東京高等裁判所 平成10年(行ケ)77号 判決 1998年9月17日
横浜市中区元町2丁目95番地
原告
北村和江
同所
同
北村景
同所
同
北村康
上記両名法定代理人親権者母
北村和江
原告3名訴訟代理人弁護士
松田弘
同
弁理士 大貫和保
同
小竹秋人
横浜市中区元町3丁目126番地
被告
株式会社キタムラ
代表者代表取締役
北村宏
訴訟代理人弁理士
鳥井清
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者が求めた裁判
1 原告ら
特許庁が平成8年審判第14788号事件について平成10年1月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
訴外北村康介(以下「訴外康介」という。)は、商品区分(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)第22類「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品とし、別添審決書「理由」の写の別紙(1)に本件商標として表示された構成からなる商標登録第2328366号に係る商標(昭和62年7月6日に商標登録出願、平成3年2月8日に登録査定、同年8月30日に設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者であった。訴外康介は、平成4年10月27日に死亡し、同人の妻である原告北村和江(以下「原告和江」という。)、子である原告北村景及び同北村康が、訴外康介を相続し、本件商標権の共有者となった。
被告は、平成8年8月27日に本件商標につき商標登録の無効の審判を請求し、特許庁は同事件を平成8年審判14788号事件として審理した結果、平成10年1月27日に「登録第2328366号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年2月18日に原告らに送達された。
2 審決の理由
別紙審決書「理由」の写のとおりである。以下、商標登録第1864172号に係る商標を、審決と同様に「引用商標」という。
3 審決の取消事由
審決の理由1は認める。同2の(1)、(2)は争い、(3)は不知。同3は認める。(注・審決の理由4は欠番)同5のうち、「登録商標を無効とすべきか否かについては、該登録商標の登録査定時を基準として判断すべきものと解される。そして、本件商標の商標権者と本件審判の請求人とが商標法第4条第1項第15号にいう他人の関係にあるか否かについての判断も、本件商標の登録査定時をもって行うべきものと解される。」(24頁5行ないし11行)、「請求人会社と査定時の商標登録出願人とは、人格を異にするのみならず、経済的、組織的に関係を有する点について何ら立証されていないものである。」(同19行ないし末行)、「請求人と本件商標の通常使用権者との関係についても、商標法上の通常使用権は、設定された商標権について許諾されるものであって、商標の登録自体の可否について争われる商標登録無効審判とは、直接関係のないものであるから、両者の関係いかんが本件審判請求の判断に影響を及ぼすものではない。」(25頁3行ないし9行)、「「北村康介」、被請求人及び本件商標の通常使用権者とは、いずれも他人であって、経済的、組織的に何らかの関係を有する者とも認められない。」(同17行ないし20行)、「請求人は、本件商標の登録を排除することによって、他人の業務に係る商品との出所の混同を取り除くことを目的として本件審判を請求しているものといえるから、利害関係を有する者といわなければならない。」(同20行ないし26頁3行)、「近年のファッションは、被服のほかに靴、鞄等を同一の色彩、ブランド等で統一する傾向も見受けられ、いわゆるトータルルックを考慮したときには、上記の商品は、いずれも関連が深いといえるものである。」(27頁1行ないし6行)、「請求人と登録査定時の出願人とは、上記のとおり何らかの関係を有する者とは認められないものであるから、結局、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。」(同13行ないし17行)との各認定判断を争う。
審決は、利害関係の判断を誤り、かつ、商標法4条1項15号の適用についての判断を誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(利害関係の判断の誤り)
ア 審決は、登録商標を無効とすべきか否かについては、該登録商標の登録査定時を基準として判断すべきものと解されると判断した上、登録査定時の出願人である訴外康介との利害関係を判断した。しかし、被告の利害関係の判断は、審決時が基準となるから、登録査定時に出願人が訴外康介であったか否かは無関係である。したがって、審決は、商標法4条1項15号の判断と利害関係の判断を混然として行った誤りがある。
しかも、商標法4条1項15号の判断は、登録査定時のみならず、商標登録出願時をも基準とされるべきであるから、審決が、登録商標を無効とすべきか否かについては、該登録商標の登録査定時を基準として判断すべきものと解されるとしたことも誤りである。
イ 審決は、「請求人は、本件商標の登録を排除することによって、他人の業務に係る商品との出所の混同を取り除くことを目的として本件審判を請求しているものといえるから、利害関係を有する者といわなければならない。」と判断した。しかし、「利害関係」は、「ある商標の登録の存することによって直接の不利益を被る関係にある者」ないし「本件登録商標が存在することによって請求人として現実に法律上何らかの不利益を被る事情が存在すること」である。したがって、もし、出所の混同が生ずるか否かが利害関係の立証につながるとしても、上記「利害関係」の意義からすれば、「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」と「かばん類」との間において、審決時を基準として具体的な出所の混同が現実に生じており、それによって被告が不利益を被っていることが条件となる。
ところが、被告は、「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」について原告らが本件商標を使用することによって、被告との間に現実に出所の混同を生じていることを一切立証していない。それどころか、被告は、「「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」に使用されたときには」と述べており、出所の混同が生ずることを仮定しているに過ぎないから、本件商標の存在によって、現実には何らの不利益も被っていないとすら考えられる。
したがって、被告には利害関係がない。
ウ 商標権者が指定商品又は指定役務について登録商標を使用することは、常に正当な使用として認められるから、その結果、他人の周知、著名商標と誤認混同を生じても、そのことを法律上の不利益として他人が商標法上争うことは許されない。
エ 被告は、株式会社キタムラ・ケイツウ(以下「訴外ケイツウ」という。)との間で平成元年3月1日付で締結された営業譲渡契約(以下「本件営業譲渡契約」という。)において、本件商標を「婦人靴、雨傘」について使用することを認めている。これは、本件商標を「婦人靴、雨傘」について使用した結果、出所の混同を生じることを許容したものであるから、本件商標の登録の無効の審判を請求できない。
被告は、被告のあずかり知らないところで、本件商標の使用許諾を誰にでも与えることができる状態にあることが問題であると主張する。しかし、被告と訴外ケイツウは、本件営業譲渡契約により、本件商標の使用権を第三者に譲渡し又は使用させないことを約束しており、原告らは、本件商標の使用権を第三者に設定・許諾することができないから、被告の主張は失当である。
(2) 取消事由2(商標法4条1項15号の判断の誤り)
ア 被告と、登録査定時に訴外康介が代表者であり、現在は原告和江が代表者である訴外ケイツウとは、本件営業譲渡契約の覚書に、「乙(訴外ケイツウ)は実体としては甲(被告)の一部であり、いわば分身である。」と記載されているとおり、例えば、暖簾分けされた兄弟会社のごとき関係にある。
そして、訴外康介は、訴外ケイツウの代表者であり、本件商標の商標登録出願当時は、訴外ケイツウは設立前であり、しかも、本件商標の出願人である訴外康介は、被告の取締役であった。
したがって、訴外康介は、商標法4条1項15号にいう「他人」に当たらない。
イ 審決は、商品間の関連性について、「近年のファッションは、被服のほかに靴、鞄等を同一の色彩、ブランド等で統一する傾向も見受けられ、いわゆるトータルルックを考慮したときには、上記の商品は、いずれも関連が深いといえるものである。」と認定判断した。しかし、この基準が用いられるのは、被告に多角経営の可能性があると判断されることが前提である。しかるに、被告は、かばん専門店であるから、本件においては、上記のような基準は用いられるべきではない。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因3は争う。
2 被告の主張
(1) 取消事由1について
ア 原告らは、「登録商標を無効とすべきか否かについては、該登録商標の登録査定時を基準として判断すべきものと解される。」及び「本件商標の商標権者と本件審判の請求人とが商標法第4条第1項第15号にいう他人の関係にあるか否かについての判断も、本件商標の登録査定時をもって行うべきものと解される。」との審決の認定判断が誤っている旨主張する。しかし、審決は、審判において被告と訴外ケイツウとの関係及び訴外康介と訴外ケイツウの関係が取りざたされているが、登録査定後の事情は、商標の登録の無効の是非を論じるに何ら考慮する必要がないということを述べているものである。
また、商標法4条1項15号の判断は、商標登録出願時をも考慮しなければならないとする商標法4条3項は例外規定であるから、「登録商標の登録査定時を基準として判断すべきもの」との審決の説示は、誤りではない。
イ 商標登録はそれに無効原因が存在すれば、出所混同を防止して商品の流通秩序を保つ観点から当然に無効とされるべきもので、無効審判の請求時に何らかの請求の利益を明らかにすれば足り、その程度の客観的理由があればよい。この観点からして、本件商標と全く同一の著名商標を有する被告について、出所の混同を生ずるおそれのある本件商標の登録の無効の請求人適格が認められるのは当然である。
ウ 原告らは、登録商標の正当使用の結果、他人の周知、著名商標と誤認混同を生じても、そのことを法律上の不利益として他人が商標法上争うことは許されないと主張するが、それは、商標の登録無効審判の制度趣旨を無視した主張である。
エ 原告らは、被告は、訴外ケイツウとの間の本件営業譲渡契約において、本件商標を「婦人靴、雨傘」について使用することを認めているから、本件商標の無効審判を請求できないと主張する。しかし、被告と訴外ケイツウとの関係は、本件商標の登録を無効とするか否かとは無関係である。
また、訴外康介が、訴外ケイツウの代表者であったことを勘案したとしても、営業譲渡時に商標の使用許諾を受けている訴外ケイツウの代表者が、その商標について自らの名前で商標登録を受けたこと自体が、使用許諾の範囲を逸脱した信義誠実の原則にもとる行為であり、そのように不正に取得された本件商標が存在することにより、被告のあずかり知らないところで、本件商標の使用許諾を誰にでも与えることができる状態にあることが問題である。この点からみても、被告は、利害関係を有しているものである。
(2) 取消事由2について
ア 原告らは、被告と訴外ケイツウは、本件営業譲渡契約の覚書に、「乙(訴外ケイツウ)は実体としては甲(被告)の一部であり、いわば分身である。」と記載されており、「他人」ではないと主張する。しかし、その覚書の内容は、被告が訴外ケイツウに対して営業譲渡する際に示した誠意として、訴外ケイツウが商標「ケイ」を使用できることを確認したものにすぎない。被告と訴外ケイツウは、営業的に何らの関係も持たないそれぞれ完全に独立した会社であって、別々の法人格をもった「他人」である。
また、訴外康介と訴外ケイツウも別人格であり、法的には何ら関係のない「他人」である。
イ 原告らは、「被服のほかに靴、鞄等を同一の色彩、ブランド等で統一する傾向も見受けられ、いわゆるトータルルックを考慮したときには、上記の商品は、いずれも関連が深いといえる」との基準が用いられるのは、被告に多角経営の可能性があると判断されることが前提であるのに、被告は、かばん専門店であるから、本件においては、上記のような基準は用いられるべきではないと主張する。しかし、営業活動は生きているものであり、営業方針はそのときの情勢に応じて刻々と変化するものである。そして、この商品間の関連性の問題は、被告に多角経営の可能性があるか否かということよりも、一般消費者や取引業者がどう考えるかということが重要である。この点、一般消費者や取引業者の間では、同一ブランドによるファッションのトータル化が常識的なものとして考えられており、トータルファッションによる関連性の強い商品間で同一の商標を用いれれば、一般消費者や取引業者が出所の混同を来すおそれがあることは必然である。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1、2の事実は、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。
第2 審決の取消事由について判断する。
1 取消事由1について
(1) 被告が引用商標に係る商標権を有していることは、当事者間に争いがなく、本件商標と引用商標が酷似することは明らかである。したがって、被告は、本件商標の存在によって、被告の業務に係る商品との混同による不利益を被る可能性があるから、本件商標の登録の無効の審判を請求する法律上の利益があるというべきである。
この点に関して、原告らは、出所の混同が生ずるか否かが利害関係の立証につながるとしても、「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」と「かばん類」との間において、審決時を基準として具体的な出所の混同が現実に生じており、それによって被告が不利益を被っていることが条件となると主張するが、そのような具体的な出所の混同が現実に生じていなければ商標の登録の無効の審判を請求する法律上の利益がないというものではないから、原告らの主張は採用できない。なお、本件商標の登録出願当時及び本件商標の登録査定時には、本件商標は被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であったことは、後記2の認定のとおりであるところ、その後特段の事情の変化の認められない本件においては、上記おそれは、審決時にも同様に存在したと推認されるものである。
(2) 原告らは、被告は、訴外ケイツウとの間の本件営業譲渡契約において、本件商標を「婦人靴、雨傘」について使用することを認めているから、本件商標の登録の無効の審判を請求できないと主張する。
ア そこで、検討するに、甲第4号証の1によれば、被告と訴外ケイツウは、平成元年3月1日、本件営業譲渡契約を締結したところ、上記契約は、<1>第1条として、被告は平成元年2月20日をもって、2丁目店のハンドバックの販売部門の営業を訴外ケイツウに譲渡すること、<2>第7条の1として、被告は商標「ケイ」及びこれに類似する商標を専有し、訴外ケイツウはこれを使用することができること、<3>同条の2として、被告と訴外ケイツウは、ハンドバック、カバン、小物類(小銭入、札入、名刺入、定期入等)、Tシャツ、その他現在使用している商品等につき、商標「ケイ」を各自使用するものとすること、<4>同条の3として、被告と訴外ケイツウは各自商標「ケイ」を有償・無償を問わず第三者に譲渡し又は使用させないこと等を取り決めた内容であったことが認められる。
イ 以上の事実によれば、本件営業譲渡契約によって被告から本件商標を「婦人靴、雨傘」について使用することを認められた者があるとしても、それは訴外ケイツウであって、原告らではないと解されるから、そのことにより、被告において、原告らが有している本件商標権に係る本件商標の登録の無効の審判の法律上の利益がなくなるものではない。また、原告らは、本件商標を単に使用するに止まらず登録商標に係る本件商標権を有しており、本件商標について第三者に使用権を許諾することもできるのであるから、訴外ケイツウが本件商標を使用できることを理由とする原告らの主張は、この点においても理由がない。
この点に関して、原告らは、被告と訴外ケイツウは、本件営業譲渡契約により、本件商標の使用権を第三者に譲渡し又は使用させないことを約束しており、原告らは、本件商標の使用権を第三者に設定・許諾することができないと主張する。しかし、前記アの認定に係る事実によれば、本件営業譲渡契約により、原告らが商標「ケイ」の使用権を第三者に譲渡し又は使用させないという義務を負っているとしても、それは債権的な義務にすぎないものであって、原告らがこれに違反して第三者に本件商標の使用権を許諾した場合には、被告は、その第三者に対して原告らの上記義務の存在を主張しその履行を求めることができないものと認められる。したがって、原告らが上記義務を負っているとしても、そのことによって、被告について、本件商標の登録の無効の審判を請求する法律上の利益がなくなるものではない。
審決時に、訴外ケイツウの代表者が原告和江であったとしても、そのことは、上記認定判断を左右するに足りるものではない。
(3) 原告らは、商標権者が指定商品又は指定役務について登録商標を使用した結果、他人の周知、著名商標と誤認混同を生じても、そのことを法律上の不利益として他人が商標法上争うことは許されないと主張するが、上記主張は独自の見解であって、商標法4条1項15号、46条1項の規定に照らし、到底採用することができない。
(4) また、原告らは、被告の利害関係の判断は審決時が基準となるのに、審決が、登録査定時の出願人である訴外康介と被告との利害関係を判断したことが誤りであると主張する。しかし、審決時においても、被告が本件商標の登録の無効の審判を請求する法律上の利益を有していることは前記(1)の認定のとおりであるから、原告らの主張は採用することができない。
2 取消事由2について
(1) 弁論の全趣旨によれば、被告は、引用商標と社会通念上同一と認定し得る商標をハンドバッグ等の鞄類に使用し、その商品は被告の業務に係るものとして、本件商標の登録出願当時には、既に取引者、需要者間に広く認識されていたことが認められる。そして、本件商標の登録出願当時には、被服のほかに靴、かばんその他の雑貨類が、同じ企業によって同一ブランドを付して販売されることも多く、これらの被服、靴、かばん等を同一ブランド等で統一して使用するいわゆるトータルルックの流行が既にあったことは当裁判所に顕著であるところ、上記事実を考慮すれば、引用商標が使用されているハンドバッグ等のかばん類と本件商標の指定商品「はき物(運動用特殊くつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」とは、関連の深いものというべきである。そうすると、本件商標は、引用商標と酷似するから、これをその指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、その商品が被告の業務に係る商品であるかのように認識し、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあったものといわなければならない。
また、上記認定の事実によれば、その後特段の事情の変更の認められない本件においては、本件商標の登録査定時にも、本件商標は被告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあったものと認められるものである。
(2) もっとも、原告らは、被告は、かばん専門店であるから、本件においては混同のおそれがあるとはいえない旨主張する。しかし、被告が、本件商標の登録出願当時及び登録査定時においてかばん専門店であったとしても、前記(1)の認定事実によれば、本件商標を付した指定商品に接する取引者、需要者は、その商品が被告の業務に係る商品であるかのように認識するものというべきであるから、原告らの主張は採用することができない。
(3) また、原告らは、被告と訴外ケイツウは、例えば、暖簾分けされた兄弟会社のごとき関係にあり、訴外康介は、訴外ケイツウの代表者であり、本件商標の商標登録出願当時は、訴外ケイツウは設立前であり、しかも、本件商標の出願人である訴外康介は、被告の取締役であったから、訴外康介は、商標法4条1項15号にいう「他人」に当たらないと主張する。
そこで、検討するに、甲第4号証の2によれば、被告と訴外ケイツウは、平成元年3月1日、本件営業譲渡契約書の7条の趣旨について、「乙(訴外ケイツウ)は実体としては甲(被告)の一部であり、いわば分身である。従って商標「ケイ」については乙において従来通り使用できるとした方が公平であり、かつ実体に即している。」等とした覚書を取り交わしたことを認めることができる。しかし、上記事実によっても、被告とは法人格が異なり、親子会社のような資本関係も認められない訴外ケイツウが、被告との関係で、商標法4条1項15号にいう「他人」に当たらないということはできない。したがって、訴外康介が、訴外ケイツウの代表者であって、本件商標の登録出願当時は、訴外ケイツウは設立前であったとしても、訴外康介が、被告との関係で、同号にいう「他人」に当たらないということはできない。また、訴外康介が被告の取締役であったとしても、そのことは、上記認定を左右するに足りない。したがって、原告の主張は採用することができない。
3 以上の次第で、本件商標の登録について、商標法4条1項15号に違反してされたものであるから、同法46条1項1号により無効とすべきであるとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張の違法はない。
第3 結論
よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日・平成10年8月13日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
理由
1.本件登録第2328366号商標(以下、「本件商標」という)は、別紙(1)に表示した構成からなり、昭和62年7月6日に登録出願、第22類「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」を指定商品として、平成3年8月30日に設定登録がなされ、現に有効に存続しているものである。
2.請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第14号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)利害関係について
<1>請求人は、別紙(2)に表示した構成からなり、昭和58年5月19日に登録出願、第21類「かばん類、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品として、昭和61年5月30日に設定登録がなされ、現に有効に存続している登録第1864172号商標(以下、「引用商標」という。)を所有している。
また、請求人は、横浜の元町商店街に本店をおく、かばん類、袋物等の製造販売を業としている会社である。また、被請求人の一人である北村和江氏が代表を務める株式会社キタムラ・ケイツウは、請求人から営業譲渡契約書を遵守することを条件にハンドバッグ関係のみ使用できる事を許可された会社である。
そして、請求人のかばん類、袋物等に使用している引用商標は長年の使用、企業努力によって全国的に著名となっているもので、同一または類似の商標がかばん類、袋物等とは非類似の商品ではあるが、通常同一の業種において取り扱われる商品である「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」に使用されたときには、出所の混同をきたすことは必然であり、請求人にとって本件商標の存否は重大な意義を有しているものである。
したがって、本件の審判請求に請求人適格があることに争いの余地はないと思料される。
<2>被請求人は、「本件商標の商標権者のうちの一人である北村和江氏が代表取締役となっている株式会社キタムラ・ケイツウと請求人とは同一企業グループの関係にあり、商標法第4条第1項第15号にいう『他人』に該当せず、この点で本件審判請求の要件をみたしていない。」旨主張している。しかしながら、請求人と株式会社キタムラ・ケイツウは全く関係のない会社であって、同じ元町商店街で利害のある競業関係にある。
すなわち、本件商標の原商標権者である北村康介氏は、その出願時点では請求人の取締役にあり、その登録時点では請求人から「K」の商標の使用許可を含む営業譲渡を受けて設立した株式会社キタムラ・ケイツウの代表取締役であった。そして、同人の死亡によって、本件商標の商標権者の一人である北村和江氏が、株式会社キタムラ・ケイツウの代表者となったということである。
しかし、本件商標の出願時点で、北村康介氏が請求人の取締役であったとしても、それはあくまでも同人が請求人のあずかり知らないところで個人的に出願したにすぎないものである。取締役の立場を利用していれば、本件商標は、当然請求人の名義になっていてしかるべきである。請求人は、最近になって、請求人がなした商標登録出願に対する拒絶理由通知の引用例のなかに本件商標が含まれていることによってその存在をはじめて知った次第である。
引用商標は、本件商標の出願より15年も前から使用されて需要者の間で周知著名となっている請求人のオリジナル商標であり、そのような「K」の標章を用いた出願が請求人以外の出願人によりなされて、それが登録されたこと自体に問題がある。
そして、請求人は、株式会社キタムラ・ケイツウの設立に際して、「かばん、ハンドバッグ」などの特定の商品に限って本件商標に類似する「K」の商標の使用許諾を与えたもので、株式会社キタムラ・ケイツウがその特定の商品以外の「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」に本件商標と同一または類似の商標を使用することはその使用許諾の範囲を逸脱しており、そのような本件商標の「はき物」等の商品への使用が同一グループ内での業務の一環であると認められるものではない。
なお、株式会社キタムラ・ケイツウが、使用許諾の範囲を逸脱して、「かばん、ハンドバッグ」などの特定の商品以外に「K」の商標を使用している事実が明白であり、又、請求人と株式会社キタムラ・ケイツウとの間でとりかわした営業譲渡契約書の定めにより、株式会社キタムラ・ケイツウの違背行為があり、平成5年6月17日付で請求人は株式会社キタムラ・ケイツウにKマークの使用する事を禁じた事を両者立ち合の元で決議した。その後その事が守られなかったので、現在裁判で係争中であることをここに申し添える。
このように、被請求人全員は、請求人である請求人からみて商標法第4条第1項第15号にいう「他人」に該当し、この点本件審判請求の要件を充足している。
(2)本件商標登録を無効とすべき理由
本件商標と同一の商標は、その商標登録の出願時点において、横浜市の元町商店街に本拠をおく請求人の業務に係る商品である「かばん類、袋物」に使用している商標であることが業界及び顧客の間で広く知れ渡っている。そして、その登録商標が、請求人の業務に係る商品とは直接関係ないが、しかし通常同一の業種において取り扱われる商品である「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」に使用されれば、請求人の業務に係る商品と混同をきたすおそれがあるものである。
実際、本件商標の商標権者は、請求人が「かばん類、袋物」に使用しているのと全く同じ商標またはそれに類似する商標を同一地域において「はき物、かさ」等に使用しており、需要者は出所の混同を生じている。
引用商標と同一の本件商標が、その商標登録の時点で、請求人の業務に係る商品に使用している商標であることが取引者、需要者の間で広く知れ渡っていることを、甲第1号証ないし同第3号証をもって立証する。
また、請求人を出願人としてなされた出願の商公昭60-58026の公報を甲第4号証として提出する。
(3)本件商標の出願時点及び登録時点で、「K」の標章が請求人の業務に係る商品である「かばん類、袋物」等に使用している商標であることが業界及び顧客の間で広く知れ渡っていることを立証するための証拠を、以下のように補足する。
<1> 使用の時期、地域について:
引用商標の使用開始時期は、本件商標の出願よりも15年ほど前の昭和47年であり、現在に至るまでその使用が継続して行われている。
請求人が、昭和47年から引用商標をかばん類、袋物等に使用していたことを、その販売当初から同社から委託されて製造している株式会社サンヴオーグの代表者の証言による甲第5号証をもって証明する。
請求人が引用商標を本件商標の出願時点及びその登録時点において継続して使用していたことを甲第6号証の1ないし5をもって証明する。
そして、当初から請求人のオリジナル商品である引用商標が付されたかばん類、袋物等が多量に販売され、それとともに店舗を横浜、東京、神戸、千葉、名古屋に拡張展開した(甲第6号証の1ないし5参照)。
甲第6号証の1には、昭和54年(1979年)4月発行の月刊誌JJにおいて、「ニュートラの名脇役新しい小物カタログ」として請求人のオリジナルのバッグが掲載されている。
甲第6号証の2には、昭和62年(1987年)6月発行の月刊誌JJにおいて、請求人のかばん類、袋物の広告が掲載されている。また、それには、請求人の店舗として、横浜元町本店、玉川店、神戸シラサ店が紹介されている。
甲第6号証の3には、平成3年(1991年)4月発行の月刊誌エフにおいて、請求人の’91春夏物のかばん類、袋物の広告が掲載されている。また、それには、請求人の店舗として、横浜元町本店、玉川店、神戸シラサ店に加えて、横浜そごう店、横浜プリンスホテル店、名古屋パルコ店が紹介されている。
甲第6号証の4には、平成3年(1991年)9月発行の月刊誌ル・クールにおいて、請求人の’91秋冬物のかばん類、袋物の広告が掲載されている。
甲第6号証の5には、平成4年(1992年)10月発行の月刊誌オッジにおいて、請求人の’92秋冬物のかばん類、袋物の広告が掲載されている。また、それには、請求人の店舗として、横浜元町本店、玉川店、神戸シラサ店、横浜そごう店、横浜プリンスホテル店、名古屋パルコ店に加えて、銀座三越店、新宿三越店、千葉そごう店が紹介されている。
<2> 販売量について:
請求人のオリジナル商品である引用商標が付されたかばん類、袋物等を下請メーカーである株式会社サンヴォーグに注文したときの昭和60年4月から昭和61年6月までの納品書の写しを甲第7号証として提出する。
それによれば、本件商標の出願時点である昭和62年7月には、既に毎月相当数の引用商標が付されたかばん類、袋物等が請求人に納入されていたことが理解できる。
また、請求人の商品であるかばん類、袋物等を下請メーカーである株式会社グランシアンに注文した1990年(平成2年)9月から1991年12月までの請求書の写しを甲第8号証として提出する。
それによれば、毎月多額の請求があり、本件商標の登録時点で、相当数のかばん類、袋物等が請求人に納入されていた。
請求人のオリジナル商品である「かばん類、袋物」等を販売するに際して使用する包装紙、手提袋などの包装用品を、パッケージメーカーである東京アートパッケージ株式会社に注文した1990年(平成2年)7月から1991年6月までの請求書の写しを甲第9号証として提出する。
その請求金額からして、毎月多数の包装用品が納入され、本件商標の登録時点で、相当数の包装用品が使用されていた。
<3> 広告宣伝活動について:
請求人は、主として全国誌に掲載した広告宣伝活動を頻繁に行い、カタログを全国的に配布して通信販売を行ってきた。
本件商標の出願時点である昭和62年7月までに、請求人のオリジナル商品である引用商標が付された「かばん類、袋物」等の広告宣伝が「女性自身」、「JJ」、「CanCan」などの各種週刊誌、月刊誌によって全国的に大々的に行われていたことを甲第6号証の1、2及び甲第10号証の1ないし9をもって証明する。
ここで、特筆すべきは、甲第10号証の1として挙げた1979年(昭和54年)10月4日号の「女性自身」には、「日本一のキャリアでバッグを作り続けている横浜元町の老舗であるキタムラのオリジナルバッグのファンがすっごく多いのです。」と紹介されており、本件商標の出願よりも8年も前に既にキタムラの引用商標の入ったオリジナルバッグが全国的に著名になっていることをうかがい知ることができる。
また、本件商標の出願時点である昭和62年(1987)7月からその登録時点である平成3年(1991年)8月までの間に、請求人のオリジナル商品である引用商標が付されたかばん類、袋物等の広告宣伝及びカタログの頒布が「JJ」、「CanCan」、「Hanako」、「キヤズ」、「CHEEK」、「with」、「Ray」、「ル・クール」、「オレンジページ」、「MINE」、「クロワッサン」、「ViVi」の各種月刊誌を媒介とし全国的に大々的に行われていたことを甲第6号証の3ないし5、及び甲第11号証の1ないし52によって証明する。
請求人のオリジナル商品である引用商標が付されたかばん類、袋物等の商品カタログの一例として、本件商標の登録時点における平成3年(1991年)7月発行のカタログVol.8を甲第12号証として提出する。
また、請求人のオリジナル商品である「K」マークの付されたかばん類、袋物等の広告宣伝を月刊誌with、CanCan、Ray、ケリー、ル・クールに掲載することを広告代理店である株式会社大月アドバタイジング・エージェンシーに注文した1990年(平成2年)6月から1991年6月までの納品書及び請求書の写しを甲第13号証として提出する。
さらに、甲第12号証に示すようなカタログの印刷を株式会社大月アドバタイジング・エージェンシーに注文した1990年5月から1991年2月までの納品書及び請求書の写しを甲第14号証として提出する。
このように、請求人のオリジナル商品である「K」マークの付されたかばん類、袋物等の広告宣伝、カタログの頒布および通信販売が全国的に大々的に行われていた。
したがって、本件商標登録は、商標法第4条第11項第15号により商標登録を受けることができないものであり、その商標登録は、同法第46条第1項第1号により無効にされるべきである。
3.被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、答弁を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第6号証(枝番を含む。)を提出している。
(1)利害関係について
<1>商標登録無効審判における利害関係に関し、過去の審決例・判決例を見ると、「ある商標の登録の存在することによって直接不利益を被る関係ある者」(乙第3号証)、「本件商標が存在することによって請求人として現実に法律上何等かの不利益を被る事情が存すること」(乙第4号証)との判断がなされている。
<2>してみると、請求人は、弁駁書において、「甲第4号証で示したように、本件商標と全く同一の標章について「かばん類、袋物」等を指定商品とした登録第1864172号(昭和61年5月30日)を所有している。」旨述べているが、その指定商品は請求人も認めるように本件商標の指定商品と非類似であり、本件商標は、請求人の所有する登録商標との間で過誤による二重登録等の関係には一切ないことから、このような主張は利害関係の立証において全く無意味である。
<3>また、請求人は、「請求人の『かばん類、袋物』等に使用している引用商標は長年の使用、企業努力によって全国的に著名となっているもので、同一又は類似の商標が、『かばん類、袋物』等とは非類似の商品であるが、通常同一の業種において取り扱われる商品である『はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品』に使用されたときには、出所の混同をきたすことは必然であり、請求人にとって本件商標の存否は重要な意義を有しているものである。」旨主張している。
その主張内容の是非はともかくとして、仮に請求人の「かばん類、袋物」等に使用している引用商標と本件商標との間で具体的出所の混同が生ずるとしても、それは本件商標を「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」に使用することが理由であり、登録の有無とは直接の関係がないので、本件商標について商標登録が存在することによって直接不利益を被るものではない。
したがって、請求人の主張は、登録無効審判における利害関係を「ある商標の登録が存在することによって直接不利益を被る関係にある」とする過去の審決例・判決例に明らかに反する。
また、利害関係を有するとするためには、「本件商標が存在することによって請求人として『現実』に法律上何等かの不利益を被る事情が存すること」が必要であることから、もし出所の混同が生ずるか否かが利害関係の有無の立証に繋がるとしても、「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」と「かばん類、袋物」との間で具体的な出所の混同が生ずることによって現実に不利益を被っていることが条件となる。
しかしながら、請求人は、被請求人が本件商標を「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」について現実に使用し」更にその使用によって現実に請求人の「かばん類、袋物」等に使用している引用商標との間で出所の混同が生じていることに関し、一切立証していない。
それどころか、「『はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品』に使用されたときには、」と述べていることから、請求人の主張は、出所の混同が生ずることを仮定しているにすぎないと理解できるので、請求人は本件商標の存在によって現実には何等の不利益も被っていないとすら考えられる。
従って、請求人の主張は、登録無効審判における利害関係を「本件商標が存在することによって請求人として現実に法律上何等かの不利益を被る事情が存すること」とする過去の審決例・判決例にも明らかに反する。
<4>その一方で、請求人は、被請求人が提出した履歴事項全部証明書(乙第2号証の1)の目的に示される様に、「ハンドバッグ並に各種雑貨の販売、上記に付帯する一切の業務」のみをその業務とするものであり、「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」の販売等をその業務としていないので、請求人が「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」について引用商標を使用する意思を明らかに欠いているとするのが相当である。
これに関しては、網野誠著 商標〔第3版〕第832頁(乙第5号証)において、「従って、たとえば使用の意思がないことが明らかな場合においては、特に審判請求の利益が証明されない限り無効審判の請求が認められないこともあり得よう。」との記載があるので、請求人に「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」について使用意思のないことは利害関係の有無の判断に際し大いに参酌すべきであるといえる。
<5>しかるに、利害関係の意義から考えて、請求人の主張する登録商標間での出所の混同が利害関係として認められるべきではなく、仮に認められたとしても「直接」「現実」といった条件を満たしていないため、請求人は、本件審判請求に関し利害関係人の地位にはないので、請求人適格を有していないとするのが相当である。
<6>本件商標の商標権者のうち、「北村和江」は、「株式会社キタムラ・ケイツウ」の代表取締役社長を勤めている(乙第1号証の1及び2参照)。そして、この株式会社キタムラ・ケイツウの初代の代表取締役は、北村康介」で、請求人の代表者の「北村宏」とは兄弟であるが、請求人の取締役であったのを(乙第2号証の1及び2参照)、独立して「株式会社キタムラ・ケイツウ」を平成元年2月1日に起こしたという経緯がある。しかも、独立の際に、請求人から「K」の文字の使用の許可を含む営業譲渡を受けたものである。そして、この「北村康介」が亡くなったので妻の「北村和江」が会社の代表者となり、現在に至ったという経緯がある。
してみると、少なくとも本件商標の出願時点においては、出願人であった「北村康介」は、「請求人」の取締役にあり、また、登録査定の時点でも、「北村康介」が代表取締役を努める株式会社キタムラ・ケイツウは、請求人とは同一企業グループの関係にあったので、商標法第4条第1項第15号に該当するか否かを争うこと自体、その商標法第4条第1項第15号の規定の趣旨を考えれば失当である。
(2)請求人は、「請求人と株式会社キタムラ・ケイツウは全く関係のない会社であって、同じ元町商店街で利害のある競業関係にある。」と述べている。
しかしながら、「請求人は、株式会社キタムラ・ケイツウの設立に際して、かばん、ハンドバッグなどの特定の商品に限って本件商標に類似する『K』の商標の使用許諾を与えた。」とし、被請求人が答弁書で主張した「『K』の商標の使用を含む営業の譲渡を受けている」ことを事実上認めている。
このことから、株式会社キタムラ・ケイツウの株式会社キタムラとの関係は、例えば暖簾分けされた兄弟会社の如き関係にあるとする方が客観的に見て自然であり、請求人の「全く関係のない」との主張は請求人の独善的な見方でしかなく、強弁にすぎないものである。
そして、請求人は、「営業譲渡契約書の定めにより請求人により、株式会社キタムラ・ケイツウの違背行為があり、平成5年6月17日付けで株式会社キタムラ・ケイツウにKマークの使用することを禁じた事を両者立会いの元で決議した。その後その事が守られなかったので、現在裁判で係争中であることをここに申し添える。」と述べている。
この判決が確定するまでは当然に請求人から株式会社キタムラ・ケイツウに対する「K」の商標の使用を含む営業譲渡契約は、現在においても十分に有効であるとするのが相当であり、少なくとも平成5年6月17日以前、すなわち本件商標の出願時においては、営業譲渡契約は完全に有効であることに問題はない。
その一方で、商標法第4条第1項第15号の出所の混同を生ずるおそれがある場合には、商標審査基準によれば、「或る事業者甲が自己の業務に係る商品Gに商標(M)を使用し、これが全国的に周知になっている場合において、他の事業者乙が自己の業務に係る商品Xに商標(M)を使用したときに、その商品Xに接する需要者が、たとえ、甲の業務に係る商品であると認識しなくても、商品Xが甲の子会社等の関係にある甲’の業務に係る商品であると誤認し、商品の出所の混同について混同する場合」が挙げられるとしている(乙第6号証)。
してみると、反対から考えれば、株式会社キタムラ・ケイツウの登録商標に係る指定商品が使用された結果、請求人と関係のある会社が製造販売している商品であると認識しても、実際に株式会社キタムラ・ケイツウは上記の如く株式会社キタムラとは兄弟会社と認められる関係に現在あり、または少なくとも本件商標の出願時には請求人とは兄弟会社と認められる関係にあったため、それは誤認ではないので、需要者、取引者に何らの不利益も与えず、商取引の秩序も損なわない。
よって、請求人と株式会社キタムラ・ケイツウの代表者等である北村和江等との間で、商標法第4条第1項第15号を適用することは、商標法第4条第1項第15号の規定の趣旨から考えて妥当性を欠くものである。
(3)請求人が提出する甲各号証により「カバン類、袋物」について、引用商標が周知商標であることは、立証することができるかもしれない。
しかしながら、これらの証拠では、「かばん類、袋物」と非類似商品である本願商標の指定商品「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」との関係で、具体的な出所の混同が生ずる虞れがある著名商標であることまでは、立証するに足らないとするのが相当である。
すなわち、具体的出所の混同を生ずるか否かの判断にあたっては、特に「商品の間の関連性」が問題となるが、「かばん類、袋物」と「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」との間では、その生産者は勿論のこと、販売者も従来から「かばん屋」と「靴屋」等というように別の業種として区別されているので共通性を有するとは認められない。この点で、「かばん類、袋物」と「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」と通常同一の業種であるとする請求人の主張は失当であると考える。
また、「かばん類、袋物」と「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」との間の取り扱いの系統、その材料、用途等も明らかに関連性、共通性を有していない。このため、「かばん類、袋物」と「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」との間では、商品間の関連性を有するとは認められない。
また、「かばん類、袋物」についてのみ長年使用してきたことを立証することは、逆に請求人といえば「かばん類、袋物」の専門店であると需要者、取引者から認識されるということ、及び現在において多角経営を行っていないばかりか、将来においても多角経営の可能性はないということを立証するものでもある。実際に、請求人も、「請求人は、(中略)かばん類、袋物等の製造、販売を業としている会社です。」とその専門店性を認めていると共に、その履歴事項全部証明書の目的も狭い範囲に限られている。
してみると、請求人は、「かばん類、袋物」の専門店であると需要者、取引者から認識されるもので、且つ多角経営を行う可能性はないものであり、「かばん類、袋物」と「はき物(運動用特殊ぐつを除く)、かさ、つえ、これらの部品及び付属品」との間では、非類似商品であることは勿論のこと、商品間の関連性、共通性もないので、本願商標と請求人の商標との間ではそもそもにおいて具体的な出所の混同が生ずる余地はないとするのが妥当である。
5.よって、当事者間に本件審判請求についての利害関係に関する争いがあるので、先ずこの点について判断する。
登録商標を無効とすべきか否かについては、該登録商標の登録査定時を基準として判断すべきものと解される。
そして、本件商標の商標権者と本件審判の請求人とが商標法第4条第1項第15号にいう他人の関係にあるか否かについての判断も、本件商標の登録査定時をもって行うべきものと解される。
被請求人の提出に係る乙第2号証によれば、請求人の代表取締役と本件商標の登録査定時における商標登録出願人「北村康介」(故人)は、兄弟であったことが認められる。
しかしながら、両者がたとえ兄弟であったとしても、それは、あくまで請求人会社の代表取締役と本件商標の登録査定時における商標登録出願人「北村康介」との関係であって、請求人会社と査定時の商標登録出願人とは、人格を異にするのみならず、経済的、組織的に関係を有する点について何ら立証されていないものである。
なお、請求人と被請求人との関係についても同様のことがいえる。
さらに、請求人と本件商標の通常使用権者との関係についても、商標法上の通常使用権は、設定された商標権について許諾されるものであって、商標の登録自体の可否について争われる商標登録無効審判とは、直接関係のないものであるから、両者の関係いかんが本件審判請求の判断に影響を及ぼすものではない。
しかして、請求人は、「本件商標は、請求人が『かばん類、袋物』に使用して、登録出願時において著名となっている商標と同一である。本件商標を『はき物等』に使用するときは、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある。」旨主張している。
してみれば、上記のとおり請求人と本件商標の登録査定時における商標登録出願人「北村康介」、被請求人及び本件商標の通常使用権者とは、いずれも他人であって、経済的、組織的に何らかの関係を有する者とも認められない。そして、請求人は、本件商標の登録を排除することによって、他人の業務に係る商品との出所の混同を取り除くことを目的として本件審判を請求しているものといえるから、利害関係を有する者といわなければならない。
次に本案に入って、本件商標が、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものか否かについて検討する。
本件商標と引用商標は、別紙(1)及び(2)に表示したとおり、共に若干レタリングされた「K」の文字を破線及び三重の実線からなる楕円形で囲んだ構成からなるところ、外観が酷似しているといえるものであるから、外観上類似するものといわなければならない。
請求人が提出した甲各号証によれば、引用商標と社会通念上同一と認定し得る商標がハンドバッグ等の鞄類に使用され、該商品が請求人の業務に係るものとして、本件商標の登録出願の日前に取引者、需要者間に広く認識されていることが認められる。この点については、当事者間に争いがない。
そこで、引用商標が使用されている商品「かばん類、袋物」と本件商標の指定商品「はき物(運動用特殊ぐつを除く)かさ、つえ、これらの部品及び附属品」との関係について検討するに、近年のファッションは、被服のほかに靴、鞄等を同一の色彩、ブランド等で統一する傾向も見受けられ、いわゆるトータルルックを考慮したときには、上記の商品は、いずれも関連が深いといえるものである。
したがって、「かばん類、袋物」について、広く認識されている引用商標と酷似の本件商標をその指定商品について使用するときは、これに接する取引者、需要者は、該商品が請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、認識するものと判断するのが相当であり、請求人と登録査定時の出願人とは、上記のとおり何らかの関係を有する者とは認められないものであるから、結局、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
してみれば、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。
別紙
<省略>