大判例

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東京高等裁判所 平成11年(ネ)4208号 判決

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人の請求の減縮により原判決主文第一、二項は次のとおり変更された。

1  控訴人山本一博は被控訴人に対し四億三五三〇万八八二〇円及びうち三億一七七四万四八六一円に対する平成八年一〇月一七日から、うち五八九八万四七一三円に対する平成一一年一〇月二二日から各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。

2  控訴人小竹眞理は被控訴人に対し二億一七六五万四四〇九円及びうち一億五八八七万二四三〇円に対する平成八年一〇月一七日から、うち二九四九万二三五六円に対する平成一一年一〇月二二日から各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。

三  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。

2  右取消部分に係る被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文第一、二項同旨(主文第二項1及び2のとおり請求を減縮した。)

第二事案の概要

次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決書七頁九行目末尾の次に行を改めて次のとおり加え、同八頁九行目及び同末行の各「2(一)」をいずれも「2(四)」に改める。

「(四) 亡山本博久(以下「博久」という。)は平成二年一一月九日以降右契約に基づき東京三菱から金員を借り入れた。また東京三菱は右契約に基づく借入の利息の各支払日に返済用預金口座の残高が右支払利息額に不足していた際に、右契約の約定に基づき博久(同人死亡後はその相続人である控訴人ら)に対し右不足額について自動融資を行った。平成八年一〇月一六日時点でこれらの借入額及び自動融資額の合計は元本一億三八七一万三六七七円(借入極度額一億二五〇〇万円を超えているが右契約の約定により東京三菱は右極度額を超えて貸越及び自動融資を行うことができ、これを行った場合も極度額内の貸越と同様に右契約の規定が適用される。)であり、右元本に係る未払利息額は一二万六七四六円であった。」

二  控訴人らの主張(錯誤無効)

1  博久と東京三菱との間の長期総合ローン契約及びマイカードビッグ取引契約並びに被控訴人との間の保証委託契約は、いずれも相続税対策として日本生命保険相互会社(以下「日本生命」という。)との間で締結する変額保険についての保険料の融資を受けるために締結された。しかし、右変額保険は平成二年九月時点で運用実績がマイナスに転落していたし、それが九ないし四・五パーセントで運用されたとしても一定年数経過後(博久の平均余命のはるか以前)には相続税だけではなく借入金の支払もできなくなり相続税対策としての効果は見込めないものであった。日本生命の担当者は博久に対し変額保険の運用が現在は一一、一二パーセントであり悪くても九パーセントはいく等と説明し、博久は相続発生時に相続税対策効果がある(借入により相続税が節税でき保険金及び解約返戻金により借入金と相続税を支払うことができる。)と考え、これを動機として前記各契約を締結したもので、同人には動機の錯誤があった。東京三菱の担当者は右動機を知っていたから、右各契約は要素の錯誤により無効である。また、右各契約が無効である以上、控訴人山本の本件連帯保証契約も附従性により無効である。

2  博久は平成六年八月九日に高畑拓弁護士(当審における控訴人ら訴訟代理人)に法律相談をしていたが、本件訴訟は博久の死亡(平成七年一二月一一日)後の平成一〇年五月に提起された。控訴人らは前記変額保険と各契約締結に関する事情を知らず、控訴人らの原審訴訟代理人も右相談の経過や内容を知らなかった上、原審では第一回口頭弁論期日に和解勧告がされその後弁論準備手続に移行したため右1の主張をしなかったものであり、右主張は時機に後れたものではない。博久の重過失及び追認に関する被控訴人の主張は争う。

三  被控訴人の主張

1  請求の減縮(訴えの一部取下げ)

被控訴人は強制執行により平成一一年一〇月二一日に本件求償金債権のうちマイカードビッグ取引契約に基づく元本七九八五万五七一〇円を取り立てた。その結果、残元本合計額等は別紙記載のとおりとなるので、控訴人山本に対し四億三五三〇万八八二〇円及びうち三億一七七四万四八六一円に対する平成八年一〇月一七日から、うち五八九八万四七一三円に対する平成一一年一〇月二二日から各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金の支払を、控訴人小竹に対し二億一七六五万四四〇九円及びうち一億五八八七万二四三〇円に対する平成八年一〇月一七日から、うち二九四九万二三五六円に対する平成一一年一〇月二二日から各支払済みまで年一四パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による遅延損害金の支払を求める。

2  控訴人らの錯誤無効の主張について

本件訴訟の原審における争点は控訴人らの連帯保証契約の成否のみであり、控訴人らは博久の東京三菱からの借入が変額保険のためであることを熟知していたのに前記一1の主張をしなかった。したがって右主張は時機に後れたもので、控訴人らには故意又は重過失があるし、錯誤の有無の審理により訴訟の完結が遅延することも明らかであるから、右主張は却下されるべきである。

博久が変額保険について誤信していたとしても、それは前記各契約の要素の錯誤でも動機の錯誤でもない。また、右動機は東京三菱及び控訴人には表示されていないし、仮に博久に相続税対策に関する錯誤があったとしても同人には重過失がある。また仮に博久に変額保険に係る錯誤があったとしても、同人は右各契約による借入金で自己、妻の山本八重子及び控訴人らを被保険者とする変額保険に加入し、山本八重子の死亡(平成六年一二月二一日)後にその死亡保険金等二億円以上を受領しているから、右錯誤による瑕疵のある右各契約を追認している。

第三証拠関係

本件訴訟記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四当裁判所の判断

当裁判所は被控訴人の請求は理由があると判断する。その理由は次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりである(ただし原判決書一一頁七行目の「ので、」の次に「控訴人山本との関係では」を、同末行の「右各」の次に「甲」をそれぞれ加える。)から、これを引用する。

(控訴人らの錯誤無効の主張に対する判断)

原審における本件訴訟事件記録によると、被控訴人は平成一〇年五月一五日に本件訴訟を提起し、控訴人山本につき同月二〇日、同小竹につき同月二一日に口頭弁論期日呼出状、訴状副本、甲一ないし一四の副本が送達されたこと、控訴人山本は同年六月三日、同小竹は同年五月三一日に原審訴訟代理人(山崎源三ほか三名の弁護士)に訴訟委任をし、右代理人は同年六月一六日に答弁書を提出したこと、同月二二日の原審第一回口頭弁論期日において訴状、答弁書が陳述され、甲第一ないし第一四号証が提出された後和解勧告がされたこと、同年八月二六日から一二月二二日の間に四回の和解期日が開かれ、控訴人山本は全回、同小竹は三回目の和解期日に出頭していたこと、その後平成一一年二月一日から同年六月三日の間に四回の弁論準備手続期日が開かれ、同第二回期日では控訴人らの平成一〇年一二月一八日付け準備書面及び被控訴人の平成一一年二月一日付け準備書面の陳述、控訴人らの甲第二、第三、第五号証の成立に関する主張がされ、同第三回期日では控訴人らの同年四月二八日付け準備書面の陳述、甲第一五ないし第一八号証の提出が、同第四回期日では乙第一ないし第五号証の提出がされ、また、右第一回ないし第三回期日には控訴人山本も訴訟代理人とともに出頭していたこと、同年六月三日に開かれた第二回口頭弁論期日では弁論準備手続の結果が陳述され、当事者双方に他の主張・立証がなく弁論が終結されたこと、控訴人らの前記答弁書及び準備書面等における主張は博久が締結したとされる東京三菱との間の長期総合ローン契約及びマイカードビッグ取引契約並びに被控訴人との間の保証委託契約についてはいずれも不知とするほかは専ら控訴人らの連帯保証契約の成立を否認するものであったこと、他方、控訴人ら作成の各陳述書(乙二ないし五)も連帯保証契約の成立を否認する内容が主として記載されているが、その中には「日本生命と東京三菱が手を取り合い変額保険のハイリスクを説明せずメリットばかりを強調したと思われるこの保険制度」(乙二の控訴人小竹の平成一一年四月二三日付け陳述書)、「父(博久)が残した書類で裁判をするべく揃えてあったものがありました」(乙三の控訴人山本の同月二八日付け陳述書)といった記載があることが認められ、当審で提出された乙一〇ないし一四によると、博久は平成六年八月九日に当審における控訴人ら代理人の高畑拓弁護士と相談し、日本生命及び東京三菱に対する訴訟提起の準備をする等の打ち合わせをしていたことが認められ、また乙第一〇号証(博久作成の日生・三菱交渉経過と題するメモ)、第一二号証(日本生命から博久への平成六年一月一〇日付けの手紙)、第一三号証(博久から日本生命への平成七年三月九日付けの手紙)、第一四号証(同じく平成五年一二月一五日付けの手紙)は右博久が残したとされる書類の一部であると推認される。

以上によると、控訴人らは原審における口頭弁論期日並びに争点及び証拠の整理のために行われた弁論準備手続期日において、前記長期総合ローン契約、マイカードビッグ取引契約及び保証委託契約の成否ないし効力の有無については積極的に争わず、当審において初めて錯誤無効の主張をするに至ったものであるし、原審における争点(連帯保証契約の成否)と関連性のない右主張について審理をすることは訴訟の完結を遅延させることになることは明らかである。また控訴人らは原審においても弁護士に訴訟委任をしていた上、遅くとも原審で弁論準備手続がされていた平成一一年四月二八日までには右各契約が変額保険の保険料の支払のためのもので、これを締結した博久が日本生命及び東京三菱に対する裁判を考えていたこと等を認識していたことからすると、原審において右錯誤無効の主張をすることは容易であったというべきであるから、これをしなかったことには重大な過失があるというべきである。

したがって、控訴人らの当審における錯誤無効の主張は、重大な過失により時機に後れて提出されたものであり、これにより訴訟の完結を遅延させることとなるから、民事訴訟法一五七条一項により却下する。

第五結論

よって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし(ただし被控訴人は当審において請求を減縮したから原判決主文第一、二項は本判決主文第二項1、2のとおり変更された。)、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 笠井勝彦)

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