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東京高等裁判所 平成10年(行コ)115号 判決

原審・甲事件=東京地方裁判所 平成七年(行ウ)第三〇三号

〔中労委昭和六三年(不再)第六八号、第六九号事件・初審神奈川地労委昭和六二年(不)第二二号事件〕

乙事件=東京地方裁判所平成八年(行ウ)第三八号

〔中労委平成元年(不再)第九一号事件・初審東京地労委昭和六二年(不)第一二号事件〕

丙事件=東京地方裁判所平成八年(行ウ)第六五号

〔中労委平成二年(不再)第二九号事件・初審宮城地労委昭和六二年(不)第四号事件〕

丁事件=東京地方裁判所平成八年(行ウ)第一二二号

〔中労委平成元年(不再)第一一二号事件・初審福島地労委昭和六二年(不)第七号事件〕

戊事件=東京地方裁判所平成八年(行ウ)第一二四号

〔中労委平成二年(不再)第二号事件・初審静岡地労委昭和六二年(不)第一号事件〕

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とし、当審における補助参加によって生じた費用は、補助参加人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二事案の概要

一  被控訴人東日本旅客鉄道株式会社(以下「被控訴人東日本」という。)及び被控訴人東海旅客鉄道株式会社(以下「被控訴人東海」という。)は、日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七号。以下「改革法」という。)及び旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六一年法律第八八号。以下「鉄道会社法」という。)に基づき、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)から旅客鉄道事業を承継する株式会社として設立された株式会社であり、被控訴人日本貨物鉄道株式会社(以下「被控訴人日本貨物」という。)は、右各法律に基づき、同日、国鉄から貨物鉄道事業を承継する株式会社として設立された株式会社である。

二  被控訴人らが設立された際、被控訴人らの設立委員によって、国鉄の職員の中から被控訴人らの職員の採用が行われたが、国鉄の職員で被控訴人らの職員となる意思を表示した者のうち、控訴人補助参加人国鉄労働組合(以下「国労」という。)所属の一部の組合員らが、「昭和五八年四月一日以降に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けていないこと」という国鉄の採用候補者選定における運用基準に該当しないとして、改革法二三条二項所定の採用候補者を登載した名簿(以下「採用候補者名簿」という。)に登載されず、被控訴人らに採用されなかったため、不採用とされた組合員らが所属する組合である国労及びその傘下の組合である控訴人補助参加人国鉄労働組合東京地方本部(以下「東京地本」という。)、同国鉄労働組合東京地方本部横浜支部(以下「横浜支部」という。)、同国鉄労働組合東京地方本部国府津支部(以下「国府津支部」という。)、同国鉄労働組合東日本本部(以下「東日本本部」という。)、同国鉄労働組合仙台地方本部(以下「仙台地本」という。)及び同国鉄労働組合静岡地方本部(以下「静岡地本」という。)が、管轄の各地方労働委員会に対しそれぞれ救済申立てをしたところ、当該各地方労働委員会は、各申立を大筋で認容し、別紙初審命令目録記載のとおりの救済命令(以下、同目録記載の初審命令を個別に「本件初審命令一」のようにいい、一括して「本件各初審命令」という。)をそれぞれ発した。

三  被控訴人らは、本件各初審命令に対し、控訴人に再審査申立てをしたが、控訴人は、右職員の採用手続の一部を行った国鉄が被控訴人らの設立委員の補助機関に当たることを前提として、「国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員が採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員、ひいては被控訴人らに帰属させることが法の趣旨に沿う」旨解した上、国鉄が、本訴で問題となる救済対象者(以下「本件救済対象者」という。)を採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員が被控訴人らの職員として採用しなかったことは、「組合所属あるいは組合活動の故に不利益取扱いを行ったものとして、労働組合法(以下「労組法」という。)七条一号の不当労働行為に当たり、かつ、そのことによって国労の弱体化を企図したものと認められるから同条三号の不当労働行為に当たると判断するのが相当」であり、かかる場合の救済措置として、労働委員会が被控訴人らにこれらの者の採用を命じることには何ら問題はない旨判断し、具体的救済方法について一部本件各初審命令を変更したものの、別紙命令目録記載のとおり、大筋として再審査申立てを棄却する旨の命令(以下、同目録記載の命令を個別に「本件命令一」のようにいい、一括して「本件各命令」という。)をそれぞれ発した(なお、本件救済対象者以外の者の関係では、被控訴人らに採用を命ずる旨の本件各初審命令が取り消されている。)。

四  そこで、被控訴人らが、本件各命令のうち、本件救済対象者について再審査申立てを棄却した部分の取消しを求めて、甲ないし戊の各事件を提起したところ、原審が、被控訴人らの請求をいずれも認容して、控訴人が発した本件救済対象者についての本件各命令(甲ないし戊の各事件の主文第I項1号ないし4号及び第II項)を取り消したので、控訴人が控訴をした。

なお、控訴人は、当審において、いわゆる黄犬契約による不当労働行為の主張を撤回した。

第三前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び当事者が争うことを明らかにしない事実は証拠を掲記しない。)

一  当事者等

1  被控訴人ら

(一) 被控訴人東日本は、昭和六二年四月一日、改革法及び鉄道会社法に基づき、国鉄が経営していた旅客鉄道事業のうち、東北及び関東における事業を承継して設立された株式会社である。

(二) 被控訴人東海は、昭和六二年四月一日、右各法律に基づき、国鉄が経営していた旅客鉄道事業のうち、東海における事業を承継して設立された株式会社である。

(三) 被控訴人日本貨物は、昭和六二年四月一日、右各法律に基づき、国鉄が経営していた貨物鉄道事業を承継して設立された株式会社である。

2  日本国有鉄道清算事業団

日本国有鉄道清算事業団(以下「清算事業団」という。)は、昭和六二年四月一日、改革法及び日本国有鉄道清算事業団法(昭和六一年法律第九〇号。以下「清算事業団法」という。)に基づき、国鉄から承継法人(改革法一一条二項に規定する旅客鉄道株式会社等一一の法人をいう。以下同じ。)に承継されない資産、債務等の処理業務等及び承継法人に採用されなかった国鉄職員の再就職の促進を図るための業務を行うことを目的として設立された法人である。

3  補助参加人ら

(一) 国労は、昭和二二年六月五日に結成され、昭和六二年三月三一日までは国鉄の職員等により、同年四月以降においては承継法人、清算事業団等の職員等によって組織される労働組合である。

(二) 東京地本は、国労の下部組織であって、被控訴人東日本及び被控訴人日本貨物の事業地域のうち、東京都を中心とする地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。

控訴人補助参加人山下良一(以下「山下」という。)及び同平石吉広(以下「平石」という。)は、昭和六二年三月三一日まで、国鉄の東京南鉄道管理局(以下「東京南局」という。)内の職場に勤務し、東京地本所属の組合員であった。

控訴人補助参加人新山貞夫(以下「新山」という。)は、昭和六二年三月三一日まで、国鉄の東京西鉄道管理局(以下「東京西局」という。)、東京北鉄道管理局(以下「東京北局」という。)及び東京南局内の各職場に勤務し、東京地本所属の組合員であった。

(三) 横浜支部は、東京地本の下部組織であって、被控訴人東日本及び被控訴人日本貨物の神奈川県内の事業地域のうち、横浜市及び川崎市を中心とする地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。

(四) 国府津支部は、東京地本の下部組織であって、被控訴人東日本及び被控訴人日本貨物の神奈川県内の事業地域のうち、小田原市を中心とする地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。

(五) 東日本本部は、国労の下部組織であって、被控訴人東日本の事業地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。

(六) 仙台地本は、東日本本部の下部組織であって、被控訴人東日本の事業地域のうち、宮城県及び福島県を中心とする地域の職場に勤務する職員等によって組織される労働組合である。

控訴人補助参加人佐藤昭一(以下「佐藤」という。)及び同菅原次男(以下「菅原」という。)は、昭和六二年三月三一日まで、国鉄の仙台鉄道管理局管内の職場に勤務し、仙台地本所属の組合員であった。

(七) 静岡地本は、国労の下部組織であって、被控訴人東海の静岡支社等の関係各業務機関、被控訴人日本貨物静岡支店等の職員によって組織される労働組合である。

控訴人補助参加人野田紀泰(以下「野田」という。)は、昭和六二年三月三一日まで、国鉄の静岡鉄道管理局管内の職場に勤務し、静岡地本の下部組織である沼津支部保線区分会所属の組合員であった。

4  本件各命令に係る救済申立ての対象者(各事件甲一、弁論の全趣旨)

(一) 本件命令一関係(松本ら九名)

本件命令一に係る救済申立ての対象者は、松本繁崇、高橋徹、岡英男、三坂和秀、鎌田隆一、高森芳隆及び原田洋一(以下「松本」、「高橋徹」、「岡」、「三坂」、「鎌田」、「高森」及び「原田」という。)並びに前記の山下及び平石の九名(以下「松本ら九名」という。)である。

松本ら九名は、後記三1の「職員管理調書」の調査対象期間の始期とされた昭和五八年四月から、同人らが清算事業団に所属することとなった昭和六二年四月一日までの間、東京南局管内の各職場に勤務しており、そのうち松本、山下、平石、岡、三坂、高橋徹、高森及び原田は、横浜支部の組合員、鎌田は、国府津支部の組合員であった(なお、その間、鎌田は、昭和六一年六月から同年九月まで、原田は、昭和五八年九月から昭和六二年三月まで、それぞれ組合専従として休職していた。)。

松本ら九名のうち、本訴の対象者とされているのは、本件命令一において、被控訴人東日本又は被控訴人日本貨物の不当労働行為が認定され、「被控訴人東日本及び被控訴人日本貨物は、被控訴人東日本にあっては松本及び山下を、被控訴人日本貨物にあっては平石及び岡を、昭和六二年四月一日をもって当該会社の職員に採用した者として扱わなければならない。」とされた松本、山下、平石及び岡の四名である。

(二) 本件命令二関係(新山ら八名)

本件命令二に係る救済申立ての対象者は、小林忠彦、寺内一夫、松本和明、岩城更生、森澤泰弘、伊藤義昭及び新出雅史(以下「小林」、「寺内」、「松本和明」、「岩城」、「森澤」、「伊藤」及び「新出」という。)並びに前記の新山の八名(以下「新山ら八名」という。)である。

新山ら八名は、いずれも東京地本の組合員であり、昭和五八年四月から、同人らが清算事業団に所属することとなった昭和六二年四月一日までの間、小林、寺内、森澤は、東京西局管内の各職場に、新山、松本和明、岩城及び新出は、東京南局管内の各職場に、伊藤は、東京北局管内の各職場にそれぞれ勤務していた。

新山ら八名のうち、本訴の対象者とされているのは、本件命令二において、被控訴人東日本の不当労働行為が認定され、「被控訴人東日本は、寺内及び新山を昭和六二年四月一日をもって被控訴人東日本の職員として採用した者として扱わなければならない。」とされた寺内及び新山の二名である。

(三) 本件命令三関係(佐藤ら二名)

本件命令三に係る救済申立ての対象者は、千葉伍郎(以下「千葉」という。)及び佐藤の二名である。

千葉及び佐藤は、いずれも仙台地本の組合員であり、昭和五八年四月から、同人らが清算事業団に所属することとなった昭和六二年四月一日までの間、仙台鉄道管理局管内の各職場にそれぞれ勤務していた(なお、その間、千葉は、昭和五八年一〇月から昭和六〇年九月まで及び昭和六一年三月から昭和六二年四月まで、佐藤は、昭和六〇年一月から昭和六二年三月まで、それぞれ組合専従として休職していた。)。

千葉及び佐藤のうち、本訴の対象者とされているのは、本件命令三において、被控訴人東日本の不当労働行為が認定され、「被控訴人東日本は、佐藤を昭和六二年四月一日をもって被控訴人東日本の職員として採用した者として扱わなければならない。」とされた佐藤である。

(四) 本件命令四関係(菅原ら六名)

本件命令四に係る救済申立ての対象者は、上遠野武、高橋敏夫、佐藤正則、遠藤一彦、田谷良一(以下、「上遠野」、「高橋敏夫」、「佐藤正則」、「遠藤」及び「田谷」という。)及び菅原の六名(以下「菅原ら六名」という。)である。

菅原ら六名は、いずれも仙台地本の組合員であり、昭和五八年四月から、同人らが清算事業団に所属することとなった昭和六二年四月一日までの間、仙台鉄道管理局管内の各職場にそれぞれ勤務していた。

菅原ら六名のうち、本訴の対象者とされているのは、本件命令四において、被控訴人東日本の不当労働行為が認定され、「被控訴人東日本は、菅原を昭和六二年四月一日付をもって被控訴人東日本の職員として採用した者として扱わなければならない。」とされた菅原である。

(五) 本件命令五関係(野田)

本件命令五に係る救済申立ての対象者は、野田である。

野田は、沼津支部の組合員であり、昭和五八年四月から、野田が清算事業団に所属することとなった昭和六二年四月一日までの間、静岡鉄道管理局管内の各職場にそれぞれ勤務していた。

本件命令五は、被控訴人東海の不当労働行為を認定し、「被控訴人東海は、野田を昭和六二年四月一日付をもって被控訴人東海の職員として採用した者として扱わなければならない。」としたものであり、野田は、本訴の対象者となっている。

5  国労以外の他組合

国鉄時代には、国鉄の職員等で組織される労働組合としては、国労のほか、昭和二六年五月に結成された国鉄動力車労働組合(以下、「動労」という。)、昭和四三年一〇月に結成された鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)、昭和四六年四月に結成された全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。)、昭和四九年三月に結成された全国鉄動力車労働組合(以下「全動労」という。)、昭和六一年四月に結成された真国鉄労働組合(以下「真国労」という。)、同年一二月に結成された日本鉄道労働組合(全施労、真国労等が統合。以下「日鉄労」という。)等があったが、このうち、動労、鉄労、日鉄労等は、昭和六二年二月に全日本鉄道労働組合総連合会(以下「鉄道労連」という。)を結成した。

また、昭和六二年一月以降、国労からの脱退者らにより結成された東日本鉄道産業労働組合等は、同年二月二八日、日本鉄道産業労働組合総連合会(以下「鉄道総連」という。)を結成した。

二  国鉄改革の経緯

1  第二次臨時行政調査会の答申

(一) 国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来、経営悪化の一途をたどり、昭和五五年度までの間に数次にわたって経営再建計画を実施したが、事態は好転せず、巨額の累積債務を抱えるに至った。また、国鉄のいわゆる年金財政も年々逼迫度を加えていった。

このような状況の中で、昭和五六年三月に発足した第二次臨時行政調査会(以下「臨調」という。)は、昭和五七年七月三〇日、「行政改革に関する第三次答申-基本答申-」(以下「臨調答申」という。)を政府に提出した。

臨調答申には、

<1> 五年以内の国鉄の分割・民営化

<2> 再建に取り組むための推進機関(国鉄再建監理委員会)の設置

<3> 新経営形態移行までの間、緊急に講ずべき措置(職場規律の確立、新規採用の停止など一一項目の実施等)

が提言されていた。

政府は、同年八月一〇日、この答申を最大限尊重すること、所要の施策を実施に移すこと等を閣議決定した。

(二) 政府は、昭和五七年九月二四日、閣議において、五年以内での国鉄事業の再建・職場規律の確立等の緊急対策を含む「今後における行政改革の具体的方策について」を決定した。

また、政府は、同日、「国鉄の経営は、未曾有の危機的状況にあり、一刻の猶予も許されない非常の事態に立ち至っている。今やその事業の再建は国家的課題であり、政府は、総力を結集してこれに取り組む所存である。」との声明を発表した。

2  国鉄再建監理委員会の答申

(一) 昭和五八年五月一三日、日本国有鉄道の経営する事業の再建に関する臨時措置法(以下「国鉄再建監理委員会設置法」という。)が成立し、これに基づき、同年六月一〇日、日本国有鉄道再建監理委員会(以下「監理委員会」という。)が設置された。

(二) 監理委員会は、昭和五八年八月二日、国鉄における職場規律の確立、私鉄並みの経営効率化、赤字ローカル線の廃止等を内容とする「日本国有鉄道の経営する事業の経営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する「第一次緊急提言」を政府に提出した。

(三) 監理委員会は、昭和五九年八月一〇日、国鉄について分割・民営化の方向で再建の具体策を検討する必要があるとし、生産性及び要員配置を私鉄並みとすること、地方交通線廃止等を内容とする「第二次緊急提言」を政府に提出した。

(四) 監理委員会は、昭和六〇年七月二六日、「国鉄経営が破綻した原因は、公社という制度の下で巨大組織による全国一元的な運営を行ってきたことにあり、現行制度における再建はもはや不可能であるかち、国鉄事業を再生させるには昭和六二年四月一日を期して分割・民営化を断行するしか道はない。」との趣旨を含む「国鉄改革に関する意見-鉄道の未来を拓くために-」と題する最終答申(以下「監理委員会答申」という。)を政府に提出した。

監理委員会答申によると、国鉄改革の具体的方法は、

<1> 国鉄の旅客鉄道部門を北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州の六旅客鉄道会社に分割するとともに、新幹線は別主体が一括保有してこれを旅客鉄道会社に貸し付け、研究所等を独立させる、

<2> 昭和六二年度における旅客鉄道事業を遂行するための適正要員規模を一五万八〇〇〇名とみて、これにバス事業、貨物部門、研究所等で必要な二万五〇〇〇名(うち貨物部門一万五〇〇〇名弱)を加えて、全体の適正要員規模を一八万三〇〇〇名と推計し、これに六旅客鉄道会社の適正要員の二割程度の約三万二〇〇〇名を上乗せして、新事業体発足時の要員規模を二一万五〇〇〇名とする、

<3> 昭和六二年四月時点で見込まれる約九万三〇〇〇名の余剰人員のうち、右<2>の適正要員に上乗せした約三万二〇〇〇名を除く約六万一〇〇〇名については、新事業体移行前に約二万名の希望退職者を募集し、残りの約四万一〇〇〇名を再就職のための対策を必要とする職員として国鉄の清算法人的組織の「旧国鉄」に所属させ、三年間で転職させる、

<4> 貨物部門については、全国一元的な経営体制が適切と考えられるが、昭和六〇年一一月までに実行可能な具体案を作成する、

等の内容であった。

(五) 国鉄は、監理委員会答申を踏まえ、昭和六〇年一〇月九日、「今後の要員体制についての考え方」と題する書面により、同答申に沿う分割・民営化を前提とし、職員八万六二〇〇名の削減方針を発表し、国鉄の各組合に提案した。

政府は、昭和六〇年一〇月一一日、同答申に沿った「国鉄改革のための基本的方針」を閣議決定し、同年一二月一三日、各省庁が昭和六一年には職員採用数の一〇パーセント以上を、昭和六二年度から昭和六五年度当初までは職員採用数の一定割合を下回らない数以上を国鉄職員から採用すること、さらに特殊法人、地方公共団体、一般産業界に国鉄職員の採用を要請すること等を内容とする「国鉄余剰人員雇用対策の基本方針」を閣議決定した。そして、官房長官が、政府として公的部門に三万名の雇用の場を確保すると発表した。

国鉄総裁は、昭和六〇年一二月一三日、右閣議決定を受けて、「……余剰人員対策が最も大きな問題の一つであり、政府に『国鉄余剰人員雇用対策本部』が設置され、国鉄としても国鉄関連企業を始めとして、関連機関へ余剰人員受入れ要請を行うなど、対策が進みつつあるが、解決に当たっては、政府を始め一般産業界及び国民各位のご支援が不可欠であり、……ご理解を是非ともお願いしたい。」旨の談話を発表した。そして、国鉄は、国鉄関連企業・公的部門・一般産業界に対し、あらゆる機会をとらえて、雇用の場の確保に向けての取り組みを行った。

運輸省は、昭和六〇年一一月、「新しい貨物鉄道会社のあり方について」と題し、「目標とする適正要員数は約一万名とするが、新会社発足時に直ちにこれを実現することには無理があるので、これに二割程度上乗せした一万二五〇〇名程度とし、その差については合理化の進展、事業活動の拡大、関連事業の展開に逐次充当することとする。」との報告を監理委員会に行った。

3  国鉄改革関連法の成立

(一) 政府は、昭和六一年二月一二日、<1>日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律(以下「六一年緊急措置法」という。)の法案を、同年三月三日に、<2>改革法、<3>鉄道会社法、<4>新幹線鉄道保有機構法、<5>清算事業団法、<6>日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法(以下「再就職促進法」という。)の各法案を、同月一八日に、<7>鉄道事業法、<8>日本国有鉄道改革法等施行法(以下「改革法等施行法」という。)、<9>地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(右<2>ないし<9>の法律を併せて、以下「国鉄改革関連八法」という。)の各法案を、それぞれ国会に提出した。

このうち、国鉄職員の希望退職制度を主な内容とする六一年緊急措置法は、昭和六一年五月二一日に成立し、同月三〇日に公布された。残りの国鉄改革関連八法の各法案は、衆議院の解散により廃案となったが、同年九月一一日、国会に再提出され、同年一一月二八日に成立し、同年一二月四日に公布された。

(二) 国鉄改革関連八法によれば、国鉄による鉄道事業等の経営が破綻し、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応しうる新たな経営体制を実現するため、国鉄の経営形態の抜本的な改革を行うこととし(改革法一条)、このため、<1>改革の時期を昭和六二年四月一日とし(改革法五条)、<2>国鉄の旅客鉄道事業を分割して被控訴人東日本ほか五つの旅客鉄道株式会社(以下「旅客会社」という。)に引き継がせ、国鉄の貨物鉄道事業を分離して被控訴人日本貨物に引き継がせ(改革法六条ないし一一条)、<3>承継法人に承継されない資産、債務等の処理業務を清算事業団に行わせ(改革法一五条)、<4>国鉄から移行した清算事業団が、旅客会社及び被控訴人日本貨物の唯一の株主となる(鉄道会社法附則五条及び清算事業団法附則二条)こととしている。

(三) 改革法二三条は、承継法人の職員の採用手続につき、概ね次のとおり定めている。

<1> 承継法人の設立委員(鉄道会社法附則二条一項参照)等は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準(以下「採用基準」という。)を提示して、職員の募集を行うものとする(一項)。

<2> 国鉄は、右<1>によりその職員に対し労働条件及び採用基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る同項の採用基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出するものとする(二項)。

<3> 採用候補者名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員等から採用する旨の通知を受けた者であって昭和六二年三月三一日現在国鉄職員であるものは、承継法人の職員として採用される(三項)。

<4> 承継法人の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してされた行為とする(五項)。

<5> 前記<3>により国鉄職員が承継法人の職員となる場合には、その者に対しては、国家公務員等退職手当法に基づく退職手当は支給しない。この場合、承継法人は、その承継法人の職員の退職に際し、退職手当を支給しようとするときは、その者の国鉄職員としての引き続いた在職期間を当該承継法人の職員としての在職期間とみなして取り扱うべきものとする(六項及び七項)。

(四) 承継法人に採用されない国鉄職員は、清算事業団の職員となり、昭和六二年四月一日から三年間清算事業団がその再就職促進の業務を行うこととされている(清算事業団法一条二項及び再就職促進法一条、附則二条等)。

(五) 運輸大臣は、国鉄改革関連八法の各法案に関する国会審議の過程で、昭和六一年一一月二五日、参議院の日本国有鉄道改革に関する特別委員会(以下「参議員特別委員会」という。)において、改革法に基づく承継法人の職員の採用手続等に関する質問に対し、「……あくまでもこの基準というものは設立委員がお決めになるものであるが、私はその内容について、所属する労働組合によって差別が行われるようなものであってはならないと思う。採用基準の中に勤務成績が取り上げられ、その中で処分歴が判断要素とされる場合でも、いわゆる労働処分というものを具体的に明示するような形で勤務成績を示すようなことはあり得ないと思うし、あってはならないと思う。」旨答えた。

また、運輸大臣は、改革法に基づく採用事務に関する設立委員と国鉄との関係について、「国鉄当局の立場と申しますものは、設立委員などの採用事務を補助する立場でございます。法律上の考え方で申しますならば、民法に照らしていえば準委任に近いものでありますから、どちらかといえば代行と考えるべきではなかろうかと考えております。」と答え、同委員会において、政府委員も「いわゆる名簿作成等につきまして国鉄がこれを行うこと、……これは法律的に見ますと事実行為の委託といいますか、……法律的にいいますと民法でいうところの準委任、これに近いものであろうというふうに思います。」などと同趣旨の答弁を繰り返した。

さらに、参議院特別委員会は、昭和六一年一一月二八日、国鉄改革関連八法の法案採決に際し、政府に対し、「各旅客鉄道株式会社等における職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること。」との項目を含む附帯決議を行った。

国鉄改革関連八法は、同日、成立した。

(六) 国鉄は、昭和六一年一二月三日、国鉄改革関連八法の成立を受けて、各承継法人への移行に係わる業務を円滑かつ確実に推進するため、本社に副総裁を長とする移行推進委員会を設け、また、各承継法人ごとに設立移行準備室を本社内に設置した。

なお、採用候補者名簿の作成等承継法人の職員の採用関係業務は、本社の職員局をはじめとする人事担当部局が行った。

(七) 運輸大臣は、昭和六一年一二月四日、鉄道会社法附則二条一項に規定する設立委員として、改革法六条二項に規定する旅客会社及び貨物会社(これら七法人を併せて以下「鉄道会社」という。)に共通するものとして一六名を、各会社に独自のものとして二名ないし五名(被控訴人東日本にあっては三名、被控訴人東海及び被控訴人日本貨物にあっては各二名)を、それぞれ任命した。このうち、鉄道会社に共通する委員には、関係省庁の事務次官らとともに杉浦喬也国鉄総裁(以下「杉浦総裁」という。)が含まれており、被控訴人らの設立委員会委員長には斉藤英四郎が就任した。

なお、鉄道会社法附則二条一項及び二項は、設立委員は、鉄道会社の設立に関しての発起人の職務及び改革法二三条に定める職務を行うほか、鉄道会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができると規定している。

4  承継法人の職員の募集、採用等

(一) 昭和六一年一二月一一日、鉄道会社合同の第一回設立委員会が開催されて、「国鉄改革のスケジュール」(甲事件乙一七の3)が確認され、「新会社の職員の労働条件についての基本的な考え方」及び各会社の採用基準が決定された。

これらによれば、国鉄改革のスケジュールとしては、(1) 設立委員は鉄道会社の労働条件及び採用基準を決定し、国鉄に通知する(同月)、(2) これを受けて、国鉄は職員の配属希望調査を行い(同月から昭和六二年一月までの間)、これを集計・分析・調整した上、採用候補者名簿を作成して設立委員に提出する(同年二月)、(3) 設立委員は職員を選考して採用者を決定する(同月)、(4) 設立委員は鉄道会社での配属を決定して国鉄に内示し、国鉄はこれによって配転計画を策定して異動の発令を行う(同年四月)こととし、労働条件については、基本的に国鉄での労働条件を大幅に変更しないよう配属するとされた(甲事件乙一七の1ないし4)。

鉄道会社共通の採用基準は、

<1> 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること(医師を除く。)、

<2> 職務遂行に支障のない健康状態であること、

なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること、

<3> 日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること、

なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を、日本国有鉄道における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること、

<4> 「退職前提の休職」(日本国有鉄道就業規則〔昭和六〇年六月総裁達第一二号〕六二条(3) ア)を発令されていないこと、

<5> 「退職を希望する職員である旨の認定」(六一年緊急措置法四条一項)を受けていないこと、

<6> 日本国有鉄道において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年度当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないこと、

というものであり(ただし、被控訴人日本貨物の採用基準には前記<1>中の「(医師を除く。)」との記載はない。)、さらに被控訴人東日本及び被控訴人東海の採用基準には、「なお、日本国有鉄道本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を行っている職員からの採用のほか、当社が事業を運営する地域内の業務を担当する地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮するものとする。また、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員及び北海道又は九州内の地方機関に所属する職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。」との文言が、被控訴人日本貨物の採用基準には、「なお、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員からの採用については、特段の配慮をするものとする。」との文言が、それぞれ付されていた。

(二) 政府は、昭和六一年一二月一六日、改革法一九条一項に基づき、「日本国有鉄道の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画」(以下「基本計画」という。)を閣議決定し、この中で国鉄の職員のうち承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数を定めた。それによると、承継法人全体の職員数は二一万五〇〇〇名であり、被控訴人東日本にあっては八万九五四〇名、被控訴人東海にあっては二万五二〇〇名、被控訴人日本貨物にあっては一万二五〇〇名であった。

(三) 昭和六一年一二月一九日に開催された鉄道会社合同の第二回設立委員会において、鉄道会社における職員の就業の場所、従事すべき業務等の「労働条件」の細部が決定され、右(一)の採用基準とともに国鉄に提示された。この労働条件のうち、有給休暇については、「有給休暇の付与日数の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含めるとともに、付与の条件を過去一年間の出勤率八割以上とする。」こと、また、退職手当については、改革法二三条七項に基づき、「退職手当の算定基礎となる在職期間に国鉄での在職期間を含める。」こととされた。

なお、改革法等施行法二九条一項は、国鉄職員であったものの懲戒処分の取扱いについて、「旧国鉄法第三一条の規定により受けた懲戒処分及び改革法附則第二項の規定の施行前の事案に係る懲戒処分については、なお従前の例による。この場合において、同項の規定の施行後に懲戒処分を行うこととなるときは、清算事業団の代表者またはその委任を受けた者が懲戒処分を行うものとする。」と定めている。

(四) 国鉄は、昭和六一年一二月二四日、前記(一)<1>ないし<6>の採用基準に該当しないことが明白な者を除く職員約二三万〇四〇〇名に対し、承継法人の労働条件と採用基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配付し、昭和六二年一月七日正午までに提出するよう示達した。

昭和六二年一月七日までに意思確認書を提出した国鉄職員は、二二万七六〇〇名で、そのうち承継法人への就職希望者数は二一万九三四〇名(第一希望のみ。第二希望以下を含めると延べ五二万五七二〇名。)であった。このうち、被控訴人東日本への就職申込数は延べ一一万三三五〇名、被控訴人東海への就職申込数は延べ七万一六三〇名、被控訴人日本貨物への就職申込数は延べ九万四四〇〇名であった。

本件救済対象者の松本、山下、寺内、新山、佐藤及び菅原は被控訴人東日本を、野田は被控訴人東海を、平石及び岡は被控訴人日本貨物を、それぞれ第一希望として意思確認書を提出した。

(五) 国鉄は、昭和六二年一月中旬ころまでに、前記(一)の第一回設立委員会で示された被控訴人らの採用基準のうち、「日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること。」との基準について、一定の重い処分を受けた者、具体的には昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿に登載しないこととする方針を定めた。

そして、国鉄は、後記三1の職員管理調書の内容と従前から各鉄道管理局ごとに作成されていた職員管理台帳の内容を併せてコンピューターに入力し、この内容に基づき、前記方針の下に被控訴人らの職員となるべき者(以下「採用候補者」という。)の具体的な選定作業を行い、被控訴人らの採用候補者名簿を作成した。

本件救済対象者は、いずれも採用候補者名簿に登載されなかった。

(六) 国鉄は、昭和六二年二月七日、鉄道会社の採用候補者名簿を鉄道会社の各設立委員会に提出した。

国鉄は、同名簿を各設立委員会に提出するに際して、「新会社の職員となるべき者の選定結果について」と題する書面を添付した。同書面には、承継法人別就職申込数及び採用候補者名簿記載数等に加えて、「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」として、「在職期間中の勤務の状況からみて、明らかに新会社の業務にふさわしくないと判断される者については、名簿記載数が基本計画に示された数を下回る場合においても同名簿に記載しなかった。派遣経験者、直営売店経験者、復職前休職者など多方面の分野を経験した者については、最大限、同名簿に記載した。」旨、また、「選定作業結果」として、「北海道、九州にあっては、希望者数が採用予定数を大きく上回る状況の中での選定となったが、一方、東日本旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社においては、希望退職及び公的部門の一括選抜の進展もあり、名簿記載数が基本計画で示された数を下回る結果となった。なお、いずれの会社においても、会社の業務の円滑な運営を行っていくために必要な要員は確保されている。」旨が記載されていた。

承継法人の採用候補者名簿に登載された職員数は二〇万五五八六名であり、基本計画の職員数を九四一四名下回っていた。このうち、被控訴人東日本、被控訴人東海及び被控訴人日本貨物の採用候補者名簿に登載された職員数はそれぞれ八万四三四三名、二万一九四一名及び一万二二八九名で、基本計画の職員数を被控訴人東日本が五一九七名、被控訴人東海が三二五九名、被控訴人日本貨物が二一一名下回っていた。

(七) 昭和六二年二月一二日に開催された鉄道会社合同の第三回設立委員会において、国鉄から、右(六)の「新会社の職員となるべき者の選定にあたっての考え方」及び「選定作業結果」が説明され、国鉄が提出した鉄道会社の採用候補者名簿に登載された者全員を当該鉄道会社に採用することが決定された。

(八) 鉄道会社の各設立委員会は、昭和六二年二月一六日以降、採用を決定した者(以下「採用予定者」という。)に対し、国鉄を通じて、各設立委員会委員長名で同日一二日付けの「採用通知」を交付したが、本件救済対象者には採用通知は交付されなかった。

「採用通知」を受けた者のうち、承継法人全体で四九三八名、被控訴人東日本で一八七一名、被控訴人東海で五三一名(甲事件乙一八一)、被控訴人日本貨物で二八〇名が採用を辞退した。

(九) 国鉄は、昭和六二年三月四日、改革法一九条五項に基づき、「国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画」(以下「実施計画」という。)を運輸大臣に提出した。運輸大臣は、同月二〇日、右実施計画を認可した。

実施計画によると、承継法人は、国鉄の事業及び業務の大部分を引き継ぐとともに、国鉄資産の大半、長期債務の相当部分を帳簿価格により承継した。残りの資産及び債務は清算事業団が承継し、鉄道会社の設立時に発行する株式はすべて国鉄が引き受け、これは同年四月一日以降、清算事業団に帰属することとされていた。

5  鉄道会社の役員の選任等

昭和六二年三月一七日に開催された鉄道会社合同の第四回設立委員会において、鉄道会社の定款の案、取締役及び監査役の候補者、創立総会の日程等が決定された。

同月二三日から二五日にかけて、鉄道会社の各設立総会が開催され(被控訴人東日本及び被控訴人日本貨物については、同月二三日、被控訴人東海については同月二四日)、右各設立委員会の決定のとおり、役員の選任等が行われた。それによると、鉄道会社の代表取締役及び非常勤役員には国鉄出身者以外の者が多く選任されたが、常勤取締役の大半は国鉄の役員又は管理職であった者が選任され、被控訴人東日本の常勤役員の場合は一七名のうち一一名が、被控訴人東海の常勤役員の場合は一三名のうち九名が、被控訴人日本貨物の常勤役員の場合は一一名のうち六名が、国鉄の役員または管理職であった者であった。

6  承継法人等の発足

昭和六二年四月一日、承継法人及び清算事業団が発足し、実施計画に基づき、国鉄の行っていた事業の大部分は旅客会社等の承継法人に引き継がれ、残余の資産、債務の処理業務及び承継法人に採用されなかった職員の再就職の促進を図るための業務が清算事業団に移行した。

これに伴い、承継法人に採用された者は、退職届を提出し、同年三月三一日に国鉄を退職し、同年四月一日、承継法人の発足と同時に当該承継法人の職員となり、他方、不採用者は、再就職を必要とする清算事業団職員となった。なお、清算事業団法一七条は、清算事業団の職員は理事長が任命すると規定しており、承継法人への不採用者については清算事業団の理事長により任命手続が行われている。

7  清算事業団の再就職促進基本計画決定等

昭和六二年六月五日、再就職促進法一四条に基づき、「清算事業団職員の再就職促進基本計画」(以下「再就職促進基本計画」という。)が閣議決定された。この計画では、同法に基づき、三年以内に再就職目標を達成するため、承継法人、清算事業団及び国等の講ずべき措置を定めている。

同年四月一日の清算事業団発足時において再就職を必要とする職員は、再就職先未決定者が七六二八名、主として公的部門に再就職先が内定し、就職決定を待っている者(以下「公的部門等採用内定者」という。)が一万一二四九名の合計一万八八七七名であったが、平成元年六月一日までに、再就職先未決定者のうち五〇一〇名の再就職先が決定し、公的部門等採用内定者のうち九二三五名が国家公務員、地方公務員等に正式採用され、合計一万四二四五名の再就職先が決定した。このうち承継法人の各鉄道会社に追加採用された者は、二二七一名であった。

なお、再就職促進法は平成二年四月一日に失効し、同日までに再就職していない一〇四七名は、清算事業団を解雇された。

三  国鉄における労使関係等

1  職員管理調書の作成

国鉄は、昭和六一年三月五日、職場規律総点検のため職員個人の意識・意欲の実態把握を全国統一的に行い、今後の職員管理に活用するため、職員管理台帳に加え、職員管理調書を作成するよう各鉄道管理局長等宛に指示した。

職員管理調書の調査対象者は、同年四月二日現在の管理職及び退職前提休職者を除く一般職員約二五万名とされ、調査対象期間は、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までの三年間とすることとされていた。

職員管理調書の調査項目は、「基本事項」、「特記事項」、「評定事項」の三つに区分されていた。特記事項には、一般処分及び労働処分の種類ごとの回数及び時期並びに昇給等に関する項目があり、処分については「発令日ベースではなく、通告日ベースで記入すること。」とされ、「労働処分については、昭和58年7月2日処分通知を行った『58・3闘争』から記入すること。」とされていた。また、評定事項には、<1>業務知識、技能等、<2>職場の秩序を乱す行為(点呼妨害、体操不参加、管理者への暴言等を含む)の有無、<3>リボン、ワッペン、氏名札、安全帽、あご紐、ネクタイ等について、指導された服装をしているか、指導されたらそれに従うか否か、<4>勤務時間中の組合活動の有無、<5>国鉄の厳しい現状を認識し、業務に取り組んでいるか、等の項目があった。

また、国鉄は、昭和六一年一〇月一六日に開催したブロック別総務部長会議において、職員管理調書の内容を充実させるために、同月一日現在までの内容を盛り込むこととする等データを最新のものとし、これによって見直した職員管理調書を同月末までに作成するよう指示した。

2  職場規律の総点検と規律の是正をめぐる対立

(一) 国労は、前記二1の昭和五六年三月に発足した臨調の審議の過程で高まってきた国鉄の分割・民営化の考え方に対し、「公共交通としての国鉄と国鉄労働者の雇用と職場を守る」という立場から、<1>運賃が利用者の負担増になること、<2>運賃収入の配分が複雑になること、<3>全国ネットのダイヤが崩壊すること、<4>事故対応が遅れること、<5>貨物の広域輸送が困難になること、<6>非採算線区の廃止につながること、<7>労働条件が低下すること、<8>九万二〇〇〇名が職場を失うこと等を理由に、以後一貫して国鉄の分割・民営化に反対した。同様にこれらを危惧した動労、全施労及び全動労は、国労とともに、昭和五七年三月九日、国鉄再建問題四組合共闘会議を結成した。同会議は、国鉄の分割・民営化に反対する運動に取り組んだ。

(二) 昭和五七年初めころ、ブルートレインの検査係に対して実際に乗務していないのにもかかわらず、国鉄が乗務手当を支給していたいわゆる「ヤミ手当」支給問題や組合員による現場管理職に対する突上げ等国鉄の職場規律に乱れがあることが新聞等で報道されたことや前記二の1及び2の臨調及び監理委員会等からの指摘もあって、国鉄の職場規律の乱れが問題とされ、その是正をめぐり労使間で見解が対立するようになった。

運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し「国鉄の再建のためには、国鉄の労使関係を健全化し、職場規律の確立を図ることが必須の条件である。」として、「ヤミ手当、悪慣行全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じる」ように指示した。これを受けて、国鉄は、同月五日、全国の各機関の長に対し、いわゆる「ヤミ協定」、勤務時間中の組合活動、リボン・ワッペンの着用、呼名点呼、安全帽着用、突発休、現場協議制度の運用実態等約六〇項目にわたる職場規律の総点検を同月末日までに実施するよう指示した。以後毎年二回、昭和六〇年九月末までに八次にわたって職場規律の総点検が実施された。その結果、「ヤミ手当」等の慣行は徐々に解消したが、是正されない項目もみられ、ワッペンの着用の禁止については、国労及び全動労が分割・民営化に反対する運動の中で着用闘争を行ったこともあって、所期の目的を達成することができなかった。

また、国鉄は、臨調答申等を受けて、議員兼職制度の廃止、無料乗車制度の変更等を各組合に提示して実施した。そして、これまでの就業時間中の洗身入浴等労使間の慣行及び協定を大幅に変更した。このため、これらに関して国鉄と国労との対立が生じ、国鉄の方針に従わない場合は賃金カットや昇給額カットのほか懲戒処分の対象とした例もみられた。

(三) 国鉄と各組合との間には、昭和四三年に締結された「現場協議に関する協約」があり、同協約に基づき、職場における諸問題を現場の労使間で協議していた。しかし、昭和五七年七月一九日、国鉄は、前記職場規律の総点検の結果現場協議制には開催時間が長時間にわたる等多くの問題点があるとして、国労、全動労、動労、鉄労及び全施労(動労、鉄労及び全施労の三労組を以下「動労ら」という。)に対して、協議対象の明確化や開催回数、時間数等の制限を内容とする同協約の改定案を提示し、同年一一月三〇日までに交渉がまとまらなければ同協約を破棄すると通告した。

動労らは、右改定案を受け入れて、同日、改定協約を締結したが、国労及び全動労は改定案に反対し、結局妥結に至らず、同年一二月一日以降、両組合については同協約は失効した。

3  余剰人員調整策をめぐる対立及び雇用安定協約の破棄

(一) 国鉄においては、昭和五九年二月のダイヤ改正に伴う貨物輸送部門の合理化等により、同年四月一日当時で約二万四五〇〇名の余剰人員が生じた。そこで国鉄は、同年六月五日、<1>退職制度の見直し、<2>休職制度の改訂・拡充、<3>派遣制度の拡充という三項目を含む余剰人員調整策(以下「余剰人員調整策」という。)を発表し、同年七月一〇日、その細目を各組合に提示した。しかし、国労は、国鉄の提案が出向(派遣)と休職の二者択一を迫るもので雇用不安を増大させ事実上の首切りにつながるとして反対した。

(二) これに対し、国鉄は、右(一)記載の三項目の制度の早急な整備及び有効な活用を前提として、当面においては国労と国鉄との間で締結されている「雇用の安定等に関する協約」(以下「雇用安定協約」という。)を存続させるとして、昭和五九年一〇月九日までに余剰人員調整策について妥結を求めたが、結局国労とは妥結に至らず、同月一一日、国労に対し、昭和六〇年一月一一日をもって雇用安定協約を破棄する旨通告した。雇用安定協約とは、昭和四六年三月二日に国労との間で締結された「機械化、近代化及び合理化等の実施にあたっては、<1>雇用の安定を確保するとともに、労働条件の維持改善を図る。<2>本人の意に反する免職及び降職は行わない。<3>必要な転換教育等を行う。」旨の協約であった。

しかし、国鉄と国労は、公労委の仲裁裁定に基づき、昭和六〇年四月九日、「職員の派遣の取扱いに関する協定」、「職員の申出による休職の取扱いに関する協定」及び「特別退職に関する協定」を締結し、雇用安定協約についても有効期間を同年一一月三〇日までとする「覚書」を締結して、余剰人員調整策をめぐる問題の一応の決着をみた。

(三) ところが、国労組合員は、国鉄が派遣、休職等を事実上強要しているとして、全国各地で「やめない、休まない、出向かない」と書いた壁新聞を掲示する等の運動(以下「三ない運動」という。)を展開した。そこで、国鉄は、昭和六〇年五月二五日、国労に対し、このような運動の指導を中止するよう申し入れた。さらに、国鉄は、国労に対し、その後も国労の地方本部大会等において「三ない運動」を勧める方針がとられているとして、同年一〇月二四日付け文書で、国労が協定当事者として「三ない運動」の中止を指導せず余剰人員調整策に非協力な態度を続けるなら雇用安定協約を再締結することにはならない旨を申し入れた。国労は、同年一一月一九日からの拡大中央委員会において、前記(二)の協定による派遣等のための募集行為を妨げないこと及び本人の自由な意思表示を妨げないことを決定した。

(四) 国鉄は、昭和六〇年一一月三〇日、国労に対し、「三ない運動」の中止が地方組織に徹底していることが確認できないとして、雇用安定協約の継続締結を拒否する旨を通告した。これにより、同年一二月一日以降国労との間の協約は失効した。

一方、国鉄は、動労らとの間では同日以降も雇用安定協約を継続して締結した。

4  進路希望アンケート調査の実施

国鉄は、昭和六〇年一二月一一日、昭和六一年度の転職希望者を把握するため、全職員を対象に国の機関及び地方自治体等への転職希望に関する進路希望アンケート調査を実施すると発表した。調査項目には、新事業体に対する進路希望が含まれていたこともあって、国労は、同月一三日、「調査には組織的に対処し、一二月一七日までアンケートへの回答はしないこと。」との闘争指令を発し、また、同月二五日、「アンケートについては組合員個人が記入することとし、記事欄に『私は分割・民営に反対です。引き続き国鉄で働くことを希望します。』と必ず記載する。」旨の闘争指令を発した。この結果、多くの国労組合員は、希望順位欄を空白にしたまま、前記のような文言を記載してこれを提出した。

5  労使共同宣言の調印の拒否

国鉄は、昭和六一年一月一三日、各組合に対し、労使共同宣言(以下「第一次労使共同宣言」という。)の案を示して、同意するよう要請した。その内容は、「国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は信頼関係を基礎として以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」として、<1>労使は安全輸送のため諸法規を遵守する、<2>リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整える、<3>必要な合理化は労使が一致協力して積極的に推進し、新しい事業運営の体制を確立する、<4>余剰人員対策について、派遣制度、退職勧奨等を積極的に推進する等の項目を挙げていた。同日、動労らは同宣言に調印した。

これに対し、国労は、提案の仕方が唐突である等としてこの案を受け取らず、同月一六日、「労使共同宣言(案)に対する態度」を発表し、同提案は労働運動・ストライキ権を否認し、労働組合に事実上分割・民営化の容認を求めるもので拒否するほかないとの見解を表明して、調印を拒否した。

6  広域異動の実施

国鉄は、昭和六一年三月四日、各組合に対し、今後国鉄改革により生ずる余剰人員の雇用の場が地域的に偏在するため雇用の場に見合った職員配置を行う必要があるので、第一陣として、北海道から約二五〇〇名の職員を東京、名古屋地区中心に、九州から約九〇〇名の職員を大阪地区中心に広域異動させたいと提案した。

これに対し、動労らは、同月一四日、第一陣の広域異動について了解し、国鉄は、同月二〇日から広域異動の募集を開始した。さらに、国鉄は、同年八月一一日、九州及び北海道地域から三四〇〇名を目標に第二陣の広域異動を行いたいと各組合に提案し、動労らとの了解のもとに同月二五日から募集を開始した。

他方、国労は、広域異動に関して団体交渉を開催するよう求め、広域異動の実施に抗議して、ワッペン着用闘争を実施した。

国鉄は、同年五月一日、北海道及び九州の職員三四六名に対し、東京、大阪等へ広域異動を行い、その後同年一二月までの間に、合計三八一八名の職員の広域異動を行った。そのうち、国労組合員は六五三名であり、動労組合員は一七九一名、鉄労組合員は五六一名、全施労組合員は六九名であった。

なお、東京地区には主として北海道から一〇八八名が転入した。

7  希望退職の募集

国鉄は、昭和六一年五月に前記二3(一)の六一年緊急措置法が成立したことから、同法に基づき二万名を目標に同年六月三〇日から希望退職の募集を開始した。希望退職に応募した職員は、最終的に予想を上回る三万九〇九二名にのぼり、昭和六二年三月末日までに全員退職した。

8  人材活用センターの設置

(一) 国鉄は、昭和六一年六月二四日、「現在約三万八〇〇〇名が余剰人員で、そのうち約一万六五〇〇名が派遣、休職の調整策に応じており、現存の余剰人員は約二万一五〇〇名であるが、余剰人員は今後さらに増加することが予想されるので、余剰人員を集中的に配置して有効活用を図っていく。そのため、本年七月から新たに全国統一的に人材活用センターを設置する。」旨を発表した。そして、同年七月一日、国鉄は、全国一〇一〇か所に人材活用センター(以下「人活センター」という。)を設置した。

(二) 人活センターに担務指定された職員の業務として、東京南局管内の人活センターでは、増収活動(団体旅行の募集、乗車券類の配達販売等)、転換教育等が行われることになっていたが、実際の作業内容としては、一部の人活センターでは、貨車の修繕・事務所の備品整備、花壇の植木の整枝・整備、ペンキ塗り、草刈り等が命じられた。

(三) それまでの運転関係職場等における余剰人員の調整は、余剰人員として特定の職員に固定することなく、ローテーション方式による予備勤務及び待命の日勤勤務に指定することにより行われていたが、このように、余剰人員が集中的に配置されたことから、人活センターへ担務指定されると承継法人には採用されないとの噂が広まった(甲事件乙八三ないし八六、四三二、四三三、弁論の全趣旨)。

(四) 昭和六一年一一月一日当時、全国における人活センターの設置個所は一五四七か所、同センターに担務指定されていた職員は、一般職員一万八八八二名、管理職員二一八八名の計二万一〇七〇名であり、その約八〇パーセントが国労組合員(当時の国労の組織率は約五〇パーセント)であった(甲事件乙八六、甲事件丙七〔甲事件丙七については枝番を省略する。以下同じ。〕)。

松本ら九名のうち、三坂及び当時東京地本の専従役員であった原田を除く七名は、いずれも東京南局管内の人活センターに担務指定された(甲事件乙三九の1、四六、四七、五〇の2、五一ないし五三、六七、六八)。

(五) 国鉄は、分割・民営化直前の昭和六二年三月上旬に実施した人事異動において人活センターへの担務指定を解き、同時に同センターを廃止した。

9  国労以外の各組合の国鉄改革に対する対応等

(一) 動労は、昭和六一年七月八日から開催された第四二回定期全国大会で、<1>国鉄改革に向け国鉄の「分割・民営化」を勧める政府案に修正を求めていく、<2>国鉄の新事業体移行という節目の中で労働組合運動強化のために一企業一組合の結成を目指す等の方針を決定した。

(二)動労ら及び真国労の四組合は、昭和六一年七月一八日、国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)を結成し、同月三〇日には、国鉄と改革労協が国鉄改革労使協議会を設置した。

(三) 国鉄と改革労協は、昭和六一年八月二七日、「今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第二次労使共同宣言)」に調印した。その内容は、<1>鉄道事業のあるべき方向として、民営・分割による国鉄改革を基本とするほかはない、<2>改革労協は鉄道事業の健全な経営が定着するまでは争議権の行使を自粛する、<3>企業人としての自覚を有し、向上心と意欲にあふれる望ましい職員像へ向けて労使が指導を徹底する等であった。

一方、国労は、同日、「国鉄改革、再建の必要性を十分認識しているが、同時にその過程で職員の雇用を完全に確保することが最大の使命であると考えている。」旨の見解を発表し、第二次労使共同宣言の調印に応じなかった。

(四) 国鉄は、昭和六一年八月二八日、昭和五〇年秋に国労及び動労等が公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)等において禁止されていたストライキ権を付与することを求めて行ったストライキ(以下「スト権スト」という。)に関し、国労及び動労を被告として提起していた総額約二〇二億円の損害賠償請求訴訟のうち、動労に対する訴えを取り下げる方針を明らかにした。その際、国鉄は、「動労は、再度の労使共同宣言でストライキ等違法行為を行わないと宣言し、新会社移行後においてもスト権行使は自粛することを宣言した。また、動労は、国鉄の諸施策に積極的に協力し、さらに『民営・分割』による国鉄改革に賛成し、これに一致協力して尽力する旨約束した。よって、動労については、当訴訟を取り下げ、動労の労使協調路線を将来にわたって定着させる礎にしたい。」旨の杉浦総裁の談話を発表し、昭和六一年九月三日、動労に対する訴えを取り下げた。

10  国労組合員の組合活動と懲戒処分

国労は、臨調答申において国鉄の分割・民営化の方針が発表された昭和五七年ころから、一貫して国鉄の分割・民営化に反対し、昭和五八年五月一三日に「国鉄再建監理委員会設置法案反対等」の二九分間のストライキ(以下「五・一三スト」という。)を、昭和五九年八月一〇日に「三項目の余剰人員調整策、特に同年九月一日からの依願休職募集開始提案の撤回、分割・民営化反対」の二時間ストライキ(以下「八・一〇スト」という。)を、昭和六〇年三月一九日に「年金法改悪反対」の二九分間のストライキ(以下「三・一九スト」という。)を、同年八月五日に「監理委員会答申に抗議し、分割・民営化阻止」の一時間のストライキ(以下「八・五スト」という。)を、それぞれ実施した。このほか、国労は、国鉄の提案した余剰人員調整策や広域異動等に反対して、断続的に順法闘争やワッペン着用闘争を行い、昭和六一年後半からは主に就業時間中の国労バッジの着用を続けた。

これに対して、国鉄は、国労組合員について、<1>昭和五九年八月四日に、五・一三スト及び同年七月六日、七日に行われた順法闘争に参加したことを理由に停職三名を含む二六〇〇名の処分を、<2>同年九月八日に、右<1>の順法闘争に参加したことを理由に公労法違反による解雇一名(東京地本の企画担当執行委員)を含む一六八〇名の処分を、<3>同年一一月二四日に、八・一〇ストに参加したことを理由に停職一六名を含む約二万三三〇〇名の処分を、<4>昭和六〇年一〇月五日に、三・一九及び八・五スト等に参加したことを理由に停職一四名を含む約六万四一三〇名の処分を、それぞれ通告した。

さらに国鉄は、ワッペン着用闘争を行ったこと等を理由に、国労組合員について、昭和六〇年九月一一日に約五万九二〇〇名の処分を、昭和六一年五月三〇日に約二万九〇〇〇名の処分を、それぞれ通告した。

なお、動労がストライキ等の闘争を実施したのは昭和五七年一二月までであり、前記三1の職員管理調書の調査対象期間である昭和五八年四月以降は、動労の指令による組合活動で処分通告を受けた動労組合員はいなかった。

11  国鉄の分割・民営化前の国労の動き

国労は、昭和六一年七月二二日から開催した定期大会(千葉大会)において、「雇用確保と組織維持のため、現実的に大胆な対応を行う。」との執行部提案に対して修正案が提出される等意見が対立し、同年九月二四日に予定されていた中央闘争委員会は、労使共同宣言の締結等の方針を提案しようとした執行部に反対する組合員の行動もあって開催できなかったが、同月三〇日に開催された中央闘争委員会においては、労使共同宣言締結の意思を明らかにした「当面する情勢に対する緊急方針」が決定された。

しかし、これを受けて同年一〇月九日から開催された臨時大会(修善寺大会)においてはこの緊急方針は否決され、従来どおり分割・民営化反対の立場を維持することが決定された。この結果、山崎俊一中央執行委員長(以下「山崎委員長」という。)ら執行部は総退陣し、新執行部が選出された。

国労の組合員数は、同年五月当時約一六万三〇〇〇名(組織率六八・三パーセント)であったが、同年七月ころから毎月一万人以上の組合員が国労から脱退した。また、前記のとおり修善寺大会で旧執行部が総退陣した後、旧執行部派は国労から大量に脱退して、昭和六二年一月以降各地域で鉄道産業労働組合を紡成し、同年二月二八日、鉄道総連を結成した(甲事件乙一六、一九、二〇の1、三〇の1、2、三四、一三八〔甲事件乙一三八については枝番を省略する。〕、一五〇、一五一、一六八、二三八、二九二ないし三一四、五一三の1ないし7、五一四、五一五、五五四、甲事件丙七)。

12  国鉄の役員、管理職らの言動

国鉄改革の諸施策を推進する政府及び国鉄に対して協力的な姿勢をとる動労等の各組合と、国鉄改革に反対する行動を展開する国労らの組合が併存する労使関係の下において、国鉄の役員、管理職らは、次のような言動をした(甲事件乙一五、二五、二六の1、八〇、八一、一六八、甲事件丙七)。

(一) 杉浦総裁は、昭和六〇年八月の鉄労の定期大会に際して、国鉄総裁として初めて労働組合の大会に出席し、国鉄改革の諸施策への協力に感謝する旨の挨拶を行い、さらに昭和六一年七月の鉄労及び動労の定期大会にも出席して同様の挨拶を行った。

(二) 昭和六一年五月二一日、動労東京地方本部の会議において、本社の葛西敬之職員局次長(以下「葛西次長」という。)は、国鉄改革問題に触れ、「……私はこれから、山崎の腹をブンなぐってやろうと思っています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということは、うまくやるということでありまして……。」との趣旨を述べた。

(三) 本社の岡田圭司車両局機械課長(以下「岡田課長」という。)は、「国鉄改革を完遂するには意識改革が大前提である。」、「職員の意識改革とは、端的に云えば、当局側の考え方を理解でき、行動できる職員であり、真面目に働く意志のある職員を、日常の生産活動を通じて作り込むということである。」、「(広域異動に関して)希望を出していながら四月一〇、一一日のワッペン闘争に参加したり、六〇年度に処分歴があったり、あるいは管理者であったりで残念ながら今回の第一次発令分からは、一九人全員が除かれました。……いくら業研や、提案で実績をあげても、ワッペン着用一回で消し飛んでしまうのです。……労使対決、あるいは対決とまでゆかなくとも職員に対して云いにくいことを云うなどということを恐れていては、職員の意識改革は不可能である。」、「イデオロギーの強い職員や話をしても最初から理解しようとしない職員、意識転換に望みを託しえない職員等は、もうあきらめて結構です。いま大切なことは、良い職員をますます良くすること、中間帯で迷っている職員をこちら側に引きずり込むことなのです。そして、良い子、悪い子に職場を二極分化することなのです。」との趣旨の昭和六一年五月付け同人名の書簡を、管下の機械区所長あてに送付した。

(四) 東京南局運転部向山総務課長(以下「向山課長」という。)は、昭和六一年七月三一日、東京地本品川電車区分会員に対し、「国労のまま、というわけにはいかない。そうすると今、雇用安定協約を締結する見込みのないところの人を俺たちが、金をかけて教育しなければならないのかということになる。そんなこといいことではないと思うよ。……今のまま、国労に入ったまんまということではどうにもならないな。どんなに意欲がどれだけあって、何があったって……そのことを僕は証明しなければならないものな。それを、国労に入ってますからではな。」、「今、国労は国鉄改革に協力していないんだし、しませんというのだから、お前がそこに居るということは、お前もそういうことだ、ということだろう。」等と話した。

13  本件救済対象者の処分歴等

(一) 松本

松本は、昭和六二年二月九日に停職六か月の処分を発令された。

処分通告時に国鉄から処分対象者に交付される事由書(甲事件乙四一〇の2。以下「処分事由書」という。)によれば、「昭和六一年一一月一〇日一六時二〇分ころ横浜貨車区旧横浜機関区検修詰所前において勤務時間中、管理者に対する暴力行為が発生した際、管理者の腕をつかみ暴力をふるったこと等は職員として著しく不都合な行為であるため。」とされていた。

右処分事由書に記載された暴力行為とは、松本ら国労組合員が、昭和六一年一一月一〇日一六時二〇分ころ、横浜貨車区旧横浜機関区検修詰所前において、同貨車区の助役らに対し暴行を振るい傷害を負わせたとされる事件である。右事件は、昭和六一年一一月六日から同月一〇日までに発生したとされる国労組合員による同貨車区管理者に対する一連の暴行事件(以下「横浜人活センター事件」という。)の一部に当たるものである。横浜人活センター事件では、国労組合員五名が逮捕され、そのうち三名が起訴されたが、平成五年五月一四日、横浜地方裁判所において、無罪判決を受け、右判決が確定した。また、横浜人活センター事件を理由として逮捕された五名の国労組合員が解雇されたが、横浜地裁は、その懲戒免職処分の禁止を求める仮処分申請事件において、故意による暴行の事実を認定できないとして、仮処分申請を認容する判決をし、これが控訴審においても維持された。

控訴人は、横浜人活センター事件が事実無根の事件であると認定し、松本に対する停職六か月の処分を不当であると判断した。

なお、同人は、昭和五八年四月以降、右以外に停職処分を受たことはない。

(二) 山下

山下は、昭和六〇年九月二七日、停職六か月の処分を発令された。

処分事由書(甲事件乙四九の1)によれば、「昭和六〇年五月二〇日九時一五分ころ、戸塚駅講習室において日勤々務中、駅長に対し暴言を浴びせ、かつ、駅長及び同駅管理者に対し暴力をふるう等の行為に及んだことは職員として著しく不都合な行為であるため。」とされていた。

控訴人は、右事件について、山下が、左手で駅長の方を指しながら抗議等をしていたところ、二メートル程離れたところにいた駅長が山下に近づいてきた際、駅長の方に向けた山下の左手が駅長の胸に当たったと認定し、右処分の理由となった故意による暴行の事実が存在せず、山下に対する停職六か月の処分は不当であると判断した(甲事件甲一)。

なお、山下は、昭和五八年四月以降、右以外に停職処分を受けたことはない。

(三) 平石

平石は、松本と同様に横浜人活センター事件に関して、昭和六二年二月一〇日に停職六か月の処分を発令された。

処分事由書(甲事件乙四一六の2)によれば、「昭和六一年一一月六日一七時二五分ころ横浜貨車区旧横浜機関区検修詰所前において管理者の手を引き強引に同詰所に引きずり込むなどの暴力をふるったこと及び同年一一月一〇日一六時二〇分ころ同検修詰所前において勤務時間中管理者に対する暴力行為が発生した際、これを制止しようとする管理者の前に立ちはだかり妨害したこと等は職員として著しく不都合な行為であるため。」とされていた。

控訴人の横浜人活センター事件及びこれに基づく処分に対する判断は前記(一)のとおりである。

なお、平石は、昭和五八年四月以降、前記以外に停職処分を受けたことはない。

(四) 岡

(1)  岡は、昭和六一年六月一日付けで停職二か月の処分(以下「岡の一回目の停職処分」という。)を、昭和六二年二月一〇日付けで停職一か月の処分(以下「岡の二回目の停職処分」という。)の発令を受けた。

(2)  岡の一回目の停職処分は、処分事由書(甲事件乙四四の1)によれば、「昭和六〇年五月二七日から同年一二月一八日までの間、新鶴見機関区において管理者に対し再三にわたり抗議、暴言及び業務妨害等を行い、管理者からの度重なる注意指示にもかかわらずこれに従わず職場の規律を乱したほか、勤務時間中であるにもかかわらず抗議等を行い、管理者からの再三にわたる注意指示に従わず勤務の一部を欠いたことは職員として著しく不都合な行為であるため。」との理由によるものである。

(3)  岡の二回目の停職処分は、横浜人活センター事件に関する処分である。

処分事由書(甲事件乙四一八の3)によれば、「昭和六一年一一月七日一六時五〇分ころ横浜貨車区旧横浜機関区長室において管理者が入室を制止したにもかかわらず強引に同室に進入し管理者の業務執行を妨害したこと又同年一一月一〇日一六時三〇分ころ同室に強引に侵入し管理者の再三にわたる退去命令に従わず管理者の業務執行を妨害したこと等は職員として著しく不都合な行為であるため。」とされていた。

控訴人の横浜人活センター事件及びこれに基づく処分に対する判断は前記(一)のとおりであり、したがって、控訴人の判断に従えば、岡は、「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者」に当たらないことになる。

なお、岡は、昭和五八年四月以降、右(1) 、(2) の処分以外に停職処分を受けたことはない。

(五) 寺内

寺内は、昭和五八年九月二日、停職六か月の処分を発令された。

処分事由書(乙事件乙一二六)によれば、「昭和五八年六月二三日新宿保線区新宿支区管理者が列車間合い作業の指示をしたにもかかわらず、この業務命令に従わず勤務の一部を欠くとともに、昭和五七年五月から昭和五八年六月まで同保線区において管理者に対し脅迫、暴言並びにいやがらせ行為を行い職場の規律を乱し、かつ管理者に対する集団抗議行動等を指導する等して正常な業務の運営を阻害したことは、職員として著しく不都合な行為であるため。」とされていた。

控訴人は、寺内が管理者の列車間合い作業の指示に従わなかったことについては、管理者が手順を踏まずに正規の休憩時間を変更して列車間合い作業を命じるなどしたことにも原因があることを考慮すると、右停職六か月の処分は酷に過ぎると判断した(乙事件甲一)。

なお、寺内は、昭和五八年四月以降、右以外に停職処分を受けたことはない。

(六) 新山

新山は、昭和五九年六月ころ停職三か月の処分(以下「新山の一回目の停職処分」という。)の発令を、昭和六一年八月二〇日付けで停職一か月の処分(以下「新山の二回目の停職処分」という。)の発令をそれぞれ受けた。

新山の一回目の停職処分は、「昭和五九年二月二七日九時四分から九時三五分の間管理者の作業指示に対し、暴言を交え、執拗な抗議をくりかえし、作業手順の変更の資料を奪い取り、頭上に差し上げ、地面に叩きつける等粗暴な行為を行い業務を妨害した。」ことが理由とされ、新山の二回目の停職処分は、「団交を開始した昭和六〇年三月一五日一一時三二分から一二時五七分の間無断で団交の場を離れたこと及び品川電車区において一二時二五分から一二時四〇分の間無届集会を開催し、管理者の注意指示に従わなかった。」ことが理由とされている(乙事件乙一二八)。

控訴人は、新山の二回目の停職処分の理由について、従前、団体交渉中にその場を離れたことを理由に処分が行われた例が殆ど認められず、また、それまで品川電車区において許可を得ることなく集会が行われてきたことなどを考慮すると、停職処分とされるほどの重大な非違行為であるとは認められず、右停職処分は相当でないと判断した(乙事件甲一)。

なお、新山は、昭和五八年四月以降、右以外に停職処分を受けたことはない。

(七) 佐藤

佐藤は、昭和五八年一一月二四日停職一二か月の処分の発令を受けた。

処分理由は、「昭和五八年三月から昭和五八年七月まで塩釜港駅において再三にわたり管理者の業務指示に従わずまた業務妨害等により職場規律を乱したことは職員として著しく不都合である。」というものである(丙事件乙八〇の1)。

控訴人は、佐藤の処分理由には、職員管理調書の調査対象期間である昭和五八年四月以前の行為が含まれている上、右期間後の行為についても、他の同種行為者との比較からして停職一二か月というのは重きに過ぎ、名簿不登載の事由となる停職六か月以上の処分を課すことはできない旨判断した(丙事件甲一)。

(八) 菅原

菅原は、昭和六一年二月六日停職一〇か月の処分の発令を受けた。

処分理由は、菅原が郡山駅管理室に勤務していた当時の昭和六〇年一一月二〇日の四二分間の職場離脱であると推認される(丁事件乙一三一、三八〇の1、2)。

控訴人は、右のような場合、通常、減給以下の処分がされるにとどまり、停職処分はされていないから、停職処分をしたことは相当でないと判断した(丁事件甲一)。

(九) 野田

野田は、昭和六一年一一月二一日付で停職六か月の処分通知を受け、そのころその旨の停職処分の発令を受けた。

処分事由書(戊事件乙一二八の1、2)によれば、「昭和六一年九月二〇日の否認、一〇月九日から一〇日にかけての不参及び九月八日から一一月一一日の間、管理者の業務指示に従わず、かつこれに反論、反抗的な言動を行ったことは、職員として極めて不都合である。」とされていた。

控訴人は、右停職六か月の処分が、事案が軽微であること、管理者に不適切な時季変更権の行使があったこと、他の同種行為者に対する処分と比較すると重いこと等を考慮すると相当でないと判断した(戊事件甲一)。

なお、野田は、昭和五八年四月以降、前記以外に停職処分を受けたことはない。

四  本件不採用について

本件救済対象者は、採用候補者名簿不登載の基準(昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として採用候補者名簿に登載しない。)に該当するとして採用候補者名簿に登載されず、被控訴人らに採用されなかったものである。

なお、昭和六二年四月一日の承継法人発足時、本州において鉄道会社に不採用とされた国鉄職員は七五名であり(甲事件の乙八、一三九の4、一四〇、弁論の全趣旨)、そのうち国労所属組合員は五七名であった。

五  本件各初審命令

国労及びその傘下の組合である東京地本、横浜支部、国府津支部、東日本本部、仙台地本及び静岡地本は、本件救済対象者らが被控訴人らに不採用となったため、管轄の各地方労働委員会に対しそれぞれ救済申立てをしたところ、当該各地方労働委員会は、各申立を大筋で認容し、本件各初審命令を発した。

六  本件各命令

1  被控訴人らは、本件各初審命令に対し、控訴人に再審査申立てをしたが、控訴人は、本件各初審命令の一部を変更したものの、大筋で本件救済対象者らに関する再審査申立てを棄却する趣旨の本件各命令を発した(なお、他の救済申立対象者については、本件各初審命令が取り消されている。)。

2  本件各命令についての控訴人の判断の骨子は、以下のとおりである。

改革法における承継法人の職員の採用に関する設立委員と国鉄との関係は、設立委員がすべき手続の一部を国鉄に委ねたものであり、国鉄の立場は、設立委員の補助機関の地位にあったものであるから、国鉄が採用候補者名簿の作成等の過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為をし、設立委員がその採用候補者名簿に基づき採用予定者を決定して採用を通知した結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は、設立委員に帰属させることが労組法の趣旨に沿う。国鉄は、本件救済対象者について、組合所属又は組合活動を理由として、前記三13のとおりの不当に重い処分を行ったものであり、これらの処分がなかったとすれば、採用候補者名簿不登載の基準に該当しないことになって採用候補者名簿に登載され、被控訴人らに採用されていた。国鉄が、本件救済対象者を採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員が採用しなかったことは、労組法七条一号及び三号の不当労働行為に当たるところ、かかる場合の救済措置として、労働委員会が被控訴人らにこれらの者の採用を命じることには何ら問題はない。以上が、控訴人の本件各命令についての判断の骨子である。

第四主たる争点

一  国鉄による承継法人の職員の採用候補者の選定及び名簿の作成(以下「採用候補者名簿の作成等」という。)に不当労働行為に該当する行為があった場合、被控訴人らの設立委員ひいては被控訴人らは、労組法七条の「使用者」としてその責任を負うか。

二  設立委員自身が採用候補者名簿の作成等に関し不当労働行為をしたか(補助参加人らは、本件各命令に付された処分理由と異なる理由を主張することができるか。)。

三  新規採用の場合、組合差別を理由とする採用拒否は不当労働行為となりうるか。

四  右三において、組合差別を理由とする採用拒否が不当労働行為となるのは黄犬契約の場合に限られるとした場合、黄犬契約による不当労働行為が成立するか(補助参加人らは、控訴人の明示の意思に反し、黄犬契約による不当労働行為の主張をすることができるか。)。

五  右一が肯定された場合、国鉄は採用候補者名簿の作成等に関し不当労働行為をしたか。

六  被控訴人らが不当労働行為責任を負う場合、本件各命令の救済措置は、控訴人の裁量権の範囲内といえるか。

第五主たる争点に関する当事者の主張

一  国鉄による採用候補者名簿の作成等に不当労働行為に該当する行為があった場合、被控訴人らの設立委員ひいては被控訴人らは、労組法七条の「使用者」としてその責任を負うか。

1  被控訴人らの主張

(一) 設立委員ないし被控訴人らは、労組法七条の「使用者」にはなり得ない。

不当労働行為救済申立に関して、雇用契約関係にある使用者に加えて第三者に使用者性を認める余地があるとしても、使用者性の拡張は、無限定になされるべきものではなく、法的に許容される特段の事情が存在する場合に限られるものである。控訴人は、改革法二三条の規定により、国鉄の責任が設立委員及び被控訴人らに帰属することを前提として、新たに発足する別個の法主体である被控訴人らに対し「使用者」性を認めるが、後記(二)のとおり、同条は、採用候補者名簿の作成等については、これを専ら国鉄の権限と責任において行うこととし、採用候補者名簿の作成等に関する国鉄の責任を設立委員ないし被控訴人らに帰属させていないから、同条を根拠に設立委員ひいては被控訴人らを使用者と認めることはできない。仮に、採用候補者名簿の作成等に関し、不当労働行為と目すべき行為が行われたとすれば、その責任は、清算事業団が負うべきである(改革法一五条)。

なお、控訴人及び補助参加人らは、被控訴人らが近い将来労働契約を締結する可能性のある使用者に当たる旨主張するが、本件救済対象者は、採用候補者名簿に登載されておらず、したがって、被控訴人らの職員として採用される可能性は皆無であったから、被控訴人らが、近い将来労働契約を締結する可能性のある使用者に当たるということはできない。

(二) 採用候補者名簿の作成等に関して国鉄がした行為の責任は、設立委員に帰属しない(国鉄専権論)。

国鉄は、日本国有鉄道法に基づき設立された特殊法人であり、被控訴人らは、改革法に基づき株式会社として設立された私法人であって、被控訴人らは、国鉄とは別個独立した法人格を有する存在である。独立した法主体間においては、自己責任の原則が適用され、指揮、監督権の存在などの帰責事由がない限り他者の責任が帰せられないことは当然であるから、被控訴人らが採用候補者名簿の作成等に関する国鉄の行為について責任を負うとするためには、被控訴人らの設立委員が国鉄に対し、指揮、監督権を有することが法理上当然の前提となるが、設立委員の国鉄に対する指揮、監督権限等の存在をうかがわせる何らの法的根拠も存在しない。

すなわち、承継法人の職員の採用手続は、前記第三、二3(三)のとおりであり、被控訴人らは、国鉄から職員の雇用関係を承継することなく、その職員を新規に採用することとされているところ、改革法は、右採用手続の各段階ごとに、設立委員と国鉄の権限を法定し、採用候補者名簿の作成等については、これを専ら国鉄の権限と責任において行うこととしている。これは、設立委員が、自ら全国の職場において勤務する国鉄の職員を適正に選別、評定して採用しうる立場にないことが明らかであり、また、被控訴人らの職員の募集や意思確認等の手続については、短期間に大量の事務を遂行することが必要とされたところから、各職員の勤務の実情を把握していた国鉄に、新企業体別に採用対象となりうる候補者の名簿の作成を行わせることとしたのである。このような改革法の趣旨、規定内容に照らすと、改革法二三条二項は、国鉄に採用候補者名簿の作成等の権限を特に付与し、専ら国鉄の責任と権限において採用候補者名簿の作成等を行わせることとしたものであり、その権限の行使は、国鉄の専権に属し、設立委員の指揮、監督を受けるものではない。設立委員は、採用候補者名簿の作成等に関し、国鉄を指揮監督し、又は、国鉄に対し指示等を与える余地がないことはもとより、名簿作成の是非を判断したり、国鉄からその当否について意見を求められたりする立場にもないのであり、国鉄から採用候補者名簿が提出された段階で、その名簿に記載された職員の中からのみ職員を採用することを義務づけられ、採用候補者名簿に記載されていない者を採用することは認められていない(改革法二三条三項)。採用候補者名簿不登載者を採用しないことは、設立委員の判断と関係なく、既に国鉄が名簿を作成した段階で確定していたのである。

したがって、改革法の法理上、国鉄がその独自の権限に基づいて行うこととされている採用候補者名簿の作成等にかかる行為の責任が、設立委員ひいては被控訴人らに帰せられる余地はなく、また、設立委員が国鉄の作成した採用候補者名簿に記載されていない者を採用しなかったことについて不当労働行為責任を負う余地もない。

このことは、既に他の同種事件に係る先例的判例(千葉地裁平成四年六月二五日判決労民集四三巻二・三号五九七頁、東京高裁平成七年五月二三日判決労民集四六巻三号八九九頁、最高裁平成一一年一二月一七日第二小法廷判決〔甲七。公刊物未登載。以下「最高裁平成一一年判決」という。〕、東京地裁平成一〇年五月二八日判決判例タイムズ九七六号六三頁、最高裁平成一二年一月二七日第一小法廷判決〔甲八。公刊物未登載。〕)において是認されているところ、法律解釈は、労働委員会の判断と司法判断とで別異となりうるものではなく、制度上、司法判断により終局的に確定されることが明らかであり、この点で労働委員会に裁量権を行使する余地はないから、控訴人は、右司法判断と異なった法律解釈をすることはできないものである。

(三) 国鉄がした行為の責任を設立委員に帰属させることは資本充実責任に反し許されない。

改革法は、実質上破産状態にあった国鉄の改革に際し、国鉄と別異の新企業体法人を設立し、運行業務の実質上の継続性は維持しつつ、職員の採用を含めて新たな法律関係の樹立を目的とし、特に基本計画において特定されたものを除き、新企業体法人が過去の国鉄の関係を引き継がず、国鉄の債務は清算事業団が引き継いで負担することとしている(改革法一五条)。

改革法は、新企業体の設立に際し、株式会社の設立に関する会社法の一般原則、特に発起人の能力、資本充実に係る法的要請に留意し、設立委員につき「会社の設立に関して発起人の職務を行わせる」旨を明記し(旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律附則二条一項)、さらに、会社法による通例の発起人と異なり、設立手続段階において新企業体との間における職員採用の効果を確定し得るよう、設立委員の権限を明定した。改革法二三条五項は、まさにこの「採用について」のみ、「設立委員がした行為及び設立委員に対してされた行為」の効力が単に設立委員について生ずるにとどまらず、新企業体について確定的に生ずることを限定的に明らかにしたものであるから、同項により、「採用について」の行為に該当しない不当労働行為の責任が新企業体に帰属するという控訴人の解釈は牽強付会の論である。新企業体に国鉄の不当労働行為責任を帰属させるとすれば、新企業体は、株式会社として発足するに際し確知し得ない隠れた債務を負担することとなり、資本充実の原則を害するから、改革法は、このような結果を排除する趣旨を含めて採用についての権限及び責任に関する前記規定を設けたものと解するのが相当である。

(四) 控訴人及び補助参加人らの主張に対する反論

(1)  控訴人及び補助参加人らの改革法の解釈に対する反論

控訴人及び補助参加人らは、「国鉄が、採用候補者名簿の作成等において、労働組合の所属等による差別的取扱いを行った場合には、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、その責任は承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると解するのが法の趣旨に沿う」「清算事業団に右不当労働行為の責任が帰属するとすれば、本件採用差別について、原状回復が一切不可能となり、結果的に不当労働行為を容認するのと異ならないこととなり、改革法、労組法等の調和的、整合的解釈に反する。」などと主張するが、これは改革法の趣旨ないし構成を無視し、本件救済対象者の復職ないし再雇用を内容とする救済を可能にするため、被控訴人らに不当労働行為責任を帰属させることを意図していた目的的解釈であり、改革法の客観的・合理的解釈に反するものである。不当労働行為の救済方法は、全く無制約なものではなく、法令上の制限を受けざるを得ないのであり、国鉄ひいては清算事業団に対する救済命令が、清算事業団の目的等に照らして一定の制約を受ける結果になったとしても、やむを得ないものであり、清算事業団に対する救済命令によっては本件救済対象者の復職ないし再雇用が確保できないからといって、被控訴人らに対し、採用候補者名簿の作成等に関し国鉄のした行為の責任を帰属させることはできないものである。

(2)  国鉄と被控訴人らとの実質的同一性に関する反論

補助参加人らは、国鉄と被控訴人らとが実質的に同一である旨主張するが、前記のとおり、国鉄は、日本国有鉄道法に基づき設立された特殊法人であり、被控訴人らは改革法に基づき株式会社として設立された私法人であって、被控訴人らは、国鉄とは別個独立した法人格を有する存在である。そして、国鉄と被控訴人らの承継法人との間における権利義務の移転を法的にみれば、国鉄の有する権利については債権譲渡が、その義務については債務引受がされたものと解し得るのであって、現にかかる法律行為にかかる対抗要件として民法所定の通知又は承諾もされているのであるから、国鉄と被控訴人らとが実質的に同一であるということはできない。

(3)  国鉄を設立委員の補助機関とすること(国鉄補助機関論)に対する反論

控訴人及び補助参加人らは、改革法二三条二項が、国鉄において採用候補者名簿の作成等をすることとしたのは、本来設立委員がすべき手続の一部を国鉄に委ねたものであり、国鉄は設立委員の補助機関であるとするが、以下のとおり、国鉄を設立委員の補助機関と見ることはできない。

イ 「補助機関」なる概念は、国家行政組織等の上で特段の意味を有するものであり、かかる「補助機関」の概念内容が、行政組織ではない設立委員と国鉄との関係に適用される余地はない。

ロ 前記(二)のとおり、改革法は、採用に関する手続を各段階ごとに区分し、そのうち採用候補者名簿の作成等を専ら国鉄の権限と責任に委ねたものであり(したがって、これらの行為が本来設立委員においてすべき手続であるということはできない。)、設立委員に対し、右事項について国鉄を指揮監督し又は名簿作成の是非を判断すべき地位、権限を与えたものではない。したがって、他に明文の規定がない限り、設立委員は、国鉄の行為について責任を負わないところ、改革法は、設立委員と被控訴人らとの間の法律関係についてのみ明文の規定(同法二三条五項)を設け、設立委員と国鉄との関係については同様の規定を設けておらず、他に、設立委員が国鉄の行為について責任を負うとする明文の規定がないことからすれば、設立委員が国鉄のした行為について責任を負う余地はない。

以上のように、採用候補者名簿の作成等に関する国鉄の権限は、改革法の規定に直接由来するものであり、設立委員からその権限を委ねられたものではなく、また、設立委員の指揮、監督に服するものでもないから、国鉄が設立委員の補助機関の地位にあったということはできない。

ハ 運輸大臣等は、参議院特別委員会における答弁において、国鉄の行う採用候補者名簿の作成等に関する行為につき、「準委任」、「代行」等の表現を用いているが、右表現は、立法過程における法案説明のため便宜上用いられたにすぎず、かかる便宜上の表現をもって、改革法の解釈が左右されることはないのであり、国鉄が設立委員の補助機関の地位にあったことの根拠とすることはできない。

2  控訴人の主張

(一) 設立委員ないし被控訴人らは労組法七条に規定する使用者に当たる(使用者概念の拡張)。

不当労働行為は、集団的労使関係の場における「使用者」の違法行為であるところ、集団的労使関係の場における「使用者」は、不当労働行為によってもたらされた違法状態を迅速かつ的確に排除し、将来の正常な集団的労使関係秩序の形成を図るべき義務を負う者が誰であるかとの観点から決しなければならない。「使用者」は、多くの場合に労働契約上の使用者と一致するが、それのみに限らず、<1>社外工の受け入れ会社のように労働者と直接の労働契約関係にはなくとも、当該労働者の労働条件に対して現実かつ具体的な支配力を有する者など、労働契約関係に近似する関係を基盤として成立する集団的労使関係の一方当事者、<2>労働者を解雇した使用者のように近い過去に労働契約上の使用者であった者、吸収合併における吸収前の吸収会社のように近い将来において労働契約を締結する可能性がある者など、労働契約関係に隣接する関係を基盤として成立する集団的労使関係の一方当事者も「使用者」に該当する。

本件は、国鉄の分割・民営化に伴い、その営業がいくつかの承継法人に分割して承継される過程での承継法人の職員の採用に関する労働組合の差別の責任が問われたものであり、設立委員が国鉄の補助行為に基づいて国労組合員らを採用しなかったことについて不当労働行為の救済が求められているところ、本件救済対象者は、不当労働行為がなければ当然に採用候補者名簿に登載され、唯一の希望先承継法人である被控訴人らに採用されていたのであるから、設立委員ひいては被控訴人らは、近い将来において労働契約を締結する可能性がある「使用者」に該当する。したがって、被控訴人らが不当労働行為是正の責任を負うべきは当然である。

他方、国鉄は、採用候補者名簿の作成等を、設立委員の補助機関として分担したにすぎず、承継法人の職員採用問題に関し、国労との間において、集団的労使関係上の一方当事者たる地位にあったと解する余地はなく、したがって、国鉄から移行した清算事業団も「使用者」となり得ない。清算事業団の目的及び業務の範囲は、清算事業団法によって限定されており、承継法人発足時の職員の採用問題にかかる不当労働行為についての救済措置を講ずることは清算事業団の目的及び業務の範囲に入っておらず、また、清算事業団に右不当労働行為の責任が帰属するとすれば、本件採用差別について、原状回復が一切不可能となり、結果的に不当労働行為を容認するのと異ならないこととなり、改革法、労組法等の調和的、整合的解釈に反するから、清算事業団を「使用者」であるとすることはできず、設立委員ないし被控訴人らをもって「使用者」とすべきである。

(二) 採用候補者名簿の作成等に関して国鉄がした行為の責任は設立委員に帰属する(国鉄補助機関論)。

従業員の採用行為は、採用基準(条件)の決定、募集、応募(雇用契約締結についての申込)、応募者の選定、採用者の決定、採用者の通知(雇用契約締結についての意思表示)等、雇用契約の成立に向けた相互に密接不可分な一連の統一的な手続である。

国鉄改革においては、承継法人設立に当たって、承継法人の職員を採用する行為を統一的に行わせるため、設立委員に商法の規定による発起人としての業務に加え、特に承継法人の職員の採用を行わせることとした(鉄道会社法附則二条、改革法二三条)。このことは、<1>改革法二三条一項は、承継法人の職員採用手続の主体である設立委員が採用基準を定める旨、承継法人の募集は設立委員等が「国鉄を通じ」て行う旨それぞれ規定し、採用の主体が設立委員であることを前提としている上、設立委員は、国鉄の行う採用手続が採用基準に反しないよう指導監督する権限及び義務を有していると解されること、<2>改革法二三条三項が「設立委員等から採用する旨の通知を受けた者」と規定し、採用通知については設立委員がする旨規定する一方、採用候補者名簿登載者のうち不適任者と判断される者について採用決定しない権限を設立委員に留保していること、<3>昭和六一年一二月開催の第一回合同設立委員会で確認された「国鉄改革のスケジュール」(甲事件乙一七の3)に「設立委員は、職員を選考して採用者を決定する」旨定めて、設立委員に選考の権限があることを明記していること、<4>改革法施行規則一二条二項が、国鉄は、採用候補者名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を設立委員に提出すべきことを定めていること、<5>実際にも、設立委員が、承継法人の採用基準及び労働条件の決定をして国鉄に提示し、国鉄から提出された採用候補者名簿に基づき登載者全員について採用決定をする等の採用手続を行っていることなどから認めることができる。したがって、承継法人の採用については、設立委員がこれをすべて行い、その最終的な権限と責任を有することが改革法等の趣旨であった。

しかし、<1>国鉄改革を緊急に行うべく、国鉄改革関連八法の成立・施行後四か月で承継法人の業務を開始しなければならないことが法定されており、承継法人の職員の採用に向けて短期間に大量の事務を遂行しなければならない事情にあったこと、<2>承継法人が確実、円滑にかつ瞬時も中断することなく国鉄の輸送事業等を継続する必要から、承継法人の職員の募集対象者が国鉄職員のみに限定され、かつ、採用候補者選定のための資料を国鉄のみが有していたこと、<3>基本計画上、二一万五〇〇〇人という極めて多数の職員を採用する必要があったことなどから、設立委員自らが採用候補者の選定を行うことができなかったため、採用候補者名簿の作成等は、設立委員から国鉄に「委ねられた」ものである。

改革法は、右のような特殊事情のため、設立委員が全体的な権限を有しかつ責任を負う承継法人の職員の採用に関する一連の手続の一部である採用候補者名簿の作成等の行為を国鉄に担わせることとしたが、国鉄の右各行為は、国鉄の本来の業務遂行のため使用者としての立場で行われたというものではなく、右各行為が国鉄の職員との労働関係に変動をもたらすものではない上、国鉄は、設立委員が行うべき採用行為の過程の一部を担当するにすぎないものであり、設立委員から採用基準の提示がない限り採用事務を行うことができず、採用候補者の選定は設立委員の定める採用基準に従って行い、作成した名簿は必ず設立委員に提出することとされ、しかも、当該名簿への登載が直ちに採用の効果をもたらすものではなく、承継法人の職員の採用は、設立委員による採用決定行為を待って初めて完成するものであるから、国鉄の立場は、設立委員の指示を受けて採用過程における事実行為の一部を行い、その結果を設立委員に報告するという機関、言い換えれば、設立委員が行う承継法人の職員の採用の補助機関としての地位にあるものである(本件各命令の「補助機関」とは、右のことを表明しているものであり、国家行政組織法上の講学上の概念である「補助機関」とは全く異なる。)。

このことは、改革法を審議した参議院特別委員会において、運輸大臣、政府委員等が「国鉄は設立委員の補助者の立場で、設立委員の定める採用基準に従い選定する」、「設立委員の示す採用基準に従って承継法人の具体的な選定作業を行う国鉄の立場は、設立委員の採用事務を補助するもので、法律上は準委任に近いものであるから、どちらかと言えば代行と考えるべき」等と繰り返し答弁していること、国鉄自体が、国労からの団体交渉の申し入れに対し、不採用は設立委員会で決定したものであると述べて、自らは承継法人の職員の採用についての当事者ではないとの姿勢をとっていたこと、経営を破綻させた国鉄に採用候補者名簿の作成等という承継法人の将来の経営を左右することとなる重要な事項に関する権限を付与したと解することは当を得ないことなどから明らかである。

また、改革法についての国会審議の過程において、仮に、承継法人の職員の採用の過程で、国鉄が採用候補者名簿の作成等について、労働組合所属等を理由とする差別を行った場合、その責任は設立委員が負うべきであるとの明確な立法者意思が表明されている。

したがって、国鉄が、採用候補者名簿の作成等において、労働組合の所属等による差別的取扱いを行った場合には、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、その責任は承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属すると解するのが法の趣旨に沿うものであり、改革法と憲法二八条、労組法七条とを調和、整合的に解釈するものである。

(三) 被控訴人らの主張に対する反論

(1)  国鉄専権論に対する反論(国鉄専権論は憲法二八条等に違反する。)

被控訴人らは、採用候補者名簿の作成等は、専ら国鉄の責任と権限に委ねられていたとし、承継法人の採用候補者名簿の作成等に関していかなる差別が行われようとも、設立委員は、これに一切関与することができず、責任を問われることはない旨主張する。しかし、このような被控訴人らの主張は、改革法が憲法二八条、労組法七条の定める不当労働行為制度を排除していると主張するものに他ならず、承継法人の職員の採用手続に関する改革法の論理構造にも、同法の立法趣旨にも反するものであり、憲法、労組法との調和的、整合的解釈の要請に反する謬論である。

また、被控訴人らは、国鉄及び被控訴人らが、それぞれ別個、独立の法主体として定められているところ、独立した法主体間においては、自己責任の原則が適用され、指揮、監督権の存在などの帰責事由がない限り他者の責任が帰せられない旨主張するが、別個、独立の法主体であることが相互に他の法主体の責任を帰属されない「当然」の根拠とはなり得ない。しかも、国鉄の行為が被控訴人らに帰属する根拠は、右(二)のとおり、改革法の解釈上導き出せるところであるから、被控訴人らの主張は理由がない。

(2)  資本充実責任に関する被控訴人らの主張に対する反論

被控訴人らは、承継法人に不当労働行為責任が帰属するとするのは、会社法の基本にある資本充実の原則と抵触するので、改革法は、このような結果を排除する趣旨で採用についての権限及び責任に関する規定を設けた旨主張する。しかし、改革法が、承継法人に不当労働行為責任が帰属するのを排除する趣旨で、採用についての権限及び責任に関する規定を設けたと解することはできないし、鉄道会社法附則二条一項、改革法二三条五項を根拠にして右のような結論を導くこともできない。また、本件各命令は、不当労働行為是正のための実際上の措置(事実行為)を命ずるものであって、債権・債務関係を確定するものではないから、資本充実の原則を害するものではない。

(3)  裁判例との関係

被控訴人らが先例として挙げる最高裁平成一一年判決等の裁判例は、私法上の権利義務関係の存否及び損害賠償責任の有無に関するものであり、不当労働行為に対する行政救済の責任の帰属という問題に関するものではない上、控訴人が主張している補助機関論に対する判断がされているものでもないから、本件の先例とはなり得ない。

3  補助参加人らの主張

(一) 設立委員ないし被控訴人らは、使用者として不当労働行為責任を負うべきである。

(1)  設立委員は、労組法七条に規定する使用者に当たる(使用者概念の拡張)。

イ 不当労働行為に対する救済命令制度は、私法上の権利義務の存否を確定する司法救済とはその制度上の性格を異にするものであり、憲法二八条に由来し、国際労働機関(以下「ILO」という。)九八号条約(団結権及び団体交渉権についての適用に関する条約)一条、三条、国際人権規約A規約八条等により保障されている労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、使用者による団結権侵害行為に対し労働委員会がその是正、回復を図るため行政処分を行うものであるから、労組法七条に規定する「使用者」は、右制度の目的に従い、不当労働行為を禁止される法主体が誰であるか、不当労働行為によってもたらされた違法状態を迅速かつ的確に排除し、将来の正常な集団的労使関係秩序の形成を図るべき義務を負う者は誰であるかとの観点から決せられるべきところ、この観点からは、労働契約上の使用者に限られず、近い将来における労働契約の可能性ある者も「使用者」に当たると解される。

なお、今日、不当労働行為法上の「使用者」が労働契約関係の当事者に限定されないことは、学説、判例、労働委員会の命令例及び行政解釈が一致して認めるところであり、近い将来における労働契約の可能性ある者も「使用者」に当たると解される。

本件は、国鉄の分割・民営化に伴い、国鉄の営業が複数の承継法人に分割して承継される過程での承継法人の職員の採用に関する組合差別の責任が問われているものであり、営業譲渡等の企業の変動の場合に類するものであって、営業を承継する承継法人のみが、現に復帰すべき職場を有し、原状回復能力を有しているのであるから、承継法人(採用に当たっては設立委員)が、近い将来における労働契約の可能性ある「使用者」に当たるというべきである。国鉄ないし清算事業団が「使用者」として不当労働行為責任を負うとすれば、被控訴人ら承継法人への不採用という団結権侵害の事実を是正・回復することができなくなる。

さらに、現実としても、<1>承継法人は、国鉄の経営形態を改革して国鉄の事業を承継したのであり、国鉄職員は、その事業のそれまでの担い手だったこと、<2>改革法は、国鉄職員の中から承継法人の職員を「採用」するとして、「余剰人員」を除いた従来の国鉄職員のみを承継法人の事業の担い手としたこと、<3>各承継法人の「採用の基準」には、地元の承継法人への採用が原則とされ、採用先の承継法人が特定されていたこと、<4>本州においては、採用希望者が基本計画の定員に満たない状態であり、希望者は全員採用されるべきものであったことを考慮すると、設立委員ひいては承継法人は、近い将来における労働契約の可能性ある使用者に当たることが明白である。

ロ 改革法二三条による職員の採用手続においても、労働組合所属による差別が禁止されていることは当然であるところ、設立委員を「使用者」に当たらないとすることは、設立委員による採用手続を労組法の枠外におくことになり、国鉄の労働組合所属による差別を容認することになること、設立委員は、承継法人の職員の採用基準を決めると共に、採用者を決定する権限を有し、さらに、就業規則や労働協約を含む承継法人の内部規定や内部組織及び職員配置等を決定する権限を有し、国鉄職員と承継法人の労働契約が成立する以前から国鉄職員の団結権などに具体的な影響力を行使することができたことを考慮すると、設立委員が「使用者」とされるのは当然である。

ハ 「使用者」たる設立委員は、<1>自ら採用基準を策定して国鉄を拘束し、<2>国鉄の運用基準の策定について、採用基準への適合性を審査する権限と責任を有し、<3>運用基準の公正、内容及び妥当な運用について審査する権限と責任を有し、<4>審査の結果不適正であれば、その運用基準及びそれらの運用の結果について是正を命ずる権限と責任を有している。しかるに、設立委員は、右のどの段階、機会においても、右審査を行わず国鉄によって作成された採用候補者名簿に従って承継法人の職員を採用したのであるから、つまるところ、国鉄による職員としての適格性判断をもって自らの判断として採用決定したというべきであり、その採用・不採用について「使用者」として不当労働行為責任を負うことになる。

(2)  国鉄と被控訴人らとは実質的に同一であるというべきである。

国鉄と被控訴人らとは実質的に同一であり、被控訴人らへの不採用とは解雇にほかならないから、その不当労働行為責任を設立委員ひいては被控訴人らに帰せしめるのは当然のことであり、被控訴人らを「使用者」として救済命令を発することが不当労働行為の原状回復及び是正措置を命ずる上で最も適切である。

国鉄と被控訴人らとの実質的同一性は、以下の事実から明らかである。

<1> 国鉄の事業、業務がそのまま承継法人に引き継がれたものであることは、改革法自体がこれを「引き継がせる」と規定していることからも自明のことである。

<2> 承継法人の事業に要する資産、すなわち、土地、建物、車両、レール等は、すべて国鉄から帳簿価格で承継されたものであり、国鉄の債務もまた、清算事業団が処理するとされたものを除いて承継された。

<3> 株式会社とされた承継法人の株式は、国鉄が全額出資し、清算事業団が一〇〇パーセント所有することとされた。また、会社運営上重要な事項は、ほとんどすべて運輸大臣の認可にかかっている。

<4> 承継法人の役員も旧国鉄幹部が大部分を占め(例えば、承継法人発足時の常勤取締役は、被控訴人東日本では一四名のうち一二名が、被控訴人東海では一三名のうち九名が、被控訴人日本貨物では八名のうち五名が国鉄出身者で占められていた。)、それ以外はほとんど運輸省出身者であり、民間からの役員は極めて少ない。

<5> 承継法人の管理職も現場管理者も、すべて国鉄の管理職・管理者がそのまま移行し、労務政策・労務管理の担い手も従来と変わったところはない。

<6> 承継法人の従業員も、外部からの公募は全くなく、すべて旧国鉄職員で構成された(改革法二三条一項ないし三項)。

<7> 労働条件も、基本的に国鉄のそれが踏襲され、発足時の基本給も国鉄と同水準のものであり、退職手当は国鉄からは支給されずに、国鉄の在職期間を承継法人のそれと通算することとされ(改革法二三条六項、七項)、有給休暇の付与日数の算定でも同様の方法がとられ、国鉄時代の懲戒処分の結果や国鉄時代の行為に対する懲戒権限までもが承継法人に引き継がれた(改革法施行法二九条一項)。国鉄時代の履歴カード等や職員管理調書等も受け継がれた。

<8> 国労敵視を中心とする労務政策も、国鉄時代と承継法人とで変わることなく一貫している。

<9> 国鉄から承継法人への移行過程においても、各承継法人の就業規則や労働協約案の作成を含め、国鉄内に設けられた設立移行準備室が承継法人の設立及び業務遂行の準備を行った。

<10> 承継法人の共通設立委員には杉浦総裁が加わっており、しかも設立委員会事務局は実質的には国鉄職員によって担われた。

(二) 採用候補者名簿の作成等に関して国鉄がした行為の責任は、設立委員又は承継法人に帰属する。

(1)  国鉄は、設立委員の補助機関である(国鉄補助機関論)。

イ 改革法二三条は、設立委員(承継法人)と国鉄職員との間の「採用」、すなわち労働契約の成立という私法上の関係を規制する手続規定であるところ、その契約当事者は、設立委員と各国鉄職員である。したがって、採用の主体は、設立委員以外にない。

一般に労働者の採用は、労働条件等を提示しての募集(申込の誘引)、応募(契約の申込)とその受付、応募者の選考、採用決定・通知(申込に対する承諾)という手順を踏むが、これらは採用(労働契約の成立)に向けての一連かつ不可分の行為である。改革法二三条のもとでの採用手続は、この一般的契約理論を基礎に構成されており、募集を行うのは設立委員、応募するのは国鉄職員、採用決定・承諾をするのは設立委員とされている。同条一項は、採用手続の過程の中で、設立委員による募集を「国鉄を通じ」て行うとしたが、これは、採用行為の主体が設立委員であることを明示すると共に、設立委員が行う募集に関する具体的実施機関として国鉄を指定したということであり、国鉄について、私法上の性格を、設立委員の履行補助者ないし事務(事実行為)の準委任を受けた者(法定準委任)であると規定したと理解される。また、同条二項は、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思の確認及び採用候補者名簿の作成等を国鉄が行うこととしたが、右のうち意思の確認は、応募の受付としての性格をもち、国鉄が設立委員の受付窓口としてするものであり、採用候補者名簿の作成等は、採用の過程の中での企業側の事実行為である「応募者の選考」の一過程にほかならず、国鉄が作成した名簿を設立委員に提出するのは採用の主体である設立委員に結果を報告するものであり、いずれも国鉄が採用主体である設立委員の履行補助者ないし事務の法定受任者としてする事実行為である。以上のように、国鉄の採用候補者名簿の作成等は、採用手続の過程における企業側の内部的事実行為に比すべきものである。すなわち、国鉄は、設立委員の提示した「採用の基準に従って」採用候補者名簿の作成等を行うものであり、改革法上独自の基準策定権限が与えられている訳ではなく、あくまでも設立委員の採用基準の適用、当てはめを行う実施機関にすぎない。採用申込をした職員には、設立委員の策定した採用基準のみが示され、採用・不採用の結果も設立委員による採用基準への当てはめの結果としてのみ職員に示されるものである。

なお、改革法二三条が、採用候補者名簿の作成等を国鉄を通じて行わせることとしたのは、採用の対象が国鉄職員であり、国鉄がその職員を掌握しているという実態からする便宜的手段にすぎない。

一般に、採用に関し、採否決定内容に違法の問題があれば、採用主体がその責任を負うべきことは当然であり、したがって、国鉄が採用候補者名簿の作成等に関し差別行為を行ったとすれば、それは、法律上当然に、採用主体たる設立委員の行為として、又は少なくとも設立委員の責任における行為として評価される。

ロ 立法者は、採用候補者名簿の作成等が、法的には、設立委員の行為又は少なくとも設立委員の責任における行為であるとの意思を明確に表明していた。このことは、改革法制定の際の国会審議の中で、採用候補者名簿の作成等を国鉄が行うのは、運輸大臣が「民法に照らしていえば準委任に近いもので……どちらかといえば代行と考えるべき」である旨答弁し、また、法案作成責任者も、「これは法律的に見ますと、事実行為の委託といいますか、準委任、民法でいいますと準委任という関係になろうかと思います」と答弁していること、政府が作成した「国鉄改革のスケジュール」(甲事件乙一七の3)において、設立委員が「職員選考」及び「採用者決定」を行うものであることが明示されていることから明らかである。

また、国鉄は、一貫して、採用選考を含めて判断権は設立委員にあり、国鉄には責任も権限もない旨表明し、これを国労との団体交渉回避のための根拠としており、また、杉浦総裁が共通設立委員になっていることからして、設立委員も右のような認識を有していた。

改革法二三条は、一回限り実施、適用された条文であり、右のような関係当事者の認識のもとに適用され、終わっているのであり、その条文の意味内容は右のようなものとして確定したものである。

ハ 改革法二三条による採用手続は、実際には、国鉄の担当職員が、採用の基準の策定、承継法人の労働条件の策定、職員の募集行為、採用候補者名簿の作成等、採用者決定及び採用通知等の実務作業を行っており、名は設立委員、内実は国鉄という実態にあったものであって、その関係を説明するとすれば、国鉄が設立委員の補助者であったとの解釈が簡明であり、実態に即している。

ニ 改革法は、国鉄から承継法人への職員の承継について、「採用」という法形式をとったが、「採用」という形式が改革法に由来する以上、「採用」は、客観的かつ公正に行われなければならない。従来の使用者が、労働組合運動等を理由に労働者の再就職を妨害してはならないということは、労働基準法二二条、労組法七条、憲法二二条、二七条及び二八条によって定立された公序である。

改革法二三条の「採用」に関し、国鉄に採用候補者名簿の作成等の権限、すなわち、採否の判断、決定権限があるとすれば、国鉄は、職員の組合所属や組合運動の状況を十分把握しているから、組合関係情報に基づいて採否を決定することが可能になり、労働基準法二二条を全くないがしろにし、前記の公序に反することになる。殊に、国鉄は、国労に対し激しく敵対していたものであり、国鉄に承継法人の職員の採否について固有の決定権限を与えれば、差別、不公正が行われることは目に見えている。したがって、法律によって設けられた中立機関であり、承継法人の発起人たる地位にある設立委員に、承継法人の職員の採用について全面的に責任を負わせ、その監督是正等をさせることにより、「採用」に関する法的公正性の確保を期していると解するのが、前記公序に合致した改革法二三条の解釈である。

(2)  国鉄の行為は設立委員自身の行為と評価することができる。

国鉄は、採用候補者名簿の作成等を行った上、承継法人の唯一の株主であり、また、杉浦総裁が共通設立委員の一人となっていること、設立委員会事務局職員の多くが国鉄職員であること、したがって、設立委員は、国鉄による採用候補者名簿の作成等がどのような基準で行われているかを現実に把握していたこと、以上の事実によれば、国鉄の行為は、これを設立委員の行為であると評価することができる。

したがって、国鉄の不当労働行為は、設立委員自身の不当労働行為であるというべきである。

(3)  国鉄の行為は、承継法人の機関としての行為である。

仮に、国鉄の採用に関する権限が設立委員から独立した権限であるとすれば、国鉄の行為は、直接承継法人のため承継法人に代わって行う行為であり、国鉄は、設立された承継法人の採用行為の一部を行う機関としての地位を有するものである。そして、原状回復を救済手段とする不当労働行為の制度からすれば、採用にかかる国鉄の差別選別行為に対する原状回復措置は、承継法人が負うというべきである。

(三) 被控訴人らの主張に対する反論

(1)  被控訴人らは、自己責任の原則を強調するが、今日では、責任の根拠が「故意、過失」という主観的なものから、「損害の公平な分担」という客観的なものへと移っており、団結権の擁護という政策目的に由来する不当労働行為制度のもとでは、「第三者」の行為を広く使用者の行為と評価することが流れとなっている。

被控訴人らは、改革法上、国鉄と設立委員が別個独立の法主体として定められていることを理由に、採用候補者名簿の作成等に関する国鉄の行為の効果が設立委員に帰属しない旨主張するが、「別個の法主体」といっても、採用の法主体は設立委員であり、国鉄は、設立委員のために採用準備行為として採用候補者名簿の作成等の事実行為を行うという意味で「法主体」といいうるにすぎない。「別個の法主体」であっても、一方が他方の「補助機関」としての関係に立つことは何ら異とすべきことではない。採用手続全体の中で国鉄が果たした役割をみれば、国鉄は、設立委員の補助機関と評価されて当然である。

(2)  被控訴人らは、採用候補者名簿の作成等に関する国鉄の権限は改革法二三条二項により付与されたものであり、採用候補者名簿の作成等について設立委員の指揮監督を受けるものではないから、国鉄が採用手続の一部である採用候補者名簿の作成等を行ったからといって、設立委員が国鉄の行為の責任を負うことはない旨主張する。しかし、改革法二三条は、採用候補者名簿の作成等に関し、設立委員を右の手続から排除する規定をおいておらず、設立委員が「労働条件と採用の基準」を示して募集を行い、右基準に従い「採用」が行われるべきことを確保する責任を有することとし、また、国鉄が採用候補者名簿の作成等を行ったとはいうものの、設立委員の採用決定と採用通知がなければ採用手続は完結せず、採用候補者が被控訴人らに採用されることはないとされていることからすれば、採用候補者名簿の作成等が国鉄の専権に属するということはないのであり、かえって、国鉄の立場をもって設立委員の補助機関とし、その行為の責任を設立委員及び承継法人に帰属させることが当然である。

(3)  被控訴人らは、改革法二三条三項が、承継法人の職員について「名簿に記載された職員のうち」設立委員から採用通知を受けた者と規定していることを根拠として、設立委員は国鉄の作成した採用候補者名簿の中からのみ承継法人の職員を採用することを義務づけられている旨主張するが、改革法二三条が、採用候補者名簿の作成等を、その性質上、本来設立委員の権限内の事項とし、国鉄は設立委員の補助者ないし受任者として性格づけていることからすれば、設立委員は、国鉄が事実上作成した採用候補者名簿の内容についてもこれを自ら作成したものとして法的な責任を負うべき立場にあるというべきであるから、同条三項の前記文言をもって、設立委員の責任を免除する趣旨の規定であるとは到底解されない。

(4)  被控訴人らの主張は、国鉄職員のうち採用候補者名簿に登載しないと国鉄が判断した者については、国鉄の判断をもって不採用が最終的に決定され、設立委員による関与の余地がなく、ひいては、国鉄が採用から終局的にその者を排除する権限を有していたことに帰着する。しかし、これでは、国鉄職員の承継法人に対する採用申込が設立委員に到達する前に国鉄によって遮断されてしまい、国鉄職員が有する承継法人に採用申込をする権利が剥奪されることになる。このような結果を避けるためには、国鉄職員の採用申込が国鉄に到達したことをもって設立委員に到達したものとし、国鉄が名簿に登載しなかったことをもって設立委員が採用申込を承諾しなかったと理解するほかない。この場合、国鉄は、設立委員の補助者ないし受任機関ということになる。

(5)  被控訴人ら主張のように、採用候補者名簿の作成等が国鉄の専権事項であるとすれば、国鉄が設立委員の定めた採用基準を逸脱しても、設立委員はこれを監督是正することができないことになり、それでは、採用の主体である設立委員が採用の基準を定めた目的を達成できなくなり不当である。改革法施行規則一二条二項は、国鉄は名簿と共に選定判断の基礎とした資料を設立委員に提出すべきものとして、国鉄の採用候補者名簿の作成行為が採用基準に従って適正に行われたか否かを設立委員においてチェックし判断することを前提としている。したがって、採用候補者名簿の作成等が国鉄の専権事項とされる理由はない。

(6)  被控訴人らは、改革法二三条を根拠として、国鉄が採用候補者名簿の作成等に関してした不当労働行為の責任が設立委員ないし被控訴人らに帰属しない旨主張するが、改革法二三条の規定故に国鉄のした不当労働行為の救済が実質的に否定されるとすれば、同条は、不当労働行為禁止の根拠規定である憲法二八条、「労働者は、雇用に関する反組合的差別待遇に対して十分な保護を受ける」と規定しているILO九八号条約一条及び「すべての者が……労働組合を結成し及び当該労働組合の規約に従うことのみを条件とし自ら選択する労働組合に加入する権利」(a項)、「労働組合が、……いかなる制限も受けることなく、自由に活動する権利」(c項)を保障した国際人権規約A規約に違反するものである。

(7)  被控訴人らは、最高裁平成一一年判決等の裁判例をもって、改革法の解釈につき、被控訴人らの主張する国鉄専権論をもって正しいとすることが確定した旨主張するが、同判決の事案は、民事上の労働契約関係の存在確認を直接裁判所に求めた事案であるのに対し、本件は、不採用が不当労働行為に当たるのでその侵害の排除としての原状回復を行政命令によって形成することを求めたものであって、全く性質を異にし、また、前提とする事実関係も異なるから、本件の先例とはならない。

二  設立委員自身が採用候補者名簿の作成等に関し不当労働行為をしたか(補助参加人らは、本件各命令に付された処分理由と異なる理由を主張することができるか。)。

1  補助参加人らの主張

(一) 設立委員自身の採用候補者名簿の作成等に関する不当労働行為

(1)  改革法二三条によれば、採用基準の決定及び採用の権限は設立委員にあり、国鉄は設立委員の提示した採用の基準に従って名簿を作成すべき義務がある。設立委員は、国鉄による採用候補者の選定及びその名簿の作成が採用の基準に合致しているか否かを実質的に審査し、合致していない場合は国鉄に採用候補者名簿の作成等について是正を求める権限を有する。改革法施行規則一二条二項が、「名簿には、当該名簿に記載した職員の選定に関し判断の基礎とした資料を添付するものとする」と定めているのも、このような設立委員の権限行使を実効的に担保する趣旨であると解される。

(2)  また、設立委員の定める採用基準は、客観的かつ公正なものでなければならず、労組法七条の定める不当労働行為の禁止の公序も採用の基準に含まれる。参議院特別委員会の附帯決議は「所属組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」としており、このことを確認している。したがって、国鉄は、採用候補者名簿の作成等にあたって、職員を所属組合によって差別してはならず、設立委員は、国鉄の作成した名簿に不当労働行為と目される行為があった場合には、採用の基準に反するものとして、国鉄に対し、その是正を命ずる権限を有することはもとより、義務を負うのである。設立委員が右作為義務を履行しなかった場合には、採用候補者の選定、不採用者の排除は設立委員のした行為と評価されることになる。

(3)  国鉄は、分割・民営化の過程において、国労敵視の言動を繰り返し、本件救済対象者について、国労の組合員であるが故に名簿に登載しないという不当労働行為を行い、採用の基準に反する行為を行った。設立委員は、国鉄による採用候補者名簿の作成等に関してこのような不当労働行為と目される行為があったことを認識していたにもかかわらず、何らの是正措置をとることなく、提出された名簿をそのまま承認して採用通知を発し、その結果、本件救済対象者は不採用とされた。設立委員のこのような行為は、右のような不当労働行為を是正すべき義務に反したものであるから、設立委員は、国鉄による採用候補者名簿の作成等に関し自ら不当労働行為を行ったと評価され、設立委員ひいては被控訴人らにおいてその責任を負わなければならない。

(二) 被控訴人らの主張に対する反論(補助参加人らは、本件各命令に付された処分理由と異なる理由を主張することができる。)

被控訴人らは、控訴人が本件各命令の理由を変更することができない旨主張するが、一般に行政訴訟においては訴訟物の範囲内であれば処分理由の変更ができることとされているところ、救済命令取消訴訟においてもこれを別異に解する理由はない。救済命令の取消を求める当事者に新たな主張立証を許す以上、控訴人に新たな主張立証を許すのは当然である。

また、補助参加人らは、行政事件訴訟法二二条による参加をし得る立場にあるから、被参加人たる控訴人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をし得る共同訴訟的補助参加人として取り扱われるべきである。したがって、補助参加人らの主張は、裁判所の判断の対象とされるべきである。

2  被控訴人らの主張

(一) 補助参加人らは、本件各命令の理由と異なる事由を本件訴訟において主張することができない。

本件各命令は、独立の権限を有する準司法機関が対審構造の手続の下に法定の審問の手続を経て発出したものであるところ、その審問手続においては、当事者双方に、証拠提出、反対尋問の機会が与えられなければならないとされ(労組法二七条一項)、公益委員会議は、審問を終了したときは、公益委員会議を開いて合議を行い、また、審問に参与した使用者委員及び労働者委員の意見を聞かなければならず(労働委員会規則四二条)、控訴人は、合議により、申立人の請求にかかる救済を理由があると判定したときは救済の全部若しくは一部を認容する命令を、理由がないと判定したときは申立てを棄却する命令を、遅滞なく、書面によって発しなければならないのであり(労働委員会規則四三条一、二項)、さらに、発出された命令については判決の更正手続と同様の規定(労働委員会規則四三条三項)まで設けられている。

本件各命令は、以上のような手続を経て、行政処分として発せられたものであるから、審問の結果に基づく合議の存在を無視し、単に訴訟手続の次元における控訴人(指定代理人)の主張によって本件各命令の理由を変更することは、制度上許容し得るものではなく、補助参加人らの立場において理由を変更しえないことはなおさらである。

また、本件各命令のように、その発出手続が、法令の定めにより、判決手続に準じて厳しく律せられ、処分内容の明確化、透明性が保障されている場合には、処分内容の確定性が重視される慣行が存在すること、本件は、被控訴人らが、現在の主張を控訴人の審問手続の段階から提示し、その主張をそのまま現在も維持していて、特段の変更を加えていない場合であり、取消訴訟において、当該訴訟の原告が新たな主張をした場合とは異なること、本件各命令に付された「理由」は、命令主文と一体となって処分内容を特定し、事件関係者に対する手続上の保障を与えていることなどを考慮すると、本件各命令書記載の理由を司法審査の段階で新たな理由に変更することは許されない。

(二) 設立委員が不当労働行為をしたことはない。

国鉄が採用候補者名簿の作成等に関して行った不当労働行為が設立委員自身の不当労働行為であると評価される旨の補助参加人らの主張は争う。

三  新規採用の場合、組合差別を理由とする採用拒否は不当労働行為となりうるか。

1  被控訴人らの主張

(一) 最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決(民集二七巻一一号一五三六頁。以下「三菱樹脂事件判決」という。)は、「憲法は、思想、信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に、他方、二二条、二九条等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。」と判示し、採用自由の原則を認めるとともに、雇い入れ拒否が直ちに不法行為を構成しないことを判示した。三菱樹脂事件判決は、企業者の雇用の自由について雇入れ段階と雇入れ後の段階との間に区別を設け、前者については企業者の自由を広く認める反面、後者については、当該労働者の既得の地位と利益を重視してその権衡を図ることを基本的趣旨としているものであり、雇入れの拒否について、労組法七条一号前段の不利益取扱いにかかる不当労働行為の成立余地を認めていない。

改革法二三条の採用手続は、採用の対象を国鉄職員に限定しているものの、新規採用に当たるところ、同条に定める採用手続は、憲法二八条、労組法七条に違反するものではなく、また、被控訴人らの職員の採用について法律その他による特別の制限が存在しないから、国鉄が本件救済対象者を採用候補者名簿に登載せず、その結果、本件救済対象者が設立委員によって採用されなかったことが不当労働行為を構成するということはあり得ない。

(二) 控訴人は、<1>募集対象が国鉄職員に限定されていること、<2>退職手当等の通算取扱いがされていること、<3>国鉄当時の非違行為に対する懲戒処分が引き継がれていること、<4>国鉄の事業及び労使関係を含む人的関係の実体が国鉄から被控訴人らの承継法人に承継されていることからすれば、本件における採用が純粋の公募による新規採用とは異なり、再採用の拒否、営業譲渡等に類似するから、それらに関する法理が適用されるべきである旨主張する。しかし、<1>については、国鉄改革の趣旨から採用対象者が国鉄職員に限定されることは当然の要請であり、その故に新規採用が否定される余地はなく、<2>については、採用者に対する不利益を回避するための措置であり、例えば国家公務員から地方自治体その他特定の機関に派遣される場合等にも同様の規定(国家公務員退職手当法一三条等)が存することからすれば、新規採用を否定する根拠となるものではなく、<3>については、指摘されるような事実がなく、<4>については、再採用の拒否、営業譲渡等と異なり、国鉄と被控訴人らが別個の法人格を有し、国鉄が各国鉄職員の複数の企業体に対する就職希望を全般的に調整、配分した結果に基づき、採用候補者を選定してその名簿を作成し、その範囲内において設立委員が採用者を決定していること、以上の事実に照らせば、設立委員による被控訴人らの職員の採用手続が、再採用の拒否、営業譲渡等と本質を異にすることが明らかであるから、それらに関する法理を適用する余地はない。

2  控訴人の主張

(一) 不当労働行為制度は、新規採用に際しても、組合員であること又は組合活動を行ったことを理由とする不利益取扱い及び支配介入を禁止している。このことは、組合活動を理由に雇入れを拒否することは黄犬契約と性質上何ら異なるところがないのみならず、黄犬契約においては、組合から脱退すれば雇い入れられるのであるから、抑圧される組合活動は将来のものに限られるのに対し、組合活動を理由とする雇入れの拒否は既往の組合活動を問題とする点において、その実害は黄犬契約よりはるかに著しいから、法が黄犬契約を禁止している以上、既往の組合活動を理由として雇入れを拒否することは当然不当労働行為になるというべきこと、労組法にいう労を超えるときは、……不法行為に関する諸規定等の適切な運用」による侵害に対する基本的人権の保護の可能性を判示しているところ、本件において被控訴人らがした行為は、本件救済対象者の基本的な権利に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えているものであるから、被控訴人らの行為が不当労働行為に当たるとして救済を命じた本件各命令は正当である。

(三) 改革法の下での被控訴人らへの採用行為は、国鉄による採用候補者名簿の作成等から被控訴人らへの採用に至るまでの、相互に密接不可分な一連の採用行為であり、国労組合員には、全員の雇用継続が当然には保障されていなかったとはいえ、組合活動等による差別のない公正な基準による採用の期待利益が存したことからすれば、本件における被控訴人らによる採用を、純粋の公募による「新規採用」と捉えることはできないから、採用の自由に関する法理を本件に適用することは相当ではない。本件採用は、以下の事実にかんがみれば、再採用の拒否、営業譲渡等に極めて類似しており、典型的な新規採用の場合とはその性質を異にする。営業譲渡の場合に、組合所属等を理由に譲渡先会社への採用がされないことは不当労働行為に該当するものである。

(1)  承継法人の職員の採用は、改革法の規定に従い、商法上従業員の採用に関する権限を有しない承継法人の発起人である設立委員が行い、しかも、国鉄職員のみを対象として承継法人の職員の募集、採用がされた。また、承継法人の職員として採用された者については、退職金、有給休暇の取扱いがすべて通算され、国鉄当時の非違行為に対する懲戒処分も引き継ぐことができることとされている。

(2)  承継法人の職員採用については、労働組合の所属等による差別的取扱いが行われないことが前提とされ、かつ、立法者の意思として義務づけられていた。

(3)  国鉄と承継法人は、改革法施行時を境としてそれぞれ別個の法主体であるとはいえ、清算事業団を唯一の株主として承継法人が設立された上、現に稼働していた国鉄の事業はそのまま旅客会社等の承継法人に承継され、労使関係を含む人的関係も、少なくとも実体としては、ほとんどそのまま承継法人に承継された。

3  補助参加人らの主張

(一) 労組法七条一号に規定する不利益取扱いは、あらゆる場面で生じうるものであり、組合員であることを理由として課せられたこれらの不利益はすべて団結権への威嚇的効果を持つから、これらの行為はすべて同条一号の不利益取扱いに当たる。したがって、新規採用についても、労働組合の組合員であること又は組合活動をしたことを理由として採用を拒絶し、又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすることは、不当労働行為に該当する。

右のように解することは、学説の通説であり、裁判例(東京地方裁判所昭和二八年一二月二八日判決労民集四巻六号五四九頁。)も支持しているところである。また、このことは、<1>労組法のモデルとなった米国のワグナー法が「雇入れ、雇用継続その他の労働条件に関して差別を設けることにより、労働組合の組合員たることを奨励し、又は妨害すること」をすべて禁止しており、雇入れに関する不当労働行為は黄犬契約に限られないとしていること、<2>労組法七条一号は、憲法二八条に基づいて団結権の保障を具体化しようとするものであるから、その解釈適用に当たって、雇入れの前後により禁止されるべき使用者の妨害態様を区別する理由は全くないこと、<3>黄犬契約は、組合を脱退すれば職場を与えるという形での将来の組合活動に対する抑圧であるのに対し、組合活動を理由に現に採用を拒否することは、既往の現実の組合活動を問題にし、その現にある団結権を破壊して現在及び将来にわたってその団結を抑圧する行為であって、その実害・影響力は後者の方がはるかに著しいこと、<4>労働組合には、企業別組合のほかに職業別組合、産業別組合などが存在するところ、労組法は、これらの組合に所属する失業者、求職者等を含めて、労組法上の労働者の団結権を保障しようとしたものであるから、同法七条一号の禁止した不利益取扱いに、これらの労働者の採用時における不利益取扱いを含むすべての組合差別行為が含まれると解しなければ、団結権保障の実現を期しがたいこと、以上の事実から明らかである。

(二) 一九四九年のILO九八号条約は、一条一項において、「労働者は、雇用に関する反組合的な差別待遇に対して充分な保護を受ける。」と規定しており、この点について、ILOの「結社の自由委員会」は、「条約に定められている保護は、採用時、および離職時を含む全雇用期間中を対象にするものであると本委員会は考える」、「九八号条約第一条は、就職時と離職時を含む雇用期間中に、反組合的差別行為に対する適切な保護を保障しており、全ての反組合的差別措置(解雇、配転、降格および他のあらゆる不利益行為)を対象としている」としており、ILO九八号条約が、採用時における反組合的差別を禁止していることは明らかである。したがって、新規採用についても組合所属を理由に差別することはできない。

(三) 三菱樹脂事件判決は、「法律その他による特別の制限がない限り」との前提を付した上での採用の自由を論じているのであり、労組法七条一号本文前段の規定は、右の「法律その他による特別の制限」に該当するものである。また、三菱樹脂事件判決は、労組法とは立法趣旨・目的が全く異なる労働基準法に関し、かつ、思想信条の自由と採用の自由との調整の問題に関する判決であって、組合所属の故をもって雇入れを拒んだ場合について言及したものではない。したがって、団結権を侵害するような形での「採用の自由」が認められるか否かが問題となっている本件に、三菱樹脂事件判決をそのまま適用することはできない。

(四) 改革法に基づく採用手続は、以下のとおり、純然たる新規採用とは異なる。

(1)  改革法に基づく採用手続は、改革法という国法により創設され、根拠づけられるのみならず、設立委員ないし国鉄という公的性格を有する機関が行うものであるから、一般の私企業が営業の自由、契約締結の自由として行う採用行為とは性格を異にし、差別、不公平、不公正を容認することはできないものであり、仮に、一般の私企業の採用行為では組合所属等を理由に選別することが自由だと解されるとしても、改革法に基づく採用手続では、組合所属等を理由に選別することは許されない。参議院特別委員会は、「職員の採用基準及び選定方法については、客観的かつ公正なものとするよう配慮するとともに、本人の希望を尊重し、所属労働組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」という附帯決議をし、このことを明らかにしている。

(2)  承継法人は、国鉄の事業を承継するために設立された事業体であるから、そのような承継法人への「採用」は、そもそも「新規採用」ではあり得ない。このことは、監理委員会が、国鉄の余剰人員対策について、「移行前に希望退職募集等によりできるだけその数を減らし、移行時には旅客鉄道株式会社に経営の過重な負担とならない限度において余剰人員の一部を移籍し、その他は『旧国鉄』の所属とした上、一定の期間内に集中的に対策を講じて全員が再就職できるよう万全を期す」旨の答申をしており、改革法における「採用」が実質上は「移籍」であることを明示していることから明らかである。

要するに、改革法に規定する「採用」は、国鉄の余剰人員を削減するとともに、分割された事業体に国鉄職員を振り分けて移籍させるという実質を遂行するために取られた法形式にすぎず、承継法人の採用の自由は極めて制限されており、左記<1>ないし<4>のとおり、一般の私企業が、営業の自由に基づいて人員を募集し、自由な裁量に基づいて従業員を確保するという「新規採用」の実態を有しない。また、承継法人に採用されず清算事業団に引き継がれた国鉄職員については、三年間を過ぎれば清算事業団職員の地位を失うこととされており、不採用が予告付解雇の実質をもっていた。これらの事実からすれば、改革法における「採用」に、純然たる「新規採用」としての採用の自由の法理を当てはめることはできない。むしろ、承継法人への国鉄事業等の承継は営業譲渡等に限りなく近いものであり、「採用」は再採用ないし雇用承継に、「不採用」は解雇に類するものとして捉えられるべきであるから、組合所属等を理由として「採用」しないことは、典型的な不当労働行為に当たる。

<1> 承継法人が「採用」する国鉄職員の数は、承継法人や設立委員ではなく運輸大臣が、改革法一九条に基づき、基本計画を定めて決定する。しかも、その人数は、必要要員数ではなく、旅客会社にあってはその二割増とされた。

また、採用候補者名簿の作成等は、従来の使用者である国鉄が行うものとされた。

<2> 承継法人に「採用」される労働者は、公募されず、国鉄職員に限定され(改革法二三条一項)、国鉄当時の勤務状況を選抜の基準とし、入社試験を行わず、採用後に試用期間もない。

<3> 国鉄が旅客会社等の複数の承継法人に分割されることから、国鉄職員に対し、「採用」に先立って、意思確認書を配布し、これによりどの承継法人に振り分けられる意思を持つかについての確認をすることとされたが(改革法二三条二項)、その際、希望順位を付けていくつもの承継法人名を意思確認書に記載できるようになっていた。

<4> 設立委員は、「採用」に先立ち、採用の基準及び労働条件を明示することとされた(改革法二三条一項)。この労働条件は、原則として国鉄時代の労働条件が踏襲され、また、各職員は、承継法人においても、原則として国鉄当時のものに対応する職名・職階・職場で就労し続けるとされた。承継法人に採用された国鉄職員は、国鉄から退職金等を支給されず、退職金算定の基礎となる在職期間は国鉄時代の期間と通算され(同条六、七項)、年次休暇の取扱い、国鉄時代の懲戒処分までもが引き継がれた。

(3)  国鉄と被控訴人ら承継法人とは、その事業、業務の同一性、資産、債務の承継、株式保有関係、役員・管理職の共通性・同一性、従業員の同一性、労働条件の引き継ぎ等、企業実態としても、労使関係においても、同一性・連続性が明らかである。法形式が「採用」「不採用」とされても、その実質は、既に存在する雇用関係上の紛争と同様の意味を持つものであり、現実には余剰人員の整理解雇にほかならないから、改革法における「採用」に、純然たる「新規採用」としての採用の自由の法理を適用することは許されない。

四  争点三において、組合差別を理由とする採用拒否が不当労働行為となるのは黄犬契約の場合に限られるとした場合、黄犬契約による不当労働行為が成立するか(補助参加人らは、控訴人の明示の意思に反し、黄犬契約による不当労働行為の主張をすることができるか。)。

1  補助参加人らの主張

仮に、本件が新規採用であり、新規採用の場合に不当労働行為となるのが黄犬契約の場合に限られるとしても、以下のとおり、設立委員ないし被控訴人らは、黄犬契約による不当労働行為の責任を負う。

(一) 国鉄の黄犬契約による不当労働行為責任は、設立委員に帰属するというべきである。

(1)  改革法二三条による「採用」の主体は、設立委員であり、国鉄はその補助機関として採用候補者名簿の作成等を行うものであるから、設立委員が組合差別的な採用の基準を自ら提示しなくても、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したと認められる場合には、これをもって設立委員の行為と見ることができるから、設立委員の認識にかかわらず、設立委員が承継法人の職員の募集条件としてこれを定めたものと同視することができる。

(2)  国鉄は、改革法の前後を通じて、国労の組合員や活動家である者は承継法人に採用されない旨様々な手段や機会を駆使して繰り返し表明してきたものであり、「採用」に当たり、組合差別的な募集条件を掲げたというべきである。

(3)  以上のとおり、設立委員は、「採用」に当たり、補助機関である国鉄のした黄犬契約の禁止に違反する不当労働行為の責任を負うというべきである。

(二) 設立委員は、自身の黄犬契約による不当労働行為責任を負うというべきである。

(1)  改革法二三条に基づく採用が一般企業の新規採用と区別されるべきであり、その実態は国鉄職員から承継法人への「移籍」としての実質を持つから採用の自由の適用の基礎を欠くが、仮に、これが新規採用であったとしても、労組法七条一号の黄犬契約と同視できるような採用拒否については、不当労働行為の成立が肯定されるべきところ、本件不採用は、その場合に該当する。

(2)  黄犬契約禁止の立法趣旨は、従業員の地位を得て自主的な団結活動をするのを事前に抑制することを不当労働行為として禁止することにある。したがって、組合への不加入・脱退を募集条件に掲げること、特定組合の役員・活動家を採用から排除することを募集条件に掲げることは黄犬契約禁止の対象に含まれる。

(3)  国鉄当局は、国労の弱体化・壊滅を企図し、改革法上、採用候補者名簿の作成等を行うという立場を利用して、分割・民営化時点で大量の人員が新会社から排除されるということを最大のてことして、国労にいては新会社に採用されないという強制的威嚇を行い続けた。それは、あるいは国労を孤立化させる労使共同宣言であり、あるいは国鉄幹部の他労組との蜜月の誇示であり、あるいは国労への敵視をあからさまにする言動・宣伝であり、あるいはそれを受けた現場での脱退工作であり、あるいは人材活用センターに象徴的に示される不採用候補者の名指しと隔離等であって、手段の限りを尽くして展開された。国労の組合員は、不採用を覚悟で国労に残るか、国労を脱退して採用される途を選ぶかの極限的な選択を迫られていった。

(4)  このような国鉄の行為は、実質的にみて、国労への不加入及び脱退並びに国労の役員及び活動家を採用から排除することを募集条件に掲げたということができ、黄犬契約の禁止に違反し又は違反したと同視し得る。

(5)  設立委員は、国鉄が、右のような経過で承継法人の職員を募集した結果作成された採用候補者名簿に基づき、承継法人の職員を採用したものであるから、自ら、国労への不加入及び脱退並びに国労の役員及び活動家を採用から排除することを募集条件として掲げて承継法人の職員を募集したものと評価される。したがって、設立委員ひいては被控訴人らは、設立委員自らの黄犬契約による不当労働行為の責任を負うというべきである。

(三) 被控訴人らの主張に対する反論

前記二1(二)のとおり、補助参加人らは、本件各命令の理由となっていない事項についても主張を追加し得るし、また、行政事件訴訟法二二条による参加をし得る立場にあり、被参加人たる控訴人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をし得る共同訴訟的補助参加人として取り扱われるべきであるから、控訴人が黄犬契約による不当労働行為の主張を行わないとしても、黄犬契約による不当労働行為の主張をすることができる。

2  被控訴人らの主張

前記二2(一)及び(二)のとおり、補助参加人らは、本件各命令の理由と異なる事由を本件訴訟において主張することができない。また、控訴人は、当審の第二回口頭弁論期日において「黄犬契約の主張はしない」と言明し、黄犬契約を理由とする不当労働行為の主張を撤回した。したがって、補助参加人らは、控訴人の明示の意思に反するから、黄犬契約を理由とする不当労働行為の主張をすることができない。

五  国鉄は採用候補者名簿の作成等に関し不当労働行為をしたか。

1  控訴人の主張

国鉄は、本件救済対象者について、組合所属又は組合活動を理由として、前記第三、三13のとおりの不当に重い処分を行ったものであり、これらの処分がなかったとすれば、国鉄の定めた採用候補者名簿不登載の基準に該当しないことになって採用候補者名簿に登載され、被控訴人らに採用されていた。国鉄が、本件救済対象者を採用候補者名簿に登載せず、その結果、設立委員が採用しなかったことは、労組法七条一号及び三号の不当労働行為に当たる。

2  補助参加人らの主張

設立委員ひいては被控訴人らが本件救済対象者を採用しなかったことは、以下の事情に照らせば、本件救済対象者が国労に所属していたことを理由とするものであり、不当労働行為に当たることが明らかである。

(一) 前記第三、三8のとおり、国鉄当局は、「余剰人員」を個別に特定、分離して集中的に一括管理するため、昭和六一年七月一日、全国一〇一〇か所に「人材活用センター」を設置し、ここに国労組合員、それも多くは役員・活動家を配置し、これらの者をして承継法人には行けないとの烙印を押されたと思わせ、同時に、他の国労組合員に対し、国労にいては人材活用センターに入れられるという強烈な見せしめとした。また、国鉄当局は、人材活用センターに担務指定された国労組合員を、環境の極めて劣悪な詰所に収容して他の職員から隔離し、管理者の監視の下に、草刈り、車両・駅舎の清掃等の単純作業に従事させ、また、無意味な又は見せしめというべき苦役を課し、国労組合員を非人間的に処遇した。

(二) 前記第三、三9のとおり、国鉄当局は、人材活用センターで国労組合員に非人間的な処遇をしていたころ、鉄労、動労等四組合との協調・共同関係を強め、その蜜月ぶりを誇示し、右各組合と共に国労を共通の敵として国労に集中砲火を浴びせ続けた。その間、国鉄当局は、国労組合員に対し、「国労にいては新会社に行けない」という脅しを中心とした脱退工作を続けた。その結果、人材活用センター設置時には約一五万七〇〇〇人いた国労組合員は、昭和六二年四月の旅客会社設立時には四万四〇〇〇人に激減したのみならず、多数の自殺者を出すに至った。

(三) 国鉄当局は、右(一)、(二)の国労攻撃にもかかわらずなお国労にとどまり、鉄道職場で働き続けようとした国労組合員を、本件採用差別により職場から強制的に放逐したものである。このことは、北海道、九州において、承継法人へ採用されなかった者の大部分が国労の組合員で占められ、動労・鉄労等が連合して設立された鉄道労連の組合員はほぼ一〇〇パーセント採用されたこと、応募者が基本計画定数を下回った本州、四国においては応募者全員が採用されてしかるべきであったのに、「昭和五八年四月以降停職処分二回以上又は六か月以上の停職処分の通告を受けた者は採用しない」という「基準」が設定され、あえて不採用者が捻り出され、多くの国労組合員が不採用とされたこと、右「基準」は、他組合が昭和五八年四月以降はストライキを行っておらず停職処分を受けた者がいないことを念頭に置いて、国労組合員を不採用とする目的で設けられたものであること、国労組合員の処分は、多くは処分の根拠事実に欠け、不当に重い処分であり、殊に、横浜人材活用センター事件は国鉄当局が事件をねつ造したものであることなどから明らかである。

3  被控訴人らの主張

国鉄が不当労働行為を行った旨の控訴人、補助参加人らの主張は争う。

六  本件各命令の救済措置は、控訴人の裁量権の範囲内といえるか。

1  被控訴人らの主張

本件各命令は、被控訴人らに対し、本件救済対象者の採用を命ずるが、そもそも労働委員会が救済命令において雇用に係る法律関係の創設を命ずるなどということは権限外のことであり(事実上の措置を命ずるといっても、労働契約不締結のまま就労させる余地のないことは明らかである。)、本件各命令は、控訴人に認められた裁量権の限界を超えた救済を命じた点においても違法として取り消されるべきである。

2  控訴人の主張

最高裁昭和五二年二月二三日大法廷判決(民集三一巻一号九三頁。以下「第二鳩タクシー事件判決」という。)は、「労組法が……労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、……労使関係について専門的知識を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨に出たもので」あり、「法が、労働委員会に広い裁量権を与えた趣旨に徴すると、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の違法性が争われる場合においても、裁判所は、労働委員会の右裁量権を尊重し、その行使が右の趣旨、目的に照らし是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない」と判示し、労働委員会に対して救済命令の内容決定についての広範な裁量権を肯認している。労働委員会は、正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するという観点から、その裁量により事案の内容に即して、個別具体的に適切な救済措置を命じ得るものである。

控訴人は、第二鳩タクシー事件判決に従い、本件の具体的な事情を総合的に考慮し、具体的に採用につき差別されていることが証拠により明らかな者について、採用した者として取り扱うべきことを命じるなど、不当労働行為を排除し原状を回復するため、個々の事案に応じた最も適切な是正措置を命じているのであって、これが労働委員会の裁量権の行使として「是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたる」ものではないことは明らかである。

なお、本件では、採用における差別が、団結権を侵害すること甚だしいものであったことに加えて、採用候補者名簿に登載された者がすべてそのまま採用されており、実態的には、名簿への登載がそのまま採用を意味したこと、本件各事件については、採用候補者名簿登載者数が閣議決定された基本計画における職員数(定数)を下回っており、本件各命令が基本計画を上回る採用を命ずるものでない上、新企業体としては右計画に定められた職員数については雇用を保障する責務を負っているという事情があり、不当労働行為が行われなければ本件救済対象者が承継法人に採用されたであろうことは明らかであるから、かかる場合に、労働委員会が、不当労働行為が行われなかった状態に回復させるための措置として、採用されたものとしての取扱いを命ずることは、不当労働行為救済制度の趣旨、目的に沿うものであり、裁量権の行使として是認される。

3  補助参加人らの主張

(一)労組法二七条に基づく労働委員会の不当労働行為救済命令は、労働者の団結権及び団体交渉権の使用者による侵害を不当労働行為として禁止した同法七条の実効性を担保するため、不当労働行為によって生じた状態を労働委員会の命令をもって直接是正することにより、当事者間の正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることを目的としたものである。そのため、労働委員会は、不当労働行為の救済方法について広い裁量権を有しているのであり、それが、団結権侵害の除去、労使関係秩序の回復に必要とされる限り、不当労働行為により不採用とされた者の採用を命ずることは、労働委員会の裁量権の範囲内にある。労働委員会の救済命令は、使用者による団結権侵害の事実状態を是正し、労使関係秩序の回復と確保を図るために事実上の行為を命じる行政処分であるところ、不当労働行為による採用拒否の最も効果的な救済方法は、採用命令であることが明らかであり、採用命令を発し得ないとすることは採用拒否の実質的救済を拒否するものである。のみならず、改革法の「採用」は、純然たる「新規採用」とは性質を異にするものであり、「採用」の実態とその特殊性及び採用候補者名簿に登載された者がすべて承継法人に採用されているとの事実にかんがみれば、本件各命令が、本件救済対象者について採用取扱いを命じたことに違法はない。

(二) ILO九八号条約三条は、「前各条に定める団結権の尊重を確保するため、必要がある場合には、国内事情に適する機関を設けなければならない。」と規定し、ILOの「結社の自由委員会」は、「補償の形態に関して、反組合的差別行為は基本的権利の侵害であり、その結果として労働者がこうむった不利益を金銭的および職業的条件の両方で十分に補償することを目的としてしなければならない」「最良の解決は、未払い賃金の支払いと既得権の継続をともなう、労働者の現職への復帰が一般的なものである。……このようなケースの審理を担当する機関、すなわち通常の裁判所もしくは専門的機関は、……復職を含むもっとも妥当な救済の形態を決定するのに必要なあらゆる権限をもつべきである。」と言っていることからすれば、本件救済対象者について採用取扱いを命じた本件各命令は、ILO九八号条約に沿った命令であり、何ら違法はない。

第六当裁判所の判断

一  国鉄による採用候補者名簿の作成等に不当労働行為に該当する行為があった場合、被控訴人らの設立委員ないし被控訴人らは、労組法七条の「使用者」としてその責任を負うか(争点一)

1  設立委員ないし被控訴人らの使用者性について

労組法七条に規定する「使用者」とは、一般的には労働契約の一方当事者である雇用主をいうものと解されるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である(最高裁平成七年二月二八日第三小法廷判決民集四九巻二号五五九頁参照)。

そこで、設立委員ないし被控訴人らが、国鉄による採用候補者名簿の作成等に関し、本件救済対象者との関係で「使用者」、すなわち「(当該)労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にある者に該当するか否かを検討する。

(一) 国鉄改革の経緯

国鉄改革の経緯は、前記第三、二記載のとおりであるが、これを要約すれば、以下のとおりである。

国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来、経営悪化の一途をたどり、昭和五五年度ころには巨額の累積債務を抱えるに至っていた。このような状況の中で、昭和五七年七月三〇日、臨調答申が出され、五年以内の国鉄の分割・民営化が提言され、政府もこの答申を最大限に尊重することを閣議決定した。その後、国鉄再建のため設置された監理委員会は、昭和六〇年七月二六日、国鉄の旅客鉄道部門を旅客会社に分割すると共に、余剰人員を全体で約九万三〇〇〇名と算定し、承継法人の要員規模を右余剰人員のうち三万二〇〇〇名を含めて二一万五〇〇〇名とし、その余の約六万一〇〇〇名の余剰人員を転職させるなどの内容の監理委員会答申を出した。国鉄は、監理委員会答申を踏まえ、国鉄の分割・民営化を前提とした八万六二〇〇名の余剰人員の削減方針を発表し、また、国鉄総裁も余剰人員対策が最も大きな問題である旨の談話を発表した。

(二) 国鉄改革関連八法の概要

(1)  国鉄改革関連八法は、右(一)の国鉄改革の経緯を踏まえ、経営破綻した国鉄を再建するため、国鉄の事業を分割・民営化すると共に、国鉄の抱える膨大な余剰人員を可及的に解消することを主たる目的として制定された。

(2)  国鉄改革関連八法における国鉄の事業の分割・民営化等に関する規定の概要は、次のとおりである。

イ 国は、国が経営している旅客鉄道事業について、その役割を担うにふさわしい適正な経営規模の下において旅客需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその事業の経営を分割すると共に、経営組織を株式会社とする(改革法六条一項)。国は、旅客鉄道株式会社として旅客会社を設立し、それぞれ同法の定める地方において国鉄が経営している旅客鉄道事業を当該旅客会社に引き継がせる(同条二項)。

また、国は、国鉄が経営している貨物鉄道事業について、貨物輸送需要の動向に的確に対応した効率的な輸送が提供されるようその経営を旅客鉄道事業の経営と分離すると共に、経営組織を株式会社とする(同法八条一項)。

国は、右事業を経営する貨物会社を設立し、国鉄が経営している右事業を貨物会社に引き継がせる(同条二項)。

ロ 運輸大臣は、国鉄の事業等の承継法人への引継ぎ並びに権利及び義務の承継等に関する基本計画を定め(改革法一九条一、二項)、国鉄に対し、承継法人ごとに、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画を作成すべきことを指示し(同条三項)、国鉄は、右指示があったときは、基本計画に従い実施計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならない(以下、右認可を受けた実施計画を「承継計画」という。同条五項)。

ハ 承継計画において定められた国鉄の事業等は、承継法人の成立の時において、それぞれ承継法人に引き継がれるものとし(改革法二一条)、承継法人は、それぞれ、その成立の時において、国鉄の権利義務のうち承継計画において定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継する(同法二二条)。

ニ 国は、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだときは、国鉄を清算事業団に移行させ、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時にその職員の再就職の促進を図るための業務を行わせる(改革法一五条、清算事業団法一条)。

国は、国鉄の改革の実施に伴い一時に多数の国鉄の職員が再就職を必要とすることになることにかんがみ、これらの者に関し、再就職の機会の確保及び再就職の援助等のための特別の措置を講ずる(改革法一七条)。

ホ 実施計画に記載すべき「承継法人の承継させる権利及び義務」から労働契約関係は除外され、承継法人の職員は、後記(3) の手続きにより承継法人に採用される(改革法一九条四項、二三条)。

ヘ 昭和六二年四月一日、被控訴人ら承継法人が成立し(鉄道会社法附則九条、改革法附則一項、二項)、同時に国鉄の権利義務のうち承継計画に定められたものが承継法人に承継される(改革法二二条)と共に、国鉄は清算事業団となり(同法附則一項、二項、清算事業団法附則二条)、承継法人に承継されない国鉄の権利義務は、清算事業団に帰属する(改革法一五条、清算事業団法一条)。

(3)  改革法及び鉄道会社法は、承継法人の職員の採用について、概ね次のとおり規定している。

イ 運輸大臣は、それぞれの承継法人ごとに設立委員を命じ、当該承継法人の設立に関して発起人の職務を行わせる(鉄道会社法附則二条一項)。

設立委員は、同条項及び改革法二三条に定めるもののほか、当該会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行うことができる(鉄道会社法附則二条二項)。

ロ 国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数及び承継法人ごとの数は、運輸大臣が基本計画において定める(改革法一九条二項三号)。

ハ 承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行う(改革法二三条一項)。

ニ 国鉄は、右ハの規定によりその職員に対し労働条件及び職員の採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から、当該承継法人に係る採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して、設立委員に提出する(同条二項)。

ホ 改革法二三条一項の規定により提示する労働条件の内容となるべき事項、同項の規定による提示の方法、同条二項の規定による国鉄職員の意思確認の方法その他同条一項ないし三項の規定の実施に関し必要な事項は、運輸省令で定めることとし(同条四項)、これを受けて改革法施行規則は、労働条件の内容となるべき事項、提示の方法及び職員の意思確認の方法について規定する(九条ないし一一条)ほか、採用候補者名簿の記載事項及び添付資料について規定している(一二条)。

ヘ 採用候補者名簿に記載された国鉄の職員のうちから承継法人の職員を採用することとし、設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって、改革法附則二項の規定の施行の際(昭和六二年四月一日、同法附則一項)、現に国鉄職員である者は、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される(改革法二三条三項)。

ト 承継法人の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してされた行為とする(同条五項)。

(4)  改革法二三条が、右(3) のとおり、採用候補者名簿の作成等を国鉄の権限としたのは、約二七万名を超える国鉄の職員の中から、国鉄改革関連八法の成立・施行後四か月という短期間のうちに、二一万五〇〇〇人という極めて多数の承継法人の職員を新規採用しなければならず、設立委員自らが採用候補者名簿の作成等を行うことが事実上不可能であるため、採用候補者選定のための資料を有し、その事情を把握している国鉄において採用候補者名簿の作成等を行うことが適切であるとの理由に基づくものである。

(5)  日本専売公社及び日本電信電話公社の各民営化の際、日本たばこ産業株式会社法(昭和五九年法律第六九号)附則一二条一項、一三条一項及び日本電信電話株式会社法(同年法律第八五号)附則四条一項、六条一項は、改革法と異なり、新会社である日本たばこ産業株式会社及び日本電信電話株式会社が成立すると同時に右各公社はそれぞれ解散し、一切の権利義務が新会社に包括承継されるとともに、右各公社の職員は、新会社の成立の時に新会社の職員となると規定している。

(三) 設立委員ないし被控訴人らの使用者性

(1)  右(一)の国鉄改革の経緯、右(二)の国鉄改革関連八法の概要等に照らせば、国鉄改革関連八法は、経営破綻した国鉄を再建するため、国鉄の事業を分割・民営化すると共に、国鉄の抱える膨大な余剰人員を可及的に解消することを主たる目的として制定されたものであり、日本専売公社及び日本電信電話公社の各民営化の際と異なり、従来の国鉄と国鉄職員との労働契約関係を承継法人に承継させることなく、承継法人の職員については、設立委員が改革法二三条の規定に基づき新規に採用し、承継法人に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係については、承継法人に事業等を引き継いだ後の国鉄が、法人格の同一性を有したまま組織及び名称が変更される清算事業団との間でそのまま存続させることとしたものと解される。そして、設立委員の地位は、商法上の会社設立の際の発起人と類似の地位にあると解されるところ、発起人が開業準備行為をすることができず(最高裁昭和三八年一二月二四日第三小法廷判決民集一七巻一二号一七四四頁参照)、従業員の採用権限を有しないと解されていることからすれば、設立委員は、改革法によって、承継法人の職員の新規採用に関する権限(ただし、次の採用候補者名簿の作成等の権限を除く)を特別に付与されたものと解するのが相当である。

また、改革法二三条は、国鉄が、その職員に関する資料を有し、その事情を把握しているうえ、短期間に大量の事務を処理する必要性があることから、設立委員が、承継法人の職員の採用手続において、新規に採用する職員の募集を国鉄を通じて労働条件及び採用の基準を提示して行い、これを受けて国鉄が、職員に対する意思確認、採用基準に従った採用候補者名簿の作成等の事務を行うこととし、その後、設立委員において、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載された者の中から職員として採用すべき者を決定し、採用通知を発するものとしたものである。

このように、改革法二三条は、承継法人における労働契約関係を、前記一1(二)(3) 記載の各過程を経て段階的に創設するものとし、右各段階における設立委員及び国鉄の権限の範囲並びにその主体を右のとおりに定めたが、同条を含めて国鉄改革関連八法案中には、設立委員及び国鉄が相互に相手の権限の行使を規制し又は指揮監督しうる旨の規定が存在しないから、承継法人の職員の新規採用に関する権限のうち採用候補者名簿の作成等は、改革法二三条により、専ら国鉄の権限と責任に委ねられたものであるといわざるを得ず、国鉄が、設立委員の権限に属する採用候補者名簿の作成等の行為を補助ないし代行しているものと解することはできない。したがって、設立委員は、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載されなかった国鉄職員については、これを承継法人の職員として採用する権限がなかったものというべきである。

(2)  以上のように、設立委員は、承継法人の職員の採用手続において、新規に採用する職員の募集を国鉄を通じて行い、その際、労働条件及び採用の基準を国鉄を通じて提示し、国鉄から提出された名簿に記載された者の中から採用者を決定する権限を有するにすぎず、自ら採用候補者名簿の作成等の行為をすることができないのみならず、国鉄が行う採用候補者名簿の作成等の行為を規制し又は指揮監督しうる権限も存在しないことを併せ考慮すれば、設立委員は、採用候補者名簿の作成等に関し、「雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあったと解することはできない(控訴人及び補助参加人らは、指揮、監督権の存在などの帰責事由がなくとも設立委員ないし被控訴人らに国鉄のした不当労働行為の責任を負わせることができる旨主張するようであるが、採用候補者名簿の作成等に関し、現実的かつ具体的な支配、決定権が存在しない設立委員に「使用者」性を肯定するのは困難であり、右主張は採用できない。)。

したがって、採用候補者名簿の作成等に関し、本件救済対象者との関係で設立委員ひいては被控訴人らが「使用者」に該当するとはいえず、国鉄の行った採用候補者名簿の作成等の過程に不当労働行為に該当する行為があったとしても、その行為に関する「使用者」としての責任は、現実にその行為を行った国鉄ないしこれを引き継いだ清算事業団が負うべきものであって、設立委員ひいては被控訴人らがその責任を負うものと解することはできない。

2  控訴人の主張に対する判断

(一) 設立委員の「使用者」性について

(1)  控訴人は、労組法七条の「使用者」は、不当労働行為によってもたらされた違法状態を迅速かつ的確に排除し、将来の正常な集団的労使関係秩序の形成を図るべき義務を負う者が誰であるかとの観点から決しなければならないものであり、この観点からすれば、吸収合併における吸収前の吸収会社のように近い将来において労働契約を締結する可能性がある者など、労働契約関係に隣接する関係を基盤として成立する集団的労使関係の一方当事者も「使用者」に該当するというべきところ、本件救済対象者は、国鉄の不当労働行為がなければ当然に採用候補者名簿に登載され、唯一の希望先承継法人である被控訴人らに採用されていたのであるから、設立委員ひいては被控訴人らは、近い将来において労働契約を締結する可能性がある「使用者」に該当する、また、国鉄は、設立委員の補助機関として、採用候補者名簿の作成等を分担したにすぎない上、国鉄ないし国鉄から移行した清算事業団に不当労働行為の責任が帰属するとすれば、本件採用差別について、原状回復が一切不可能となり、結果的に不当労働行為を容認するのと異ならないこととなり、改革法、労組法等の調和的、整合的解釈に反するから、国鉄ないし清算事業団を「使用者」であるということはできず、設立委員ひいては被控訴人らが「使用者」に当たる旨主張する。

(2)  しかし、控訴人が主張するような観点からのみ「使用者」が誰であるかを決しなければならないとすれば、不当労働行為によりもたらされた違法状態を除去できる者が「使用者」であるということに繋がりかねず、従業員との雇用関係や支配従属関係の有無といった要素を不当に軽視ないし無視することになる上、「使用者」の概念を曖昧、無限定にするものであって、法的安定性を害するといわざるを得ないから、右のような観点からのみ「使用者」性を認定することは相当でない。本来、特段の規定がない限り、帰責事由のない者が不法行為等の責任を負わないことを考慮すれば、不当労働行為排除の目的のため、「使用者」の範囲をある程度広げる必要性があることは認められるとしても、「使用者」であるか否かは、前記のとおり、当該行為者が、「労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあるか否かを基準として決するのが相当である。

(3)  承継法人の職員採用手続のうち、採用候補者名簿の作成等は、前記のとおり、改革法二三条の規定により、国鉄の専権とされ、専ら国鉄によって行われたものであり、国鉄は、設立委員の補助機関として採用候補者名簿の作成等を分担したものではないこと、設立委員は、自ら採用候補者名簿の作成等の行為をすることができないのみならず、国鉄が行う採用候補者名簿の作成等の行為を規制し又は指揮監督しうる権限も存在しなかったことからすれば、採用候補者名簿の作成等に関し、「雇用主と……同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあったのは、設立委員ではなく国鉄であるといわざるを得ない。なお、国鉄ないし国鉄から移行した清算事業団に不当労働行為の責任が帰属するとすれば、本件救済対象者が被控訴人らに採用される余地はなくなることになるが、その余の救済措置がとれない訳ではない上(清算事業団の目的及び業務の範囲が法定されているからといって、一定の範囲で清算事業団に対する救済命令を発する余地がない訳ではない。)、不当労働行為の救済方法は、全く無制約なものではなく、法令上の制限を受けざるを得ないのであり、本件救済対象者を被控訴人らに採用させるという目的を達成するため、「使用者」概念を不当に拡張し、本来「使用者」に当たらない被控訴人らを「使用者」として不当労働行為の救済命令を発することはできないものというべきである。

(4)  また、一般論としては、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」も「使用者」に該当すると解されるが、本件においては、国鉄のした採用候補者名簿の作成等に関する行為について 設立委員ないし被控訴人らが、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」に当たると解することもできない。すなわち、<1>承継法人への就職を希望する国鉄職員は、意思確認に当たって、就職希望の承継法人を第五希望まで申告することが求められており、国鉄が、右希望を受けて、各国鉄職員の複数の企業体に対する就職希望を全般的に調整、配分して採用候補者名簿を作成しているため、当該国鉄職員が採用候補者名簿に登載される場合であっても、第一希望の承継法人の採用候補者名簿に必ず登載されるとの制度的保障はされていないこと(甲事件乙九六の1、四五一の1ないし3、甲事件丙二)、<2>設立委員は、採用候補者名簿に登載された者については、採否を決する余地があったものの、採用候補者名簿に登載されていない者については、承継法人の職員として採用する余地はなかったこと、<3>改革法一九条四項の定める権利義務の承継等に関する実施計画の規定事項から職員の採用に関する事項が除外されていること及び同法二三条において別途職員の採用手続が定められていることを考慮すれば、基本計画に定められた「承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」は、一応の採用予定者数を定めたものであって、いわゆる定員を定めたものではなく、具体的な採用者数は、改革法二三条の規定に基づく採用手続の結果定まると解されること、<4>国鉄は、「昭和五八年四月一日以降に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けていないこと」という国鉄の採用候補者選定における運用基準を設けており、採用希望者数が採用予定者数を下回る場合でも右基準に該当する者を採用候補者名簿に登載しないとの方針を取っていたこと、<5>右<2>ないし<4>の事実からすれば、承継法人への就職希望者数が基本計画に定められた「承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数」に満たなかった場合でも、右基準に該当する国鉄職員については採用候補者名簿に登載されず、したがって、当該国鉄職員が希望先の承継法人に必ず採用されるとの制度的保障はなかったこと、<6>本件救済対象者は、いずれも採用候補者名簿に登載されておらず、設立委員が、本件救済対象者を被控訴人らの職員として採用する余地はなかったことなどの事実を考慮すると、設立委員ないし被控訴人らが、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」として「使用者」に当たると解することはできない。

(二) 憲法二八条違反等について

(1)  控訴人らは、採用候補者名簿の作成等が専ら国鉄の責任と権限に委ねられ、承継法人の採用候補者名簿の作成等に関していかなる差別が行われようとも、設立委員がその責任を問われることはないと解するのは、改革法が、憲法二八条、労組法七条の定める不当労働行為制度を排除していると解することになる上、承継法人の職員の採用手続に関する改革法の論理構造にも、同法の立法趣旨にも反するものであり、憲法、労組法との調和的、整合的解釈の要請に反する旨主張する。

(2)  しかし、改革法二三条が採用候補者名簿の作成等を国鉄の専権としたのは、約二七万名を超える国鉄の職員の中から、短期間のうちに二一万五〇〇〇名という極めて多数の承継法人の職員を新規採用しなければならず、設立委員自らが採用候補者名簿の作成等を行うことが事実上不可能であるため、採用候補者選定のための資料を有し、その事情を把握している国鉄において採用候補者名簿の作成等を行うことが適切であるとの理由に基づくものである。設立委員は、仮に、国鉄が、承継法人の採用候補者名簿の作成等に関して不当労働行為を行ったとしても、その責任を負わないが、これは、右のような理由から、改革法が、採用候補者名簿の作成等を国鉄の専権として設立委員の関与を認めず、国鉄の不当労働行為による責任は、その行為の主体たる国鉄ないし清算事業団が負うことにした結果である。改革法は、右のとおり、採用候補者名簿の作成等に関する不当労働行為の責任を国鉄ないし清算事業団に負わせることとしているのであって、不当労働行為制度を排除しているものではない。確かに、国鉄ないし清算事業団に対する救済命令では、本件救済対象者を被控訴人らに採用させることはできないし、国鉄を引き継いだ清算事業団においては、その設立目的からして本件救済対象者の雇用を継続していく余地もなく、したがって、本件救済対象者を職場復帰させる余地はないが、これは、設立委員ないし被控訴人らが「使用者」に該当しないこと及び清算事業団の設立目的からくる制約であり、不当労働行為の救済についても法令の制限を受け、「使用者」以外の者に対し救済命令を発することができないとされている以上、やむを得ないところである(なお、国鉄が不当労働行為をしたとすれば、これにより侵害された国労の団結権等については、国鉄ないし清算事業団に対するポスト・ノーティス命令や場合によっては金銭給付命令等の方法により侵害状態の回復がされる余地があるのであり、不当労働行為の救済の途が全く閉ざされている訳ではない。)。

以上のとおり、改革法は、不当労働行為制度を排除しているものではなく、したがって、憲法二八条、労組法七条に違反するものでもない。

(三) 国鉄補助機関論について

(1)  控訴人は、国鉄の立場が、設立委員の指示を受けて採用過程における事実行為の一部を行い、その結果を設立委員に報告する機関、言い換えれば、設立委員が行う承継法人の職員の採用の補助機関としての地位を有するものであり、国鉄が、採用候補者名簿の作成等において、労働組合の所属等による差別的取扱いを行った場合には、国鉄の不当労働行為についての設立委員の認識の有無を問わず、その責任は承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有する設立委員に帰属するのであり、設立委員ないし被控訴人らは「使用者」に当たる旨主張する。

(2)  しかし、改革法二三条は、承継法人における労働契約関係を、前記一1(二)(3) 記載の各過程を経て段階的に創設するものとし、右各段階における設立委員及び国鉄の権限の範囲並びにその主体を定めているところ、同条は、採用候補者名簿登載者から職員を採用することなどの承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任は設立委員に委ねたが、採用候補者名簿の作成等については国鉄の権限としたものであり、承継法人の職員の採用手続に関する右各権限は、設立委員及び国鉄とも改革法により特別に付与されたものというべきである。そして、同条を含めて国鉄改革関連八法案中には、設立委員が、国鉄の権限の行使を規制し又は指揮監督し得る規定は存在しないから、採用候補者名簿の作成等は、改革法二三条により、専ら国鉄の権限と責任に委ねられたものであるといわざるを得ず、設立委員が採用候補者名簿の作成等に容喙する余地、国鉄を規制し又は指揮監督する余地はなかったのであって、設立委員が承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有するからといって、国鉄が設立委員の権限に属する採用候補者名簿の作成等の行為を補助ないし代行しているものと解することはできない。控訴人が指摘する「国鉄改革のスケジュール」(甲事件乙一七の3)には、設立委員が、「職員選考」をし「採用者決定」をする旨の記載があるが、これは、国鉄が採用候補者名簿の作成等をした後、その名簿に記載された者の中から「職員選考」をし「採用者決定」をする趣旨の記載であることが明らかであるから、右記載は右の判断を左右するものではない。

なお、参議院特別委員会において、運輸大臣、政府委員等が、国鉄を設立委員の補助者ないし代行に当たるなどと答弁していることが認められるが、右大臣等の各答弁は、これを文字通りに解せば改革法二三条等の規定に反すること、右各答弁も「準委任に近い」「どちらかといえば代行と考えるべき」という内容のものであることを考慮すれば、「補助者」「代行」等の言葉は法案説明のために便宜的に用いられたものにすぎず、右各答弁をもって、国鉄が設立委員の補助機関として採用候補者名簿の作成等を行うものであると認めることはできない。また、国鉄が、国労からの団体交渉の申し入れに対し、不採用は設立委員会で決定したものであると述べて、自らは承継法人の職員の採用についての当事者ではないとの姿勢をとっていたとすれば、改革法の趣旨を正解しない態度であり、相当でないが、国鉄の右のような態度をもって改革法の解釈を左右することができないことは明らかである。さらに、控訴人は、経営を破綻させた国鉄に採用候補者名簿の作成等という承継法人の将来の経営を左右することとなる重要な事項に関する権限を付与したと解することは当を得ない旨主張するところ、確かに、国鉄職員を承継法人の職員として採用する手続に従来の労働関係の一方当事者である国鉄を関与させることは必ずしも相当であるとはいえないが、前記のとおり、短期間に極めて大量の職員を選別して採用候補者名簿の作成等を行える者は国鉄以外にいないこと、国鉄は、労組法七条により不当労働行為を厳に禁止されている上、参議院特別委員会の附帯決議により「所属組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」とされており、採用候補者名簿の作成等にあたって不当労働行為をすることを特に厳重に禁止されているのであって、右状況の下では不当労働行為を行う可能性が高いとは言い難かったことを考慮すれば、改革法二三条が、採用候補者名簿の作成等を国鉄の専権としたことにも十分な理由があるというべきであるから、国鉄に採用候補者名簿の作成等の権限を付与したことが当を得なかったということはできない。

3  補助参加人らの主張等に対する判断

(一) 設立委員の「使用者」性について

(1)  補助参加人らは、労組法七条に規定する「使用者」は、労働契約上の使用者に限られないものであり、近い将来における労働契約の可能性ある者も「使用者」に当たるところ、本件は、国鉄の分割・民営化に伴い、国鉄の営業が複数の承継法人に分割して承継される過程での承継法人の職員の採用に関する組合差別の責任が問われているものであり、営業譲渡等の企業の変動の場合に類するのであって、営業を承継する承継法人のみが、現に復帰すべき職場を有し、原状回復能力を有しているのであるから、承継法人(採用に当たっては設立委員)が、近い将来における労働契約の可能性ある「使用者」に当たるというべきである旨主張する。

しかし、前記一2(一)(4) のとおり、一般論としては、近い将来における労働契約の可能性ある者も「使用者」に含まれると解されるが、本件においては、国鉄のした採用候補者名簿の作成等に関する行為について設立委員ないし被控訴人らが、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」に当たり、不当労働行為責任を負うものと解することはできない。

(2)  補助参加人らは、設立委員を「使用者」に当たらないとすることは、設立委員による採用手続を労組法の枠外におくことになり、国鉄の労働組合所属による差別を容認することになる旨主張するが、前記第一2(一)のとおり、「使用者」であるか否かは、当該行為者が、「労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にあるか否かを基準として決すべきであり、不当労働行為によってもたらされた違法状態を排除する目的を優先させ、本来「使用者」に当たらない者を「使用者」と認定することはできないというべきである。しかも、設立委員ないし被控訴人らを「使用者」と認めないとしても、「使用者」である国鉄ないし清算事業団に対する救済命令により一定の救済をすることができるというべきであるから、設立委員を「使用者」に当たらないとすることが、設立委員による採用手続を労組法の枠外におくことになり、国鉄の労働組合所属による差別を容認することになるということはできない。

また、補助参加人らは、設立委員が、承継法人の職員の採用基準を決めると共に、採用者を決定する権限を有し、さらに、就業規則や労働協約を含む承継法人の内部規定や内部組織及び職員配置等を決定する権限を有し、国鉄職員と承継法人の労働契約が成立する以前から国鉄職員の団結権などに具体的な影響力を行使することができたことを理由として、設立委員が「使用者」に当たる旨主張するが、前記第一2(一)(3) のとおり、採用候補者名簿の作成等は、国鉄の専権事項とされ、設立委員には採用候補者名簿の作成等について国鉄を規制し又は指揮監督する権限がないことを考慮すると、国鉄が採用候補者名簿の作成等に関して不当労働行為をした場合に、設立委員が「使用者」としてその責任を負う余地はないというべきである。

(3)  補助参加人らは、設立委員が、国鉄による職員としての適格性判断をもって自らの判断とし、承継法人の職員の採用を決定したというべきであるから、その採用・不採用について「使用者」として不当労働行為責任を負う旨主張する。しかし、採用候補者名簿の作成等は、国鉄の専権事項とされ、設立委員には国鉄を規制し又は指揮監督する権限がないのであるから、国鉄による職員としての適格性判断をもって自らの判断とし、承継法人の職員の採用を決定したということはできず、設立委員を「使用者」であると解することはできない。

(二) 国鉄と被控訴人らとの同一性について

(1)  補助参加人らは、国鉄と被控訴人らとは実質的に同一であり、被控訴人らへの不採用とは解雇にほかならないから、その不当労働行為責任を設立委員ひいては被控訴人らに帰せしめるのは当然のことである旨主張する。

(2)  しかし、実質的同一性の理論は、旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅等の目的その他違法又は不当な目的をもってされた場合、すなわち法人格が濫用された場合に、新設会社を名宛人として救済命令を発することを想定したものであるから、新旧両会社との間に単に実質的同一性が肯定されれば、直ちに新会社が救済命令の名宛人となることを肯定するものではない(前記東京高裁平成七年五月二三日判決参照)。そして、国鉄改革関連八法は、「国鉄の鉄道事業その他の事業の経営が破綻し、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下においてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっている事態に対処して、これらの事業に関し、輸送需要の動向に的確に対応し得る新たな経営体制を実現し、その下において我が国の基幹的輸送機関として果たすべき機能を効率的に発揮させることが、国民生活及び国民経済の安定及び向上を図る上で緊要な課題であることにかんがみ、これに即応した効率的な経営体制を確立するための日本国有鉄道の経営形態の抜本的改革」(改革法一条)を図るため、全国民を代表する国会によって可決、成立したものであり、右目的のため、被控訴人らの設立と国鉄の清算事業団への移行がされたことからすれば、これが違法又は不当な目的をもってされたといえないことは明らかである。

(3)  また、<1>改革法六条及び八条が、国鉄が経営している旅客鉄道事業及び貨物鉄道事業を分割し、国鉄とは別個独立した法人格を有する株式会社(鉄道会社)を新たに設立して、右株式会社にそれぞれ旅客鉄道事業及び貨物鉄道事業を引き継がせる旨規定していること、<2>同法一九条が、国鉄は、運輸大臣の指示に基づき、基本計画に従って、事業等の引継並びに権利及び義務の承継に関する実施計画を作成すべき旨及び実施計画には当該承継法人に引き継がせる事業等の種類及び範囲、当該承継法人に承継させる資産、当該承継法人に承継させる権利義務等を記載し、運輸大臣の認可を受けなければならない旨規定していること、<3>基本計画に従い策定された実施計画には、承継法人が引き継ぐべき事業又は業務、承継資産・債務の概要が個々的に明示されていること(甲事件乙一三九の1ないし4、丙事件乙三七六、三七八、丁事件乙三八三の1、2、戊事件乙一九七、二七七の3〔乙9の3の82の1、2と表示されたもの〕)、<4>同法二一条が、実施計画において定められた国鉄の事業等は、承継法人の成立の時において、それぞれ承継法人に引き継がれる旨規定していること、<5>同法二二条が、承継法人は、その成立の時において、国鉄の権利及び義務のうち承継計画に定められたものを、承継計画において定めるところに従い承継する旨規定していることからすれば、改革法は、国鉄の分割・民営化のため、国鉄とは別個独立した株式会社として承継法人を設立し、国鉄の権利義務のすべてではなく、実施計画(承継計画)に定めるところに従い、旅客鉄道事業及び貨物鉄道事業に必要な権利義務等を個々的に限定して、これを引き継がせるものとしたものであり、国鉄の権利義務をそのまま承継法人に引き継がせたものではないことが認められること、<6>同法一五条が、国鉄が承継法人に事業を引き継いだときは、国鉄を清算事業団に移行させる旨規定し、清算事業団法附則二条が、国鉄は改革法附則二項施行の時において清算事業団となるものとする旨規定していること、<7>改革法一四条、一九条及び二四条は、被控訴人らの承継法人が、国鉄を通じて、国鉄の権利義務のみのならず日本鉄道建設公団の資産、債務の一部をも承継する旨規定していることを考慮すると、改革法は、国鉄については清算事業団がその同一性を維持しつつ承継することとしたものであると認められるから、国鉄と被控訴人ら承継法人との間に実質的同一性があるとは認められない。

なお、補助参加人ら主張のとおり、承継法人の株式は、国鉄が全額出資し、清算事業団が一〇〇パーセント所有することとされていること、承継法人の役員も国鉄幹部が相当数を占めていること、承継法人の従業員も、外部からの公募は全くなく、すべて国鉄職員で構成されたこと、承継法人の従業員の労働条件も、基本的に国鉄のそれが踏襲され、退職手当は国鉄からは支給されずに、国鉄の在職期間を承継法人のそれと通算するとされたことが認められるが、前記改革法の規定等に加えて、ある株式会社が他の株式会社の全株式を所有しているからといって、直ちに両社が実質的に同一であると認定できるものではないこと、国鉄と承継法人との役員構成は異なっている上、国鉄の幹部職員以外の者も多数承継法人の役員となっていること、承継法人の従業員の人数は当然として、その具体的就業先等も変更する可能性があったこと(甲事件乙一八の1、九六の3、甲事件丙一、戊事件乙一三七)、退職手当の算定や従業員の労働条件が国鉄のものを踏襲しているとしても、そのような例は、国家公務員から地方公務員になる場合など、同一性を認める余地のない法人間における移籍の場合にも存在すること(一例として退職手当に関する国家公務員退職手当法一三条)などの事実を考慮すると、補助参加人ら主張の前記事実が認められるからといって、国鉄と被控訴人ら承継法人との間に実質的同一性があるとは認められない。

補助参加人らは、他にも、国鉄と被控訴人ら承継法人との間に実質的同一性がある旨るる主張するが、いずれも採用することができない。

(4)  以上の次第で、国鉄と被控訴人らとは実質的に同一であるとの補助参加人らの主張は採用することができない。

(三) 国鉄補助機関論について

(1)  補助参加人らは、国鉄は「本来設立委員の権限内の事項」に属する採用候補者名簿の作成等を、設立委員の補助機関として行ったものであるから、国鉄が採用候補者名簿の作成等に関してした不当労働行為の責任を設立委員ひいては被控訴人らが負うべきである旨主張する。

しかし、前記一2(三)のとおり、採用候補者名簿の作成等は、改革法二三条により、専ら国鉄の権限と責任に委ねられたものであり、これが「本来設立委員の権限内の事項」であるとは認められないから、国鉄が設立委員の権限に属する採用候補者名簿の作成等の行為を設立委員の補助機関として行ったと解することはできない。

(2)  補助参加人らは、設立委員(承継法人)と国鉄職員との間の「採用」、すなわち労働契約の締結の当事者は、設立委員と各国鉄職員であるから、採用の主体は、設立委員以外になく、国鉄の採用候補者名簿の作成等は、採用手続の過程における企業側の内部的事実行為に比すべきものである旨、一般に、採用に関し、採否決定内容に違法の問題があれば、採用主体がその責任を負うべきことは当然であり、したがって、国鉄が採用候補者名簿の作成等に関し差別行為を行ったとすれば、それは、法律上当然に、採用主体たる設立委員の行為として、又は少なくとも設立委員の責任における行為として評価されるべきである旨それぞれ主張する。

しかし、前記一2(三)のとおり、改革法二三条は、承継法人における労働契約関係を、段階的に創設するものとし、各段階における設立委員及び国鉄の権限の範囲並びにその主体を定め、採用候補者名簿登載者から職員を採用することなどの承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任は設立委員に委ねたが、採用候補者名簿の作成等については専ら国鉄の権限と責任に委ねたものであるといわざるを得ない。このように、承継法人の職員の採用手続に関する権限は、設立委員及び国鉄とも改革法により特別に付与されたものであるから、設立委員が承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任を有するからといって、国鉄が設立委員の権限に属する採用候補者名簿の作成等の行為を補助ないし代行しているものと解することはできない。

なお、補助参加人らは、改革法二三条は採用候補者名簿の作成等から設立委員を排除する規定をおいていない旨主張するが、同条二項が、承継法人の職員の採用手続のうち「職員の意思を確認」し、「職員となるべき者を選定」する権限を国鉄の権限とする旨明記していることに照らせば、設立委員を採用候補者名簿の作成等から排除する旨の明示の規定が置かれていないからといって、同法が、採用候補者名簿の作成等に設立委員を関与させる余地を残しているものと解することはできない。

(3)  補助参加人らは、立法者が、採用候補者名簿の作成等が、法的には、設立委員の行為又は少なくとも設立委員の責任における行為であるとの意思を明確に表明していた旨、国鉄が、一貫して、採用選考を含めて判断権は設立委員にあり、国鉄には責任も権限もない旨表明し、設立委員も右のような認識を有していた旨それぞれ主張する。

しかし、前記一2(三)のとおり、運輸大臣等が、国鉄を設立委員の補助者ないし代行に当たる旨答弁したのは法案説明のための便宜的なものにすぎず、右答弁をもって、国鉄が設立委員の補助機関として採用候補者名簿の作成等を行うものであると解することはできない。また、国鉄が、自らは承継法人の職員の採用についての当事者ではないとの見解に立って国労と対応していたとしても、右国鉄の見解は、改革法の趣旨を正解しないものというべきであるから、これをもって改革法の解釈を左右することもできない。

(4)  補助参加人らは、改革法二三条による採用手続は、実際には、国鉄の担当職員が、採用の基準の策定から採用通知等までの実務作業を行っており、名は設立委員、内実は国鉄という実態にあったものであって、その関係を説明するとすれば、国鉄が設立委員の補助者であったとの解釈が簡明であり、実態に即している旨主張する。

しかし、前記一2(三)のとおり、改革法は、採用候補者名簿の作成等については専ら国鉄の権限と責任に委ねたものであり、採用候補者名簿の作成等に関する限り、設立委員には、法律上、何らの権限も有していなかったのであるから、仮に、国鉄が補助参加人ら主張のような行為を事実上担当するようなことがあったとしても、そのことを理由として、採用候補者名簿の作成等について、国鉄が設立委員の補助者であるということはできない。

(5)  補助参加人らは、国鉄から承継法人への職員の承継について、法によって「採用」という形式がとられた以上、「採用」は、客観的かつ公正に行われなければならない旨、従来の使用者が、労働組合運動等を理由に労働者の再就職を妨害してはならないということは、労働基準法二二条、労組法七条、憲法二二条、二七条及び二八条によって定立された公序であるところ、国鉄に採用候補者名簿の作成等の権限があるとすれば、国鉄は、組合関係情報に基づいて承継法人の職員の採否を決定することが可能になり、労働基準法二二条を全くないがしろにし、前記の公序に反する旨、したがって、設立委員に、承継法人の職員の採用について全面的に責任を負わせ、その監督是正等をさせることにより、「採用」に関する法的公正性の確保を期していると解するのが、前記公序に合致した改革法二三条の解釈である旨、改革法二三条の規定故に国鉄のした不当労働行為の救済が実質的に否定されるとすれば、同条は、憲法二八条、ILO九八号条約一条、三条及び国際人権規約A規約八条に違反する旨それぞれ主張する。

確かに、国鉄職員を承継法人の職員として採用する手続に従前の労働関係の一方当事者である国鉄を関与させることは必ずしも相当であるとはいえないが、前記一2(三)のとおり、短期間に極めて大量の職員を選別して採用候補者名簿の作成等を行える者は国鉄以外にいないこと、国鉄は、労組法七条により不当労働行為を厳に禁止されている上、参議院特別委員会の附帯決議により「所属組合等による差別等が行われることのないよう特段の留意をすること」とされており、採用候補者名簿の作成等にあたって不当労働行為をすることを特に厳重に禁止されているのであって、右状況の下では不当労働行為を行う可能性が高いとは言い難かったことを考慮すると、改革法二三条が、採用候補者名簿の作成等を国鉄の専権としたことにも十分な理由があるというべきであり、また、国鉄が不当労働行為をしたとすれば、その責任は国鉄ないし国鉄を承継した清算事業団が負うべきであり、しかも、国鉄ないし清算事業団に対し、被控訴人らへの採用を命ずる救済命令を発することは実効性がないとしても、その余の方法による救済命令により当該不当労働行為によりもたらされた違法状態を一定限度回復する余地もあることに照らすと、国鉄に採用候補者名簿の作成等の権限を専属的に帰属させたことをもって公序に反するということはできないし、憲法二八条、ILO九八号条約一条、三条及び国際人権規約A規約八条に違反するともいえない。

(6)  補助参加人らは、採用候補者名簿の作成等の行為を国鉄の専権とした場合には、国鉄職員のうち採用候補者名簿に登載しないと国鉄が判断した者については、国鉄の判断をもって不採用が最終的に決定され、設立委員による関与の余地がなく、ひいては、国鉄が採用から終局的にその者を排除する権限を有していたことに帰着するところ、このような結果を避けるためには、国鉄職員の採用申込が国鉄に到達したことをもって設立委員に到達したものとし、国鉄が名簿に登載しなかったことをもって設立委員が採用申込を承諾しなかったと理解するほかなく、この場合、国鉄は、設立委員の補助者ないし受任機関ということになる旨、採用候補者名簿の作成等が国鉄の専権事項であるとすれば、国鉄が設立委員の定めた採用基準を逸脱しても、設立委員はこれを監督是正することができないことになり、それでは、採用の主体である設立委員が採用の基準を定めた目的を達成できなくなり不当である旨それぞれ主張する。

しかし、改革法は、約二七万名を超える国鉄の職員の中から、国鉄改革関連八法の成立・施行後四か月という短期間のうちに、二一万五〇〇〇人という極めて多数の承継法人の職員を新規採用しなければならず、設立委員自らが採用候補者名簿の作成等を行うことが事実上不可能であるという事態を受けて、前記のとおり、不当労働行為を厳に禁止されている上、採用候補者選定のための資料を有し、その事情を把握している国鉄に採用候補者名簿の作成等を行わせることが相当であるとして、採用候補者名簿の作成等の行為を国鉄の専権としたものであるから、補助参加人ら主張のような事由を根拠として、国鉄が設立委員の補助者ないし受任機関に当たるということはできない。

(四) 補助参加人らのその他の主張及び反論について

補助参加人らは、国鉄の行為を設立委員自身の行為と評価し得る旨、国鉄の行為は承継法人の機関としての行為である旨それぞれ主張する。しかし、これらの主張は、国鉄と被控訴人らとが実質的に同一である旨又は国鉄が設立委員の補助機関である旨の主張を言い換えたものと評価することができ、国鉄が改革法により付与された独自の権限に基づいてした採用候補者名簿の作成等の行為の責任を設立委員ひいては被控訴人らに負わせる理由とはなり得ないものであることは、前記(二)、(三)において判断したとおりである。

二  設立委員自身が採用候補者名簿の作成等に関し不当労働行為をしたか(補助参加人らは、本件各命令に付された処分理由と異なる理由を主張することができるか。〔争点二〕)。

1  処分理由の変更について

被控訴人らは、設立委員自身の不当労働行為に関する補助参加人らの主張は、本件各命令の理由と異なる事由であり、そのような事由を本件訴訟において主張することはできない旨主張する。

しかし、<1>行政処分の取消訴訟における訴訟物は、一般に、取消を求める行政処分の違法性一般であり、行政庁は、処分の同一性を害しない限り、当該処分の効力を維持するための一切の法律上及び事実上の根拠を主張することが許されるものであり、救済命令についても、これを別異に解すべき理由はないこと、<2>救済命令の根拠となる事実自体は客観的に存在しているため、取消訴訟において理由を変更すれば救済命令を維持できる場合に、理由の変更が許されず、その結果裁判所によって救済命令が取り消され、その取消しの理由に沿って再度救済命令を発する必要があると解することは、不当労働行為による侵害に対して迅速に回復、是正を行うべき救済命令制度の趣旨を損なうことなどを勘案すると、理由の変更が不意打ちに当たり相手方の防御の機会を奪うことになるなどの特段の事情がない限り、その取消訴訟において、処分の同一性を害さない範囲で救済命令の理由を変更することは許されるものと解するのが相当である。そして、右(一)の補助参加人らの主張が、本件各命令の理由となった不当労働行為に関する事実を、異なる観点から法的に構成し直したものにすぎず、実質上、本件各命令についての控訴人の審理において当事者双方が攻撃防御を尽くしている上、主張の基礎となっている事実は本件各命令の基礎となった事実と同一であるか又はこれと密接に関連していて不意打ち等のおそれがなく、被控訴人らに防御の機会を奪うなど格別の不利益を与えるものではないと認められることからすれば、理由の変更を許さないとする特段の事情があるとは認められない。

したがって、この点での被控訴人らの主張は採用することができない。

2  設立委員自身の採用候補者名簿の作成等に関する不当労働行為について

補助参加人らは、設立委員が、国鉄による採用候補者名簿の作成等が採用の基準に合致しているか否かを実質的に審査し、合致していない場合は国鉄に採用候補者名簿の作成等について是正を求める権限を有し、義務を負うことを前提として、設立委員が右作為義務を履行せず、国鉄による採用候補者名簿の作成等に関する不当労働行為につき何らの是正措置をとらなかった結果、本件救済対象者が不採用とされたのであるから、設立委員は、国鉄による採用候補者名簿の作成等に関し自ら不当労働行為を行ったと評価され、設立委員ひいては被控訴人らにおいてその責任を負わなければならない旨主張する。

しかし、前記一2(一)のとおり、設立委員は、採用候補者名簿の作成等に関し、国鉄を規制し又は指揮監督する権限を有していなかったのであるから、補助参加人ら主張のような作為義務を負うとは認められず、したがって、補助参加人らの主張は前提を欠き、採用することができない。

また、設立委員が提示した「日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」との採用基準及びこれに基づいて国鉄が採用候補者名簿の作成等に当たり設定した「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿に登載しない」との方針ないし基準は、それ自体としては合理性があるというべきところ、採用候補者名簿へ登載された者は、右方針ないし基準に示された「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者」に該当せず、そのことが国鉄から採用候補者名簿と共に提出された基礎資料(改革法施行規則一二条二項)に記載されていたと推認され、他方、本件救済対象者は、職員管理調書上、いずれも「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者」に該当するとされていたことを考慮すると、仮に、国鉄による組合差別により本件救済対象者が採用候補者名簿に登載されなかったとしても、短期間に大量の職員を採用することを義務づけられていた設立委員が右事実を知ることは事実上不可能であったと認められるから、この面でも、設立委員自身の不当労働行為を認定することはできない。

三  争点三において、組合差別を理由とする採用拒否が不当労働行為となるのは黄犬契約の場合に限られるとした場合、黄犬契約による不当労働行為が成立するか(補助参加人らは、控訴人の明示の意思に反し、黄犬契約による不当労働行為の主張をすることができるか。〔争点四〕)。

1  前記一及び二のとおり、設立委員ないし被控訴人らは、採用候補者名簿の作成等については、国鉄のした行為についても設立委員自身がした行為についても不当労働行為責任を負う余地はないから、本件において設立委員ないし被控訴人らが不当労働行為責任を負う可能性が残っているのは、補助参加人ら主張の黄犬契約による不当労働行為の場合、すなわち、国鉄又は設立委員自身が、国労への不加入及び脱退並びに国労の役員及び活動家を採用から排除することを募集条件に掲げた場合に限られる。そこで、争点三に先立ち、補助参加人らの右主張(争点四)について判断する。

2  控訴人は、平成一一年三月一五日の当審第二回口頭弁論期日において、「黄犬契約の主張はしない。」旨述べて、従前の黄犬契約の主張を撤回した。したがって、補助参加人らは、控訴人の明示の意思に反するから、黄犬契約を理由とする不当労働行為の主張をすることができないというべきである。

補助参加人らは、補助参加人らが行政事件訴訟法二二条による参加をし得る立場にあるから、被参加人たる控訴人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をし得る旨主張するが、仮に、補助参加人らが行政事件訴訟法二二条による参加をし得る立場にあったとしても、補助参加人らは、本件においては補助参加をしているにすぎないから、控訴人の訴訟行為と抵触する訴訟行為をすることができないことは明らかであり、この点での補助参加人らの主張は理由がない。

四  結論

以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、被控訴人らの請求は理由があると認めて認容すべきであるところ、これと結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、控訴費用及び当審における補助参加によって生じた費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条、六六条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 小林正 裁判官 萩原秀紀)

当事者目録

控訴人(各事件被告) 中央労働委員会

右代表者会長 花見忠

右指定代理人 菅野和夫

同 伊藤治

同 瀬野康夫

同 松野明広

控訴人補助参加人(各事件被告補助参加人) 国鉄労働組合

右代表者執行委員長 高橋義則

控訴人補助参加人(甲、乙事件被告補助参加人) 国鉄労働組合東京地方本部

右代表者執行委員長 酒田充

控訴人補助参加人(甲事件被告補助参加人) 国鉄労働組合東京地方本部横浜支部

右代表者執行委員長 黒川広志

控訴人補助参加人(甲事件被告補助参加人) 国鉄労働組合東京地方本部国府津支部

右代表者執行委員長 緒方博

控訴人補助参加人(丙、丁事件被告補助参加人) 国鉄労働組合東日本本部

右代表者執行委員長 飯田勉

控訴人補助参加人(丙、丁事件被告補助参加人) 国鉄労働組合仙台地方本部

右代表者執行委員長 沼下清一

控訴人補助参加人(戊事件被告補助参加人) 国鉄労働組合静岡地方本部

右代表者執行委員長 山梨孝夫

右七名訴訟代理人弁護士 宮里邦雄

<外五三名>

控訴人補助参加人 野田紀泰

控訴人補助参加人 平石吉広

右二名訴訟代理人弁護士 宮里邦雄

同 岡田和樹

同 福田護

控訴人補助参加人 新山貞夫

控訴人補助参加人 山下良一

控訴人補助参加人 佐藤昭一

控訴人補助参加人 菅原次男

右四名訴訟代理人弁護士 宮里邦雄

同 岡田和樹

被控訴人(原告) 東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役 大塚陸毅

右代理人支配人 今木甚一郎

被控訴人(原告) 日本貨物鉄道株式会社

右代表者代表取締役 金田好生

被控訴人(原告) 東海旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役 葛西敬之

右三名訴訟代理人弁護士 西迪雄

同 向井千杉

同 富田美栄子

被控訴人東日本旅客鉄道株式会社訴訟代理人弁護士(丙、丁事件関係) 三島卓郎

初審命令目録、誓約書<省略>

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