東京高等裁判所 平成11年(う)1469号 判決
所論は,原判決後に被害者Aは,勾留中の被告人のもとを訪れ,原審での証言を撤回し,控訴審で強姦された事実がなかったことにつき改めて証言したいと申し入れてきたことから,弁護人においてAと面談したところ,その場で同女は,原審での証言を撤回する旨述べていたのであり,かかる事情にかんがみれば,Aの原審証言は虚偽であることが明らかであると主張する。そして,被告人は当審公判廷において,平成11年7月15日及び翌月23日の2回にわたってAが松戸拘置支所にいた被告人のもとを訪れ,同女の原審証言を撤回する旨述べていたと供述し,また当審証人Bは,概ね所論に沿う証言をしている。
上記所論にかんがみ,当裁判所は,証人Aを取り調べたところ,同人の証言要旨は,第一審判決後にCやBから何度か電話があって,自分と被告人の性交場面が写ったビデオテープを返すから,強姦罪に関して被告人を許してやって欲しい,被告人に有利に証言を変えて欲しいとの趣旨の申入れを受けた,自分としてはとにかく上記ビデオテープを返して欲しい気持ちが強かったので,平成11年7月15日に被告人と面会するために松戸の拘置支所に行った,そしてビデオテープを返してもらえるなら被告人に有利に証言を変えてもよいと考え,被告人の指示に従ってその日のうちにBのもとを訪れるなどしたものの,なかなか返還してもらえないまま推移し,同年8月23日に再度拘置所で被告人に面会した上で,結局,翌日に松戸駅近くの喫茶店で,B,C,被告人の弁護人であるD弁護士,Bが連れて来た2人位の男と会ったけれども,約束に反してビデオテープを持参してこなかったので,たらい回しにされていると感じて,話に応じる気持ちがなくなってしまい帰ってきた,第一審の法廷で被告人から強姦されたことについて自分が証言した内容は記憶どおりに証言したものである,と明言するものであった。
Aの当審証言は,それ自体明確なものであるが,内容的にも,自己の意思に反して被告人に姦淫されたことを証言した原審証言は真実であるとしつつ,原判決後にCやBらの働きかけを受けて,証言を撤回してもよいとの意思表示をしたことがあったけれども,それは被告人との性交場面が写っているビデオテープを返して欲しかったために,ある時期そのような気持ちになったというものであるところ,関係証拠によれば,同女と被告人の性交場面が写ったビデオテープが被告人側(弁護人)の手元に存することが認められる(被告人及び弁護人も自認する。)から,Aにおいてその回収ないし廃棄を求める強い気持ちを有するであろうことは経験則に照らして明らかというべきで,そうすると,原審証言は事実をそのまま述べたものではあったけれども,問題のビデオテープの返還と交換条件で原審証言の変更を求められてBらに対して証言を撤回してもよい旨述べてしまったとするAの当審証言は極めて説得力に富むものである。しかも,関係証拠によれば,Cは甲野会乙山一家幹部であるEの妻であり,Bも同一家暴力団幹部であるところ,同年8月24日の喫茶店における話合いにあっては,被害女性とされるA1人に対して,Bを含む暴力団関係者4名及び被告人の弁護人が対席して話合いに及んだというのであって,このこと自体,A側から任意に証言の撤回を申し出たこととはそぐわないものであり,むしろBやCの側からAに証言変更を働きかけたとするAの言い分を状況的に裏付けていると評価し得るものである。