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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)174号 判決 2000年3月15日

原告

訴訟代理人弁理士

被告

特許庁長官C

指定代理人

主文

特許庁が、平成9年審判第11742号事件について、平成11年4月30日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成7年7月24日、意匠に係る物品を「卵包装容器」とし、その形態を別添審決書写し別紙第一記載のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)について意匠登録出願(意願平7ー21123号)をしたが、平成9年6月20日に拒絶査定を受けたので、同年7月14日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成9年審判第11742号事件として審理したうえ、平成11年4月30日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年5月18日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願意匠が、平成7年6月20日の意匠登録出願に係る意願平7ー17714号の意匠であって、意匠に係る物品を「卵運搬容器」とし、形態を同審決書写し別紙第二記載のとおりとする意匠(以下「引用意匠」という。)と、意匠に係る物品が同一であり、形態が類似するものであるから、本願意匠は、意匠法9条1項の最先の意匠登録出願人に係る意匠に該当せず、意匠登録を受けることができないとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願意匠と引用意匠との共通点(1)、(3)、(5)の各認定(審決書2頁16行~3頁2行、3頁7行~4頁2行、4頁12行~5頁4行)、差異点(イ)~(ト)の各認定(同5頁6行~6頁16行)は認める。

審決は、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品を同一のものと誤って認定し(取消事由1)、また、差異点についての評価判断を誤って(取消事由2)、本願意匠と引用意匠との形態が類似するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(意匠に係る物品の認定の誤り)

審決は、「両意匠(注、本願意匠及び引用意匠)は、意匠に係る物品が同一のものと認められ、」(審決書2頁14~15行)と認定したが、それは誤りである。

すなわち、引用意匠の意匠に係る物品が生卵用の収容容器であるのに対し、本願意匠の意匠に係る物品は、茹卵又は半熟卵(以下「茹卵等」という。)用の収容容器であって、この両者は、収容する物品が異なり、また、それぞれの取扱業者も異にするものであるから、両者の意匠に係る物品が同一のものであるとする認定は誤りである。

本願意匠が茹卵等の収容容器であることは、皿体の左右各部においては、前後の卵収容部(以下「収容部」という。)を堤部(仕切り)により区画しているのに対し、中央部には前後を仕切る堤部がなく、等幅状の空所とされていることによって明らかである。すなわち、該空所は、堤部(仕切り)によって前後に区画されておらず、破卵しやすい生卵を収容することは極めて不適切であるから、生卵の収容部ではなく、茹卵等に使用する調味料を収容する部分である。

審決は、本願意匠と引用意匠との意匠に係る物品が同一であるとの誤った認定を前提として、本願意匠及び引用意匠の類否判断を行い、それが類似するとの結論に至ったものであるから、両意匠の意匠に係る物品の認定の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。

なお、原告が、本件審判において、本願意匠の意匠に係る物品が、茹卵等の包装容器であるとの主張をしなかったのは、代理人の誤解によるものである。

2  取消事由2(差異点についての評価判断の誤り)

(1)  差異点(イ)について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(イ)について、「通常の使用態様において該部は容体(注、皿体)の底面に当たり、比較的、看者の目に付き難い部位に当たる」(審決書8頁5~6行)、「収容部の面取りの態様、凸リブの配置等に、極めて強い共通性が認められる・・・、そして、形態全体としてみると、看者の目に付きやすい蓋体全体に強い共通性が認められる」(同頁8~12行)として、「その差異は、両意匠の共通点が奏する全体の基調を凌駕するほどの外観上の特徴をなすには至らず、形態全体としてみれば、その差異は部分的なものに止まるものである。」(同頁12~16行)と評価判断した。

しかしながら、本願意匠については、意匠登録願書(甲第2号証)の「意匠の説明」欄に記載されたとおり、意匠に係る物品が透明であるから、透明な蓋体を通して、皿体の収容物を直ちに、かつ、正確に認識できるものである。そうすると、皿体中央部に調味料が収容されていることを認識することにより、底面の側から見るまでもなく、皿体中央部が左右各部と同様な卵収容部の構成を備えないことが容易に判明するものであり、差異点(イ)が看者の目に付き難い部位に当たるということはできない。

そして、本願意匠と引用意匠とが、形態全体としてみると、看者の目に付きやすい蓋体全体に強い共通性が認められるとの判断は、本願意匠の意匠に係る物品が透明であることを看過したものであり、差異点(イ)が、共通点が奏する全体の基調を凌駕するほどの外観上の特徴をなすには至らず、形態全体としてみれば、その差異は部分的なものに止まるものであるとの評価判断も誤りである。

(2)  差異点(ロ)について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(ロ)について、「本願のもののごとく、該部にラベル等を貼付するための略横長方形状の区画部を表したものが従来にも見られ、この点を本願の意匠独自の特徴とすることもできないものであって、全体としては皿体についての共通点に吸収される小さな差異」(審決書8頁18行~9頁3行)であるとしたが、本願意匠の区画部が、従来存したと否とにかかわらず、容体の外観容易な外壁面に形成され、そのことによって、容体が左右非対称に形造られていることが明瞭に認識できるのであるから、かかる区画部を有さず、どの収容部も同形に形成され、左右対称形に形造られている引用意匠と対比した場合に、「小さな差異」と判断されるものでないことは明らかであって、審決の該評価判断は誤りである。

(3)  差異点(ハ)について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(ハ)について、「蓋体頂面の中寄りに、頂面の前後幅の1/2強の径の開口部を左右に2カ所設け、これから下方に先細錐台状に垂下する凹陥部を形成して、閉蓋時に蓋体を内側で支える支柱としたという特徴的な共通点の中で見られる差異であり、本願のものが4本の凸リブを有すること、また垂下する態様が、僅かに内側に湾曲した、請求人(注、原告)の主張する「朝顔形」であることを勘案してもなお、この共通性を圧して看者に顕著な差異感を印象付けるには至らないと言うべきで、形態全体として見れば、蓋体についての共通点の中での部分的な差異といえ、類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものでなく、」(審決書9頁4~16行)としたが、差異点(ハ)に係る蓋体開口部から内部に突出した垂下凹陥部は、看者のもっとも目に付く部分であり、四方に向かって突出する縦筋状に表された4本の凸リブを備えた円錐形の垂下凹陥部と、稜線が縦筋状に表された八角錐形の垂下凹陥部とは、一見して明らかな差異があって、意匠の別異を判断する第一の要素となるものであるから、上記の審決の評価判断は誤りである。

(4)  差異点(ニ)について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(ニ)について、「限られた部分に見られる小さな差異である上、本願のものも格別特徴的なものでなく、類否判断に及ぼす影響は小さく、」(審決書9頁16~18行)としたが、引用意匠における、縦長2列に凹凸形成された蓋体及び皿体の鍔部の模様は、本願意匠は全く備えておらず、その差異は明瞭であって、両者は明らかに意匠感を異にするものである。

(5)  差異点(ト)について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点(ト)について、「本願のものの丸み付けも小さく、蓋体全体の共通点を圧して両意匠に別異感を与えるほどのものと言えず、全体としては小さな差異に止まり、」(審決書10頁6~9行)としたが、差異点(ト)は最も目立ちやすい蓋体頂面四周における明瞭な差異であって、審決の認定は誤りである。

(6)  全体的意匠感について

審決は、本願意匠と引用意匠との差異点に関し、部分的・局部的な対比を行っているのみであるが、全体的意匠構成及び意匠感についても十分な対比検討を行うべきものである。

しかるところ、本願意匠と引用意匠との間の、差異点(イ)、(ロ)、(二)に係る容体の差異を対比すれば、両者は混同することが全く考えられない程度の明らかな差異を有しており、また、本願意匠が差異点(イ)、(ロ)に係る構成を有するため、本願意匠の容体は、看者に対し、特異で不安定的感覚の意匠感を与えるのに対し、引用意匠がかかる構成を有しておらず、容体全体が上下・左右方向とも対称的であるため、引用意匠の容体は、看者に対し、平凡で違和感のない安定した感覚の意匠感を与えるものであって、両者は意匠感を全く異にしている。

さらに、本願意匠と引用意匠との間の、差異点(ハ)、(ニ)、(ト)に係る容体の差異を対比すれば、両者は混同することが全く考えられない程度の明らかな差異を有しており、また、本願意匠の蓋体が全体として、看者に対し、丸みからくる温かい感じを与えるのに対し、引用意匠の蓋体は全体として、看者に対し、直線からくる冷たい感じを与えるものであって、両者は意匠感を全く異にしている。

上記のとおり、本願意匠と引用意匠とは、全体的な意匠感を異にするものであり、この全体的な差異は、意匠に係る物品である卵包装容器が未使用の開放状態にあっても、内容物が収容され、閉蓋状態であっても、容易に識別できる程度のものである。

第4被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(意匠に係る物品の認定の誤り)について

本願出願は、意匠に係る物品を「卵包装容器」とするものであって、物品の区分が、意匠法7条に基づく同法施行規則別表第一の区分によるものではなく、かつ、願書の「意匠に係る物品の説明」欄に、同規則様式第1の備考20に基づいて、その物品の使用の目的、使用の状態等、物品の理解を助けることができるような説明を記載したものでもなく、意匠に係る物品に係る「卵」がどのようなものであるかを示す記載は全く存在しないから、意匠に係る物品の把握は、願書及び添付の図面の記載全体から合理的になされるべきものであるところ、本願の願書及び添付の図面の記載全体から、本願意匠の意匠に係る物品を茹卵等を専用に収容する容器と限定的に解さなければならない理由は見出せない。

また、引用意匠は、意匠に係る物品を「卵運搬容器」とするものであるが、同様に、物品の区分が、意匠法施行規則別表第一の区分によるものではなく、かつ、願書の「意匠に係る物品の説明」欄に、その物品の使用の目的、使用の状態等、物品の理解を助けることができるような説明を記載したものでもなく、意匠に係る物品を生卵を専用に収容する容器と限定的に解さなければならない理由のないものである。

故に、本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品は、ともに、流通過程において使用される卵の包装容器と認められるものであって、その用途及び使用の態様を同じくするものである。また、収容される卵が茹卵等であろうと生卵であろうと、両意匠の意匠に係る物品が、商品の流通過程において使用される包装容器であることに変わりはなく、両者は実質的に同一である。したがって、審決が、「両意匠は、意匠に係る物品が同一のものと認められ、」と認定したことに誤りはない。

なお、原告は、本件審判において、本願意匠の意匠に係る物品が、茹卵等の包装容器であるとの主張を何らしていない。

2  取消事由2(差異点についての評価判断の誤り)について

(1)  差異点(イ)について

本願意匠が、皿体中央の列の底部を連結した点は、その連結した部位が、中央の列の内側寄りに限られており、この種の閉蓋して流通販売がなされ、上下が逆さにされることの極めて少ない容器においては、流通時、あるいは店頭に並べられた状態においては、看者の目に殆ど触れない部分をなすものであって、この点が形態全体に及ぼす影響は弱く、しかも、その連結の態様自体も、単に前後の収容部の底面をそのまま連結し、これに伴う必然的な形態処理、すなわち、左右の山形突起の頂面をそのまま残して、その一つの角部との間をそのまま塞いだという処理をしたに止まり、全体の配列の規則性を変更するとか、中央の列の看者の目に比較的触れやすい外側寄りの部分について、窄まり具合を変更するとか、深さを変更するとか、面取りの態様を変更するとか、、リブの配置を変更する等の造形上の変更は一切なされていない。また、形態全体として観察してみても、両意匠には蓋体の態様に強い共通性が認められるものである。

審決は、差異点(イ)について、単に、該部が比較的看者の目に付き難いことのみをもって、差異が部分的なものとしたのではなく、上記のような諸点を評価して、「連結した部位が、皿体の3列の収容部のうちの1列と言う限られた部分に見られる差異であること、そして通常の使用態様において該部は容体の底面に当たり、比較的、看者の目に付き難い部位に当たること、そして、皿体全体の構成については、前記(2)ないし(4)のとおり隔壁の構成、収容部の面取りの態様、凸リブの配置等に、極めて強い共通性が認められること、そして、形態全体としてみると、看者の目に付きやすい蓋体全体に強い共通性が認められること、等を勘案すると、その差異は、両意匠の共通点が奏する全体の基調を凌駕するほどの外観上の特徴をなすには至らず、形態全体としてみれば、その差異は部分的なものに止まるものである。」(審決書8頁2~16行)と判断したものであって、その評価判断に誤りはない。

(2)  差異点(ロ)について

本願意匠の、差異点(ロ)に係る区画部は、四方の側面のうち、短辺側一側面の内寄りの部分の上半部にのみ表されたものであり、その態様も、前後の収容部間の表面を繋ぎ、そのまま平坦面状に埋める態様で表されたにすぎないものである。そして、この種物品の材質も併せ勘案すると、収容部周面と接合する部分などは際立つ稜線として看取されるものではなく、まして、原告主張のように、容体が左右非対称に形造られていると看取される程のものではない。皿体の骨格に影響を与えない範囲で表されたものにすぎない。

また、該部にラベル等を貼付するための略横長方形状の区画部を表したものは従来にも見られる(乙第4~第7号証)。

したがって、差異点(ロ)に係る差異を「全体としては皿体についての共通点に吸収される小さな差異」とした審決の評価判断に誤りはない。

(3)  差異点(ハ)について

差異点(ハ)に係る蓋体頂面の開口部は、本願意匠が円形であり、引用意匠が八角形であるが、それぞれ真円状、正八角形状であって、正多角形が角(辺)を増やすことにより真円に近付くことからすれば、両形状は、造形上、延長線上にあり、極めて相似した印象を看者に与えるものである。しかも、形態全体として見れば、蓋体について、横長方形状の平坦面からなる頂面の中寄りに、頂面の前後幅の1/2強の径の開口部を左右2箇所に設け、これから下方に先細錐台状に垂下する凹陥部を形成して、閉蓋時に蓋体を内側で支えるものとした特徴的な態様が看者の注意を圧倒的に惹くのであり、これに比べると、該差異は、目立たず、両意匠に別異感を与えるまでに至ってはいないものである。

そして、本願意匠が4本の凸リブを有する点についても、そのリブが細く低いもので、凹陥状の内周面という比較的視認し難い部分についての差異であり、むしろ、本願意匠の凸リブが凹陥部の深さいっぱいに等間隔に、縦筋状に表された点が、引用意匠の八角錐台状の稜線が凹陥部の深さいっぱいに等間隔に、縦筋状に表された点と一致し、凸リブの有無という小さな差異をさらに希釈するものである。

したがって、差異点(ハ)に係る差異を「形態全体として見れば、蓋体についての共通点の中での部分的な差異といえ、類否判断に及ぼす影響はさほど大きいものでなく、」とした審決の評価判断に誤りはない。

(4)  差異点(ニ)について

差異点(ニ)に係る本願意匠の凸条及び凹条は、鍔部の内際に沿って配されたごく細いものであり、引用意匠の水玉様の凹凸も、左右側辺の鍔面全体に均一な細かい調子で配されたもので、ともに看者に強い印象を与えるものではない。しかも、本願意匠のように、鍔部のうちの連接されたものを除く3週に凹条及び凸条を「コ」字状に巡らせた態様は、従来より認められるものである(乙第4、第6、第7号証)。

したがって、差異点(ニ)に係る差異を「限られた部分に見られる小さな差異である上、本願のものも格別特徴的なものでなく、類否判断に及ぼす影響は小さく、」とした審決の評価判断に誤りはない。

(5)  差異点(ト)について

本願意匠の、差異点(ト)に係る丸みは、ごく小さいものであって、引用意匠と大差はなく、したがって、差異点(ト)に係る差異を「全体としては小さな差異に止まり」とした審決の判断に誤りはない。

(6)  全体的意匠感について

原告は、本願意匠の容体が、看者に対し、特異で不安定的感覚の意匠感を与えるのに対し、引用意匠の容体が、看者に対し、平凡で違和感のない安定した感覚の意匠感を与えるものであって、両者は意匠感を全く異にしているとし、また、本願意匠の蓋体が全体として、看者に対し、丸みからくる温かい感じを与えるのに対し、引用意匠の蓋体が全体として、看者に対し、直線からくる冷たい感じを与えるものであって、両者は意匠感を全く異にしているとしたうえで、本願意匠と引用意匠とが、全体的な意匠感を異にするもので、容易に識別できると主張するが、いずれも、審決の認定した両意匠の基調をなす共通点を全く顧慮せず、差異点のみ抽出して意匠感と称したにすぎないものであって、誤りである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(意匠に係る物品の認定の誤り)について

原告は、引用意匠の意匠に係る物品が生卵用の収容容器であるのに対し、本願意匠の意匠に係る物品は、茹卵等用の収容容器であって、この両者は、収容する物品が異なるから、両者の意匠に係る物品が同一のものであるとする審決の認定が誤りであると主張する。

しかしながら、本願出願が、意匠に係る物品を「卵包装容器」として出願されたことは当事者間に争いがないところ、その物品の区分は、意匠法7条に基づく同法施行規則別表第一の区分によるものではない。また、本願の願書(乙第1号証)に、本願意匠の意匠に係る物品がどのような卵の収容容器であるかを示す記載は全く見当たらない。

そうすると、本願意匠の意匠に係る物品の把握は、願書及び添付の図面の記載全体から合理的になされるべきものであるところ、前示本願の願書及びこれに添付された図面の記載からは、本願意匠の意匠に係る物品が、運搬、販売等の流通過程で使用される卵を収容するための容器であることが認められるのみであって、茹卵等を専用に収容する容器と限定するに足りるだけの記載はない。

原告は、本願意匠の皿体中央部の前後を仕切る堤部のない等幅状の空所(相違点(イ)に係る皿体中央の列の底部が連結された部位)が、破卵しやすい生卵を収容するには不適切であるから、生卵の収容部ではなく、茹卵等に使用する調味料を収容する部分であると主張するが、該部にその前後を仕切る堤部がないとしても、直ちに該部が調味料を収容する部分であると定まるわけではなく、また、仮に該部が調味料の収容部分だとしても、本願意匠の意匠に係る物品が一義的に茹卵等専用の収容容器と定まるわけではない。

他方、引用意匠の意匠に係る物品が「卵運搬容器」であることは当事者間に争いがないところ、その物品の区分も、意匠法施行規則別表第一の区分によるものではなく、また、その意匠登録出願に係る願書(乙第2号証)に、意匠に係る物品がどのような卵の収容容器であるかを示す記載はないから、引用意匠の意匠に係る物品も、願書及び添付の図面の記載全体から合理的に把握されるべきところ、前示引用意匠の意匠登録出願に係る願書及びこれに添付された図面の記載からは、その意匠に係る物品が、運搬、販売等の流通過程で使用される卵を収容するための容器であることが認められるのみであって、必ずしも生卵専用の収容容器と限定するに足るだけの、あるいは茹卵等を収容することに適さないとするだけの記載はない。

そうすると、審決が、「両意匠は、意匠に係る物品が同一のものと認められ、」と認定したことに、原告主張の誤りはない。

2  取消事由2(差異点についての評価判断の誤り)のうち、差異点(イ)について当事者間に争いのない本願意匠と引用意匠との差異点(イ)は、「皿体の中央の列につき、本願のものは、前後の収容部の底面を等幅状に連結し、この連結部に向けて、左右の山形突起の頂面角部から、二等辺三角状の傾斜面を下降させているのに対し、引用のものは該部を連結せず、前後の収容部を堤部により区画している点」(審決書5頁6~12行)であり、この点につき、審決は、「連結した部位が、皿体の3列の収容部のうちの1列と言う限られた部分に見られる差異であること、そして通常の使用態様において該部は容体の底面に当たり、比較的、看者の目に付き難い部位に当たること、そして、皿体全体の構成については、前記(2)ないし(4)のとおり隔壁の構成、収容部の面取りの態様、凸リブの配置等に、極めて強い共通性が認められること、そして、形態全体としてみると、看者の目に付きやすい蓋体全体に強い共通性が認められること、等を勘案すると、その差異は、両意匠の共通点が奏する全体の基調を凌駕するほどの外観上の特徴をなすには至らず、形態全体としてみれば、その差異は部分的なものに止まるものである。」(同8頁2~16行)と判断したものである。

しかしながら、引用意匠は、その皿体を、縦横の隔壁により区画して、前後に2段、左右に3列の収容部を形成し、かつ、その各収容部は、それぞれ略錐台状に窄まる凹陥状としたものであって、該6個の収容部がそれぞれ独立して、規則的に整然と配列されているのに対し、本願意匠においては、差異点(イ)に係る構成を採用したために、皿体中央部の前後が一体となり、左右両部分の各収容部2個分に当たる部位に、これと比較して、大きさや形状の顕著に異なる1個の収容凹部を形成するものであって、しかも、それが、左右3列のうちの中央の1列に形成されることを併せ考えると、たとえ、該中央部の形態に、外側寄り(該収容凹部の前後両端寄り)の部分の窄まり具合や、該部分のリブの配置等、左右両部分の収容凹部と変わりない点があるとしても、全体の配列の規則性を大きく変更するものであり、かつ、その変更された部分の割合が皿体全体の概ね1/3にも及ぶものであるから、看者に与える印象は、引用意匠の皿体とは著しく異なるといわざるを得ない。

審決は、本願意匠の差異点(イ)に係る部位が、通常の使用態様において容体の底面で、比較的、看者の目に付き難い部位に当たるものとし、被告も概ね同旨の主張をするが、本願の願書(乙第1号証)の「意匠の説明」欄には、「本物品は、透明である。」との記載があるから、本願意匠の意匠に係る物品の通常の使用態様において、たとえ、閉蓋時であっても、蓋体を通して、皿体の左右両部分の各収容部及び中央部の収容凹部が見通せることが明らかであり、そうすると、該収容部又は収容凹部に収容物があるとしても、その収容の態様によって(収容物によっては、むしろより明瞭に)、差異点(イ)に係る差異が看者の注意を惹くことはたやすく推認されるところである。

そうすると、本願意匠と引用意匠の各皿体(本願意匠については中央部に係る部分以外)に、「縦横の隔壁は、四周の鍔部と接合する部分に、直角三角形状の略水平面を、中央の十字状に交わる部分に、これと同じ高さの正方形状の略水平面を表し、その直角の角部が前後左右の方向(45度水平回転させた方向)に向くものとし、これら略水平面を頂面として、下方に錐台状に拡がる山形突起を形成したもので、この山形突起の側壁面がそのまま下方に凹弧面状に延び、収容部の四隅の壁面をなすもので、山形突起の前後左右の角稜部が、下拡がりの二等辺三角状に面取られ、その下端が、略水平面状に縦横に相互連結され堤状をなし、この堤部は高さを皿体の深さの中程より稍高い位置とし、堤幅を山形突起の頂面幅の略半分の一定幅としたもので、なお、山形突起のうちの2つの正方形状の頂面には、円形の凹部が設けられている点」(共通点(3)、審決書3頁7行~4頁2行)、「各収容部は、側面から見ると周壁が僅かな外膨らみ状を呈して下方に窄まる隅切正方形の錐台状のもので、底面は、山形突起の側壁面がそのまま放射状に延びて隅切面をなし、この隅切面の下端がそのまま正方形に閉じられた斜めの方向(45度水平回転させた方向)に向くもので、その周側面に付き、隅切面に沿って3本の凸リブを平行状に表し、底面から、前後左右の方向に、各々1本の短い凸リブを表し、底面に十字の凸リブを表したものである点」(共通点(4)、同4頁2~11行)において、共通する部分があるとしても、あるいは、蓋体につき、「高さが皿体の深さより稍低い、僅かに上窄まりの、隅切錐台状のもので、頂面を横長方形状の平坦面とし、その中寄りに、頂面の前後幅の1/2強の径の開口部を左右に2カ所設け、これから下方に先細錐台状に垂下する凹陥部を形成して、閉蓋時に蓋体を内側で支える支柱とし、先端に嵌合用の円形突起を表し、蓋体の周側面については、皿体の隔壁に対応する位置に、皿体の後面側(連接部寄りの面)については、上面視三角状の上尖り状の凹条溝を、その余の3周については、上面視台形状で、上拡がりの幅広の凹状溝を表し、これら凹状溝間、及び隅切面に、幅狭の凹条リブを上下方向に表したものである点」(共通点(5)、同4頁12行~5頁4行)において共通するとしても、差異点(イ)に係る差異を、「両意匠の共通点が奏する全体の基調を凌駕するほどの外観上の特徴をなすには至らず、形態全体としてみれば、その差異は部分的なものに止まるものである」とすることはできず、審決の該評価判断は誤りというべきである。

3  以上によれば、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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