東京高等裁判所 平成11年(ネ)5203号 判決 2000年2月23日
控訴人兼附帯被控訴人
甲野太郎
被控訴人兼附帯控訴人
乙川次郎
右訴訟代理人弁護士
三宅弘
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 本件附帯控訴に基づき、原判決主文第一項及び第三項を次のとおり変更する。
1 控訴人兼附帯被控訴人は、被控訴人兼附帯控訴人に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人兼附帯控訴人のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用(附帯控訴の費用を含む。)はこれを五分し、その二を控訴人兼附帯被控訴人の負担とし、その三を被控訴人兼附帯控訴人の負担とする。
四 この判決の第二項1は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人兼附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)
1 控訴について
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人兼附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴について
(一) 本件附帯控訴を棄却する。
(二) 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 控訴について
(一) 本件控訴を棄却する。
(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。
2 附帯控訴について
(一) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
(二) 控訴人は被控訴人に対し、金一二四〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(三) 控訴人は、朝日新聞東京本社版、読売新聞東京本社版及び毎日新聞東京本社版に、それぞれ原判決別紙(一)記載の謝罪広告を同別紙(二)記載の条件で一回掲載せよ。
(四) 訴訟費用は第一、二審を通じて控訴人の負担とする。
(五) 仮執行宣言
第二 事案の概要
本件の事案の概要は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一三頁九行目<編注 本誌二一三頁二段一行目>の「原告」を「控訴人」と、一四頁四行目から五行目<同二一三頁二段一一行目から一二行目>にかけての「青砥公団住宅自治会などの」を「青戸公団住宅自治会などの」と訂正する。)。
第三 当裁判所の判断
一 当裁判所も、本件記事は被控訴人の名誉を毀損するものであるところ、本件記事が真実であるとは認められず、控訴人が本件記事の内容を真実と信じたことについての相当な理由も認められないと判断し、また、本件第二行為を控訴人が行ったと認めるに足りる証拠はないと判断する。その理由は、次のとおり改めるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の一ないし三(原判決二〇頁二行目から四〇頁六行目<同二一四頁一段一四行目から二一七頁一段二行目>)に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三一頁六行目<同二一五頁三段二五行目>の「及び立石仲町会」を削除する
2 原判決三二頁一行目から二行目<同二一五頁四段二行目>にかけての「午前一〇時ころ」を削除する。
3 原判決三二頁四行目<同二一五頁四段七行目>の「Dの陳述書(乙第二九号証)が存在し、」を「Dの陳述書(乙第二九号証、第六六号証)、Eの陳述書(乙第六七号証)及び田辺喜平の陳述書(乙第六八号証)が存在し、」と改める。
4 原判決三三頁五行目<同二一五頁四段三〇行目>の「本件記事中の」から六行目<同三二行目>の「正しいと認め、」までを削除する。
5 原判決三五頁五行目<同二一六頁一段三六行目>の「証言するが、」から末行<同一三行目>までを次のとおり改める。「証言し、同趣旨のBの陳述書(乙第号証)が存在する。
しかし、右証言によれば、Bは証人として召喚される以前に本田警察署で供述調書を作成されているが、その内容は証人として法廷で証言したことと同内容であったというのであるから、Bが証人として召喚された際に被控訴人が偽証の指示をしたということはあり得ないはずであるし、また、右証言等によれば、被控訴人から偽証をしないと北口中通り商店会の問題から手を引くと言われたので偽証をしたというのであるが、控訴人は昭和六〇年一二月二七日付で葛飾区と△△電鉄との間で作成された覚書(乙第二六号証)によって青砥駅の構造が公的に確定したと主張し(控訴理由書(二))、乙第九一号証によれば、B、Fらも右覚書により青砥駅の出入口は最終確定したとの認識であったことが認められるところ、それより一年近く後の昭和六一年一一月に被控訴人から北口中通り商店会の問題から手を引くと言われたので偽証したというのは不自然であり、右証言等は到底信用しがたく、他に」
6 原判決四〇頁一行目<同二一六頁四段二八行目>の「及び立石仲町会」を削除する。
二 争点4(損害、謝罪広告及び販売禁止等)
1 当裁判所も本件第一行為と被控訴人が東京都議会議員選挙において落選したこととの間に因果関係があったとまでは認められないと判断する。その理由は、原判決の該当個所(原判決四〇頁八行目から四一頁七行目<同二一七頁一段五行目から二七行目>まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 右のとおり、本件第一行為によって被控訴人が東京都議会議員選挙に落選したとまでは認められないものの、既に判示したとおり、本件第一行為当時、被控訴人は葛飾区議会議員であり、その一一日後に告示される東京都議会議員選挙に立候補を予定していたこと、本件記事の内容は区議会議員である被控訴人が△△側から賄賂として一億円以上の金を受け取って土地を購入したのではないかとの印象を与えるものであること、しかも、××の発行は不定期であり、平成八年度は発行していなかった(甲第二二号証、弁論の全趣旨)のに、東京都議会議員選挙が告示される一一日前に本件××が新聞の広告折り込みの方法で葛飾区内全域に約一四万八五〇〇部配布されたこと、本件記事を掲載するに当たっての取材は、前記のとおり、△△・北総疑惑糾弾委員会なる組織を設けた者及びFに対して行われただけで、被控訴人、Aには取材もせず、裏付け調査を行った形跡もないこと、本件××は特定のスポンサーの支援を受けて発行されたことなどを合わせ考えると、本件第一行為は東京都議会議員選挙の選挙妨害の意図のもとに行われた疑いすらあるのであり、しかも、本件第一行為後、被控訴人は有権者等から本件記事に関連して抗議や苦情を受けていたのである。以上述べた諸般の事情に本件の一切の事情を合わせ考慮すると、被控訴人が受けた精神的苦痛を慰謝するに足る金額は三〇〇万円と認めるのが相当であり、弁護士費用としては三〇万円が相当である。
3 当裁判所も、控訴人の本件××の販売、無償配布及び第三者への引渡しを差し止める必要があると認める。その理由は、原判決の該当個所(原判決四二頁八行目から四四頁二行目まで<同二一七頁二段一三行目から三段九行目>)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 被控訴人は、朝日新聞、読売新聞及び毎日新聞の各東京本社版への謝罪広告の掲載を求めるが、本件記事は被控訴人だけを名指しで攻撃するものではなく、被控訴人の氏名も五〇人余りの葛飾区議会議員とともに記載されているに過ぎないこと(甲第一号証)、前に判示したとおり、被控訴人は本件第一行為が行われた後の葛飾区議会議員選挙において最高得票で当選したこと、本件××が配布されたのは葛飾区内にとどまることなどの事情を考慮すると、本件においては、前記慰謝料の支払に加えて、被控訴人の名誉を回復するために被控訴人が求める謝罪広告の掲載の必要性があるとまでは認められない。
三 以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成九年六月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求め、本件××について販売、無償配布及び第三者への引渡しを求める限度で理由があるが、その余の請求はいずれも理由がない。
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、本件附帯控訴の一部は理由があるから主文第二項のとおり原判決を変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六四条本文を、仮執行宣言について同法三一〇条本文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 髙木新二郎 裁判官 北澤晶 裁判官 白石哲)