大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)1031号 判決

被告人 矢島賢信こと金文七

〔抄 録〕

論旨は、要するに、原判決は、被告人を懲役一年二月の実刑に処したが、「量刑の理由」の項において、「被告人は、本件以外にも信販会社のローン契約を利用して購入した新車につき、本件と同様に平成八年二月ころに無断で自動車金融業者に質入れした余罪があり、犯情は悪質であって、その刑事責任は重い。」旨説示して、起訴されていない犯罪事実を余罪として認定し、これをも実質上処罰する趣旨のもとに本件の量刑を行った疑いがあるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反がある、というのである。

そこで、原審記録を調査して検討するに、原判決は、「犯罪事実」として、被告人が、(一)平成七年七月一三日に日本信販株式会社のオートローン契約を利用して購入した普通乗用自動車一台を同年九月ころ質入れして横領した事実、及び(二)同年一一月二日に右信販会社のパーソナルオートローン契約を利用して購入した普通乗用自動車一台を平成八年一月ころ質入れして横領した事実をそれぞれ認定した上、「量刑の理由」において、右各犯罪事実(原判示第一、同第二)の概要を要約し、これについて「被告人は、生活費に窮し、新車を購入して僅か二か月後に本件各横領行為に及んだのであって安易としかいいようがなく、また、原判示第一の車両について、その後、同一の自動車金融業者に数回質入れを繰り返した挙げ句、結局質流れにしてしまい、原判示第二の車両についても、その後、質流れにしてしまった上、信販会社に対する分割支払金残高も六〇〇万円を超える高額であって、被害弁償ができる確実な見通しもない。」旨述べ、その上で所論のいう余罪に関する指摘をし、最後に被告人にとって有利な事情を挙げていること、以上の諸点は原判決書の記載に照らして明らかである。

ところで、起訴されていない犯罪事実は、これを被告人の性格、経歴及び犯罪の動機、目的、方法等の情状を推知するための資料として考慮し得るに止まり、いわゆる余罪として認定し、実質上これを処罰する趣旨で量刑の資料とすることは許されないものであるところ、そのような観点からすると、原判決の「量刑の理由」の記載のうち、所論指摘の余罪に関する部分は、その表現においてやや適切さを欠く面があることは否めない。しかしながら、原判決の「量刑の理由」の構成を全体としてみると、前記のとおり、まず二件の本件犯罪事実自体を取り上げて、その動機、方法、被害額、被害弁償の見込みが乏しいこと等につき具体的に検討しており、余罪の点は、これに続けて抽象的に類似の手口の余罪が一件存する事実のみを付加して記載しているのであるから、原審は本件各犯罪事実に重点をおいて量刑判断を行ったことは明らかであるし、本件は連続的に敢行された同じ手口による二件の横領事案であるから、被告人にこの種犯罪に関する性行があるか否かは量刑上ある程度考慮されてしかるべきであり、所論が指摘する原判決の説示部分は、右のような趣旨のものとして理解することができる。したがって、この点について原審の訴訟手続に法令違反はない。

所論は、原判決が、「量刑の理由」において認定した余罪については、被告人の自白以外には証拠がなく、いわゆる補強法則に違反するとも主張するが、前記のとおり、原判決が右余罪について触れているのは、犯罪事実としてではなく、一般情状の一つとして取り上げているに過ぎないのであって、必ずしも厳格な証明は必要でないから、所論は採用できない。

(仁田陸郎 下山保男 角田正紀)

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