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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)189号 判決 2000年1月26日

原告

アン’ジュ

代表者

【A】

訴訟代理人弁護士

田中克郎

宮川美津子

大石篤史

被告

株式会社マリーフォーレ

代表者代表取締役

【B】

訴訟代理人弁理士

【C】

【D】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成10年審判第30023号事件について、平成11年3月26日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文1、2項と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告は、「Ange」の欧文字を左横書きしてなり、第17類「セーター類、ワイシャツ類、下着、ねまき類、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第1463310号商標(昭和50年1月27日登録出願、昭和56年5月30日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成10年1月9日、被告を被請求人として、商標法50条1項の規定に基づき、本件商標につき登録取消しの審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成10年審判第30023号事件として審理した上、平成11年3月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月30日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件商標が、被請求人から許諾された通常使用権者である株式会社マルホウ(以下「マルホウ」という。)により、審判請求の登録前3年以内に日本国内において、その指定商品中の「下着(スリップ)」について使用されていたものと認められるから、商標法50条の規定により、その登録を取り消すべきではないとした。

第3原告主張の取消事由の要点

1  審決の理由中、本件商標が、「Ange」の欧文字を左横書きしてなり、第17類「セーター類、ワイシャツ類、下着、ねまき類、その他本類に属する商品」を指定商品とすることは認める。

審決は、証拠に関する判断を誤って、本件商標が審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において、その指定商品中の「下着(スリップ)」について使用されていたものと判断している(取消事由)ので、違法として取り消されるべきである。

2  取消事由について

被請求人は、本件審判手続において、「下着(スリップ)」の写真(審判乙第6号証、本訴甲第4号証の添付資料。以下「本件写真」という。)、「下着(スリップ)」の下げ札(審判乙第7号証、本訴では前記添付資料。以下「本件下げ札」という。)及び商品の製造元である「オカザキ」からマルホウ宛ての「仕入伝票」(審判乙第9号証、本訴では前記添付資料。以下「本件伝票1」という。)を提出した。

これらの証拠について、審決が、「乙第6号証は、商品『下着(スリップ)』に下げ札が付されている写真であり、また、同第7号証は、該下げ札(写し)と認められるものである。そして、この下げ札には、品番と認められる『No.5354』の数字が記載されており、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が表示されていることが認められる。また、乙第9号証は、商品の製造元(オカザキ)から株式会社マルホウ宛の仕入伝票(写し)と認められるものであるところ、この仕入伝票は、本件審判請求の登録前3年以内の期間内である平成9年5月15日付けで発行されたものであること、品名No.及び品名の欄に『5354』及び『スリップ』と記載されていることが認められる。そうすると、前記写真に表された下げ札付きの下着(スリップ)と前記仕入伝票に記載された商品スリップは同一の商品であるということができる。」(審決書11頁14行~12頁3行)と認定判断したことは、以下のとおり誤りである。

1 本件写真及び本件下げ札に示される品番と認められる「No.5354」の数字は、本件写真において明らかなように、黄色地の下げ札の上にわざわざ白色のシールが貼られ、その上に「5354」の番号が刻印されたものであり、このような下げ札は不自然である。

したがって、本件写真及び本件下げ札は、既に他の番号が刻印されていたものの上にシールが貼られ、改めて「5354」の番号が刻印された可能性が高いと考えられ、商品「下着(スリップ)」がその品番と認められる「No.5354」の商品であるか否か極めて疑わしく、その証拠価値は低いものといわざるを得ない。

なお、原告は、本件審判手続において、本件下げ札の提出を求め、本件写真の撮影者の住所及び氏名を明らかにするように求めたが、これらについての応答がないまま前記事実認定が行われたものである。

2 通常、同一人が同一様式により発行する伝票においては、発行されるに従って伝票番号が順次付されるはずである。しかし、本件伝票1と同様に、商品の製造元である「株式会社サンク」(以下「サンク」という。)からマルホウ宛ての「仕入伝票」(審判乙第5号証、本訴甲第4号証の添付資料。以下「本件伝票2」という。)では、平成9年8月1日に「No.24674」の伝票番号が付されているにもかかわらず、本件伝票1においては、それ以前の平成9年5月15日に、番号としては後になる「No.29055」の伝票番号が付されている。

したがって、本件伝票1及び2は、極めて不自然な発行であり、その証拠価値は低いものといわざるを得ない。

なお、原告は、本件審判手続において、本件伝票1及び2に関する上記の不自然な点について釈明を求めたが、被告から釈明のないまま前記事実認定が行われたものである。

第4被告の反論の要点

1  審決の認定判断は正当であり、原告の主張の取消事由は理由がない。

1 原告は、本件写真及び本件下げ札が不自然なものであり、その証拠価値が低いと主張する。

しかし、マルホウにおいては、本件写真の商品「スリップ」を品番「No.5354」で表しており、その他にも商品「ショートガードル」を品番「No.5247」で表し(審判乙第2号証、本訴甲第4号証の添付資料参照)、商品「ブラジャー」を品番「No.50433」、商品「ガードル」を品番「No.50432」、商品「フレアパンティ」を品番「No.55181」で表している。このように各商品を伝票上の番号で表すことは、本件審判の請求日以前から現在まで変わっていない。

そして、「スリップ」の大きさは、バストの大きさ、スリップ丈の長さなどの組合せで表示しており、本件下げ札のように、そ表示内容を現物に合わせて「シール」を貼って訂正することは、現場でしばしば行われていることである。

なお、被告は、本件審判手続において、本件下げ札を「審判事件答弁書」に添付して提出している。

2 原告は、本件伝票1及び2が、極めて不自然な発行であり、その証拠価値は低いと主張する。

しかし、マルホウは、50枚綴りの仕入伝票帳を必要に応じて印刷業者に多数発注しており、この仕入伝票帳には、右上隅に通しナンバーが刻印してある。そして、マルホウは、サンクに対し、平成7年10月20日、「No.024551~024600」「No.024601~024650」「No.024651~024700」の通しナンバーが刻印された、未使用の仕入伝票帳を3冊渡し、本件伝票2は、この3冊目の仕入伝票帳の1枚である。同様にオカザキに対し、平成9年3月14日、「No.029051~029100」「No.029101~029150」の通しナンバーが刻印された、未使用の仕入伝票帳を2冊渡し、本件伝票1は、この1冊目の仕入伝票帳の1枚である。

仕入伝票は、上記のような仕組みであるから、仕入伝票の発行日と伝票の通しナンバーが逆になっていても、仕入業者が異なる以上、何も不自然なことはない。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書11頁14行~12頁3行)に誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  審決の理由中、本件商標が、「Ange」の欧文字を左横書きしてなり、第17類「セーター類、ワイシャツ類、下着、ねまき類、その他本類に属する商品」を指定商品とすることは、当事者間に争いがない。

原告は、マルホウが被告から許諾された本件商標の通常使用権者であることを、明らかに争わない。

2  本件審判手続において、被請求人(注、本訴被告)が提出した審判事件答弁書(本訴甲第4号証)に添付された本件写真、本件下げ札、本件伝票1及び2を含む各資料(審判乙第2~第9号証)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1 本件商標の通常使用権者であるマルホウにおいては、本件審判の請求日以前から現在まで、取り扱う各商品を番号により区分しており、例えば、本件で問題とされる商品「スリップ」は、品番「No.5354」で表示し、商品「ショートガードル」は、品番「No.5247」で表示している。

そして、本件下げ札は、マルホウがその取扱商品である黒色の「スリップ」に付して使用していたものであるところ、この本件下げ札には、黄色地の上に黒色で横書きされた本件商標と、その右上方に黒色でやや小さく横書きされた「アンジェ」の片仮名文字とが印刷されるとともに、その他に「No.」、「サイズ バスト85」、「スリップ丈 85-」の表示が印刷されており、「No.」の後に「5354」、「サイズ バスト」の下に「80」、「85-」の後に「80」と記載された白いシールが貼着されている。

このように下げ札にシールを貼着するのは、実際の商品販売現場において、下げ札に元々印刷されていた商品の番号及びサイズと異なる商品に、当該下げ札を付して使用しようとする場合、その商品の品番に合わせて番号を変更するとともに、「スリップ」であれば、バストの大きさ及びスリップ丈の長さによって商品の大小を表示して、従来のサイズ表示を訂正する必要があるからである。そして、このような変更訂正は、上記現場において、日常的に行われていることである。

2 マルホウは、左上に自社の名前が記入され、右上隅に通しナンバーが刻印された50枚綴りの仕入伝票帳を、必要に応じて印刷業者に発注して使用していたところ、商品製造業者であるサンクに対し、平成7年10月20日、「No.024551~024600」「No.024601~024650」「No.024651~024700」の通し番号が刻印された、未使用の仕入伝票帳を3冊交付し、本件伝票2は、この3冊目の仕入伝票帳の1枚に該当する。

また、同じく商品製造業者であるオカザキに対し、平成9年3月14日、「No.029051~029100」「No.029101~029150」の通し番号が刻印された、未使用の仕入伝票帳を2冊交付し、本件伝票1は、この1冊目の仕入伝票帳の1枚に該当する。そして、オカザキからマルホウに対し、本件伝票1に基づいて、平成9年5月15日、「商品No」欄に「5354」、「品名」欄に「スリップ」、「色」欄に「黒」と記載され、「サイズ」欄にそれぞれ「80/80」、「85/80」及び「85/85」と表示された3種類の商品が、各20枚ずつ合計60枚出荷され、その代金合計は、7万2000円となる。

3  以上の認定事実によれば、オカザキは、マルホウに対し、平成9年5月15日、「商品No.5354」の「黒色」の「スリップ」で、「サイズ」が「80/80」の商品を20枚出荷したものであり、他方、本件商標が記載された本件下げ札は、マルホウによって黒色の商品「スリップ」に付されていたものであり、この下げ札には、「5354」、「80」、「80」と記載された白いシールが貼着されていたものと認められるから、マルホウは、本件商標を黒色の商品「スリップ」に付して使用していたものであることが明らかといわなければならない。

原告は、本件写真及び本件下げ札において、品番と認められる「5354」の数字が刻印された白色のシールが、黄色地の下げ札の上にわざわざ貼られているから、このような下げ札は不自然であって、商品「下着(スリップ)」がその品番と認められる「No.5354」の商品であるか否か極めて疑わしく、その証拠価値が低いものと主張する。

しかし、前示認定のとおり、マルホウにおいては、製造仕入れの段階から「No.5354」を商品「スリップ」の品番として一貫して使用していたことが明らかであり、下げ札にシールを貼着することも、下げ札に元々印刷されていた商品の番号及びサイズが異なる商品に、当該下げ札を付して使用しようとする場合、品番やバストの大きさ及びスリップ丈の長さ等のサイズ表示の訂正のために、実際の商品販売現場において、日常的に行われていたことと認められるから、その証拠価値に疑問を差し挟む余地はなく、原告の主張は到底採用することができない。

また、原告は、通常、同一人が同一様式により発行する伝票において、発行されるに従って伝票番号が順次付されるはずであるにもかかわらず、本件伝票2では、平成9年8月1日に「No.24674」の伝票番号が付されている一方、本件伝票1においては、それ以前の平成9年5月15日に、伝票番号としては後になる「No.29055」が付されており、極めて不自然な発行であるから、その証拠価値は低いものと主張する。

しかし、マルホウとその仕入商品製造業者であるオカザキ及びサンクとにおける仕入伝票の関係は、前示のとおりであり、通し番号が刻印された50枚綴りの仕入伝票帳を、仕入業者ごとに数冊交付し、この伝票に基づいて出荷仕入れを行っていたものであると認められるから、異なる仕入業者がそれぞれ伝票を発行した場合には、発行日が先の伝票の通し番号が、後日に発行された伝票の通し番号より後になっているからといって不自然な点はなく、上記原告の主張も採用の余地はない。

したがって、この点に関する審決の認定判断(審決書11頁14行~12頁3行)に誤りはない。

4  以上のとおり、審決が、「本件商標は、通常使用権者によって、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において、その指定商品中の『下着(スリップ)』について使用されていたものと認めることができる。」(審決書12頁6~9行)と判断したことは正当であって、原告主張の審決取消事由には理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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