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東京高等裁判所 平成11年(ラ)828号 決定 1999年4月30日

主文

一  原決定を取り消す。

二  原執行抗告を棄却する。

三  本件執行抗告及び原執行抗告の費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件執行抗告の趣旨及び理由

本件執行抗告の趣旨は「原決定を取り消し、さらに相当な裁判を求める。」というものであり、その理由は別紙二「再執行抗告理由書」のとおりである。

二  当裁判所の判断

原決定は、抗告人の提出した別紙一「執行抗告の理由書」には民事執行規則六条に従って執行抗告の理由が記載されていないとして原執行抗告を却下したものである。

しかし、抗告人の提出した右「執行抗告の理由書」には「引越先を探すことや引越費用を捻出するのに相当な期間を要するが、それらに配慮することなく引渡命令を発したのは憲法二五条に違反する。」旨が記載されており、執行抗告の理由が一応具体的に記載されているものと認められ、少なくとも、それは、民事執行法一〇条五項二号にいう「執行抗告の理由の記載が明らかに前項の規定に違反しているとき」とはいい難いものというべきである。そうとすれば、原執行抗告を却下した原決定は不相当というべきであり、取消しを免れない。

そこで、さらに進んで、抗告人の申し立てた原執行抗告について判断するに、その抗告の理由は右のとおりであるが、それが執行裁判所の発した引渡命令を違法とする事由となり得ないことは明らかであるから、原執行抗告は理由がなく、棄却を免れない。

なお、当裁判所は、本件において、原決定を取り消した後にさらに自ら原執行抗告についての判断をなし得るものと解する。なぜなら、原決定を取り消して本件を千葉地方裁判所に差し戻しても、同裁判所は意見を付して改めて原執行抗告にかかる事件を抗告裁判所に送付するだけであり、そうとすれば、当裁判所が原執行抗告についてここで直ちに判断をしても当事者の審級の利益を奪うことにはならず、当事者にとっては何ら不利益はなく、むしろ執行事件の迅速な処理に資するからである。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 西田美昭 裁判官 原田敏章)

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