様としているのに対して、甲号意匠は、支柱直径の略1.4倍の径の球体からなる装飾具を球体底部が支柱頂部に隠れる態様としている点を「相違点<2>」と、<3>本件登録意匠は、係止具の間の3箇所に、中央長手方向に隆起した補強部を設けた細幅帯状留め具を支柱と網状パネル体を挟む態様で固着しているのに対して、甲号意匠は、係止具以外の固定具を設けていないとしている点を「相違点<3>」と、<4>網状パネル体の上下の胴縁と横帯状部の間の横線条を、本件登録意匠は、各3本としているのに対して、甲号意匠は、同横線条を各2本としている点を「相違点<4>」と、<5>網状パネル体の下端部を、本件登録意匠は、支柱下端部から支柱長さの略5分の1としているのに対して、甲号意匠は、支柱下端部から支柱長さの略4分の1としている点を「相違点<5>」とそれぞれいう。
3 審決の取消事由
審決の理由1、2、3(1)及び3(2)は認める。同3(3)のうち、本件登録意匠と甲号意匠について、意匠に係る物品が一致しているとの認定、共通点と相違点の認定、及び「これらの共通点及び相違点を総合して、両意匠を意匠全体として考察すると、まず、全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体を支柱で支持して遮蔽体とする構成は、この種物品の属する分野においては、基本的な要素であって、極めてありふれた構成であって、その点を取り上げて評価するほどのものではな」いとの認定(20頁6行から22頁10行の「ものではなく、」まで)は認め、その余は否認する。
審決は、本件登録意匠と甲号意匠の類否の認定判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 相違点<1>について
相違点<1>は、フェンスにおいては、その使用場所及び設置される長さに応じて適宜選択して形成されるところの態様である。
過去の審決においても、長いパネル体と短いパネル体各1枚で遮蔽体としたか、長いパネル体を3枚設けて遮蔽体とするかは、「使用の結果として表出した態様に止まり、また、いずれの態様も、その使用時において見受けられるものであることを勘案すると、その点を看者が特に注視するところであるといえず、その相違点は、類否判断の評価に値しない細部の相違である。」(昭和62年審判第19489号事件審決)とされている。そして、本件登録意匠においても、本件登録意匠に係る意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)の「使用状態を示す参考斜視図」には、甲号意匠のように、網状パネル体1枚を2本の支柱で形成して、連続するフェンス体を1単位として繰り返している図が示されている。
したがって、相違点<1>は、類否判断の評価に値しない細部の相違である。
(2) 相違点<3>について
ア 「1992年度 トーア・スチール 環境エクステリア製品標準図集」(被告平成4年発行)記載の意匠(以下「甲第7号証意匠」という。)によれば、本件登録意匠と略同一の網状パネル体を2枚以上、上下の係止具とこれらの間の3箇所の細幅帯状留め具により支柱に結合したフェンスは公知ないし周知であったことがわかる。
イ もっとも、甲第7号証意匠のフェンスの細幅帯状留め具には、中央長手方向に隆起した補強部が設けられていない。しかし、本件登録意匠の細幅帯状留め具の上記補強部は、本件登録意匠の図面の正面図、平面図、底面図、右側面図には、全く描かれておらず、拡大図にのみ描かれているにすぎず、その程度に極めて小さいものである。類否判断の基本である全体観察による総合判断によれば、上記補強部は、無いに等しいものであるから、到底要部にはなり得ない。
ウ 本件登録意匠の細幅帯状留め具は、意匠に係る物品を「金網柵用取付具」とする意匠登録第633836号に係る意匠(以下「甲第10号証意匠」という。)に中央孔を形成したものに相当し、これに明らかに類似している。
エ また、細幅帯状留め具を設けない意匠である意匠登録第594349号に係る意匠(以下「甲第4号証意匠」という。)と、これを設けた意匠である意匠登録第594349号類似4の意匠(以下「甲第5号証意匠」という。)が類似とされているから、細幅帯状留め具を設けたフェンスと、これを設けないフェンスは類似である。
オ したがって、相違点<3>に係る補強部は、要部にはなり得ない。
すなわち、本件登録意匠において、相違点<2>を除いた部分は、すべて公知ないし周知であった。
(3) 相違点<2>について
ア フェンス用門扉で最も目立ちやすい閂について、中央の補強板に露出したものと内装したものとは、「その部位(閂部)を注視することによって、生じる相違であって、・・・部分的な差ないし僅かな差であって、特徴ある態様とはいえず、類否判断を左右する要素としては微弱なものである。」とされている(平成5年審判第1098号事件審決)。そして、相違点<2>よりも、上記の閂の相違の方が明確であるから、上記閂の相違が類否判断を左右する要素ではない以上、相違点<2>も類否判断を左右する要素ではない。相違点<2>を類否判断を左右する要素であるとするならば、それは平等原則違反である。
イ 支柱の上端に装飾具である球体を有する意匠である意匠登録第831678号に係る意匠(以下「甲第12号証意匠」という。)に対し、装飾具が支柱の直径より少し大きい(該直径の約1・5倍)球部と、この球部との接続部が支柱の直径より小さい(該直径の約0・5倍)略円錐台形状の台部とからなる意匠である意匠登録第831678号類似の7意匠(以下「甲第13号証意匠」という。)が類似意匠とされている。すなわち、横帯状部を有しない網状パネル体と、装飾具を有する支柱を備えているフェンスにおいて、装飾具である球体の類似範囲には、支柱の直径より大きい球部と、この球部との接続部が支柱の直径より小さい台部とからなるものも含まれる。
そして、横帯状部が形成されている甲号意匠について、類似意匠として類似1ないし4の意匠が登録されているが、その類似範囲、特に装飾具についての類似範囲は、甲第12号証意匠の類似範囲と同様である。したがって、甲号意匠の類似範囲には、支柱の直径より大きい球部と、この球部との接続部が支柱の直径より小さい台部とからなるものも含まれているものである。
ウ したがって、相違点<2>は、その部分を注視することによって生じる相違であり、部分的な差ないし僅かな差であって、類否判断を左右する要素としては微弱なものである。
(4) 相違点<4>、<5>について
相違点<4>、<5>は、評価するほどのものではなく、審決においても、その旨認定されている。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1、2の事実は認める。同3は争う。審決の認定判断に誤りはない。
2 被告の主張
(1) 相違点<1>について
原告は、昭和62年審判第19489号事件審決を引用して、相違点<1>は類否判断の評価に値しない細部の相違であると主張する。しかし、上記審決は、類否が判断された両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様が共通しており、このような共通性に対して、原告の引用する相違点が類否判断の評価に値しない細部の相違と判断されたものであって、フェンスの意匠一般について、パネル体の枚数の構成の類否判断に言及したものとまでいうことはできない。
デザインの多様化、成熟化によって、パネルの意匠的特徴が希釈化しはじめると、意匠の要部は支柱あるいは取付金具の部分に相対的に移行する傾向が現れはじめ、意匠の要部も事案ごとに複雑化する。したがって、上記審決は、単純にパネルの構成枚数の多少を類否判断から除外する根拠とはならない。
(2) 相違点<3>について
ア 原告は、甲第7号証意匠を根拠として、本件登録意匠と略同一の網状パネル体を2枚以上、上下の係止具とこれらの間の3箇所の細幅帯状留め具により支柱に結合したフェンスは公知ないし周知であったと主張する。しかし、甲第7号証意匠のフェンスの細幅帯状留め具は、2箇所であって個数が異なり、かつ、形状も異なるから、甲第7号証意匠は、直接本件登録意匠と甲号意匠の類否判断に影響を与えるものではない。
イ 原告は、本件登録意匠の細幅帯状留め具の補強部は、本件登録意匠の図面の拡大図にのみ描かれているにすぎないから、極めて小さいものであり、要部にはなり得ないと主張する。しかし、本件登録意匠の出願当時は、一組の図面(正面、背面、平面、底面及び左右側面図)は、物品の大きさあるいは意匠のいかんにかかわらずB5又はB4の用紙1枚に記載すべきこととされ、そのために、その意匠を十分表現することができない場合には、拡大図等の必要な図面を加えることができるとされていた。そこで、意匠に係る物品が比較的大きなものである本件登録意匠においては、意匠の把握に特に重要と思われる細幅帯状留め具及び支柱上部の装飾具について、部分拡大図を用いたものである。以上のとおり、原告の主張は、このような法が予定した状況を無視したものである。
ウ 原告は、本件登録意匠の細幅帯状留め具の意匠は、甲第10号証意匠に類似していると主張する。しかし、両意匠は、中央隆起部(補強リブ)の形状、左右の穴の形状、中央の穴の有無及び水平部分に段差を設けたか否か等に差異がみられるのに対し、その共通点は細幅帯状の全体的な屈曲態様と中央隆起部の配置という極めて基本的かつ概念的な点にすぎない。しかも、甲第10号証意匠の屈曲態様は、パイプ状のものの留め具として普通にみられるものである点を考慮すれば、この点を類否判断の主要部とすることは妥当ではないから、両意匠全体として非類似のものである。
エ 原告は、細幅帯状留め具を設けない甲第4号証意匠と、これを設けた甲第5号証意匠とが類似とされているから、細幅帯状留め具を設けたフェンスと、これを設けないフェンスとは類似であると主張する。しかし、意匠の類否判断においては、当該意匠の新規性の度合いによって、その類似範囲は変わってくるものであるから、甲第4号証意匠と甲第5号証意匠が類似することから、必然的に本件登録意匠と甲号意匠が類似することにはならない。
(3) 相違点<2>について
ア 原告は、平成5年審判第1098号事件審決を根拠として、相違点<2>が類否判断を左右する要素ではないと主張する。しかし、上記審決において取り上げられた意匠中、閂が意匠全体に占める意匠的価値は他の部分の新規性の程度によって相対的に決定されるものであるから、閂が門扉において最も目立ちやすいとか、絶対的差異として相違点<2>よりも閂の相違の方が明確であるなどということはできない。
イ 原告は、甲号意匠の類似意匠として登録されているものを根拠として、相違点<2>は、甲号意匠の類似範囲である旨主張する。しかし、甲号意匠の類似意匠として登録されているものの中には、本件登録意匠のように支柱の上部を明確に覆うような装飾具を設けたものはなく、かつ、細幅帯状留め具を同時に設けたものもない。原告の主張は、本件登録意匠から細幅帯状留め具を除外して甲号意匠と対比しているものであって、その前提に誤りがある。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
第2 審決の取消事由について判断する。
1 本件登録意匠と甲号意匠の形態及び構成態様、意匠に係る物品、並びに共通点と相違点が審決の認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。また、両意匠の共通点である全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体を支柱で支持して遮蔽体とする構成は、両意匠の意匠に係る物品の属する分野においては、基本的な要素であり、極めてありふれた構成であって、その点を取り上げて評価するほどのものではないことも、当事者間に争いがない。
そして、成立に争いのない甲第5、第8、第20号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第3ないし第6号証によれば、フェンス等において、支柱の頂部に装飾具を設けることがありふれた態様であること、本件登録意匠及び甲号意匠の共通点である網状パネル体及び支柱と網状パネル体の接合部位が格別新規な態様ではないことが認められる。
2 相違点<1>について
成立に争いのない甲第28号証の1(本件意匠公報)によれば、本件意匠公報には、本件登録意匠について、連続するフェンス体の一部として、1本の端支柱と2本の中間支柱で3枚の網状パネル体を連接した態様が、使用状態を示す参考斜視図として図示されていることが認められる。そうすると、本件登録意匠においても、使用の結果として、網状パネル体1枚を2本の中間支柱で形成して、連続するフェンス体の1単位となる形状が表出することはあり得ると認められる。したがって、相違点<1>は、類否判断を左右するものではないというべきである。
3 相違点<3>について
(1) 原告は、甲第7号証意匠を根拠として、本件登録意匠と略同一の網状パネル体を2枚以上、上下の係止具とこれらの間の3箇所の細幅帯状留め具により支柱に結合したフェンスは公知ないし周知であったと主張する。そこで検討するに、成立に争いのない甲第7号証によれば、甲第7号証意匠のフェンスの細幅帯状留め具は2箇所であって、かつ、補強部が存在しないことが認められる。したがって、甲第7号証意匠をもって、本件登録意匠における相違点<3>の形状をありふれたものということはできない。
(2) もっとも、原告は、本件登録意匠の細幅帯状留め具の補強部は、本件登録意匠の図面の拡大図にのみ描かれているにすぎないから、極めて小さいものであり、要部にはなり得ないと主張する。しかし、前掲甲第28号証の1によれば、上記細幅帯状留め具の補強部は、一般の需要者が通常の観察によって十二分に認識できるだけの大きさがあることが認められるから、これが本件登録意匠の図面の拡大図にのみ描かれていることをもって、要部になり得ないということはできない。
また、原告は、本件登録意匠の細幅帯状留め具の意匠は、甲第10号証意匠に類似していると主張する。しかし、成立に争いのない甲第10号証によれば、甲第10号証意匠は、中央長手方向に隆起した補強部を設けた細幅帯状留め具の意匠ではあるものの、中央に穴がなく、水平部分に段差が設けられているほか、補強部の形状、左右の穴の形状が本件登録意匠の細幅帯状留め具の意匠とは異なっていることが認められ、上記事実によれば、これと本件登録意匠の細幅帯状留め具の意匠が類似するということはできない。
更に、原告は、細幅帯状留め具を設けない甲第4号証意匠と、これを設けた甲第5号証意匠が類似とされているから、細幅帯状留め具を設けたフェンスと、これを設けないフェンスは類似すると主張する。しかし、意匠の類否判断は全体観察による総合判断であり、また、斬新な意匠か否か等、個々の意匠によっても類似範囲は異なるものであるから、細幅帯状留め具を設けない意匠と、これを設けた意匠に類似するものがあるとしても、そのことから直ちに、相違点<3>が、本件登録意匠と甲号意匠の類否判断において評価に値しないということはできない。
4 相違点<2>について
(1) 原告は、甲第12、第13号証意匠及び甲号意匠の類似意匠として登録されている意匠を根拠として、相違点<2>は、類否判断を左右する要素としては微弱なものであると主張する。そこで、検討するに、成立に争いのない甲第12、第13、第16ないし19号証によれば、横帯状部を有しない網状パネル体について、支柱の上端の装飾具を、支柱直径の略1・4倍の径の球体とし、球体底部が支柱に隠れる態様としている意匠(甲第12号証意匠)に対し、装飾具を、支柱直径の約1・5倍の球部と、この球部との接続部が支柱の直径の約0・5倍である略円錐台形状の台部が一体のものとして継ぎ目なく形成された形状とし、該台部が支柱の上部を覆うものではない意匠(甲第13号証意匠)が類似意匠とされているものの、上記両意匠には、他に格別の相違点は存在しないこと、甲号意匠の類似意匠として登録されているものは、いずれも装飾具全体が一体のものとして継ぎ目なく形成されたものであり、かつ、支柱の上部を覆うものではないこと、甲号意匠とその類似意匠との間には、装飾具以外に格別の相違点は存在しないことが認められる。
一方、本件登録意匠と甲号意匠の間には、装飾具である相違点<2>以外にも、相違点<3>を始めとする相違点が存在し、相違点<3>に係る本件登録意匠の形状がありふれたものであるとも、評価に値しないものともいえないことは前示のとおりであるから、甲第12、第13号証意匠及び甲号意匠の類似意匠として登録されているものを根拠として、本件登録意匠と甲号意匠が類似するとする原告の主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。また、前示のとおり、甲第13号証意匠及び甲号意匠の類似意匠は、いずれも装飾具全体が一体のものとして継ぎ目なく形成されたものであり、かつ、支柱の上部を覆うものではないことからしても、相違点<2>を、甲第12号証意匠と甲第13号証意匠の相違ないし甲号意匠とその類似意匠の相違と同一に論じることはできないから、相違点<2>は類否判断において考慮すべき要素というべきである。
(2) この点に関して、原告は、閂について、中央の補強板に露出したものと内装したものとは、類否判断を左右する要素としては微弱なものであると判断された平成5年審判第1098号事件審決を根拠として、相違点<2>よりも上記閂の相違の方が明確であるから、相違点<2>を類否判断を左右する要素とすることは平等原則に違反すると主張する。しかし、意匠の一部分の相違が意匠全体に占める意匠的価値は、他の部分の新規性の程度等によっても変化するものであり、その相違の重要性は事案ごとに異なるものであるから、相違点<2>よりも上記審決の事案における閂の相違の方が明確であると一概にいうことはできない。したがって、原告の主張は、前提を欠くものであって、失当である。
5 本件登録意匠と甲号意匠の類似性について、総合的に検討する。両意匠の共通点がありふれた態様ないし格別新規なものではないことは前示のとおりであり、甲号意匠の装飾具は球体というありふれた形状であるところ、成立に争いのない甲第8号証によれば、甲号意匠の網状パネル体は格別新規なものではないことが認められ、以上の事実を参酌すれば、本件登録意匠の相違点<2>及び<3>に係る形状は、フェンスの態様に著しい相違感を起こさせ、相違点<4>及び<5>と相俟って、看者に異なる美的印象を与えるものというべきである。
したがって、本件登録意匠は甲号意匠に類似する意匠ではないから、本件登録意匠の意匠登録を無効とすることができないとした審決の判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。
第3 結論
よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成10年5月28日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
別紙
甲号証対照表
本訴の甲号証の書証番号 審決の書証番号
第1号証の1 甲第1号証の1
第1号証の2 甲第1号証の2
第2号証の1 甲第2号証の1
第2号証の2 甲第2号証の2
第3号証 甲第21号証
第4号証 甲第15号証
第5号証 甲第16号証
第6号証 甲第17号証
第7号証 甲第18号証
第8号証 乙第8号証
第9号証 甲第19号証
第12号証 甲第7号証
第13号証 甲第8号証
第14号証 甲第9号証
第15号証 甲第10号証
第16号証 甲第3号証
第17号証 甲第4号証
第18号証 甲第5号証
第19号証 甲第6号証
第20号証 甲第22号証
第21号証 甲第23号証
第22号証 甲第25号証
第23号証 甲第26号証
第24号証 甲第27号証
第25号証 甲第28号証
第26号証 甲第29号証
第27号証 甲第24号証
理由
1.請求人の申立及び理由
本件審判請求人代理人は、「意匠登録第950339号(以下、「本件登録意匠」という。)の登録は、これを無効とする。」との審決を求めると申し立て、請求理由を要旨下記のように主張し、証拠方法として、甲第1乃至第29号証を提出した。
(1) 無効事由
本件登録意匠は、意匠法第9条第1項の規定に違反してなされたもので、本件登録は、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。
(2) 無効原因
1)請求人適格について
本件審判請求人は、甲第2乃至第17号証に示す登録意匠を所有し、甲第7号証及び第15号証に示すフェンスを製造販売しており、本件審判を請求するについて法的な利害関係を有している。
2)本件登録意匠について
本件登録意匠は、甲第1号証の1(及び甲第1号証の2)のように、3本の支柱と、各支柱の間にそれぞれ配置された格子網と、各支柱と格子網とを連結する上下端継ぎ手及び中間継ぎ手と、各支柱の上端に、格子網の上端レベルより突出するように固定された球形擬宝珠とから構成され、格子網は、上下端の格子筒、これら格子筒の間に形成された標準格子間隔の3段の格子からなる上下の格子板と、これら格子板の間に形成された小格子間隔の中央格子帯とからなり、擬宝珠は、支柱の直径より少し大きい(該直径の約1.07倍)球体と、この球体との接続部が支柱の直径より小さい(該直径の約0.6倍)座体とからなるフェンスに関するものである。
なお、擬宝珠部分は、意匠全体(正面図において、左右一対の支柱で囲まれた面積)からすれば、約0.5%に過ぎず、極めて小さいが、他に特徴が認められないため、この部分は、要部と認められる。
3)先願意匠について(甲第2号証の1)
本件登録意匠の先願意匠として、平成3年6月4日出願(平成3年意匠登録願第16548号)、平成5年12月24日登録(意匠登録第894409号)の意匠がある。
この先願意匠は、2本の支柱と、各支柱の間に配置された格子網と、各支柱と格子網とを連結する上下端継ぎ手と、各支柱の上端に、格子網の上端レベルより突出するように固定された球形擬宝珠とから構成され、格子網は、上下端の格子筒、これら格子筒の間に形成された標準格子間隔の3段の格子からなる上下の格子板と、これら格子板の間に形成された小格子間隔の中央格子帯とからなり、擬宝珠は、支柱の直径より大きい(約1.4倍)球体からなるフェンスに関するものである。
4)答弁書に対する反論
<1>参考文献について、「本件登録意匠は審査の過程で、先願である甲第2号証の存在を十分意識し、甲第2号証との類否関係について十分審査されたのち、非類似と判断されて登録査定となったという経緯をもっている。」と主張しているが、無効審判制度は、審査の過程での過誤の有無を審理する制度であり、請求人は過誤有りと主張するものである。
<2>乙第7号証の191頁の上部には球形擬宝珠付支柱が一本表されているが、その他の支柱には擬宝珠は付けられていないし、網体(パネル体)が本件登録意匠と明らかに非類似である。
<3>「・・・独自の留め具により・・・」の独自から理解すれば、この留め具は新規性及び創作性を有し(公知ではなく)、先願意匠にも表されていないので、最大の特徴であると主張されているようであるが、この留め具は、本件登録意匠の出願日前に、〔被請求人により92年度用として多数配布(甲第18号証によれば、1992年度トーア・スチール 環境エクステリア製品標準図集)されることにより、〕公知とされていた。
<4>公知の乙第8号証と類似のものを2枚連結し、独自の留め具により支柱に結合したフェンス(甲第18号証によれば)も公知であることが判かる。
<5>格子網を留め具により支柱に結合することも、公知(甲第16号証によれば、意匠登録第594349号類似第4号)であった。
4)本件登録意匠と先願意匠との対比
両意匠の共通点は、支柱の数は異なるが、実質的には同一、格子網の数は異なるが、実質的には同一、擬宝珠の数は異なるが、実質的には同一、格子網の標準格子の段数が4段と3段のように異なるが、実質的には同一である。両意匠の差異点は、本件登録意匠のみが中間継ぎ手を有しているが、その大きさは小であるため、この中間継ぎ手は要部とは認められない。本件登録意匠では、擬宝珠は、支柱の直径より少し大きい球体と、この球体との接続部が支柱の直径より少し小さい座体とからなるが、先願意匠では、擬宝珠は支柱の直径より大きい球体からなっている。
5)本件登録意匠と先願意匠の類否判断
本件登録意匠の要部は、「上下端に格子筒がかつ中央に小格子間隔の中央格子帯がそれぞれ形成された格子網を具え、前記格子網の両側に位置する支柱の上端に、前記格子網の両側に位置する支柱の上端に、前記格子網の上端レベルより突出するように球形擬宝珠が固定されたフェンスにおいて、前記擬宝珠は、支柱の直経より少し大きい球体と、この球体との接続部が支柱の直径より少し小さい座体とからなる構成」が本件登録意匠の全体の基調を表出する要部である。
しかし、この要部は、甲第2号証の先願意匠のそれに類似している。
そして、上記したように、この先願意匠の擬宝珠の類似範囲には、甲第8号証の擬宝珠「支柱の直径より少し大きい球体と、この球体との接続部が支柱の直径より少し小さい座体とからなる擬宝珠」が含まれていることが明らかである。
すなわち、本件登録意匠は先願意匠の類似意匠である。
6)結び
本件登録意匠は、意匠法第9条第1項の規定に違反してなされたもので、本件登録は、同法第48条第1項1号により、無効とされるものである。
2.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その要旨下記のように主張し、証拠方法として、乙第1乃至第8号証を提出した。
(1)本件登録意匠について
<1>本件登録意匠の「参考文献」
本件登録意匠の構成を記載するに先立って、本件登録意匠が登録されるにあたっての周辺意匠の存在を示す情報とも言うべき参考文献が本件登録意匠を掲載した意匠公報に次のとうり記載されている。「意登881745-2 意登894409 意登894410 その他、先願あり」この中に請求人が本件無効審判事件の無効事由として挙げている登録第894409号意匠(甲第2号証)も記載されている。
意匠公報に「参考文献」を掲載する趣旨については、「DESIGN PROTECT」27号(1994年)に、「新しい意匠公報について」というタイトルで、特許庁意匠課の説明書が掲載されている(乙第1号証)。
ここに「(1)参考文献とは」として次の様に説明されている。「参考文献とは、当該登録意匠の審査の際に参照した先行意匠(当該登録意匠の出願の日以前に公知になった意匠、および出願された意匠)であって、当該登録意匠とは類似しないが、当該登録意匠に係る類否判断において参考となる意匠が記載された文献をいいます。」
すなわち、本件登録意匠は審査の過程で、先願である甲号意匠の存在を十分意識し、甲号意匠との類否関係について十分審査されたのち、非類似と判断されて登録査定となったという経緯をもっている。
<2>本件登録意匠の構成
網体
網体は2枚の同形のものを支柱を介して横に連設するものであるが、その1枚の構成は、a.全体形状は横長長方形状で、上下端部に管状部を設けている。b.網目は縦長長方形となっており、数本の縦線と6本の横線(中央部の密集部を除く)からなっている。c.網目の疎密の構成 網目の中央部には横線4本が密に設けられており、この部分の網目は横長小四角形となっている。
支柱
支柱はこの種物品において普通に見られる細い金属管で構成されており、その頂部には低い円錐台状の台部を介して球形が表わされており、いわゆる擬宝珠状となっている。球形形状の直径は支柱の直径とほぼ同一である。なお、フエンスの支柱の頂部を球形に表わすことは公知である(乙第4乃至第7号証参照)。
網体の留め具
網体の左右端部の中間部には3個の帯状の支柱留め具を設けている。
(2)登録第894409号意匠(甲第2号証)の構成
網体
網体は一枚であり、その構成は、a.全体形状は横長長方形状で、上下端部に管状部を設けている。b.網目は縦長長方形となっており、数本の縦線と4本の横線(中央部の密集部を除く)からなっている。c.網目の疎密の構成 網目の中央部には横線4本が密に設けられており、この部分の網目は横長小四角形となっている。d.このような構成からなる網体としては登録第675001号意匠(乙第8号証)が公知である。
支柱
支柱はこの種物品において普通に見られる細い金属管で構成されており、その頂部には球形が表わされており、いわゆる擬宝珠状となっている。球形形状の直径は支柱の直径より大きい。
網体の留め具
網体の左右端部の中間部には支柱留め具はない。
(3)両意匠の対比について
<1>両意匠の共通点
a.網体き単体どうし対比した場合には、上下端部に管状部を有すること。網目の中央部に横線を密に設けていること。b.支柱頂部に球形を表わしていること。<2>両意匠の共通点の評価
a.上記共通点は未だ概念的共通性の域を出ないものであるが、網体を単体として対比した場合の上記共通点は、乙第8号証が具有するものであり、この点にさしたる新規な点はない。b.支柱の頂部に球形を表わすことは乙第4乃至第7号証に見られ、この点にもさして新規な点はない。
<3>両意匠の差異点
a.本件登録意匠の網体は2枚のものを横に連設したものであるが、甲第2号証のものは単体である。b.網体を単体どうし比較した場合にも、本件登録意匠の横線は6本であるが、先願のものは4本である。本件登録意匠の網体の左右端部の中間部には、3本の帯状留め具が設けられているが、甲第2号証にはない。c.支柱頂部の球体は本件登録意匠のものは支柱とほぼ同一であり、また支柱との間に円錐台状の台部を介して設けているのに対し、先願のものは支柱より大きく、かつ円錐台状の台部は無い。
<4>両意匠の差異点の評価
a.一般に意匠の類否判断においては、単体のものと2パターン以上を表わしたものとは、非類似意匠として扱っており、ましてや本件のようにパターンの構成に差異がある場合は両々相俟って、両意匠の非類似性を高めるものとなっている。請求人は審判請求理由において、甲第15乃至第17号証を挙げて、単体と複数の網体が類似関係にあると主張しているが、この一連の登録意匠の本意匠は(甲第15号証)は、1.5パターンの網体を表わしたものであり、連続状態を示す説明もなく、意匠権の解釈にとかく議論を呼ぶ登録例であるが、その類似意匠に単体と2連のものが登録されている。
b.両意匠の網体の単体の具体的構成を対比した場合においても、横線の本数が本件登録意匠では6本であるのに対し、先願のものは4本と異り、網目の密集感の差となって強く人目を惹くものとなっている。この差異点にかんし、請求人に「実質的には同一」と判断して共通点に挙げているが、これは明らかに差異点に挙げるべきものである。
c.帯状留め具の有無 本件登録意匠の網体の左右端部の中間部には、3本の帯状留め具が設けられ、支柱をはさんで表わされ、人目を惹くものとなっているが、先願意匠(甲第2号証)はこのような帯状留め具を有していない。この差異について請求人は差異点として挙げてはいるものの、「その大きさは小でしかも位置は見難いので」要部とは認められないと主張しているが、網目の中間部を支柱に固定するという構造的な差異ともなる留め具の有無は両意匠の類否判断を左右するものの一つである。
d.支柱頂部の球形形状については、支柱との間の円錐台状の台部の有無という差異が認められ、球形の大きさの差異と相俟って、人目を引く差異となっている。この点について、請求人甲第8号証を引用して、台座の有無は類似範囲に属する旨主張しているが、本件登録意匠のものとは台座の形状が異なり、網体の形状も異なるところから、直ちに本件に適用できるものではない。
(4)まとめ
この種物品の意匠の類比判断
この種ネットフェンスの意匠は成熟しており、最近の意匠登録例を見ても、個々の形態自体に新規な創作にかかるものはほとんど見られず、公知の部分の組み合わせによる創作がほとんどであるという状況がある。この点については本件登録意匠についても先願意匠についてもあてはまるところで、結局個々の出願に表わされた組み合わせが異なるとそれぞれ登録されてきたという経緯をもっている。本件両意匠はこのような最近のネットフェンスの出願-登録の流れの中で、限定的な範囲のものであるがそれぞれ登録されたものであると解するほかない。
本件登録意匠の特徴
上記したこの種物品の登録意匠の特徴から、本件登録意匠の特徴(要部)を求めれば、公知の乙第8号証を2枚連結し、留め具については、自社開発したものを本件登録意匠についても採用しており、一部は公知にしたものもあるが、本件登録意匠の中央支柱の上下端部を除く部分は補強用の隆起を設けている留め具により結合し、支柱には頂部に球形を有する公知の乙第4号証を組み合わせたという点に求められる。
甲第2号証(先願)の特徴
一方、先願意匠の特徴(要部)は、公知の乙第8号証の網体に公知の乙第5号証の支柱を組み合わせたという点に求められる。
両意匠の類否
上記した本件両意匠の特徴を対比すれば、両意匠の特徴には顕著な差異があり、両意匠は全体として非類似であると言わざるを得ない。請求人は本件登録意匠の特徴を「上下端に格子筒がかつ中央に小格子間隔の中央格子帯がそれぞれ形成された格子網を具え、前記格子網の両側に位置する支柱の上端に、前記格子網の上端レベルより突出するように球形擬宝珠が固定されたフェンスである点と、前記擬宝珠は、支柱の直径より少し大きい球体と、球体との接続部が支柱の直径より少し小さい座体とからなる点」にあるとしている。
しかし、この要部認定は客観性に欠けるものである。まず、本件登録意匠の全体構成がとらえられていない上に、最も人目につく網目の全体構成がとらえられていない。一方、網と支柱の留め具のことは省略されており、逆に公知の網の部分的特徴や公知の支柱のことが延々と述べられていて、どの点に新規性があるのかが一向に見えないものである。そうしてこの要部は先願意匠(甲第2号証)の要部に共通すると主張するが、この結論は客観性に欠ける過った要部認定の上に立った結論であり、認められない。
3.当審の判断
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、平成5年10月13日に出願(平成5年意匠登録願第31069号)され、平成8年1月11日に意匠権の設定の登録がなされたものであって、当該登録原簿および出願書類の記載によれば、意匠に係る物品を「フェンス」とし、その形態を、別紙第一に示すとおりとしたのもである。
すなわち、その構成態様は、全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体2枚を2本の端支柱と1本の中間支柱で支持して遮蔽体としたものであって、支柱は、その頂部に装飾具を載置した縦長の円形筒状体とし、装飾具は略円錐台状の台部と、その台部の上方に支柱直径と略同径の球体を設けて、台部が支柱頂部を覆う態様として、網状パネル体は、上下端部に線条で筒状にした胴縁を設け、中央横方向に4本の横線条を間隔を密に設けて横帯状部を形成して、上下の胴縁と横帯状部の間に横線条を各3本等間隔に設けて網目を縦長矩形状とするものであって、支柱と網状パネル体の接合部は、支柱の上端寄りの装飾具近傍と下端から支柱長の略1/5に短円筒状の係止具を、中央支柱には左右方向に、左右の支柱にはそれぞれ一方に設け、該係止具の間の3箇所に、中央長手方向に隆起した補強部を設けた細幅帯状留め具を支柱と網状パネル体を挟む態様で固着しているものである。
(2)甲号意匠
請求人及び被請求人もその事実について争いの無いところの、平成3年6月4日に出願〔出願当初、本意匠を意願昭63-43157号(意匠登録第834998号)とする類似意匠登録出願(平成3年意匠登録願第16548号)とし、その後独立に変更〕され、平成5年12月24目に意匠権の設定の登録がされた意匠登録第894409号の意匠(以下、甲号意匠という。)であって、当該登録原簿および出願書類の記載によれば、意匠に係る物品を「フェンス」とし、その形態を、別紙第二に示すとおりとしたものである。
すなわち、その構成態様は、全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体を2本の中間支柱で支持して遮蔽体としたものであって、支柱は、その頂部に装飾具を載置した縦長の円形筒状体とし、装飾具は、支柱直径の略1.4倍の径の球体とし、球体底部が支柱に隠れる態様として、網状パネル体は、上下端部に線条で筒状にした胴縁を設け、中央横方向に4本の横線条を間隔を密に設けて横帯状部を形成して、上下の胴縁と横帯状部の間に横線条を各2本等間隔に設けて網目を縦長矩形状とするものであって、支柱と網状パネル体の接合部は、支柱の上端寄りの装飾具近傍と下端から支柱長の略1/4に短円筒状の係止具を、支柱の左右方向に設けているものである。
(3)本件登録意匠と甲号意匠の対比考察
まず、両意匠の意匠に係る物品についてみると、両意匠は、家・土地の境界にするための遮蔽体として使用されるものであり、意匠に係る物品が一致している。
次に、形態については、両意匠ともに、全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体を支柱で支持して遮蔽体とし、支柱は、その頂部に装飾具を載置した縦長の円形筒状体とし、網状パネル体は、上下端部に線条で筒状にした胴縁を設け、中央横方向に4本の横線条を間隔を密に設けて横帯状部を形成して、上下の胴縁と横帯状部の間に横線条を等間隔に設けて網目を縦長矩形状とし、支柱と網状パネル体の接合部は、支柱の上端寄りの装飾具近傍と支柱長の下端寄りに短円筒状の係止具を設けている点において共通する。
他方、相違点として、本件登録意匠は、網状パネル体2枚を2本の端支柱と1本の中間支柱で形成しているのに対して、甲号意匠は、網状パネル体1枚を2本の中間支柱で形成している点、装飾具を、本件登録意匠は、略円錐台形状の台部と支柱直径と略同径の球体からなる装飾具を台部が支柱頂部を覆う態様としているのに対して、甲号意匠は、支柱直径の略1.4倍の径の球体からなる装飾具を球体底部が支柱頂部に隠れる態様としている点、本件登録意匠は、孫止具の間の3箇所に、中央長手方向に隆起した補強部を設けた細幅帯状留め具を支柱と網状パネル体を挟む態様で固着しているのに対して、甲号意匠は、係止具以外の固定具を設けていない点、そうして、網状パネル体の上下の胴縁と横帯状部の間の横線条を、各3本としているのに対して、甲号意匠は、同横線条を、各2本としている点、及び網状パネル体の下端部を、本件登録意匠は、支柱下端部から支柱長さの略1/5としているのに対して、甲号意匠は、支柱下端部から支柱長さの略1/4としている点等に相違するところがある。
そこで、これらの共通点及び相違点を総合して、両意匠を意匠全体として考察すると、まず、全体を縦線条と横線条で格子状に形成した横長矩形網状パネル体を支柱で支持して遮蔽体とする構成は、この種物品の属する分野においては、基本的な要素であって、極めてありふれた構成であって、その点を取り上げて評価する程のものではなく、支柱の頂部に装飾具を設けることも、これまた、この種物品の属する分野においては、ありふれた態様であるものの、如何なる装飾具を設けるかとする具体的態様がこの種物品の属する分野においては、評価すべきであることが認められるものである。網状パネル体及び支柱と網状パネル体の接合部位についても、例をあげるまでもなく甲号意匠にのみ見られる新規な態様ともいえず評価する程のものではない。
そうとすると、本件登録意匠と甲号意匠の相違点であるところの、本件登録意匠が、網状パネル体2枚を2本の端支柱と1本の中間支柱で形成して、2枚のパネル体を連接したフェンス体としているのに対して、甲号意匠が、網状パネル体1枚を2本の中間支柱で形成して、連続するフェンス体の1単位の単体としている点、装飾具の具体的態様を本件登録意匠が、略円錐台形状の台部と支柱直径と略同径の球体からなる装飾具を台部が支柱頂部を覆う態様としている点及び係止具の間の3箇所に、中央長手方向に隆起した補強部を設けた細幅帯状留め具を支柱と網状パネル体を挟む態様で固着しているところは、フエンスの態様に著しい相違感を起こさせ、その余の相違点とが相俟って醸し出されるところは、看者に強い別異感を惹き起こし、類否判断の評価に影響を与えるところであるといえる。
従って、本件登録意匠は甲号意匠とを全体として考察すると、類似する意匠とは到底いえず、意匠法第9条第1項に規定する意匠に該当しない。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件登録意匠は、その出願の日前に係る甲号意匠に類似する意匠ではないから、意匠法第9条第1項に規定する意匠に該当せず、本件登録意匠を無効とすることができない。
よって、結論のとおり審決する。
別紙第一 本件登録意匠
説明 左側画図は右側画図と、背面図は正面図と同一にあらわれる。
<省略>
<省略>
別紙第二 甲号意匠
<省略>