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東京高等裁判所 平成10年(行コ)128号 判決 1998年12月17日

東京都品川区荏原六丁目一九番二号

控訴人

石塚博

右訴訟代理人弁護士

中谷栄一郎

番場弘文

東京都品川区中延一丁目一番五号

被控訴人

荏原税務署長 安藤克巳

右指定代理人

小暮輝信

須藤哲右

銭谷覺

畑山茂樹

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  原判決の事実及び理由の「第一請求」の欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  事案の概要

次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第二事案の概要」の欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二八頁一三行目から同二九頁一行目にかけての「所得税基本通達三三―三(以下『本件通達』という。)」を「所得税基本通達(以下『本件通達』という。)三三―三」に改め、同九行目、同三〇頁三行目、同五行目、同八行目、同一一行目、同三一頁五行目、同四三頁七行目、同四四頁三行目及び同一三行目の「本件通達」の次に「三三―三」を加える。

2  同四八頁二行目の次に改行して次のように加える。

「3当審における主張

(一)  控訴人

(1) 所得税法施行令(昭和六三年政令第三六二号による改正前のもの。以下「施行令」という。)二六条について

施行令二六条二項は、株式の売買について年三〇回以上かつ一二万株以上の取引を継続的なものとみなして課税の対象とする旨定めていたところ、この基準は本件にも適用又は類推適用されるべきであるから、この点からも、本件絵画の売買は、継続性の要件を欠くものである。

(2) 本件通達三三―五について(予備的主張)

仮に本件長期保有絵画の売却による所得も雑所得に該当するとしても、本件通達三三―五は、極めて長期間保有していた土地に区画形質の変更等を加えて譲渡した場合の所得のうち、区画形質の変更等による価値の増加部分は事業所得又は雑所得とし、その他の長期間の保有による価値の増加部分(キャピタル・ゲイン)は譲渡所得とする旨定めており、この長期保有による増加益に対しては譲渡所得として課税するとの趣旨は本件にもあてはまるから、本件長期保有絵画の売却による所得のうち、継続的な譲渡を開始した時期までの間の増加益に対しては、譲渡所得として課税すべきである。

(二)  被控訴人

(1) 施行令二六条について

施行令二六条二項は、株式の取引のみを対象とした規定であり、取引の方法、取引の対象となる資産の種類及び数量、流通状況等が全く異なる絵画の取引に適用することはできない。また、同条一項が営利を目的とした継続的行為に当たるか否かは『売買の回数、数量又は金額、その売買についての取引の種類及び資金の調達方法、その売買のための施設その他の状況に照らし』て判断すべき旨規定し、同条二項は、同項に定める形式要件に該当する場合には、売買の回数及び株数以外の取引に関する状況がどうであるかを問わず、営利を目的とした継続的行為に当たることを定めたものにすぎず、右形式要件に該当しない取引のすべてが営利を目的とした継続的行為には当たらないことを定めたものではないから、この点からも、控訴人の主張は失当である。

(2) 本件通達三三―五について

本件通達三三―五は、同通達三三-三と同様、土地の供給促進等を目的として適用資産を『固定資産である不動産』に限定したものであり、絵画には適用されない。また、本件通達三三―五は、資産に形質の変更等を加えて譲渡した場合の所得の取扱いを定めたものであるが、絵画に形質の変更等を加えることは通常考えられないから、この点からも、控訴人の主張は失当である。」

三  当裁判所の判断

次のように付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第三当裁判所の判断」の欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四八頁一一、一二行目の「所得者」を「所有者」に、同五二頁七行目の「いずれも数十万円を下回るもの」を「多くても数十万円程度」に改め、同八行目の「ある」の次に「(なお、控訴人は、当審において、平成四年に譲渡された福王寺法林作の『ヒマラヤの月』及び『朝の光輝ヒマラヤ』につき、購入に当たり、原判決添付別表四の購入金額の外三〇〇〇万円を支出していると主張し、これを前提に右認定を争うが、右主張に沿う証拠は、甲二六、二七のみであるところ、これらは控訴人作成の陳述書又は手紙であって、これだけでは右主張事実を肯認するに足りないから、右主張は採らない。)」を、同五三頁一〇行目の「譲渡益」の次に「(平成三年は一億八〇五一万三二五三円、平成四年は一億四〇四六万六六七三円)」を加える。

2  同六三頁一三行目、同六四頁五行目及び同六五頁五行目の「本件通達」の次に「三三―三」を加え、同一〇行目の次に次のように加える。

「六当審における控訴人の主張について

1  施行令二六条について

昭和六三年法律第一〇九号による改正前の法九条一項一一号は、有価証券の譲渡による所得のうち、継続して有価証券を売買することによる所得として政令で定めるものその他一定の所得以外のものは非課税とする旨規定し、これを受けて、施行令二六条二項が、有価証券の売買の回数が年三〇回以上かつ株数が一二万株以上のときは、取引に関するその他の状況のいかんを問わず、営利を目的とした継続的行為として課税の対象とする旨規定していたが、これらの規定は、昭和六三年の法及び施行令の改正により改められ、平成三年当時は、右規定は存在していなかったので、同項の適用又は類推適用をいう控訴人の主張は、この点ですでに失当である。また、同項の規定は、有価証券の譲渡による所得についてのものであり、しかも、非課税所得に当たるかどうかの基準を定めたものであって、譲渡所得に当たるかどうかの基準を定めたものではないから、この点からも、控訴人の主張は失当である。

2  本件通達三三―五について

本件通達(甲二三、三一)は、固定資産である土地に区画形質の変更を加え若しくは水道その他の施設を設け宅地等として譲渡した場合又は固定資産である土地に建物を建設して譲渡した場合には、当該譲渡による所得は、その全部が事業所得又は雑所得に該当するが(本件通達三三―四)、この場合であっても、土地が極めて長期間引き続き所得されていたときは、当該土地の譲渡による所得のうち、区画形質の変更等による利益に対応する部分は事業所得又は雑所得とし、その他の部分(長期の保有期間中に生じた土地の価値の増加益)は譲渡所得とする(本件通達三三―五)旨定めているところ、これは土地の譲渡による所得についてのものであることは明らかであり、また、土地に区画形質の変更等を加えて譲渡した場合であっても長期の保有期間中に生じた土地の価値の増加益は譲渡所得として取り扱うこととしているのは、本件通達三三―三と同趣旨である(前記五の2)と解される。

したがって、本件通達三三―五に依拠して本件長期保有絵画の売却による所得のうち継続的な譲渡を開始した時期までの間の増加益は譲渡所得に該当する旨の控訴人の主張もまた失当である。」

3  同一一行目の「六」を「七」に改め、同六六頁三行目の「争いがないから」の次に「(なお、前記三2(一)の末尾の括弧書きの中で指摘した控訴人の当審での主張が、仮に平成四年分の右売上原価の額を三〇〇〇万円増加すべき旨を主張するものであるとしても、この主張は自白の撤回に当たるところ、前記主張事実が肯認し難いことは前述のとおりであるから、右自白の撤回は許されない。)」を加える。

四  結論

よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却する。

(口頭弁論終結の日平成一〇年一一月一〇日)

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 宇佐見隆男 裁判官 菊池洋一)

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