東京高等裁判所 平成11年(ネ)3096号 判決 1999年10月20日
控訴人(原告)
日建開発システム株式会社
右代表者代表取締役
高橋正明
右訴訟代理人弁護士
布留川輝夫
被控訴人(被告)
株式会社東海銀行
右代表者代表取締役
徳光彰二
右訴訟代理人弁護士
松尾翼
同
森島庸介
同
松野豊
同
加藤君人
同
石原弘隆
同
村上義弘
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、三〇〇〇万円及びこれに対する平成九年五月一〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四 第二項につき仮執行宣言
第二 事案の概要
本件請求及び本件事案の概要は、以下のとおり加除訂正するほか、原判決「事実及び理由」の「第一 本件請求」及び「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三頁三行目及び同五頁五行目の「三億円」を「三〇〇〇万円」と、同四頁一行目の「本件開発事業」を「本件事業」とそれぞれ訂正する。
二1 原判決五頁九行目の「宅地建物取引業」の次に「務」を、同一〇行目の「株式会社である」、同六頁一行目の「口座を開設した」及び同一〇行目の「説明した」の次に「(争いがない。)」をそれぞれ加え、同二行目の「右口座開設」から同四行目の「聴取するようになった。」までを削除し、同八頁四行目の「伝えた」及び同六行目の「説明をした」の次に「(争いがない。)」をそれぞれ加える。
2 原判決一二頁七行目の「三五億」の前の「の」を削除し、同一三頁一行目の「事業期中」を「事業期間中」と、同一一行目の「被告は、」から同一四頁二行目の「了承した。」までを「被控訴人担当者は、本件書面を受け取り、支店と本部の稟議をかけるが、被控訴人としては右資金全額と支払利息のほか、保証料を含めて融資を実行する意向であると述べ、被控訴人は、同月七日、支部と本部の稟議を経た上で、控訴人に対し、右の融資を実行するが、保証会社から保証分の貸付を実行するので保証を取って欲しい旨を依頼した。そして、控訴人は、右の依頼を承諾した。」とそれぞれ訂正し、同一六頁七行目の「融資を受けた」の前に「第一」を加え、同行の「右融資」を「第一融資」と訂正し、同一七頁六行目の「双方署名」の次に「に」を加え、同一九頁八行目の「実際の融資の際になされたのと異なり、」を削除する。
第三 当裁判所の判断
当裁判所も、本件全資料を検討した結果、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、以下のとおり加除訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二六頁一一行目の「三五号証」の前に「第」を加え、同二七頁四行目の「受けるようになった」から同五行目の「開設した。」までを「受けるようになり、平成二年三月ころ、被控訴人支店に当座預金口座を開設した」と訂正し、同六行目の「代表者)」の次に「。」を加え、同二八頁九行目の「紹介した」を「持ちかけた」と訂正し、同一一行目の「甲第一四号証、」の次に「第一六号証、」を、同行の「三六号証」の前に「第」をそれぞれ加え、同二九頁二行目の「同月」を「同年八月」と、同三行目の「原告としては、」を削除し、同八行目から九行目の「被告としては、原告に対する融資を行う意向である旨伝えた。」を「被控訴人としては、右融資の実行を前向きに検討する旨を伝えた。」と、同三一頁二行めの「同日」を「同月五日」と、同三行目の「一億九〇〇〇万円」を「一億一九〇〇万円」とそれぞれ訂正し、同三三頁四行目の「受けられること」の次の「、」を削除し、同三四頁六行目の「同日」を「そのころ」と、同三五頁八行目の「第八号証の二」を「第八号証の一、二、第一〇号証、乙第二号証、第三号証」と、同一一行目の「恒夫」を「恒雄」とそれぞれ訂正し、同三七頁一行目の「二五号証の一」の次に「ないし三」を加え、同三九頁四行目及び五行目の「右融資」を「第二融資」とそれぞれ訂正し、同八行目の「第一四号証」の前に「第一〇号証、」を加え、同四一頁四行目の「一部」の次の「金」を削除し、同四三頁二行目、五行目及び六行目から七行目の「右準消費貸借契約」を「本件準消費貸借契約」とそれぞれ訂正し、同七行目の「二一号証」の前に「第」を加える。
二 原判決四四頁五行目冒頭の「2」から同五八頁六行目末尾の「採用することができない。」までを以下のとおり訂正し、同七行目の「8」を「6」と訂正する。
「2 控訴人は、平成二年九月一〇日、保証会社との間で本件全額保証委託契約を締結したことを受け、被控訴人との間で本件事業資金全額の三五億二七〇〇万円及び見込事業期間中の支払利息分四億六八〇〇万円の合計額について本件全額融資契約を締結したと主張し、高橋は甲第一四号証の陳述書、第三四号証及び第三五号証の反駁書並びに原告代表者尋問において、平田は甲第三六号証の反駁書において、それぞれ右主張に沿う供述をしている。
3 しかしながら、総額約四〇億円近い金員に関する融資契約が金融機関との間で締結されたというのであれば、右の事実を証する契約書面が作成されるのが通常であるところ、控訴人と被控訴人の間において、本件事業資金全額及び支払利息相当額について融資をする旨の契約書が交わされたことはなく、被控訴人が控訴人に対し、右の融資をする旨の融資証明書を交付した事実もない。
この点について、控訴人は、被控訴人においては、融資に関し、被控訴人と借主の双方が署名した書面や、被控訴人による融資証明書等の念書を作成せず、一方的に借主側から文書を差し入れさせる慣行がとられており、右慣行に照せば、被控訴人が本件書面を受け取ったことは、本件全額融資契約の締結を示すものであると主張する。確かに、本件において控訴人と被控訴人の間で成立した銀行取引約定や金銭消費貸借契約及び高橋と被控訴人との間で成立した連帯保証契約においては、いずれも控訴人あるいは高橋作成の銀行取引約定書、金銭消費貸借契約証書又は保証書等を被控訴人に差し入れる形式で締結されていることが認められるが(甲第六号証、第八号証の一、二、乙第四、第五号証)、右の各書面は、その形式及び趣旨から、事前に当事者間で約定された必要事項を、被控訴人所定の様式による用紙に記入して完成されたものであることが明らかである。
しかし、本件書面の形式、内容及び添付資料並びに先に認定した本件書面が被控訴人に提出されるに至る経緯及びその際の状況(第二の一4、第三の一4)に照らすと、これを右銀行取引約定書等と同視することはできない。しかも、融資の申込みを受けた金融機関である被控訴人としては、事業の内容、事業に要する資金の総額、返済計画等を記載した書面の提出を受けた上で、その融資を実行するか否かを慎重に検討することが必要であるから、本件書面の受領が直ちに消費貸借契約の予約ないしは諾成的消費貸借契約の締結を示すものということはできない。さらに、控訴人と被控訴人は、従前融資契約を締結したことはなく、第一融資が被控訴人の控訴人に対する初めての融資であり、その際には控訴人から金銭消費貸借契約証書が差し入れられているのであるから、控訴人と被控訴人双方の合意書面又は被控訴人による融資証明書等の書面が作成されているならばともかく、そのような事情に認められない本件において、控訴人が作成した本件書面を被控訴人が受領することで、総額四〇億円近い巨額の消費貸借契約の予約又は諾成的消費貸借契約が成立するような関係が、控訴人と被控訴人の間で醸成されていたとは認められない。したがって、控訴人の右の主張を採用することはできない。
4 控訴人が、被控訴人の担当者に対し、本件事業に関し、その予定所要資金を含めて具体的に説明したのは、本件書面を交付した平成二年九月五日が最初であり、右の時点では、控訴人としてはまず買取方式を選択する方針であり、買取方式で本件土地の借地権者との交渉を成立させる自信をもっていることを明らかにしていたものの、本件土地の借地権者との具体的な交渉は始まっておらず、最終的に買取方式と等価交換方式をどのように組み合わせて本件事業を完了させることになるかについて確実な見通しはなく、事業資金総額も確定していなかった。そして、本件書面には、買取方式、等価交換方式のそれぞれの場合について、借入希望日、借入金額及びその内訳、並びに返済期日の記載があり、同書面に添付された「損益計画表」と題する書面には、期間中に発生する利息額が計算されてはいるものの、右の借入金額及び内訳は、事業資金として必要となる額の予定を記載したものにすぎず、本件第一及び第二融資でされたような支払利息分の金員等に関する考慮はされていないし、他の借入条件も記載されていない。このように、控訴人が被控訴人に対し、本件事業について具体的に説明し、かつ、本件書面を交付した平成二年九月五日の時点において、事業計画や借入条件は不確定であったことに照らすと、その直後である同月一〇日ころ、被控訴人と控訴人の間において、本件全額融資契約が締結されたとは認め難いというべきである。
これに対し、控訴人は、同年八月の時点で、被控訴人に対し、本件事業について具体的に説明をしていたと主張し、高橋は、甲第一四号証の陳述書、甲第三四、第三五号証の反駁書並びに原告代表者尋問において、控訴人は、同月に事業収支表等本件事業の概要を記載した資料を既に被控訴人支店に送付していたと述べ、平田も、甲第三六号証の反駁書において同様に述べている。しかし、右各証拠においても、控訴人が具体的にいかなる資料を被控訴人に送付したのか明らかでない上、高橋は、控訴人代表者尋問において、被控訴人に資料をファクシミリで送付したとは聞いたが、控訴人の従業員の誰が、被控訴人の従業員の誰に、いかなる資料を送ったかについて報告は受けていない、同年九月五日以前に控訴人の従業員(藤田部長)が被控訴人に電話で融資を依頼したと聴いたが、本件事業の内容、期間、資金について説明をしたかどうかは分からないなどと供述している。そうすると、高橋及び平田の供述に関する前掲各証拠を信用することはできず、控訴人の右主張を採用することもできない。
5 さらに、これまで認定したとおり、被控訴人は、控訴人に融資をするについては、保証会社による保証を付けることを条件としており、被控訴人担当者は、平成二年九月七日、控訴人に対し、保証会社の保証が付けば控訴人に対し融資を行う旨を伝えていたものである。ところが、保証会社は、第一、第二融資それぞれの時点において、各融資金額について保証をしているだけであり、被控訴人は、第一、第二融資の融資合計額を超えて保証会社の保証を得ていないことは明らかである。殊に、保証会社は、平成三年三月下旬ころ、控訴人に体し、第一、第二融資以後の融資について保証をすることは困難であるとの最終的な結論を伝えているものである。このように、控訴人と保証会社の間で、本件全額保証委託契約が締結されていない以上、被控訴人と控訴人の間で、右契約の締結を条件とする本件全額融資契約が締結されたと認めることはできない。
これに対し、控訴人は、平成二年九月一〇日、控訴人と保証会社の間で、本件全額融資契約の前提条建設となる本件全額保証委託契約が締結されたと主張するが、控訴人と保証会社の間において、本件全額保証委託契約が締結されたことを窺わせる書面は作成されていないし、証拠(甲第一四号証、乙第八号証、第九号証、第二三号証、証人吉良の証言及び控訴人代表者)によれば、控訴人は、従前保証会社と取引をしたことはなく、保証会社の関係者と面会して本件事業の説明をしたのも、同日が初めてであったことが認められる。また、前記4のとおり、右の当時、本件土地の借地権者と具体的な交渉は始められておらず、最終的に買取方式と等価交換方式をどのように組み合わせて本件事業を完了させることになるかについて確実な見通しはなく、事業資金総額も確定していなかったものである。このような状況において、保証会社が控訴人に対し、総額四〇億円近い融資について、同日直ちに、本件全額保証委託契約の締結を承諾するとは考えられないから、控訴人の右主張も採用することはできない。」
三 以上のように、本件全額融資契約を消費貸借の予約又は諾成的消費貸借契約と解しても、その成立を認めることはできないから、その余の点について判断するまでもなく、右契約の成立を前提とする控訴人の請求は理由がない。よって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)