東京高等裁判所 平成11年(ネ)5134号 判決 2000年9月14日
控訴人
メコイクウィップメントエンジニアスベスローテンベノートスハップ
代表者
【A】
訴訟代理人弁護士
関根秀太
同
石村善哉
同
佐々木俊夫
被控訴人
株式会社不二精機製造所
代表者代表取締役
【B】
訴訟代理人弁護士
高村一木
同
野上邦五郎
同
杉本進介
同
冨永博之
補佐人弁理士
【C】
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を三〇日と定める。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、別紙第一及び第二物件目録記載の帯状材料処理装置を製造し、販売し、貸し渡してはならない。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金四〇〇〇万円及びこれに対する平成九年四月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
二 被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要、争点及びこれに関する当事者の主張
本件の事案の概要、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における当事者の主張を付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。なお、当裁判所も、「被控訴人各製品」の用語を、原判決の用法に従って用いる。
一 当審における控訴人の主張の要点
1 構成要件Bの「自由締付け端部にてそれ自体の弾性によって該無端ベルトに当接される」ことの意義
(一) 原判決は、構成要件Bの「自由締付け端部」とは、「帯状材料を締め付ける部分」であるとしたものの、その部分が「弾力的締付け手段」のどの部分にあたるかを特定しないまま、被控訴人各製品が構成要件Bを充足しないとの結論を導いている点において誤っている。
(二) 仮に、原判決が、「帯状材料を締め付ける部分」とは、帯状材料を保持した場合にこれと接触する「自由締付け端部」の「先端」を意味するとしていると解することができるとしても、このような解釈は、誤っている。
構成要件Bの「自由締付け端部」とは、弾力的締付け手段のうち、着脱装置の押圧力によって無端ベルトとの間に作られる隙間を構成する部分、すなわち、無端ベルトの開口部を帯状材料の側に貫通した個所から、弾力的締付け手段の最先端までの一定の幅のある部分を意味すると解するべきであり、帯状材料を保持した場合にこれと接触する部分に限られない。その理由は、以下のとおりである。
(1) 本件明細書に記載の実施例(第五ないし七図、第一七図、第一八図等)によれば、「自由締付け端部」は、いずれもある一定の広がりのある部分として示されており、弾力的締付け手段の最先端のような一点のみを意味するものとはされていない。これらの実施例において、自由締付け端部は、唇状部(本件公報9欄4行、12欄24行、50行など)、自由締付け端部(9欄22行)又はU字状ワイヤ部(13欄30行等)と表現されている。いずれも弾性的締付け手段の突出部から延伸する脚と接触するか、あるいは、脚が延伸した部分が、唇状部あるいはU字ワイヤ部となるもので、一定の範囲を形成している。
(2) 本件発明においては、「自由締付け端部」と無端ベルトによって帯状材料を挟んで保持する構成がとられ、着脱装置によって、「自由締付け端部」と無端ベルトとの間に隙間が作られ、その隙間に帯状材料を挿入した後、着脱装置の「自由締付け端部」を押す力を開放すれば、弾力的締付け手段の弾性によって帯状材料が締着される。帯状材料を無端ベルトから離脱させる場合にも右の隙間が作られる。このように、「自由締付け端部」は帯状材料を着脱、保持する機能を有するものであるから、弾力的締付け手段のうち、着脱装置の押圧力によって無端ベルトとの間に作られた隙間を構成する部分の全体が「自由締付け端部」に当たると解するべきであり、これを、帯状材料を保持した場合にこれと接触する部分に限るべき理由はない。
そもそも、帯状材料を保持したときに、この隙間を構成する部分のどの部位が、実際に帯状材料と接触するかは、当該部分の形状と、その帯状材料との位置関係に依存するだけであって、ごく一部の部位を除き、どの部分を接触させることも可能なのであるから、現実に帯状材料と接している部位のみを「自由締付け端部」と解するのは正しくないのである。
(3) 構成要件Bにいう「当接」とは、帯状材料を締め付けていない状態において、帯状材料を締め付けている部分と無端ベルトとが直接接触していることを指す。「当接」を構成要件の一つとしたのは、自由締付け端部が薄い帯状材料を無端ベルトに当接させ保持するに十分な圧力を持ち得るためには、帯状材料が保持されていない状態においても、「自由締付け端部」が弾力的締付け手段自体の弾性力を内部に蓄えたまま、無端ベルトと接し、保持されるように位置していることが有益と考えたからである。
このような構成から考えれば、「自由締付け端部」が、前記隙間を構成する部分のうち、帯状材料を保持した場合にこれと接触する「先端」だけに限定される必然性はない。
2 被控訴人各製品は、構成要件Bを充足するか
(一) 被控訴人各製品は、帯状材料を締め付けていない状態において、ねじりコイルばねの下脚部ないしその延伸部が取付板のスリットにおいて、ねじりコイルばね自体の弾性によって、直接、取付板と接触している。被控訴人各製品の「弾力的締付け手段」は、ねじりコイルばね自体の弾性によって締付力を生じ、その締付力が下脚部及び下係止部を経て先端に伝わり、帯状材料を押圧するという構造を有している。したがって、被控訴人各製品において、「自由締付け端部」とは、ねじりコイルばねの下脚部がそれを押圧する手段によって押圧されたときに、取付板に関して帯状材料側に出たねじりコイルばねの部分(下脚部及び下係止部を含む。)をいう。
被控訴人各製品において帯状材料と接触する部分が、ねじりコイルばねの先端に限られるとしても、そのことから、直ちに先端部分のみを「帯状材料を締め付ける部分」と解釈することはできない。
(二) 原判決は、被控訴人各製品が帯状材料を保持する場合に、ねじりコイルばねの先端が帯状材料を押圧している位置に対応する取付板の部分に切欠が設けられているため、その位置において帯状材料は取付板と接しておらず、従って、取付板は、ねじりコイルばねの先端が帯状材料を押圧するのを支えていないとして、これを被控訴人製品が構成要件Bを充足しない根拠としている。
しかし、この判断は、誤りである。なぜなら、前記のとおり、原判決自身が、「当接」の意義を「自由締付け端部」と無端ベルトとの直接の接触であると解しているように、構成要件Bにおいては、帯状材料を締め付けていない場合の「自由締付け端部」と無端ベルトとの「当接」を問題にするものであって、帯状材料と無端ベルトとの接触の態様は、その「当接」とは無関係だからである。
仮に、帯状材料と無端ベルトとの接触の態様が構成要件Bに関係するとしても、取付板に切欠が存在することは、構成要件Bの充足を妨げない。公知装置には、帯状材料を線荷重に近い状態で保持したために、その集中した力によって、帯状材料に不都合な変形が生じがちであるという課題があった。本件発明は、帯状材料の一側面を無端ベルトで平面的に支持し、「自由締付け端部」による押圧力に対する反力を分散された面荷重に変えることによって、右の課題を解決したものである。本件発明のポイントは、帯状材料への集中的な反力を避け、分散した反力分布によって帯状材料を支持したことにあり、必ずしも連続した完全な平面で受け止めることを要求するものではない。仮に無端ベルトが網目の材料で構成される場合であっても、帯状材料の強度や厚さに応じた網目の寸法と、帯状材料の剛性を適切に選択することによって、本件発明の目的を十分に達することができるのであるから、本件発明は、自由締付け端部による押圧力が帯状材料に加えられる部位の裏面個所において、帯状材料と取付板とが接触して、隙間なく支えられるということを要件としていない。したがって、被控訴人各製品の取付板に切欠が存在することを理由に、本件発明と構成が異なると解釈するのは正しくない。被控訴人各製品の取付板における切欠の寸法または「取付板」における断面欠損率を考慮すれば、切欠の存在は、帯状材料の変形に何ら悪影響を及ぼさない。
被控訴人各製品においては、帯状材料は、切欠部分では支えられていないものの、切欠周辺を含む広い面積において取付板と接し、取付板によって支えられることになる。確かに、切欠に対応する帯状材料の部分には変形が生ずるが、切欠が小さければ変形は小さく問題とならないし、通常用いられている帯状材料(リードフレーム類など)にはある程度の剛性があるから、不都合な変形を避けることができる。さらにまた、帯状材料が複数の切欠部にわたり連続していることから、連続梁の中間支点部におけるのと同じように切欠の周辺部(切欠のエッジ部、すなわち取付板と切欠の境界部)に負の曲げモーメントが生じ、変形は減殺されるから、容易に不都合な変形を防ぐことができる。このように切欠の寸法を加減し、帯状材料の持つ剛性を利用しつつ、帯状材料に不都合な変形を生じない範囲で、取付板に切欠を設けている限り、帯状材料を無端ベルトで支持して不都合な変形を防ぐという本件発明の技術範囲内にある装置を構成することは明らかである。実際、被控訴人各製品を用いた帯状材料のリードフレームには、取付板の切欠によって不都合な変形は生じていないと思われることから、被控訴人各製品の取付板に切欠が存在するからといって、被控訴人各製品が本件発明の技術的範囲にないとは、とうてい言えない。
(三) したがって、被控訴人各製品は、構成要件Bを充足する。
3 控訴人の損害額
(一) 被控訴人は、平成九年及び平成一〇年において、合計五台の被控訴人各製品を製造販売した。販売先は、別紙販売先企業名簿のとおり(立山電化工業株式会社の販売は二台)である。
(二) 控訴人は、これにより、右台数の控訴人の帯状材料処理装置の販売の機会を失った。控訴人が右期間中に販売したはずの帯状材料処理装置の価格は二三〇万ギルダーであり、控訴人の純利益率は二〇パーセントを下らない。したがって、一ギルダーを六〇円とすると、控訴人の逸失利益額は一億三八〇〇万円である。
二三〇万×五×〇・二×六〇=一億三八〇〇万
(三) よって、控訴人の損害額の総額は、従前主張していた損害額三億一二〇〇万円に、右(二)の金額を加えた四億五〇〇〇万円である。控訴人は、本訴において、このうち四〇〇〇万円を請求する。
二 当審における被控訴人の主張の要点
1 構成要件Bの「自由締付け端部にてそれ自体の弾性によって該無端ベルトに当接される」ことの意義
(一) 「自由締付け端部」とは、弾力的締付け手段のうち、帯状材料を締着した際に「帯状材料を締め付ける部分」(帯状材料と接触する部分)であり、その文言の意味は明白である。「帯状材料を締め付ける部分」がどの部分を指すかは、弾力的締付け手段の具体的構造によって異なり、その構造によって一定の広がりのある部分の場合もあれば、最先端の一端の場合もあるから、これ以上の具体的部位を特定する必要はない。控訴人の原判決に対する非難は当たらない。
(二) 原判決は、「自由締付け端部」は「帯状材料を締め付ける部分」だと解すべきであると言っているだけであり、それを弾力的締付け手段の先端だけに限定してはいない。本件明細書の第一七図、一八図の端部52のようなものも「帯状材料を締め付ける部分」と言い得るものであり、原判決は「自由締付け端部」をそれらのものも含む概念としてとらえている。したがって、原判決が「自由締付け端部」を弾力的締付け手段の先端に限定していることを前提とする、控訴人の主張は失当である。
(三) 控訴人は、自由締付け端部の帯状材料の着脱・保持の機能を考慮すると、弾力的締付け手段のうち「無端ベルトの開口部」(スリット)を帯状材料の側に貫通した個所から弾力的締め付け手段の最先端までが「自由締付け端部」である旨主張する。しかし、本件発明は、帯状材料を適切に着脱保持することだけを目的とするものではない。本件発明は、公知装置には弾性的な指部で帯状材料を交互に反対方向に押して保持したため、帯状材料に変形が生じるという問題点があったことから、帯状材料を保持する場合に、弾力的締付け手段の「自由締付け端部」が、締め付けられた帯状材料を無端ベルト上に押し付けることにより、脆弱な帯状材料であっても、変形することを回避することができるようにしたものである。したがって、「自由締付け端部」は「帯状材料を締め付ける部分」(帯状材料と接触する部分)であると考えるべきである。
(四) 構成要件Bの「当接」が、「帯状材料を締め付けていない状態において、帯状材料を締め付けるべき部分と無端ベルトとが直接接触していること」と解釈されるのは、本件発明においては、帯状材料が締着されていない場合に自由締付け端部が無端ベルトに直接接触しているので、本件発明の弾力的締付け手段で締着させると弾力的締め付け手段の自由締付け端部によって帯状材料が無端ベルト上に押し付けられることによって、脆弱な帯状材料でも変形しないことになるからである。
この点につき控訴人は、「当接」の意義を同様に解するものの、その解釈の根拠は、自由締付け端部が、薄い帯状材料を無端ベルトに当接させ、保持するに十分な圧力を持ちうるようにするためであり、このような構成からすれば、「弾力的締付け手段が材料を保持する場合に帯状材料と接触する部位」と、「帯状材料を保持していない場合にそれが無端ベルトと接触する部位」とが、同一である必要性はない旨主張する。しかし、右のようなことは、本件明細書に一切記載されておらず、控訴人の右主張は、根拠不明であって失当である。
2 被控訴人各製品は構成要件Bを充足するか
被控訴人各製品において「帯状材料を締め付ける部分」というのは、ねじりコイルばねの先端部分である。被控訴人各製品においては、帯状材料を締め付けているのは、ねじりコイルばねの先端だけであり、ねじりコイルばねの他の部分では、帯状材料を押圧していないからである。
被控訴人各製品においては、帯状材料が取り外されたときに、ねじりコイルばねの先端位置は取付板の切欠部の位置にあり、取付板に直接接触していないことになるから、被控訴人各製品は、構成要件Bを充足しない。
被控訴人各製品において、帯状材料を締め付けていないときに、取付板のスリットに、ねじりコイルばね自体の弾性によって直接、取付板と接触している、ねじりコイルばねの下脚部分ないしその延伸部は、帯状材料を締め付けた状態では帯状材料を押圧している個所ではないから、「自由締付け端部」にはあたらない。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきであると考える。その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の事実及び理由の「第三 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
一 構成要件Bの「自由締付け端部にてそれ自体の弾性によって該無端ベルトに当接される」ことの意義
1 本件発明の構成
証拠(甲第一号証の二)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明欄に次の趣旨の記載があることが認められる。
公知装置においては、無端ベルトに一体形成される弾力的な指部が帯状材料を交互に押して保持したため、帯状材料(特に脆弱な物品)の締め付けられた縁部に変形が生じるという問題点があった。これは、公知装置において帯状材料を弾力的な指部で押圧した場合、帯状材料を隔てた反対側にこれを支える部材がなく、押圧力を帯状材料だけで支えていたため、帯状材料が交互に押圧される結果となり、脆弱な帯状材料の縁部が押圧力によって変形してしまったためである。本件発明は、このような帯状部材の湾曲を防止するため、帯状材料を保持する場合に、帯状材料を締め付ける「自由締付け端部」の、帯状材料を隔てた反対側に無端ベルトがあり、これが帯状材料を支える構造をとることにより、脆弱な帯状材料を保持しても、その変形を回避することができるようにしたものである。
2 「自由締付け端部」及び「当接」の意義
(一) 右の本件発明の構成によれば、本件発明の「弾力的締付け手段」の「自由締付け端部」とは、「帯状材料を締め付ける部分」すなわち弾力的締付け手段のうち現実に締め付けている時点において帯状材料に接触する部分を言い、「当接」とは、帯状材料を締め付けていない状態において、右部分(締め付けている状態になったとき、帯状材料に接触してこれを締め付けるべき部分)と無端ベルトとが直接接触していることをいうと解するのが相当である。原判決も、これと同旨である。
(二) 控訴人は、原判決が、「自由締付け端部」を「帯状材料を締め付ける部分」としたことにつき、弾力的締付け手段のどの部分にあたるか特定しないまま、判断を導いている旨非難する。しかし、「帯状材料を締め付ける部分」とは、帯状材料を保持する場合に帯状材料と接触する部分を指すものと解すべきことは前記説示のとおりであり、その意味は明らかである。具体的な装置において、帯状材料と接触する部分は、当該装置の具体的な構造によって異なり、一定の広がり(幅)のある部分の場合もあれば(本件発明の実施例にこのような場合が示されている。)、先端である場合もあるから(後記のように、被控訴人各製品は、このような場合である。)、特許請求の範囲の「自由締付け端部」の文言をこれ以上特定することはできず、その必要もない。「自由締付け端部」を右以上に特定すべきであるとの控訴人の主張は採用できない。
(三) 控訴人は、仮に、原判決が、「帯状材料を締め付ける部分」を「自由締付け端部」の先端であるとしているなら、そのような解釈は、誤りである旨主張する。しかし、原判決は、被控訴人各製品においては「ねじりコイルばね」の先端が「自由締付け端部」に当たると言っているにすぎず、本件発明において、どのような装置においても、常に「自由締付け端部」が先端部分を意味するものとは言っていない。原判決が「自由締付け端部」を先端に限定したことを前提とする控訴人の主張も失当である。
(四) 控訴人は、本件明細書の実施例の記載や、本件発明における「自由締付け端部」が帯状材料を着脱保持する機能を有するものであることを根拠に、「自由締付け端部」とは、弾力的締付け手段のうち、着脱装置の押圧力によって無端ベルトとの間に作られる隙間を構成する部分、すなわち、無端ベルトの開口部を帯状材料の側に貫通した個所から、弾力的締付け手段の最先端までの一定の幅のある部分を意味すると解するべきであり、帯状材料を保持した場合にこれと接触する部分に限られない旨主張する。
しかし、本件明細書の実施例において、一定の幅のある部分が示されているといっても、その部分はいずれも帯状材料を保持した場合にこれと接触する部分であるから、右実施例からは、具体的装置において「自由締付け端部」が一定の幅を有することがあるとは言えても、「自由締付け端部」は、帯状材料を保持した場合にこれと接触する部分に限られないとの結論を導くことはできない。また、たとい「自由締付け端部」が帯状材料の着脱保持機能を有するものであるとしても、「自由締付け端部」の果たすべき機能には他のものもあり得るのであり、これとの関係での限定も問題となり得るのであるから、そのことが、直ちに「自由締付け端部」が、常に一定の幅を持つ部分であるとか、帯状材料と接触する部分に限られないとの結論に結び付くものではない。そして、本件発明の先行技術及び本件明細書の発明の詳細な説明欄の記載において、「自由締付け端部」の果たすべき機能とされているのは、前記2(一)のとおりであって、控訴人主張のものとは別である。控訴人の主張は採用できない。
(五) 控訴人は、「当接」が構成要件とされているのは、自由締付け端部が薄い帯状材料を無端ベルトに当接させ保持するに十分な圧力を持ち得るためには、帯状材料が保持されていない状態においても、自由締付け端部が弾力的締付け手段自体の弾性力を内部に蓄えたまま、無端ベルトと接し、保持されるように位置していることが有益と考えたからであり、このような構成から考えれば、「自由締付け端部」が、前記隙間を構成する部分のうち、帯状材料を保持した場合にこれと接触する先端だけに限定される必然性はないと主張する。
しかしながら、控訴人が、「当接」が構成要件とされた理由として控訴人が主張することは、本件明細書に何らの記載もなく、その根拠を欠くものである。また、仮に「当接」にそのような目的があったとしても、そのことは何ら他の目的の存在を否定するものではなく、本件明細書に記載されているのが他の目的であることは前述のとおりである。控訴人主張の目的のみから「当接」を理解せよとする右主張は、いずれにせよ採用できない。
二 被控訴人各製品は構成要件Bを充足するか
1 被控訴人各製品においては、帯状材料と接触し、これを押圧するのは、ねじりコイルばねの先端部分のみである。したがって、被控訴人各製品において、「帯状材料を締め付ける部分」に当たるのは、ねじりコイルばねの先端部分である。ところが、被控訴人各製品の取付板には切欠が設けられており、帯状材料を保持した場合に、ねじりコイルばねの先端部分の反対側は切欠部分となっていて、ねじりコイルばねが帯状材料を押圧するのを支えていない。すなわち、被控訴人各製品では、帯状材料が取り外されたときに、ねじりコイルばねの先端部分は取付板の切欠部にあり、取付板に接触していない。したがって、被控訴人各製品は、いずれも構成要件Bの「弾力的締付け手段は、(中略)自由締付け端部にてそれ自体の弾性によって該無端ベルトに当接される」との要件を充足しない。
被控訴人各製品はこのようなものであるから、そこでは、帯状材料が脆弱な部材でできている場合には、帯状材料は、弾力的締付け手段の自由締付け端部(ねじりコイルばねの先端部分)と接する部分に変形を起こすことになり、本件発明の作用効果を有しない。したがって、被控訴人各製品は、本件発明との関係においては、むしろ公知装置に類するものであると言うことができる。
2 控訴人は、構成要件Bの「当接」とは、帯状材料を締め付けていない場合の「自由締付け端部」と無端ベルトとの接触の態様を問題とするものであって、取付板の切欠部において帯状材料と無端ベルトとが接触しているかどうかは、「当接」とは無関係である旨主張する。しかし、帯状材料と自由締付け端部で押圧される部分の反対側で無端ベルトに支えさせることにより、その変形を防ぐことこそが本件発明の眼目であることは既に述べたとおりであり、取付板の切欠部において帯状材料と無端ベルトとが接触していなければ、このような作用効果が得られないことは明らかであるから、右主張は失当である。
また、控訴人は、公知装置において、帯状材料に線荷重が加えられていたのを、本件発明では帯状材料を無端ベルトで平面的に支持し、自由締付け端部からの反力を分散された面荷重に変えることによって公知装置の課題を解決したものであるとして、本件発明においては、必ずしも連続した完全な平面で隙間なく帯状材料を受け止める必要はないから、被控訴人各製品における取付板の切欠の存在は、構成要件該当性を妨げない旨主張する。しかしながら、本件明細書の記載によれば、本件発明が帯状材料の湾曲を防止するため、帯状材料を保持する場合に、帯状材料を締め付ける「自由締付け端部」の、帯状材料を隔てた反対側に無端ベルトがあり、これが帯状材料を支える構造をとることにより、脆弱な帯状材料を保持しても、その変形を回避することができるようにしたものであることは、前述のとおりであり、本件明細書に右主張の裏付けとなるものを見出すことはできない。また、このことを離れても、本件発明において、被控訴人各製品におけるような切欠があっても構成要件該当性が否定されないとの結論には結び付かない。自由締付け端部に接する部分に対応する部分において、無端ベルトに切欠があれば、帯状材料に加えられた押圧力が無端ベルトで支えられていないことになるから、脆弱な帯状材料に変形を生じることを阻止できないからである。控訴人は、被控訴人各製品の取付板における切欠の寸法等を考慮すると、切欠の存在は帯状材料の変形に悪影響を及ぼさない旨主張する。しかし、被控訴人各製品における取付板の切欠部の寸法は、ねじりコイルばねの先端より十分に大きく、ねじりコイルばねで帯状材料を押圧している部分の反対側には取付板がないから、ねじりコイルばねの押圧力によって、脆弱な帯状材料であれば変形をきたすことになる。控訴人の右主張は失当である。
もっとも、帯状材料が有る程度以上の剛性を有する場合には、無端ベルトに切欠が存在しても、帯状材料の剛性と切欠の周辺部とで弾力的締付け手段からの押圧力を支えることは可能である。しかし、前記のとおり、本件発明は、そもそもが脆弱な帯状材料であっても押圧力によって変形を生じないようにしようとするものであるから、切欠の存在にも関わらず変形をきたさないような剛性を有する帯状材料についてのみ当てはまる事項をもって本件発明の構成要件該当性の根拠とすることは、許されないというべきである。控訴人の右主張は採用できない。
控訴人のその他の主張も、右に述べてきたところに照らすと、いずれも採用できないことが明らかである。
三 以上によれば、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がないことが明らかである。
第四結論
よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間につき、民事訴訟法六七条一項、六一条、九六条二項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)
<以下省略>