東京高等裁判所 平成10年(行コ)60号 判決 1998年10月22日
東京都大田区南六郷二丁目三八番一―二〇四号
控訴人
上原正年
東京都大田区南六郷二丁目三八番一―二〇二号
同
佐野淳一
東京都大田区南六郷二丁目三八番一―一一〇四号
同
鈴木一良
東京都大田区南六郷二丁目三八番一―二〇三号
同
福島武治
控訴人ら訴訟代理人弁護士
坂井興一
同
山口泉
東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号
被控訴人
蒲田税務署長 長濱敏明
右指定代理人
森悦子
同
石井富信
同
尾辻七郎
同
蜂谷光男
同
笹崎好一郎
右当事者間の所得税更正処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
(以下において使用する略称は、原判決のそれと同一である。)
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、それぞれ控訴人らの平成六年分所得税についてした、平成七年一二月二六日付け更正処分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
本件事案の概要は、後記第五において控訴人らの当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。
第三証拠
証拠の関係は、原審記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四争点に対する判断
争点に対する判断は、後記第五において控訴人らの当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
第五控訴人らの当審における主張及びこれに対する判断
一 法施行令二六条一項二号の区分所有建物の床面積の算定方法について
1 控訴人らの当審における主張
住宅取得控除制度は、国民の住宅取得を税制面から援助し、国民の良好な住環境の享受を促進するという制度である。同制度の対象となる住宅の床面積に下限を設けたのは、あまりに狭く劣悪な住環境の建物には税制上の優遇措置を行わない趣旨に基づくものである。その床面積の算定方法は、私法上の権利関係の帰属を公示するための不動産登記制度の観点に強く規定されるものではなく、もっぱら住宅取得控除制度の趣旨に基づいて決すべきものである。
住宅取得控除が受けられるかどうかは、住宅の取得に際し、資金計画を左右する重大事である。本件各更正処分及び原判決が採用した上塗り説は、区分所有者相互間の私法上の権利関係を決する観点に立つもので、住宅取得控除制度の趣旨とはかかわりがないものであるし、これでは床面積を現実に算定することができない。原判決は、床面積の実際の算定に当たっては、上塗り説に準拠せず、内法計算によっており、論旨に矛盾がある。しかも、内法計算は、建物完成後に実際に計測して初めて算定することができるもので、建物完成前には確定することができない。マンションを購入しようとする者が一般に見るものは、設計図書、マンション販売のパンフレット、重要事項説明書などであるが、これらには壁心法による床面積が表示されている。壁心法は、建築基準法をはじめとする建築関係法規や、住宅取得のための公的融資制度で用いられており、建築物の概要を把握するための床面積の算定方法として、社会通念上最も一般的なものである。不動産取引上の慣行、一般国民の認識、制度適用の有無の分かりやすさ、技術的な容易さに照らし、壁心法によるものこそが、住環境という観点からみた床面積として、社会通念に最もよく合致し、住宅取得控除制度の趣旨に合致するものである。
本件各更正処分及び原判決には、住宅取得控除制度の適用に際し上塗り説を採用し、法の解釈適用を誤った違法がある。
2 当裁判所の判断
法に基づく住宅取得控除は、居住者が取得した居住用家屋については、法及び法施行令の定めるところにより、所得税の額から住宅取得控除額を控除するものであって、当該居住用家屋が区分所有建物である場合には、その区分所有部分の床面積が所定の範囲内であるものに限るものとされている(法四一条一項、法施行令二六条一項二号)。そうすると、区分所有建物が住宅取得控除の対象となるかどうかの基準となる「区分所有する部分の床面積」とは、居住者が単独で所有権を取得した範囲であり、建物区分所有法二条三項所定の「専有部分」の床面積をいうものと解するのが相当である。控訴人らは、右に説示するところと異なり、住宅所得控除の適用の基準となる「区分所有する部分の床面積」を、私法上の権利関係の帰属範囲とは別個に算定すべきものであると主張するが、独自の見解に基づく主張にすぎないのであって、その主張は失当である。
いわゆる壁心法(壁心計算法)は、区分所有建物の専有部分の範囲を境界部分の壁心線(壁の厚さの中央線)までと解するものであるが、現実の建物の壁の厚さは一様なものではないから、壁心線(壁の厚さの中央線)の現実の計測に技術的な困難を伴い、設計図書に基づく図上計算によって積算するほかないものである。控訴人らは、いわゆる上塗り説及び内法計算による床面積について、現実の算定又は実際の計測に困難を伴うと指摘するが、そのような指摘をもって壁心法(壁心計算法)を採用すべき根拠とすることはできないし、原判決の諭旨に矛盾があるということもできない。
その余の控訴人らの主張に理由がないことは、原判決(「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」の一の2ないし5)に記載のとおりである。
二 本件改正令による居住用家屋の最低床面積に関する規定の改正の違憲性等について
1 控訴人らの当審における主張
本件経過措置が定められたのは、平成五年三月三一日以前に購入契約を締結した国民について、なおも制度改正前の住宅取得控除を受けさせ、制度改正による不利益が及ばないためであるから、その適用範囲はマンション販売の実態を踏まえた合理的なものであることを要する。
マンションの建築工期という点からみて、平成五年三月時点で売買契約締結済みのマンションについて、その完成時期が平成六年一月以降になることは何ら特別なことではない。同じ居住者の立場にあっても、居住の用に供した時期が平成五年一二月三一日以前又は平成六年一月以降のいずれかであるかによって、本件経過措置の適用に差異を生ずるのは、マンション販売の実態を踏まえたものとはいえず、不合理である。両者の取り扱いを異にすべき合理的な理由はどこにもなく、これは不合理な差別以外の何物でもない。本件経過措置の定めには、立法上の裁量権の逸脱があり、違憲、違法の問題を生ずるから、引渡し入居の時期が平成六年一月以降になった居住者であっても、あえて居住を遅らせているなどの事情がなく、平成五年一二月三一日以前の入居者と事情に差異のない者については、制度改正前と同様に、住宅取得控除の適用対象となる居住用家屋の最低床面積を四〇平方メートルとして、取り扱うべきである。
原判決は、不平等を合理化する実質的な理由を何も示しておらず、理由不備がある。
2 当裁判所の判断
控訴人らの主張に理由がないことは、原判決(「事実及び理由」欄の「第三 当裁判所の判断」の二の1及び2)に記載のとおりである。
第六結論
以上のとおりであるから、原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用は控訴人らに負担させることとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 西田美昭 裁判官 榮春彦)