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東京高等裁判所 平成11年(ネ)2214号 判決 1999年10月28日

控訴人

株式会社セイロジャパン

同右代表者代表取締役

上山信一郎

右訴訟代理人弁護士

岡野新

中村雅行

控訴人補助参加人

ヤマザキマザックシシテムセールス株式会社

右代表者代表取締役

山崎恒彦

右訴訟代理人弁護士

中野克己

村松豊久

被控訴人

株式会社アクメックス工業

右訴訟代理人弁護士

櫻井英司

櫻井喜久司

被告知人

株式会社ジーネット

右代表者代表取締役

竹花宏

主文

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  右部分にかかる被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文同旨

第二  事案の概要

一  請求内容等

本件は、工作機械であるMAZAK・門形マニシングセンタアキュラジグマティックAJV-18N一式(以下「本件機械」という。)の売買において、売主である控訴人が買主である被控訴人に対し、本件機械に関する動的精度として最大加工誤差を二〇ミクロン以内とする旨の性能保証(以下「本件保証」という。)をしたにもかかわらず、同保証内容に従った本件機械の納入がなされなかったとして、被控訴人が売買契約を解除し、控訴人に対し、売買代金一六六七万八二七五円、本件機械に取付予定であったコンピューターソフト開発費二六四八万二五三六円及び右各金額に対する右契約解除の日の翌日である平成八年三月二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原審は、右のうち売買代金返還の請求を認容し、コンピューターソフト開発費の請求を棄却した。本件は右のうち、売買代金返還請求について控訴されたものである。

二  争いのない事実

1  控訴人は、平成三年三月一一日、被控訴人に対し、本件機械を代金一五〇〇万円(別途、消費税及び金利を加算)、納期を平成三年五月三〇日とし、控訴人補助参加人(以下「補助参加人」という。)から被控訴人方に直納とし、代金については、本件機械と同時に売買されたMAZAK・CNC旋盤QT-15N一式(以下「関連機械」という。)の売買代金と合算して平成三年三月から平成四年四月まで毎月末日限り約束手形による分割支払との約定により、売り渡した(以下、本件機械に関する売買契約を「本件契約」という。)。

2  その後、右当事者間において、本件契約の売買代金を一六六七万八二七五円に、平成四年一月一二日に内金一六七万八二七五円、同年二月から平成五年四月まで毎月一二日限り内金一〇〇万円宛を分割して支払う旨変更した。

3  本件機械は平成三年一一月六日に被控訴人方に納入され、被控訴人は控訴人に対し、前記変更後の売買代金を完済した。

4  被控訴人は、平成七年一二月一三日、控訴人に対し、書面をもって、本件機械を精度調査して、同書面到達後一〇日以内に本件機械を再納入すべき旨を催告し、これを履行しない場合には本件契約を解除する旨の意思表示をし(以下「本件解除」という。)、同書面は同月二〇日到達したが、控訴人からの再納入はなかった。

三  争点

1  本件契約における精度保証の内容・本件保証の成否等

(一) 被控訴人

本件機械は、治具部品製造機で、工業用各種金型部品を製造する機械であるから、その用途に照らし、複合加工における動的精度として当然に最大加工誤差二〇ミクロンの性能を具備しなければならない。同誤差が右数値を超えると、製造部品は他の部品と結合せず、不良部品となるため、本件契約でもそのことが前提となっていたところ、納入された本件機械の加工誤差が右性能を有していなかったことから、控訴人及び補助参加人は、平成七年九月二六日、被控訴人に対し、本件機械を同年一〇月二七日までに改良加工をして、動的精度の加工誤差を二〇ミクロン以内とする本件保証をした(甲一五)うえで本件機械を預かり、これを補助参加人の関連会社であるヤマザキマザック精工株式会社(以下「マザック精工」という。)に引き渡して精度調査を行うこととし、その後、控訴人は、被控訴人に対し、再度、文書により被控訴人の主張する精度確保を確認する文書を作成し(甲一六、甲一七)、さらに、控訴人は、同年一二月一三日、被控訴人に対し、本件機械の加工誤差を二〇ミクロン以内に調整する旨約した(甲一八)が、結局、控訴人からは、右保証内容に従った精度調整を済ませた本件機械の再納入はなかった。したがって、本件解除は有効であり、被控訴人は控訴人に対し、本件契約に基づき支払った代金の返還請求権を有する。

(二) 控訴人・補助参加人

本件機械は、車等の部品加工機械であり、金型機械の製造機械ではないところ、控訴人及び補助参加人は、本件機械の精度について、日本工業規格の定める測定方法に基づき、静的精度として、位置決め精度(±三ミクロン)、繰り返し位置決め精度(±一ミクロン)を、動的精度として、中ぐり精度(真円度五ミクロン、円筒度五ミクロン/一〇〇ミリメートル)、ボーリングピッチ精度(XY軸方向±五ミクロン、対角線方向±七ミクロン、穴径のばらつき±三ミクロン)、円弧補間切削真円度(五ミクロン)を、それぞれ保証しており、本件機械もこの限度における精度に欠けるところはない。しかし、それ以上に、被控訴人が主張するような複合加工における動的精度を最大加工誤差二〇ミクロン以内にすることは技術的に困難であり、同業メーカー等においても、右数値による動的精度を保証することは皆無である。控訴人も、このような技術的限界を十分認識しており、被控訴人に対して、本件保証をした事実はない。

なお、被控訴人は、精度確保のための調整のために控訴人側が本件機械預かったとか、本件保証を確認する文書(甲一五ないし一八)を作成したかのように主張するが、いずれも真実に反する。まず、本件機械の搬送の点は、被控訴人が平成七年九月ころ、突然、補助参加人に対し、本件機能の点検求めて執拗にマザック精工への搬送を迫り、右搬送を行わせた後、その事実のみを結果的に控訴人に連絡したというものであり、控訴人が本件機械の精度調査のために預かったという事実はない。また、被控訴人は、同年一二月一一日、突然、控訴人担当者秋山敏彦を呼び出したうえ、被控訴人が一方的に用意した前記各書面(甲一五ないし一七)を提示し、その場で直ちに、平成七年九月二六日付で無条件の承認をするよう執拗に迫ったものであり、被控訴人側の執拗さに負け、またトラブルを回避し、あるいは早期に解決することだけを考えた右秋山が右文書に押印した。のみならず、その二日後である同年一二月一三日、被控訴人は、右秋山に対し、「本件機械の件で補助参加人を提訴する意向であるが、ついては、平成六年一月二八日付けで補助参加人が被控訴人に提出した文書(甲五)を紛失したので、控訴人からもらいたい。」と称して同文書を送信させた(甲一八)ものにすぎず、同文書は控訴人による本件保証の成立を裏付ける文書ではない。

2  瑕疵通知期間の途過

(一) 控訴人・補助参加人

仮に、被控訴人が主張する精度不足が本件契約における目的物の瑕疵となるとしても、被控訴人が右瑕疵の通知をしたのは、本件機械を受け取ってから約一年一〇か月後であるから、すでに瑕疵の通知期間(商法五二六条一項が規定する六か月以内)が経過していることになり、本件契約の解除及び損害賠償請求をすることはできない。

(二) 被控訴人

争う。

第三  当裁判所の判断

一  本件機械の精度等について

証拠(甲一、甲八、乙九、乙一〇、丁五、丁六、丁七、証人秋山敏彦、同渡辺裕憲、同深田宙司)によれば、本件機械は、マザック精工が製造している一般的加工に用いられる汎用工作機械であって、金型機械の製造機械ではないこと、同メーカーとしては、本件機械の精度について、日本工業規格の定める測定方法に基づき、静的精度として、位置決め精度(±三ミクロン)、繰り返し位置決め精度(±一ミクロン)を、動的精度として、中ぐり精度(真円度五ミクロン、円筒度五ミクロン/一〇〇ミリメートル)、ボーリングピッチ精度(XY軸方向±五ミクロン、対角線方向±七ミクロン、穴径のばらつき±三ミクロン)、円弧補間切削真円度(五ミクロン)を、それぞれパンフレット等に明記してその限度における性能を保証していること、被控訴人に納入された本件機械についても、右限度における精度に欠けるところがなかったことが認められる。

他方、本件保証の趣旨を検討するに、前記各証拠及び弁論の全趣旨によれば、一般的に工作精度という場合には、機械自体の精度とあわせて、加工材料の種類、加工形状の具合、加工精度(加工環境)、加工方法によって左右されること、このうち加工環境とは、当該機械が設置されている場所の構造(とりわけ床の構造及び強度)、室温、振動、粉塵等の有無ないし多寡といわれるものであり、また、加工方法とは、使用機械、切削工具、治具(加工物を保持する道具)、切削液の質量及び種類(油か水かなど)、切削条件(機械のスピンドル回転数、送り速度、切り込み量)、加工作業を行う者の技術が総合的に関係してくることが認められる。

右によると、被控訴人が主張する複合加工における動的精度として最大加工誤差二〇ミクロンの性能をメーカーなり控訴人のような販売会社が保証する前提としては、通常、売買前に、売買当事者間で、購入者による本件機械の使用目的を含め、工作精度に関係する前記の影響要因の有無及び内容を確認ないし調整する折衝を要するということができ、本件においては、この点の折衝を必要としないような特段の事情も認められないにもかかわらず、本件機械の納入直前までの間に、右のような各要因について、当事者間で具体的な確認や調整のされたことを認めるに足りる証拠はない。なお、証人木村光一(以下「木村」という。)は、自ら本件契約前に控訴人担当者の秋山敏彦(以下「秋山」という。)に対し、加工材料の実物を示したと供述し、また、木村の陳述書(甲五七)では、秋山に対し加工材や加工した現物を示したとの記載があるが、右供述(陳述記載を含む。以下同じ。)は、証人秋山の供述に照らし、採用できない。仮に、木村の右供述のような事実があったとしても、複合加工における動的精度を被控訴人主張の内容とするには、さらに種々の前記要因の確認及び調整が不可欠であるというべきであるから、精度確保に必要な作業が当事者間で行われたとは認められない。

また、右のような複合加工における動的精度を良好な状態で維持する条件ないし要因の把握、調整の難しさに照らすと、メーカーや販売者がその精度を保証する場合においては、種々の条件の特定、確定を明確にして合意する必要があるといえるから、その点については、契約交渉の当初から文書化しておくのが通常であると考えられるが、本件では後記三6で認定した書面があるのみである。

二  本件契約締結及び本件機械納入までの経緯等について

証拠(甲二〇、甲二一、甲五七、乙四、乙五、乙七、丁一三、証人木村、同秋山、同渡辺裕憲)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められ、右認定に反する証人木村の供述部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  木村は、平成二年秋ころ、大阪市内で催された工作機械の展示会場で控訴人の存在を知り、控訴人方の名古屋営業所に電話を入れ、別の件で秋山と何度か接触をもったことがあった。その後、被控訴人は、自社開発ソフトを組み込んだコンピューターで作動する機械の購入を計画し、これに適合する機械を物色していたところ、控訴人において、右コンピューターに連動する装置を具備した本件機械を販売していることを知ったことから、遅くとも、平成三年一月までには、本件機械の購入を前提として、右コンピューターに取り込むソフトの研究・開発を被控訴人の関連会社である株式会社アクメックス・システムエンジニアリング(以下「エンジニアリング」という。)に依頼した。そのうえで、木村は、同年二月、秋山に対し、その対象を本件機械と特定して注文依頼を行った。なお、後日、秋山としては、本件機械のメーカーである補助参加人の製品を扱うのが初めてであり、また、後日のメンテナンスのことも考慮して、木村に対し、本件機械だけでなく、他の機種も検討するように促したが、木村は、被控訴人において本件機械を購入するとの方針が決定されていたことから、特に、本件機械に特定した理由を告げたり、他の機械との比較について秋山と折衝することもなかった。

2  右注文を受けた二、三日後、秋山は、補助参加人の担当者である渡辺裕憲(以下「渡辺」という。)を伴って被控訴人方工場を訪れ、木村に対し、購入機種に関する被控訴人の意向を確認し、その後は、本件機械のメーカー担当者としてその機能に精通している渡辺が木村に対して、関連機械の説明と合わせて、本件機械に関するマザトロール(コンピュータープログラムの作成を日常言語を使用した対話方式で行えるもの)及び付属品等を中心に説明して、商談がまとまり、平成三年二月二〇日、控訴人から被控訴人に見積書が送付され、その後、本件契約が締結され、これとほぼ同時に、控訴人及び被控訴人の連名により、補助参加人に対する注文書を作成してこれを補助参加人に送付した。この間、被控訴人側から秋山及び渡辺に対し、今回の本件機械発注の目的、用途についての具体的説明はなく、また、複合加工における動的精度として最大加工誤差二〇ミクロンの性能を具備していなければならない旨の具体的申し入れは、前記見積書、注文書及び契約書上の記載においてはもちろんのこと、口頭においてもなかった。

3  本件機械は、当初、平成三年五月三〇日に納入される予定であったが、関連機械のトラブルの余波を受けて、補助参加人による搬入が遅れ、右の問題が一応収束した後である同年一一月六日、補助参加人から被控訴人に直接搬入され、直後に行われた検収も特段問題もなく終わり、納入も終了したが、右納入の前後においても、これまで同様に、被控訴人側から控訴人及び補助参加人に対し、今回の本件機械発注の目的、用途についての具体的説明も、また、複合加工における動的精度として最大加工誤差二〇ミクロンの性能を具備していかなければならない旨の具体的申し入れもなかった。

三  本件機械納入後、本件紛争までの経緯

前記争いのない事実2及び3のとおり、被控訴人は、本件機械納入後、本件契約等に従って、控訴人に対する代金の分割支払を開始し、平成五年四月一二日をもって代金全額の支払を終えたが、この間、被控訴人から控訴人及び補助参加人に対して、本件で争点となっているような工作精度に関するクレームを述べたことを認めるに足りる証拠はない。

その後、本件紛争までの経緯をみるに、証拠(甲四、甲五、甲六、甲八、甲九の二、甲一四、甲五七、乙七、丁一五、証人木村、同秋山、同渡辺)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、右認定に反する証人木村の供述部分は信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  控訴人は、本件機械納入後、被控訴人から本件機械ないし本件契約についてクレームを申し入れられたことがなかったのみならず、ほとんど接触がないまま過ぎていたが、前記代金完済した後である平成五年八月ころ、突然、木村から秋山に対し、本件機械の加工精度にばらつきがあるとのクレームが出されたことから、秋山は補助参加人の浜松サービスステーションに連絡し、右クレームの概要を伝え、本件機械の調整を依頼したが、木村が右クレームを秋山に述べるに際し、本件で争点となっているような動的精度に触れることがなかった。

2  その後、秋山は、補助参加人側の担当者から、被控訴人と補助参加人の間で本件機械に関してトラブルが生じているとの情報を得たが、その件に関して、被控訴人から控訴人に対して特に申し入れや連絡もないままに半年が経過していたところ、平成六年一月二八日、被控訴人から控訴人に対し、再度、本件機械の調整について補助参加人ないしマザック精工に連絡するよう求められ、その際、初めて、本件機械の加工精度を高めることが要求された。控訴人から連絡を受けたマザック精工の担当者が被控訴人の工場を訪ねたが、被控訴人側の対応も原因して、本件機械の調整等の作業自体を行えないままに終わった。

3  そこで、補助参加人は、このような事態を打開するため、平成六年一月二八日、被控訴人に対し、マザック精工名義のファックス(甲五)で、同社としては、一定の加工条件及び特定の工具使用により、特定の加工精度を二〇ミクロンに高めるべく機械調整に努力する旨を送信したが、その後も、被控訴人の対応と補助参加人の機械調整の準備内容とのすれ違いが続き、同年一一月ころ、ようやく、マザック精工による本件機械の性能検査が実施され、性能に問題がないとの結論が出されたが、被控訴人の納得を得られなかった。

4  そもそも、本件機械は、マザック精工が製作した同種工作機械の中では、最も価格が安く、小型の大衆機といってよく、マザトロールというコンピューター制御装置が付いており、別のソフト開発をしてそれを装着する必要がなく、普通の工作加工に使用されていた。被控訴人主張の工作精度を保証している他社の機種(株式会社牧野製作所の横型マニシングA55)は、価格が本件機械の二倍ほどする高級機であり、補助参加人は被控訴人との前記交渉の中で、右機械に匹敵する高級機種に取り替える(買い替える)ことも勧めたが、被控訴人はこれに応ぜず、本件機械のまま全部門について工作精度を二〇ミクロンの誤差以内とするよう要求した。しかし、前記のように、加工環境や加工方法が不明のまま、上級機種に替えたとしても性能保証をすることは困難であるうえ、本件機械には、精度を高めるためのオプションも付いておらず、被控訴人の希望する硬度の高い加工物を安価で大衆的な本件機械のハイスエンドミルで切削すれば、工作精度は当然落ちて、二〇ミクロン以内の誤差に抑えることは不可能であった。また、被控訴人の工場における加工環境や加工方法も良好なものではなかった。

5  控訴人は、平成六年一二月ころ、被控訴人及びマザック精工から、本件については控訴人が手を引き、マザック精工において処理することが申し入れられたので、以後、本件にまったく関与しないでいたところ、平成七年一〇月一三日ころになって、マザック精工から控訴人に対し、突然、本件機械を同年九月二五日付けで機械点検のために預かっているとの「機械預り証」(甲一四)が送付されてきた。控訴人からマザックに右事情を質したところ、マザック精工から、「すでに本件機械を預かっており、事後承諾の形になるが、トラブルを解決するためであり、今回の預かりの事実を認めてほしい。」旨の説明があったことから、控訴人も右書面に記名押印した。

6  ところが、平成七年一二月一一日、秋山は、突然、被控訴人に呼び出され、木村から、すでに内容が印刷されている品質保証書(甲一五)、確認書(甲一六)及び「今回請求書発行までの主要な相互事実」と題する書面(甲一七)の用紙を示され、直ちに各書面への署名押印を求められた。秋山は、文面に問題の箇所を認めたが、紛争の早期解決が図れるならば良いとの思いから、必要最小限度の認否を付加したうえ、同席したマザック精工の渡辺勝とともに各書面に署名押印した。

四  本件保証に関係する書面の有無

前記認定のとおり、控訴人との関係で、本件保証に関連する書面は、本件契約から四年九か月、納入から四年余り経過した時点で作成された前記甲一五ないし一七のみである。

そこで各書面をみるに、まず、品質保証書(甲一五)では、「品質保証会社」の欄にはマザック精工の渡辺勝の署名押印があるのみで、控訴人担当者秋山の署名押印は「取扱商社」の欄にある。しかも、秋山は同欄において、加工精度を記載している同所一項について、「XYZの各軸最大という文章は記実されておりません」と付加して記載しているため、控訴人として、いかなる意味の精度を確保するとしているのか判然としない。また、「平成七年九月二六日本件機械引揚日にヤマザキマザック作業員中島に説明した数値表示画面が一時停止して、機械操作ができなくなる症状を調整する。」とされている同書二項についても、秋山は、「セイロジャパンとしては関与しておりません」と記載して、明確にその責任を否定している。そもそも、前記三5で認定のとおり、控訴人は、右品質保証書で前提としている機械預り証が送付されるまでの間、被控訴人とマザック精工ないし補助参加人との間の本件機械の工作精度をめぐる紛争の詳細や、本件機械がマザック精工に搬入された理由及び機械預り証が作成された経緯について被控訴人から具体的に何ら知らされていないのであるから、右品質保証書の冒頭に記載されている「機械預り証の預かり理由」自体が控訴人にとって確認しがたい事由というべきである。したがって、右品質保証書の趣旨及び内容が不明確というべきであるから、右書面は控訴人の本件保証を認定するに足りる証拠とはいえない。

次に、確認書(甲一六)であるが、その冒頭の「機械預かり証の預かりの趣旨」と記載されているところは、前記品質保証書におけるのと同様の疑問がある。また、この確認書でも控訴人は、「品質保証会社」とはされておらず、かつ、「秋山氏を通じ保証した通り、加工精度が二〇ミクロン誤差以内の精度を確保する能力があるものとして機械納品」したとの記載に対して、秋山は、同書面において、本件契約時では未確認であったこと、その後の確認もマザック精工によって出された精度である旨を付加記載している。したがって、この確認書をもって、控訴人が本件保証をしたことを認めるに足りる証拠とはいえない。

さらに、「今回請求書発行までの主要な相互事実」と題する書面(甲一七)についてみるに、秋山は、加工誤差二〇ミクロン以内の保証に関連する部分については、控訴人において確認する範囲から明確に除外しており、本件保証の成立を推認させることすらできないというべきである。

その他、被控訴人は、甲一八(エンジニアリング宛のマザック精工の書面)をもって、本件保証成立の証拠として提出するようにも窺えるが、同書面は文面から明らかなとおり、マザック精工の発した書面であり、しかも、その趣旨は、前記三3で認定したとおり、一定の加工条件及び工具の変更を前提とするものであり、また、前記認定の経緯からみて、加工精度二〇ミクロン以内というのは目標であって保証したものではないことが記載自体から窺われることからすれば、同書面をもって、控訴人が本件保証をしたと認めることはできない。

五  小括

右に説示したとおり、本件保証において実現しようとする精度は、種々の要因によって容易にその実現を妨げられる性質のものであり、メーカーもこれを保証することに困難を伴ううえ、控訴人のような販売者としてのみの地位にとどまる者においては、なおさら右保証に慎重になるということができる。また、本件では、本件保証に関する直接、間接の書面が存在せず、本件機械に関する精度の調整等の技術的作業のすべてを担当したのがマザック精工であったということに照らせば、同社との連繋なしに、控訴人が本件保証をすることはあり得ない。さらに、甲一五なし一七の各書面の作成経緯及びその記載内容が本件保証の成立という事実にそぐわないものである。したがって、本件で取調べた証拠によっては、いまだ本件保証の成立を認めることができないというべきである。また、前記一で認定したとおり、本件機械については、本来有すべき性能を有しており、瑕疵は認められない。したがって、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の請求は理由がない。

六  結論

以上のとおり、原判決中、被控訴人の売買代金返還請求を認容した部分は不当であり、控訴人の本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して、右請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官奥山興悦 裁判官杉山正己 裁判官沼田寛)

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