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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5553号 判決 2000年3月23日

控訴人

スカラ株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

中山徹

右補佐人弁理士

【B】

被控訴人

株式会社キーエンス

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

岩坪哲

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の拡大撮像装置(以下「イ号物件」という。)を製造し、販売してはならない。

三  被控訴人は、その保管中のイ号物件及びその半製品を廃棄せよ。

四  被控訴人は、イ号物件を製造するための金型を廃棄せよ。

五  被控訴人は、控訴人に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1(一)  控訴人は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する。

登録番号 特許第一八〇九〇四二号

発明の名称 拡大撮像装置における照明用導光装置

出願日 昭和六三年六月七日(特願昭六三ー一三九九〇五号)

出願公告日 平成四年四月三日(特公平四ー二〇六一五号)

登録日 平成五年一二月一〇日

(二)  本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲は、原判決別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおりである。

2  本件発明の構成要件は、次のとおりに分説することができる(以下「構成要件A」などという。)。

A 内部に拡大用光学系を収容し且つ基端側に撮像素子を設けた鏡筒と、該鏡筒の先端に着脱自在に取付けた導光キャップとからなり、

B 上記導光キャップが、透明材料により略半球状に形成され、

C 先端部を被験体に当接させることにより上記鏡筒から該導光キャップの内部に導かれた光を被験体に投射するものとして構成され、

D 該導光キャップの先端部中心には、撮像のための視野を規定すると共に被験体に対して内周面から照明光を照射する小孔が設けられ、

E 該導光キャップ内を透過する光が全反射を繰返して該小孔の内周面から被験体の表面に投射可能である、

ことを特徴とする拡大撮像装置における照明用導光装置

3  被控訴人は、業としてイ号物件を製造販売している。

二  本件は、控訴人が、被控訴人のイ号物件の製造販売が本件特許権を侵害すると主張して、被控訴人に対し、右製造販売の差止め等と不法行為による損害賠償を求めた事案である。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  イ号物件の構造及びこれが本件発明の技術的範囲に属するかどうか。

1  控訴人の主張

(一) イ号物件の構造は、次のとおりである。

a 内部に拡大用光学系を収容したレンズ収容筒11a及びレンズ収容筒11aの基端側に接続されるとともに基端側に撮像素子13が設けられたカメラ収容筒11bからなり、レンズ収容筒11aにその長手方向に沿って円環状に内装された多数の光ファイバー15の先端面15aが先端部から露出するようにされた鏡筒11と、該鏡筒11の先端に螺合により着脱自在として取り付けた照明ヘッド14とからなり、

b 前記照明ヘッド14が、透明材料たるアクリル樹脂により略半球状に形成された導光部材14a並びにその外側面と内側面を各々覆う外側アルミ蒸着膜14cと内側アルミ蒸着膜14d及び前記外側アルミ蒸着膜14cの外側面を覆う略半球状に形成された金属キャップ14bとからなり、

c 導光部材14aの先端部を金属キャップ14bの先端部を介して被験体に当接させることにより、前記光ファイバー15を通して鏡筒11から該導光部材14aの内部に導かれた光を被験体に投射するものとして構成され、

d 該導光部材14a、金属キャップ14b並びに外側及び内側アルミ蒸着膜14cと14dの先端部中心には、撮像のための視野を規定するとともに、被験体に対して内周面から照明光を照射する小孔16(導光部材の小孔部16a、金属キャップの小孔部16b、外側アルミ蒸着膜の小孔部16c、内側アルミ蒸着膜の小孔部16d)が設けられ、

e 該照明ヘッド14内を透過する光が導光部材14a内を反射して、小孔16aの内周面から被験体の表面に投射可能である、ことを特徴とする拡大撮像装置における照明用導光装置

(二) 構成要件Aとの対比

イ号物件は、「内部に拡大用光学系を収容したレンズ収容筒11a及びレンズ収容筒11aの基端側に接続されるとともに基端側に撮像素子13が設けられたカメラ収容筒11bからなり、レンズ収容筒11aにその長手方向に沿って円環状に内装された多数の光ファイバー15の先端面15aが先端部から露出するようにされた鏡筒11と、該鏡筒11の先端に螺合により着脱自在として取り付けた照明ヘッド14」とからなる(構造a)。

イ号物件の拡大用光学系及び基端部に設けられた撮像素子13は、本件発明の拡大用光学系及び撮像素子に当たり、イ号物件のレンズ収容筒11a及びカメラ収容筒11bは、一体となって本件発明の鏡筒を構成する。また、イ号物件の照明ヘッド14は、本件発明における鏡筒を構成するレンズ収容筒11aの先端に螺合により着脱自在に取り付けられたものであるから、本件発明の導光キャップに当たる。

したがって、イ号物件は、構成要件Aを充足する。

(三) 構成要件Bとの対比

イ号物件は、「照明ヘッド14が、透明材料たるアクリル樹脂により略半球状に形成された導光部材14a並びにその外側面と内側面を各々覆う外側アルミ蒸着膜14cと内側アルミ蒸着膜14d及び前記外側アルミ蒸着膜14cの外側面を覆う略半球状に形成された金属キャップ14b」とからなる(構造b)。

本件発明の「導光キャップが透明材料で形成され」ているのは、その内部を通して光を導くという作用効果を得ることにその目的があるところ、イ号物件の照明ヘッド14は、アルミ蒸着膜に覆われているものの、透明材料たるアクリル樹脂により形成された導光部材14aを備えており、その内部を通して光を導くようになっている。

また、本件発明において「導光キャップが略半球状に形成され」ているのは、その中央の小孔を被験体の観察部位に容易に当接することを可能にするためであるところ、イ号物件における照明ヘッド14は、その外形が略半球状に形成されており、これは、本件発明と同様の技術思想により右技術課題を解決するものである。

したがって、イ号物件は、構成要件Bを充足する。

(四) 構成要件Cとの対比

イ号物件は、「導光部材14aの先端部を金属キャップ14bの先端部を介して被験体に当接させることにより、前記光ファイバー15を通して鏡筒11から該導光部材14aの内部に導かれた光を被験体に投射するものとして構成され」ている(構造c)。

イ号物件は、導光部材14aの外側に金属キャップ14bを被せていることから金属キャップ14bの先端部を介して導光部材14aの先端部を被験体に当接させるようになっているが、本件発明は、導光キャップの外周を何らかのカバーで覆うことを禁止するものではないから、右のように導光部材14aを金属キャップ14bの先端部を介して被験体に当接させることも導光キャップの「先端部を被験体に当接させる」ことに当たる。

また、イ号物件の導光部材14aは、光ファイバー15を通して鏡筒11から該導光部材14aの内部に導かれた光を被験体に投射するものとして構成されているから、「鏡筒から導光キャップの内部に導かれた光を被験体に投射するものとして構成され」ている本件発明の導光キャップと同じである。

したがって、イ号物件は、構成要件Cを充足する。

(五) 構成要件Dとの対比

イ号物件は、「該導光部材14a、金属キャップ14b並びに外側及び内側アルミ蒸着膜14cと14dの先端部中心には、撮像のための視野を規定するとともに、被験体に対して内周面から照明光を照射する小孔16(導光部材の小孔部16a、金属キャップの小孔部16b、外側アルミ蒸着膜の小孔部16c、内側アルミ蒸着膜の小孔部16d)が設けられ」ている(構造d)。

本件発明の導光キャップに該当するイ号物件の導光部材14aの先端部中心に設けられている小孔16aは、「先端部中心に撮像のための視野を規定するとともに被験体に対して内周面から照明光を照射する」ものであるから、本件発明の小孔に当たる。

したがって、イ号物件は、構成要件Dを充足する。

(六) 構成要件Eとの対比ー文言侵害

(1) イ号物件は、「該照明ヘッド14内を透過する光が導光部材14a内を反射して、小孔16aの内周面から被験体の表面に投射可能である」ようになっている。したがって、イ号物件は、導光キャップ内を透過する光が小孔の内周面から被験体の表面に投射可能となっている(構造e)。

また、イ号物件では、照明ヘッド14内を透過する光が導光部材14a内を反射して小孔16aにまで導かれており、導光部材14a内では、すべての光が鏡面によって反射している。

(2)ア 本件発明の構成要件Eにおける「全反射」の意味は、十分な量の光を小孔に導くという本件発明の本質的な技術思想に基づいて解釈すべきであり、そうすると、「全反射」は、照明光の全部が反射することにより小孔に導かれるという意味であることが理解されるから、イ号物件では、導光キャップ内を透過する光が「全反射」を繰り返して小孔の内周面に導かれるということができる。

イ また、別の観点からいえば、構成要件Eにおける「全反射」の文言は、導光キャップ中での光の振る舞いを表す作用的な記載により導光キャップの形状を限定するように機能しているものである。

ウ そもそも、本件明細書には、「この導光キャップ4の表面には、必要に応じて低屈折率材をコーティングすることができる。」(本件公報4欄35行、36行)との記載があるが、これは、本件明細書では、導光キャップの表面を何らかの層で覆うこと禁じていないことを根拠づけるものである。本件明細書に記載した低屈折率材の屈折率を非常に小さくしたものがイ号物件の金属蒸着膜にほかならない。

(3) したがって、イ号物件は、構成要件Eを文言上充足する。

(七) 構成要件Eとの対比ー均等による侵害

(1) 本件発明の技術的思想は、略半球状に形成した導光キャップの形状を採用することにより、被験体に対向方向で照射した光により水平光を主体とした照明を行うことができるようにし、かつ凸面状以外の被験体に対しても適用し得るとする中核的作用効果を得ることにある。したがって、「全反射」の構成部分は、本件発明の本質的部分ということはできない。

(2) イ号物件は、本件発明の主たる作用効果である水平光の照射と凹面、凸面を含む被験体への接触観察を行うことができるものであるから、本件発明特有の作用効果をすべて奏し、本件発明の目的を達することができるものである。

被控訴人は、本件発明の主たる作用効果には落射光や透過光の発生という作用効果が含まれる旨主張するが、イ号物件においても、落射光及び透過光は、少なくとも小孔16aの内周面から発生するものであり、落射光や透過光の発生を本件発明の主たる作用効果であると解したとしても、イ号物件は本件発明の主たる作用効果を奏するものである。

(3) 全反射と鏡面反射とは、実質的に同一の作用効果を生じ得る技術として同様の場面で用いられてきたものであり(甲七、八)、そのような構成は、当業者が、その製造の時点で、容易に想到することができるものである。

(4) イ号物件は、本件発明の出願時における公知技術と同一、又は当業者がその公知技術から右出願時に容易に推考することができたものということはできない。

(5)ア イ号物件は、本件発明の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。

イ 被控訴人は、控訴人の出願過程における意見書等の記載に基づく主張をする。

包袋禁反言の法理の適用に当たっては、出願の経過全体を慎重に検討してその適用の是非を判断する必要がある。

本件では、控訴人は、その意見書(乙七)において、第3引用例(特開昭五八ー二八七一二号公報、乙六)につき、被控訴人指摘の点のみならず、「a 鏡胴6又は光学部材12の先端を標本面に直接押し付けて該標本面を照明する方式のものではない」点、及び「b 光学部材12の形状は単なる円筒状であって、半球状をなすものではない」点(七頁九行ないし一三行)を主張したものであり、特許庁審査官は、控訴人指摘の箇所の記載に基づき、本件発明につき出願公告の決定をしたものである。さらに、特許庁審査官は、その後の【D】のした特許異議の申立てに対しても、右控訴人指摘の箇所の記載に基づき、「『水平光』、『落射光』および『透過光』の三種類の光をバランス良く利用することが必須であるとも、これら『水平光』『落射光』『透過光』の発生が特許請求の範囲に記載されるべきであるとも、認められない。」(甲三の三頁一九行ないし二一行)と判断している。

このように、出願の経過全体を見れば、控訴人の意見書及び手続補正書の一部から、包袋禁反言の法理を適用することはできない。

(6) よって、仮に、イ号物件が、本件発明の構成要件Eを文言上充足しないとしても、イ号物件は、構成要件Eを均等により充足する。

2  被控訴人の主張

(一) イ号物件の構造について

イ号物件の鏡筒11は、内部に拡大光学系を収容するレンズ収容筒11a及び基端側に撮像素子13を設けたカメラ収容筒11bから構成される。鏡筒11の先端部側には、照明ヘッド14が着脱自在に螺着される。

レンズ収容筒11aの内部には多数の光ファイバー15が円環状に配設され、先端側においては、レンズ収容筒の先端螺着部18の端面18a、18bの間に光ファイバーの照明ヘッド側端面15aが照明ヘッド14の螺着端面の対向位置に露出している。

照明ヘッド14は、透明アクリル樹脂により略半球状に形成された導光部材14aを有し、その外面及び内面は、それぞれ外側のアルミ蒸着膜14c及び内側のアルミ蒸着膜14dにより略半球の内外周面の全範囲において被覆され、分離不能に固着している。原判決別紙物件目録第6図のとおり、照明ヘッド14を鏡筒に螺着状態下では、内側のアルミ蒸着膜14dの基端側縁部がレンズ収容筒の先端螺着部の端面(光ファイバーの開口端より内側)18bに達し、間隙を生ずることなく当接している。

導光部材14aの外側のアルミ蒸着膜14cの外側は、導光部材14aの基端縁部を超えて鏡筒の先端側に至るまで、金属カバー(金属キャップ)14bにより覆われ、該金属カバーと外側のアルミ蒸着膜とが導光部材14aに分離不能に固着されている。照明ヘッド14は、金属キャップ14bの螺着面をカメラ収容筒の先端螺着部18に螺入することにより鏡筒11に螺着される。

照明ヘッド14の先端中心には、被験体に対して照明光を投射する小孔16が設けられ、該小孔は、導光部材の小孔16a、金属キャップの小孔16b、外側のアルミ蒸着膜の小孔16c、内側のアルミ蒸着膜の小孔16dにより形成されている。なお、右小孔は、撮像のための視野よりも大きく開口されており、したがって、撮像のための視野を規定しない。

(二) 構成要件Bとの対比について

本件発明の構成要件Bの「導光キャップが、透明材料により略半球状に形成され、」とは、導光キャップの内外の略半球面を何らの不透明材料により被覆することなく外部に露出させ、先端の小孔の内周面のみならず、略半球面の内側から「落射光」を、外側から「透過光」を発生させるような構成を意味するものである。

イ号物件においては、照明ヘッド14を鏡筒11に螺着させた状態では、照明ヘッド14の内側のアルミ蒸着膜14dの基端側縁部がレンズ収容筒の先端螺着部の端面(光ファイバーの開口端より内側)18bに達し、間隙を生ずることなく当接している。したがって、アルミ蒸着膜14dとレンズ収容筒の先端螺着部により閉封された照明キャップの内側には、光ファイバーの先端15aからの照明光は漏出しないから、本件発明にいう「落射光」を発生しない。

また、照明ヘッド14の外側は、アルミ蒸着膜14c及び金属キャップ14bで覆われているから、照明ヘッドの外側半球面からは外部に光が漏出しない。したがって、本件発明にいう「透過光」を発生しない。

よって、イ号物件は、構成要件Bを充足しない。

(三) 構成要件Eとの対比ー文言侵害について

(1) 本件発明の構成要件Eにおける「全反射を繰返して」とは、光ファイバー等から導光キャップ内に様々な入射角で導入された光が、キャップと外部との境界面において、あるものは臨界角度より大きい角度で入射することにより小孔に至るまで反射され(水平光)、あるものは臨界角度より小さい角度で入射することにより第二媒質(キャップ内外の空気中)に漏洩して、導光キャップの内外面から落射光及び透過光を生ずることを意味するものである。

ア この点は、本件明細書の発明の詳細な説明における次の記載からも明らかである。

「被験体の観察を行うに際しては、導光キャップを中央の小孔が被験体の観察部位に合うようにして被験体に当接する。その際、光源からの照明光は、導光キャップ内を全反射により通過して、小孔の内周面から被験体表面へ水平光として投射される。被験体の照明は、この水平光を主体として行われるが、被験体表面の凹部を照明する落射光や、光が透過するような被験体の場合には被験体の中を透過する透過光も必要になる。これらの落射光や透過光は、導光キャップから漏洩する光によって与えられ、各照明光のバランスが適切に保たれると同時に、光を非常に効率よく利用することができる。」(本件公報3欄23行ないし36行)、「本発明の照明用導光装置によれば、先端部中心に小孔を備えた略半球状の透明導光キャップを鏡筒に取付け、・・・上記鏡筒から導光キャップの内部に導いた光を該導光キャップを通して被験体に投射しながら、小孔を通じて被験体を観察するように構成したので、小孔の内周面から被験体表面へ投射される水平光の他に、導光キャップから内側に漏洩して被験体に正面から投射される落射光、及び導光キャップから外側に漏洩して被験体内を透過する透過光を適度に発生させ、これらの水平光、落射光、及び透過光のバランスによって被験体の明瞭な拡大像を確実に得ることができる。」(同6欄14行ないし27行)。

イ さらに、この点は、後記(四)に記載の本件発明の出願経過からも明らかとなる。

ウ 控訴人は、本件明細書中の「低屈折率材」との記載に基づく主張をする。

「低屈折率材」とは、内部を光が透過する材料(透明体)であり、屈折率の低いものを意味するところ、アルミ蒸着膜は、光を透過するものではないから、「低屈折率材」には当たらない。

(2) イ号物件においては、導光部材14a内を透過する光は、あらゆる角度の光が内外のアルミ蒸着膜14c、14dによって「鏡面反射」するものであり、したがって、小孔の内周面から被験体表面へ投射される水平光のほかに、導光キャップから内側に漏洩して被験体に正面から投射される落射光、及び導光キャップから外側に漏洩して被験体内を透過する透過光を適度に発生させるものではないから、本件発明の「全反射を繰返して」には当たらない。

(3) したがって、イ号物件は、構成要件Eを文言上充足しない。

(四) 構成要件Eとの対比ー均等による侵害について

(1) 本件発明は、

ア 先端部中心に小孔を備えた略半球状の透明導光キャップを鏡筒に取付け、該導光キャップを被験体に当接させて、上記鏡筒から導光キャップ内部に導いた光を該導光キャップを通して被験体に投射しながら、小孔を通じて被験体を観察するように構成したので、小孔の内周面から被験体表面へ投射される水平光のほかに、導光キャップから内側に漏洩して被験体に正面から投射される落射光、及び導光キャップから外側に漏洩して被験体内を透過する透過光を適度に発生させ、これらの水平光、落射光、及び透過光のバランスによって被験体の明瞭な拡大像を確実に得ることができる(本件公報6欄15行ないし27行)、

イ 導光キャップをアクリル樹脂等により安価に大量生産することができるため、使い捨ても可能であり、人体を対象とする撮像装置に使用して好適である(6欄28行ないし31行)

との効果を奏するものであるが、これらの効果は、本件発明が導光キャップの内外周が何らの不透明材料で被覆されない構成を採用することにより奏されるものであり、そのような構成は、本件発明に特有の効果を奏するための特徴的部分であり、本件発明の本質的部分にほかならない。

よって、イ号物件は、本件発明とは全く異なる技術思想に基づくものである。

(2) 右(1)に述べたことからすると、本件発明とイ号物件との間には置換可能性がない。

(3) また、控訴人が提出する甲七、八は、直角プリズムに反射膜を施せば境界面が反射鏡になるという当たり前のことが記載されているにすぎず、これによって、本件発明の「全反射」をイ号物件の「鏡面反射」に置換することが当業者にとって容易であると解する余地はない。

(4) 導光キャップがアルミ蒸着膜等の反射面によって被覆されている構成は、本件出願過程において、進歩性欠如を理由とする拒絶理由を回避するため、本件発明の技術的範囲から意識的に除外されたものであり、又は少なくとも外形的にそのように理解されるものである。

すなわち、本件発明の出願に対し、特許庁審査官は、平成三年五月一日付け拒絶理由通知書(乙五)により、第1引用例(旧西独国特許第二六四七七一九号明細書)、第2引用例(特開昭五八ー一〇〇三三号公報)及び第3引用例(特開昭五八ー二八七一二号公報)に基づき、進歩性を欠く旨の拒絶理由を通知した。

右第3引用例(乙六)は、「光源からの光は入射端12aに入射すると同時に拡散面13で拡散され、続いて光学部材12の内部を通過し、反射面14で反射された後射出端12から標本8上へ導かれる」(2頁左下欄11行ないし14行)、「本光学系は、拡散面13で拡散された光が光学部材12の側面12cで反射されて伝達され、鏡胴6の内壁での散乱等が生じないので、光量の損失が少ない。」(3頁左上欄1行ないし4行)というものであり、導光部材内部を透過する光が境界面で鏡面反射されるため、鏡筒の内周面及び外周面から透過する透過光が発生しないものであった。

そこで、控訴人は、本件発明と第3引用例との右相違点を強調するために、平成三年七月二三日付け手続補正書(乙8)において前記(1)記載の発明の作用や効果の記載を追加し、かつ、同日付け意見書(乙7)において、第3引用例に記載のものは、「該光学部材12の内側及び外側は不透明の鏡胴6で殆ど覆われており、わずかに照明光射出端12bが鏡胴6から露出しているだけである。このため、本願のように水平光、落射光、及び透過光をバランス良く生じることはできない。という点で明白に相違しています。」(7頁13行ないし8頁2行)との意見を述べた。

そして、本件発明についての出願は、右の手続補正及び意見の結果、平成三年一一月二八日、出願公告の決定(乙一二)に至ったものである。

よって、右手続補正及び意見は、引用例を回避して特許性を維持するためにされた本件発明の要旨を限定する陳述である。

(5) 控訴人は、特許異議答弁書及び特許異議決定に基づく主張をする。

しかしながら、控訴人は、右の手続補正及び意見の結果出願公告の決定に至ったにもかかわらず、その後された特許異議の申立てにおいて、明細書の記載不備(特許法三六条三項、四項)を指摘されるや、これを奇貨として、水平光、落射光及び透過光は本件発明の必須要件となるものでもない旨の主張に転じたにすぎないものである。

そして、右特許異議に対する特許庁の判断も、本件明細書における「光源からの照明光は、・・・小孔の内周面から被験体表面へ水平光として照射される。被験体の照明は、この水平光を主体として行われる」(本件公報3欄25行ないし30行)のみを引用し、右引用箇所に続く「被験体表面の凹部を照明する落射光や、光が透過するような被験体の場合には被験体の中を透過する透過光も必要になる。これらの落射光や透過光は、導光キャップから漏洩する光によって与えられ、各照明光のバランスが適切に保たれると同時に、光を非常に効率よく利用することができる。」(同3欄30行ないし36行)や、発明の効果の記載(同6欄20行ないし27行)を無視した誤ったものである。

二  控訴人の損害

1  控訴人の主張

被控訴人が平成四年四月ころから平成一〇年五月までの間に製造販売したイ号物件の売上高は合計一八億円である。被控訴人は、その二〇パーセントに当たる三億六〇〇〇万円の利益を上げており、控訴人は、少なくともこれと同額の損害を被ったものと推定される。

よって、控訴人は、被控訴人に対し、右損害金の一部として一〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年六月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被控訴人の主張

控訴人の主張を争う。

第四当裁判所の判断

一  争点一(イ号物件の構造及びこれが本件発明の技術的範囲に属するか)について

1  別紙物件目録と証拠(乙一)及び弁論の全趣旨によると、イ号物件の構造については、次のとおりのものと認められる。

(一) 鏡筒11は、内部に拡大光学系を収容するレンズ収容筒11a及び基端側に撮像素子13を設けたカメラ収容筒11bから構成され、鏡筒11の先端部側には照明ヘッド14が着脱自在に螺着される。

(二) レンズ収容筒11aの内部には、長手方向に多数の光ファイバー15が円環状に配設され、先端側において、レンズ収容筒11aの先端螺着部18の端面18a、18bの間に光ファイバー15の照明ヘッド側端面15aが照明ヘッド14の螺着端面の対向位置に露出している。

(三) 照明ヘッド14は、透明アクリル樹脂により略半球状に形成された導光部材14aを有し、導光部材14aは、内側のアルミ蒸着膜14dにより内側面を、外側のアルミ蒸着膜14cにより外側面をそれぞれ全範囲において被覆され、アルミ蒸着膜14c、14dは分離不能に固着している。外側のアルミ蒸着膜14cの外側は、導光部材14aの基端縁部を超えて鏡筒11の先端側に至るまで、金属カバー(金属キャップ)14bにより覆われ、該金属カバー14bと外側のアルミ蒸着膜14cとが導光部材14aに分離不能に固着されている。

(四) 照明ヘッド14は、金属キャップ14bの螺着面をカメラ収容筒11aの先端螺着部18に螺入することにより鏡筒11に螺着される。照明ヘッド14を鏡筒11に螺着した状態では、内側のアルミ蒸着膜14dの基端側縁部がレンズ収容筒の先端螺着部18の端面18bに達し、間隙を生ずることなく当接している。

(五) 照明ヘッド14の先端中心には、被験体に対して照明光を投射する小孔16が設けられ、該小孔は、導光部材の小孔16a、金属キャップの小孔16b、外側のアルミ蒸着膜の小孔16c、内側のアルミ蒸着膜の小孔16dにより形成されている。

(六) 照明ヘッド14の先端部を被験体に当接させたとき、光ファイバー15を通して鏡筒11から導光部材14aの内部を鏡面反射して小孔部16aに導かれた光が、被験体に投射される。

小孔部16aから投射される光の一部は、被験体の表面に対して水平に投射する光となることなく、被験体に正面から投射される光や、被験体を透過する光となる。

しかし、右(三)のとおり、導光部材14aは、アルミ蒸着膜14c、d及び金属カバー14bにより覆われているため、導光部材14aの内側面及び外側面から外部に光が漏洩することはない。

2  右認定のイ号物件の構造を前提として、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて判断する。

(一) 構成要件Eについての文言侵害の成否

(1) 構成要件Eに文言上該当するかどうかについて判断するに、構成要件Eは、「該導光キャップ内を透過する光が全反射を繰返して該小孔の内周面から被験体の表面に投射可能である」というものであるから、まず、右「全反射」の意味について検討する。

ア 証拠(甲四、五、乙二、一〇)によると、学術用語としての「全反射」は、屈折率が異なる二種類の透明媒質の境界面において、屈折率の大きい媒質から小さい媒質に光が入射するとき、入射角が臨界角より大きいと光が境界面で全部反射される現象を意味する語であり、光ファイバーは右のような意味での全反射を利用したものであることが認められる。

イ また、証拠(甲一)によると、本件明細書の発明の詳細な説明には、〔作用〕の欄に、「被験体の観察を行うに際しては、導光キャップを中央の小孔が被験体の観察部位に合うようにして被験体に当接する。その際、光源からの照明光は、導光キャップ内を全反射により通過して、小孔の内周面から被験体表面へ水平光として投射される。被験体の照明は、この水平光を主体として行われるが、被験体表面の凹部を照明する落射光や、光が透過するような被験体の場合には被験体の中を透過する透過光も必要になる。これらの落射光や透過光は、導光キャップから漏洩する光によって与えられ、各照明光のバランスが適切に保たれると同時に、光を非常に効率よく利用することができる。」(本件公報3欄23行ないし36行)と記載され、〔発明の効果〕の欄に、「以上に詳述した本発明の照明用導光装置によれば、先端部中心に小孔を備えた略半球状の透明導光キャップを鏡筒に取付け、該導光キャップを被験体に当接させて、上記鏡筒から導光キャップ内部に導いた光を該導光キャップを通して被験体に投射しながら、小孔を通じて被験体を観察するように構成したので、小孔の内周面から被験体表面へ投射される水平光の他に、導光キャップから内側に漏洩して被験体に正面から投射される落射光、及び導光キャップから外側に漏洩して被験体内を透過する透過光を適度に発生させ、これらの水平光、落射光、及び透過光のバランスによって被験体の明瞭な拡大像を確実に得ることができる。」(同6欄14行ないし27行)と記載されていることが認められる。

ウ これらの事実によると、構成要件Eにいう「全反射」は、屈折率が異なる二種類の透明媒質の境界面において、屈折率の大きい媒質から小さい媒質に光が入射するとき、入射角が臨界角より大きいと光が境界面で全部反射される現象を意味するものと解釈される。

(2) 控訴人は、「全反射」の意味は、十分な量の光を小孔に導くという本件発明の本質的な技術思想に基づいて解釈すべきであり、そうすると、「全反射」は、照明光が全部反射されることにより小孔に導かれるという意味であることが理解されると主張する。しかし、右(1)のとおり、「全反射」の学術用語としての意味は一義的に明瞭である上、本件明細書の記載も、それに沿うものであるから、控訴人の右主張は採用することができない。

また、控訴人は、本件発明においては十分な量の光を小孔に導ける限り、その過程における反射が「全反射」か否かは本質的問題ではないとか、構成要件Eにおける「全反射」の文言は、導光キャップ中での光の振る舞いを表す作用的な記載により導光キャップの形状を限定するように機能していると主張するが、特許発明の技術的範囲は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法七〇条一項)ものであるから、本件明細書の特許請求の範囲の記載を無視するような控訴人主張の右主張を採用することはできない。

さらに、控訴人は、低屈折率材のコーティングについての記載(本件公報4欄35行、36行)等の記載を指摘するが、それらの記載も、「全反射」についての右解釈を左右するものではない。

(3) 前記認定のイ号物件の構造によると、イ号物件においては、導光部材14aの外側面及び内側面の全範囲が外側アルミ蒸着膜14c及び内側アルミ蒸着膜14dにより被覆され、鏡面を形成しているため、光ファイバーを通して鏡筒から導光部材14aの内部に導かれ、導光部材14a内を透過する光は右鏡面による鏡面反射を繰り返して小孔16aまで達し、小孔16aの内周面から被験体に投射されるものであることが認められる。右の鏡面反射は、構成要件Eにいう「全反射」に当たらないことは明らかである。

(4) 以上のとおり、イ号物件は、構成要件Eを文言上充足するものとは認められない。

(二) 構成要件Eについての均等による侵害の成否

(1) 控訴人は、イ号物件の構成要素のうち、導光部材14aの内側面及び外側面をアルミ蒸着膜により被覆され、さらに、外側面の外側を金属カバーにより覆われた点は、構成要件Eを均等により充足する旨主張する。

しかしながら、控訴人は、本件発明の出願過程において、本件発明の特許請求の範囲にいう「全反射」が学術用語としての「全反射」を意味し、鏡面反射によるものを含まないことを明らかにしたものであり、イ号物件のように導光部材がアルミ蒸着膜や金属カバーにより覆われており、全反射をしないものが均等により構成要件Eを充足すると主張することはできないものである。

(2) すなわち、証拠(乙四ないし九、一二)によれば、次の事実が認められる。

ア 本件発明の出願当初の特許請求の範囲は、「内部に拡大用光学系を収容した鏡筒の基端側に撮像素子を設け、鏡筒の先端の導光キャップを被験体表面に当接して、鏡筒側からその導光キャップを通して照明光を被験体に投射するようにした拡大撮像装置において、上記導光キャップを、透明材料により略半球状に形成し、中心に被験体に対して内周面から照明光を照射する小孔を開設して、該導光キャップ内を透過する光が全反射を繰返して、小孔の内周面から被験体の表面に投射可能とし、この導光キャップを鏡筒に着脱可能に取り付けた、ことを特徴とする拡大撮像装置における照明用導光装置。」というものであり、発明の詳細な説明における[問題点を解決するための手段]の欄には、「上記課題を解決するため、本発明の照明用導光装置は、内部に拡大用光学系を収容した鏡筒の基端側に撮像素子を設け、鏡筒の先端の導光キャップを被験体表面に当接して、鏡筒側からその導光キャップを通して照明光を被験体に投射するようにした拡大撮像装置において、上記導光キャップを、透明材料により略半球状に形成し、中心に被験体に対して内周面から照明光を照射する小孔を開設して、該導光キャップ内を透過する光が全反射を繰返して、小孔の内周面から被験体の表面に投射可能とし、この導光キャップを鏡筒に着脱可能に取付けることにより構成される。」(乙四4頁8行ないし5頁1行)と記載され、[発明の効果]の欄に、「以上に詳述した本発明の照明用導光装置によれば、次のような効果を期待することができる。

(1) 導光キャップにより極めて効率のよい照明を行うことができる。

(2) 導光キャップが略半球状であるため、被験体の凹部等を含めて、極めて広範囲の各種被験体の拡大表示に利用することができる。

(3) 導光キャップが透明材料で形成されて略半球状であるため、その中央の小孔を容易に被験体の観察位置に合わせることができる。

(4) 導光キャップはアクリル樹脂等により略半球状に形成したに過ぎないものであるから、大量生産により使い捨てにすることができ、人体を対象とする場合等に有利である。」(同11頁19行ないし12頁12行)と記載されていた。

イ 本件発明の出願につき、特許庁審査官は、平成三年五月一日付け拒絶理由通知書により、第1引用例(旧西独国特許第二六四七七一九号明細書)、第2引用例(特開昭五八ー一〇〇三三号公報)及び第3引用例(特開昭五八ー二八七一二号公報)に基づき、進歩性を欠く旨の拒絶理由を通知した。

右第3引用例(特開昭五八ー二八七一二号)は、「光源からの光は入射端12aに入射すると同時に拡散面13で拡散され、続いて光学部材12の内部を通過し、反射面14で反射された後射出端12から標本8上へ導かれる。」(乙六2頁左下欄11行ないし14行)、「本光学系は、拡散面13で拡散された光が光学部材12の側面12cで反射されて伝達され、鏡胴6の内壁での散乱等が生じないので、光量の損失が少ない。」(同3頁左上欄1行ないし4行)というものであり、導光部材内部を透過する光が境界面で鏡面反射されるため、鏡筒の内側面及び外側面から透過する透過光が発生しないものである。

ウ これに対し、控訴人は、平成三年七月二三日付け意見書(乙七)において、「第3引用例・・・に記載のものは、先端に窓を備えた不透明の鏡胴6の内部に光学部材12を内蔵し、該光学部材12先端の照明光射出端12bから窓を通じて射出される光によって標本面を照明するようにしたもので、本願とは、

a 鏡胴6又は光学部材12の先端を標本面に直接押し付けて該標本面を照明する方式のものではない。

b 光学部材12の形状は単なる円筒状であって、半球状をなすものではない。

しかも、該光学部材12の内側及び外側は不透明の鏡胴6で殆ど覆われており、わずかに照明光射出端12bが鏡胴6から露出しているだけである。このため、本願のように水平光、落射光、及び透過光をバランス良く生じることはできない。

という点で明白に相違しています。」(7頁3行ないし8頁2行)旨主張した。

この意見書によれば、控訴人は、本件発明が第1ないし第3引用例に基づき容易に推考することができるものではないことの理由の一つとして、第3引用例においては、本件発明の導光キャップに相当する光学部材12の内側面及び外側面が大部分不透明の鏡筒で覆われているのに対し、本件発明においては、導光キャップの内側面及び外側面が覆われていないことを指摘し、その違いにより、本件発明においては、水平光、落射光、及び透過光がバランス良く生じるのに対し、第3引用例においては、バランス良く水平光、落射光、及び透過光を得ることができないことを指摘しているものである。

そして、控訴人は、同日付け手続補正書(乙八)を提出し、本件発明の特許請求の範囲を本件公報の該当欄記載のとおりに補正するとともに、発明の詳細な説明の〔作用〕の欄及び〔発明の効果〕の欄を前記(一)(1)イに認定の記載に改める等の補正をした。

エ 右意見及び手続補正の結果、特許庁審査官は、平成三年一一月二八日、本件発明につき、出願公告の決定をした。

オ その後、【D】は本件発明につき特許異議の申立てをしたが、特許庁審査官は、平成五年六月一〇日付け特許異議の決定(甲三)において、「本願は、特許請求の範囲には、その発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、また、発明の詳細な説明に当業者が容易に実施できる程度に本願発明が記載されていないことから、本願は特許法第36条第3項および第4項に規定する要件を満たしていない。」との異議理由に対し、「『水平光』、『落射光』および『透過光』の三種類の光をバランスよく利用することが必須であるとも、これら『水平光』『落射光』『透過光』の発生が、特許請求の範囲に記載されるべきであるとも、認められない。」と判断した。

(3) 控訴人は、本件発明が「全反射」のものに限られず、「鏡面反射」のものも含むと考えていたのであれば、そのことを特許請求の範囲の記載又は発明の詳細な説明の記載によって明確にすることができたにもかかわらず、右認定の事実によると、控訴人は、そのような特許請求の範囲等の記載をせず、かえって、第3引用例をその引用例の一つに含む拒絶理由通知を受けたため第3引用例との相違点を明らかにする客観的必要性があった状況下において、右(2)ウに認定のとおり、意見書において、本件発明においては、導光キャップの内側面及び外側面が覆われていないのに対し、第3引用例においては、導光キャップに相当する部材の内側面及び外側面が不透明の鏡筒で覆われていることを指摘し、かつ、その意見書に沿う手続補正を行っているものであるから、本訴において、右限定に反して、イ号物件のように導光部材がアルミ蒸着膜や金属カバーにより覆われており、鏡面反射をするものが均等により構成要件Eを充足すると主張することはできないものといわなければならない。

(4) 控訴人は、特許異議答弁書及び特許異議決定に基づく主張をする。

確かに、特許庁審査官は、前記(2)オに認定のとおりの特許異議決定における説示を行っていることが認められるが、この説示は、前記(2)オに認定のとおり、進歩性欠如ではなく、特許法三六条違反を主張する異議理由に対する判断の中で行われたものであり、イ号物件のように導光キャップの内側面及び外側面が被覆されたものの本件発明の技術的範囲への属否が具体的に問題となった事例における判断ではない上、控訴人は、前記のとおりの内容の手続補正を行っているものであるから、特許異議手続における控訴人の主張等を含む本件発明の出願経過全体を考慮しても、控訴人は、自ら行った右(3)のような限定に反する主張をすることはできないものというべきである。

(5) よって、イ号物件は、均等により構成要件Eを充足するものとも、実質同一であるとも認められない。

(三) まとめ

以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。

二  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がなく、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとする。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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