東京高等裁判所 平成11年(ネ)507号 判決
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は、C(住所「東京都杉並区」、登記簿上の氏名「C」)に対し、別紙物件目録記載の一ないし三及び六の各不動産の共有持分(一〇分の七)について、真正な登記名義の回復を原因とする共有持分全部移転登記手続をせよ。
2 控訴人のその余の請求に係る訴えを却下する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを五分し、その四を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、C(東京都杉並区久我山)に対し、別紙物件目録記載の不動産の共有持分(一〇分の七)について、真正な登記名義の回復を原因とする共有持分全部移転登記手続をせよ。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第二事案の概要
本件事案の概要は、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄に記載されたとおりであるから、これを引用する(略語も原判決のそれによる。)。ただし、原判決の四頁四行目の「昭和六二年(夕)第一七号、」を削り、一〇頁二行目の「控訴したものの」の次に「(東京高等裁判所平成六年(ネ)第四五〇五号)」を加え、一一頁九行目の「許される。」の次に「Cと被控訴人とは通謀して確定判決を詐取したものであり、そのような確定判決に既判力を認めることは著しく正義に反する。」を加える。
第三争点に対する判断
一 既判力について
1 被控訴人は、前記のとおり、「控訴人の本件請求は、Cが被控訴人に対して有するという権利すなわち共有持分権に基づく共有持分移転登記手続請求権を債権者代位権に基づいて代位行使するというものであるが、Cと被控訴人との間には所有権の帰属について既に確定判決があり、その判決は本件物件の所有権が被控訴人に帰属することを確認しているのであるから、控訴人の本件請求はこの確定判決の既判力に抵触するものである。」旨を主張する。
2(一) 前記のとおり、(1)本件物件は、いずれも、Cが昭和五八年一二月一四日に死亡した亡父から遺贈を受けたものであり、昭和六一年八月一二日にその旨の所有権移転登記を経由し、(2)そして、Cは、昭和六二年一月一六日にこれを被控訴人に売却した(本件売買)として、同日、被控訴人への所有権移転登記を経由した。(3)しかし、その後、<1>Cの弟妹であるDら三名は、遺留分減殺請求権の行使を理由として、昭和六二年、被控訴人及びCに対し、所有権移転登記の抹消登記手続等請求訴訟を提起し、<2>これに対し、被控訴人は、本件物件に居住している控訴人及びその子らに対して、本件売買により本件物件の所有権を取得したとして、明渡等請求訴訟を提起した。右<1><2>の訴訟は併合して審理され、平成元年八月二二日に一審判決がされ、平成二年三月二六日に控訴審判決がされて(なお、この控訴審判決は、Cと被控訴人との間の本件売買を通謀虚偽表示として無効とした原判決を是認している。)、これが上告棄却の判決により確定し、右控訴審判決に基づいて、平成二年一〇月二六日、本件物件について、右(2)の所有権を「共有者X持分一〇分の一、共有者Y持分一○分の一、共有者D持分一〇分の一、共有者被控訴人持分一〇分の七」とする所有権更正登記がされた。(4)この間の平成元年一二月二二日、被控訴人は、Cに対し、本件物件を昭和六二年一月一六日に買い受けた(本件売買)としてその所有権の確認を求める訴えを提起し、Cが請求原因事実をすべて認める旨の答弁書を提出して欠席したことから、平成二年二月二六日、被控訴人の所有権を確認する旨の判決が言い渡されて確定した(以下、この判決を「本件確定判決」という。)。(5)その後、被控訴人は、共有者である右Dら三名に対して、本件物件についての共有物分割請求訴訟を提起したが、平成六年一〇月一一日、Cと被控訴人との間の本件売買は通謀虚偽表示により無効であり被控訴人は本件物件の所有者ではないとして、訴えを却下する判決がされ、被控訴人は控訴したが、控訴棄却の判決を受けた。(6)現在、本件物件は、右(3)に記載のとおり、Dら三名と被控訴人との共有として登記されている。なお、本件物件の位置関係は別紙配置図のとおりであり(甲三三)、控訴人がその住居として使用している。
(二) 一方、控訴人(昭和五年一月生)は、前記のとおり、昭和三一年三月に農業を営むCと婚姻したが、Cは昭和三五年四月ころ単身上京してその後不動産業を始め、控訴人のもとに戻らず、やがて他の女性と不貞行為に及んで控訴人との婚姻関係を破綻させ(甲一一)、そして、控訴人との離婚届を無断で提出して他の女性との婚姻届を提出したため、控訴人は、昭和六一年一二月、離婚無効確認等請求訴訟を提起したが、Cが反訴として離婚訴訟を提起したためこれが認容され、平成三年八月二八日の控訴棄却の判決により離婚が確定した。
(三) そこで、控訴人は、平成五年、Cに対し離婚慰謝料請求訴訟を提起し、平成七年四月一七日、Cに対して慰謝料一五〇〇万円とこれに対する平成三年一一月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを命ずる一審判決があり、Cは控訴したが、平成八年五月二九日、控訴棄却の判決がされて右一審判決は確定した。
3 控訴人は、右慰謝料請求権を被保全債権として、平成九年七月、本件訴訟を提起したが、原判決は、「本件訴訟における控訴人の主張は本件確定判決の既判力に抵触するものである。」として、請求を棄却した。
4 そこで検討するに、たしかに、右のとおり、Cと被控訴人との間には本件物件の所有者を被控訴人とする本件確定判決が存在するのであり、控訴人の本件訴訟における主張は、これに反して、本件物件の共有持分一〇分の七を有する者はCであって被控訴人ではなく、しかるにCは被控訴人に対して右共有持分権に基づく共有持分移転登記手続請求権を行使しないので、控訴人がこれを代位行使するというものである。
しかし、<1>そもそも、Cから被控訴人への昭和六二年一月一六日の本件売買は、Cが妻である控訴人や同女との間の子供らを本件物件から立ち退かせるために被控訴人と通じてした通謀虚偽表示によるものであって無効であり(甲二七ないし三〇、弁論の全趣旨)(前記2(一)の(3)及び(5)の各判決でもそのように認定されており、本件訴訟においてこれと異なる認定をすべき証拠もない。)、<2>それゆえ、本件確定判決も、本件売買が仮装売買であることを当然に認識していたCと被控訴人とが馴れ合いで所有権確認請求訴訟を提起して取得したものと認められ、現に、右訴訟においてCは請求原因事実を認める旨の答弁書を提出して欠席しており、実質審理はされていないのであり(甲二一)、<3>さらに、前記2(一)(3)<2>の訴訟において、被控訴人の控訴人に対する本件物件の明渡等の請求が被控訴人が本件物件の所有者ではないことを理由に棄却されていること、等を考慮すると、被控訴人が本件訴訟において本件確定判決の既判力を主張することは信義則に反して許されないものと解するのが相当である。
控訴人のこの点の主張は採用することができるものというべきである。
二 無資力について
証拠(甲三二)及び弁論の全趣旨によれば、Cは現在資力がなく、本件口頭弁論終結時(平成一二年二月二四日)において控訴人に対して負担している慰謝料(遅延損害金を含む。)二一二二万六〇二七円{一五〇〇万円十一五〇〇万円×○・○五×(八年(3.11.7~11.11.6)+一一〇日(11.11.7~12.2.24)}を支払うことができないものと認められる。
三 代位行使される登記手続請求権の範囲について
1 控訴人が代位行使し得るCの被控訴人に対する共有持分移転登記手続請求権は、控訴人のCに対する右慰謝料請求権を保全するに必要な範囲に限られる。
そこで、控訴人の右慰謝料請求権を保全するために本件物件の内のどの物件について被控訴人に対しCへの共有持分移転登記を命ずるのが相当であるかについて検討する。証拠(甲三三)によれば、平成五年三月一日現在の本件物件一の価額は二〇七五万八〇〇〇円、本件物件二の価額は一九九五万円、本件物件三の価額は三六三万六〇〇〇円、本件物件四の価額は六〇八万八〇〇〇円、本件物件五の価額は五二万九〇〇〇円、本件物件六の価額は七四万八〇〇〇円、本件物件七の価額は九〇万八〇〇〇円であると認められ、本件物件一の平成九年度の固定資産税評価額が二〇〇一万一七七三円、本件物件二のそれが一八六五万七一六八円、本件物件三のそれが三四三万九九二二円、本件物件四のそれが四三〇万八八八三円、本件物件五のそれが三六万九六五四円、本件物件六のそれが二七万九四六九円、本件物件七のそれが八万一五九〇円であることからすれば(本件記録)、本件口頭弁論終結時において、本件物件の価額は右平成五年三月一日現在の価額とほぼ同程度の価額であろうと認められる。
2 そうとすれば、本判決の確定時期や控訴人がやがて申し立てるであろう本件物件に対する強制執行における配当時期(それまでにさらに遅延損害金が加算される。)、右強制執行における最低売却価額や配当要求債権者の存在(その存在は十分に予想される。)、そしてCの本件物件に対する共有持分(一〇分の七)等を考慮すると、被控訴人に対しては、本件物件一ないし三及び六(価額は合計約四五〇〇万円であり、その一〇分の七は約三一五〇万円である。)について、真正な登記名義の回復を原因とするCへの共有持分全部移転登記手続を命ずるのが相当と考えられる。控訴人のその余の物件についての請求は過大なものとして右請求に係る訴えを却下すべきである。
四 よって、控訴人の本件請求を全部棄却した原判決は、右の限度において不当であるから、これを主文のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 原田敏章 裁判官 榮春彦は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 矢崎秀一)