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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)171号 判決 1999年10月28日

原告

コグネックス・コーポレイション

代表者

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

被告

特許庁長官【E】

指定代理人

【F】

【G】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実

第1  請求

特許庁が平成6年審判第13134号事件について平成11年1月20日にした審決を取り消す。

第2  前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成2年12月12日、「COGNEX」の欧文字を横書きしてなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第11類「電子応用工程管理装置その他本類に属する商品」とする商標(以下「本願商標」という。)について、商標登録出願(平成2年商標登録願第137522号)をしたが、平成6年4月20日拒絶査定を受けたので、同年8月9日拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成6年審判第13134号事件として審理した結果、平成11年1月20日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年2月15日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、本願商標と引用商標(登録第2618224号商標。審決書別紙参照)とは、外観において相違し、観念上比較すべくもないとしても、その称呼において類似する商標であり、かつ、その指定商品も同一又は類似するものであるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当し、登録することができないと判断した。

第3  審決の取消事由

1  審決の認否

(1)  審決の理由1(本願商標)及び同2(引用の登録商標)は認める。

(2)  審決の理由3(当審の判断)のうち、「後半の「コムネックス」の文字部分より生ずる称呼をもって取引に資される場合が多いと考えられる」(審決書3頁8行、9行)こと及び3頁17行「しかも」から4頁10行までは争い、その余は認める。

2  取消事由

審決は、以下のとおり、本願商標と引用商標との類否の判断を誤ったものであり、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(鼻音の点の認定の誤り)

審決は、「本願商標から生ずる「コグネックス」と引用商標より生ずる「コムネックス」の両称呼を比較するに、両者はともに6音からなるものであって、そのうちの語頭の「コ」と第3音目以降の「ネックス」の5音を同じくし、その異なるところは第2音目において「グ」と「ム」の音の差にすぎず、しかも「グ」と「ム」の音は、母音(u)を同じくするうえに、鼻音として発音される共通性を有するものであり・・・、加えて、語の中間に位置するため、必ずしもその差異を明確には聴取し難いものであるから、両者をそれぞれ一連に称呼した場合には、全体としての語調、語感が近似したものとなり、彼此聴き誤るおそれのあるものと判断するのが相当である。」(審決書3頁13行ないし4頁4行)と認定するが、誤りである。

ア 「グ」は口蓋の摩擦により発音される口蓋音であるk、g、xの仲間に属するので、聴く者に強い印象を生じる。そして、「コグネックス」の称呼中第2音に属し、しかも頭音「コ」と同等の強さで発音されるために、称呼の識別性に大きく寄与している。

これに対し、引用商標における「ム」は、弱音であり、「コムネックス」と発音する際にその前後の「コ」と「ネ」との関係から最も弱音化して発音される。

したがって、両称呼は何ら相紛れるおそれはない。

イ 審決は、「グ」は鼻音化される旨認定するが、鼻音化するか否かは前後の音との関係で決まるものであるところ、「コグネックス」との前後関係に中では、鼻音化されるものではない。

(2)  取消事由2(観念の点の不考慮)

審決は、「本願商標と引用商標とは、外観において相違し、観念上比較すべくもないとしても、その称呼において類似する商標であり、・・・商標法第4条第1項第11号に該当する」(審決書4頁5行ないし9行)と判断するが、誤りである。

ア 称呼の類似は、その商標を使用した商品について出所の混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、外観、観念及び称呼のうちの1つにおいてのみ類否の判断をしても、商標の類否を適正に判断したことにはならない。

イ 本願商標の「COGNEX」は、「COG」と「NEX」とが結合したものと認識され、引用商標の「COMNEX」及び「コムネックス」は、「COM」と「NEX」、「コム」と「ネックス」が結合したものと認識される。これらのうち、「NEX」、「ネックス」は主に語感を整えるために用いられており、特に意味のある部分ではなく、語頭に比べ識別力にさほど寄与しない部分である。

そして、「COM」及び「コム」は、「COMPUTER」及び「コンピュータ」又は「COMMUNICATION」及び「コミュニケーション」を想起させる主要部であり、「コンピュータ」又は「通信」の観念を生じる。これらの語は既に日本語化されており、その意味もよく認識されている。しかも、「COM」及び「コム」がコンピュータ又は通信という観念を生じさせることがよく知られているため、その一部が本件のように「COG」及び「コグ」に変わった場合、それが周知の「COM」及び「コム」とは異なったものであることは、直ちに認識されるものである。

さらに、後記ウのとおり、電子電気装置について高度の知識を有する取引者及び需要者にとって、「COG」は、「RECOGNITION」を想起させる主要部であり、「認識」の観念を生じさせるものである。

ウ 本願商標を付して使用する商品は、電子応用工程管理装置であり、本願に係る商品の取引者、需要者は、この分野の高度の知識を有するものであり、取り扱う商品の種類や性能等について微細な差異まで見分けることができるものである。

エ 以上のような具体的な取引状況においては、本願商標及び引用商標の各主要部が取引者、需要者に特定の観念を生じさせるために、これら取引者、需要者が両商標の付された商品を混同することはあり得ないことである。

第4  審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

原告主張の審決の取消事由は争う。

2  反論

(1)  取消事由1(鼻音の点の認定の誤り)について

「グ」の音は、語頭以外では鼻音として発音されることが多く(広辞苑ー甲第4号証、日本語発音アクセント辞典ー乙第1号証)、本願商標中の「グ」も、語中に位置することにより鼻音となることが多いと認められる。

したがって、本願商標中の「グ」と引用商標中の「ム」の音は、母音〔u〕を同じくする上、鼻音として発音される共通性を有するものである。

したがって、両称呼は、それぞれ一連に称呼するときはよどみなく一気に称呼され得るものであり、かつ、両称呼の差異である「グ」と「ム」の音は、上記のとおり、母音〔u〕を同じくする上、鼻音として発音される共通性を有するものであり、しかも、その差異音は語の中間に位置するため、必ずしもその差異を明確には聴取し難いものであるから、両称呼は、それぞれを一連に称呼した場合には、全体の語調、語感が近似したものとして聴取され、相紛らわしいものというべきである。

(2)  取消事由2(観念の点の不考慮)について

ア 審決は、外観及び観念についても検討した上で、その称呼の近似性により、全体として互いに相紛れるおそれのある類似する商標であると認定しているものである。

イ 本願商標は、「COGNEX」の文字を同じ書体、同じ大きさ、等間隔に書してなるもので、視覚上一体のものとして認識されるものであり、語義上も「COG」と「NEX」に分離して考察すべき特段の事由もないものであって、その構成全体をもって一体不可分の造語と認識されるものである。

また、引用商標は、上段の「COMNEX」の文字部分と下段の「株式会社コムネックス」の部分とに視覚上分離して認識され、下段の「株式会社コムネックス」については「コムネックス」のみが更に分離して認識されることがあるとしても、これを更に「COM」と「NEX」、「コム」と「ネックス」に分離して考察しなければならないとする特段の事由はなく、「COMNEX」、「コムネックス」を最小単位として一体不可分の造語よりなるものと認識されるとみるのが最も自然な見方である。

さらに、本願商標中の「COG」から「RECOGNITION」が想起され、「認識」の観念が生じるとみることはできないし、引用商標中の「COM」、「コム」から、「COMPUTER」及び「コンピュータ」又は「COMMUNICATION」及び「コミュニケーション」が想起され、「コンピュータ」又は「通信」の観念が生じるとみることもできない。

ウ 原告は、本願に係る商品の取引者、需要者は、電子応用工程管理装置について高度の知識を有するものであり、取り扱う商品の種類や性能等について微細な差異まで見分けることができる旨主張する。

しかしながら、本願商標は、旧第11類に属する商品のすべてをその指定商品とするものであり、「照明器具」、「電池」、「電気洗濯機、電気掃除機等の民生用電気機械器具」等一般需要者が日常購入するような商品も多数含んでいるものであるから、原告主張のように、本願商標に係る商品の需要者層を特定の分野の専門知識を有する者のみに限定して考察することは適当でない。

理由

1  取消事由1(鼻音の点の認定の誤り)について

(1)  審決の理由1(本願商標)及び同2(引用の登録商標)は当事者間に争いがない。

(2)  本願商標から生ずる称呼の認定(審決書2頁16行ないし末行)は、当事者間に争いがない。

(3)  引用商標から生ずる称呼の認定(審決書3頁1行ないし12行)のうち、「後半の「コムネックス」の文字部分より生ずる称呼をもって取引に資される場合が多いと考えられる」(審決書3頁8行、9行)ことを除く事実は、当事者間に争いがない。

上記当事者間に争いのない引用商標の構成によれば、引用商標は、「コムネックス」の文字部分より生ずる称呼をもって取引に資される場合が多いものと認められる。

(4)  「本願商標より生ずる「コグネックス」と引用商標より生ずる「コムネックス」の両称呼を比較するに、両者はともに6音からなるものであって、そのうちの語頭の「コ」と第3音目以降の「ネックス」の5音を同じくし、その異なるところは第2音目において「グ」と「ム」の音の差にすぎ(ない)」(審決書3頁13行ないし17行)ことは、当事者間に争いがない。

甲第4号証によれば、広辞苑の「ぐ」の項には、「「く」の濁音。後舌面を軟口蓋に接し破裂させて発音する有声子音〔g〕と母音〔u〕との結合した音節。〔gu〕 ただし、語頭以外では鼻音〔?u〕となることが多い。」と記載され、乙第1号証によれば、日本語発音アクセント辞典改訂新版(日本放送協会発行)の第2章第1節「共通語のガ行鼻音」の項に、「共通語のガ行音は、・・・語頭では、破裂音の〔g〕で発音されるが、それ以外では、・・・鼻音の〔?〕で発音される。この〔?〕で発音される音を《ガ行鼻音》という。」と説明されていることが認められる。これらによれば、本願商標の「コグネックス」の第2音は、第1音が「コ」であり、第3音が「ネ」であることを考慮しても、鼻音の〔?u〕と発音されるものと認められる。これに反する原告の主張は採用することができない。

そして、弁論の全趣旨によれば、引用商標「コムネックス」の第2音も鼻音として発音されるものと認められる。

(5)  そうすると、前記のとおり、本願商標より生ずる「コグネックス」と引用商標より生ずる「コムネックス」の両称呼を比較すると、両者はともに6音からなるものであって、そのうちの語頭の「コ」と第3音目以降の「ネックス」の5音を同じくし、その異なるところは第2音目における「グ」と「ム」の音の差にすぎないところ、「グ」と「ム」の音は、母音〔u〕を同じくする上に、鼻音として発音される共通性を有し、かつ、語の中間に位置するものであるから、必ずしもその差異を明確に聴取し難いものであると認められる(なお、この点は、後記2(1)のとおり、引用商標が取引者、需要者によって、「コンピュータ」又は「通信」と関連する商品の商標と受け取られることを考慮した場合であっても、同様である。)。

したがって、両者をそれぞれ一連に称呼した場合には、全体として語調、語感が近似したものとなり、両者を聞き誤るおそれがある旨の審決の判断に誤りはないものと認められ、原告主張の取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(観念の点の不考慮)について

(1)  観念について

ア  「COMPUTER」、「COMMUNICATION」は、それぞれ「コンピュータ」、「通信」を意味するものとして日本語化しているものと認められるところ、引用商標は、「COM」及び「コム」を語頭等に有するものであるから、取引者、需要者によって、「コンピュータ」又は「通信」と関連する商品の商標と受け取られる場合も少なくないものと認められる。これに反する被告の主張は採用することができない。

イ  次に、原告は、本願商標の「COGNEX」は、「COG」と「NEX」とが結合したものと認識され、「COG」から「認識」の観念を生じる旨主張する。

しかしながら、本願商標の取引者、需要者が電子応用工程管理装置の分野の高度の知識を有する者だけではないことは、後記(2)に説示のとおりであり、しかも、我が国における英語の普及度を考慮すると、「RECOGNITION」はよく知られた英単語とまでは認められないから、本願商標の取引者、需要者が本願商標中の「COG」から「RECOGNITION」、更に「認識」の観念を想起するものとは認められない。他に、本願商標から「認識」の観念が生じると認めるべき理由は認められないから、本願商標からは、格別の観念は生じないものと認めるべきである。

(2)  取引者、需要者の高度の知識の点

原告は、本願商標を付して使用する商品は電子応用工程管理装置であり、本願に係る商品の取引者、需要者はこの分野の高度の知識を有するものであり、取り扱う商品の種類や性能等について微細な差異まで見分けることができるものである旨主張するが、本願商標の指定商品は、前記説示のとおり、旧第11類「電子応用工程管理装置その他本類に属する商品」であるから、本願商標の指定商品が電子応用工程管理装置のみであることを前提とする原告の上記主張は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(3)  類否の判断

本願商標と引用商標とは、その称呼において前記1に説示のとおり類似するものであるから、上記(1)に説示のとおり、本願商標と引用商標とは観念の点で比較できないことを考慮しても(さらに、外観の点で異なる点を考慮しても)、本願商標は引用商標に類似するものと認められる。これに反する原告の主張は採用することができない。

そして、前記当事者間に争いのない「本願商標」及び「引用の登録商標」によれば、本願商標と引用商標とは、指定商品も同一又は類似するものであるから、本願商標は商標法4条1項11号に該当するものというべきであり、これと同旨の審決の判断に誤りはない。

3  結論

以上によれば、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成11年9月9日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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