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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)298号 判決 2000年2月01日

原告

株式会社ハスキー

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

被告

特許庁長官【C】

指定代理人

【D】

【E】

【F】

補助参加人(被告)

ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ

代表者

【G】

訴訟代理人弁理士

【H】

【I】

【J】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が平成8年審判第17239号事件について平成11年7月23日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、別添審決書の理由(写し)の別紙(1)に表示されるとおりのポロプレーヤーの図形からなり、第22類「はき物(運動用特殊ぐつを除く。) かさ つえこれらの部品および附属品」を指定商品とする商標(以下「本願商標」という。)について、平成2年6月21日、商標登録出願(平成2年商標登録願第70007号)をしたが、平成8年8月1日に拒絶査定を受けたので、平成8年10月9日、拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第17239号事件として審理した結果、平成11年7月23日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年8月18日、その謄本を原告に送達した。

2  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願商標が、【K】のデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用する周知の商標、すなわち、横長四角形中に記載された「Polo」の文字からなる商標、「by RALPH LAUREN」の文字からなる商標、審決書の理由(写し)の別紙(2)に表示したとおりの馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形からなる商標(以下、これらを「ポロ商標」と総称し、最後の図形からなる商標を「引用商標」という。)と紛らわしく、指定商品も関連性を有するので、このような事情の下において、本願商標をその指定商品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者は、周知のポロ商標を連想、想起し、該商品が【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品との間で、出所の混同を生ずるおそれがあるから、本願商標は商標法4条1項15号に該当するというものである。

第3原告主張の審決取消事由の要点

本願商標は、引用商標と外観及び観念を異にし、これと紛らわしいものではないので、本願商標をその指定商品に使用しても、【K】や同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と、その出所において混同を生ずるおそれはないから、本願商標は商標法4条1項15号には該当しない。審決は、この点についての認定判断を誤ったものであって、この誤りは結論に影響を及ぼすものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  本願商標は、別添審決書の理由(写し)の別紙(1)に示されているとおり、馬上のポロプレーヤーが右手を肩口の横方向に伸ばした状態でマレットを上方に向けて振りかざした状態であり、まさにこれからボールを打とうとする体勢に入った状態の姿態を示しており、馬上のポロプレーヤーが前後に重なる状態は、ポロ競技(試合)をしている状態を示す動的イメージを印象づける図形商標である。

このことは、甲第2号証(1997年9月25日朝日新聞社発行の「ポロその歴史と精神」)のカバー写真、甲第3号証(昭和60年10月10日株式会社大修館発行の「最新スポーツ百科事典」)の476頁右下欄の写真(1886年ニューポートでの国際ポロ試合の写真)からも明らかである。

また、本願商標においては、前のポロプレーヤーの図形とその後ろのポロプレーヤーの図形は、同じではなく、前のポロプレーヤーは、マレットを持つ右手が伸びている状態であるのに対し、後ろのポロプレーヤーは、マレットを持つ右手の肘が前のプレーヤーに比べてやや曲がっており、かつ、かぶっている帽子の柄も異なっている。このような、マレットを持つ右手を伸ばしてボールを打とうという体勢にある状態を示す図形とすることによって、本願商標は、ポロプレーヤーがポロ競技をしている状態を示す動的イメージを印象づけようとしているものである。したがって、「本願商標がほぼ同じ図形を重ね合わせてなるという点において基本となる図形がダブった印象を看者に与えるにすぎない」とする審決の判断は誤っている。

2  一方、引用商標は、別添審決書の理由(写し)の別紙(2)に示されているとおり、前脚を少し「く」の字に折った状態の馬に乗っている1騎のポロプレーヤーが、マレットを持つ右手が伸びておらず、腕が折れ曲がった状態でマレットを後ろ上方に振りかざしている図形であり、ポロ競技をしている図形ではないことが明らかである。これは、ポロが上流階級のスポーツであることを象徴的に示した図形であって、この図形からは躍動感のある競技をしている状態を窺い知ることはできない。

3  このように、本願商標は、複数のポロプレーヤーを表わすことによってポロチームを表現し、ポロプレーヤーがポロ競技をしている状態を示す動的イメージを印象づけようとする図形であるのに対し、引用商標は、1騎のポロプレーヤーを象徴的に示し、ポロが上流階級のスポーツであることを象徴的に示した図形であり、両者は明らかに観念を異にするものであり、また、外観も異にするものである。そうすると、本願商標から引用商標を含むポロ商標を想起することはなく、両者は相紛らわしくなく区別して使用されているので、本願商標をその指定商品に使用しても、【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品との間で、出所の混同を生ずるおそれもない。

第4被告の反論の要点

審決の認定判断は、正当であり、取り消されるべき理由はない。

1  本願商標は、首を少し左に向けた馬に、帽子をかぶり、顔面を斜め右下に向け、ポロ競技用のマレットを右手で上方に振りかざして乗っているポロプレーヤーを描写した図形であって、ポロ競技中の状態を表したものといえるものの、馬上のポロプレーヤーが前後に重なる状態のみによって、ポロ競技をしている状態を示す動的イメージが印象づけられるものではない。前面に描かれた1騎のポロプレーヤーの図形は、上記のとおり、ポロ競技中のポロプレーヤーの特徴を端的にとらえており、この1騎のポロプレーヤーの図形でもポロ競技をしている状態を認識し得るのであり、同じ図形を重ねたからといって、殊更、動的イメージが強められるものではなく、基本となる図形が重なった印象を看者に与えるにすぎない。また、マレットを持つ右手を伸ばしてボールを打とうという体勢を示すことによって、殊更、動的イメージが強く印象づけられるものでもない。

仮に、本願商標がポロ競技をしている状態を示す動的イメージを印象づけるものであるとしても、本願商標と引用商標とは、馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを右手で上方に振りかざしてポロ競技をしている状態を描いた点において構成の軌を一にし、また、馬に乗った競技中のポロプレーヤーを描いた図形からなるという点において観念を同じくすることには変わりはない。

2  一方、マレットを持つポロプレーヤーの右手が伸びていなくても、前脚を少し「く」の字に折った状態の馬に、帽子をかぶり、顔面を斜め右下に向け、マレットを右手で上方に振りかざして乗っているポロプレーヤーを描いた図形からなる引用商標は、ポロ競技中のポロプレーヤーの特徴を端的に捉え、ポロ競技をしている状態を認識し得るものである。そうすると、マレットを持つ右手が伸びておらず腕を折り曲げた状態であることをもって、引用商標がポロ競技をしている図形ではなく、ポロが上流スポーツであることを象徴的に示した図形であるということはできない。

3  ポロ競技について必ずしも詳細かつ正確な知識を持ち合わせていない我が国の一般需要者にとっては、本願商標及び引用商標の構成からして、両商標は、ポロ競技をしている状態を描いたものと認識し得るものであり、仔細にみれば、人馬の数、馬の表現態様、鞭の有無等において相違するところがあるとしても、いずれも、馬に乗ったポロプレーヤーがマレットを右手で上方に振りかざしてポロ競技をしている状態を描いた点において、構成の軌を一にするものとして印象づけられ、時と所を別にして両者をみるときは、全体の外観において彼此相紛らわしいものというべきである。また、両者は、馬に乗った競技中のポロプレーヤーを描いた図形からなるという点において観念を同じくするといえる。

したがって、本願商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、周知となっているポロ商標ないし引用商標を連想、想起するのが自然である。本願商標と引用商標とは外観及び観念を異にするもので商品需要者及び取引者は出所の混同を生じないとする原告の主張は、失当である。

第5当裁判所の判断

1  まず、ポロ商標の周知性について検討する。

(1)  弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

(イ) アメリカの服飾等のデザイナーであった【K】は、1968年(昭和43年)、ポロ・ファッションズ社(以下「ポロ社」という。)を設立して、ネクタイ、スーツ、シャツ、セーター、靴、カバンなどのデザインを手がけ、1970年と1973年の2回にわたり「コティ賞」など数々のデザインに関する賞を受賞し、1974年(昭和49年)には、映画「華麗なるギャッツビー」の主演男性俳優の衣装のデザインを担当して、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。

(ロ) ポロ社は、【K】のデザインに係る一群の商品についてポロ商標を使用し、これが【K】のデザインを示す商標として世界的に周知となった。

(ハ) 我が国の服飾業界では、昭和49年ころから【K】の名前が知られるようになった。西武百貨店は、昭和52年ころから【K】のデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等、同53年から【K】のデザインに係る婦人服を、それぞれ輸入、製造、販売するようになり、本願商標の商標登録出願前、既に、各種雑誌等において、【K】のデザインに係る紳士服、紳士靴、婦人服、サングラス等の商品が、一流ブランド品として、ポロ商標が付されて紹介されていた。

(ニ) 引用商標を含むポロ商標は、従前から、我が国でも、「ポロ」とも称され、上記のとおり、【K】のデザインに係る紳士服、紳士靴、婦人服、サングラス等に使用されて、現在に至っている。

(2)  以上の事実によれば、本願商標の商標登録出願時までには、ポロ商標は、その略称である「ポロ」とともに、いずれも紳士服、婦人服、眼鏡等について【K】のデザインに係る商品に付される商標として周知となっていたということができる。

2  上記認定の事実を基礎として、本願商標をその指定商品に使用した場合に、他人の業務に係る商品との間で出所の混同を生ずるおそれがあったかどうかについて検討する。

(1)  本願商標は、別添審決書の理由(写し)の別紙(1)に表示されているとおり、首を少し左に向けた馬に、帽子をかぶり、顔面を斜め右下に向け、ポロ競技に使用するマレットを右手で上方に振りかざして乗っている1騎のポロプレーヤーと、その右後ろに、ほぼ同様の姿勢で馬に乗っているもう1騎のポロプレーヤーとを前方から黒白で描写した図形からなるものであり、これが、馬に乗ったポロ競技のプレーヤーを表したものであることは明らかである。

(2)  ポロ商標が付される商品は、上記認定のとおり、紳士服、紳士靴、婦人服、サングラス等ファッション(装身に関する流行)に関係するものである。一方、本願商標の指定商品は、「はき物(運動用特殊ぐつを除く。) かさ つえ これらの部品および附属品」であるから、ファッションに関係するものであり、かつ、少なくとも紳士靴についてポロ商標が使用されている商品と共通しているものである。

(3)  そうすると、本願商標の登録出願時において、本願商標がその指定商品である「はき物(運動用特殊ぐつを除く。) かさ つえ これらの部品および附属品」に使用された場合には、本願商標に接した需要者は、これが上記のとおり馬に乗ったポロ競技のプレーヤーであることから、引用商標における馬に乗ったポロプレーヤーの図形や「ポロ」の観念を想起し、これを通じて、本願商標が付される商品について、【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解し、その出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

そして、本願商標の登録出願後、審決時までに、事情の変更があったと認めるに足りる証拠はないから、審決時においても、商品の出所の混同のおそれは、なお継続していたものというべきである。

(4)  原告は、本願商標は、複数のポロプレーヤーを表わすことによってポロチームを表現し、ポロプレーヤーがポロ競技をしている状態を示す動的イメージを印象づけようとする図形であるのに対し、引用商標は、1騎のポロプレーヤーを象徴的に示し、ポロが上流階級のスポーツであることを象徴的に示した図形であり、両者は明らかに観念を異にするものであり、また、外観も異にするものであるとの前提で、本願商標から引用商標を含むポロ商標を想起することはないなどと主張する。

しかしながら、仮に、本願商標と引用商標との対比自体につき原告主張のようにいい得るとしても、本願商標が馬上のポロプレーヤーを示したものであることは、原告も認める明らかな事実である以上、引用商標を含むポロ商標やその略称である「ポロ」が【K】に係るものとして周知であるという前認定の状況の下では、本願商標に接した一般需要者は、「ポロ」の観念を想起したり引用商標を含むポロ商標を連想したりすることになるものということができ、この場合、引用商標と区別できたとしても、そのときは、【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係を有する者が使用する他の商標の一つと誤認するおそれがあるものというべきである。

原告の主張は、採用できない。

なお、本件で問題としているのは、本願商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかであって、同法4条1項10号に該当するかどうかではない以上、本願商標が引用商標に類似するかどうかは、本願商標がその指定商品に使用された場合に、【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品との間で出所の混同を生ずるおそれがあるかどうかを認定するために考慮される事実の一つにすぎないのであるから、前記認定のとおり、本願商標をその指定商品に使用した場合に、【K】又は同人と組織的・経済的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかのように誤解され、その出所について混同を生ずるおそれがあると認められる以上、さらに、本願商標が引用商標に類似するかどうかを検討する必要がないことは明らかである。

3  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

第6よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

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