大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(行コ)33号 判決

主文

一  第一審原告の控訴を棄却する。

二  第一審被告の控訴に基づいて原判決主文第一項を取り消す。

三  第一審原告の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審とも、第一審原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

2  第一審被告が平成二年三月三〇日付けで第一審原告に対してした昭和六一年一一月一日から昭和六二年一〇月三一日までの事業年度以降の法人税の青色申告承認取消処分を取り消す。

3  第一審被告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

1  原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

2  第一審原告の請求をいずれも棄却する。

3  第一審原告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  青色申告承認取消処分について

(第一審被告の主張)

第一審被告係官は第一回目の調査は第一審原告の現況確認のための通常の手法として、第三回目の調査は第一審原告が第三者の立会いなしの調査には応じない意思を表明し調査日時の事前調整が不可能であったため無予告でこれを行った。反面調査は第一審原告が調査に応ぜず、帳簿書類に基づく実額課税が不可能になったためである。

第一審原告提出の書証では帳簿等の正確性は確認できず、本件更正処分時に右書類が存在していたとしても法人税法一二六条所定の青色申告法人の帳簿書類の備付け、記録、保存が正しく行われていたとは認められない。

(第一審原告の主張)

本件調査は民主商工会弾圧目的で行われ、第一審被告係官は当初から帳簿書類確認の意思がなく確認のため社会通念上必要とされる努力をしなかった(右係官の第一回目の来訪が無予告で第一審原告との接触時間は三、四分であり、具体的な守秘義務違反のおそれがないのに第三者の立会いを拒否したこと、第二回目の臨場以降第一審原告に対する調査を打ち切り、取引先や銀行等に反面調査を広範かつ長期間実施したこと、第一審原告の確定申告に疑義はなく第一審被告も誤りを発見できなかったこと、第三回目の臨場は必要な努力をしていたとの形作りのため無予告で短時間だけ行われ、第一審原告代表者が調査理由を言えば帳簿は見せると述べても第一審被告係官はその後の調査期日の提案さえせず青色申告を取り消す旨述べたこと等により明らかである。)。第一審原告は調査に非協力的な態度をとっておらず(きちんと帳簿を付けて正確な申告をしており、調査を受けないことを口実に推計課税をされるような発言はしていない。)、第二回目の調査では総勘定元帳の売上の頁を開いて見せており、ガムテープの封はしていない。第三回目の調査時の発言は右係官が反面調査をしてから臨場したことへの批判的意見であり、経過を捨象し右発言だけをとらえて非協力な態度であるとすることはできない。

憲法三〇条、八四条の租税法律主義により税法の解釈において国民の利益に背く方向での拡張解釈は許されないとの原則が導かれる。青色申告承認取消事由は法人税法一二七条一項一号、大蔵省令五三条ないし五九条に規定されており、取消しのためには法令に従った備付け、記録、保存がされていないという客観的事実の存在が必要であるし、右取消しは種々の特典を剥奪し納税額の増加をもたらす不利益処分である。右要件を拡張し、税務職員が法令に定められた帳簿書類の備付け等を確認できなかった場合も含まれるとし、任意調査において税務職員の帳簿書類の検査申出に即応しなければ客観的に右備付け等の事実が存在しないとみなすことはできない。

第一審原告は右係官が調査中の平成元年一二月二〇日に平成元年分の確定申告書を提出しており法令に従った備付け等をしていたことは明白である。第一審被告は右確定申告書の正確性を検討し、青色申告承認取消事由がないことを知悉しながら平成二年三月三〇日にこれを取り消す処分をした。

右係官は調査の際に立会人がいても右備付け等を確認できたから青色申告承認取消事由はなく、第一審原告が実質的な調査を望み後日の調査で立会人がない例が多くあることからすると、調査期日を再設定して右確認をすることができた。法人の確定申告書は別表、決算書、内訳書で構成され、複式簿記による帳簿が必要であるから、確定申告時に提出した決算書に見合うように総勘定元帳を作成することは不可能である。右係官は第二回目の臨場の際に帳簿書類の備付け、保存を確認しており、反面調査の結果でも確定申告の基礎となった記録の正確性を疑わせるものがなかったから、第一審被告は青色申告承認取消処分時には右記録の正確性を確認できた。また原審において総勘定元帳等が提出され、第一審被告はその正確性と法令に従った帳簿書類の備付け等を右口頭弁論終結時に確認できたから、青色申告承認取消処分は原判決において取り消されるべきであった。

二  本件更正処分等について

(第一審被告の主張)

1 第一審原告の事業内容・業態等

第一審原告は木工家具製造業者であり、製作するのが置き家具か取付家具かは業態の違いにすぎない(両者はいずれも家具という点では同様で、施工図に従って裁断・加工等をし組み立てて完成させるという製作方法も共通しており、製作過程における基本的な違いはない。乙一九号証、石黒証言)。

第一審被告は抽出された比準同業者の実態調査(乙一〇号証、一二号証の調査報告書はこれをまとめたものである。)等を行い、その結果木工家具製造業にも様々な業態があることなどが明らかになった(なお乙一二号証の調査は法人の業態を熟知している責任ある役員等から調査時点のほか本件係争事業年度当時についても事業の概況等を聴取したものであるが、当時の証ひょう等は七年間の保存義務期間経過のため確認をしなかった。)。今日の木製家具製造業界においては単体の家具(置き家具)は大手木製家具製造業者の工場等で大量に製造され、かつての小規模な木製家具製造業者の相当数はその技術力を活かしながら集合住宅等の建築現場に加工済みの材料等を搬入し壁面等を利用した取付家具を製作する業者に移行しているのが実態である。右実態に照らすと従来木工家具製造業に分類されていた事業者の範疇には第一審原告主張の取付家具工事業者(半製品や材料等を納入先現場に搬入して取付家具を製作、完成させる業者)も含まれる。

第一審原告が得た建設業の許可における業務分類は原則として申請者の判断に任され、許可も営業実態を調査把握せずにされるから、右許可によって第一審原告の事業内容が内装工事業の一種である(木製)家具工事業に当たるとするとはいえない(乙一三号証)。また日本標準産業分類における木製建具工事業は主として木製建具の取付工事のみを行う事業所とされており、建具と家具は全く異なり(家具を室内壁面等に作り付けてもその家具が建具と称されることはない。)、第一審原告が家具の取付工事を行っていても木製家具(建具)工事業に当たらない。

2 主位的主張

第一審被告は本件係争事業年度の所得金額につき、第一審原告と同じく木工家具製造業を営む事業者で青色申告承認を受けている法人の中から合理性があると認められる一定の基準に従い恣意なく比準同業者を抽出・選定し(乙一ないし七号証の各一)、その売上原価率等の平均値を用いて推計をしており、右推計方法は合理的でこれにより算出された所得金額に基づく本件更正処分等には違法とされるところがない。右抽出基準の合理性は抽出された二〇法人(昭和六二年分一一件、昭和六三年分一八件、平成元年分一一件の合計四〇件)の実態調査の結果一九法人が専ら木工家具製造を業とする法人であったことから明らかである(乙一二号証)(法人Kは他業種であることが判明したが、設立当時の事業目的から判定して家具製造業に分類され、その後法人の現況が把握できず業種の変更がされていなかった。)。第一審原告と右一九法人間の業態の相違は推計を不合理ならしめる程度に顕著なものではなく、その平均値を算出する過程で捨象されるから推計の合理性は否定されない。

3 予備的主張

第一審被告は乙一〇号証の調査において前記二〇法人中の五法人につき、<1>主として自ら製造した家具の取付を行う法人との条件を設定して検討したところ、四法人がこれに該当した(このうち法人Aは次の<2>の条件を充たさない。)。乙一二号証の調査では残りの一五法人につき、右<1>のほか、<2>主としてマンションや戸建住宅の取付家具を扱う法人との条件も加えて検討したところ(その結果は本判決別紙5の1ないし3記載のとおりである。)、九法人がこれに該当した(法人Nは<2>の条件は充たさないが<1>は充たしている。)。すなわち抽出された比準同業者に右<1>、<2>の両条件を加えると一二法人が第一審原告と同一業態となり、<1>の条件だけを加えると一四法人が同一業態となる。

右業態の同一性がある一二法人又は一四法人の売上原価率及び一般経費率の平均値を算出し、第一審原告の各年分の所得金額(法人税額)を計算すると次のようになり、本件更正処分(昭和六二年分四〇七万〇七九三円(法人税額一二二万〇五〇〇円)、昭和六三年分四三八万五五四八円(同一三一万四四〇〇円)、平成元年分七八七万一九六八円(同二三五万九四〇〇円))はその範囲内であって適法である。

【右一二法人の場合-計算関係等は本判決別紙1の1ないし3、同2】

i 比準同業者数

昭和六二年分一〇件、昭和六三年分一一件、平成元年分七件

ii 調査により把握した仕入金額

昭和六二年分一〇八一万八九四二円、昭和六三年分一三五三万〇五九四円、平成元年分一六八七万九二九二円

iii  調査により把握した売上金額

昭和六二年分四一〇一万一九一〇円、昭和六三年分五一一七万四七一二円、平成元年分六三九三万六七一二円

iv 売上原価率

昭和六二年分二六・三八パーセント、昭和六三年分二六・四四パーセント、平成元年分二六・四〇パーセント

v 一般経費率

昭和六二年分四四・九七パーセント、昭和六三年分四三・〇六パーセント、平成元年分三七・三六パーセント

vi 計算される第一審原告の所得金額(法人税額)

昭和六二年分四三五万三五八七円(一三〇万五四〇〇円)、昭和六三年分五六七万六五二二円(一七〇万一七〇〇円)、平成元年分一〇〇八万四三三二円(三二七万三四〇〇円)

【右一四法人の場合-計算関係等は本判決別紙3の1ないし3、同4】

i 比準同業者数

昭和六二年分一一件、昭和六三年分一三件、平成元年分九件

ii 調査により把握した仕入金額

昭和六二年分一〇八一万八九四二円、昭和六三年分一三五三万〇五九四円、平成元年分一六八七万九二九二円

iii  調査により把握した売上金額

昭和六二年分四二五二万七二八七円、昭和六三年分五三二九万一〇三五円、平成元年分六七八九万七三九三円

iv 売上原価率

昭和六二年分二五・四四パーセント、昭和六三年分二五・三九パーセント、平成元年分二四・八六パーセント

v 一般経費率

昭和六二年分四七・〇七パーセント、昭和六三年分四四・四九パーセント、平成元年分四〇・三一パーセント

vi 計算される第一審原告の所得金額(法人税額)

昭和六二年分四二九万四四二六円(一二八万七七〇〇円)、昭和六三年分六一一万九四九四円(一八三万四六〇〇円)、平成元年分一〇五六万二三二九円(三四七万四一〇〇円)

(第一審原告の主張)

1 第一審原告の事業内容・業態等

第一審原告が営む事業は内装仕上工事業中の家具工事業である。第一審被告は第一審原告をたんす、机、いすなどの家具を製造する木工家具製造業と判断し、比準同業者もその判断の下に抽出していた。しかし製造業者が作るのは有体動産であるところ、第一審原告は鎌啓商事が製造したカウンタートップや棚板を主にゼネコンの注文を受けてマンション等にそのまま取り付ける仕事や、工場内で下駄箱、食器棚、本棚、棚板等の一部だけを作り、現場に持ち込んで作り付けの家具として仕上げる仕事をしており、これらはいずれも建物に固定されていて移動できないから独立した有体動産ではない。旧物品税法において家具は課税物件とされていたが、第一審原告は同法所定の家具を製造していなかったため物品税の課税業者ではなかった。

第一審被告主張の今日の木製家具製造業界の実態なるものはこれを認めるべき証拠がない。乙一〇号証の実態調査は質問が現在形であり係争事業年度分とする根拠はないから、その比準同業者とされる業者は第一審原告と同一業種・業態であるとはいえない。乙一二号証における実態調査も調査自体が本件係争事業年度の約一〇年後に行われていてその間の実態変化が考慮されておらず、業者名が不明で正確性の担保がなく(当審で初めて比準同業者数が二〇法人と主張されたが、調査対象とされた比準同業者は各税務署長からいわゆるABC方式で回答されており第一審被告もその住所、氏名を知り得ないはずである。)、代表者から聴取しただけで現物を見たり納品書、請求書、確定申告書等による確認をしておらず、調査対象者のうちBが木工業、Dが室内工芸、Fが内装業、Kが建具製造業、Nが内装工事業と回答しているのは初めから比準同業者の抽出を間違えていたことを示すものであり、調査担当者の氏名、所属や調査の分担も明らかではなく、証拠価値がない。第一審原告はかねて建設業法三条一項の許可を必要とする工事を依頼されていたこと、官公需の工事の下請をするには右許可を得ている必要があること、平成七年二月に神奈川県発注の工事中の家具工事等の雑工事を六六九万五〇〇〇円で下請受注した元請から右許可を取るように指示されたことにより、右許可を取得した(甲六号証の一ないし一五号証の二、一九号証、二〇号証の一ないし四、五一号証、六二号証)。

2 主位的主張について

推計課税が合理的であるためには推計の基礎事実が正確に把握されていること、当該事案に最適なものが選択されていること、具体的推計方法自体が真実の所得に近似した数値が算出され得る客観的なものであることが必要であり、同業者率を用いる場合はその比率の適正が担保されていること(同業者の抽出基準の合理性として同業者の類似性(業種、業態の同一性、法人、個人の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性)及び資料の正確性が、抽出過程の合理性としては右過程に課税庁の思惑や恣意の介在する余地のないこと等)が必要である。

第一審被告は第一審原告の事業内容を誤って判断し(西坂証言は第一審原告が規格に合わない特殊と特注の家具を得意としている粗利の高い法人であるとし、現場作業が多いとは聞いていないとしている。また、天野証言は木工家具製造業が一般的な業種であり、これをふるい分ける中心になるのは確定申告書の業種目の欄で、内装工事は家具製造業と異なる業種であるとしている。)、抽出された比準同業者も第一審原告と異なる事業を営む法人で事業規模の近似性もない(右比準同業者間の売上金額の最大格差は昭和六二年分で五・八倍、昭和六三年分で六・九倍、平成元年分で七・二倍であり、倍半基準が予測している最大四倍の範囲を大きく超えている。)。

3 予備的主張について

前記のように乙一〇号証、一二号証の調査報告書は信用できないし、抽出された比準同業者二〇法人には吊り戸棚、カウンター、洗面台を取り付ける内装業者は含まれていない(石黒証言)から、右二〇法人の中で条件を付加してみても同業者を漏れなく抽出したとはいえず、第一審被告の予備的主張は失当である。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

一  争点のうち(1) 調査手続の違法性、(2) 推計の必要性、(3) 青色申告承認取消しの効力についての当裁判所の判断は、右(3) の点について次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」の記載のうちこれらの点に関する説示(原判決書九〇頁七行目から同一二〇頁一行目まで)と同じであるから、これを引用する。

1  第一審原告は第一審被告係官には当初から帳簿書類確認の意思がなく確認のため社会通念上必要な努力をしなかった等と主張する。

しかし、前記のとおり調査の予告をするか否か、第三者の立会いを認めるか否か、調査理由を開示するか否か、反面調査の時期、方法等はいずれも権限ある税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解されるから第一審原告の主張は前提を欠いており、右係官が調査理由を具体的に開示せず、また第三者が同席したままでは帳簿書類を調査できないとしたことに違法はなく、他方、第一審原告代表者は調査理由の開示に固執し第三者の立会いを排除しようとしなかった(右代表者の供述中には守秘義務に当たる部分については第三者に隣の部屋に行ってもらってよい旨告げたとする部分があるが、西坂証言及び退席させるという話がなかった旨の岩舘証言に照らして信用できない。また後の調査期日に第三者の立会いがなかった他の例があったとしても、そのことから再度調査期日を指定すべきことにはならない。)のであって、このような第一審原告の対応は調査に非協力的な態度というべきであり、右主張は採用できない。

2  第一審原告は、青色申告承認の取消事由を拡張解釈し任意調査において税務職員の帳簿書類の検査申出に即応しなければ右備付け等の事実が存在しないとみなすことはできない等と主張する。

青色申告制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度の下における適正課税の実現に不可欠な正確な記帳を推進する目的で設けられ、適式な帳簿書類を備え付けて取引を忠実に記録しかつこれを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認して特典を与える制度であるから、納税者の帳簿書類の備付け、記録、保存が正しく行われることはもとより、これを税務当局が的確に確認できることが当然の前提となっているものと考えられる。したがって、青色申告の承認を受けている納税者が正当な理由なく当該帳簿書類を税務当局に提示することを拒否した場合、仮に帳簿書類の備付け、記録、保存が正しく行われていたとしても税務当局はこれを確認できず、青色申告の前提自体が欠けることになるから、この場合を青色申告の取消事由に該当するとすることは制度自体から導かれる当然の結論であって、右解釈は法人税法一二七条一項所定の取消事由の拡張ではない。第一審原告は前記のとおり調査理由の開示や第三者の立会いを求めることができるとの独自の見解を前提に税務調査に対し非協力的な態度をとり帳簿書類の提示を拒否していたもので、右拒否には正当な理由がないから、右主張は採用できない。

3  第一審原告は提出した確定申告書の記載が正確であることから青色申告承認取消処分は取り消されるべきである等と主張する。

しかし、第一審原告が本件訴訟において提出した確定申告書、総勘定元帳及び請求書や領収書の一部の控等(甲一号証、二号証、六号証ないし一七号証等(枝番のあるものはこれを含む。))によって確定申告書の記載の正確性は確認できないのみならず、これらの提出によって本件青色申告承認取消処分時に法人税法一二六条所定の青色申告法人の帳簿書類の備付け、記録、保存が正しく行われていたことにはならないから、右主張は採用できない。

二  推計の合理性等について

1  証拠によって認定する事実については、原判決書一二〇頁三行目から同一二九頁三行目までの記載をここに引用する。ただし、原判決書一二二頁五行目の「営む」から同七行目の「もので、」までを「営むもので」に改め、同一二三頁一〇行目冒頭から同一二四頁三行目末尾までを削り、同一二七頁四行目の「搬入して」の次に「組立て」を加える。

2  右認定の事実によれば、第一審原告の事業内容は、主として、ゼネコン等の建設業者の注文により、建築中の集合住宅等に家具の取付工事(作り付けの家具となる。)を行うというもので、右許可の観点からみると、いわゆる内装仕上工事業の一種である(木製)家具工事業に当たるものと認められる。しかし、右のような第一審原告の事業内容等が前記通達による基準(原判決書五三頁一行目から同五四頁八行目まで)によって抽出された比準同業者との間において同一性を有しないと即断することはできない。

そこで更に検討するに、証拠(甲一号証の一ないし三、五三号証の一、二、乙一ないし七号証の各一ないし四、一〇号証、一二ないし一四号証、一九号証、証人石黒里花証言、第一審原告代表者)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

第一審原告の商業登記簿の目的欄には家具製造販売が最初に記載されている。また第一審原告は本件係争事業年度における各確定申告書の事業種目欄に自ら木工製品家具製造であると記載している(第一審原告設立(昭和六〇年一一月一一日)前の昭和五九年分、昭和六〇年分の第一審原告代表者個人の各所得税確定申告書の職業欄には木工(木製)家具製造取付工事と記載されている。)ほか、第一審原告代表者自身、自分が作るものは全て家具であると考えていた。木製家具製造業界においては大手木製家具製造業者が製造する既製品の置き家具が出回るようになり、小規模の置き家具を作る木製家具製造業者は生きる道が非常に狭まってこれを手作りする業者は少なくなり、第一審原告もこのようなことから前記本件係争年度における業態に移行していった。

前記基準で抽出された比準同業者は全部で二〇法人であるが、これらについて第一審被告が実態調査をしたところ、原審係属中の五法人に対する調査では<1>主として自ら製造した家具の取付を行う法人との条件を設定したところ四法人がこの条件に該当し(このうち法人Aは次の<2>の条件を充たさない。)、当審係属中の残り一五法人に対する調査では更に<2>主としてマンションや戸建住宅の取付家具を扱う法人との条件も加えたところ九法人がこれに該当した(法人Nは<2>の条件は充たさないが<1>は充たしている。)が、右二〇法人のうち一法人(本判決別紙5の3における法人K)だけは木工家具製造業をしていないことが判明した(なお、右法人Kは後記の本判決別紙1の1ないし3及び同3の1ないし3に含まれていないことは明らかであり、また、本判決別紙3の1ないし3と原判決別紙2の1との間で各数額等を対比すると原判決別紙2の1(昭和六二年分)には含まれていないこと、同2の2(昭和六三年分)ではそのC、D、E、L、Qのいずれかが、同2の3(平成元年分)ではそのB又はCが右法人Kに該当する可能性があることが認められる。)。

右<1>、<2>の条件をいずれも充足する比準同業者は業種のみならず業態も同一であるといえるところ、実態調査により右各条件を充足するのは一二法人となり、本件係争事業年度ごとにこれをみると、本判決別紙1の1ないし3記載のとおり昭和六二年分は一〇法人、昭和六三年分は一一法人、平成元年分は七法人がそれぞれ該当することになる。なお、乙一〇号証における調査が本件各係争事業年度における実態を調査したものではないとすれば九法人が右<1>、<2>の条件を充足していることになり、昭和六二年分は八法人、昭和六三年分は九法人、平成元年分は六法人がそれぞれ該当することになる。

第一審原告が得た建設業の許可上の業務分類は原則として申請者の判断に任され、許可も営業実態を調査把握して行われるものではない。

右事実によると、前記基準で抽出された比準同業者のうち一九法人が第一審原告と業種を同一にし、そのうち一二法人(少なくとも九法人)は業態も同一であるということができる。

3  ところで同業者の平均値による推計課税において当該納税者の個々具体的な事業内容のすべてを把握しこれと同一の同業者だけを抽出することは困難であり、これを要求することは推計による課税自体を否定し正確な帳簿書類を備え付け調査に協力する納税者との間で課税の公平に反する結果となることに鑑みれば、比準同業者の抽出基準は一般的、抽象的にみて実額に近似した金額を算定するのに必要な限度で設定されれば足り、そのようにしても右推計方法は平均値によるものであるから同業者間に通常存在する程度の営業条件等の差異は捨象され、その推計方法が業種の同一性、営業規模の一応の類似性及び平均値算出過程の整合性を有し推計の基礎的要件に欠けていない以上、営業条件の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、推計の合理性は肯定されるというべきである。そして前記基準及びこれによって抽出された比準同業者は、前記のように一九法人につき業種の同一性が、九ないし一二法人につき更に業態の同一性が認められるとともに、いずれも第一審原告と同じ横浜市内に事業所を有するものでその近接性も認められ、また第一審原告の売上原価とした材料費につきいわゆる倍半基準によって抽出されたものであって事業規模の近似性も認められる(第一審原告は比準同業者間の売上金額の最大格差を挙げて右近似性がないと主張するが失当である。)。反面、比準同業者の抽出過程に第一審被告の思惑や恣意が介在したとすべき事情や第一審原告と右比準同業者との営業条件等の差異が平均値による推計自体を不合理ならしめるような事情はいずれも認められない。

4  証拠(甲一号証の一ないし三、乙九号証)及び弁論の全趣旨によると、推計の前提として第一審被告が主張する本件係争各事業年度における売上金額(材料仕入れの金額)、役員報酬、建物付属設備に係る減価償却費、地代家賃、支払利息及び割引料、受取利息、法人税額から控除される所得税額、固定資産売却損は、いずれも第一審被告主張のとおりであることが認められる。

5  以上に関し、第一審原告は自らが営む事業は内装仕上工事業中の家具工事業であって、第一審被告がこれを木工家具製造業と判断して抽出した比準同業者とは業種、業態の同一性もない等と主張する。

しかし、前記認定の本件係争事業年度における第一審原告の事業内容(マンション等の建築工事に際しいわゆるゼネコン業者等の取引先からの注文により取付家具の寸法、規格に従った材料を仕入れ建築現場に搬入して組立て取付工事を行うというもの。)をして、その業種を二者択一的に家具工事業であるが木工家具製造業ではないとすることはできない。このことは前記のように第一審原告自ら木工家具製造業を営む法人として確定申告をしていたこと、専ら木工家具製造業を営む法人を対象として発出された通達に基づいて抽出された二〇法人のうち一九法人は業種が同一で更に九ないし一二法人は業態も同一であること、第一審被告の管内において事業種目欄に内装工事業等と記載して確定申告書を提出している五法人につき事業内容を確認した結果いずれも壁や天井のクロス張り等を主とし家具の取付工事は行っていなかったこと(乙一〇号証)からも明らかであり、右主張は理由がない。証拠(甲五七号証、証人西坂伸行、同天野修二、同三澤秀清、第一審原告代表者)及び弁論の全趣旨によると、第一審原告に対する税務調査及び前記通達発出の時点で第一審被告は第一審原告の業態を正確に把握し得ていなかったこと、第一審被告の内部資料である業種別分類表には家具製造業のほか職別工事として内装工事に関する分類があること、日本標準産業分類(総務庁統計局統計基準部編集)では木製家具製造業のほか木製建具工事業等の分類がされていること、第一審原告のような業態につき材料等の仕入先である鎌啓商事では木工屋と称していること、第一審原告の商業登記簿の目的欄には室内外装飾工事が併記されていること等が認められるが、これらはいずれも前記認定判断を左右するものではない。

第一審原告は乙一〇号証、一二号証の各調査報告書には証拠価値がない等と主張するが、右各報告書の記載自体に加え乙一九号証及び証人石黒里花の証言によると、右各報告書は第一審被告指定代理人らが行った実態調査の結果を記載したものであり、その調査方法も相当であったことが認められるから、右主張は採用できない。

また、第一審原告は第一審被告がした推計においては外注加工費を考慮していない等として、推計の合理性がない等と主張する。

しかし、証拠(甲二号証の一ないし三、乙九号証)及び弁論の全趣旨によると、第一審原告が外注加工費であるとして原判決別紙一ないし三の第1ないし第3分類に挙げた製品等はいずれも鎌啓商事が第一審原告の指定に基づいて取付家具の材料となる部材等を裁断して納品したものであって、それらの商品価格には裁断料が含まれ鎌啓商事は別途に加工賃を請求していないこと、第一審原告も鎌啓商事からの仕入れ金額は全部材料仕入高として計上していることが認められ、第一審被告が右商品価格全部を外注加工費ではなく材料費としたことには相応の理由があるというべきであり、第一審被告のした推計を不合理ならしめるものではない(甲二二号証及び証人三澤秀清の証言によると鎌啓商事の請求金額には材料本体の価格に手間賃ないし加工料の分が含まれていることが認められるが、それによって右認定判断に消長を来すものではない。)。また、原判決別紙一ないし三の第4、第5分類に属する仕入金額はいずれも取付家具の部品やその製作に用いる接着剤等に係るものであり、第一審原告主張のように材料費と性質が異なる小売に該当するということはできず、右推計の合理性を否定するものではない。

6  本件係争事業年度について第一審被告のした推計は、前記のように一九法人(抽出された比準同業者二〇法人から本判決別紙5の3の法人Kを除いたもの。)が第一審原告と業種を同じくするものと認められるから、右一九法人につき売上原価率及び一般経費率を算出して第一審原告の所得金額(法人税額)を算定することには合理性があるといえる。

そして前記のように原判決別紙2の1(昭和六二年分)には右法人Kは含まれていないから同年分の売上原価率及び一般経費率はこれによって算定するのが相当である。同2の2(昭和六三年分)ではそのC、D、E、L、Qのいずれか一法人が右法人Kに該当する可能性があるが、各法人を順次除外した場合の売上原価率を計算すると、C除外の場合二五・四七、D除外の場合二四・八四、E除外の場合二五・七七、L除外の場合二四・三九、Q除外の場合二三・六五パーセントとなり、同様に一般経費率を計算すると、C除外の場合四六・五〇、D除外の場合四六・一九、E除外の場合四六・五九、L除外の場合四九・三七、Q除外の場合四八・七三パーセントとなる。また、同2の3(平成元年分)ではそのB又はCが右法人Kに該当する可能性があるが、同様に売上原価率を計算するとB除外の場合二六・一五、C除外の場合二二・九四パーセントとなり、一般経費率を計算すると、B除外の場合三九・五一、C除外の場合四四・六五パーセントとなることが認められる。

以上の結果に基づいて本件係争各事業年度の第一審原告の所得金額(法人税額)を計算すると、昭和六二年分は四二九万四四二六円(法人税額一二八万七七〇〇円)となり、昭和六三年分はC除外の場合四九五万八七九四円(同一四八万六三〇〇円)、D除外の場合五八四万八四八〇円(同一七五万三三〇〇円)、E除外の場合四五八万〇六七六円(同一三七万二九〇〇円)、L除外の場合四六二万五一三四円(同一三八万六四〇〇円)、Q除外の場合五八七万〇一三七円(同一七五万九九〇〇円)となり、平成元年分はB除外の場合九〇七万九四三七円(同二八五万一三〇〇円)、C除外の場合一〇七六万一〇〇二円(同三五五万七七〇〇円)となる。そして本件更正処分における所得金額(昭和六二年分四〇七万〇七九三円(法人税額一二二万〇五〇〇円)、昭和六三年分四三八万五五四八円(同一三一万四四〇〇円)、平成元年分七八七万一九六八円(同二三五万九四〇〇円))は右のいずれもの範囲内であることが認められる。

なお、前記のように第一審原告と業種のみならず本件係争各事業年度における業態の同一性も認められる比準同業者(本判決別紙1の1(昭和六二年分)から対象者の記号<2>、<5>を除外した九法人、同1の2(昭和六三年分)から同<1>、<6>を除外した九法人、同1の3(平成元年分)から同<3>を除外した六法人)だけに限って売上原価率、一般経費率を計算してみても、売上原価率については昭和六二年分が二六・五九、昭和六三年分が二五・八六、平成元年分が二五・五〇パーセントとなり、一般経費率については昭和六二年分が四二・四二、昭和六三年分が四一・九九、平成元年分が三六・九二パーセントとなり、本件更正処分における所得金額は右によって推計される所得金額の範囲内であることが明らかである。

以上によると、本件各更正処分は適法であるというべきであり、そうすると第一審被告が本件各更正処分により第一審原告が納付すべき法人税額を基礎として国税通則法六五条一項、二項に基づいて行った本件各賦課決定処分も適法である。

三  実額反証等について

第一審原告は売上につき実額反証に関する主張をする。しかし、推計課税の必要と合理性が認められる以上、納税者が実額を主張してこれを争う場合はその主張する実額が真実の売上及び所得と合致することを合理的な疑いを容れない程度に立証される必要があると解すべきである。しかし、第一審原告は売上金額を裏付ける資料として前掲総勘定元帳、得意先元帳、預金通帳、請求書、領収書の控え等を提出するだけで、現金の入出金状況を明らかにする現金出納帳、売上と原価との対応関係を明らかにする仕入帳等を提出せず、請求書の一部は提出されていない。また材料費以外の売上原価及び経費については具体的な立証がない。そうすると、本件において売上金額を右に述べた程度に正確に把握することができるとはいえない。したがって右主張は採用することができない。

また、第一審原告は本件更正処分には理由附記がないから違法である旨主張する。しかし第一審原告に対する青色申告承認取消処分は前記のとおり適法であり、かかる場合に法人税法一三〇条二項の規定に基づく理由附記の必要はないというべきであるから、右主張は失当である。

第五結論

よって、本件更正処分を違法とした原判決は不当であるからこれを取り消し、第一審原告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 笠井勝彦)

別紙<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!