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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)31号 判決 2000年10月11日

原告 富士写真フイルム株式会社

代表者代表取締役 A

原告 富士写真光機株式会社

代表者代表取締役 B

両名訴訟代理人弁護士 中村稔

同 松尾和子

同 吉田和彦

同 弁理士 C

同 D

被告 特許庁長官 E

指定代理人 F

同 G

同 H

同 I

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告ら

特許庁が平成10年審判第4785号事件について平成10年11月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和62年1月19日、名称を「レンズ付きフイルムユニット」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(実願昭62-5697号)をしたところ、平成9年11月28日、拒絶査定を受けたので、平成10年3月27日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第4785号事件として審理した結果、同年11月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成11年1月6日、原告らに送達された。

2  本願考案の要旨

「撮影レンズ及びシャッタ等の撮影機構を光密ケース内に備えるとともに、光密ケース組立て前に裏紙のないロール状フイルムが装填されており、撮影終了後前記光密ケースを分解又は破損して撮影済みフイルムを取り出すようにしたレンズ付きフイルムユニットにおいて、前記フイルムは、一端が巻取部に配置された光密なフイルムコンテナー中のフイルム巻芯に固定されており、他端は前記フイルムコンテナーから引き出されロール状にしてフイルム供給部に配置され、撮影される毎にフイルム巻芯が回転され、前記光密なフイルムコンテナー内に巻き込まれていくように構成され、前記光密フイルムコンテナーは、撮影用露光開口よりシャッタボタンの存在する側に配置され、該コンテナーのフイルム巻芯に、外部操作のためにその一部を前記光密ケースの外に露呈させた巻上部材の回動軸を直接係合させたことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット。」

3  審決の理由

審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、その出願の日前の他の出願であってその出願後に出願公開された実願昭61-185230号(実開昭63-90217号)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)に記載された考案(以下「先願考案」という。)と同一であると認められ、また、本願考案の出願の時にその出願人が先願考案の出願人と同一であるとも認められないので、実用新案法(平成6年法律第116号による改正前のもの。以下、単に「法」という。)3条の2第1項の規定により、本願考案は実用新案登録を受けることができないというものである。

第3原告主張の審決取消事由

審決は、本願考案と先願考案の相違点の認定を誤り(取消事由1)、本願の出願時にその出願人と先願考案の出願人とが法3条の2第1項ただし書にいう「同一の者」であるのにその判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)

(1) 先願考案について

審決は、「先願考案では、巻上部材の操作に連動して回動するフイルム巻き上げ用フオークをフイルムコンテナーのフイルム巻芯に係合させているものの、巻上部材の回動軸がフイルム巻芯に直接係合しているか否か明確でない」(審決書10頁8行目~12行目)というが、先願考案では、巻き上げノブとパトローネ軸は直接係合するものではない。

先願明細書(甲第4号証)では、フォーク14と巻き上げノブ8とは別個独立の部材として構成され、巻き上げノブが回転することによりフォークも回転する「連動」関係にあるとされている(7頁15行目~17行目)。そして、カメラの技術分野での「連動」の語は、相互に別個独立な複数の部材が存在する場合において、それら複数の部材の動きに統一的な関連性があることを意味する。したがって、先願明細書に記載された巻き上げノブ8とフォーク14は、直接係合されたものではない。

先願明細書(甲第4号証)の第1図に示された巻き上げノブ8の周面の曲率と、巻き上げノブ8に対するフォーク14の位置関係からみても、巻き上げノブ8とフォーク14が同軸関係にないことは明らかであり、第3図に示された背板3からパトローネ軸28との距離と本体側面からパトローネ軸28との距離の大小関係からみても、巻き上げノブ8が第1図に示されたように本体背面にスロットから露出している場合、その回動軸は本体側面よりも背板3に近い場所に位置せざるを得ないのであって、これがパトローネ軸28と同軸であることはあり得ないから、直接係合させる構造を採用することは不可能である。

(2) 周知慣用技術について

審決は、相違点を検討する中で「レンズ付きフイルムユニットを含むカメラにおいて、構造を簡単にするという課題は周知のものであるから、格別の事情がない限り、巻上部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることの方が普通に行われる手段であり(例えば、特開昭48-7734号公報参照)」(審決書10頁14行目~末行)と認定したが、ここで参照された特開昭48-7734号公報(甲第10号証)(以下「周知例1」という。)は、本願考案のような巻き上げノブのほぼ全体が光密ケース内に収められている形式のものではなく、カメラ本体の天板の上側に巻き上げノブの全体を露出させて配置された形式のカメラであるから、本願考案についての慣用技術として引用することは不適当である。

巻き上げ部材の全体を光密ケースの内部に収め、その一部のみを外部操作のために光密ケースの外に露呈させた本願考案のような構成では、巻き上げ部材自体が光密ケースの内部に収められる寸法関係になることが必要であり、その上、巻き上げ部材の一部のみが外部操作のために光密ケースの外に露呈される。本願考案では、こうした制約の下で、全体の配置構成を先願明細書に開示された従来のものとは異なるように工夫する必要があったのである。

審決は、さらに「本願考案と同種の外部操作のためにその一部を光密ケースの外に露呈させた巻上部材においても、フイルムコンテナーのフイルム巻芯に巻上部材の回動軸を直接係合させることは本願出願前に周知である(例えば、実願昭58-86637号(実開昭59-192129号)のマイクロフイルム参照)」(審決書10頁末行~11頁6行目)と認定しているが、ここで引用されている実願昭58-86637号(実開昭59-192129号)のマイクロフイルム(甲第13号証)(以下「周知例2」という。)では、フイルム巻芯と巻上部材の回動軸の関係は全く示されていない。

したがって、審決が参照している周知例1及び周知例2の開示をもって、フイルム巻芯に巻き上げ部材の回動軸を直接係合させることが本願出願前に周知であったということはできない。

審決は、「してみると、本願考案の『巻上部材の回動軸をフイルムコンテナーのフイルム巻芯に直接係合させる』点は、周知技術の転換に相当するものであり、新たな効果を奏するものではないから、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎず、本願考案と先願考案とは実質同一である」(審決書11頁7行目~13行目)と認定判断しているが、本願考案の「巻上部材の回動軸をフイルムコンテナーのフイルム巻芯に直接係合させる」構成は、前記のとおり、本願考案が対象とするレンズ付きフイルムユニットの分野では存在しないものであるから、審決の上記認定は誤りであり、さらに、上記構成を採用することにより、レンズ付きフイルムユニットにおける作動メカニズムを簡素化し、部品点数の減少を図ることができるとともに、フイルム送り等の作動を確実にすることが可能となるという技術的意義がある。

レンズ付きフイルムユニットカメラはカメラの一種であるが、フイルムをあらかじめ本体に装填しておき、簡単な構造でかつ小型化する一方、作動は確実でなければならないという他のカメラにはない制約があるため、カメラの技術分野の慣用技術であっても、レンズ付きフイルムユニットには採用できないものもある。周知例1(甲第10号証)の「巻取ノブK」、実公昭34-16432号公報(甲第11号証)記載の「ノッブ13」のような構造は、これらの部材が光密ケースの外に完全に露呈するよう配置されるタイプのカメラについて開示されているにすぎない。

2  取消事由2(出願人の同一に関する判断の誤り)

法3条の2第1項の適用について、本願の出願時にその出願人と先願の出願人とは同項ただし書にいう「同一の者」であったというべきであって、これと異なる審決の判断は、誤りである。

先願が単独出願で後願が共同出願の場合に、後願出願人の一人が先願出願人でもあるときは、後願出願人と先願出願人とは、法3条の2第1項ただし書にいう「同一の者」であるというべきである。仮に、そうでなくとも、先願出願人でない後願出願人が、先願出願人であり後願出願人でもある者(以下「共通出願人」という。)の子会社である等、共通出願人と極めて密接な関係を有し、かつ、当該技術分野において、共通出願人と共同で、又は共通出願人からの委託を受けて研究開発をしていた等の特段の事情が存在するときは、後願出願人と先願出願人とは、上記「同一の者」であるというべきである。本件においては、先願出願人は、原告富士写真フイルム株式会社(以下「原告富士写真フイルム」という。)であり、本件考案の出願人は、原告富士写真フイルム及び原告富士写真光機株式会社(以下「原告富士写真光機」という。)であって、原告富士写真光機は、原告富士写真フイルムの子会社で同社と極めて密接な関係を有するから、先願出願人と後願出願人とは、上記「同一の者」であるというべきである。

第4被告の反論

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)について

(1) 先願考案について

原告らは、「連動」の語が、相互に別個独立な複数の部材が存在する場合において、それら複数の部材の動きに統一的な関連性があることを意味すると主張する。しかしながら、「連動」とは、一般に、機械などで、一部分を動かすことによって他の部分も統一的に動くことを意味するから、一部分と他の部分との動きの関連性は規定していても、それらの部分が別個独立の部材であるか否かは規定していないと解するのが相当である。したがって、フォークが巻き上げノブと「連動」するということは、フォークが巻上げノブの回転軸と一体である場合を排除しておらず、巻上げノブのフォークがパトローネ軸と直接係合している態様も考えられる。

原告らは、先願明細書(甲第4号証)の第1図に示された巻き上げノブ8の周面の曲率と巻き上げノブ8に対するフォーク14の位置関係、第3図に示された背板3からパトローネ軸28との距離と本体側面からパトローネ軸28との距離の大小関係からみて、巻き上げノブ8とフォーク14が同軸関係にないことは明らかであると主張する。しかしながら、一般に、明細書に添付される図面は設計図面のように詳細なものではなく、先願考案において、フォーク14、巻き上げノブ8、パトローネ軸28は、単にレンズ付きフイルムユニットとしての先願考案を説明するための構成要素にすぎず、厳密に正しい寸法で描かれているとは考えられないことに照らすと、先願明細書の図面におけるこれらの部材の配置関係から巻き上げノブとフォークの同軸関係の有無を判断することはできない。

(2) 周知慣用技術について

原告らは、審決が参照した周知例1(甲第10号証)が、本願考案のような巻き上げノブのほぼ全体が光密ケース内に収められている形式のものではないから、本願考案についての慣用技術として引用するには不適当であると主張する。しかしながら、審決は、レンズ付きフイルムユニットを含むカメラにおける慣用技術として周知例1を引用しているのであって、レンズ付きフイルムユニットがカメラの一種であり、カメラ機構を備えていることも明らかである。そして、フイルム巻き上げ及び巻き戻し機構がカメラの基本的機構であり、フイルム巻き上げ及び巻き戻し機構において巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることは、カメラの技術分野における慣用技術であって、露光済みのフイルムをフイルムコンテナーに巻き込む際にフイルムコンテナーのフイルム巻芯に巻き込み部材の回動軸を直接係合させることは、カメラの技術分野で従来からの慣用技術である。

原告らは、審決が挙げた周知例2(甲第13号証)について、フイルム巻芯と巻き上げ部材の回動軸との関係が全く示されていないと主張するが、周知例2の第2図には、フイルム巻き取り用の歯車11を備えた巻き上げ部材である円盤5が示され、この歯車11は、円盤5の回動軸に形成されていることが図面の記載からうかがえる。そうすると、本願考案のフイルムコンテナーに相当するカセットのフイルム巻芯に円盤5の回動軸である歯車11が直接係合して巻き上げ動作が行われると考えるのが合理的である。したがって、周知例2には、フイルムコンテナーのフイルム巻芯に巻き上げ部材の回動軸を直接係合させることが明確に示されている。

原告らは、本願考案の「フイルムコンテナーのフイルム巻芯に・・・巻上部材の回動軸を直接係合させた」構成が、本願考案が対象とするレンズ付きフイルムユニットの分野では存在しないものであり、本願考案ではレンズ付きフイルムユニットにおいて上記構成を採用することにより、作動メカニズムを簡素化し、部品点数の減少を図ることができるとともに、フイルム送り等の作動を確実にすることが可能となるという技術的意義があると主張する。しかしながら、機械装置において部品を係合させる際に、他の部品を介在させないで直接係合させる方が、構造が簡単で、部品点数も少なくなって故障が減り、動作が確実となることは、技術常識であり、カメラの技術分野において、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させること、外部操作のためにその一部を光密ケースの外に露呈させた巻き上げ部材においても、フイルムコンテナーのフイルム巻芯に巻き上げ部材の回動軸を直接係合させることは周知慣用手段であったことに照らすと、先願明細書に接した当業者にとって、本願考案のように巻き上げノブ8の回動軸とフォーク14とを同心に一体とし、フォーク14をパトローネ20のフィルム巻芯であるパトローネ軸28に直接係合させるようにすることは、自明のことである。

2  取消事由2(出願人の同一に関する判断の誤り)

法3条の2第1項ただし書の趣旨は、自己の出願の実用新案登録請求の範囲に記載した考案を説明する必要上、考案の詳細な説明の欄で特定の技術を記載した者が、後日当該技術について出願をして権利を得ようとする場合に、この出願が拒絶されることが酷であるとして設けられた例外規定であるから、同項ただし書にいう「同一の者」の意義は厳格に解釈されるべきである。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の認定の誤り)について

(1) 先願考案について

原告らは、実願昭60-165487号(実開昭62-74228号)のマイクロフィルム(甲第7号証)、実願昭49-121414号(実開昭51-48045号)のマイクロフィルム(甲第8号証)、実願昭60-199794号(実開昭62-125231号)のマイクロフィルム(甲第9号証)、特開昭57-164719号公報(甲第5号証)を挙げて、カメラの技術分野における「連動」の語は、相互に別個独立な複数の部材が存在する場合において、それら複数の部材の動きに統一的な関連性があることを意味すると主張する。しかしながら、「連動」の語の一般の意味は、同軸であるか異軸であるかを問わず、また、第三の部材を介するかどうかを問わず、複数の部材の動きに統一的な関連性があることを意味するから、2個の部材が直接係合して動く場合であっても、これら部材の動きに統一的な関連性があるならば、これら部材は連動しているというべきである。甲第7、第8、第9、第5号証においても、「連動」の語は、2個の部材が直接係合して動く場合を排除する意味で用いられているものではない。したがって、先願明細書(甲第4号証)に「巻き上げノブ8の操作に連動し図中反時計方向に回動するフイルム巻き上げ用のフォーク14」(7頁15行目~17行目)と記載されていることから、巻き上げノブ8とフォーク14が直接係合されたものではないということはできない。

原告らは、先願明細書の第1、第3図に示された巻き上げノブ8の周面の曲率、フォーク14との位置関係からみて、巻き上げノブ8がパトローネ軸28と同軸であることはあり得ないから、これらを直接係合させる構造を採用することは不可能であると主張する。しかしながら、先願明細書の実用新案登録請求の範囲には、「(1)・・・レンズ付きフイルムユニットにおいて、前記撮影機構が設けられたユニット基部の背面に固定される背板の内面に、フイルムの移送方向に沿って延長され、その前面が露光位置におけるフイルムを背面側で保持するフイルム規制面となる複数本の補強用リブを一体成形したことを特徴とするレンズ付きフイルムユニット。(2) 前記補強用リブの前面は、背板側に湾曲していることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載のレンズ付きフイルムユニット。」と記載されているから、先願考案は、露光位置におけるフイルムを保持するために背板3の内面に一体成形された補強用リブ18に関するものであることは明らかであり、フイルムの巻上げ機構に関するものではない。そして、一般に、実用新案登録出願の願書に添付される図面は、設計図面のような正確性をもって描かれているものではなく、先願明細書の図面を見ても、設計図がそのままに描かれたものとは認められない。そうすると、先願明細書の第1、第3図の寸法を計測した結果は、上記認定を左右するものではない。

以上のとおり、先願明細書においては、巻き上げ機構の具体的な構造については直接的な開示がないとみるべきであり、したがって、審決が「先願考案では、巻上部材の操作に連動して回動するフイルム巻き上げ用フオークをフイルムコンテナーのフイルム巻芯に係合させているものの、巻上部材の回動軸がフイルム巻芯に直接係合しているか否か明確でない」(審決書10頁8行目~12行目)と認定判断したことに誤りはない。

(2) 周知慣用技術について

カメラの技術分野において、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることが古くから周知慣用の手段であることは、例えば、特開昭48-7734号公報(甲第10号証)及び実公昭34-16432号公報(甲第11号証)により明らかであり、また、その一部を光密ケースの外に露呈させた巻き上げ部材が周知であることは、例えば、周知例2(実願昭58-86637号(実開昭59-192129号)のマイクロフイルム)(甲第13号証)により明らかである。そして、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることは、同部材がその一部を光密ケースの外に露呈させたものであっても、特に技術的な困難性が存しないことは、当業者にとって自明であったと認められる。そうすると、当業者であれば、先願明細書の第1図が示す、外部操作のためにその一部を光密ケースの外に露呈させた「巻上部材(ノブ8)」と「フイルム巻芯(フォーク14)」を見れば、巻き上げ部材の回動軸がフイルム巻芯に直接係合されていないものだけでなく、これらが直接係合されているものもまた自明であったというべきである。

原告らは、レンズ付きフイルムユニットカメラには、フイルムをあらかじめ本体に装填しておき、簡単な構造でかつ小型化する一方、作動は確実でなければならないという制約があるため、カメラの技術分野の慣用技術であっても、レンズ付きフイルムユニットには採用できないものもあると主張する。しかしながら、原告らがレンズ付きフイルムユニットカメラの制約として主張する「簡単な構造でかつ小型化する一方、作動は確実でなければならない」ことは、レンズ付きフイルムユニットカメラの出現以前から、一般のカメラにおける技術的課題として当業者に広く認識されていたと認められ、レンズ付きフイルムユニットカメラは、フイルムがあらかじめ本体に装填されているという特徴があるものの、カメラとしての機能を有することに変わりはなく、一般のカメラ同様に巻き上げ部材とフイルム巻芯を有することも明らかである。そうすると、簡単な構造で小型化すること等の目的のために巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることは、一般のカメラのみならず、レンズ付きフイルムユニットカメラにも適用可能であると認められる。したがって、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることは、レンズ付きフイルムユニットに適用可能な技術というべきである。

原告らは、レンズ付きフイルムユニットの技術分野において、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることは従来なく、そうすることに技術的困難性があったと主張する。しかしながら、レンズ付きフイルムユニットでは、従来のカメラと比較して、あらかじめフイルムが装填され、また、1回限りの使用しか予定されていない使い捨てタイプであるという点で異なるとはいえ、レンズ付きフイルムユニットカメラもカメラの一種であって、巻き上げ部材の回動軸をフイルム巻芯に直接係合させることをレンズ付きフイルムユニットに適用することについては、前示のとおり、格別その技術的困難性が認められないから、原告らの上記主張は理由がない。

以上のとおりであるから、このについて審決が「本願考案の『巻上部材の回動軸をフイルムコンテナーのフイルム巻芯に直接係合させる』点は、周知技術の転換に相当するものであり、新たな効果を奏するものではないから、・・・本願考案と先願考案とは実質同一である」(審決書11頁7行目~13行目)と認定判断したことに、誤りはない。

2  取消事由2(出願人の同一に関する判断の誤り)について

(1) 法3条の2第1項ただし書は、一般に先願明細書の記載の後願排除効を規定する同条本文の例外であるから、安易に拡張解釈することなく文言どおりに解するのが原則であるところ、同項ただし書は、「当該実用新案登録出願の時にその出願人と当該他の実用新案登録出願又は特許出願の出願人とが同一の者であるときは、」と規定するから、当該他の実用新案登録出願が単独の出願人によってされ、当該実用新案登録出願が共同出願人によってされた場合には、同項ただし書に規定する「同一の者」の要件を満たさないと解するのが、同項ただし書の文理に合致する。

また、同項ただし書は、「当該実用新案登録出願の時に」と規定し、後願の出願時を基準として先願と後願の出願人が「同一の者」に当たるかどうかを判断する旨を規定しており、当該他の考案の出願人と当該考案の出願人との実質的な関係を考慮することなく、後願の出願時における当該考案の出願人がだれであるかにより、形式的にその適用の有無が決せられる趣旨の規定であると解される。

したがって、先願の当該他の実用新案登録出願が単独の出願人によってされ、後願の当該実用新案登録出願が共同出願人によってされた場合には、その共同出願人の一人が先願の出願人であるときであっても、同項ただし書に規定する「同一の者」の要件を満たさないと解するのが相当である。

(2) この点について、原告らは、さらに、上記のような場合に、先願出願人でない後願出願人が、共通出願人の子会社である等、共通出願人と極めて密接な関係を有し、かつ、当該技術分野において、共通出願人と共同で、又は共通出願人からの委託を受けて研究開発をしていた等の特段の事情が存在するときは、後願出願人と先願出願人は、上記「同一の者」であるというべきであるとも主張する。しかしながら、上記「同一の者」の要件該当性を判断するに当たって、このような具体的事情の有無まで考慮すべきものとすることは、前記のとおり、法3条の2第1項ただし書の適用の有無が形式的に決せられるべきであるとする法の趣旨に反する上、極めて多数の出願を迅速に処理すべきことが要請されている特許庁の事務処理上著しい妨げとなり、同項ただし書の適用に関する法的安定性を損なうこととなるから相当でない。また、たとい上記のような特段の事情が存在する場合であっても、後願出願人において同項ただし書の適用を受けようとするならば、その出願までの間に他の後願出願人から実用新案登録を受ける権利の譲渡を受けて単独出願をすることにより登録を受けることが可能となるから、このように解したとしても、不当な結果を招くことはない。したがって、原告らの主張は採用することができない。

(3) そうすると、本件において、先願出願人が原告富士写真フイルムであり、後願の本件出願人が同原告及び原告富士写真光機である以上、後願の出願時において先願と後願の出願人が「同一の者」であるということはできず、原告ら主張の取消事由2も失当といわざるを得ない。

3  以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠原勝美 裁判官 石原直樹 裁判官 長沢幸男)

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