東京高等裁判所 平成11年(行ケ)147号 判決 1999年12月15日
原告
【A】
訴訟代理人弁護士
渡邉惇
同弁理士
【B】
被告
【C】
訴訟代理人弁理士
【D】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成9年審判第21158号事件について、平成11年4月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、「ばんどう太郎」の文字を横書きしてなり、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第2503189号商標(平成2年5月22日登録出願、平成5年2月26日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は、平成9年12月15日、原告を被請求人として、商標法50条(平成8年法律第68号による改正前のもの、以下同じ。)の規定に基づき、本件商標の登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成9年審判第21158号事件として審理した上、平成1 1年4月1日、「商標法50条の規定により、登録第2503189号商標の指定商品中『うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品』についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、その謄本は、同年4月28日、原告に送達された。
2 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、日本国内において、継続して3年以上、指定商品中「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」について被請求人(注、本訴原告)により使用されていたものとは認められず、かつ、使用されていなかったことについて正当な理由があるものとは認められないから、商標法50条2項の規定により、上記商品についてその登録を取り消すべきものとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件商標が「ばんどう太郎」の文字を横書きしてなり、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品とすること、当事者の主張の認定は、いずれも認める。
審決は、本件商標が、日本国内において継続して3年以上、指定商品中「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」
について使用されていないと誤って判断している(取消事由)ので、違法として取り消されるべきである。
1 審決は、「うなぎの蒲焼き」が加工水産物の一種として取り扱われる商品であると認定(審決書19頁18~20行)しながら、「本件取り消し請求に係る『うなぎの蒲焼き』と被請求人(注、本訴原告)が本件商標を使用するものとして立証し主張している『すし』とは、・・・その製造者、販売店等を著しく異にする非類似の商品と認められるものである。」(同19頁16行~20頁3行)と判断したことは、現実の流通機構についての認識を誤ったものである。
すなわち、今日、「うなぎの蒲焼き」は、うなぎ料理専門店のみならず、一般和食料理店あるいはスーパーや惣菜店などで仕入商品又は自家商品として販売されている。他方、「すし」も、すし専門店のみならず、一般和食料理店あるいはスーパーや惣菜店などで、仕入商品又は自家商品として握りずしの形態で販売されている。このように「すし」と「うなぎの蒲焼き」とは、製造者や販売店等を著しく異にするわけではなく、むしろ共通とする場合が多いのであるから、非類似商品ということはできない。
さらに、「すし」には、ネタとして蒸しあなご・蒸し海老・うなぎの蒲焼きが使用されており、加工水産品が多用されていること等からみても、「うなぎの蒲焼き」は、少なくとも第32類「すし」に跨がって類似性が認められるべきである。
2 原告が、平成2年から継続して、原告が代表者である株式会社坂東太郎の経営する店舗「ばんどう太郎」において、TAKE・OUT商品としての「にぎりずり」を、同じく同社経営の店舗「かつ太郎」で「海老フライ(海老かつ・折詰御飯付き)」及びその他の「持ち帰り和食料理品」を提供し、それらの宣伝用パンフレット、手提げ袋などに本件商標を使用していることは、審決が認定しており(審決書20頁4~10行)、証拠(審判乙第2~第9号証、本訴甲第2号証の3~10)によっても立証されているから、本件商標が当該指定商品について使用されていることは明らかである。
それにもかかわらず、審決が、「上記請求人(注、本訴原告である被請求人の誤り。)が各店舗で供する商品は、折り詰めされたり、土産物として人々が随時購入できる状態となっているものではないから、商標法上の商品とは認められないものである。」(審決書20頁11~14行)と判断したことは誤りである。
すなわち、料理品においては、鮮度が生命線であり、サンプルあるいはカタログ展示はあるとしても、受注後若干の時間内に加工製造するのが一般的であるから、このような加工製造方式を随時性がないとするのは、甚だしく常識に欠けるものである。
なお、上記のようなTAKE・OUT商品を扱う業者は、店内飲食のサービス面で役務商標の登録をし、場外売り商品については商品商標の登録を取得しているのが一般的であり、両商標が相まって営業上の信用が完全に維持されていくことになる。原告も、かかる観点から、「ばんどう太郎」標章について商品商標(本件商標)及び役務商標(登録第3081501号商標)を取得しているのである。
3 しかも、「うなぎの蒲焼き」が加工水産品の一種であることは、前記のとおり、審決も認めるところであり、同じく加工水産品の一種である「寿司えび、剥き甘えび、いかそうめん」について、本件商標の使用が認められる(甲第9号証)以上、当然、本件商標の登録の取消しは免れるべきである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告の主張の取消事由は理由がない。
1 原告は、スーパーなどで「すし」も「うなぎの蒲焼き」も販売されているのであるから、両商品は類似する関係にあると主張するが、現在のスーパーの食料品売場では、あらゆる食料品が同じフロアで販売されているのであり、そのことをもって商品の類似関係を判断するなら、ほとんど全ての食料品が類似商品になるという不合理な結論に達する。
「すし」も「うなぎの蒲焼き」も、我が国の伝統料理として長い歴史があり、専門性の強い商品であることは需要者の間に定着しており、いずれについても、商品に付する商標が専門店の屋号である場合が圧倒的であるということも顕著な事実である。
また、「うなぎの蒲焼き」は、製造者や販売店等が専門化されているのみならず、原材料となる「うなぎ」のほとんどがうなぎ専門の問屋を介して特定のルートで流通するなど、原材料の生産・流通から製造・販売の全てにおいて独自の世界が作られており、類似範囲の狭い個性的な商品である。
したがって、「すし」と「うなぎの蒲焼き」とが、製造者、販売店等を著しく異にする非類似の商品であると認定した審決の判断(同19頁16行~20頁3行)に誤りはない。
2 原告は、本件商標をTAKE・OUT商品に使用している旨主張するところ、「にぎりずし」については、それが所載されているメニューの表紙に記載されている「ばんどう太郎」の標章が、「飲食物の提供」という役務に関する使用に該当し、商品「すし」についての使用とは認め難い。
しかも、前記のとおり、「すし」と「うなぎの蒲焼き」とは非類似の商品である。 「海老フライ」については、持ち帰り用メニューに「びっくり海老かつ弁当」の記載があるが、単品の「海老フライ」は、店内飲食用にその場で客に提供する商品として記載されているのみであり、持ち帰り用メニューには記載されていない。店内での飲食用に客に供する商品は、折り詰めされたり、土産物として人々が随時購入できる状態となっていないことが明らかであり、商標法上の商品とは認められない。
「和食料理品」についても、これが記載されていると原告が主張する折り込みパンフレット(甲第2号証の9)には、どこにもそのような商品は記載されていない。しかも、「和食料理品」というのは、具体性のない抽象的な表示であって、具体的にどのような商品を指すのか不明確であるから、「うなぎの蒲焼き」との商品の類似性は論じようがない。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書20頁4~14行)に誤りはない。
3 以上のとおり、「うなぎの蒲焼き」は、「すし」はもちろん、「海老フライ」、「寿司えび、剥き甘えび、いかそうめん」のいずれとも、原材料・製造部門・販売部門を著しく異にする非類似の商品である。
第5 当裁判所の判断
1 審決の理由中、本件商標が、「ばんどう太郎」の文字を横書きしてなり、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」を指定商品とすること、「うなぎの蒲焼き」が加工水産物の一種として取り扱われる商品であること(審決書19頁18~20行)は、いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由について
1 原告は、審決が、「本件取り消し請求に係る『うなぎの蒲焼き』と被請求人が本件商標を使用するものとして立証し主張している『すし』とは、・・・その製造者、販売店等を著しく異にする非類似の商品と認められるものである。」(審決書19頁16行~20頁3行)と判断したことは、現実の流通機構についての認識を誤ったものであり、「うなぎの蒲焼き」が、うなぎ料理専門店のみならず、一般和食料理店あるいはスーパーや惣菜店などで仕入商品又は自家商品として販売されている一方、「すし」も、すし専門店のみならず、一般和食料理店あるいはスーパーや惣菜店などで、仕入商品又は自家商品として握りずしの形態で販売されているから、非類似の商品ということはできないと主張する。
しかしながら、酢などで調味した飯に魚介や野菜等の様々な食品を加えた「すし」と、捌いたうなぎに「たれ、みりん、しょうゆ」等を付けて焼いた「うなぎの蒲焼き」とは、その材料、形態、品質、味等の面において全く異なる食品であることはもとより、その通常の流通経路が相違しており、この食品のみを専門的に取り扱う「すし屋」と「うなぎ屋」とが、世上多数存在していることから、通常の取引者・需要者が、これらを明らかに異なる食品として認識していることは、当裁判所に顕著な事実といわなければならず、その結果、両者が、類似する商品でないことも明らかといえる。そして、このような取引者・需要者の認識が、一部のスーパーや惣菜店において、「にぎりずし」と「うなぎの蒲焼き」とが同一店舗内の食料品売場で取り扱われていることや、一部の和食料理店において、「すし」と「うなぎの蒲焼き」とが提供される場合があることによって、覆されるものでないことは明らかであるから、これらを非類似の商品とした審決に誤りはなく、原告の主張を採用する余地はない。
また、原告は、「すし」にも、ネタとして蒸しあなご・蒸し
海老・うなぎの蒲焼きが使用されており、加工水産品が多用されていること等からみて、「うなぎの蒲焼き」は、少なくとも商品区分「すし」に跨がって類似性が認められるべきであると主張する。
しかし、仮に、「すし」のネタとしてうなぎの蒲焼きが使用される場合があるとしても、そのような例外的ともいうべき事柄によって、「すし」と「うなぎの蒲焼き」とを別異の食品とする前記の取引者・需要者の認識が、左右されるものでないことも明らかであり、類似する商品ということはできないから、この原告の主張も到底採用することができない。
2 原告は、平成2年から継続して、原告が代表者である株式会社坂東太郎の経営する店舗「ばんどう太郎」において、TAKE・OUT商品としての「にぎりずり」を、同じく同社経営の店舗「かつ太郎」で「海老フライ(海老かつ・折詰御飯付き)」及びその他の「持ち帰り和食料理品」を提供し、それらの宣伝用パンフレット、手提げ袋などに本件商標を使用していることが、証拠(甲第2号証の3~10)によって立証されているとし、このことを前提として、本件商標が当該指定商品中の「うなぎの蒲焼き」に使用されていると主張する。
しかし、前示のとおり、「すし」と「うなぎの蒲焼き」とが非類似の商品である以上、仮に、本件商標が、TAKE・OUT商品である「にぎりずり」に使用されていたとしても、これによって、本件商標が「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」について使用されていたものと認められないことは明らかである。また、「海老フライ(海老かつ・折詰御飯付き)」や「うなぎの蒲焼き」を含まないその他の「持ち帰り和食料理品」に、本件商標が使用されていたとしても、これによって、本件商標を「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」に使用していたものと認められないことも当然である。したがって、原告の主張は、それ自体失当といわなければならないから、その余の点について検討するまでもなくこれを採用する余地はない。
3 原告は、「うなぎの蒲焼き」が加工水産品の一種であることは、前記のとおり、審決も認めるところであり、同じく加工水産品の一種である「寿司えび、剥き甘えび、いかそうめん」について、本件商標の使用が認められる以上、本件商標の登録の取消しは免れるべきであると主張する。
しかし、「うなぎの蒲焼き」と「寿司えび、剥き甘えび、いかそうめん」とが、いずれも加工水産品の一種であるとしても、商品として異なることはいうまでもないから、仮に、「寿司えび、剥き甘えび、いかそうめん」について本件商標が使用されたとしても、「うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品」についてこれが使用されたものでないことは明らかであり、上記主張も失当であってこれを採用することはできない。
3 以上によれば、審決が、「本件商標は日本国内において、継続して3年以上指定商品中の『うなぎの蒲焼き及びそれに類似する商品』について、被請求人により使用されていなかったものと認めざるを得ず、かつ使用されていなかったことについて正当な理由があるものとは認められない。」(審決書20頁15~20行)と判断したことは正当であり、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)