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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)288号 判決 2000年1月25日

原告

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

同 弁護士

荒木理江

被告

特許庁長官【C】

指定代理人

【D】

【E】

【F】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成10年審判第16110号事件について平成11年7月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、指定商品を商品及び役務の区分第25類の「洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、水泳帽」とし、「POLOMEMBER’SSTAFF」のローマ字から成る商標(以下「本願商標」という。)について、平成8年12月13日に商標登録出願(平成8年商標登録願第140728号)をしたが、平成10年9月18日に拒絶査定を受けたので、同年10月14日に拒絶査定不服の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成10年審判第16110号事件として審理した結果、平成11年7月16日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年8月11日原告に送達された。

2  審決の理由

別紙審決の理由の写しのとおり、本願商標をその指定商品に使用する場合には、「【G】」若しくは「ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ」又はこれらと組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は商標法4条1項15号に該当すると認定判断した。

第3原告主張の審決取消事由の要点

本願商標をその指定商品について使用しても、他人の業務に係る商品と、その出所について混同を生ずるおそれはないから、本願商標は商標法4条1項15号には該当しない。審決は、この点についての認定判断を誤ったものであって、この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  審決のいうポロ社の広告は、原則として「Polo Ralph Lauren」及び「RALPH LAUREN」である。

「POLO」の文字を含む登録商標は多数存在しており、広告もされているから、「POLO」の文字を含む結合商標が直ちに取引者・需要者をして、【G】又はその関連会社の取扱いに係る商品との間に出所の混同を生じさせるおそれはない。

2  本願商標の「POLOMEMBER’SSTAFF」とは、「ポロのメンバーを支える者、職員、専従員」の意味で、「クラブのメンバーのスタッフ」、「チームのメンバーのスタッフ」等々特定の観念を表したものである。これは日本人が慣れ親しんだ英語であるため、外観上も称呼上も決して冗長といえるものではない。

本願商標は、ローマ字で同書同大横一連に書してまとまりよく一体的に表示された「POLOMEMBER’SSTAFF」の外観を有し、全体をもって「ポロメンバーススタッフ」との一連の称呼とこれに対応する「ポロゲームメンバーのスタッフ」の観念を生じさせる。このように、本願商標は一連にまとまった一体の観念を有するものと把握できる商標であって、商標中に「POLO」の文字を含んでいても他人の著名な略称を含むものと認識させるものではないから、商品の出所について混同を生ずるおそれはない。

第4被告の反論の要点

1  【G】のデザインに係る被服等について使用される標章は、「Polo」の文字と「by Ralph Lauren」の文字とをともに含む標章及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」より成る標章などであり、我が国においては、これらの標章を総称して単に「Polo(ポロ)」と略称していたものである。そして、この「Polo(ポロ)」の標章は、遅くとも昭和55年ころまでには、我が国の取引者・需要者の間に広く認識されるに至っており、その認識の度合いは現在においても継続している。

我が国において、「POLO」、「Polo」、「ポロ」を始め、「Polo」の文字と「by Ralph Lauren」の文字とを用いた標章及び「馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形」より成る標章などを真似た標章を付した偽物を「【G】のデザインに係る商品」などと触れ込んで販売している事実がある。

これらのことを合わせ考えると、被服や眼鏡等のファッション(装身に関する流行)関連の商品に「POLO」の文字を使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、【G】のデザインに係る商品であると認識するというべきである。

2  本願商標は、特定の観念を表したものとは認められない。そして、本願商標は16字のローマ字という極めて多い文字を一様な大きさで書して成るものであり、これより生ずる「ポロメンバーズスタッフ」の称呼も9音より構成されているから、外観上及び称呼上冗長といえるものである。

そうすると、本願商標に接する取引者・需要者は、その構成中の「POLO」の文字部分に強く印象づけられ、【G】の著名標章である「POLO(ポロ)」を連想すると考えるのが自然である。したがって、本願商標をその指定商品に使用した場合には、【G】又はその関連会社の取扱いに係る商品との間に商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるというべきである。

第5当裁判所の判断

1  本願商標の商標登録出願時における商品の出所の混同のおそれについて

(1)  乙第1ないし第10号証、第11号証の1、2、第12号証の1ないし3によれば、次の事実が認められる。

【G】 は、1939年(昭和14年)生まれのアメリカの服飾等のデザイナーである。同人は、1970年(昭和45年)、73年(昭和48年)の2回にわたりアメリカのファッション界では最も権威があるとされるコティ賞を受賞し、1974年(昭和49年)には映画「華麗なるギャツビー」の男性衣装を担当するなどして、世界的に知られるようになった。【G】のデザインに係る商品には、「Polo」と「by Ralph Lauren」の文字によって構成される標章、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形によって構成される標章、及びこれらが一体となった標章(以下、これらをまとめて「ラルフ標章」という。)が用いられている。我が国においては、日本での【G】のデザインに係る商品の輸入・製造・販売のライセンス(許諾)を得ていた西武百貨店(ただし、眼鏡、ネクタイのライセンスは、別の会社が有していた。)の昭和62年におけるポロ・ラルフローレンブランドの小売販売高は約330億円であり、昭和63年から平成5年にかけてラルフ標章ないしこれに酷似した標章を付した偽ブランド商品を販売して摘発される業者が複数出るほど、ラルフ標章は顧客吸引力を有していた。本願商標の商標登録出願前から、各種雑誌等において、【G】のデザインに係る紳士服、婦人服、眼鏡を始めとする商品が一流ブランドないし流行ブランドとして、「ポロ」、「POLO」、「Polo」等のブランド名の下に紹介され、一般大衆を読者とする新聞においても、平成元年5月19日付け朝日新聞夕刊に、「『ポロ』の偽を大量販売警視庁 通信販売会社を摘発・・・『Polo(ポロ)』の商標で知られるラルフローレンブランド」、平成2年11月27日付け朝日新聞朝刊栃木版に「ポロ・・・などの輸入ブランドに人気があるという・・・女性から男性へは、ポロのセーター(1万4000円)」、平成3年12月5日付け朝日新聞朝刊京都版に「ポロの靴下 ブランド世代が高感度消費者に・・・女子高生・・・足元は、申し合わせたようにラルフロ―レンのポロのマーク」、平成4年9月23日付け読売新聞東京本社版朝刊に「アメリカの人気ブランド『ポロ』」、平成5年10月13日付け読売新聞大阪本社版朝刊に「偽『ポロ』眼鏡枠を摘発・・・ポロ競技のマークで知られる米国のファッションブランド『POLO(ポロ)』の製品に見せかけた眼鏡枠」というように、ラルフ標章が「Polo(ポロ)」の商標と、そのブランドが「Polo(ポロ)」と、それぞれ呼ばれ、その名で知られていることを前提とした記事が掲載されていた。

以上の事実によれば、本願商標の商標登録出願時までには、ラルフ標章は「Polo(ポロ)」の商標などと、また、そのブランドは「Polo(ポロ)」とも呼ばれて、紳士服、婦人服、眼鏡等について【G】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名となっていたことが認められる。

(2)  ラルフ標章が付される商品として著名であった上記紳士服、婦人服、眼鏡は、ファッション関連の商品である。一方、本願商標の指定商品が、紳士服、婦人服を含み、また、ファッション関連の商品を多く含むことは明らかである。

(3)  本願商標は、16文字のローマ字から成り、これより生ずる「ポロメンバーズスタッフ」の称呼は長音、促音を含む10音より構成されているから、その外観、称呼とも、一つの名称のものとしては、冗長というべきである。

また、「POLOMEMBER’SSTAFF」との文字が、全体として特定の熟語や団体名称を表すものとして一般の取引者・需要者によく知られているものとは認められない。そして、「MEMBER’SSTAFF」は、「(ポロの)メンバーのスタッフ」というような意味合いであるから、本願商標において「POLO」の文字は重要な意味を持つ言葉と認識される。

(4)  そうすると、本願商標がその指定商品に使用された場合には、本願商標に接した取引者・需要者は、冒頭にある「POLO」の部分に着目して、「Polo(ポロ)」の商標などと呼ばれるラルフ標章と「Polo(ポロ)」とも呼ばれるブランドを連想し、本願商標が付された商品について、「Polo(ポロ)」と呼ばれる著名なブランドの一種ないしは兄弟ブランドであるなどと誤解して、【G】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

(5)  原告は、「POLO」の文字を含む登録商標が多数存在しており、広告もされていることを根拠として、出所の混同が生ずるおそれがないと主張する。

しかし、「POLO」の文字を含む登録商標が多数存在し、広告もされていることは、商品の出所の混同のおそれについての上記認定を左右するものではない。

なぜなら、他に「POLO」の文字を含む登録商標が多数存在し、広告もされているとしても、前認定のとおり、ラルフ標章が「Polo(ポロ)」の商標などと、また、そのブランドが「Polo(ポロ)」とも呼ばれて、紳士服、婦人服、眼鏡等について【G】のデザインに係る商品に付される商標ないしそのブランドとして著名であった事実に照らせば、上記「POLO」の文字を含む他の登録商標やこれを使用した広告に接した一般の需要者が、当該商標について、【G】のデザインに係る商品を示すものであって、著名な「Polo(ポロ)」ブランドないしその兄弟ブランドであるなどと誤解している可能性も十分にあるからである。

のみならず、前認定のとおり、ラルフ標章が「Polo(ポロ)」の商標などと、また、そのブランドが「Polo(ポロ)」とも呼ばれて著名である以上、「POLO」の文字を含む商標であってこれと区別して認識されているものが、仮にあるとしても、そのことは、本願商標による商品の出所の混同のおそれの認定を左右するものではない。なぜなら、仮に、他の登録商標が、著名な「Polo(ポロ)」の商標ないし「Polo(ポロ)」のブランドとなどと呼ばれるものと区別され、出所を異にするものとして理解されているとすると、そのことは、それが、「POLO(ポロ)」とそれ以外の他の特定の文字とが結合した文字からなるものとしてよく知られ、かつ、何らかの事情によりそれが【G】とは関係のないものとしてよく知られるに至っているか、又は、「POLO(ポロ)」以外の文字の特異性などにより当然にそれが認識される等の特段の事情があることを意味するのであって、そうであるからこそ、区別されているといい得るものである。ところが、本件全証拠によっても、本願商標が「POLO(ポロ)」以外の他の文字と結合した文字からなるものとしてよく知られ、かつ、【G】とは関係のないものとしてよく知られるに至っているとか、「POLO(ポロ)」以外の文字の特異性などによって当然にそれが認識されるとかというような特段の事情も窺えない。したがって、他の登録商標の存在やその広告によって、本願商標についての前記商品の出所の混同のおそれが減少するものということはできないのである。

2  本願商標の審決時における商品の出所についての混同のおそれについて本件全証拠によっても、本願商標の商標登録出願後、審決時までに、事情の変更があったと認めることはできないから、前記認定に係る出所についての混同のおそれは、審決時にも、なお存在していたものというべきである。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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