東京高等裁判所 平成10年(行ケ)93号 判決 1999年6月16日
名古屋市千種区猫洞通4丁目13番地
原告
津田荘太郎
訴訟代理人弁理士
幸田全弘
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
小池正利
同
田中弘満
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成9年異議第72251号事件について、平成10年2月4日にした特許異議の申立てについての決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成2年1月16日、名称を「ロール状突板の製造方法」とする発明(以下「本件発明」という。)につき特許出願をし(特願平2-6627号)、平成8年9月5日に設定登録を受けた(特許第2559151号)。
株式会社オムニツダは、平成9年5月9日、上記特許につき特許異議の申立てをした。
特許庁は、同申立てを平成9年異議第72251号事件として審理したうえ、平成10年2月4日に「特許第2559151号の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年3月2日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨
A.木材の切削によって得た板厚のきわめて薄い所定の長さと幅を有する突板の両端の小口部にフィンガージョイント加工を施し、
B.各突板のフィンガージョイント加工部を順次噛み合わせ、この噛み合わせ部の表面に幅狭の仮止めテープを接着剤で貼着しながら巻き取ってロール体とし、
C.このロール体を仮止めテープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した突板の裏面に接着剤を塗布すると共に、突板と同幅の繊維質シートを重ねながら一対のロール間に通して加圧接合処理して突板と繊維質シートを一体的に積層したのち、
D.繊維質シートを裏打ちした突板の表面を研削処理することによって仮止めテープを除去し、かつ突板の表面を均一な厚さに調整し、
E.研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする
ことを特徴とするロール状突板の製造方法。
(注 事項ごとの項分けは、発明の内容を理解しやすくするために本件決定がしたものである。)
3 本件決定の理由の要点
本件決定は、別添決定書写し記載のとおり、本件発明が、特開昭62-122704号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法113条2号に該当するので、取り消すべきものであるとしな。
第3 原告主張の本件決定取消事由の要点
本件決定の理由中、本件発明の要旨の認定、引用例記載事項の認定のうち、下記の点を除くその余の部分の認定、本件発明と引用例発明との相違点1~4の各認定は認める。引用例記載事項の認定のうち「単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布する」(決定書8頁17行)ことが記載されているとの点、その点についての本件発明と引用例発明との一致点の認定及び相違点1~4についての判断は争う。
本件決定は、引用例記載事項のうち上記の点を誤認して、本件発明と引用例発明との一致点の認定及び相違点2についての判断を誤り(取消事由1)、さらに、相違点1、3、4についての判断を誤った(取消事由2~4)結果、本件発明が引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点2についての判断の誤り)
(1) 一致点の認定の誤り
本件決定は、引用例に「単板1の接続部の表面に幅狭のテープを貼って単板1の連続シート2を作り、これを巻き取ってロール体とし・・・このロール体を上記テープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布すると共に、単板1と同幅の接着剤を含浸させた長尺物の不織布からなる補強シート3を重ねながら、・・・加圧接合処理して単板の連続シート2と補強シート3を一体的に積層」(決定書8頁12行~9頁2行)することが記載されていると認定したうえ、この認定に基づいて、本件発明と引用例発明とが「各突板の・・・噛み合わせ部の表面に幅狭の仮止めテープを貼着しながら巻き取ってロール体とし・・・このロール体を仮止めテープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した突板の裏面に接着剤を塗布すると共に、突板と同幅の繊維質シートを重ねながらロール間に通して加圧接合処理して突板と繊維質シートを一体的に積層」(同10頁12~19行)する点において一致する旨認定した。
しかしながら、引用例に、「単板・・・の連続シートの裏面に補強シートを貼着し、」(甲第4号証特許請求の範囲請求項1項)、「ジョイン強度を上げるために単板1の接続部の裏面あるいは表面にはテープ(図示せず)が貼られる・・・連続的に供給される長尺物の補強シート3の表面にロールコータ7で接着剤が塗布されてヒータ8で加熱され、この下に単板1の連続シート2が置かれ、ロールプレス5で熱圧し連続的に連続シート2の裏面に補強シート3を貼着して行き、」(同2頁右上欄7~16行)との各記載があるとおり、引用例発明は、単板(注、本件発明の「突板」に相当する。)の連続シートの裏面に補強シート(注、本件発明の「繊維質シート」に相当する。)を貼着するものであり、また、単板の連続シートと補強シートとを接合するための手段(技術思想)として、補強シートに接着剤を塗布するものとしているのである。
しかるところ、引用例には、実施例に関して「単板・・・を連続的に接続し、裏面に補強チップを貼って連続シートを作り、これをロール状に巻き取った。・・・不織布(注、「補強シート」のことであり、本件発明の「繊維質シート」に相当する。)にビニル系接着剤を・・・含浸させ乾燥させてロール状に巻き取った。上記連続シートの表面にロールコータにより上記と同じ接着剤を・・・塗布し、ヒータにより半乾燥させた後、ホットプレスロール・・・にて圧縮し、連続シートと不織布とを連続的に積層させた。」(同頁右下欄7~16行)との記載があり、実施例において、単板の連続シートの表面にビニル系接着剤を塗布することが示されているが、連続シートの裏面に接着剤を塗布する旨の記載又は示唆は全くない。
被告は、引用例の上記実施例の記載に関し、単板の連続シートと補強シートとを接着剤によって接着させるためには、接着剤を連続シートと補強シートとの間に介在させなければならないとしたうえで、「上記連続シートの表面に・・・接着剤を・・・塗布し」とは、補強シートに対面する連続シートの面、すなわち連続シートの裏面に接着剤を塗布することに他ならず、上記「連続シートの表面」の「表面」の語は、裏面を含んだ広い意味で用いられているか、あるいは端的に「裏面」の誤記であると主張する。しかし、引用例の上記実施例の記載上、連続シートの補強チップを貼った面が「裏面」とされているのであるから、「連続シートの表面」とは、この「裏面」に対する表面と解する以外にない。また、上記記載には、連続シートと補強シートとを接着剤によって接着させるために「連続シートの表面」に接着剤を塗布したとの記載はなく、接着剤を塗布した「連続シートの表面」に補強シートが積層された旨の記載もない。引用例発明が連続シートの裏面に補強シートを貼着するものであることは上記のとおりである。そして、上記実施例においては、不織布(補強シート)に接着剤を含浸させてあるので、補強シートを連続シートの裏面(接着剤を塗布した面の反対側の面)に貼着することも不可能ではない。そうした場合、被告の主張するとおり、連続シートに塗布された接着剤は、連続シートと補強シートとを接着するのに何ら寄与しないことになるが、引用例の記載からは、以上に述べた以外の逸脱した解釈が生じる余地はないのである。被告の上記主張は、引用例に記載された範囲を逸脱した勝手な解釈に基づくものであり、その誤りであることは明白である。
したがって、引用例に「単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布する」ことが記載されているとの本件決定の認定は誤りであるから、前示一致点の認定のうち、本件発明と引用例発明とが「突板の裏面に接着剤を塗布する」点において一致する旨の認定部分も誤りである。
(2) 相違点2についての判断の誤り
本件決定は、本件発明と引用例発明との相違点2、すなわち「突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明(注、本件発明)では突板の裏面にのみ接着剤を塗布すると共に、突板と繊維質シートを重ねながら一対のロール間に通して加圧接合しているのに対して、刊行物1に記載された発明(注、引用例発明)では、突板の裏面に接着剤を塗布すると共に繊維質シートにも接着剤を含浸させ、突板と繊維質シートを重ねながら対となる3段ロール間に通して加圧接合している点」(決定書11頁16行~12頁4行)につき、「刊行物1に記載された発明のように突板の裏面に接着剤を塗布すると共に繊維質シートにも接着剤を含浸させているのは、本件特許発明のように突板の裏面にのみ接着剤を塗布するものに較べて突板と繊維質シートとの接着をより確実にするためであると考えられる。突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、突板と繊維質シートとの接着の確実性と接着方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、本件特許発明のようにした点に格別の困難性は見当たらない。また、加圧用のロールを本件特許発明のように一対とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように対となる3段とするかも必要に応じて適宜選択すればよい事項にすぎない。」(同13頁15行~14頁12行)と判断したが、これも誤りである。
すなわち、本件発明は、突板のみに接着剤を塗布するという極めて簡単な手段で突板と繊維質シートを強固に接合接着することができるものである。これに対し、引用例発明は、上記のとおり、単板の連続シートと補強シートとを接合するための手段(技術思想)として、基本的に補強シートに接着剤を塗布するものとしているので、連続シートと補強シートとの接合接着が不十分となりやすいために、必要に応じ、実施例に記載されたように連続シートにも接着剤を塗布することとしているものと解すべきであり、引用例に、引用例発明が「突板の裏面にのみ接着剤を塗布するものに較べて突板と繊維質シートとの接着をより確実にする」との記載や示唆がない以上、本件決定の該認定は誤りといわざるを得ない。
また、本件決定は、突板にのみ接着剤を塗布して繊維質シートを接合することが、少なくとも慣用手段であることを具体的に開示しておらず、そうであれば、「突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、突板と繊維質シートとの接着の確実性と接着方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項」にすぎないとの判断は、引用例発明の内容を不当に拡大して解釈するものである。
さらに、引用例発明は、補強シートに接着剤を塗布するものであるために、加圧ロールを3対必要とし、このような方法でなければ、単板の連続シートと補強シートとの確実な接合ができないものと解すべきあるから、本件決定の「加圧用のロールを本件特許発明のように一対とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように対となる3段とするかも必要に応じて適宜選択すればよい事項にすぎない。」との判断も、恣意的であって誤りといわざるを得ない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
本件決定は、本件発明と引用例発明との相違点1、すなわち「各突板を接続するに当たって、本件特許発明では、各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部の表面に仮止めテープを接着剤で貼着しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部を接着剤で接続し、噛み合わせ部の表面に仮止めテープを貼着している点。」(決定書11頁8~14行)につき、「刊行物1に記載された発明のように各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部を接着剤で接続し、噛み合わせ部の表面に仮止めテープを貼着するのは、本件特許発明のように噛み合わせ部の表面に仮止めテープを接着剤で貼着するだけのものに較べて各突板の接続をより確実にするためであると考えられる。各突板を接続するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、各突板の接続の確実性と接続方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、本件特許発明のようにした点に格別の困難性は見当たらない。」(同13頁2~14行)と判断したが、それは誤りである。
すなわち、本件発明における仮止めテープは、最終的に除去することを予定しているために、簡単に、しかも美麗に除去できるよう、接着剤の塗布量を少なく抑え、少なくともフィンガージョイントの噛み合わせ部を覆い、かつ、有効な接着面積を確保し得る範囲内において極力幅狭のテープを使用するものである。これに対し、引用例の開示内容は、接着剤によってジョイント精度を上げたうえ、さらにテープを粘着してジョイント強度を上げるというものであって、単板の接続に2工程を要し、テープによる粘着のみによって接続することはあり得ないことが明記されている。そして、引用例発明のジョイント部は、接着剤と接着剤を塗布したテープとによって結合度が高く、テープ自体が単板に強固に接着されていて、その除去が困難であることが明らかである。それ故、引用例発明は、テープの貼着面を、補強シートの貼着面である単板の裏面とすることを原則とし、単板の連続シートと補強シートとの間にテープを埋没させて、表面から見えないようにするものであり、例外的に、単板の表面に貼った場合にのみ、サンディング加工の段階において強制的に除去されるものであって、テープの除去が必須の要件とはされていないと解すべきである。
このように、本件発明と引用例発明とでは、テープの果たす役割は根本的に相違しており、かつ、引用例に、接着剤を使用せず、テープのみでジョイント部を仮止めして単板を長尺に接続する手段について何らの記載も示唆も存在しない以上、引用例に基づいて、仮止めテープのみで突板を接続する本件発明の構成を予測することはできず、本件決定の上記判断は極めて恣意的な解釈を含むものであって誤りである。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)
本件決定は、本件発明と引用例発明との相違点3、すなわち「突板の表面を研削処理してその表面を調整するに当たって、本件特許発明では、突板の表面を均一な厚さに調整しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、突板の表面を平滑化しているが均一な厚さに調整しているか否か明らかでない点」(決定書12頁6~11行)につき、「本件特許発明や刊行物1に記載された発明によって製造される突板は、主として家具や建具の表面に貼着されるものであることから、その厚さを均一にすることが当然求められており、本件特許発明において、突板の表面を研削処理してその表面を均一な厚さに調整する点に格別の困難性はない。また、刊行物1に記載された発明においても、樹脂コーティングされた最終製品としての突板の樹脂コーティング層の厚さを均一にすると共に全体の厚さを均一にするために、突板の表面を研削処理してその表面を平滑化すると同時に均一な厚さに調整していると考えられる。」(同14頁13行~15頁5行)と判断したが誤りである。
そもそも、複合突板の製造に当たり、厚みが一定の突板や繊維質シートを使用し、接合の際の接着剤の塗布厚さを一定とすれば、得られた製品についてサンディングによって厚さを一定に調整することは、基本的に不要であることは技術的な常識であって、効率的な複合突板の製造をするためには、サンディング工程は必須の工程ではない。本件発明においては、厚さの調整とともに、仮止めテープの除去の目的で研削処理を行うものであり、その工程は、上記の突板を長尺に接続するための仮止めテープの貼着と技術的に密接な関連を有するものである。これに対し、引用例発明においては、上記のとおり、原則的にテープの除去が不要であり、木地サンディングは、その後に行う樹脂塗装のため、アンカー効果によって樹脂を確実に定着させるべく、連続シートの表面に粗面を連続的に形成することを目的とするものであって、この段階で平滑性や厚みの均一性を実現しても、樹脂塗装後の表面の平滑性や塗装感に繋がるものではなく、むしろ無駄な作業である。例外的に、仮止めテープ(補強チップ)が単板の表面に貼着されたときにその研磨除去を行うことになるが、その場合であっても、表面を毛羽立たせて連続した粗面を形成するためにラフな研磨を行うにすぎない。
このように、本件発明と引用例発明とでは、研削処理の目的において大きな相違があり、そのために、使用するサンドペーパーの番手やサンディング回数においても相違が生じることは常識である。
したがって、これらの観点を欠いた本件決定の上記判断は誤りといわざるを得ない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)
本件決定は、本件発明と引用例発明との相違点4、すなわち「本件特許発明は、研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程を最終工程とする発明であるのに対して、刊行物1に記載された発明は、上記工程の後さらに樹脂塗布工程、サンディング工程を経て突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程を含む発明である点」(決定書12頁13~19行)について、「ロール状突板の製造方法における最終工程を、本件特許発明のように研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように上記工程の後さらに樹脂塗布工程、サンディング工程を経て突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程とするかは、最終製品として研削処理されただけのものを必要とするか、或いは、さらにその上に樹脂コーティングされたものを必要とするかに応じて決まることにすぎず、最終工程を本件特許発明のようにすることは当業者が容易に想到し得る事項である。」(同15頁6~18行)と判断したが誤りである。
すなわち、引用例発明は、「複数枚の単板を一列に接続して単板の連続シートを形成した後、この連続シートの裏面に補強シートを粘着し、この連続シートの表面を連続的にサンディング処理すると共に連続シートの表面に樹脂をコーティングする」(甲第4号証特許請求の範囲1項)という4つの構成要件を有機的に結合させ、経時的に処理することによって、初めて目的とする「下塗り加工を施したラッピング用の複合単板」(同1頁左下欄末行~右下欄1行)を得ることができるものであり、引用例の背景技術の記載から判断する限り、その「複合単板」とは、「表面をサンディング処理し、樹脂をコーティングしたもの」以外には存在しないことが窺知でき、別の観点が入り得る余地はない。
そもそも、引用例発明のような特定の物を製造するための方法の発明においては、各工程はそれぞれ互いに有機的に結合しているもので、この有機的結合から、勝手な解釈によって必要な部分のみを取り出すことは、発明そのものの成立を根本的に否定するものであって、発明の進歩性の判断に際し行ってはならない手法である。
第4 被告の反論の要点
本件決定の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点2についての判断の誤り)について
(1) 一致点の認定の誤りについて
原告は、本件決定の引用例記載事項の認定中、引用例に「単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布する」ことが記載されているとの認定が誤りであると主張する。
しかしながら、単板の連続シートと補強シート(不織布)とを接着剤によって接着させるためには、接着剤を連続シートと補強シートとの間に介在させなければならないことは、極めて当たり前の事項である。このことを踏まえて、引用例の「単板・・・を連続的に接続し、裏面に補強チップを貼って連続シートを作り、これをロール状に巻き取った。・・・不織布にビニル系接着剤を・・・含浸させ乾燥させてロール状に巻き取った。上記連続シートの表面にロールコータにより上記と同じ接着剤を・・・塗布し、ヒータにより半乾燥させた後、ホットプレスロール・・・にて圧縮し、連続シートと不織布とを連続的に積層させた。」(甲第4号証2頁右下欄7~16行)との記載及び図面第1図(c)の記載を検討するに、「連続シートの表面に・・・接着剤を・・・塗布」するとは、単板の連幾シートと補強シートとを接着剤によって接着させるために塗布するのであるから、補強シートに対面する連続シートの面、すなわち第1図(c)における連続シート2の上方の面(裏面)に接着剤を塗布することに他ならない。仮に、引用例の「連続シートの表面」との記載を、連続シートの裏面に対する表面(第1図(c)における連続シート2の下方の面)と解するとすれば、連続シートの接着剤が塗布される面が補強シートと対面せず、連続シートに塗布された接着剤は、連続シートと補強シートとを接着するのに何ら寄与しないだけでなく、連続シートと補強シートとをロール間に通して加圧接合処理する際に連続シートの下方の表面に塗布された接着剤がロール表面に粘着して円滑な加圧接合処理が妨げられるおそれがある。そうすると、上記「連続シートの表面」の「表面」の語は、裏面を含んだ広い意味で用いられているか、あるいは端的に「裏面」の誤記であると解するのが相当である。
したがって、本件決定が、引用例に「単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布する」ことが記載されているとした認定に誤りはなく、この認定に基づいて、本件発明と引用例発明とが「突板の裏面に接着剤を塗布する」点において一致すると認定したことにも誤りはない。
(2) 相違点2についての判断の誤りについて
原告は、本件決定の相違点2についての判断が誤りである旨縷々主張するが、本件発明のように突板の裏面にのみ接着剤を塗布する場合には、突板と繊維質シートとの均一、かつ、確実な接着を得るためにはロールの加圧力や送り速度等を適宜調節して突板に塗布された接着剤が繊維質シートに満遍なく十分に滲み渡るようにする必要があるのに対して、引用例発明のように、単板の連続シートの裏面に接着剤を塗布するだけでなく、予め補強シートに接着剤を含浸させておく場合には、補強シートには初めから接着剤が満遍なく十分に滲み渡っていることになるから、本件発明と比較すると、工程数は増すものの、接着だけに限れば、より迅速で確実な接着が可能となることは明白である。そうすると、突板と繊維質シートとを接着するに当たって、本件発明と引用例発明のいずれを採用するかは、作業能率、接着の確実性、接着方法の簡便性等を勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、単板の連続シート(突板)の裏面に接着剤を塗布するだけでなく、予め補強シート(繊維質シート)に接着剤を含浸させておく引用例発明に基づいて、本件発明のように突板の裏面にのみ接着剤を塗布するようにすることに格別の困難性がないことは明らかである。
さらに、加圧ロールについては、ロールの段数だけでなく、その径の大きさや材質等も含め、どのような加圧ロールを使用するかは、突板及び繊維質シートの形状(幅、厚さ)や材質、用いられる接着剤の種類、ロールに許容される加圧力等を勘案して適宜決めればよい単なる設計的事項にすぎない。引用例発明において、繊維質シートに接着剤を塗布するからといって、加圧ロールが3対でなければならないというものではなく、必要に応じて1対、2対、4対等にもなし得るものであり、また、このことは本件発明においても同様である。したがって、本件発明において加圧ロールを一対とした点に格別の困難性がないことも明白である。
したがって、本件決定の引用例2についての判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
原告は、本件決定の相違点1についての判断に対し、本件発明における仮止めテープは、最終的に除去することを予定しているのに対し、引用例発明のテープが強固に接着されていて、その除去が困難であるとしたうえで、本件発明と引用例発明とで、テープの果たす役割が根本的に相違している旨主張する。
しかしながら、引用例には、「通常、ジョイン強度を上げるために単板1の接続部の裏面あるいは表面にはテープ(図示せず)が貼られるが、表面に貼った場合にはサンディング加工の段階で研磨除去される。」(甲第4号証2頁右上欄7~11行、なお「ジョイン強度」は「ジョイント強度」の誤記である。)との記載があり、単板の接続部の表面にテープを貼着し、当該テープをサンディング加工の段階で研磨除去する発明が記載されていることが明白であって、このテープは、除去を前提として単板のジョイント部に設けられるものであるから、原告が主張する本件発明の仮止めテープと同様の役割を果たし、同様の作用効果を奏することが明らかである。また、原告は、引用例発明が、テープの貼着面を、補強シートの貼着面である単板の裏面とすることを原則とし、テープの除去が必須の要件とはされていないとも主張するが、引用例にそのような記載はなく、該主張は引用例の記載に基づかないものといわざるを得ない。
単板のジョイント部を接着剤で接続し、その表面に仮止めテープを貼着する引用例発明が2工程を要することは原告主張のとおりであるが、これによって、本件発明のように突板のフインガージョイント加工部の噛み合わせ部に仮止めテープを貼着するだけのものと比較し、接続がより確実であることが明らかであるから、「各突板を接続するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、各突板の接続の確実性と接続方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、本件特許発明のようにした点に格別の困難性は見当たらない。」とした本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
原告は、本件決定の相違点3についての判断に対し、複合突板の製造に当たり、厚みが一定の突板や繊維質シートを使用し、接合の際の接着剤の塗布厚さを一定とすれば、得られた製品についてサンディングによって厚さを調整することは、基本的に不要であるとしたうえで、本件発明と引用例発明とでは、研削処理の目的において大きな相違があると主張する。
しかしながら、一般に、板材を研削処理してその表面を平滑化する際、特段の事由がない限りその厚さが不均一とならないように、すなわち、厚さが均一となるように研削処理することは、具体的事例を挙げるまでもなく、ごく当たり前の技術事項であって、このことは、引用例発明において、たとえ厚みが一定の突板や繊維質シートを使用し、接合の際の接着剤の塗布の厚さを一定とした場合であっても必要とされる事項である。そうすると、引用例発明において、サンディングにより単板の表面に貼着されたテープを除去するとともに、単板の厚さが均一となるように調整する点に格別の困難性はない。
したがって、本件決定の相違点3についての判断に誤りはない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)について
原告は、本件決定の相違点4についての判断が誤りであると主張するが、引用例発明のような特定の物を製造するための方法の発明においては、発明を構成する各工程が経時的に結合されており、先行する工程が後続の工程に影響を及ぼすことはあっても、その逆はあり得ず、各工程の間に双方向的な緊密な統一があるというものではない。そして、かかる発明では、最終工程に至るまでの各工程において、最終製品である特定の物に対する中間生成物が製造されるところ、どのような物を最終製品とするかは、観点の相違に応じて変わり得るものであって、当該発明とは異なった観点から見た場合に、上記中間生成物を最終製品とすることも可能であり、その場合には、第1工程から上記最終工程に至る途中の段階までの工程を、別の特定の物を製造するための方法の発明として捉えることができる。
したがって、本件決定の相違点4についての判断に何ら誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点2についての判断の誤り)について
(1) 一致点の認定の誤りの主張について
引用例に、<1>引用例発明につき「単板1の寸法、種類などは特に限定されるものではないが・・・通常厚さが0.2mm~0.5mm程度の木質系単板が用いられる。これらの定寸の単板1は複数枚が一直線上に連続的に接続されて連続シート2とされるのであるが、その方法としてはジョイント精度を上げるために単板1の側面及び木口面をカットし(第1図(a))、木口面同士をフィンガージョイントあるいはバットジョイントのような形で接着剤で接続して連続させてゆく(第1図(b))。通常、ジョイント強度を上げるために単板1の接続部の裏面あるいは表面にはテープ(図示せず)が貼られるが、表面に貼った場合にはサンディング加工の段階で研磨除去される。次に、連続的に供給される長尺物の補強シート3の表面にロールコータ7で接着剤が塗布されてヒータ8で加熱され、この下に単板1の連続シートが置かれ、ロールプレス5で熱圧し連続的に連続シート2の裏面に補強シート3を貼着して行き、ロールプレス5の後クーラ6で冷却される(第1図(c))。」(決定書3頁15行~4頁14行)との記載があること、<2>その実施例につき「厚さ0.3mm、幅300mmのチーク材の単板を使用し、切り揃えた単板の木口をフィンガーカッターで切断し、これを連続的に接続し、裏面に補強チップを貼って連続シートを作り、これをロール状に巻き取った。40gr/m2の不織布にビニル系接着剤を30gr/m2の割合で含浸させ乾燥させてロール状に巻き取った。上記連続シートの表面にロールコータにより上記と同じ接着剤を50gr/m2塗布し、ヒータにより半乾燥させた後、ホットプレスロール(3段ロール、温度170℃)にて圧縮し、連続シートと不織布とを連続的に積層させた。」(同5頁11頁~6頁2行)との記載があることは、いずれも当事者間に争いがなく、また、引用例(甲第4号証)の特許請求の範囲の請求項1項には「複数枚の単板を一列に接続して単板の連続シートを形成した後、この連続シートの裏面に補強シートを貼着し、この後連続シートの表面を連続的にサンディング処理すると共に連続シートの表面に樹脂をコーティングする、ことを特徴とする複合単板の製造方法。」(同号証1頁左下欄5~10行)と記載されている。
そうすると、引用例には、単板の連続シートと補強シートとを貼着してなる複合単板の製造方法の発明に関し、その実施例として、単板の連続シートに接着剤を塗布して連続シートと補強シート(不織布)とを貼着するものが記載されているものと認められる。
原告は、引用例の前示<2>の記載には、連続シートと補強シートとを接着剤によって接着させるために連続シートに接着剤を塗布したとの記載がなく、接着剤を塗布した連続シートの面に補強シートが積層された旨の記載もないと主張するが、引用例の同記載からは、連続シートに接着剤を塗布するのが、連続シートと補強シートとを該接着剤によって接着積層させるためであることを、たやすく読み取ることができるというべきである。
もっとも、引用例の前示<2>の記載では、単板の「裏面」に補強チップを貼って連続シートを作るとされている(したがって、「補強チップ」はテープを意味するものと認められる。)ほか、接着剤は、連続シートの「表面」に塗布されるものとされているところ、このことは、前示特許請求の範囲の請求項1項の「連続シートの裏面に補強シートを貼着し」との記載、及び前示<1>の記載の「連続シート2の裏面に補強シート3を貼着して行き」との記載部分と齟齬するかのように見え、さらに連続シートに接着剤を塗布することは、前示<1>記載の「補強シート3の表面にロールコータ7で接着剤が塗布されて」との記載部分に沿わないかのようにも見える。
しかしながら、仮に、前示<2>の記載において、接着剤を塗布する連続シートの「表面」が、前示特許請求の範囲の請求項1項の「連続シートの裏面」及び前示<1>の記載の「連続シート2の裏面」と反対側の面であるとすれば、連続シートに塗布された接着剤は、連続シートと補強シートとを接着するのに何ら寄与しないことになって、その技術的意義を見い出せないのみならず、たとえ、ヒータにより半乾燥させた後であっても、連続シートと補強シートとをホットプレスロールで圧縮する際に、接着剤がロール表面に粘着して、却って円滑な加圧接合処理の妨げとなることは必定であり、さらに、接着剤を塗布する面が、前示特許請求の範囲の請求項1項記載の「連続シートの表面を連続的にサンディング処理すると共に連続シートの表面に樹脂をコーティングする」処理を行う面に当たることになるから、該処理に対し無益な負担を増やすことにもなりかねない。また、引用例(甲第4号証)図面第1図(c)には、補強シート3の上面(前示<1>のとおり、補強シートの下に置かれるとされている連続シート2と対面しない面)に、ロールコータ7で接着剤を塗布することが示されているから、前示<1>の記載の「補強シート3の表面」が、図面第1図(c)の補強シート3の上面を指すものであるとすれば、同様に連続シートと補強シートとを接着するのに何ら寄与しないこととなる。他方、前示本件発明の要旨に「木材の切削によって得た板厚のきわめて薄い・・・突板」と規定されているとおり、本件発明の突板は、木材をきわめて薄く削いで得たものであり、このことは引用例発明の「厚さが0.2mm~0.5mm程度の木質系単板」についても同様であると認められるところ、そのような単板(突板)において、木目模様や削がれた面の粗さの状態等が単板の両面で格別異なるものとは考え難く、そうすると、単板それ自体の表裏の区別は、テープ等を貼り、あるいはロール状に巻き取るなどした場合に生ずる相対的、便宜的、一時的なものにすぎないと認められる。そうであれば、引用例の前示<2>の記載において、接着剤を塗布する連続シートの「表面」は、補強チップを貼る「裏面」との関係において、その反対側の面であることを示したものにすぎず、特許請求の範囲の請求項1項及び前示<1>の記載と対比した場合には、その「連続シートの裏面」に当たる面を指すものと解するのが相当である。そして、前示本件発明の要旨の規定によれば、その面は、本件発明においても「突板の裏面」に当たるものと認められる。また、補強シートの表面への接着剤の塗布が技術的意義が見い出せない以上、当業者であれば、それが誤りであることに容易に想到するものと認められる。
そうすると、本件決定は、引用例記載事項の認定をするに当たって、引用例の前示<2>の記載の「連続シートの表面に・・・上記と同じ接着剤を50gr/m2塗布し」との部分を、本件発明のこれに相当する部分に引き直して、「単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布する」と認定したものであると解され、該認定に誤りはなく、したがって、これに基づく本件発明と引用例発明との一致点の認定に原告主張の誤りがあるということもできない。
(2) 相違点2についての判断の誤りの主張について
原告は、本件決定の相違点2についての判断に対し、本件発明が、突板のみに接着剤を塗布するという極めて簡単な手段で突板と繊維質シートを強固に接合接着することができるのに対し、引用例発明は、基本的に補強シートに接着剤を塗布するものとしているとしたうえで、該方法によっては、連続シートと補強シートとの接合接着が不十分となりやすいために、必要に応じ、実施例に記載されたように連続シートにも接着剤を塗布することとしているものと解すべきであり、引用例に、引用例発明が「突板の裏面にのみ接着剤を塗布するものに較べて突板と繊維質シートとの接着をより確実にする」との記載や示唆がない以上、本件決定の該認定は誤りである旨主張する。しかしながら、引用例に、補強シートに接着剤を塗布する方法では、連続シートと補強シートとの接合接着が不十分となりやすいために、必要に応じ連続シートにも接着剤を塗布する旨の記載はなく、該主張は根拠を欠くものであるのみならず、前示(1)の<2>の記載のとおり、引用例に、単板の連続シートに接着剤を塗布し、接着剤を含浸させた補強シートと積層させて接着する発明が記載されており、該発明が、突板のみに接着剤を塗布する本件発明と比較して、工程数は増加するものの、接着の確実性に優ることは技術的に明白というべき事柄であって、本件決定の該認定に誤りはない。
また、原告は、本件決定が、突板にのみ接着剤を塗布して繊維質シートを接合することが慣用手段であることを具体的に開示していないから、「突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、突板と繊維質シートとの接着の確実性と接着方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項」にすぎないとの本件決定の判断が、引用例発明の内容を不当に拡大して解釈するものであると主張するが、引用例に記載された単板の連続シートに接着剤を塗布し、接着剤を含浸させた補強シートと積層させて接着する発明に基づき、接着の確実性を多少犠牲にしても、工程数を減らしてより簡便に接着するための方法として、突板(単板)にのみ接着剤を塗布して繊維質シート(補強シート)を接着する本件発明の構成に至るに格別の困難性があるということはできず、本件決定の該判断に誤りがあるとはいえない。
原告は、さらに、引用例発明は、補強シートに接着剤を塗布するものであるために、加圧ロールを3対必要とし、このような方法でなければ、単板の連続シートと補強シートとの確実な接合ができないものと解すべきあるから、本件決定の「加圧用のロールを本件特許発明のように一対とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように対となる3段とするかも必要に応じて適宜選択すればよい事項にすぎない。」との判断が誤りであると主張するが、何段の加圧ロールを使用するかが、径や材質、加圧力等の加圧ロール自体の要素と、形状、材質、接着剤の種類等の加圧ロールに通す突板及び繊維質シートに係る要素とを勘案して適宜決められる設計的事項であることは明白であるところ、本件決定の前示判断は、その趣旨をいうものと解されるから、これを誤りとすることはできない。
したがって、本件決定の相違点2についての判断に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
原告は、本件決定の相違点1についての判断に対し、本件発明における仮止めテープは、最終的に除去することを予定しているのに対し、引用例発明のテープは、強固に接着されていて、その除去が困難であるから、引用例発明は、テープの貼着面を、補強シートの貼着面とすることを原則として、単板の連続シートと補強シートとの間に埋没させ、表面から見えないようにするものであり、例外的に、単板の表面に貼った場合にのみ、サンディング加工の段階において強制的に除去されるのであるから、本件発明と引用例発明とでは、テープの果たす役割は根本的に相違すると主張するが、引用例の前示1の(1)の<1>の記載中の「通常、ジョイント強度を上げるために単板1の接続部の裏面あるいは表面にはテープ(図示せず)が貼られるが、表面に貼った場合にはサンディング加工の段階で研磨除去される。」との記載のとおり、引用例には、単板の接続部の表面(補強シートを貼着する面の反対側の面)にテープを貼り、サンディング加工の段階でこれを研磨除去する発明が記載されているところ、引用例に、かかる態様が例外的であって、単板の接続部の裏面(補強シートを貼着する面)にテープを貼る方法が原則であるとする記載はない(同<2>の実施例の記載においても、補強シートを貼着する面の反対側の面にテープ(補強チップ)を貼ることが記載されていることは、前示1の(1)の説示から明らかである。)。
また、原告は、引用例の開示内容は、単板の接続に2工程を要し、テープによる粘着のみによって接続することはあり得ないことが明記されていると主張するが、各単板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部を接着剤で接続し、さらに噛み合わせ部の表面に仮止めテープを貼着した引用例発明が、仮止めテープを貼着したのみのものと比較して、工程数は多くなるものの、接続の確実性が優ることは技術的に明白というべき事柄であり、かつ、このような引用例発明に基づき、接続の確実性を多少犠牲にしても、工程数を減らしてより簡便に接続するための方法として、突板(単板)のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部の表面に仮止めテープを接着剤で貼着するのみとする本件発明の構成に至ることに格別の困難性があるということはできない。
したがって、本件決定の相違点1についての判断に原告主張の誤りがあるということはできない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について
原告は、本件発明においては、厚さの調整とともに、仮止めテープの除去の目的で研削処理を行うものであるが、引用例発明においては、原則的にテープの除去が不要であり、また、複合突板の製造に当たって、厚みが一定の突板や繊維質シートを使用し、接合の際の接着剤の塗布厚さを一定とすれば、得られた製品についてサンディングによって厚さを一定に調整することは、基本的に不要であるとし、さらに、引用例発明において、木地サンディングは、その後に行う樹脂塗装のため、アンカー効果によって樹脂を確実に定着させるべく、連続シートの表面に粗面を連続的に形成することを目的とするものであるとして、本件発明と引用例発明とでは、研削処理の目的において大きな相違があり、本件決定の相違点3についての判断が誤りであると主張する。
しかし、引用例発明においては、原則的にテープの除去が不要であるとの主張が採用し得ないことは前示2で説示したことから明らかである。また、複合突板の製造に当たって、厚みが一定の突板や繊維質シートを使用し、接合の際の接着剤の塗布厚さを一定とすれば、得られた製品についてサンディングによって厚さを一定に調整することが基本的に不要であると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、板材を研削処理してその表面を平滑化する際には、通常、板材の厚さが均一となるよう併せ処理することが技術常識というべきである。
したがって、本件決定の相違点3についての判断に原告主張の誤りがあるということはできない。
4 取消事由4(相違点4についての判断の誤り)
原告は、引用例発明が、連続シートの表面に樹脂をコーティングする工程を含む4つの構成要件を有機的に結合させ、経時的に処理することによって、目的とする「複合単板」を得ることができるものであり、その「複合単板」とは、「表面をサンディング処理し、樹脂をコーティングしたもの」以外の別の観点が入り得る余地がないと主張し、さらに、引用例発明のような特定の物を製造するための方法の発明において、各工程の有機的結合から、必要な部分のみを取り出すことは、発明そのものの成立を根本的に否定するものであって、発明の進歩性の判断に際し行ってはならない手法であるとして、本件決定の相違点4についての判断が誤りであると主張する。
しかし、引用例に、引用例発明における「複合単板」としては「表面をサンディング処理し、樹脂をコーティングしたもの」が記載されているとしても、その樹脂コーティング工程の前段階における生成物、すなわち、単板の連続シートを補強シートと積層接着させ、その表面を研削処理した後、順次巻き取ることによってロール状としたものが、それ自体独立した発明に係る最終製品と認め得ることは明らかである。そうだとすれば、本件発明の進歩性の判断のために、本件発明の構成と対応して、引用例に記載された発明からこの段階までを取り上げて、本件発明と比較する対象としたとしても、引用例発明全体を否定することに繋がるものではなく、かかる手法が許容されないとする理由は見い出せない。
したがって、本件決定の相違点4についての判断に原告主張の誤りはない。
5 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、その他本件決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成9年異議第72251号
特許異議の申立てについての決定
名古屋市千種区猫洞通4丁目13番地
特許権者 津田荘太郎
東京都港区新橋4丁目24番11号 中村ビル5階 幸田特許事務所
代理人弁理士 幸田全弘
愛知県名古屋市中区大須4丁目9番21号
特許異議申立人 株式会社オムニツダ
愛知県名古屋市中区千代田3丁目11番11号 麦島第2ビル601号 松浦特許事務所
代理人弁理士 松浦喜多男
特許第2559151号「ロール状突板の製造方法」の特許について、次のとおり決定する。
結論
特許第2559151号の特許を取り消す。
理由
1.本件特許発明
本件特許第2559151号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりの次のものであると認める。
「A.木材の切削によって得た板厚のきわめて薄い所定の長さと幅を有する突板の両端の小口部にフィンガージョイント加工を施し、
B.各突板のフィンガージョイント加工部を順次噛み合わせ、この噛み合わせ部の表面に幅狭の仮止めテープを接着剤で貼着しながら巻き取ってロール体とし、
C.このロール体を仮止めテープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した突板の裏面に接着剤を塗布すると共に、突板と同幅の繊維質シートを重ねながら一対のロール間に通して加圧接合処理して突板と繊維質シートを一体的に積層したのち、
D.繊維質シートを裏打ちした突板の表面を研削処理することによって仮止めテープを除去し、かつ突板の表面を均一な厚さに調整し、
E.研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする
ことを特徴とするロール状突板の製造方法。」
(なお、発明の内容を理解し易くするため事項ごとに項分けして記載した。)
2.引用刊行物記載の発明
これに対して、当審による取消理由通知において引用した本件特許の出願前に日本国内において頒布された刊行物1(特開昭62-122704号公報)には、「複合単板の製造方法」に関して、第2頁左上欄第18行乃至同左下欄第1行に
「単板1の寸法、種類などは特に限定されるものではないが(プラスチックシートも可)、通常厚さが0.2mm~0.5mm程度の木質系単板が用いられる。これらの定寸の単板1は複数枚が一直線状に連続的に接続されて連続シート2とされるのであるが、その方法としてはジョイント精度を上げるために単板1の側面及び木口面をカットし(第1図(a))、木口面同士をフィンガージョイントあるいはバットジョイントのような形で接着剤で接続して連続させてゆく(第1図(b))。通常、ジョイント強度を上げるために単板1の接続部の裏面あるいは表面にはテープ(図示せず)が貼られるが、表面に貼った場合にはサンディング加工の段階で研磨除去される。次に、連続的に供給される長尺物の補強シート3の表面にロールコータ7で接着剤が塗布されてヒータ8で加熱され、この下に単板1の連続シート2が置かれ、ロールプレス5で熱圧し連続的に連続シート2の裏面に補強シート3を貼着して行き、ロールプレス5の後クーラ6で冷却される(第1図(c))。補強シート3の寸法及び種類は限定されるものではないが、通常は15~50gr/m2の不織布が用いられ、接着剤としては不織布に対しては柔軟性を出すために酢酸ビニル系やウレタン系、アクリル系のものなどが用いられる。」、第2頁左下欄第4乃至12行に
「・・・・・・(略)・・・・・・・・。この後、補強シート3を裏貼りされた連続シート2の表面を連続的に木地サンディングし(図示せず)、更にロールコータ12により連続シート2の表面に紫外線硬化型の樹脂4が連続的に塗布され、紫外線照射機9で紫外線を照射して樹脂4を硬化させる(第1図(d))。この後、平滑性を出すために再び連続シート2の表面をサンダー10で連続的にサンディングする(第1図(e))。」、
第2頁右下欄第5行乃至第3頁左上欄第2行に「(実施例)
厚さ0.3mm、幅300mmのチーク材の単板を使用し、切り揃えた単板の木口をフィンガーカッターで切断し、これを連続的に接続し、裏面に補強チップを貼って連続シートを作り、これをロール状に巻き取った。40gr/m2の不織布にビニル系接着剤を30gr/m2の割合で含浸させ乾燥させてロール状に巻き取った。上記連続シートの表面にロールコータにより上記と同じ接着剤を50gr/m2塗布し、ヒータにより半乾燥させた後、ホットプレスロール(3段ロール、温度170℃)にて圧縮し、連続シートと不織布とを連続的に積層させた。プレス後、これを冷却して巻き取った。これを木地サンダーした後、ロールコータにてウレタン系紫外線硬化型塗料を30gr/m2塗布し、紫外線照射機(照射出力150W/cm)により速度8m/minで連続硬化させた。更に、サンディング(#240のサンドペーパで研削する)し、再度樹脂コート処理する。」及び第3頁左上欄第5乃至15行に
「【発明の効果】
本発明は、叙述のごとく複数枚の単板を連続的に接続して連続シートとした後に、サンディング加工や樹脂のコーティング加工を行えるめで、複合単板の製造工程における加工処理を連続的に行え、単板を一枚一枚加工する煩雑さを解消できて製造効率を向上させると共に製造スピードも向上させることができるという利点がある。しかも、定寸の単板を接続したにも拘わらず、裏面に補強シートを貼着してあるので、連続シートの接続部分が外れたりすることのないものである。」
と記載されており、また、図面に、単板1を接続した連続シート2を巻き取ってロール体とすること(第1図(b))、上記ロール体を裏面が上方となる(したがって、表面が下方となる)ようにして巻き戻し、その裏面に補強シート3を重ねながら対となる3段ロール間を通して単板1の連続シート2の裏面に補強シート3を貼着すること(第1図(c))及びロール状の連続シート2を巻き戻しながら連続シート2の表面に樹脂塗布工程が行なわれること(第1図(d))が記載されている。
上記記載事項において、板厚の薄い木質系単板1を得るためには木材を切削することが当然必要であること、単板1の接続部のジョイント強度を上げためにる貼られるテープは、接続部を適宜覆う幅を有しておればよいことから幅狭のものでよいこと、単板1の連続シート2の裏面に貼着される補強シート3は、連続シート2の接続部分が外れたりすることがないようにするためのものであるから接続部分全体を覆うように単板1と同幅であると考えられること、また、樹脂塗布工程は、上記のようにロール状の連続シート2を巻き戻しながら行われるので、その直前の工程であるサンディング加工工程では、サンディング加工の後に連続シート2を順次巻き取ることによってロール状とすることが行なわれると考えられることからみて、結局、刊行物1には以下の発明が記載されていると認めることができる。
A.木材の切削によって得た板厚のきわめて薄い定寸の単板1の両端の木口部にフィンガージョイント加工を施し、
B.各単板1のフィンガージョイント加工部を順次接着剤で接続すると共にジョイント強度を上げるために単板1の接続部の表面に幅狭のテープを貼って単板1の連続シート2を作り、これを巻き取ってロール体とし、
C.このロール体を上記テープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した単板1の連続シート2の裏面に接着剤を塗布すると共に、単板1と同幅の接着剤を含浸させた長尺物の不織布からなる補強シート3を重ねながら対となる3段ロール間に通して加圧接合処理して単板1の連続シート2と補強シート3を一体的に積層したのち、
D.補強シート3を裏打ちした単板1の連続シート2の表面をサンディング加工することによって単板1の接続部表面に貼ったテープを除去すると共に連続シート2の表面を平滑化し、
E.サンディング加工の済んだ単板1の連続シート2を順次巻き取ることによってロール状とし、
F.その後、その連続シート2を巻き戻して樹脂塗布工程、サンディング工程を経て順次巻き取ることによってロール状とする
ロール状複合単板の製造方法。
3.対比
本件特許発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、後音における「定寸の単板1」、「木口部」、「長尺物の不織布からなる補強シート3」及び「サンディング加工」は、それぞれ前者における「所定の長さと幅を有する突板」、「小口部」、「繊維質シート」及び「研削処理」に相当する。また、後者における「テープ」もサンディング加工、すなわち、研削処理することによって除去されるものであり、単板1、すなわち、突板の接続部を仮に止めておくものであるという限りで前者における「仮止めテープ」に対応している。
したがって、本件特許発明と刊行物1に記載された発明とは、
A.木材の切削によって得た板厚のきわめて薄い所定の長さと幅を有する突板の両端の小口部にフィンガージョイント加工を施し、
B.各突板のフィンガージョイント加工部を順次噛み合わせ、この噛み合わせ部の表面に幅狭の仮止めテープを貼着しながら巻き取ってロール体とし、
C.このロール体を仮止めテープを貼着した面が下方となるようにして巻き戻しながら上方に位置した突板の裏面に接着剤を塗布すると共に、突板と同幅の繊維質シートを重ねながらロール間に通して加圧接合処理して突板と繊維質シートを一体的に積層したのち、
D.繊維質シートを裏打ちした突板の表面を研削処理することによって仮止めテープを除去し、かつ突板の表面を調整し、
E.研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする
ロール状突板の製造方法。
である点で一致し、下記の4点で相違している。
相違点1:
各突板を接続するに当たって、本件特許発明では、各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部の表面に仮止めテープを接着剤で貼着しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部を接着剤で接続し、噛み合わせ部の表面に仮止めテープを貼着している点。
相違点2:
突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明では、突板の裏面にのみ接着剤を塗布すると共に、突板と繊維質シートを重ねながら一対のロール間に通して加圧接合しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、突板の裏面に接着剤を塗布すると共に繊維質シートにも接着剤を含浸させ、突板と繊維質シートを重ねながら対となる3段ロール間に通して加圧接合している点。
相違点3:
突板の表面を研削処理してその表面を調整するに当たって、本件特許発明では、突板の表面を均一な厚さに調整しているのに対して、刊行物1に記載された発明では、突板の表面を平滑化しているが均一な厚さに調整しているか否か明らかでない点。
相違点4:
本件特許発明は、研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程を最終工程とする発明であるのに対して、刊行物1に記載された発明は、上記工程の後さらに樹脂塗布工程、サンディング工程を経て突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程を含む発明である点。
4.判断
そこで、先ず相違点1について検討すると、各突板を接続するに当たって、刊行物1に記載された発明のように各突板のフィンガージョイント加工部の噛み合わせ部を接着剤で接続し、噛み合わせ部の表面に仮止めテープを貼着するのは、本件特許発明のように噛み合わせ部の表面に仮止めテープを接着剤で貼着するだけのものに較べて各突板の接続をより確実にするためであると考えられる。各突板を接続するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、各突板の接続の確実性と接続方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、本件特許発明のようにした点に格別の困難性は見当たらない。
次に、相違点2について検討すると、突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、刊行物1に記載された発明のように突板の裏面に接着剤を塗布すると共に繊維質シートにも接着剤を含浸させているのは、本件特許発明のように突板の裏面にのみ接着剤を塗布するものに較べて突板と繊維質シートとの接着をより確実にするためであると考えられる。突板と繊維質シートを一体的に積層するに当たって、本件特許発明のようにするか、或いは、刊行物1に記載された発明のようにするかは、突板と繊維質シートとの接着の確実性と接着方法の簡便性とを勘案して適宜選択すればよい事項にすぎず、本件特許発明のようにした点に格別の困難性は見当たらない。また、加圧用のロールを本件特許発明のように一対とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように対となる3段とするかも必要に応じて適宜選択すればよい事項にすぎない。
次に、相違点3について検討すると、本件特許発明や刊行物1に記載された発明によって製造される突板は、主として家具や建具の表面に貼着されるものであることから、その厚さを均一にすることが当然求められており、本件特許発明において、突板の表面を研削処理してその表面を均一な厚さに調整する点に格別の困難性はない。また、刊行物1に記載された発明においても、樹脂コーティングされた最終製品としての突板の樹脂コーティング層の厚さを均一にすると共に全体の厚さを均一にするために、突板の表面を研削処理してその表面を平滑化すると同時に均一な厚さに調整していると考えられる。
最後に、相違点4について検討すると、ロール状突板の製造方法における最終工程を、本件特許発明のように研削処理の済んだ突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程とするか、或いは、刊行物1に記載された発明のように上記工程の後さらに樹脂塗布工程、サンディング工程を経て突板を順次巻き取ることによってロール状とする工程とするかは、最終製品として研削処理されただけのものを必要とするか、或いは、さらにその上に樹脂コーティングされたものを必要とするかに応じて決まることにすぎず、最終工程を本件特許発明のようにすることは当業者が容易に想到し得る事項である。
また、本件特許発明によってもたらされる効果も刊行物1に記載された発明から当然予期できる程度のものであって格別のものではない。
5.むすび
以上のとおり、本件特許発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第113条第2号に該当するので、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
平成10年2月4日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)