東京高等裁判所 平成11年(ネ)77号 判決 1999年10月28日
控訴人
川路昇
右訴訟代理人弁護士
花岡光生
被控訴人
株式会社マーティナイジング・ジャパン
右代表者代表取締役
田邉武
同
鈴木良雄
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人は、控訴人に対し、金六九九万九二六五円及びこれに対する平成一〇年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。
この判決第一項1は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、金三六八三万三二一〇円及びこれに対する平成一〇年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 仮執行宣言
第二 事案の概要
次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二頁末行の「その他関係各証拠」を「のほか本文中にかっこ書きした証拠」に改める。
二 四頁四行目の「開業したい」の次に、「、会社勤務時代と同程度の月額五〇万円程度の安定した収入を得たい」を加える。
三 五頁一〇行目の末尾に「その理由は、控訴人が国民金融公庫に聞いたところでは、行徳店の立地条件が悪いこと、控訴人が事業の素人であり、かつ年齢が高いことなどであった。」を加える。
四 五頁一一行目から同末行までを次のとおり改める。
「 控訴人は、当初、開業資金の調達を手持資金約三〇〇万円及び国民金融公庫からの借入れのほか、被控訴人を通じての紹介でリース等で行うことを予定していたが、国民金融公庫からの融資を拒絶されたため、開業資金の調達を他社からのリース及びファイナンスのみで行わなければならなくなった。」に改める。
五 六頁一行目から同三行目の「再開し、」までを「7 そして、控訴人は、平成七年一月初旬、開業資金の調達をリース会社であるサンテレホン株式会社からできることになり、」に改める。
六 六頁四行目の次に改行して次のとおり加える。
「8 控訴人は、一か月五〇万円のオーナー手取りを確保することが可能かどうか不安になり、同年一月末か二月始めころ、開業予定物件前の道路の通行歩行者数の調査をして、人通りが少ないなどとその結果を田邉に話したが、田邉が、行徳店が開業すれば同店に注文をするために客が来ることは間違いないと答えた。」
七 六頁一〇行目の「甲六」を「甲六、九。ただし、以下の数値は、同月二七日に改訂後のものである。」に改める。
八 七頁一一行目の「原告は、」の次に「右資料の数値が従前の説明と異なりオーナー手取額が月額四〇万円と減少したことなどから、被控訴人とフランチャイズ契約を締結することに不安を感じたが、今更後戻りすることはできないと判断して、右契約をすることとし、」を加え、同行目の「かねて検討の結果開業に適すると判断していた」を削る。
九 八頁四行目の「特記事項として、」の次に「営業権の移管に関する条項及び「ロイヤリティについては、開店後三か月の間は免除するものとする。」との条項に加えて、」を、同七行目の末尾に「右条項は、「最善の努力をしたにもかかわらず、加盟店が経営に対し困難を期たす場合に於いては、本部に営業権を移管する事ができる。但し、投資費用(加盟金)は返還されないものとする。尚、引き継いだ日以前に係る一切の経費は、加盟店の負担とし、引き継いだ日以降の経費は本部が責務をもって支払うものとする。」というもので、控訴人が契約交渉段階から開業後に売上不振が続いた場合の不安感を訴えていたので、被控訴人の従前の加盟店契約では約定されたことがなかったが、控訴人との本件契約でのみ特に約定されたものである(被控訴人代表者田邉)。」をそれぞれ加える。
一〇 八頁一一行目の「すぎなかった。」を「すぎず、一番少ない月は六八万円程度、月平均で八四万円程度であった(開・閉店月を除く。)。」に改める。
一一 九頁六行目の末尾に「その後、平成八年二月まで、預かった洗濯物の引渡し等の残務処理をし、同月一五日ころ、右店舗を貸主に返還した(甲二三)。また、被控訴人が控訴人の解除の通知に対して本部直営店への移行を拒絶した理由は、「現時点では、人的・金銭的等の諸事情のため」(甲二)というものであった。」を加える。
一二 九頁六行目の次に改行して次のとおり加える。
「15 被控訴人は、控訴人から営業不振の相談を受け、控訴人に対し、平成七年六月二七日二〇〇万円、同年一一月七日一五万円、同月一〇日八万円の合計二二三万円を支払った。」
一三 九頁九行目の次に改行して次のとおり加える。
「 被控訴人に保護義務違反があった場合、これにより被控訴人が控訴人に対し賠償すべき損害額(過失相殺及び損害のてん補を含む。)。」
一四 一〇頁七行目の「これに対する」の次に「同損害を本訴で請求した日の翌日である」を加え、同末行を「(各損害の内訳は、後記三の三記載のとおりである。)」に改める。
第三 当裁判所の判断
一 前記事実の経過のほか、当裁判所の事実認定は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に関する判断」一1及び2記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一一頁九行目の「その他関係者証拠」を「のほか本文中にかっこ書きした証拠」に改める。
2 一三頁二行目の「原告から」の次に「特に」を加える。
3 一三頁四行目の「原告は、」の次に「被控訴人(田邉)の説明に基づいて、前記開業候補地(物件)の中で」を、同七行目の「作成」の次に「を」をそれぞれ加える。
4 一三頁一二行目の「一〇〇ポイント」の前に「理想とされる」を、一四頁二行目の末尾に「被控訴人は、右調査において、行徳店の周辺一キロの第一次商圏における競合店を一一店舗(ただし、実際には一二店舗であった。)としたところ、右ポイントにおいては競合店につき〇店から四店までを六ポイントからマイナス六ポイントとし、五店以上をすべてマイナス九ポイントと同じポイントとしていた。」をそれぞれ加える。
5 一四頁八行目の冒頭の「等」の次に「(一万三四三六世帯、千葉県の一世帯当たりの年間クリーニング代支出額約一万九〇〇〇円)」を、同九行目の「六七人」の次に「(二一〇〇世帯を固定客にする。)」をそれぞれ加え、同一〇、一一行目の「考慮して、」を「考慮したとして、」に改め、同一二行目の末尾に「被控訴人は、右競合店がたくさん存在することについて、うちユニット店は二店にすぎず、他はすべて取次店であるとして、取次店は、仕上がり納期も二、三日かかり、かつ、誤配、紛失等のトラブルも多いとし、被控訴人のフランチャイズ店の最大の特徴は、ユニット式クリーニング店によるドライクリーニングの一時間仕上げのクイックサービスであり、顧客のあらゆるニーズに対応できるとしていた。ただし、被控訴人の調査によっても、取次店でも当日仕上げの店があり、ユニット店でも三日間の納期の店があった(一般に、取次店とユニット店とで納期の差は特にないと判断される。)。」を加える。
6 一五頁二行目の次に改行して次のとおり加える。
「3 行徳店開業後の営業状況について
証拠(乙一四の一ないし七、一六、控訴人)によれば、行徳店開業後の営業状況(平成七年一二月分を除く。)について、前記事実の経過12のほか、次の事実が認められる。
(一) 一日当たりの受付客数は、最も多い日で七三人(九月九日)、最も少ない日で四人であり、平均して二三人程度であった。右九月九日は、限定品二点無料のセールス期間最終日であり、受付売上高は、約四万五〇〇〇円であった。
(二) 一日当たり一〇万円以上の受付売上高の多い日は、三月三一日(客数五九人)、四月一五日(五四人)、一六日(五二人)、二〇日(六五人)、五月一日(四〇人)、一〇月二五日(五二人)の六日あった(これらの日の客数も、いずれも最も多い方に入る。)が、いずれもセール期間中(一〇月二五日については不明だが、同様と推認される。)であった。
(三) 右営業期間を通して、客数、売上高とも、割引等セールによる影響に左右されていることがうかがわれるのみで、他には、営業期間の経過に従っての改善傾向も業績悪化の傾向もうかがわれない。
(四) 被控訴人は、行徳店のセールスポイントとして、取次店でない(最新マシンによる店内処理仕上げ)こと、一時間仕上げが可能なことを強調するチラシを配布するなどしていたが、このことが集客力につながった様子はない。」
二 保護義違反の有無について
1 一般に、フランチャイズ・システムにおいては、店舗経営の知識や経験に乏しく資金力も十分でない者がフランチャイジーとなることが多く、専門的知識を有するフランチャイザーがこうしたフランチャイジーを指導、援助することが予定されているのであり、フランチャイザーはフランチャイジーの指導、援助に当たり、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているものというべきである。
本件においては、控訴人は、クリーニング業は全くの素人であったので、開業に当たっては相当多額の開業費用を要することなどからも、開業することに対する不安が極めて大きかったが、契約に先立って被控訴人から示された開業予定地(物件)に関する売上予測等の最終的な資料によっても、月四〇万円程度のオーナー手取額が得られるとされ、かつ、営業不振の場合には、営業権の本部移管まで約束されたため、本件契約の締結及び開業に至ったのであるから、契約に先立って被控訴人が控訴人に対して示した情報が客観的かつ的確な情報でなく、これにより控訴人のフランチャイズ・システムへの加入(契約者の締結及び開業)に関する判断を誤らせたといえる場合には、被控訴人は、前記信義則上の保護義務違反により、控訴人が右加入により被った損害を賠償する責任を負うというべきである。
2 そこで、被控訴人が本件契約の締結に先立って控訴人に対して示した情報の適否について検討する。
被控訴人は、最終的に、行徳店の損益分岐点売上及び同必要客数を、オーナー給与月額四〇万円の場合として、月額二五一万九〇〇〇円、日平均五三人(オーナー給与を除いた場合として、月額一八七万四〇〇〇円、日平均三九人、)、経常利益月平均三八万八〇〇〇円と試算して、開業に不安を抱いていた控訴人に対し、控訴人が希望していた月額五〇万円のオーナー手取額は下回るものの、月額四〇万円程度の収益は見込めるとする資料を作成して、交付し、控訴人において、この売上試算、予測に基づき本件契約の締結に至ったものである。
しかしながら、行徳店開業後の営業実績は、売上が一番多い月でも約九八万円と、オーナー給与を除いた場合の損益分岐点売上の約半分にしか達していない状態であり、日平均客数も同様に一貫して大幅に下回っている。開業後の営業成績は、事業主である控訴人の努力に左右される面があることは確かであるが、他方において、本件契約はフランチャイズ契約であって、開業に伴って被控訴人による営業の指導、援助が行われたものであり、営業成績は、特に営業当初はこれによるところも少なくないと推測される。この点について、被控訴人は、控訴人が被控訴人の指導に従わなかったような主張をし、被控訴人代表者は、同旨の供述をするが、抽象的な主張、供述にすぎないものであって、他にこれを裏付けるに足りる証拠はなく、開業後の控訴人の営業に取り立てて問題があったものとは認められない(田邉が乙二四で指摘する色順番のタグによる受付商品の管理や染み抜き作業手順が原因で顧客を逃がしたとは認め難い。)。
そこで、被控訴人の売上試算、予測について検討するに、被控訴人は、競合店について、行徳店の周辺一キロの第一次商圏内に一一店舗あるものとした(実際には一二店舗あった。)が、行徳店が他の多くの取次店と異なり、納期については短時間に仕上げが可能なこと、誤配、紛失等のトラブルが少ないことを特徴としているので、右取次店は実質的に競合店ではないとして、実質上の競合店数を数店舗(以内)として、同商圏内の一万三四三六世帯のうちの二一〇〇世帯を固定客にすることができると判断したものである(前記認定事実及び被控訴人代表者)が、一般的に取次店とユニット店とで納期について特段の差があるものとは認められず、また、取次店とユニット店とで被控訴人の主張するようなトラブルの多寡(取次店に対する客の不安)があると認めるに足りる資料もなく、被控訴人の主張するフランチャイズ店のユニット店としての特徴が顧客にとって店舗選択のポイントとはなっていないものと認めざるを得ない。そうすると、被控訴人のした売上試算、予測は、競合店についての判断を誤ってしたものというほかなく、被控訴人が契約に先立って控訴人に対して示した情報が客観的かつ的確な情報でなかったものと認められる。
3 控訴人は、被控訴人が契約に先立って示した情報を必ずしも鵜呑みにしたものではなく、控訴人においても自ら通行量調査等をして顧客数に不安を感じていたものの、田邉からこの不安を否定され、かつ、被控訴人が営業不振の場合の本部への営業権移管の約束までするとしたため、被控訴人の右情報を信頼して本件契約の締結に至ったものである。本件においては、開業後、被控訴人の指導、援助にもかかわらず、一向に営業状態が好転する兆しを見せなかったため、控訴人において、本部への営業権移管を求めたにもかかわらず、被控訴人がこれに応じなかった(被控訴人がこれに応じなかったことについて、正当な理由は認められない。)ために、本件契約を解除せざるを得なかったものである。
したがって、被控訴人による不正確な情報の提供と控訴人による行徳店の開業及びその経営破綻との間には相当因果関係があると認められるから、被控訴人は、前記信義則上の保護義務違反により、控訴人が本件契約の締結及び行徳店の開業により被った損害を賠償する責任を負うというべきである。
三 損害額について
1 行徳店開業費用(請求額二九六六万四三一〇円、認容額二九一二万五六九〇円)
(一) ドライ機等のリース料(請求額及び認容額二九〇四万六〇〇〇円)
証拠(甲一四、一五、二九)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、行徳店開業のために、サンテレホン株式会社との間で、平成七年一月二六日、ベーベパーマックドライ機一台ほかクリーニング店用機器一式(被控訴人に支払った加盟金三〇〇万円を含む。)のリース契約を締結したこと、右契約において、リース期間は平成七年五月一五日から平成一二年五月一四日までの六〇か月間、一回当たりのリース料支払額は四八万四一〇〇円、リース料支払総額は二九〇四万六〇〇〇円、契約解除(中途解約)の場合の規定損害金は未経過リース料相当額、契約解除によりリース物件が返還又は回収された場合でも規定損害金を支払う旨の約定がされたことが認められる。
控訴人は、本件契約の解除に伴い右リース契約の解除をしているものと推測されるが、解除をし、リース物件を返還した場合でも、未経過リース料相当額の規定損害金の支払を免れないことになる。そうすると、控訴人は、行徳店開業のために右リース契約を締結し、リース料支払総額二九〇四万六〇〇〇円の債務を負担したのであり、このことは右リース契約を解除し、リース物件を返還した場合でも同様であるから、右金額を損害として認める。
(二) 全自動洗濯機(請求額六万円、認容額〇円)
その購入、支出を証する領収証等の書証はなく、本件開業に必要なものとして購入したものであるか否かも分からないから、損害として認めることはできない。
(三) ファクシミリ(請求額及び認容額二万三六九〇円)
証拠(甲一六、二九)によれば、控訴人は、行徳店開業のために、平成七年三月六日、ファクシミリを代金二万三六九〇円で購入したことが認められるから、右金額を損害として認める。
(四) ロッカー及び棚(請求額及び認容額四万二〇〇〇円)
証拠(甲一七、二九)によれば、控訴人は、平成七年四月一七日、クリーニング店営業のために、四人用ロッカー一個及び物品棚二個を代金合計四万二〇〇〇円で購入したことが認められ、右物品はクリーニング店営業に必要なものであったと推認されるから、右金額を損害として認める。
(五) LEDディスプレイのリース料(請求額四四万四九六〇円、認容額〇円)
証拠(甲一九、二九)によれば、控訴人は、平成七年八月三日、アドライト(電飾看板、代金三七万五八一一円)を同年九月二七日から平成一〇年八月二七日までの三六か月の分割支払、支払総額四四万四六九〇円の約定で購入したことが認められるが、前記開業に当たってリースした物件には、店舗前面看板(電灯入り)一式が含まれており(甲一四)、右電飾看板は、右の事実及び購入時期等に照らすと、行徳店営業に必要なものと認められず、かつ、被控訴人の指導によるものとも認められないから、損害として認めることはできない。
(六) タイムレコーダー(請求額三万三六六〇円、認容額〇円)
証拠(甲二〇、二九)によれば、控訴人は、平成七年一〇月四日、タイムレコーダーを三万三六六〇円で購入したことが認められるが、右物件は、購入時期等に照らすと、行徳店営業に必要なものと認められず、かつ、被控訴人の指導によるものとも認められないから、損害として認めることはできない。
(七) 保健所届出手数料(請求額及び認容額一万四〇〇〇円)
証拠(甲二一、二九)によれば、控訴人は、行徳店開業のために保健所届出手数料として印紙代一万四〇〇〇円を支出したことが認められるから、右金額を損害として認める。
2 店舗賃貸借関係費用(請求額六三九万一四〇〇円、認容額一三六万一〇二七円)
(一) 賃料(請求額三八五万九六〇〇円、認容額〇円)
証拠(甲一〇、二二、二三、二九)によれば、控訴人は、行徳店の店舗を平成七年二月一四日、賃貸借期間を同月二四日から平成一二年二月二三日までの五年間として賃借し、平成八年二月一五日ころ明け渡し、その間月額三三万の賃料を負担したことが認められるが、控訴人は、その間、同店舗を利用してクリーニング店を経営(開業準備及び残務処理を含む。)し、右賃料額を上回る売上を得ていたのであるから、右賃料自体は、右売上に直接対応する必要経費であり、行徳店開業のために被った損害として認めることはできない。
(二) 原状回復費用(請求額及び認容額三三万九九〇〇円)
証拠(甲二三、二九)によれば、控訴人は、行徳店の店舗の賃貸借終了による返還に際し、原状回復費用として三三万九九〇〇円を負担したことが認められるから、右金額は、行徳店開業に伴って控訴人が被った損害ということができる。
(三) 保証金償却(請求額及び認容額三〇万円)
証拠(甲一〇、二三、二五、二九)によれば、控訴人は、行徳店の店舗の賃借に際し、保証金五〇〇万円を差し入れ、その終了に伴い、平成八年二月一五日ころ、約定の償却金三〇万円等の差引き計算をして右保証金の返還を受けたことが認められるから、右三〇万円は、行徳店開業に伴って控訴人が被った損害ということができる。
(四) 仲介手数料(請求額及び認容額三三万九九〇〇円)
証拠(甲二四、二九)によれば、控訴人は、行徳店の店舗の賃借に際し、仲介手数料として三三万九九〇〇円を負担したことが認められるから、右金額は、行徳店開業に伴って控訴人が被った損害ということができる。
(五) ファイナンス利息(請求額一五五万二〇〇〇円、認容額三八万一二二七円)
証拠(甲二六、二九)によれば、控訴人は、右(三)の保証金の支払のために、平成七年三月二日、五〇〇万円をサンテレホンから借り入れたこと、右借入れの返済は、同月から各月一四日(同月のみ二日)支払の八四回の分割払いとされ、一回の元利返済額は、七万八〇〇〇円であること、控訴人は、その返済利息相当分合計額として右請求額を請求していることが認められる。
しかしながら、控訴人は、前記認定のとおり平成八年二月一五日ころ、右保証金の返還を受けているので、その時点で残元金の繰上げ返済ができたものと認められるから、控訴人請求額を損害として認めることはできず、直近の分割金支払約定日である同月一四日までの返済利息合計額を損害として認めるのが相当であるところ、右金額は、三八万一二二七円となる(甲二六)。
3 担保権設定手数料(請求額及び認容額二七万七五〇〇円)
証拠(甲二七ないし二九)によれば、控訴人は、行徳店の開業に必要な前記リース契約の締結に当たり、リース会社のために控訴人所有不動産に担保権を設定し、その登録免許税、司法書士に対する報酬等の必要経費として合計二七万七五〇〇円を支払ったことが認められるから、右金額は、行徳店開業に伴って控訴人が被った損害ということができる。
4 慰謝料(請求額五〇万円、認容額〇円)
本件のように相手方の違法行為によって財産上の損害を被ったという場合には、慰謝料請求は、財産上の損害の賠償によってもなお慰謝されない精神的苦痛が残存し、それが金銭賠償を相当ならしめる程度のものであるような場合に限って認めることができるものであるところ、本件の事実関係の下では、控訴人は被ったという苦痛が財産的損害の賠償によっては慰謝されない程度のものであったと認めるに足りないから、控訴人の慰謝料請求を認めることはできない。
5 過失相殺について
被控訴人は、被控訴人に保護義務違反がないとするほか、控訴人が本件フランチャイズ・システムに加入したのは控訴人の判断と責任によるなどと主張して本訴請求を争っているから、保護義務違反が認められる場合の予備的主張として過失相殺をすべき事由を主張しているものと認められるので、この点について判断する。
前示のとおり、フランチャイズ・システムにおいては、専門的知識を有するフランチャイザーがフランチャイジーを指導、援助することが予定され、客観的かつ的確な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているとはいえ、他方において、フランチャイジーも、単なる末端消費者とは異なり、自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図する以上、フランチャイザーから提供された情報を検討、吟味した上、最終的には自己の判断と責任においてフランチャイズ・システム加入を決すべきものである。
前記認定事実によれば、控訴人としても、被控訴人が提供した資料等を検討、吟味することが十分に可能であったといわなければならず、そうすれば、同一商圏内に多数の競合店が存し、被控訴人がした売上試算、予測が的確なものであったかについて疑問をもってしかるべきである(現に、国民金融公庫からは、立地条件が悪いなどとして融資を断られている。)ところ、控訴人としても、不安感を抱いていたものの、最終的には被控訴人の売上試算、予測をよりどころとして月四〇万円程度のオーナー手取額が得られるものと信じて被控訴人のフランチャイズ・システム加入を決定したものである。これは、多額の開業資金を投下して商売を始めようとする者としては、フランチャイザーの言動に寄りかかりすぎた軽率なものであったといわざるを得ない。以上の諸点に、控訴人が開業期間中、赤字であったとはいえ前記損害に係るリースないし購入機器等を使用して売上を得ていたこと、その他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すると、被控訴人の前記義務違反による損害賠償額を定めるに当たっては、公平の原則に照らし、控訴人に生じた前記損害について七割の過失相殺をするのが相当である。
そうすると、被控訴人の前記義務違反によるものと認められる損害合計額は、三〇七六万四二一七円であるから、これから七割を減じて控訴人の損害額を算出すると、九二二万九二六五円(円未満切捨て)となる。
6 損害のてん補について
前記のとおり被控訴人は控訴人から営業不振の相談を受けて控訴人に対し合計二二三万円を支払っているところ、被控訴人は、これを貸金と主張し、別訴による返還請求をしている(本件当審記録)が、控訴人は、これを損害賠償の一部として受領した(甲二九)としており、被控訴人が右金員について控訴人から返還を受けることを予定して支払ったことはうかがわれないから、右金員は、本件損害の一部てん補として支払われたと認めるのが相当である。
そうすると、右損害のてん補後の未払損害額は、六九九万九二六五円となる。
7 したがって、控訴人の請求は、六九九万九二六五円及びこれに対する請求の日の翌日である平成一〇年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。
四 よって、右と一部結論を異にする原判決を右の限度で変更することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 沼田寛)