東京高等裁判所 平成11年(ネ)3621号 判決 2000年4月18日
控訴人 興研株式会社
代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 安田修、野中信敬、原口健、久保田理子、土井智雄、設楽公晴
被控訴人 株式会社重松製作所
代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁護士 尾高聖、成田信子
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴人の求めた裁判
「一 原判決中、被控訴人に関する部分を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、一億五〇〇〇万円及びこれに対する平成四年二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人は、「溶接時のヒューム(粉じん)及びオイルミスト(霧状の油)が存在する場合には、静電ろ層ないし静電ろ過材はその捕集効率が『劣っている』若しくは溶接現場における使用に『適さない』」旨、又は「現在使用中の一〇〇五RR型(あるいは控訴人の静電ろ層製品を示す名称、型式)は静電ろ層型ないし静電ろ過材型防じんマスクであるが、静電ろ層型防じんマスクは、溶接時のヒューム及びオイルミストが存在する場合には、捕集効率が『著しく劣る』あるいは『劣っている』」旨を陳述し、又は流布してはならない。
四 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙二「訂正及び謝罪広告目録」一記載の内容の記事を、同目録二記載の条件で、産業と保健社発行の「産業と保健」誌上に一回掲載せよ。」
との判決並びに第二項につき仮執行宣言。
第二事案の概要
原判決二頁以下の「第二 事案の概要」のとおりである。ただし、七頁四行目から一〇行目までを除き(当該項目番号は欠番とする。)、また、「被告ら」とあるのは「被控訴人」と読み替え、「被告個人ら」とあるのは「第一審被告個人ら」と読み替える。その他、被告個人名で表示されているものも、それぞれ第一審被告名に読み替える。
第三争点に対する当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は理由がないと判断する。
その理由は、原判決二八頁以下の「第三 争点に対する判断」に示されているとおりである。ただし、六八頁末行から七〇頁三行目まで(「二 争点1(一)(原告会社と被告個人らとの競争関係)について」)を除く(当該項目番号を欠番とする。)。また、「被告ら」とあるのは「被控訴人」と読み替え、「被告個人ら」とあるのは「第一審被告個人ら」と読み替える。その他、被告個人名で表示されているものも、それぞれ第一審被告名に読み替える。
二 控訴人の主張は、要するに、被控訴人による実験は作為的な条件設定がされるなど科学的に誤ったものであって、信用することができず、被控訴人が静電ろ過材の性能に関して告知し又は流布した事実は、控訴人の製品(防じんマスク)との関係においては「虚偽の事実」であるというものである。
しかし、原審記録並びに当審において、控訴人が原判決の認定に即し証拠評価として主張するところ及び新たに提出された書証を精査しても、被控訴人の実験の条件設定が不合理、不相当なものであるとか、実験データが意図的にねつ造されたものであることを認めるに足りる証拠はない。また、原判決説示に係る被控訴人の告知し又は流布した事実、すなわち被告論文、カタログ等の記載内容及び被控訴人の従業員による顧客への説明内容(原判決七〇頁以下の「三」の項参照)が、控訴人の製品との関係において誤りがあったとすることはできないし、右告知又は流布行為が、控訴人主張のように不正競争防止法二条一項一一号所定の「虚偽の事実」に該当するものであると認めることもできない。
三 なお、控訴人は、当審の口頭弁論終結後に平成一二年三月一七日付け準備書面を提出し、被控訴人による実験結果は科学的に信用することができず、被告論文中特に被告論文12の公表に、静電ろ過材の捕集効率の低下に関して事実記載の虚偽性が顕著であると主張し、その主張を裏付けるものとして、甲一三八ないし甲一四二の専門家の意見書を当裁判所に提出した。
しかしながら、これらの書証の記載内容も、オイルミストが静電ろ過材の捕集効率の低下要因であることを更に裏付けるものとなっている。控訴人は、例えば、溶接に際してオイルが付着したままの状態の母材をそのまま溶接するのは好ましくないなどとし、オイルミストが存在しないかその混在の少ない作業環境下で、静電ろ過材の捕集効率を測定しなければならないと主張するかのようである。しかし、防じんマスクの捕集効率が、あらゆる作業環境の下で極限にまで高められなければならないのは明らかであり、そのためにオイルミストを常時発生させるような条件下で実験、研究を行ったとしても、それを不相当であるということはできず、原判決が被告論文12についてした認定、判断(七七頁以下の「(三)の項)を左右すべきものではない。したがって、オイルミストが存しない理想的な作業環境を念頭に置く控訴人の主張は採用することができない。
その他の甲一三八ないし甲一四二における専門家の意見書に記載されているところをもってしても、当裁判所が引用する原判決の「虚偽の事実」に該当するか否かについての認定、判断を覆すことはできない。
第四結論
よって、本件控訴は理由がない。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官市川正巳は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 永井紀昭)