東京高等裁判所 平成11年(ネ)6158号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文一と同旨
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、被控訴人が、控訴人に対し、ゴルフ場の二年以上のオープン遅延及びゴルフ場の附帯施設の未整備等の債務不履行があることを理由に控訴人との間のゴルフクラブ入会契約を解除したとして、入会金及び預託金の合計二五〇七万五〇〇〇円(消費税を含む。)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年一月二一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めたものであり、右ゴルフクラブ入会契約解除の効力が争われた事案である。
二 審理の経過及び各審級における判断の概要
本件の第一審判決である原判決は、控訴人にはゴルフ場のオープン遅延の点に債務不履行があるとしてゴルフクラブ入会契約の解除の効力を認め、被控訴人の本件請求をすべて認容したため、控訴人が控訴を提起した。これに対し、当庁平成八年(ネ)第三一八〇号事件の第一次控訴審判決は、ゴルフ場は約二年遅延したがオープンしており、この程度の遅延は債務不履行とはいえない、附帯施設も、クラブハウスやレストラン等ゴルフプレーを行うに必要不可欠な施設は完成しており、ゴルフプレーを行うことと直接の関係のない高級ホテルの建設は契約の要素たる債務とはいえず、その建設の遅延をもって契約を解除することは許されないとして、原判決を取り消して被控訴人の請求を棄却したため、被控訴人が上告した。これに対し、最高裁判所平成一〇年(オ)第七一号事件の判決は、高級ホテルの建設は会員募集用のパンフレットにおいて強調されていたというのであり、そうすると、ゴルフクラブ入会契約締結に当たり被控訴人が右パンフレットの記載を重視した可能性は十分にある等として、高級ホテルの建設が契約上の債務の重要な部分を構成するか否かなどについて更に審理を尽くさせる必要があり、第一次控訴審判決には審理不尽の違法があるとして、第一次控訴審判決を破棄し、本件を当庁に差し戻した。本判決は、右差戻し後の本件について、控訴人にはゴルフ場のオープン遅延及びその附帯施設の未整備の点において債務不履行があり、右契約解除の効力は認められるべきであると判断し、控訴人の本件控訴を棄却するものである。
三 争いのない事実
1 控訴人は、会員制ゴルフ場の経営を目的とする株式会社である。
2 被控訴人は、控訴人との間で、平成二年九月二八日、控訴人が千葉県夷隅郡御宿町に建設することを予定して会員募集を開始した「御宿ゴルフ場」(以下「本件ゴルフ場」という。)を利用する者の組織である「御宿ゴルフ倶楽部」(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)の個人正会員となる入会契約(以下「本件入会契約」という。)を締結し、同日、控訴人に対し、入会金二五〇万円、預託金二二五〇万円及び消費税七万五〇〇〇円合計二五〇七万五〇〇〇円を支払った。
3 本件入会契約締結の際、被控訴人が入手した控訴人の会員募集用パンフレット(甲三四。以下「本件パンフレット」という。)には、本件ゴルフ場の完成時期として平成四年一一月、本件ゴルフ場の附帯施設として欧米風リゾートホテル、室内外プール及びアスレチックジム等を建設する旨が記載されていた。また、右契約締結当時における本件ゴルフ倶楽部の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(法人及び個人)及び平日会員(法人及び個人)の四種類であった。
4 控訴人は、その後の平成四年五月、本件ゴルフ倶楽部の会員の種類として、特別正会員(法人及び個人。サブ登録者一名を登録できるものとされている。)、新平日会員、家族会員及びソシアル会員を新設した。
5 控訴人は、平成七年一二月、正会員権を次のとおり二分割することを決定した。
(一) 既存の会員権をA券とB券の二つとし、A券とB券の表示する預託金額を各一一二五万円とする。
(二) A券は、従前の会員の名義とし、B券については、平成八年二月一日から二年間は無記名扱いとするが、第三者への名義書換もできる。
(三) 分割を希望しない正会員は、そのままの地位にいることができる。
6 被控訴人は、控訴人に対し、平成七年一月二〇日送達の本件訴状をもって、債務不履行を理由として、本件入会契約を解除する旨の意思表示(以下「本件解除の意思表示」という。)をした。
四 争点
1 本件ゴルフ場のオープン遅延
(被控訴人の主張)
(一) 本件ゴルフ場のコース完成予定は平成四年一一月であり、控訴人は、被控訴人に対し、本件入会契約において、右コース完成予定期日ころまでに本件ゴルフ場をオープンすることを約したが、その後四回以上にわたって、一方的にオープン時期を延期し、平成六年一一月には、平成七年五月にオープンするとの通知をしてきたものであり、控訴人には約定の時期に本件ゴルフ場をオープンしなかった債務不履行がある。
(二) 控訴人には、本件ゴルフ場を開設し会員を募集しようとする以上、当然に景気の変動を予想し、それに対応して資金手当をする義務があるから、景気変動によって資金不足になった場合であっても、資金不足によるオープン遅延は、控訴人の責めに帰すべき事由によるものといえる。
(三) 控訴人から本件ゴルフ場の施工を請け負った佐藤工業株式会社(以下「佐藤工業」という。)が工事を中断したのは、控訴人の資金不足により、同社に対して控訴人が再三計画の変更や工事の中断を申し入れたり、請負代金の支払を怠ったことによるものであるから、オープン遅延は、控訴人の責めに帰すべき事由によるものである。
(四) そもそも、控訴人には資金不足はなく、仮に資金不足があったとすれば、控訴人が会員権販売等により調達した資金を他に流用したためであるとしか考えられない。
(控訴人の主張)
(一) 控訴人が被控訴人に対して明示した本件ゴルフ場のオープン予定時期は平成五年春である。本件パンフレットに記載されている平成四年一一月というのは、コースの完成予定時期であって、オープン予定時期ではない。
そして、本件ゴルフ場がオープンしたのは、平成七年四月二六日であるから、オープン時期の遅延は、オープン予定時期から二年以内であり、ゴルフ場の着工からオープンまでには当初予想できない様々な困難があり得ることを考慮すると、この程度の遅延は、社会通念上相当として許容される期間内の遅延であって、債務不履行には当たらない。
(二) 本件ゴルフ場のオープン遅延は、バブル経済の崩壊による資金不足と控訴人が本件ゴルフ場の建設工事を請け負わせた佐藤工業の過失によるものであって、控訴人の責めに帰すべき事由によるものではないし、控訴人に佐藤工業に対する選任監督につき過失はなかった。
控訴人は、佐藤工業との間で本件ゴルフ場を平成五年一月三一日には竣工するとの約束で、クラブハウス建設工事についての請負契約を締結し、支払条件は出来高払とし、控訴人がその出来高を確認した後に請負代金を支払うことを約した。しかし、控訴人が佐藤工業から出来高に基づくものとしてされた請負代金の請求について検査をしたところ、出来高として請求された金額に見合う内容の工事がされていなかったため、控訴人は、佐藤工業に対する支払をしなかった。そのため、佐藤工業は、平成四年九月からクラブハウス建設工事を中断した。したがって、佐藤工業が一方的に工事を中断したため、竣工が遅れオープン遅延が生じたのであるから、オープン遅延は、佐藤工業の責めに帰すべき事由によるものである。
(三) 控訴人が資金不足に陥ったのは、当初の建設資金を二三六億円と見積もった平成元年春以降、土地取得代金の値上がり、借地予定者からの買上げ要請、県道工事、進入路工事、町道の補修・拡幅等の見積もり外の支出、県からの植栽増加の指導、排水管の入れ直し、業者の変更に伴う費用の増加、JRや町及び地元への寄付金並びにオープン遅延に基づく約二年間の建設事務所経費、人件費、維持管理費、金利等、当初の見積もりにない費用が発生し、合計約三〇〇億円の費用が必要となったためである。
2 附帯施設の未整備
(被控訴人の主張)
(一) 控訴人は、被控訴人に対し、本件入会契約締結の際、平成四年一一月のオープン時期には、欧米風高級リゾートホテル(客室四八室、地上四階・地下一階建て)、室内プール、室外プール、アスレチックジム等の附帯施設(以下「本件附帯施設」という。)を設置し、これを被控訴人に使用させることを約した。
(二) 本件ゴルフ場は、東京から遠隔の地にあり、入会者はホテルに宿泊してゴルフプレーを楽しむばかりでなく、長期滞在でも飽きることのないリゾートライフを楽しむことができる立派な附帯施設を有するとして勧誘され、被控訴人もこれを目的として、本件入会契約を締結したのである。したがって、本件附帯施設を建設してこれを被控訴人に利用させる控訴人の義務は、本件入会契約の要素たる義務というべきである。ところが、控訴人は本件附帯施設を建設しておらず、建設できるめどもない。
(三) 控訴人が完成したと主張する宿泊設備の整備の内容は、クラブハウス内にある一一室をいうにすぎず、平成八年四月、五月の連休や八月中旬の夏期シーズンには、会員は満足に宿泊予約を取ることができなかった。
(四) 仮に右の履行遅滞を理由とする本件解除の意思表示の効力が認められないとしても、控訴人は、平成八年一二月四日現在いまだ本件附帯施設を完成していない。そこで、被控訴人は、右同日、控訴人に対し、予備的に、本件入会契約を解除する旨の意思表示をした。
(控訴人の主張)
(一) 本件附帯施設は、ゴルフを行うために必要不可欠な施設ではなく、本件入会契約の内容になっていない。
(二) 仮に本件附帯施設の建設が本件入会契約の内容に含まれるとしても、本件入会契約の目的は、ゴルフを通じて会員相互の親睦を図り、各自の技能の向上を図ることにあるのであるから、本件附帯施設の建設は、本件入会契約におけるいわば付随的義務にすぎないところ、このような付随的義務を怠ったにすぎない本件において、これを理由に本件入会契約を解除することは許されない。
(三) また、本件附帯施設の建設が本件入会契約の内容に含まれるとしても、会員の施設利用権の本質的部分の侵害とならない範囲で、施設の内容や完成時期をある程度変更することは許されるところ、控訴人はクラブハウスと客室は完成させているのであるから、必要十分な施設は完成したというべきであり、また、今後予定されている第二期工事によって、将来はホテル等も完成する見込みであるから、債務不履行とはならない。
3 新たな種類の会員資格の新設・募集
(被控訴人の主張)
(一) 控訴人は、本件入会契約締結の際、被控訴人に対し、本件ゴルフ倶楽部の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(法人及び個人)及び平日会員(法人及び個人)の四種類とする旨を約した。これ以外の新たな会員資格の創設は、既入会会員の基本的権利に影響を及ぼす措置であるから、控訴人は、被控訴人の同意なくして新たな会員資格の創設を一方的に行うことはできないというべきである。
(二) しかるに、控訴人は、新たに特別正会員(法人及び個人)という会員資格を創設し、新規申込みを多数受理し、かつ、既存の正会員からの変更申込みを受理した。この特別正会員という会員資格は、会員になればサブ登録者一名を登録することができるというもので、サブ登録者は、自己の特別正会員がプレーをする日と同じ日にプレーをすることはできないものの、特別正会員と同一の条件でプレーの予約をし、ホテルやクラブハウスに宿泊し、他の設備も利用することができ、料金は特別正会員と同一である。
その結果、実質的には、大幅な会員の増加となり、本件ゴルフ場の格式を低下させ、会員権の価値を著しく下落させることとなった。
(三) さらに、控訴人は、週日会員、土曜日にプレーをすることができる新平日会員、家族会員及びソシアル会員という新規会員資格を創設し、これらの募集を開始して申込みを受理した。その結果、正会員の土曜日の利用に支障を来すことが予想される。
(控訴人の主張)
(一) 被控訴人は、本件入会契約締結の際、会則を承認しているところ、控訴人が行った新たな会員資格の創設に関する会則の変更は、被控訴人の既得の権利を制限したり剥奪したりするものではなく、また、被控訴人に新たな義務を課したり、これを加重するものでもなく、被控訴人の本件ゴルフ場の施設利用に支障が生じているわけではなく、被控訴人に不利となっているわけではないから、右会則の変更は有効であり、控訴人に義務違反はない。
(1) 本件ゴルフ場は、一日当たり一六〇名、四〇組が適正な利用客数であるが、適正会員数を超えて会員を募集しているわけではなく、また、新たな会員資格を創設した後も、オープン後現在まで右適正数を超えた利用はないから、被控訴人の施設利用権が現実に侵害されているわけではない。
(2) 週日会員は、本件入会契約締結時の平日会員の名称を変更しただけにすぎず、新たな会員資格を創設したものではない。
(3) 土曜日にプレーすることができる新平日会員、家族会員及びソシアル会員の募集はしていない。
(4) 特別正会員は、正会員としての施設利用権を有するほか、当該正会員の他にサブ登録者を一名記名式で登録することができる会員資格であるが、このサブ登録者は、特別正会員と同日に施設を利用しようとするときは、ビジターとして利用することとなり、特別正会員が施設を利用しない営業日に限って、正会員と同等の資格で施設を利用することができるにすぎないものであって、しかも、本件ゴルフ倶楽部主催の諸行事等への参加等については正会員と同等の扱いを受けるものではないから、特別正会員が実質的に二口の正会員資格を取得したことにはならず、また、サブ登録者が被控訴人の権利を侵害することもない。
実際、控訴人は、特別正会員の新規募集及び正会員から特別正会員への変更申込みを平成四年五月一日から同月三一日までの一か月に限り行ったところ、新規の特別正会員の入会者はなく、正会員から特別正会員への変更申込みが四八名あっただけであり、このサブ登録者四八名という人数は、最終正会員募集数一二〇〇人のわずか四パーセントにすぎなかった。
(二) また、会員資格の経済的価値は、本件入会契約の内容となっていない。
(1) 仮に被控訴人の会員資格の経済的価値を下落させないことが控訴人の義務に含まれるとしても、控訴人は、被控訴人に対し、新規募集の特別正会員申込みの条件よりはるかに有利な条件で、正会員から特別正会員への変更申込みの機会を与えており、この機会を利用しなかった以上は、被控訴人の会員資格の経済的価値が仮に下落したとしても、控訴人の責任ではない。
(2) 土曜日にプレーをすることができる新平日会員及び週日会員の募集価格は、ゴルフ会員権相場の大幅な下落を考慮し、需要が見込める価格として設定したものであり、不公平な価格による募集ではなく、被控訴人の会員資格の経済的価値を下落させるものではない。
4 正会員を二分割した措置
(被控訴人の主張)
(一) 控訴人は、本件入会契約において正会員の募集員数を一二〇〇名とすると約したが、平成七年一二月、正会員を次のとおり二分割することとした。
(1) 二分割によって生じる会員権をA券とB券とし、特別縁故正会員のA券及びB券の表示する預託金額はそれぞれ一一二五万円とし、両券とも新証券を発行する。
(2) A券のパス券は、従前からの会員の名義とし、B券のパス券は、平成八年二月一日から二年間無記名扱いとする。無記名扱いのB券のパス券持参者は、正会員として取り扱われる。B券についても、A券の会員の希望により、第三者への名義書換を行う。
(3) 分割を希望しない正会員は、そのままの地位にいることができる。
(二) しかし、右二分割によって、二種類の正会員ができるばかりでなく、無記名会員券は誰でも自由に使用できるため、本件ゴルフ場のパブリック化を招き、利用者が増加することが予想され、無記名会員券の存在は、本件ゴルフ場の格式を著しく低下させるから、本件入会契約上の義務違反となる。
(三) さらに、本件入会契約では正会員の最終員数が一二〇〇名以内とされていたが、二分割実行後の最終募集員数は一八〇〇名とされているので、重大な義務違反となる。
(控訴人の主張)
(一) 被控訴人の主張する二分割が債務不履行となるかどうかは、会員の施設利用権の具体的侵害の有無を形式的にではなく、実質的に判断して決するべきである。
(二) 本件ゴルフ場は、一八ホールを有しており、同規模のゴルフ場の適正正会員数は一八〇〇名であるから、二分割実行に伴い正会員数が一八〇〇名になったとしても、右適正正会員数内である。控訴人の現在の正会員数は五〇七名であるから、二分割によって正会員が二倍になっても、正会員数は一〇一四名にしかならない。
したがって、被控訴人の施設利用権には具体的な侵害が発生していない。
(三) また、ゴルフ場の格式の維持及び会員権の価格の維持が控訴人の義務となるものではない。そもそも、無記名会員の創設が直ちにゴルフ場の格式の著しい低下を招くともいえない上、控訴人は無記名会員の存続期間を原則二年と区切っており、一時的なものにすぎない。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 本件の経緯
前記争いのない事実並びに証拠(甲五ないし三一、三四、三八、三九、四一、乙一ないし一四、一六の1、一七、一八、一九の1、二〇ないし二三、三一、三二、三九)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 控訴人は、昭和六一年一二月ころから本件ゴルフ場の建設計画を構想し、平成元年五月頃には具体的な計画を策定した。右計画では、総合監修は伊藤忠商事株式会社(同時に募集の援助も担当)、コース監修は尾崎将司、インテリアデザインはバリーデザインアソシエート(ロスアンジェルス)、設計は株式会社イクス・アーク都市計画、工事施工は佐藤工業、募集委託は三井不動産販売株式会社がそれぞれ担当することとされていた。その建設費用の見積もりは、土地取得費約三五億円、コースに関する工事や植栽費約七〇億円、クラブハウス及び附帯施設工事費、諸設備費約九〇億円、販売費約二〇億円、広告費約五億円、人件費約四億円、その他約一二億円の合計約二三六億円であった。資金調達については、自己資金が約四〇億円、借入金が三〇億円で、残り一六六億円は会員権販売代金を予定していた。平成二年当時、コース工事については、同年六月一日までに工事着工に必要な許認可を取得し、平成四年一一月に完成する予定であったが、クラブハウスその他の附帯施設工事については、いまだ施工業者が決定していなかった。
控訴人は、平成二年八月から、まず、募集金額二五〇〇万円の特別縁故正会員三〇〇名の、同年一〇月一日から募集金額三三〇〇万円の縁故正会員五〇〇名の各募集を開始した。
2 本件ゴルフ場は、都心から約一五〇キロメートルのところにあり、車で約二時間を要する。被控訴人は、三井不動産販売株式会社の担当者から入会の勧誘を受け、また、勧誘の過程で本件パンフレット(甲三四。控訴人作成)、募集要項(甲五。三井不動産販売株式会社作成。以下「本件募集要項」という。)、概要(甲七。同前。以下「本件概要書」という。)、会則(甲八。同前。以下「本件会則」という。)等の交付を受けた。そして、被控訴人は、募集担当者の説明及び後記3及び4記載のような本件概要書や本件パンフレット等の記載内容を検討し、その説明及び記載の内容を納得し、ゴルフプレーのみならず、本件ゴルフ場の立地条件や設備内容から、宿泊及びリゾート施設としても利用できることも期待して特別縁故正会員の募集に応じることとし、平成二年九月二八日、本件入会契約を締結し、控訴人に対し、入会金二五〇万円、預託金二二五〇万円及び消費税七万五〇〇〇円合計二五〇七万五〇〇〇円を支払った。
3 本件概要書(甲七)及び本件パンフレット(甲三四)の「コース概要」欄には、コースは一八ホール、パー七二、六七六三ヤード、工事着工は平成二年六月、完成予定は平成四年一一月予定と記載され、本件パンフレットの「クラブハウス及びホテル概要」欄には施工時期未定と記載されていたが、右各文書及びその他にいわゆるオープン予定期日の記載はない。右各文書にクラブハウス及びホテルの施工時期を未定と記載し、オープン予定期日を記載せず、コース完成予定期日だけを記載したのは、本件入会契約締結当時、クラブハウス及びホテルの施工業者が未定で、その完成時期を明確にできなかったためであった。
しかし、本件入会契約締結後控訴人が作成した御宿ゴルフ倶楽部縁故募集概要書(甲一〇。以下「本件縁故募集概要書」という。)には、その後、クラブハウス及びホテルの完成予定時期が決まったため、コースの芝の活着期間をも考慮の上で、オープン時期が「平成五年春(予定)」と記載された。
4 本件パンフレット(甲三四)及び本件概要書(甲七)の「コース概要」欄には、附帯設備として、練習場(夜間照明付)、コース売店、レストハウス及び管理棟が記載されているほか、「クラブハウス及びホテル概要」欄には、建築規模は、地上四階・地下一階、鉄筋コンクリート造・一部鉄骨鉄筋コンクリート造、建築面積約四一九〇平方メートル、延床面積約一万七八三〇平方メートルと、附帯施設は、ホテルとして、「客室、レストラン(和食・洋食各一)、メインバー、コーヒーショップ、メンバーズサロン、コンベンションホール、室内外プール、アスレチックジム、マージャンルーム」と記載されていた。そして、本件パンフレットには、クラブハウス及びホテルの平面図、フリーハンドで描かれたクラブハウス、ホテル及びその周囲の外観図並びに屋内のロビー、客室等の施設のイラストがカラーで載せられている上、本件ゴルフ場がリゾート地として知られる千葉県夷隅部御宿町に位置し、ゴルフに出ない時間も優雅にリゾートライフを楽しむことができるとし、「南欧の高級リゾートを思わせる瀟洒な外観とゆったりした客室。本物のクラブライフを知るゴルファーのための最高のホスピタリテイーがここにある。」との見出しの下に、建物はクラブハウスとホテルに分かれていること、ホテルは、一階から四階まで自然光の降り注ぐ吹き抜けがあり、客室数四八、客室はすべて一八坪以上のロイヤルツインルームの高級ホテルであること、「いままでの日本のゴルフリゾートでは体験できなかったわがままな休日をお楽しみいただけること」等がその特徴であることが強調されている。また、本件会則(甲八)「六条(会員の権利)」には、会員の権利として、名誉会員、特別会員及び正会員は、ゴルフコース及び附帯施設を利用することができる旨定められている。なお、本件会則では、本件ゴルフ倶楽部の会員の種類は、名誉会員、特別会員、正会員(法人及び個人)及び平日会員(法人及び個人)の四種類であること(四条)が明記されており、本件募集要項(甲五)及び本件縁故募集概要書(甲一〇)とも、控訴人の最終正会員数を一二〇〇名又はそれ以内と記載していた。
5 控訴人は、クラブハウス及びその他の附帯施設について、平成三年四月二〇日に建築確認を取得し、同年六月、これについても、佐藤工業との間で、請負代金額は約六九億円とし、控訴人の検査を経た上で出来高部分を支払う、完成時期は平成五年一月三一日として工事請負仮契約を締結し、佐藤工業は、平成三年七月に右工事に着手した。
6 ところで、本件ゴルフ場のコース工事は、当初の予定よりも手間取り、平成三年に入ると工事に遅れが出始めた。控訴人は、平成四年一月ころ、建設計画と資金調達を全面的に見直し、できるだけ早くゴルフ場をオープンさせることを重要視し、クラブハウスその他の附帯施設の工事を第一期と第二期に分け、第一期においてはオープンに必要な施設を建設し、必要資金調達後に残りの第二期の工事を行うこととした。そして、これに伴い設計変更をすることになったが、設計会社の力量不足により、設計作業が遅れ、これに伴い設計変更に伴う許認可ないし建築確認の取得も遅れることとなった。ゴルフ場のオープンのためには、従業員の教育や什器備品の整備を行う期間が必要であるほか、建物の竣工検査、公衆浴場・レストラン関係の許認可を受ける必要があることなどから、オープン時期を平成五年春とすると、遅くともその半年前の平成四年秋にはクラブハウスその他の附帯施設が完成していなければならないのに、設計会社がクラブハウスの建築確認(右設計変更後のもの)を取得したのは、同年九月九日に至ってからであった。
7 そのうえ、当時の経済情勢の変動、いわゆるバブル経済の崩壊等により、控訴人の資金計画についても大幅な狂いが生じた。すなわち、二五〇〇万円で募集した当初の特別縁故正会員は、目論見どおり三〇〇名を募集し、約七五億円の資金調達をすることができたが、三三〇〇万円で募集したその後の縁故会員は、約二〇〇名しか募集することができず、約六〇億円しか資金調達ができなかった。また、取引銀行から一五〇億円の融資を受けることを予定していたが、いわゆる総量規制により一三億円の融資しか受けられず、結果的に予定していたものよりも約三四七億円少ない資金調達しかできなかった。
8 また、ゴルフ会員権相場が暴落する中で、資金調達を図るため、控訴人は、平成四年五月、本件会則二四条の控訴人の取締役会の決議により会則を改廃することができる旨の定めに基づき、名誉会員、特別会員、正会員のほか、特別正会員(法人及び個人)、土曜日にプレーすることができる新平日会員、週日会員、家族会員及びソシアル会員という新たな会員資格を創設した。右のうち、特別正会員は、正会員としての施設利用権を有するほか、当該正会員のほかにサブ登録者を一名記名式で登録することができる会員資格であり、このサブ登録者は、特別正会員が施設を利用しない営業日に限って、正会員の資格と同等の資格で施設を利用することができるが、本件ゴルフ倶楽部主催の諸行事への参加等については正会員と同等の扱いを受けるものではない。また、週日会員は、本件入会契約締結当時の平日会員の名称をこれに変更しただけのものであり、新たな会員資格を創設したものではなく、家族会員及びソシァル会員の募集は行われていない。控訴人は、右会則の改正後、新平日会員を募集したほか、特別正会員の新規募集及び正会員から特別正会員への変更の申込みを同月一日から同月三一日までの一か月に限り行ったところ、新規の特別正会員の入会者はなく、正会員から特別正会員への変更申込みが四八名あったにとどまった。
9 控訴人は、平成四年五月ころ、クラブハウスその他の附帯施設の工事の前記6の計画変更を佐藤工業に申し出た。このため、佐藤工業は、躯体コンクリート打設完了後、同年八月三一日に躯体工事についての代金の清算をした上で、同年九月初めには工事を中断した。控訴人は、平成五年一二月一六日、佐藤工業との間で、見直し計画に基づき、クラブハウス新築工事(仕上げ工事)について、その完成時期を平成六年四月三一日、請負代金額は工事中断期間中の佐藤工業の経費を含め約二〇億円、支払方法はいずれも現金で平成五年一二月二六日に四億円、平成六年一月二〇日に三億円のほか三回の分割により支払うとの約定で仮契約(乙一二)を締結した。佐藤工業は、同月中に工事を再開したが、控訴人は第一回の分割金四億円は支払ったものの、同月二〇日に支払うべき三億円の支払をすることができず、同年三月一五日には、販売している本件ゴルフ会員権を佐藤工業に買い受けてもらい、その販売代金と工事代金とを相殺してほしい旨の要望を行ったが、佐藤工業からこれを拒絶されたため、佐藤工業に対し、右工事から手を引くようにとの申入れを行った。そのため、佐藤工業は、控訴人に対し、工事精算書を提出し、右工事から撤退する旨を伝え、同年四月一日から工事を止めた。なお、控訴人は、同年三月二八日、佐藤工業に対し、遅延していた三億円を支払った。控訴人は、その後の同年四月一三日、佐藤工業に対し、本契約をするので工事を再開するようにと要望し、佐藤工業はこれを承諾し、工事費用として中断中の経費を含む二二億三四一七万円を計上し、控訴人もこれを承諾した。ところが、同月一八日、控訴人から、再度計画変更の申出がされ、同年五月末日に控訴人と佐藤工業は諸条件について協議を行ったものの、同年六月二〇日、控訴人から、再度撤退の要請があり、佐藤工業は、クラブハウス新築工事から撤退した。控訴人は、同年七月二二日到達の内容証明郵便により、佐藤工業に対し、請負契約解除の意思表示をした。
10 控訴人は、平成六年八月四日、吉原組と仮契約を締結し、吉原組は同年一〇月から工事を開始し、ようやく、平成七年四月二六日、本件ゴルフ場がオープンした。
ところで、クラブハウスその他の附帯施設については、第一期分として、クラブハウスが建設され、客室、メインバー、メンバーズサロン及びコンベンションホールは設けられたが、客室は四八室の予定が一一室だけで宿泊人員も最大四二名に限られ、和洋各一つのレストランの予定が和洋を合わせたもの一つだけであり、しかも、その出来上がり状態は、当初予定されていたものよりも、そのグレードが劣るものであり、コーヒーショップ、マージャンルームはなく、また、第二期分とされたホテルや室内外プール、アスレチックジムその他の附帯施設については、基礎部分が施工されているものもあるが、工事が施工されておらず、資金調達のめどすらいまだ立っていない。
なお、本件ゴルフ場における適正プレー人員数は、一日五〇組、二〇〇名と考えられるが、今のところ、これを超えた日はなく、また、プレーを予約できなかった会員や宿泊を予約できなかった会員もいない。
11 控訴人の平成七年一〇月一二日現在の会員数は、正会員五〇七名、新平日会員一一一名、週日会員三二名、サブ登録者四八名である。控訴人は、会員権相場の下落の現状にかんがみ、既入会の正会員の利益を図るためとして、同年一二月、正会員を次のとおり二分割することとし、その実施日を平成八年二月一日とした。
(一) 二分割によって生じる新しい会員権をA券及びB券とし、A券及びB券とも従来からの登録記名者名で記名登録し、両券とも新証券(いずれも、その預り保証金額は、特別縁故正会員についていえば、各一一二五万円となる。)を発行する。
(二) A券及びB券とも、二年後に予定している名義書換業務の受付開始以後に名義書換を受け付ける。ただし、右期間内でも、B券に限り、A券所有者の希望により、審査の上、第三者への名義書換を受け付ける。
(三) A券のパス券は、従前からの会員の名義とし、B券のパス券については、平成八年二月一日から二年間無記名扱いとする。無記名のパス券持参者の諸料金は、正会員扱いとする。
(四) 分割を希望しない正会員は、従来のままのメンバーとして利用することができる。
なお、右無記名会員権については、控訴人としては、既入会の会員に施設利用上問題が生じないよう、期間を限定し、会員の優先予約とするなどの配慮をした。
また、控訴人は、一八ホールのゴルフ場の適正会員数は一般に一八〇〇名とされていることから、正会員数を右にまで増加しても、会員に施設利用上の問題が生じることはないと考え、右二分割に伴い、最終正会員数を一八〇〇名とした。
二 本件入会契約の解除の効力
1 ゴルフ場のオープン遅延
前記認定のとおり、本件ゴルフ場がオープンしたのは平成七年四月二六日であるところ、本件募集要項や本件パンフレットにはコースの完成予定時期が平成四年一一月と記載されているだけで、オープン予定時期は明記されていなかったが、ゴルフ場のオープン時期は、勧誘又は申込みに関する募集要項やパンフレットにその予定時期が明示されていない場合においても、ゴルフ場入会契約においては、黙示的に、コースの完成予定時期と同時か、しからずとするも、ゴルフ場の建設には多額の資金と長期間の工事が必要であり、その間の資金調達事情の変遷等の事情から工事が遅延し、これに従ってオープン予定時期も遅延することが往々にしてあり得ること(本件ゴルフ場のように会員制ゴルフクラブの建設の場合には、建設資金の確保がその実質的な拠出者である入会者の募集成績いかんに大いに左右されることが多いということができる。)等を考慮したとしても、事柄の性格上、コース完成予定期日から数か月程度を経過した時期をオープン予定時期として合意したものと認めるのが相当である。ところが、本件ゴルフ場のオープンは、本件募集要項等に記載されたコース完成予定期日から遅れること約二年五か月、控訴人がその後当初のオープン予定期日とした平成五年春からでさえ約二年も遅延したものであるから、控訴人には本件入会契約において約定した本件ゴルフ場のオープンにつき履行遅滞があることは明らかである。そして、前記認定の事実によれば、右工事遅延の原因は、バブル経済の崩壊等による経済情勢の悪化により、会員権が当初の予想どおり販売できないことにより資金調達が困難となった等の事情により、建設計画の見直し、縮小を行わざるを得なくなり、そのような経緯から佐藤工業と紛争を生じて工事が中断したことにあると認められるが、右事情をもって、控訴人の右履行遅滞につき控訴人に帰責事由がないとすることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2 本件附帯施設の未整備
前記認定のとおり、控訴人は、本件ゴルフ場について、本件パンフレット及び本件概要書等により、附帯施設として高級なクラブハウスのほか、室内外プールやアスレチックジム等を備えた高級ホテルを設置することとし、本件ゴルフ場のリゾート性を強調し、ゴルフプレーと並んでホテル等充実した本件附帯施設を利用できる利益をうたって募集を行い、被控訴人もこれらの点をも検討の結果、ゴルフプレーのみならず、宿泊及びリゾート施設として本件附帯施設を有効に利用できるものと期待して、本件入会契約を締結したものである。したがって、控訴人が被控訴人に対して本件ゴルフ場のオープンに合わせて本件パンフレットや本件概要書等で明示されたところに従って本件附帯施設を整え、その利用に供すべく提供することは、本件ゴルフ場のオープンと並んで、本件入会契約の要素たる債務の一部になっているものと解するのが相当である。これを、会員制ゴルフクラブにおける会員の本体的な権利は預託金返還請求権とゴルフプレー権に尽き、クラブハウス等の施設利用権はこれに伴う付随的な権利にすぎず、ゴルフクラブ入会契約の要素とはなり得ないと解することは、右のような本件におけるゴルフコースと本件附帯施設との関係並びに被控訴人の本件入会契約締結の経緯及び動機等に照らして相当ではない。
ところが、本件ゴルフ場はオープンしたものの、本件附帯施設は、そのうちクラブハウスができあがっただけであり、それは、本件パンフレット等で明示された本件附帯施設の規模及び仕様を備えるものではないのみならず、高級なホテルをうたったホテル及び屋内外のプール等のリゾート施設は、中にはその基礎部分が施工されたものもあるが、すべて未完成であり、それら未完成部分は現在に至るも完工のめどさえ付いていないというのであるから、右が本件入会契約の債務不履行に当たることは明らかである。控訴人がゴルフコースのほか、クラブハウスを完成させ、その中に一定の格式を有した客室一一室(四二名宿泊可能)やレストラン等を確保していて、これまで宿泊を希望した会員が宿泊できなかったことはなく、その規模は縮小されたものの、現状においてホテルの代替施設としての役割を一応果たしていることは、右判断の妨げとなる事情とは認められない。
3 本件解除の意思表示の効力
以上みてきたところによれば、控訴人には本件ゴルフ場のオープン遅延及び本件附帯施設の未整備という債務の不履行があり、これらは本件入会契約における重要な要素である債務の不履行と認められるから、本件解除の意思表示は有効にされたものというべきである。
三 結論
よって、その余の点について判断するまでもなく、被控訴人の本件入会契約の解除に基づく入会金及び預託金(消費税を含む。)の返還請求は理由があり、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)