東京高等裁判所 平成11年(う)258号 判決
所論は,要するに,原判決の量刑は,懲役刑について,その刑の執行を猶予した点で,著しく軽きに失して不当である,というのである。
そこで検討すると,本件は,被告人が本邦に不法入国した事案及び数名の者と共謀の上,営利の目的で,集団密航者6名を,その支配下において本邦に上陸させた者から収受し,輸送し,蔵匿したという事案である。前者については,本邦で稼働するため不法入国したというのであって,格別斟酌する点がない。また,後者については,中国側蛇頭等の送り出し,輸送側と被告人を窓口等とする日本の受け入れ側との緊密な連携,連絡のもとに組織的,計画的になされる犯罪であり,密航者から多額の報酬を徴収する中国側蛇頭から報酬を受けて自己の利益を図る反面,不法入国を始めとするこの種犯罪を助長し,わが国の出入国管理を著しく阻害するものであり,悪質である。被告人は,親戚の女性やその親戚の中国側蛇頭の依頼があったとはいえ,犯罪の重大性を十分認識し,一旦は断りながら,結局は利益を得る目的もあってこれを引き受けているのであり,その動機に格別斟酌する点はない。そして,これを引き受けるや,受け入れの実行行為が逮捕の危険を伴うことから,別途これを分担する者を探し,知人と交渉して断られるや,小学校で同級生であったAに,同様一旦は断られながら,報酬を提示して強く依頼し,運転手の手配等も含めて引き受けさせ,その準備が整うや,中国側蛇頭に連絡し,また集団密航者を乗せた輸送船の船長とも連絡を取り合い,寄港地や収受の手順等をAに連絡,指示している。また,収受後の輸送,蔵匿にあたってもAに種々注意を与え,ことに,蔵匿に関し,渋るAに報酬を上乗せしてその住居を集団密航者の蔵匿場所として提供,蔵匿させ,また,集団密航者のうち親戚の女性を解放させ,他の集団密航者には中国の家族らに電話連絡させて中国側蛇頭への報酬の支払いを促し,なお,これらの過程で,中国側蛇頭とは終始連絡を取り合い,また,Aに適宜報酬の一部の支払いをしている。このように,被告人は,単に日本側の受け入れ窓口になっただけではなく,本件犯行の全般にわたり主導的,中心的役割を果たしている。のみならず,Aらをも犯行に巻き込み,自らも,その供述によってすら44万円という少なからざる利得を見込んでいるのである。