東京高等裁判所 平成11年(行ケ)168号 判決 1999年10月26日
原告
宇佐美工業株式会社
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁理士
【B】
被告
株式会社サンポリ
代表者代表取締役
【C】
訴訟代理人弁理士
【D】
【E】
主文
特許庁が平成10年審判第35009号事件について平成11年4月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯
被告は、意匠に係る物品を「床下通風口」とする登録第980431号の意匠(平成7年9月12日出願、平成9年2月10日設定登録。本件意匠)の意匠権者である。
原告は、平成10年1月9日、被告を被請求人として、本件意匠についての登録無効審判の請求をし、平成10年審判第35009号事件として審理された結果、平成11年4月19日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年5月17日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 審判における当事者の主張
別紙(審決の理由中、当事者の主張摘示部分)のとおりである。
以下は、審決の判断部分である。
(2) 本件意匠
本件意匠は、意匠登録原簿及び出願書類の記載によれば、平成7年9月12日の意匠登録出願に係り、平成9年2月10日に設定登録されたものであって、意匠に係る物品を「床下通風口」とし、その形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。
すなわち、全体の構成は、外周に細幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している扁平なほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、左右両端及び下端の先端に外方に向かって細幅の縁枠を設け、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものである。
(3) 審判甲第1号証
審判甲第1号証の意匠は、昭和54年10月25日特許庁発行の意匠公報に記載された登録第514844号(意匠に係る物品「扉用換気板」)に表された「裏パネル」の意匠であり、その形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。
すなわち、全体の構成は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している平板状であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を15個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、通風孔部の外周は背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成し、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものである。
(4) 審判甲第2号証
審判甲第2号証の意匠は、昭和60年6月24日に出願し、昭和63年7月29日に拒絶の査定をし、その後査定が確定した昭和60年意匠登録願第26487号に係り、願書の記載及び願書に添付した図面の記載から、意匠に係る物品を「床下用換気口」とし、その形態を別紙第三に示すとおりとしたものである。
すなわち、全体の構成は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している平板状であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、通風孔部の外周は背面側に向かってフランジ状に平板状部のほぼ同一幅の細枠を形成し、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものである。
(5) 審判甲第5号証
審判甲第5号証の意匠は、平成3年11月1日特許庁発行の公開実用新案公報に記載された実用新案出願公開平成3年第105610号に記載の第2図の図面に示されたものであって、考案の名称を「フチカバー付き床下用換気孔」とし、その形態を別紙第四に示すとおりとしたものである。
すなわち、全体の構成は、外周に広幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の広幅の枠体は、下側を斜状に形成し、左右両端及び下端の枠体の先端に外方に向かって広幅の縁枠を設け、通風孔部は、通風孔を通風孔部全体に縦桟を等間隔に設けている態様としたものである。
(6) 審判甲第9号証
審判甲第9号証の意匠は、新潟地裁三条支部平成6年(ワ)101号平成9年3月21日判決文中の原告商品(3)であり、その形態を別紙第五に示すとおりとしたものである。
すなわち、全体の構成は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している平板状であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、通風孔部の外周は背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成し、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものである。
(7) 審判甲第12号証
審判甲第12号証の意匠は、1988年(昭和63年)9月より頒布した「Joto TOTAL LINE UP CATAROGUE」の「VOL 1」のカタログであり、このカタログの70頁右下方に、「ユニット通風パネル」として、上、下段に2つの通風パネルの意匠が掲載されており、その形態を別紙第五に示すとおりとしたものである。
<1> 上段の意匠について、
全体の構成は、外周に広幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に格子状の通風孔を多数形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の広幅の枠体は、下側を斜状に形成し、枠体の先端に外方に向かって外周全体に細幅の縁枠を設け、その縁枠に長円形状の孔部を規則的に形成し、通風孔部は、通風孔を通風孔部全体に格子状に形成している態様としたものである。
<2> 下段の意匠について、
全体の構成は、外周に広幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に格子状の通風孔を多数形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の広幅の枠体は、下側を斜状に形成し、枠体の先端に外方に向かって外周全体に細幅の縁枠を設け、通風孔部は、通風孔を通風孔部全体に格子状に形成してている態様としたものである。
(8) 事由1について(「事由1」等とあるのは、別紙「審決の理由中、当事者の主張摘示部分」における「4 原告が審判で主張した本件意匠と先行意匠との対比」の項を参照)
(a) 本件意匠と審判甲第1号証意匠の類否判断
本件意匠と審判甲第1号証意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は共通し、形態においては、以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を多数等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套している態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、全体の構成を、本件意匠は、外周に細幅の枠体を設けた扁平な函体状であるのに対し、審判甲第1号証意匠は、平板状である点、さらに、本件意匠は、枠体の左右両端及び下端の先端に外方に向かって細幅の縁枠を設けているのに対し、審判甲第1号証意匠は、枠体の外周全体に、背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成している点、通風孔を、本件意匠は、20個であるのに対し、審判甲第1号証意匠は、15個である点に差異がある。
そこで、上記の共通点と差異点を総合して、本件意匠と審判甲第1号証意匠の類否判断を全体として考察すると、両意匠は、全体の構成が、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様は共通し、構成各部の態様のうち、通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり、通風孔部の背面側については、看者の目に触れにくい部位における共通点なので、いずれの共通点も類否判断に影響を与えるほどのものとはなり得ず、以下に示す形態上の特徴ある差異を凌駕するほどのものとはいえない。すなわち、本件意匠の通風孔部の外周に細幅の枠体を設け、全体の構成を扁平なほぼ函体状としている態様は、審判甲第1号証意匠の全体形状を平板状としている態様とは、形態全体としてみた場合、顕著に現れる差異であり、しかも、最も看者の注意を惹く要素なので、これらの差異は類否判断に大きな影響を与えるものである。
(b) 本件意匠と審判甲第9号証意匠の類否判断
本件意匠と審判甲第9号証意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は共通し、形態においては以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を多数等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套している態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、全体の構成を、本件意匠は、外周に細幅の枠体を設けた扁平な函体状であるのに対し、審判甲第9号証意匠は、枠体の外周全体に、背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成している点に差異がある。
そこで、上記の共通点と差異点を総合して、本件意匠と審判甲第9号証意匠の類否判断を全体として考察すると、両意匠は、全体の構成が、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様は共通し、構成各部の態様のうち、通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり、通風孔部の背面側については、看者の目に触れにくい部位における共通点なので、いずれの共通点も類否判断に影響を与えるほどのものとはなり得ず、以下に示す形態上の特徴ある差異を凌駕するほどのものとはいえない。すなわち、本件意匠の通風孔部の外周に細幅の枠体を設け、全体の構成を扁平なほぼ函体状としている態様は、審判甲第9号証意匠の全体形状を平板状としている態様とは、形態全体としてみた場合、顕著に現れる差異であり、しかも、最も看者の注意を惹く要素なので、これらの差異は類否判断に大きな影響を与えるものである。
(c) 本件意匠と審判甲第5号証意匠の類否判断
次に、本件意匠と審判甲第5号証意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は一致し、形態においては以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、全体の構成が、外周に枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に通風孔を多数平行に形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、左右両端及び下端の先端に外方に向かって縁枠を設けた態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、外周に設けた枠体を、本件意匠は、細幅としているのに対し、審判甲第5号証意匠は、広幅としている点、通風孔部を、本件意匠は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けてほぼ縦長長方形状の通風孔を等間隔に20個形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しているのに対し、審判甲第5号証意匠は、通風孔部全体に縦桟を設け、通風孔を多数形成している点に差異がある。
そこで、上記の共通点と差異点を総合して、本件意匠と審判甲第5号証の類否判断を全体として考察すると、両意匠は、全体の構成が、外周に枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に、通風孔を多数平行に形成しているほぼ函体状とした態様は共通するものであるが、以下に示す構成各部の態様の差異を凌駕するほどのものとはいえない。すなわち、外周の枠体の幅による奥行の差異、枠体の先端に設けた縁枠の形状の差異及び通風孔部の態様、とりわけ、通風孔の形態の差異は、いずれも、意匠全体からみると別異の印象を呈しており、形態上において両意匠の顕著に現れる差異なので、これらの差異は類否判断に大きな影響を与えるものである。
(d) 本件意匠と審判甲第12号証意匠の類否判断
本件意匠と審判甲第12号証の上段の意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は共通し、形態においては以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、全体の構成が、外周に枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に通風孔を多数形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、先端に外方に向かって縁枠を設けた態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、外周に設けた枠体を、本件意匠は、細幅としているのに対し、審判甲第12号証の上段の意匠は、広幅としている点、通風孔部を、本件意匠は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けてほぼ縦長長方形状の通風孔を等間隔に20個形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しているのに対し、審判甲第12号証の上段の意匠は、通風孔部全体に格子桟を設け、通風孔としている点、枠体の先端の縁枠を、本件意匠は、左右両端と下端に設けているのに対し、審判甲第12号証の上段の意匠は、外周全体に設け、縁枠に長円形状の孔部を規則的に形成している点に差異がある。
本件意匠と審判甲第12号証の下段の意匠を比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は共通し、形態においては以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、全体の構成が、外周に枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に通風孔を多数形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、左右両端及び下端の先端に外方に向かって縁枠を設けた態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、外周に設けた枠体を、本件意匠は、細幅としているのに対し、審判甲第12号証の下段の意匠は、広幅としている点、通風孔部を、本件意匠は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けてほぼ縦長長方形状の通風孔を等間隔に20個形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しているのに対し、審判甲第12号証の下段の意匠は、通風孔部全体に格子桟を設け、通風孔としている点、枠体の先端の縁枠を、本件意匠は、左右両端と下端に設けているのに対し、審判甲第12号証の下段の意匠は、外周全体に設けている点に差異がある。
そこで、上記の共通点及び差異点を総合して、本件意匠と、審判甲第12号証の上段及び下段の意匠の類否判断を全体として考察すると、両意匠は、全体の構成が、外周に枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に通風孔を多数形成しているほぼ函体状であって、構成各部の態様について、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、先端に外方に向かって縁枠を設けた態様が共通するものであるが、以下の差異点を凌駕するほどのものとはいえない。すなわち、構成各部の態様において、外周の枠体の幅による奥行の差異、枠体の先端に設けた縁枠の形状の差異及び通風孔部の通風孔の形態の差異は、いずれも、意匠全体からみると別異の印象を呈しており、形態上において両意匠の顕著に現れる差異なので、これらの差異は類否判断に大きな影響を与えるものである。
(9) 事由2について
本件意匠と審判甲第2号証意匠の類否判断
本件意匠と審判甲第2号証意匠とを比較し、両意匠を全体として考察すると、両意匠は、意匠に係る物品は共通し、形態においては以下に示す共通点及び差異点がある。
すなわち、両意匠は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様であって、構成各部の態様について、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を多数等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套している態様において共通するものである。
これに対し、差異点として、全体の構成を、本件意匠は、外周に細幅の枠体を設けた扁平な函体状であるのに対し、審判甲第2号証意匠は、枠体の外周全体に、背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成している点に差異がある。
そこで、上記の共通点と差異点を総合して、本件意匠と審判甲第2号証意匠の類否判断を全体として考察すると、両意匠は、全体の構成が、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している態様は共通し、構成各部の態様のうち、通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり、通風孔部の背面側については、看者の目に触れにくい部位における共通点なので、いずれの共通点も類否判断に影響を与えるほどのものとはなり得ず、以下に示す形態上の特徴ある差異を凌駕するほどのものとはいえない。すなわち、本件意匠の通風孔部の外周に細幅の枠体を設け、全体の構成を扁平なほぼ函体状としている態様は、審判甲第2号証意匠の全体形状を平板状としている態様とは、形態全体としてみた場合、顕著に現れる差異であり、しかも、最も看者の注意を惹く要素なので、これらの差異は類否判断に大きな影響を与えるものである。
(10) 事由3について
原告は、本件意匠が、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠に示した意匠が周知であることから、当業者はこれらの意匠から極めて容易に創作することができたと主張するので、この点について検討する。
意匠法3条2項に規定する容易な創作と認められる意匠は、ありふれた形状等をほとんどそのまま物品に表した程度にすぎないもので、当事者が容易に創作できたと認められるものであるが、物品の一部分の形状等を改変して、意匠の創作がなされた場合は、その意匠登録出願前に、その意匠の属する分野において、その意匠に係る形態の一部を改変することが常套的手法として行われており、また、その改変した部分の態様についても、その意匠の属する分野における通常の知識を有する者の間で広く知られた形状等に基づいていることが必要であり、そうして、当業者が、それらの広く知られた形状等に基づいて当該意匠に係る形態を常套的手法によるわずかな改変を加えて容易に創作することができたと認められるものでなければならない。
この点から、本件意匠と審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠を考察すると、本件意匠は、外周に細幅の枠体を設けた横長四角形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している扁平なほぼ函体状の態様であるが、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠も、外周に枠体を設けた横長四角形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成しているほぼ函体状の態様を呈する床下通風口である点では共通しているとしても、本件意匠は、意匠の創作としてみた場合、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠とは、枠体の構成と、通風孔の態様が異なり、これらの枠体の形状に基づいて本件意匠の細幅の枠体及び通風孔の態様を容易に創作することができたとはいえず、また、当業者において常套手段の改変のための範囲内であるとするには当たらず、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠から容易に創作をすることができたものとすることはできないものである。
(11) 審決の結論
以上のとおり、本件意匠と審判甲第1号証意匠、審判甲第9号証意匠、審判第5号証意匠及び審判甲第12号証意匠は、意匠に係る物品は一致又は共通するとしても、形態上の要部において前記のごとく差異が見られ、この差異は看者の注意を強く惹くものであるので、意匠全体としてみると、両意匠は類似するものとすることはできない。
また、本件意匠と審判甲第2号証意匠は、意匠に係る物品は一致するとしても、形態上の要部において前記のごとく差異が見られ、この差異は看者の注意を強く惹くものと認められるので、意匠全体としてみると、両意匠は類似するものとすることはできない。
さらに、本件意匠は、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠に示した意匠から容易に創作することができたものとすることができない。
したがって、原告の主張及び提出した証拠によっては、意匠法3条1項3号、同法9条及び同法3条2項の規定に違反して登録されたものとすることはできないので、本件意匠を無効とすることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
審決は、本件意匠が、意匠法3条1項3号、同法9条1項又は同法3条2項に規定する意匠に該当するものであるにもかかわらず、事実を誤認してこれを否定したものであるから、取り消されるべきである。
1 事由1について(新規性の問題)
原告は、本件意匠は、審判甲第1号証に示した登録意匠中の「裏パネル」の形態に類似するものであったから、意匠法3条1項3号に該当する新規性のない意匠であると主張したが、審決は、この点の判断において、以下のとおり事実を誤認した。
(1) 審決は、両意匠の全体面積の最も広い正面部における横長長方形状の通風孔部の構成態様について、「構成各部の態様のうち、通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり」と認定するが、明らかに誤りである。この通風孔板の正面部は看者の視覚が最も注目する広面積の部分であり、細部ではないからである。
審決は、通風孔部の背面側についても、「看者の目に触れにくい部位における共通点である」と認定するが、意味不明である。この認定が、もし床下土台部に設置された後の状態を予想しているものであるとしたならば、本件意匠にあってもまた床下土台部に設置後は、横長長方形状の通風孔板の周囲の函形スリーブなどは看者の目に触れにくい部位になってしまうから、失当である。
したがって、同一物品の正面及び背面から見る最も広面積を占める通風孔部の正背両面部における共通点が、意匠の類否判断に影響を与えるものとなり得ないとした審決の認定は、誤りである。
(2) 審決は、前記のように通風孔部の正背両面部の共通点を無視した上で、この通風孔部の外周囲に細幅の枠体を設け全体の構成を扁平なほぼ函体状としている態様にのみ注目し、この点は、審判甲第1号証に係る意匠の全体形状が平板状としている態様とは顕著な差異であり、最も看者の注意を惹く要素であると認定する。
しかしながら、本件意匠に係る通風孔部の外周囲に外側方にスリーブや水切板を突出することは、土台の通風口部に挿入して設置し易くする施工作業上の要求に由来するものであって、美感形成のためではない。
また、本件意匠に見られる程度の枠体(函体というほどのものではない)は、審判甲第1号証に係る通風孔板の外周縁部の一方向への曲折度合を3倍位増加すればそのまま実現するものであるから、意匠全体としては美感を共通にするものとして、類似の意匠と認定することができるのである。(審判甲第1号証に係る意匠の裏パネル図面のA-A線断面図及び左右側面図・平底面図を参照)
(3) 通風孔部の外周囲に形成した枠体についていえば、審判甲第5号証に係る意匠もまた存在しているが、本件意匠はここに見られるほどの奥行の長い枠体ではないから、審判甲第1号証に係る意匠との対比においては、枠体の長さをもって意匠全体として顕著な差異であるから類似しないと判断することはできない。したがって、両意匠は同一ではないが、類似する。
(4) よって、本件意匠は意匠法3条1項3号の新規性の規定に違反して登録された意匠である。
2 事由2について(先願性の問題)
原告は、本件意匠は、審判甲第2号証に示した先願意匠に類似するものであったから、意匠法9条1項に該当する後願の意匠であると主張したが、審決は、以下のとおり事実を誤認してこの点に対し誤った判断をした。
(1) 審決は、両意匠の全体面積の最も広い正面部における横長長方形状の通風孔部の構成態様について、「構成各部の態様のうち、通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり」と認定するが、これは明らかに誤りである。この通風孔板の正面部は看者の視覚が最も注意を惹く広面積の部分であり、細部ではないからである。
また審決は、通風孔部の背面側についても、「看者の目に触れにくい部位における共通点である」と認定するが、意味不明である。この認定が、もし床下土台部に設置された後の状態を予想しているものであるとしたならば、本件意匠にあってもまた床下土台部に設置後は、横長長方形状の通風孔板の周囲のスリーブなどは看者の目に触れにくい部位になってしまうものであり、失当である。
したがって、同一物品の正面及び背面から見る最も広面積を占める通風孔部の正背両面部における共通点が、意匠の類否判断に影響を与えるものとなり得ないとした審決の認定は誤りである。
(2) 審決は、前記のように通風孔部の正背両面部の共通点を無視した上で、この通風孔部の外周囲に細幅の枠体を設け全体の構成を扁平なほぼ函体状としている態様にのみ注目し、この点は、審判甲第2号証に係る意匠の全体形状が平板状としている態様とは顕著な差異であり、最も看者の注意を惹く要素であると認定する。
しかし、本件意匠に係る通風孔部の外周囲に外側方にスリーブや水切板を突設することは、土台の通風口部に挿入して設置し易くする施工作業上の要求に由来するものであって、美感形成のためではない。
また、本件意匠に見られる程度の枠体(函体というほどのものではない)は、甲第2号証に係る通風孔板の外周縁部の一方向への曲折度合を2倍位増加すればそのまま実現するものであるから、意匠全体としては美感を共通にするものとして、類似の意匠と認定することができるのである。(甲第2号証に係る意匠図面のA-A線断面図及び左右側面図・平底面図を参照)
(3) 通風孔部の外周囲に形成した枠体についていえば、審判甲第5号証に係る意匠もまた存在しているが、本件意匠はここに見られるほどの奥行きの長い枠体ではないから、審判甲第2号証に係る意匠との対比において、枠体の長さをもって意匠全体として顕著な差異であるから類似しないと判断することはできない。したがって、両意匠は同一ではないが、類似する。
(4) よって、本件意匠は意匠法9条1項の先願登録主義の規定に違反して登録された意匠である。
3 事由3に対して(創作力の問題)
原告は、本件意匠は、審判甲第9号証に示した意匠及び審判甲第5号証に係る意匠がわが国において周知であり、当業者はこれらの意匠から容易に創作することができたから、意匠法3条2項に該当する創作力のない意匠であると主張したが、審決は、以下のとおり事実を誤認してこの点に対し誤った判断をした。
(1) 審判甲第9号証に係る判決(新潟地方裁判所三条支部平成6年(ワ)101号、平成9年3月21日言渡し)は、不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件に関するものである。この判決は、次のように事実認定して、原告(請求人)の原告商品(3)も、不正競争防止法2条1項1号に規定する「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているもの」であると判断した。同裁判所が周知であると認定した原告商品(3)とは、審判甲第2号証に係る原告出願の拒絶された先願意匠と同一形態のものであり、縦長通風孔の数はともに20個である。
(2) 審決は、本件意匠と審判甲第9号証に係る意匠(原告商品(3))及び審判甲第5号証に係る意匠との間に、その全体の形態についての共通性は具体的に述べて認めている一方、その相違性については部分的に違うというだけで具体的に何も述べていないが、これは事実認定の誤りである。
のみならず、審決は上記相違点を認定するに際し本件意匠の「細幅の枠体」とし、これは、本件意匠の図面の参考斜視図に説明されている左右両側のスリーブ部と下側の水切板との外端縁のフランジ部を意味するものと思われるが、このような構成は、甲第5号証に係る意匠において類似する態様が見られる。また、審決が相違点とする通風孔の態様は、甲第9号証に係る原告商品(3)の意匠と同一の態様である。
したがって、この2つの周知意匠の両態様部分を併せて本件意匠のような構成の意匠にまとめることは、当業者にとっては容易に創作できることであったと認められるにもかかわらず、審決がそれを看過したのは事実誤認である。
(3) 本件意匠が意匠法3条2項に規定する創作力がない理由をまとめると、次のとおりである。
審判甲第9号証に係る原告商品(3)の意匠は、既に前記侵害訴訟裁判所において周知性が認められているから、まずこの周知意匠は本件意匠の正面部及び背面部において見られる広面積の形態部分に対して適用することができ、その限りにおいて広面積に当たる正面部及び背面部における形態は甲第9号証に係る原告商品(3)の周知意匠と同一である。
審判甲第5号証には外周枠体が外方に飛び出ている形態が見られるから、この意匠は本件意匠の左右側面部及び平底面部に見られる形態部分に対して適用することができ、その限りにおいてこれらの形態は審判甲第5号証に係る意匠において周知なものとなっているといえる。
したがって、審判甲第9号証に係る周知の原告商品(3)の意匠及び審判甲第5号証に係る周知の意匠を合わせれば、当業者は本件意匠のようなものを容易に創作することができたから、本件意匠は意匠法3条2項の創作力を欠如した意匠である。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
1 原告は、「通風孔部の正面側の態様は、意匠全体からみると、細部における共通点であり」とした審決の認定を誤りとする。この原告の主張は、通風孔部の正面側は広面積の部分であるから、その部分を細部と認定した審決は事実を誤認しているというものである。
しかしながら、審決は、通風孔部の正面側が広面積を占めない小サイズの部分であるというような理由で、その正面側の態様を「細部」と認定したわけではない。
審決は、通風孔部の正面側の態様における共通点が、全体の構成を「偏平なほぼ函体状」とした本件意匠の態様と、全体形状を「平板状」とした審判甲第1号証意匠及び審判甲第2号証意匠の態様とにおける顕著な差異を凌駕するほどのものではないから、その共通点を「細部における共通点」と認定しているのである。
そもそも、類否判断の経験則に徴すれば、意匠の類否判断において、「細部の共通点」あるいは「細部の差異点」という場合の「細部」とは、物理的サイズが小さい部分の意ではなく、看者の印象度が小さい部分というような意であるから、広面積の部分であっても細部と認定し得る。
2 原告は、通風孔部の背面側について、審決が「看者の目に触れにくい部位における共通点である」と認定したのは誤りと主張する。
この原告の主張は、床下土台部に設置後は、通風孔板の周囲の函形スリーブも看者の目に触れにくい部位になってしまうから、通風孔部の背面側が看者の目に触れにくい部位と認定した審決は失当であるというものである。
しかしながら、設置後も看者の目に十分触れる通風孔板の周囲の函形スリーブが、設置後は看者の目に全く触れなくなる通風孔部の背面側と同じく「看者の目に触れにくい部位」であるというような原告の論理は、失当である。
3 原告は、事由1について(新規性の問題)と事由2について(先願性の問題)の各項において、「本件意匠に係る通風孔部の外周囲に外側方にスリーブや水切板を突出することは、土台の通風口部に挿入して設置し易くする施工作業上の要求に由来するものであって、美感形成のためではない。」と主張する。
この原告の主張は、本件意匠において、通風孔部の外周囲に設けた細幅の枠体は、美感を形成しないというものである。
しかしながら、本件意匠の全体を「偏平なほぼ函体状」に構成しているのは、通風孔部と、その外周囲に設けた細幅の枠体であって、この細幅の枠体が存しなければ、本件意匠の全体の構成を「偏平なほぼ函体状」の態様とすることはできない。
すなわち、本件意匠は、通風孔部の外周囲に細幅の枠体を設けているからこそ、全体の構成が「偏平なほぼ函体状」の態様をなして、全体の外観が写真現像用のバットにも似た独特の美感を醸出するものとなっているのである。
しかるに、その細幅の枠体が本件意匠の美感を形成するものではないというような原告の主張は失当である。
4 原告は、「本件意匠に見られる程度の枠体(函体というほどのものではない)は、審判甲第1号証(ないし審判甲第2号証)に係る通風孔板の外周縁部の一方向への曲折度合を3倍位(ないし2倍位)増加すればそのまま実現するものであるから、意匠全体としては美感を共通にするものとして、類似の意匠と認定することができるのである。」旨主張する。
しかしながら、この原告の主張は、審判甲第1号証や審判甲第2号証の意匠とは別に、実在しない架空の意匠を引用して、本件意匠はその架空の意匠と美感を共通にするから審判甲第1号証や審判甲第2号証の意匠に類似するという不可解なものである。
5 原告は、事由1について(新規性の問題)と事由2について(先願性の問題)の各項において、「通風孔部の外周囲に形成した枠体についていえば、審判甲第5号証に係る意匠もまた存在しているが、本件意匠はここに見られるほどの奥行きの長い枠体ではないから、審判甲第1号証(ないし審判甲第2号証)に係る意匠との対比において、枠体の長さをもって意匠全体として顕著な差異であるから類似しないと判断することはできない。したがって、両意匠は同一ではないが、類似する。」と主張する。
この原告の主張は、本件意匠の枠体が、審判甲第5号証意匠の枠体ほどに奥行きが長くないから、本件意匠は審判甲第1号証及び審判甲第2号証の意匠に類似するというものである。
しかしながら、本件意匠と審判甲第1号証意匠及び審判甲第2号証意匠との類否判断において、何故に審判甲第5号証意匠の枠体の奥行きの長さを判断基準とするのか、その根拠が不明である。
また、本件意匠の枠体が審判甲第5号証意匠の枠体ほどに奥行きが長くないから、本件意匠は審判甲第1号証意匠、審判甲第2号証意匠に類似するという判断基準自体も、全く根拠のないものである。
6 原告は、事由3に対して(創作力の問題)の項において、審判甲第9号証意匠は、本件意匠の正面部及び背面部において見られる広面積の形態部分に対して適用することができ、審判甲第5号証意匠は、本件意匠の左右側面部及び平底面部に見られる形態部分に対して適用することができ、したがって、審判甲第9号証に係る周知の原告商品(3)の意匠及び審判甲第5号証に係る周知の意匠を合わせれば、当業者は本件意匠のようなものを容易に創作することができたものであるから、本件意匠は意匠法3条2項の創作力を欠如した意匠である旨主張する。
しかしながら、この原告の主張は、意匠法3条2項の創作性水準を平成10年改正意匠法(平成10年法律第51号)の水準あるいはそれ以上に引き上げて、本件意匠が意匠法3条2項に該当するというものであり、改正法附則4条1項に反した主張である。
すなわち、創作性水準が引き上げられた平成10年改正意匠法3条2項をもってしても、何ら合理的根拠もなく、審判甲第9号証意匠と審判甲第5号証意匠の形態中からそれぞれその一部を抽出して、それらの形態部分を本件意匠の各部形態に適用することができるというような理由によって、本件意匠が容易に創作できたとは到底いい得ない。
ましてや、本件意匠の創作性有無の判断は、平成10年改正法によらず、従前の例によるから(改正法附則4条1項)、原告が主張するような理由で本件意匠が意匠法3条2項に該当するといい得ないことは明白である。
しかも、原告の主張どおりに審判甲第9号証意匠の形態部分と審判甲第5号証意匠の形態部分とを適用して構成される意匠は、審判甲第9号証意匠に係る通風孔部の外周囲に、甲第5号証意匠に係る枠体(=奥行きが長く、先端に巨大な耳片状の「フチカバー」が形成された特異な形態の枠体)を設けたものであるから、本件意匠とは構成態様が顕著に相違する。
すなわち、原告が甲第9号証意匠と甲第5号証意匠とを併せて容易に創作することができたという意匠は、本件意匠ではなく、これとは全く別異の意匠であるから、原告の主張は失当である。
第5 当裁判所の判断
1 当裁判所は、審決は本件意匠の容易創作性についての判断を誤ったものであり、取り消されるべきものと判断する。その理由は以下のとおりである。
2 本件意匠が、外周に細幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している扁平なほぼ函体状であって、構成各部の態様をみると、外周の枠体は、下側を斜状に形成し、左右両端及び下端の先端に外方に向かって細幅の縁枠を設け、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものであることは、別紙第一から明らかであり、審決が認定したとおりである。
3 審判甲第9号証意匠が、全体の構成は、横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成している平板状であって、構成各部の態様をみると、通風孔部は、通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套しており、更に詳細にみると、通風孔部の外周は背面側に向かってフランジ状に平板状部とほぼ同一幅の細枠を形成し、各通風孔の周縁にわずかな段差を形成している態様としたものであることも、別紙第五から認めることができ、これも審決の認定したとおりである。
4 本件意匠と審判甲第9号証意匠とを対比すると、両者は、外周の細幅の枠体の有無という点において差異はあるが、いずれも通風孔の周囲に段部を形成して周縁を額縁状とし、段部の内側に余地部を設けて通風孔を20個等間隔に配置し、各通風孔の上下端を円弧状に形成し、通風孔の背面側全面に網板を被套している点で共通するものと認められ、両者は正面から見る形態及び背面から見る形態が酷似しているものということができる。
5 ところで、甲第5号証(審判甲第5号証)によれば、本件意匠に係る通風孔部の外周囲に縁カバーなどを突出させることは、床下通風口を土台の通風口部に挿入して設置し易くするという施工作業上の便に起因するものであって、機能面上の要請からその形態が採択されるものであることが認められ、通風口を建物の床下に取り付けられた後は、本件意匠及び審判甲第9号証意匠は、ともに、主として正面図が看者の目に触れるものとなることが明らかである。しかも、建物に取り付けられる前においても、本件意匠は、正面から見る形態が看者に圧倒的な印象を与えるものとなるのに比して、その外周の枠体は、縁枠が細幅で扁平な函体状であって、それが、斜視ないし側面からでないと観察しにくいものであること、したがって、縁枠の形状も美感上顕著な印象を与えるものではないものということができ、その印象は薄いものと認められる。
確かに、床下通風口は、それ自体が取引される際には、斜視ないし側面からの印象も美感に影響を与えるものであり、この印象も無視することはできないが、上記の各事情に照らせば、建物の床下土台部に設置された後には、斜視ないし側面からの印象はほとんど美感に影響がなくなるものということができるし、特に、縁枠が細幅で扁平な函体状の本件意匠においては、床下通風口自体の取引の際にも正面からの観察に比し、斜視ないし側面からの観察から与えられる印象は薄いものと認められる。
このように、本件意匠の正面部に観察される通風孔板は、看者の視覚が最も注目する部分となって表れ、本件意匠の要部は、正面部から観察される通風孔板における通風孔の数及びその形状などにあるというべきである。本件意匠の外周の細幅の枠体は、この要部に比し、看者に与える印象は小さく、本件意匠の容易創作性の判断に当たり、格別のものということはできない。
6 審決は、「本件意匠は、意匠の創作としてみた場合、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠とは、枠体の構成と、通風孔の態様が異なり、これらの枠体の形状に基づいて本件意匠の細幅の枠体及び通風孔の態様を容易に創作することができたとはいえず、また、当業者において常套手段の改変のための範囲内であるとするには当たらず、審判甲第9号証意匠及び審判甲第5号証意匠から容易に創作をすることができたものとすることはできない」と判断している。この認定中、通風孔の態様が異なるとした部分は、主として本件意匠と審判甲第5号証意匠との間の対比を念頭に置いたものと理解され、また、審決がここで本件意匠と審判甲第9号証意匠との間の差異点を認定したのは、主として枠体の構成の点(枠体の有無)にあると理解される。
しかしながら、前認定のとおり、本件意匠と審判甲第9号証意匠とは、本件意匠の要部たる正面部から観察される通風孔板における通風孔の数及びその形状においてほとんど共通するものであり、酷似している一方で、審決が異なると認定した枠体の構成は、上記のように、本件意匠において格別のものではないと認められる。
そして、外周に広幅の枠体を設けた横長長方形状の通風孔部に縦長通風孔を多数平行に形成しているほぼ函体状であると認められる審判甲第5号証意匠の形態及び審判甲第12号証意匠の形態(その態様は、審決の理由の要点(7)で認定されているとおりである。)並びに甲第6ないし第8号証によれば、床下通風口において枠体を設ける構成とし、函体状のものとすることは広く知られていたものと認めることができる。したがって、審判甲第9号証意匠との間に存する枠体の有無の差異点に関する本件意匠の態様も、当業者において、容易に創作することができる範囲内のものにすぎないというべきである。なお、本件意匠の枠体が比較的細幅のものであって、その印象が薄いことからすると、審判甲第5号証意匠及び審判甲第12号証意匠の枠体が広幅のものであっても、本件意匠の枠体の幅の程度は格別のものではなく、容易創作性の判断に影響を及ぼさない。
7 そうすると、本件意匠は、審判甲第9号証意匠と広く知られた形状とによって当業者が容易に創作することができたものであるから、これに反する審決の事由3に対する判断は誤りであり、この誤りは、本件審判請求を成り立たないとした審決の結論に影響を及ぼすものであることが明らかである。
第6 結論
以上のとおり容易創作性に関する原告の審決取消事由は理由があるので、その余の審決取消事由について判断するまでもなく、本訴請求は認容すべきである。
(平成11年9月2日口頭弁論終結)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)