東京高等裁判所 平成11年(ネ)4298号 判決
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
主文と同旨
第二事案の概要
本件の事案の概要は、原判決八頁一行目の「自白」を「これを認める旨の陳述」と、同三行目の「しかしながら」から同五行目の「ない」までを「これが自白の撤回に当たり、許されるか否かは、後記のとおり争点の一つである」と、同九頁三行目の「及び配当金」を「並びに配当金及び支払利息の合計」と、同一〇頁六行目の「八、九」を「一、八、九、一六、一七」と、同行目の「一一」を「一、一一、一六、一七」とそれぞれ改め、同一六頁九行目の次に行を改めて
「1 本件保険契約二の契約者は控訴人か一美か。これについての控訴人の認否の変更が自白の撤回に当たるか。自白の撤回に当たるとして、それが許されるか。
(控訴人の主張)
本件保険契約二は、その名義にかかわらず、実質的には、一美を契約者として締結されたものであるところ、被控訴人千代田生命の本件訴状(平成六年七月二一日受理、同年九月一日控訴人に送達)に対する答弁書(同年一〇月三日付け。同日の第一回口頭弁論期日で陳述)において控訴人が本件保険契約二の契約者が控訴人であると認めた認否は、被控訴人千代田生命の右訴状に記載された本件銃撃事件を約款上の保険金不払事由とする請求原因に対するものであり、本件殴打事件による危険の著増が請求原因とされるのであれば、訴訟物が異なるのであるから、本件保険契約二の契約者の主張に対する認否も当然異なってくるのであり、当初の認否は撤回する。仮に右答弁書で契約者が控訴人であることを認めたことが自白に当たるというのであれば、それは錯誤に基づくものであり、かつ、真実に反するから、これを撤回する。控訴人は、本件銃撃事件については無罪を確信していたから、具体的な契約者が誰であるかに注意を払うことなく本件保険契約二の存在を認めたものにすぎない。当時、甲イ六は提出されておらず、控訴人は、本件保険契約二の契約締結の経過等について記憶を喚起する何らの手段等も持っていなかった。
(被控訴人千代田生命の主張)
被控訴人千代田生命の本件訴状における訴訟物(本件銃撃事件が保険金不払事由に当たることを理由とする不当利得返還請求権)とその後の準備書面における訴訟物(本件殴打事件により保険契約が失効したことを理由とする不当利得返還請求権)とは同一であり、単に攻撃方法が複数あるにすぎない。控訴人が撤回しようとしている認否は、法的構成以前の契約者が誰かというあくまで事実に関するもので、自白に当たり、真実に反することもないし、錯誤に基づくものでもないから、その撤回は許されない。」
を加え、同一〇行目の「1」を「2」と、原判決一八頁八行目の「2」を「3」と、同二二頁六行目の「3」を「4」とそれぞれ改め、同二五頁六行目の次に行を改めて
「5 本件保険契約の保険金を受け取ったのは控訴人か一美か。
(控訴人の主張)
(一) 控訴人が返還を求められている本件保険契約の保険金は、いずれも高度障害保険金であり、その受取人は、本件保険契約の各約款上、被保険者である一美自身である。控訴人は、一美の代理人として保険金を請求し、これを受領したにすぎず、支払われた保険金は、受取人であった一美自身が取得したものである。したがって、控訴人に保険金の返還義務はない。
(二) なお、保険金を受領した一美自身にも、その返還義務はない。なぜなら、一美は本件殴打事件の被害者であり、それによる危険の著増には何の関与もしておらず、それにつき責任を有しないことが明らかであるからである。そのような一美に対して商法六五六条に基づいて保険金の返還義務を認めるのは、生命保険契約の信義則に反することになるというべきである。
仮に一美に保険金の返還義務があったとしても、その一美の保険金返還義務は、一美の死亡により、控訴人らに相続された関係にある。そして、一美の相続人である控訴人と長女との間でいまだ遺産分割の協議はされていない。
(被控訴人らの主張)
本件保険契約に基づく高度障害保険金の支払請求権は、一美に帰属していたが、その請求及び支払は、その夫である控訴人との間でされた。代理の形式をとってはいるが、本来の代理ではなく、厳密にいえば、控訴人本人に支払っているものである。したがって、控訴人本人に利得が生じている。現に、支払った保険金の行方を追及して仮差押対象物を発見したのであるから、控訴人本人が保険金を現実に利得していることは明らかである。」
を加えるほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 当裁判所も、被控訴人らの本件各請求は、少なくとも原判決が認容した限度ではいずれも理由があり、これを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
1 原判決二六頁一行目の次に行を改めて
「二 争点1(本件保険契約二の契約者は控訴人か一美か。これについての控訴人の認否の変更が自白の撤回に当たるか。自白の撤回に当たるとして、それが許されるか。)について
証拠(甲イ六の1ないし4、七ないし九、一四、二一、二二の1ないし4、二三)及び弁論の全趣旨によれば、本件保険契約二の申込書(甲イ六の1)の契約者欄の控訴人名下に控訴人の実印が押捺されていること、控訴人はその保険料を自己の保有するカードの預金口座から支払っていたこと、控訴人は本件保険契約二の締結と同時に被保険者及び契約者をいずれも控訴人本人とする生命保険契約を締結し(甲イ二二の1ないし4)、この保険料の支払も右と同じ方法によっていること(甲イ二三)が認められ、右認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件保険契約二の契約者は名実ともに控訴人であると認めるのが相当である。そして、本件銃撃事件が保険金不払事由に当たることを理由とする既払保険金の不当利得返還請求と本件殴打事件が保険契約の失効事由であることを理由とする既払保険金の不当利得返還請求とでは訴訟物は一個であって、単に攻撃方法を異にするにすぎないものと解すべきところ、本件保険契約二の契約者が控訴人であることは不当利得返還請求権の発生原因事実に含まれるというべきであるから、答弁書で控訴人が契約者であることを認めたことは事実の自白に当たることになり、右認定のとおり、この自白は真実に反するものといえないから、これを撤回することは許されない。」
を加え、同二行目の「二 争点2」を「三 争点3」と、同九行目の「主張して」を「出張して」とそれぞれ改める。
2 原判決二七頁一行目及び同三行目の各「災害死亡時」の次にいずれも「の保険金」を加える。
3 原判決三四頁三行目の「少なくとも」を「遅くとも」と、同四行目の「大幅に」を「、著しく」とそれぞれ改める。
4 原判決三五頁一一行目の「見当たらない。」の次に「控訴人は、また、<1>商法六五六条の危険の著増が問題となるのは保険金の給付事由の発生が前提となるはずであり、同条の実際の適用場面においては、常に保険金給付事由と危険の著増事由が表裏の事由として存在し、かつ、その両者の因果関係等々が内包された問題として存在しているから、保険金給付事由と無関係に危険の著増の有無を判断することはできない、<2>危険の著増が存在したがその後当該危険が消滅して保険契約締結当初と同様の状態に戻った後に保険金給付事由が発生した場合にまで同条を適用するのは正義に反することは明白であり、同条はいわば保険者の最終的な救済条項として限定的に解釈・適用されなければならないものであるから、同条が適用されるためには、危険の著増の存在だけではなく、その継続性を要するというべきであるとし、そうすると、仮に本件殴打事件が同条の危険の著増事由に当たるとしても、その後に一美が病気や事故により死亡した場合にまで同条の適用はなく、したがって、無罪となった本件銃撃事件は事故そのものであるから、同条の適用は許されない、と主張する。しかし、右の<1>については、控訴人も認めるように、同条は、保険事故の発生を条件とすることなく、保険契約者又は被保険者に帰責事由のある危険の著増による契約の失効を規定しているのであり、仮に同条の適用が問題となるのが実際には保険事故が発生した場合であることが多いとしても、そうでない場合も十分に想定され、保険契約者又は被保険者の責に帰すべき事由により危険が著増したが保険事故はいまだ発生しない場合に保険者において契約の当然失効を前提とした措置が執れないとするのは相当ではないから、保険事故の発生を同条適用の条件とすることはできない。また、右の<2>については、危険の著増状態がどの時点まで継続することを要すると主張するのか明らかでないが、その点はともかく、損害保険における一般論としては、危険がいったんは著増したがその後消滅して保険契約締結当初と同様の状態に戻った場合のように、危険が一過性のものである場合についてまで同条を適用して保険契約が失効したものとすることについては、議論の余地がないではないが、本件におけるように、生命保険において保険契約者が死亡保険金の受取りを目的として被保険者の殺害を計画してその実行に着手した場合については、これによって保険契約は失効したものと解するのが相当であり、仮に右殺害行為が未遂に終わり、その後、保険契約者が殺害計画を放棄し、危険が消滅したとしても、保険契約の復活を認めないことあるいは保険契約が失効したとすることが正義に反するとは到底いえない。また、控訴人が一美殺害の意思を完全に放棄し、将来の保険期間中二度と一美殺害の実行に及ばないであろうと保険者に確信させるに足りる客観的な事情があったことの主張及び立証も、全くない。」を加える。
5 原判決三六頁二行目の「三 争点3」を「四 争点4」と改める。
6 原判決三七頁一行目の「に過ぎず」を「であり、その支払原因を欠くことによる法律関係の清算において商事取引関係の迅速な解決という要請を考慮すべき合理的根拠は乏しいから」と改める。
7 原判決三九頁一行目の次に行を改めて
「五 争点5(本件保険契約の保険金を受領したのは控訴人か一美か。)について
控訴人が一美の代理人として本件保険契約による高度障害保険金として被控訴人らから金員の支払を受けたことは争いがない。ところで、一美は当時植物状態にあり、その意思を表示することはできなかったのであるから、控訴人が実際には一美から代理権を授与されていたといえないことは明らかであり、控訴人が保険金を受け取った行為は無権代理行為であり、一美にはその効果は帰属せず、一美が保険金を受け取ったことにはならない。そして、その後に一美が死亡したことにより、控訴人及び一美と控訴人との間の子の二人が一美の権利義務を相続し、一美が有していた右無権代理行為の追認権も右両名が相続により共同で取得したことになるが、右追認権は相続人が共同で行使することを要するところ、これが共同で行使されたことについては主張・立証がない。そうすると、控訴人のした無権代理行為が追認されたということはできないから、一美が保険金を受け取ったということはできず、結局、控訴人が保険金を受け取ったというほかないことになる。
したがって、右の点についての控訴人の主張も、採用することができない。」
を加え、同二行目の「四」を「六」と改める。
8 原判決四〇頁四行目の「から」の次に「(本件保険契約二の支払利息についても同様のことがいえる。)」を加える。
二 よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)