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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)237号 判決 2000年4月18日

原告

株式会社リッチェル

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

島田康男

弁理士

【B】

【C】

【D】

被告

特許庁長官【E】

指定代理人

【F】

【G】

【H】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1原告の求めた裁判

「特許庁が平成10年審判第6841号について平成11年6月8日にした審決を取り消す。」との判決。

第2事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成8年8月30日、意匠に係る物品を「植木鉢」とし、その形態を別紙第一に示すとおりの意匠(本願意匠)につき意匠登録出願をしたが(平成8年意匠登録願第25661号)、平成10年3月6日拒絶査定があったので、同年4月28日審判を請求し、平成10年審判第6841号事件として審理されたが、平成11年6月8日、本件審判の請求は成り立たないとの審決があり、その謄本は同月28日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  原査定が、本願意匠に類似するとして拒絶の理由に引用した意匠(引用意匠)は、平成1年11月29日に特許庁意匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」の193頁右上段に所載された鉢皿・ノアポット「中輪鉢」の意匠であり、その形態は別紙第二に示すとおりである。

(2)  そこで、本願意匠と引用意匠について比較検討すると、両意匠は、意匠に係る物品が共通し、

(1) その形態について、全体が、上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体であって、そのフランジ状開口部を円形状とし、その周側面を多角形の多面体状に形成して、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した基本的構成態様が共通する。

また、具体的態様において、

(2) 容体につき、上方のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2とし、容体本体につき、その径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させたものである点、

(3)  フランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点、

(4)  底部にトンネル形状の水排出孔を複数設けた点、が共通する。

(3)  一方、両意匠は、

(イ) 容体本体の外周面について、本願意匠は、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし、その面構成を上方に向け次第に弧面状に形成して、高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れているのに対して、引用意匠は、容体の外周全面を16角形状の多面体とし、下から上まで全域に多面体状の稜線が表れている点、

(ロ) 容器底部について、本願意匠は、外周の1/2弱の径で容体の高さの略1/10を「凸」状に立ち上げ(以下「円形状隆起部」という。)、その周囲に板状のリブを三方に各4本ずつ設け、また、隆起部にはメッシュ状を放射状に表しているのに対して、引用意匠は、容器底部の態様について明示されていない点、

(ハ) 水抜き部につき、本願意匠は、底部の三方にアーチ状のトンネル状を設けているのに対して、引用意匠は、四方にアーチ状のトンネル状を設けている点、

に主たる差異がある。

(4)  そこで、上記の共通点と差異点について総合的に検討するに、まず、(1)の基本的構成態様の共通点、すなわち、全体が、上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体であって、そのフランジ状開口部を円形状とし、その周側面を多角形の多面体状に形成して、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した点、及び、具体的態様の共通点(2)の容体につき、上方のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2とし、容体本体につき、その径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させた点は、両意匠の形態に関する骨格を構成し、全体の基調をなす特徴といえ、看者の注意を惹くところであって、類否判断を左右する支配的要素というべきである。また、両意匠に共通する具体的態様、特に、(3)のフランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の共通感をより一層際だたせるものとなっており、その類否判断に及ぼす影響は相当なものがあるというべきである。

他方、両意匠の差異点について、(イ)の容体本体の外周面について、本願意匠が、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし、その面構成を上方に向け次第に弧面状に形成して、高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れている点であるが、まず、その外周面を12角形の多面体状としたか、16角形の多面体状としたかは、基本的構成態様の共通点に包摂されるところのわずかな差異といわざるを得ない。また、稜線の表れ方の差異について、原告は、本願意匠は、「本体底面から全体高さの約1/2の位置に向かうに従い、断面の略正12角形の角辺が直線から円弧状に連続的に変化しており、断面角部を有するとはいっても、このような連続的に変化する円弧が繋がった円形に近い形状になっている。そして、高さ約1/2の位置では、これと連続して断面が円形状となり、本体部上部に連続するものとなっている」旨主張しているが、両意匠は、共に面数の多い極めて円に近い多面体状であり、原告がいうように略正12角形の角辺が直線から円弧状に連続的に変化するとしてもその態様がさほど目立つものでなく、また、本願意匠は、稜線を、容体の下から略3/5まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、さらに、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることからさほど看者の注意を惹くものでなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない。(ロ)の差異点について、引用意匠は、容器底部の態様について明示されていないが、この種の物品において、該部に円形状隆起部を形成すること、また、その隆起部をメッシュ状にすること、さらにその周囲に板状のリブを設けることは、ごく一般的であって(例えば、平成1年11月29日に特許庁意匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」の198頁に所載された「オオヤマ&アイリス・ケンガイ鉢・中鉢」に記載された各種の植木鉢の意匠、同216頁上段に記載された「エース園芸」の長鉢及び花鉢の意匠)、よく知られているところ、本願意匠は、容器底部に円形状隆起部を形成しその周囲に板状のリブを三方に各4本設け、隆起部にメッシュ状を放射状に表したものであるが、前示のとおりこれらの点に格別の特異性がなく、その両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものといわざるを得ない。(ハ)の水抜き部につき、本願意匠は、底部の三方に、アーチ状のトンネル状を設けている点の差異であるが、この種の物品において、さほど重要視されない部位についてのもので、両意匠は、三方に設けたか、四方に設けたかに差異があるとしても、共に、底部にトンネル形状の水排出孔を複数設けた点では共通しているもので、微差といわざるを得ない。

そうして、上記の差異点が相互に相俟って、相乗効果を生じることを考慮しても、本願意匠は、意匠全体として引用意匠にない格別の特異性を発揮するまでには至っておらず、前記の各差異点が、両意匠の類否判断に及ぼす影響は、微弱なものといわざるを得ない。

(5)  以上のとおりであって、両意匠は、意匠に係る物品が共通しており、その形態について、両意匠の共通点は、類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、両意匠は類似するものといわざるを得ない。

したがって、本願意匠は、意匠法3条1項3号に該当し、同条同項柱書きの規定により、意匠登録を受けることができない。

第3原告主張の審決取消事由

1  取消事由1(本願意匠の認定の誤り)

(1)  審決は、両意匠の形態の基本的構成態様の共通点(1)に関する説示部分の中で、本願意匠の形態の基本的構成態様を、「その周側面を多角形の多面体状に形成して、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した基本的構成態様」と認定している。また、両意匠の差異点(イ)に関する説示部分の中で、「容体本体の外周面について、本願意匠は、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし」とし、また「高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れている」と本願意匠の具体的態様を認定している。

しかしながら、審決におけるこの本願意匠の認定は誤りである。

(2)  本願意匠の基本的構成態様は、周側面の下部のみを12角形状の多面体状に形成し、中央付近及び上部は曲面で形成しており、このため容体下部においてのみ多面体の各面の稜線が表れている。

また、本願意匠の容体外周面の具体的態様は、容体下から高さ略1/5の部位までは比較的多面体に近いが、高さ略1/5から高さ略3/5の部位までは略円形状であり、これに連続して高さ略3/5から上方は完全な円形状となっている。このため、外周面に表れる稜線は、容体下から上方へ向かうに従い次第に薄くなり、下から高さ略1/5の部位までは稜線が比較的明瞭に表れているが、高さ略1/5~2/5の部位では薄さが顕著となり、高さ略2/5の部位より上方では注視しなければ見えなくなり自然に消滅して、その上部の円形曲面に連続している。

原告は、本件出願時に正投象図法による6面図(背面図は省略)に加えて、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図を提出し(別紙第三本件出願時提出図面)、各面の断面が外方に連続的に膨らんで円形状に達する態様を表し、これによって本願意匠の持つ質感、量感を表現している。A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図において、容体断面が次第に円形状に近づいていくことから角部の角度が徐々に大きくなり角部の存在がわからなくなっていく態様を示し、これによって稜線が次第に薄くなって自然と消滅する態様は明確に表現されている。

このように本願意匠の形態における基本的構成態様及び外周面の具体的態様は、出願時に添付した図面によって明確に表現されており、容易に把握できる。本願意匠の本質的実体は、正面図と側面図等の6面図のみからは正確に認識できなず、本願意匠の認定は断面図を含めたすべての図面に基づいて行わなければならない。

(3)  意匠の基本的構成態様は、意匠を全体観察した場合に、概括的に把握すべき態様であるとされているところ、本願意匠の6面図とA-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図とに基づいて本願意匠の本質的実体である創作意匠を把握すれば、その基本的構成態様は、周側面のほぼ全体が曲面で形成され、容体高さ略1/5の部位までの下部のみに略多面体が表れている点及び当該下部のみに稜線が表れている点であることは、容易に認定することができる。

このため、本願意匠の基本的構成態様の前述の認定部分は、「その周側面のほぼ全体を曲面で形成し、下部のみに略多面体を形成して当該下部に略多面体の各面の稜線を縦に等間隔に並列に表れている基本的構成態様」と認定すべきである。

(4)  また、外周面についての具体的態様の前述の認定部分は、同様に6面図及びA-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図に基づいて創作意匠を特定すれば、「容体本体の外周面について、本願意匠は、下方から略1/5を比較的12角形状の略多面体状に近く形成し」及び「高さの略1/5の部位まで略多面体状の稜線が次第に薄くなりながら表れている」と認定すべきである。そして、更に加え、「高さ略1/5から高さ略3/5の部位までは略円形状であり、特に高さ略2/5から高さ略3/5の部位まではほとんど円形状となっており、これに連続して高さ略3/5から上方は完全な円形状となり、外周面の下部には略多面体の稜線が表れているが、容体下から上方へ向かうに従い次第に薄くなり、下から高さ略1/5の部位までは稜線が比較的明瞭に表れているが、高さ略1/5から略3/5の部位にかけて薄さが顕著となり、特に高さ略2/5から略3/5の部位にかけては注視しなければ稜線の存在はほとんどわからないほど表れなくなり、高さ3/5の部位に至るに従い稜線が自然に消滅している。」と認定すべきである。

(5)  このように、本願意匠の形態が正投象図法の6面図とA-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図とによって把握できるにもかかわらず、審決において、本願意匠の基本的構成態様及び外周面の具体的態様について上記の認定をしているのは、本願意匠を正投象図法の6面図のみによって特定し、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図を何ら参酌しないで、本願意匠の本質的実体たる創作意匠を正確に認定していないことを示している。

したがって、正投象図法の6面図のみに基づき、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図を考慮に入れないでした審決における本願意匠の認定は誤りである。

2  取消事由2(類否判断の手法における不一致)

(1)  審決は、両意匠は「その形態について、両意匠の共通点は、類否判断に大きな影響を及ぼすものと認められるのに対し、差異点は、いずれも類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕することができず、両意匠は類似するものといわざるを得ない。」と判断している。

しかしながら、上述のとおり審決には本願意匠の認定に重大な誤りがあり、このため本願意匠と引用意匠の基本的態様の共通点(1)及び外周面における差異点(イ)の判断に誤りを生じ、その結果、両意匠の類否判断を誤ったものである。

(2)  審決は、基本的構成態様の共通点(1)及び具体的態様の共通点(2)は、両意匠の形態に関する骨格を構成し、全体の基調をなす特徴といえ、看者の注意を惹くところであって、類否判断を左右する支配的要素であるとしている。

しかしながら、本願意匠の認定は誤りであることから、審決は、基本的構成態様の共通点(1)について誤った判断をしたものである。本願意匠の基本的構成態様を正投象図法による6面図、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図により正確に認定し、引用意匠の基本的構成態様と対比すれば、その共通点(1)は、「全体が、上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体であって、そのフランジ状開口部を円形状としている」点というべきである。したがって、かかる共通点が類否判断を左右する支配的要素か否かを判断しなければならない。

ここで、この共通点の全体が上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体である点及びフランジ状開口部が円形状である点は、いずれもこの種の物品においてごく一般的なありふれた形態であり、特に独創性を有する形態ではない。また、具体的態様の共通点(2)の容体のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2としている点、及び容体本体の径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させた点も、この種の物品においてごく一般的なありふれた形態であり、独創性を有する形態ではない。

多数の登録意匠の例が示すように、基本的構成態様の共通点(1)及び具体的態様の共通点(2)は、本願意匠と引用意匠の骨格を形成するとはいっても、従来から広く知られている一般的なごくありふれた形態であり、この種の物品がその機能上必須の構成要素として備えている形態である。このため、看者は、基本的構成態様(1)及び具体的態様(2)の形態については、一般的なありふれたものとしてこの種の物品が当然に有するものと判断し、他の独創的な形態を有する部分に注意を惹かれるものと考えられる。したがって、両意匠の共通点である基本的構成態様(1)及び具体的態様(2)の形態は、意匠の類否判断の支配的要素のすべてとはなり得ない。

(3)  一方、審決は、差異点(ロ)について、「この種の物品において、容体底部に円形状隆起部を形成すること、また、その隆起部をメッシュ状にすること、さらにその周囲に板状のリブを設けることは、ごく一般的であって、よく知られているので、これらの点に格別の特異性がなく、その両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである。」と判断しているが、このことは言い換えれば、メッシュ状の円形状隆起部及び隆起部周囲に設けたリブについてはごく一般的でありふれた形態であり、何の創作性も有しない形態であるため、看者の注意を惹く部分となり得るものではなく、かかる一般的形態は本願意匠と引用意匠の類否判断を左右する支配的要素にはなり得ないことを意味している。

すなわち、審決において矛盾した立論となっており、このことにかんがみても、上記両意匠の共通点である基本的構成態様(1)及び具体的態様(2)の形態も、同様に判断されるべきである。

(4)  したがって、上部で円形状のフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体である点、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した点、及び容体のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2とした点、容体本体をその径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させた点を、看者の注意を惹くところであって類否判断を左右する支配的要素のすべてとしている審決の判断は、誤りである。

3  取消事由3(具体的態様の共通点(3)についての判断の誤り)

(1)  審決は、具体的態様の共通点(3)は、基本的構成態様の共通点(1)及び具体的態様の共通点(2)と相俟って、両意匠の共通感をより一層際だたせるものとなっており、その類否判断に及ぼす影響は相当なものがあるというべきである、と判断している。

しかしながら、具体的態様の共通点(3)として摘出されたフランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成するという形態も、この種の物品において、従来から一般的でありふれた形態であり、特に独創性を有する形態ではない。

(2)  したがって、具体的態様の共通点(3)が類否判断に及ぼす影響は相当なものがあるという審決の判断は、誤りである。

4  取消事由4(具体的態様の差異点(イ)についての判断の誤り)

(1)  審決は、両意匠の差異点(イ)については、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない、と判断している。

上述のとおり、本願意匠の認定に誤りがあることからして、差異点(イ)の判断は誤りである。

本願意匠の具体的態様を正投象図法による6面図、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図により正確に認定し、引用意匠の具体的態様と対比すれば、差異点(イ)は、

(イ-1)本願意匠では下部を12角形状の略多面体状とし、略多面体の面構成を下から上方に向け外方に膨らませ次第に弧面状に形成して、下から高さ略1/5の部位までは比較的多面体に近く、高さ略1/5から高さ略3/5の部位までは略円形状であり、特に高さ略2/5から高さ略3/5の部位まではほとんど円形状となっており、これに連続して高さ略3/5から上方は完全な円形状となっているのに対し、引用意匠は容体の外周全面を正16角形状の正多面体としている点、及び、

(イ-2)本願意匠では、略多面体各面の稜線が容体下から上方へ向かうに従い次第に薄くなり、下から高さ略1/5の部位までは稜線が比較的明瞭に表れているが、高さ略1/5から略3/5の部位にかけて薄さが顕著となり、特に高さ略2/5から略3/5の部位にかけては注視しなければ稜線の存在はほとんどわからないほど表れなくなり、高さ3/5の部位に至るに従い稜線が自然に消滅しているのに対し、引用意匠は、下から上まで全域に正多面体の稜線が明確に表れている点、

である。

(2)  両意匠の類否判断を左右する支配的要素(意匠の要部)は、物品の性質、用途、使用形態等を参酌した上で看者の最も注意を惹く部分として認定しなければならない。ここで、本願意匠に係る物品である「植木鉢」について考察すると、植木鉢は、容体の内部に土を入れ植木や草花を植えた状態で、庭や屋内の所望の場所に載置し、植木や草花と相俟って庭や屋内の装飾のために用いられるものである。このように庭や屋内に飾られた植木鉢は、容体内に植えられた植木や草花と共に常に看者の観察の対象となり、特にその周側面が看者の目に最も多くふれる部分である。言い換えれば植木鉢の意匠において、容体の周側面が看者の最も注意を惹く部分であり、また創作者の創作性が表れやすい部分でもある。このため、このような容体の周側面(外周面)が両意匠の類否判断に大きく影響するものである。

したがって、本願意匠の要部は、稜線の表れ方や面構成に特徴のある容体の周側面の形態であり、かかる部分が看者の最も注意を惹く部分であり、類否判断を左右する支配的要素であると考えられる。

(3)  本願意匠の最も特徴的形態は、容体の外周面にあり、具体的には上述した差異点(イ-1)における、略多面体の面構成を下から上方に向け外方に膨らませ次第に弧面状に形成して、下から高さ略1/5の部位までは比較的多面体に近く、高さ略1/5から高さ略3/5の部位までは略円形状であり、特に高さ略2/5から高さ略3/5の部位まではほとんど円形状となっており、これに連続して高さ略3/5から上方は完全な円形状となっている点、及び差異点(イ-2)における、稜線が容体下から上方へ向かうに従い次第に薄くなり、下から高さ略1/5の部位までは稜線が比較的明瞭に表れているが、高さ略1/5から略3/5の部位にかけて薄さが顕著となり、特に高さ略2/5から略3/5の部位にかけては注視しなければ稜線の存在はほとんどわからないほど表れなくなり、高さ3/5の部位に至るに従い稜線が自然に消滅している点である。

多面体の面構成を上方に向け次第に弧面状に形成している点について、審決は、両意匠は、共に面数の多い極めて円に近い多面体状であり、略正12角形の角辺が直線から円弧状に連続的に変化するとしてもその態様がさほど目立つものでないと認定している。

確かに、正投象図法の6面図のみにより本願意匠の構成を把握すればそのように捉えられなくもないが、さらにA-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図にも基づいて本願意匠を把握すれば、この認定は誤りであることは前述のとおりである。すなわち、本願意匠の容体外周面上の多面体の各面は上方に向かうに従って外方に膨らんで、高さ略1/5の部位より上方では断面が略円形状になっている外周面の形態は、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図に明確に示されており、かかる形態から生じる本願意匠の質感、量感も当該断面図を見れば容易に理解し得る。

このため、本願意匠の外周面の各面が外方に膨らみ次第に円弧状に変化していく形態は、各面の上から下までの全域を平坦面で形成している引用意匠とは全く異なった質感、量感が生じているため、このような形態が目立たないものであるという審決の認定は誤りである。

(4)  また、差異点(イ)の稜線の表れ方について、審決では、本願意匠は稜線を容体の下から略3/5の位置まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることからさほど看者の注意を惹くものでないと判断しているが、この点についても上述した本願意匠の認定の誤りによる結果である。

正投象図法による6面図のみで判断すれば、確かに、稜線を容体の下から高さ約3/5の部位まで明確に表れていると判断することもできるが、上述のとおり、正面図等の6面図で表現した稜線は、単に稜線が存在することを示しただけであり、A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図によれば、稜線が角部に相当し、当該角部の角度が上方にいくにつれ次第に開いていき、角部の存在がわからなくなっている。そして、B-B断面図は、容体の高さ略2/5の位置における容体断面を表しており、断面形状はほぼ円形に近い略円形状の外形となっている。かかる高さ略2/5の部位は容体中央部より下方に位置していることから、略2/5の部位より上方はほとんど断面が円形状となっていることが容易に理解できる。この点から稜線が次第に薄くなって自然と消滅するものであり、実際に明確に認識できる部分はせいぜい下から高さ略1/5の部位まであることは理解できる。特に容体の略中央部では、稜線の存在はほとんど分からない。

したがって、このような本願意匠の外周面における稜線の表れ方は、上から下までの全域に明確に稜線が表れている引用意匠と明確に区別できるものであり、さほど看者の注意を惹くものでないという審決の判断は誤りである。

(5)  本願意匠の稜線の表れ方、かつ外方に丸みを帯びた略多面体の各面を有する容体外周面の形態は、従来の意匠には見られない独創的な形態であり、創作者の独創性が最も発揮されている部分である。従来の登録意匠をみても、容体外周面の形態の差異、特に面構成の差異及び稜線の表れ方の差異が意匠の類否判断に大きく影響することは明らかである。

(6)  審決は、差異点(イ)のうち、外周面を12角形の多面体状としたか、16角形の多面体状としたかは、基本的構成態様の共通点に包摂されるところのわずかな差異といわざるを得ないと判断している。確かにかかる差異のみをもって両意匠を非類似とすることには問題があろう。しかしながら、引用意匠より角数の少ない多面体を容体下部に有している点は、本願意匠の丸みを帯びた形状を更に明確にするものであり、外周面の上述の形態の差異と相俟れば、両意匠の類否判断において角数(面数)を全く無視することはできないというべきである。したがって、審決が、角数の差異のみを基本的構成態様の共通点に包摂されるところのわずかな差異と判断したのは、誤りである。

5  取消事由5(具体的態様の差異点(ロ)及び(ハ)についての判断の誤り)

(1)  両意匠の差異点(ロ)について、審決は、この種の物品において、容体底部にメッシュ状の円形状隆起部を形成する点、及びその周囲に板状のリブを設けることは、ごく一般的であって、よく知られているので、これらの点に格別の特異性がなく、その両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱なものである、と判断している。

また、差異点(ハ)について、水抜き部はこの種の物品において、さほど重要視されない部位についてのもので、共に底部にトンネル形状の水排出孔を複数設けた点では共通しているもので、微差といわざるを得ない、と判断している。

確かに、容体底部にメッシュ状の円形状隆起部やその周囲に板状リブを設ける点は従来からなされている一般的な形態であり、円形状隆起部の形態の差異はそれ自体で類否判断に与える影響が微差である点については認める。また、水排出孔の数の差異はそれ自体では微差である点についても認める。しかしながら、メッシュ状の円形状隆起部が存在するか否か、水排出孔の数の差異は、植木鉢の水はけの良否を決定する要因となるものであり、植木鉢の使用性に影響を及ぼす部分である。このため、需要者及び取引者は、商品選択時に円形状隆起部の形態や水排出孔にも注意を傾注すると考えられる。

従来の登録例をみると、容体底部の円形状隆起部の差異及び水排出孔の数の差異が、他の形態における大きな差異と相俟って類否判断に影響を及ぼしていると考えられる例が存在する。両意匠の差異点(ロ)及び(ハ)が両意匠の類否判断に与える影響は微弱であるという判断は、従来の登録例における類否判断を無視するものであり、誤りである。

(2)  以上により、両意匠の差異点(イ)が両意匠の類否判断に与える影響は大きなものであり、加えて差異点(ロ)及び(ハ)による相乗効果によって両意匠は共通点(1)、(2)及び(3)を凌駕するものであり、両意匠は非類似と判断されるべきである。

よって、審決が、両意匠の差異点が類否判断に及ぼす影響が微弱なものであり、共通点を凌駕することができないとしたのは、誤りである。

第4審決取消事由に対する被告の反論

原告主張の審決取消事由は争う。審決に示したとおりの理由により、本願意匠は意匠法3条1項3号に該当する。

本願意匠の容体本体の外周面の稜線は、まず正面図に基づき、容体本体の高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れているものとみられ、その多面体状の面の具体的態様、また、その稜線の鮮明度については、B-B切断部端面図及びC-C切断部端面図に基づき、その判断がされるべきである。それによれば、審決が認定したとおり、「本願意匠は、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし、その面構成を上方に向け次第に弧面状に形成して、高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れている」と認定するほかない。

原告の主張は、正面図に表された下方から略3/5の多面体状の12本の稜線、特に、中央の2/5ないし3/5の部分の稜線を無視するものであって、当を得ない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1について

(1)  原告は、取消事由1において、本願意匠の基本的構成態様を、周側面の下部のみを12角形状の多面体状に形成し、中央付近及び上部は曲面で形成しており、このため容体下部においてのみ多面体の各面の稜線が表れている点に求めるべきであると主張し、審決が、この点を引用意匠との基本的構成態様の共通点として認定しなかったのは誤りである旨主張する。

しかし、審決は、(イ)の容体本体の外周面についての差異点について、「本願意匠は、稜線を、容体の下から略3/5まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、さらに、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることからさほど看者の注意を惹くものでなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない。」と認定している。したがって、審決は、原告主張の本願意匠における上記の点をも念頭に置いて、審決の理由の要点の(2)において示された(1)の基本的構成態様を、本願意匠についても認定したものと理解すべきである。そして、(イ)の容体本体の外周面についての差異点について審決が認定した上記説示は、優に支持することができ、この点をも念頭に置いてした(1)における本願意匠の基本的構成態様の認定、すなわち、「全体が、上部にフランジ状の開口部を有する有底の略逆円錐台筒状の容体であって、そのフランジ状開口部を円形状とし、その周側面を多角形の多面体状に形成して、その各面の稜線を縦に等間隔に並列に表した基本的構成態様が共通する」との認定に誤りがあるものとは認められない。

(2)  原告は、本件出願時提出図面(別紙第三。A-A断面図、B-B断面図及びC-C断面図)によって、本願意匠の稜線が次第に薄くなって自然と消滅する態様が、明確に表現されていると主張する。しかしながら、本願意匠の稜線部分は、12角形状の多面体状として構成されているものと認められるところ、植木鉢は茶色や白などの単色のものが多いこと(当裁判所に顕著である。)も合わせてみると、原告主張の上記各図面を斟酌してみても、全体として本願意匠を観察した場合、審決がした本願意匠についての上記基本的構成態様の認定を誤りとすることはできず、原告主張の上記の点は、審決がしたように、引用意匠との間の差異点(イ)として、本願意匠と引用意匠との間の類否判断において斟酌すれば足りるものというべきである。

(3)  したがって、審決には本願意匠の基本的構成態様の認定に誤りがあるとする取消事由1は理由がない。

2  取消事由2について

原告は、審決が基本的構成態様の共通点(1)として認定した点及び具体的態様の共通点(2)、すなわち、容体につき、上方のフランジ状開口部の外周径と高さの比を略3:2とし、容体本体につき、その径が上から下にわずかずつ徐々に縮径し、下方近くで弧面状に窄ませて水平な底面へ連続させたものである点は、本願意匠及び引用意匠の物品においてごく一般的なありふれた形態であって、独創性を有する形態ではなく、その機能上必須の構成要素として備えている形態であるから、本願意匠の(1)及び(2)における形態は、意匠の類否判断の支配的要素のすべてとはなり得ないと主張する。

しかし、本願意匠に係る物品である植木鉢において、上記(1)及び(2)の形態は比較的多くみられるものの一つであるといえても、植木鉢の必須の形態が、上記(1)及び(2)の点にあるものと認めるべき証拠はなく、原告の上記主張は理由がない。したがって、この主張を前提とする取消事由2も理由がない。

3  取消事由3について

原告は、審決が、具体的態様の共通点(3)として認定した点、すなわち、フランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点は、本願意匠の物品(植木鉢)において、従来から一般的でありふれた形態であり、特に独創性を有する形態ではない、と主張するが、植木鉢の意匠において、フランジ状部の形態が上記のようなものでないものも、甲第3、第8号証、第13ないし第15号証、第18号証などの意匠公報にみられるように、多く存在することが明らかである。本願意匠及び引用意匠は、フランジ状部を審決が共通点(3)として認定した形態のものを採用していることにおいて、また、この部分が植木鉢の上部における形態であることから、看者の目を惹きつけやすい部分であると認められることにおいて、両意匠の共通感をより際だたせるものであるということができる。

したがって、審決が、「(3)のフランジ状部につき、容体本体の上方周縁をラッパ状に拡開し、その上縁を断面略逆「U」の字状に外側に屈曲し、外周縁に細幅帯状を形成した点は、基本的構成態様の共通点と相俟って、両意匠の共通感をより一層際だたせるものとなっており、その類否判断に及ぼす影響は相当なものがあるというべきである。」と判断した点に誤りは認められず、取消事由3は理由がない。

4  取消事由4について

(1)  取消事由4は、要するに、審決が認定した本願意匠と引用意匠の差異点(イ)、すなわち、容体本体の外周面について、本願意匠は、下方から略3/5を12角形状の多面体状とし、その面構成を上方に向け次第に弧面状に形成して、高さの略3/5の部位まで多面体状の稜線が表れているのに対して、引用意匠は、容体の外周全面を16角形状の多面体とし、下から上まで全域に多面体状の稜線が表れている差異点をもって、審決が、類否判断の要素として高く評価することができないとしたのは誤りである、とするものである。

原告は、その主張の前提として、差異点(イ)は、(イ-1)と(イ-2)の二つの側面から分析して検討すべきであると主張する。

しかしながら、差異点(イ)について、審決が、「外周面を12角形の多面体状としたか、16角形の多面体状としたかは、基本的構成態様の共通点に包摂されるところのわずかな差異といわざるを得ない。」として、本願意匠と引用意匠との共通点を踏まえ、差異点(イ)が、看者の目に惹かれる印象的な部分とはならないとした上で、「両意匠は、共に面数の多い極めて円に近い多面体状であり、原告がいうように略正12角形の角辺が直線から円弧状に連続的に変化するとしてもその態様がさほど目立つものでなく、また、本願意匠は、稜線を、容体の下から略3/5まで表したものであり、両意匠は、容体の略中央部においては、共に稜線が表れているもので、さらに、容体上方の稜線の有無による差異は、それがフランジ状部の下方に位置していることからさほど看者の注意を惹くものでなく、両意匠の類否判断の要素として高く評価することができない。」と判断した点については、原告が取消事由4において述べるところを斟酌してみても、誤りであると認めることはできない。

(2)  原告が、本願意匠と引用意匠との間について強調したいのは、本願意匠が引用意匠に比して丸みを帯びているという差異点ではないかと思われるが、審決も再三説示しているように、引用意匠は、容体の外周全面を、本願意匠よりも多い16角形状の多面体としたものであって、上部のフランジ状の開口部が円形の断面を有するものであることも影響して、看者は、外周断面についても、ほとんど円形であるとの印象を持つものということができる。

(3)  また、原告は、外周面が、高さ3/5の部位に至るに従い稜線が自然に消滅している点をもって、本願意匠の特徴的形態であると主張する。しかしながら、乙第2号証の2(平成1年11月29日に特許庁意匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」の192頁右方下から二段目に記載されている長鉢の意匠にもみられるように、外周面の下方において多面体状とするのに対し、上方においては円形状に変化させる形態のものが一般に存していたことが認められるのであり、本願意匠の外周面の形態も、この形態の一つの応用であると認められる。したがって、原告が本願意匠の特徴的形態であると主張する部分をもって、引用意匠のとの対比において、特に印象的に観察される部分であると認めることはできない。

(4)  したがって、取消事由4も理由がない。

5  取消事由5について

原告は、差異点(ロ)及び(ハ)についてした審決の判断は誤りであると主張する。

しかしながら、例えば、乙第2号証の1ないし6(平成1年11月29日に特許庁意匠課が受け入れた横浜植木株式会社(外1名)発行のカタログ「CATALOG’89、ウエキ商品総合カタログ」)に掲載されている植木鉢のカタログの写真に表れるように、容体底部の形態が、一般消費者に対する販売に際して、第一印象として観察されるものでないことは明らかである。

そして、容体底部にメッシュ状の円形状隆起部やその周囲に板状リブを設ける点は従来からなされている一般的な形態であり、円形状隆起部の形態の差異はそれ自体で類否判断に与える影響が微差である点、及び、水排出孔の数の差異はそれ自体では微差である点については、原告も争っていないから、(ロ)及び(ハ)の差異点をもって、微差であるとし、あるいは本願意匠と引用意匠との類否判断に及ぼす影響は微弱なものであるとした審決の判断に誤りがあるということはできない。

取消事由5も理由がない。

第6結論

以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平)

裁判官 市川正巳は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 永井紀昭

<以下省略>

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