東京高等裁判所 平成11年(う)1685号 判決
論旨は,被告人は,原判示の期間に覚せい剤を摂取したことはなく,その認識もないのに,覚せい剤摂取の事実を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるというのである。
そこで,検討するに,関係証拠によれば,平成11年2月12日午前1時ころに被告人が提出した尿から覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンが検出されたこと,前日の被告人宅への捜索において,注射器4本,注射針2本,手製のはかり,小分け道具などの覚せい剤関連器具が発見されたことが認められ,これらの事情に,覚せい剤が厳しく取り締まられている禁制薬物であって,通常の社会生活の過程で体内に摂取されることはあり得ないものであることをも考慮すると,被告人は特段の事情のない限り,原判示の期間内に自己の意思で覚せい剤を摂取したものと推認することができる。
これに対し,被告人は,捜査段階から一貫して,自己の意思で覚せい剤を摂取したことはないと供述し,尿から覚せい剤反応が出た原因として思い当たるのは平成11年2月9日又は11日の午前零時を過ぎたころ,内縁の夫Aの友人で覚せい剤常用者であるBが被告人宅を訪ねてきて,性関係を迫ってきたため,Bの陰茎を口に含んでその精液を飲んだことぐらいであると供述し,また,自宅から注射器等が発見された理由についても,2月11日の午前3時か4時ころ,Bが帰った後に,知人の覚せい剤使用者であるCとDが被告人宅を訪ねてきて,警察官による捜索が始まる前に帰って行ったので,彼らが置いていったものであると思うと供述している。
しかしながら,これらの供述は,いかにも場当たり的で,内容自体が不自然,不合理である上,Bは,警察官調書において,平成11年になってから被告人宅を訪ねたことはなく,ましてや被告人に精液を飲ませたことはないと被告人の供述を全面的に否定しており,また,警視庁科学捜査研究所薬物研究員のEの原審証言によると,尿から覚せい剤反応を検出するのには20リットルの精液が必要であって,現実には精液を飲んだことが原因で尿から覚せい剤反応が出ることはあり得ないというのであって,この説明に疑問とすべき点はないと認められるのであるから,以上の事情に照らすと,被告人の右供述を信用することはできないというべきである。