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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)96号 判決 1999年2月09日

主文

特許庁が平成八年審判第一五二二四号事件について平成一〇年二月一六日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

第二  審決を取り消すべき事由について判断する。

一  本件商標は、別紙商標目録記載のとおりの構成からなり、指定役務を第四二類「日本料理を主とする飲食物の提供」とする登録商標であることは、当事者間に争いがない。そして、同目録の記載によれば、本件商標は、横書きした「串の坊」の文字書体を図案化してなるものであることが認められる。

二  後記認定のとおり、原告及びその傘下の系列会社は、原告の創設者である広瀬一夫が個人事業として串かつ料理店を経営していた時期を含め、本件商標の商標登録出願の日である平成四年九月三〇日まで四三年間、串かつ料理店の営業活動を継続し、串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物を提供してきたところ、《証拠略》によれば、原告及びその系列会社は、いずれも、その経営する串かつ料理店の店舗において、「大阪法善寺」、「串カツ」、「八丁味處」、「串の坊」の各文字を縦又は横二列ないし四列に書し、あるいは、「八丁味處」、「串の坊」の各文字を縦二列に書した看板や暖簾を店頭に設置していること、上記看板や暖簾は、概ね行書体であって、「串の坊」の文字が他の文字に比べて格段に大きく書されて看者の注目を引く構成となっていること、「串カツ」の文字は、原告及びその系列会社が提供する串かつ料理等の日本料理を表示しており、「八丁味處」は、当該店舗の提供する料理の質を表示しているものであることが認められる。

上記認定の事実によれば、原告及びその系列会社の経営する串かつ料理店の店舗の店頭の看板や暖簾は、「串の坊」の文字が強調されて、その前に配置された「串カツ」の文字は役務の提備の用に供する物を、「八丁味處」は、役務の提供の質をそれぞれ表示しており、以上のような標章を書した看板や暖簾が店舗の人目につく所に設置されているのであって、「串の坊」の文字からなる標章が、原告及びその系列会社の営む店舗の役務の出所を表示し、当該店舗に顧客を勧誘する広告宣伝の機能を果たしているものと認められる。

三  次に、上記「串の坊」の文字を要部とする原告商標が、原告の役務を表示するものとして本件商標の商標登録出願の日前に需要者の間に広く認識されていたか否かについて検討するに、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告の創立者である広瀬一夫は、昭和二五年九月、大阪難波新地の法善寺横町に「八丁味處串の坊」の名称で串かつ料理店の店舗を構え、串かつ料理等の日本料理の提供を主たる営業内容とする料理店の営業を開始し、その後、昭和三五年には、東京銀座に進出して、「八丁味處串の坊」の名称で串かつ料理店を開店した。その後、広瀬は、昭和四〇年一〇月、個人事業を株式会社組織にして原告を設立し、その代表取締役に就任し、以後、原告は、広瀬の個人事業を引き継いで串かつ料理店を経営してきた。

(二)  原告の傘下の企業として、昭和四六年に有限会社串の坊(大阪市南区難波新地に本店を設置)が、昭和五三年には有限会社亀・串の坊(大阪市北区曽根崎新地に本店を設置)、有限会社乾・串の坊(同市南区宗右衛門町に本店を設置)及び有限会社嘉串の坊(東京都港区赤坂に本店を設置。平成七年二月に商号を「有限会社赤坂串の坊」と変更)が、昭和五八年には有限会社清林串の坊(東京都町田市つくし野に本店を設置)が、昭和五九年には有限会社八丁味處あい・串の坊(堺市日置荘西町に本店を設置)が、昭和六〇年には有限会社代官山串の坊(東京都渋谷区代官山町に本店を設置)が、昭和六二年には有限会社八王子串の坊(東京都八王子市に本店を設置。平成三年五月に商号変更。変更前の商号は「有限会社たのうえ串の坊」)、株式会社東京銀座串の坊(東京都目黒区中目黒に本店を設置)が、昭和六三年には有限会社八丁味處井之口串の坊(大阪市東成区に本店を設置)が、平成三年には有限会社八丁味處箕面串の坊(大阪市箕面市に本店を設置)、有限会社串の坊静岡(静岡市紺屋町に本店を設置)がそれぞれ設立され、いずれも原告と同様、串かつ料理店を経営し、串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物を提供する営業活動を続けているものであって、本件商標の商標登録出願の日である平成四年九月三〇日の当時においては、原告及びその系列会社が経営する串かつ料理店の数は、二九店舗になっていた。

(三)  原告が直営する串かつ料理店九店舗(店舗名「串の坊東京銀座本店」、「串の坊銀座店」、「串の坊赤坂東急プラザ店」、「串の坊新宿伊勢丹会館店」、「串の坊新宿伊勢丹会館別室」、「串の坊新宿パークタワー店」「串の坊伊勢丹府中店」、「串の坊アトレ恵比寿店」。「串の坊自由が丘店」)の平成三年七月一日から四年六月三〇日までの間の飲食業による売上高は約六億六七七九万円、系列会社である有限会社串の坊の経営する串かつ料理店六店舗(店舗名「串の坊大阪法善寺本店」、「串の坊戎橋別館」、「串の坊名古屋店」、「串の坊西武大津店」、「串の坊西武高槻店」、「串の坊京都駅店」)の平成三年一〇月一日から四年九月三〇日までの間のそれは約六億七八三一万円、有限会社亀・串の坊の経営する串かつ料理店三店舗(店舗名「串の坊北新地西店」、「串の坊北新地東店」、「串の坊新梅田シティー店」)の平成三年一月一日から三年一二月三一日までの間のそれは約二億七四九九万円、有限会社乾・串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊宗右衛門町店」の平成三年九月一日から四年八月三一日までの間のそれは約三億六五二七万円、有限会社嘉串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊赤坂店」の平成三年一一月一日から四年一〇月三一日までの間のそれは約一億〇一七四万円、有限会社清林串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊つくし野店」の平成三年四月一日から四年三月三一日までの間のそれは約六八五四万円、有限会社八丁味處あい・串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊蓼科高原三井の森店」の平成三年六月一日から四年五月三一日までの間のそれは約四三八三万円、有限会社八王子串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊八王子店」の平成三年八月一日から四年七月三一日までの間のそれは約七七七七万円、株式会社東京銀座串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊伊豆三島店」の平成三年三月一日から四年二月二八日までの間のそれは約二億五一九七万円、有限会社八丁味處井之口串の坊の経営する串かつ料理店二店舗(店舗名「串の坊鶴橋西店」、「串の坊鶴橋東店」)の平成三年三月一日から四年二月二九日までの間のそれは約一億一九七四万円、有限会社八丁味處箕面串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊箕面店」の平成三年七月二六日から四年二月二九日までの間のそれは約四三七八万円、有限会社串の坊静岡の経営する串かつ料理店「串の坊静岡店」の平成三年一二月一八日から四年一一月三〇日までの間のそれは約二〇〇二万円であり、原告及びその系列会社(有限会社代官山串の坊の経営する串かつ料理店「串の坊代官山店」の平成四年度の売上高は明らかでない。なお、同店の平成九年度の平成七年一一月一日から八年一〇月三一日までの間のそれは約四二八二万円である。)の上記総売上高(平成七年一一月一日からの分は除く。)は、約二七億一三七五万円であった。原告及びその系列会社は、前記のとおり主として串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物の提供の営業活動をしているのであって、上記売上高によると、著しく多数の顧客が、原告及びその系列会社の営む店舗を利用して飲食をしていたものと認められる。

(四)  原告及びその系列会社は、経営する串かつ料理店の店頭に看板や暖簾を掲げるほか、入居しているビルの入口の広告塔に、原告商標を使用した広告を掲げ、更に、被告商標を付した各種パンフレット、チラシ類を作成配布して、自店の提供する串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物の広告宣伝をしており、昭和五〇年には、週刊朝日五月二三日号において、作家の小松左京による串の坊大阪法善寺本店の串かつ料理の紹介記事が掲載され、昭和五五年には、週刊現代七月二四日号において、「うまいもの屋」との見出しで、串の坊大阪法善寺本店の串かつ料理の紹介記事が掲載された。また、平成元年には、企業家の専門雑誌である「ベンチャーリンク」一九八九年一〇月号において、原告の創設者である広瀬一夫の紹介記事が掲載され、平成四年には、クレジットカード会社(近畿しんきんクレジットサービス)の会員向け会報誌である「タンドール(黄金の時)」三月号において、串の坊大阪法善寺本店の串かつ料理の紹介記事が掲載され、そのほかにも、「飲食店経営」一九七九年(昭和五四年)一月号、「週刊ホテルレストラン」同年三月号などで原告の系列会社の串かつ料理の紹介記事が掲載された。

四  上記認定の事実によれば、原告及びその系列会社は、広瀬の個人事業の時代も含め、創業以来、本件商標の商標登録出願がされた平成四年九月まで四三年間、串かつ料理店を経営し、串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物を提供する営業活動を続けており、その間、店頭の看板、暖簾に原告商標を使用するのみならず、原告商標を付した各種パンフレット、チラシ類を作成配布するなどして広告宣伝に努め、また、原告及びその系列会社の経営する串かつ料理店は、本件商標の商標登録出願当時において、関東、中京、関西地域を中心に二九店舗を有して串かつ料理店を営業し、多数の顧客がこれを利用して原告商標に接しており、昭和五〇年頃以降には、全国的に大衆雑誌に取り上げられたり、専門雑誌に取り上げられたりしていたものである。以上の事実関係に照らすと、原告商標は、本件商標の商標登録出願の日前に原告及びその系列会社による串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物の提供を表示するものとして、関東、中京、関西地域において、需要者の間に広く認識されるに至っていたものと認められる。

五  被告の主張は、要するに、原告の主張立証が不十分であって、原告商標は商標法四条一項一〇号に規定する広く認識されている商標であると認定するに足りないというものであるところ、上記認定判断のとおり、本件証拠によれば、原告商標は広く認識されている商標であると認定するに十分であって、被告の上記主張は、採用の限りでない。

六  以上の認定判断によれば、原告商標である「串の坊」の文字を要部とする商標は、本件商標の商標登録出願の日前に原告及びその系列会社による串かつ料理等の日本料理を主とする飲食物の提供を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものであるところ、本件商標と原告商標とを全体的に観察すると、両商標は、本件商標と原告商標の要部において、外観及び称呼が類似し、取引の実情のもとにおいて、出所の混同を生ずるおそれのある商標であって、類似するものというべきであり、また、原告商標は、本件商標の指定役務と同一の役務について使用するものであることが明らかである。

そうすると、原告商標は、本件商標の商標登録出願の日前に原告の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものではなく、本件商標の登録は商標法四条一項一〇号の規定に違反してされたものとはいえないとした審決の認定判断は、違法であって、取消しを免れない。

第三  よって、本訴請求は、理由があるから、審決を取り消すこととし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一〇年一二月一〇日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸 充)

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