東京高等裁判所 平成11年(ラ)1413号 決定 2000年3月02日
抗告人
大屋晃一郎
代理人弁護士
渡邉淳夫
同
千葉憲雄
相手方
ファーストクレジット株式会社
代表者代表取締役
鈴木弘章
代理人弁護士
長谷一雄
同
福﨑真也
同
佐藤高章
同
山田庸一
主文
原決定を取り消す。
東京地方裁判所八王子支部平成一一年(ル)第八号債権差押命令申立事件について同年一月七日に発せられた債権差押命令の差押債権につき、別紙差押債権目録記載の範囲を超える部分を取り消す。
抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
1 抗告の趣旨
原決定を取り消す。
2 抗告理由
ア 原決定は、賃料を、現実に負担せざるを得ないものとは認めがたいとしたが、抗告人は、母親に対し賃料を支払ってきた。本件差押後、事実上支払えないだけである。
イ 抗告人住居の不動産競売事件における売却は迫っており、このままでは、引っ越し費用及び将来の賃料を捻出することはできない。
ウ 抗告人の勤務する会社は、ある程度給与水準を高くし、経費の支出は押さえるとの方針を採っている。このため、交際費やタクシー代は、従業員(抗告人)が負担せざるを得ない。
エ 原決定は、自動車を生活に不可欠とはいえないとしたが、抗告人の住居の位置等からして、生活のため、自動車は必要不可欠である。
オ 原決定は、抗告人の妻が全く稼働できないものとは認めがたいとしたが、妻は外国人であり、現在の経済情勢では稼動は困難である。
カ 抗告人と同年齢の大学卒の者の賃金水準は、賃金センサスによれば、年七九一万七八〇〇円である。通常の生活水準とは、上記水準を基準に考える必要がある。
3 当裁判所の判断
本件記録によれば、次の事実を認めることができる。
ア 抗告人が請求されている債権は、抗告人の父親が生前相手方から借り入れた二億円の債務を法定相続分の割合で相続したものである(現在、相続放棄の効力につき係争中)。
イ 抗告人は、現在四五歳であり、株式会社電通にマーケッティング・プロモーション局のプランナー(チームリーダー)として勤務し、平成一一年四月には、一か月に税金及び保険料を差し引いた金額で約一〇〇万円の給料を得ている。しかし、他にとりたてて資産はなく、預貯金もほとんど有していない。なお、上記の給料の相当部分は、抗告人が極めて長時間に及ぶ残業をして得る残業代が占めている。
抗告人の家族は妻一人であるが、妻は稼動していない。
ウ 抗告人一家の生活費として、一か月に食費一〇万円、電気・ガス・水道・電話代合計七万円は最低限必要である。
抗告人は、住居費として、母親に一か月一〇万円の賃料を支払う必要がある。
抗告人は、妻名義で自動車を保有しているが、一か月にローン返済金及びガソリン代等の経費として合計一一万円は必要である。
抗告人が勤務する会社は、会社の性格上、一定程度の交際費を自己負担せざるを得ず、また、残業が多いこと等もあって、タクシー代も一部は自己負担することが必要である。抗告人が同年齢のサラリーマンの平均的な給料より多額の給料を得ることができ、そのうちの一部を相手方の債権の回収に充てることができるのも、抗告人が、帰宅につきタクシーの利用が必要となるほどの長時間の残業をし、かつ、自ら交際費を負担していることに起因する。したがって、交際費・タクシー代の支出を、多額な収入を得て相手方に高額な弁済をするために必要なものと認めるのが相当である。
以上の事実のほか、本件記録に現れた事情を総合すると、抗告人は少なくとも一か月に六〇万円の生活費を要するものと認められる。また、ボーナス期には、月々の支出の不足分を補い、月々の生活費では支出できない費用のため、相応の金額を要するのが通常である。
したがって、差押禁止債権の範囲をその範囲まで拡張する必要がある。
上記によれば、差押禁止債権の範囲の変更を認めなかった原決定は失当であるから、これを取り消し、差押債権の範囲を別紙差押債権目録記載のとおりとする。
なお、事案にかんがみ、抗告費用は抗告人の負担とする。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 菊池洋一 裁判官 江口とし子)
別紙差押債権目録<省略>