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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)307号 判決 2000年3月30日

原告

高梨産業株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

中村貴之

同弁理士

【B】

被告

株式会社アテックス

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁護士

筒井豊

同弁理士

【D】

主文

特許庁が平成11年審判第40003号事件について平成11年7月19日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1請求

主文と同旨の判決

第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)

1  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「ベッド」とする実用新案登録第3003385号(平成6年4月20日実用新案登録出願(実願平6-5542号)、同年8月10日設定登録。以下「本件実用新案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成11年3月2日、残存する本件請求項6及び請求項8に係る考案のうち、本件請求項6に係る考案(以下「本件考案」という。)の登録を無効とすることについて審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成11年審判第40003号事件として審理した結果、平成11年7月19日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年8月30日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

弾発部材Sが一対の第1・第2引張バネ33,34から成ると共に、第1引張バネ33は前ベッド半体2の前端と中間支持脚12の間に張架され、かつ、第2引張バネ34は後ベッド半体3の後端と中間支持脚12の間に張架された請求項1記載のベッド。

(【請求項1】前ベッド半体2及び後ベッド半体3を備え、上記前ベッド半体2と後ベッド半体3を、水平展開自在、かつ該前ベッド半体2の裏面2a側と該後ベッド半体3の裏面3a側が相互に近接する倒立V字型に折畳み自在として、枢着すると共に上記倒立V字型の方向へ折畳まれるように弾発付勢する弾発部材Sを設けたことを特徴とするベッド。)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本件考案は、甲第1号証(実願昭52-123831号(実開昭54-49209号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(特開昭56-1120号公報)、甲第4号証(特開昭53-149452号公報)、甲第5号証(米国特許第2,781,525号明細書)及び甲第6号証(米国特許第2730727号明細書)に記載された考案に基づいてきわめて容易になし得たものであるとすることはできず、その登録を無効とすることはできない旨判断した。(なお、審決書2頁10行の「及び」は「ないし」の誤記である。)

第3審決の取消事由

1  認否

(1)  審決の理由1(本件考案の要旨等。審決書2頁2行ないし3頁17行)及び2(当事者の主張。同3頁18行ないし5頁2行)は、認める。

(2)  審決の理由3(審決の判断。同5頁3行ないし8頁13行)中、甲第1及び第3ないし第6号証の記載の概略(同5頁5行ないし13行)は認める。

甲第1号証についての判断(同5頁14行ないし6頁2行)のうち、「全く」(同6頁2行)は争い、その余は認める。

甲第3号証についての判断(同6頁3行ないし18行)のうち、「構成が相違する」(同6頁18行)は争い、その余は認める。

甲第4号証についての判断(同6頁19行ないし7頁4行)のうち、「ベッド本体を倒立V字型に折畳み自在としたものではないから、ベッドとしての基本構成において相違する」(同6頁末行ないし7頁2行)ことは争い、その余は認める。

甲第5号証についての判断(同7頁5行ないし10行)のうち、「本件請求項6に係る考案(本件考案)のベッドとは物品が相違し、」(同7頁6行、7行)は争い、その余は認める。

甲第6号証についての判断(同7頁11行ないし15行)のうち、「構成も作用も相違する」(同7頁14行、15行)ことは争い、その余は認める。

その余の判断及びまとめ(同7頁16行ないし8頁13行)のうち、請求人の主張内容(同7頁16行ないし18行)は認め、その余は争う。

(3)  審決の理由4(むすび。同8頁14行ないし末行)は争う。

2  取消事由

審決は、本件考案の進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  甲第1号証関係

ア 甲第1号証には、倒立V字状の折畳みベッドにばね(スプリング)を付けて、ばねの力と相まってスムーズに軽く折り畳める効果を奏する考案が示されている。

イ 本件考案と甲第1号証の考案との相違点は、他の考案に示されており、本件考案と組み合わせることは極めて容易である。

(ア) すなわち、甲第1号証の考案ではスプリングが1個である点については、折畳みベッドの片側に1個のスプリングを装着した甲第1号証の考案があれば、スプリングを両側に装着することは、当業者が極めて容易に考案することができる。事実、折畳みベッドの両側にばねを装着することは、甲第3ないし第5号証にもあるように、ありふれたことである。

(イ) また、ばねの張架位置とばねの種類(引張バネでなく圧縮バネである点)は異なるものの、「スプリング(4) の力とあいまって・・・スムーズに軽るくベッドを折りたたみ、壁面にたてかけるような状態で収納できる。」(甲第1号証2頁13行ないし16行)との効果を生じる点は、本件考案の効果と同じである。

(2)  甲第3号証関係

甲第3号証の考案がばねの張架位置の片方が中央支持脚でない点については、本件考案と実質的に同一である。

ア まず、甲第3号証の考案は、ばね(発条体)を装着する一方の端がベッド半体の端である点において、本件考案と同じである。

イ 両考案は、ばねの他方の端の張架位置において異なるが、本件考案において、ばねの力と相まってスムーズに軽く折り畳めるという効果が生じる理由は、張架位置の中央側はベッド半体より下方に離れた位置にあり、張架位置のベッド端側はベッド半体とほぼ同一平面上にある点に存するところ、甲第3号証の考案が同様の作用をもたらす理由も、張架位置の中央側はベッド半体より下方に離れた位置にあり、張架位置のベッド端側はベッド半体とほぼ同一平面上にある点に存しており、その作用からみる限り、両考案の本質は変わらない。むしろ、甲第3号証の考案は、本件考案の単純な原理をより複雑に進歩させたものである。

(3)  甲第4号証関係

ア 甲第4号証の考案のベッド本体を中央で分離して、ベッドの左側(1)を化粧支持板(9)と合体させれば、本件考案となる(第4図参照)。したがって、本件考案と甲第4号証の考案は、ベッドとしての基本構成において相違することはない。

イ 甲第4号証に記載されているベッドにおいて、ばね(バネ材)の張架位置の片方がベッドの端でない点については、そもそも、ばねの張架位置のわずかな変更が進歩性を獲得する理由となるとは考えられない。本件考案における弾発部材Sが水平展開状態近くで比較的大きい上昇力を生じて、楽に手で折り畳むことができるとの作用から見れば、ばねの張力の働く方向が同じである限り、張架する位置がわずかに変わっても、その作用に変化はないものである。

ウ 被告は、ベッド半体の先端にばねを張架した場合、同一ばねを使用して先端より奥に引き込んだ位置に張架した場合よりも大きな引き上げ力が得られるという実験結果(乙第1号証の2)が得られた旨主張するが、力学的にはむしろ逆になるはずである。すなわち、別紙2の図1及び図2にベクトルで示したとおり、バネの引張力=Tが同じであれば、角度αが大きい方(すなわちベッド先端から引き込んだ位置に張架した図2の方)が、補助力Fが大きくなる。これを数式で示すと、補助力は、F=Tsinαとなり、角度αが大きいほど補助力も大きくなる。

仮に、ベッド半体の先端にばねを張架した場合、先端より奥に引き込んだ位置に張架した場合よりも弱いばねで同じ補助力が得られるとしても、そのようなことは、単なる設計的事項である。

(4)  甲第5号証関係

甲第17号証(外来語辞典)には、ストレッチャーにつき、「車輪のついた移動用ベッド」と記載されており、甲第5号証に記載された物品は、ベッドの一種である。

(5)  甲第6号証関係

ア 甲第6号証の考案は、折畳みシートの片側に1個のばね(スプリング)を装着した考案であるが、その張架位置は、一方は中央支持脚であり、他方はシート半体の端からわずかに入った位置である。

イ そして、甲第6号証の考案があれば、スプリングを両側に装着することは、当業者にとって極めて容易に考案できることである。

また、張架する位置がわずかに変わっても、その作用に変化はないものである。

(6)  結論部分

甲第3ないし第6号証の考案は、すべて折り畳む際に大きな上昇力を生じ、それによって楽に折り畳むことができるという効果を有するものであり、特に甲第4号証と甲第6号証の考案は、本件考案と実質的に変わるところがない。本件考案は、甲第1号証及び第3ないし第6号証の考案があれば、当業者が極めて容易に考案することができるものである。

第4審決の取消事由に対する認否及び反論

1  認否

原告主張の審決の取消事由は争う。

2  反論

(1)  甲第1号証関係に対して

ア 原告は、甲第1号証のように、折畳みベッドの片側に1個のスプリングを装着した考案があれば、これを両側に装着することは当業者にとって極めて容易である旨主張するが、それを裏付ける根拠は何ら示されていない。

イ また、原告は、両考案の効果は同じである旨主張するが、片側のみに圧縮バネを装着した甲第1号証の折畳みベッドと、両側に引張バネを装着した本件考案の折畳みベッドとを対比すれば、両者の間に、手で折り畳む際にばねが補助する力に大きな差異があることは明らかである。

(2)  甲第3号証関係に対して

原告主張のように、作用・効果又は原理の同一をもって考案の構成が実質的に同一であるとはいえないことは、明らかである。

(3)  甲第4号証関係に対して

ア 甲第4号証のベッドが「ベッド本体」を倒立V字型に折畳み自在としたものでないことは明らかであり、したがって、ベッドとしての基本構成において本件考案と相違することは明らかである。

イ 原告は、甲4号証のベッド本体を中央で分離して、ベッドの左側(1)を化粧支持板(9)と合体させれば、本件考案となる旨主張するが、そのようにすることについて、甲第4号証には、記載も示唆もない。

ウ また、原告は、ばねの張架位置がわずかに変わっても、ばねの働く方向が同じである限り、その作用に変化はないことを本件考案が進歩性を欠くことの理由として主張するが、本件考案は、ばねの張架位置の変更のみを基に進歩性を認められたものではないから、原告の上記主張は失当である。

エ さらに、ばねの引き延ばし量が同じとすると、ばねの張架位置をベッドの最外端に近づければ近づけるほど、折畳みを補助する上昇力は増加するものである(乙第1号証の1、2)。

(4)  甲第5号証関係に対して

審決は、病人移動用のストレッチャーが短時間の移動時間に限り、かつ搬送者による病人移動時に用いられるものであって、本件考案の折畳みベッドのような就寝用のベッドとは、その使用態様、構造等が根本的に異なる点を考慮して、物品が相違すると判断したものであり、審決の上記判断は正当である。

(5)  甲第6号証関係に対して

ア 前後ベッド半体の前端・後端と中間支持脚との間にそれぞれ第1・第2引張バネを張架した本件考案と、一方に引張ばねを使用し、他方にチェーンを使用した甲第6号証のベッドとを比べれば、両者の構成が相違することは明らかであるとともに、その構成の相違によって作用も相違したものとなるものである。

イ 原告は、甲第6号証の考案に基づき、本件考案を極めて容易に考案することができる旨主張するが、甲第6号証の考案は、「シート・セクションが戻されると、図2に示されるようにバネ55が支え28をシート・セクション22と23の間に真っ直ぐ立つように引っ張る。」(甲第6号証訳文3頁9行、10行)と記載されているように、ばね55は棒状の支え28を引き寄せるためのものであり、この点においても本件考案とは明らかに作用が異なる。したがって、本件考案のように、楽に手で折り畳むことができるように有効に補助してくれるとの効果について、甲第6号証には、記載も示唆もない。また、甲第6号証には、他方のチェーンをばねに換えることについても、記載も示唆も見られない。

したがって、原告の上記主張は失当である。

(6)  結論部分に対して

甲第1号証、及び甲第3ないし第6号証に記載されているものは、いずれも本件考案におけるような前後ベッド半体の前後端と中間支持脚の間にばねを張架した構成を含む構成を備えていないことから、これら甲号各証に記載されたものによっては、本件考案の楽に手で折畳むことができるように有効に補助してくれるという効果が得られないものである。

そして、これらを総合しても、本件考案に到達することにはならないものであり、審決の判断は正当である。

理由

1  本件考案の進歩性の有無について

(1)  本件考案と甲第1号証の考案との対比

ア  本件考案の要旨は、前記のとおり、当事者間に争いがない。

イ 甲第1号証によれば、同号証には、「この考案はベッドの台の中央部分に蝶番を付けその部分から折りたためるようにしたベッドである。」(1頁6行、7行)、「以上のような構造のベッドの取手(5) を人力によって引き上げる事により、スプリング(4)の力とあいまって寝具(8)を敷いたまま、スムーズに軽るく、ベッドを折りたたみ、壁面にたてかけるような状態で収納できる。」(2頁12行ないし16行)と記載されていることが認められ、第1図ないし第4図にも、そのようなベッドが図示されていることが認められる。

ウ  本件考案と甲第1号証の考案とを対比すると、両者は、弾発体(ばね)の数につき、本件考案においては、前後各ベッド半体に弾発体を張架しているのに対し、甲第1号証においては、前後ベッド半体の一方のみにスプリングを張架したものである点(相違点1)、張架位置につき、本件考案においては、弾発体が中間支持脚と前端又は後端との間に張架されているのに対し、甲第1号証の考案においては、そのようになっていない点(相違点2)、張架されたばねの種類において、本件考案においては、引張ばねであるのに対し、甲第1号証の考案においては、圧縮バネである点(相違点3)で相違するが、その余の点においては、一致するものと認められる。

(2)  相違点についての判断

ア(ア)  甲第4号証によれば、同号証には、「ベッド本体(1)より垂下している連結材(10)はベッド本体(1)に対して回動自在に枢支しており、連結材(10)の長さ及び連結材(10)より張架せるバネ材(12)の長さ及びバネ材(12)のそれぞれの取り付け位置は、バネ材(12)が格納ベッドの動作状態及び動作位置にかかわらず、常に略一定の張架状態を保てるように選定することが望ましい。又連結材(10)は格納ベッドを平設した際には、格納ベッドを床面(14)より支持する支持脚の役目をも果たすことも出来る。本発明は上記の如く構成されており、本発明による格納ベッドを起倒する際には、その起倒動作時点すべてで格納ベッドはバランスを略保っているので、わずかの外力を附与するのみで格納ベッドを起倒自在に操作出来る効果を有したものであり、」(2頁左下欄5行ないし20行)と記載されていることが認められ、これらの記載及び第3、第4図によれば、甲第4号証には、ベッド本体1自体は折り畳まれないとしても、ベッド本体の裏面略中央部に設けてある回転軸8に回動自在に枢支されている化粧支持板9とベッド本体の半分が倒立V字型に折り畳まれるものにおいて、倒立V字型の頂点部分から垂下している支持脚の役目を有する連結材10から両側にベッドと支持板との間で張架された引張バネによって、ベッドを起倒する際にわずかの外力を付与することのみで格納ベッドを起倒自在に操作し得るものが開示されていることが認められる。

(イ)  そして、甲第1号証の考案と甲第4号証の発明は、共に折畳み式のベッドに関する技術であるから、前ベッド半体及び後ベッド半体を備え、上記前ベッド半体と後ベッド半体を、水平展開自在、かつ該前ベッド半体の裏面側と該後ベッド半体の裏面側が相互に近接する倒立V字型に折畳み自在として、枢着すると共に、上記倒立V字型の方向へ折畳まれる際にスプリングにより補助力を付与する機構を設けた甲第1号証の構成に、倒立V字型の頂点部分から垂下している支持脚の役目を有する連結材から両側のベッドと支持板との間にそれぞれ張架された引張バネという甲第4号証の構成を組み合わせることは、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められる。

ウ  さらに、甲第6号証によれば、同号証には、折畳み式のシート及びベッドにおいて、3分割されたシート面のうち2面を倒立V字状に折畳み自在となるように枢着されたものにおいて、折畳みシートの片側のみに1個のスプリングを装着したものであるが、その張架位置は、一方は中央支持脚であり、他方はシート体の端からごくわずか入った位置であるものが図示されていることが認められる。この記載によれば、折畳み式ベッドの折畳みを容易にするために必要な補助量等に応じて、スプリングの張架位置の他方をシート体の端そのものとすることも、開示されているに等しい事項と認められる。

これによれば、上記イの甲第1号証の構成に倒立V字型の頂点部分から垂下している支持脚の役目を有する連結材から両側のベッドと支持板との間にそれぞれ張架された引張バネという甲第4号証の構成を組み合わせたものに、更に甲第6号証のスプリングの張架位置の他方をシート体の端そのものとすることを組み合わせることは、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められる。

エ(ア)  被告は、甲第4号証のベッドが「ベッド本体」を倒立V字型に折畳み自在としたものでないことは明らかであり、したがって、ベッドとしての基本構成において本件考案と相違することは明らかである旨主張するが、本件は、考案の新規性ではなく、進歩性を問題としているものであるから、甲第4号証に本件考案の構成のすべてが記載されていないことは、本件考案の進歩性についての判断を左右するものではない。被告の上記主張を「動機づけ」の問題として検討しても、前記のとおり、両考案は、折畳み式のベッドという同じ技術分野に属するものであり、甲第4号証のベッドが「ベッド本体」を倒立V字型に折り畳み自在としたものでないことは、連結材10から両側のベッドと支持板との間にそれぞれ張架された引張バネという甲第4号証の構成を甲第1号証の考案に組み合わせることを妨げる事情とは認められない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(イ)  また、被告は、甲第6号証の引張バネ55は棒状の支え28を引き寄せるためのものであり、この点において本件考案のものとは明らかに作用が異なり、楽に手で折り畳むことができるように有効に補助してくれるとの効果を開示するものではない旨主張する。

確かに、甲第6号証によれば、同号証には、「シート・セクションが戻されると、図2に示されるようにバネ55が支え28をシート・セクション22と23の間に真っ直ぐ立つように引っ張る。」(訳文3頁9行、10行)と記載されていることが認められる。しかし、この記載は、支え28に張架された引張ばね55が折畳み式ベッドを楽に手で折り畳むことができるように有効に補助してくれるとの効果も奏することと何ら矛盾する記載ではない上、甲第6号証の支え28に張架された引張バネ55が上記効果を奏することは、甲第6号証に接する当業者に自明の効果であると認められる。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

(ウ)  なお、被告は、ばねの引き延ばし量を同じとの条件で、ばねの張架位置をベッドの最外端に近づければ近づけるほど、折畳みを補助する上昇力は増加するものであるとし、それを裏付けるものとして、乙第1号証の1、2を提出する。

乙第1号証の2(実験報告書)は、被告製造の折畳みベッドを使用し、ばねの張架位置をベッド半体の前端及び後端とした試料NO.1と、ばねの張架位置をベッド半体の前端及び後端から内側に変更した試料NO.2とを準備し、それぞれのベッドを水平に展開した上で、ベッドの中央のセンターパイプにバネ・のフックを架け、ベッドを倒立V状に折り畳むために引き上げるのに要する力の最大値を測定したところ、試料NO.1では、1.5キログラムであり、試料NO.2では3.2キログラムであったとの記載がある。

しかしながら、乙第1号証の2は、ベッドを引き上げつつ力を測定したものとは認められず、また、ベッドの折れ曲がり状態の変化に対応した連続した測定値の記載がないため、試料NO.1の写真5、6や試料NO.2の写真5、6のベッドの状態がそれぞれの最大引き上げ力時の状態を示したものであるか否かを確認することができない。

したがって、乙第1号証の2の実験結果及びこれに基づく乙第1号証の1の意見書は直ちに採用することはできず、また、仮に被告の上記主張が正しいとしても、前記ウにおいて説示したように、甲第1号証の構成に甲第4号証及び甲第6号証に開示されている構成を組み合せることは、当業者が極めて容易にすることができたとの判断を左右するものではない。

(3)  以上によれば、甲第1号証及び第3ないし第6号証記載の考案を併せもってしても本件考案に到達することにならない旨の審決の判断は誤りであり、原告主張の取消事由は理由がある。

2  結論

以上によれば、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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