東京高等裁判所 平成11年(行ケ)34号 判決 2000年3月08日
原告
日本サーモスタット株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁理士
B
同
C
被告
特許庁長官D
指定代理人
E
同
F
同
G
同
H
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成8年審判第17574号事件について、平成10年11月11日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成4年7月6日、名称を「温度センサー」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をした(実願平4ー46882号)が、平成8年9月6日に拒絶査定を受けたので、同年10月17日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成8年審判第17574号事件として審理したうえ、平成10年11月11日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は平成11年1月6日、原告に送達された。
2 本願明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された考案(以下「本願第1考案」という。)の要旨
内燃機関の冷却水路に取り付けられるセンサーケースと、このセンサーケースの底部に配置された水温計用のサーミスターと、伝熱材に埋設され前記センサーケースの底部から突出して設けられた電子制御装置用のサーミスターと、この電子制御用のサーミスターと前記水温計用のサーミスターとの間に介在し、両サーミスター相互間の熱干渉を防止する断熱材と、からなることを特徴とする温度センサー。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1考案が、実願昭48ー46359号(実開昭50ー8978号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」といい、そこに記載された考案を「刊行物考案」という。)及び実願昭62ー62286号(実開昭63ー168833号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)にそれぞれ記載された考案並びに周知の技術である「エンジンの制御としての電子制御装置」及び「検出温度の応答性を良くするためにケース内のサーミスターを伝熱部材に埋設すること」に基づき、当業者が極めて容易に考案をすることができたものであるから、本願考案は、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願第1考案の要旨及び請求項2記載の考案の要旨の認定、刊行物1の記載事項の認定、刊行物2の記載自体をそのまま摘記した部分の認定(審決書5頁13行~6頁10行)、本願第1考案と刊行物考案との一致点及び相違点1~3の各認定並びに相違点3についての判断は認める。
審決は、相違点1、2についての判断を誤り(取消事由1、2)、本願第1考案の奏する特有の効果を看過した(取消事由3)結果、本願第1考案が刊行物1、2に記載された考案及び周知技術に基づき、当業者が極めて容易に考案をすることができたものとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
審決は、本願第1考案と刊行物考案との相違点1として認定した「本願請求項1に係る考案(注、本願第1考案)は、センサーケースの底部に設けられたサーミスターを水温計用とし、前記底部から突出したサーミスターを電子制御用としているのに対し、刊行物1に記載の考案(注、刊行物考案)は、2つのサーミスターの内、一方を水温計器用、他方を制御用としているものの、どちらに設けられるかを限定した記載がない点。」(審決書8頁6~12行)につき、「制御用サーミスタを電子制御装置用のサーミスタとしたとしても、格別の用途限定とは認められず、また一般に、ケースの先端側にサーミスターを配置した方が冷却水の水温を正確且つ応答性が速く測定できるものであるから、どちらをケースの先端側に配置するかは、この点も含め利害得失を勘案した上で当業者が適宜選択しうる程度の事項にすぎない。」(同9頁8~15行)と判断した。
この判断のうち、制御用サーミスタを電子制御装置用のサーミスタとしたとしても、格別の用途限定とは認められないとした部分は認めるが、その余の部分は誤りである。
すなわち、水温計用として選定されるサーミスタは、車両のインストルメンツパネルなどに設けた計器(水温計)の針を作動させるため、多くの電流が流されるので、自己発熱が大きく生じる条件で使用される。他方、電子制御装置用として選定されるサーミスタは、電子制御装置に信号を送るだけで、計器の針を作動させる必要がなく、サーミスタに流される電流もさほど大きくないので、電流による自己発熱が小さい条件で使用される。このように水温計用のサーミスタと電子制御装置用のサーミスタとは、明瞭に区別されるものである。
ところで、内燃機関(自動車用エンジン)の冷却システムにおいて、冷却水路(水路壁)は、外気の影響で、一般に冷却水よりも温度が多少低くなっている。しかるところ、本願第1考案の電子制御装置用のサーミスタは、伝熱材に埋設されているから、仮に、電子制御装置用のサーミスタをセンサケースの底部側(冷却水路側)に配置すると、冷却水路との伝熱作用によって、正確で応答性のよい水温測定ができなくなる。これに対し、電子制御装置用のサーミスタをセンサケースの先端から突出して配置し、水温計用のサーミスタをセンサケースの底部側(冷却水路側)に配置した場合には、電子制御装置用のサーミスタは冷却水路との伝熱の問題がなくなり、また、自己発熱が大きく実際の水温より多少高めの温度を指示すると予測される水温計用のサーミスタは、冷却水路との伝熱作用で自己発熱を放熱できるという利益がある。
また、センサケースの底部側はコネクタ部と接続されるところ、コネクタ部も外気の影響で一般に冷却水よりも多少温度が低くなっているので、電子制御装置用のサーミスタと水温計用のサーミスタの配置とコネクタ部との関係については、上述の冷却水路との関係と同様のことがいえる。
被告は、刊行物1において、計器用サーミスタをケース内の底部に配置し、制御用サーミスタをケース内の底部から突出した部位に配置することが否定されているわけではないから、そのように配置することは当業者が適宜選択し得ると主張するが、サーミスタが伝熱材に埋設される本願第1考案と、伝熱材を備えない刊行物考案とでは、サーミスタの配置を決定する前提が異なるのである。
本願考案は、水温計用のサーミスタの放熱を技術課題の一つとしているところ、上記のように、電子制御装置用のサーミスタと水温計用のサーミスタの配置は、審決の判断のような単純なものではなく、審決の判断は、本願考案の技術課題を無視するものである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
審決は、本願第1考案と刊行物考案との相違点2として認定した「本願請求項1に係る考案(注、本願第1考案)は、電子制御用のサーミスターと水温計用のサーミスターとの間にサーミスター相互間の熱干渉を防止する断熱材を設けたのに対し、刊行物1に記載の考案(注、刊行物考案)は、かかる構成がない点。」(審決書8頁14~18行)につき、「刊行物2には、測定したい部分以外の熱の影響を受けないようにするため、すなわち熱干渉を受けないようにするため、2つの温度センサーの間に断熱材を介在させる点が記載されているから、相違点2は、刊行物1記載の考案に刊行物2記載の断熱材を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到しうる程度のものにすぎない。」(審決書9頁17行~10頁3行)と判断したが、それは誤りである。
すなわち、本願第1考案は、温度センサに内蔵される水温計用のサーミスタが自己発熱するタイプのものであり、かつ、電子制御装置用のサーミスタが伝熱材に埋設されているから、自己発熱が大きい水温計用のサーミスタから電子制御装置用のサーミスタへの、センサケース内部における伝熱材を通しての伝熱が問題となる。そのため、本願第1考案は、両サーミスタ間に断熱材を設けたものである。
被告は、計器用サーミスタと制御用サーミスタとの間の熱干渉と、それによる不都合を解決するために両サーミスタの間隔を考慮すべきことが刊行物1に記載されていると主張するが、上記のとおり、本願第1考案においては、電子制御装置用のサーミスタが伝熱材に埋設されているから、センサケース内部における伝熱材を通しての伝熱が問題となるのに対し、刊行物考案は、計器用サーミスタと制御用サーミスタとの間に空間が存在するため、本願第1考案における熱干渉とは、伝熱経路が明らかに異なるものであり、かつ、両サーミスタ間に断熱材を設けた本願第1考案では、両サーミスタ間の間隔は、熱干渉に関しては余り問題とならないものである。
なお、本願明細書(甲第2号証)記載の第1実施例(図1の態様)及び第2実施例(図2の態様)においては、断熱材6が、水温計用のサーミスタ4と伝熱材に埋設された電子制御装置用のサーミスタ3との直接の伝熱を防止し、熱流をセンサケース1側に迂回させることにより、センサケースが伝熱経路となるが、センサケースを通しての伝熱は、熱容量が大きく所定の流速で流れる冷却水に熱が奪われてしまうために影響が少ない。第3実施例(図3の態様)においては、水温計用のサーミスター4と伝熱材に埋設された電子制御装置用のサーミスター3との間に空間が存在するから、断熱材6の有無にかかわらず、センサーケース1が伝熱経路になるが、断熱材6は幅広に構成され、センサケース1における伝熱距離を長くするものである。
審決の引用する刊行物2に記載された考案は、加硫中のゴムの内部温度を測定するために利用される温度センサであり、温度センサ先端の感温部2′におけるゴム内部温度の測定に関しては、高温のモールド5から温度センサの先端部分への、センサケースに相当する保護管3を通しての伝熱が大きく影響して、正確な温度測定を妨げることになる。そのために、刊行物2記載の考案は、保護管3自体に断熱材を設けて、保護管3を伝わってくる熱を遮断するものである。サーミスタに相当する感温部自体が発熱すること、この熱を遮断して感温部相互の熱干渉を防止することは、刊行物2に記載も示唆もない。
本願第1考案と刊行物2に記載された考案とでは、このように、熱干渉の意味内容や伝熱経路が異なるものであり、刊行物2の保護管に設けた断熱材の構成を刊行物考案に適用しても、本願第1考案にならない。審決の上記判断は、刊行物2記載の技術内容の誤認に基づくものであって、誤りである。
3 取消事由3(作用効果の看過)
審決は、「本願請求項1に係る考案(注、本願第1考案)の奏する作用効果は、刊行物1及び刊行物2の記載事項並びに前記周知技術から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。」(審決書10頁16~19行)と判断するが、それは誤りである。
すなわち、本願第1考案は、本願第1考案の要旨に規定する構成を採用したことにより、電子制御装置用のサーミスタの応答性がよく精度が高い小型の温度センサを得ることができ、かつ、自己発熱の大きい水温計用のサーミスタをセンサケースの底部側(冷却水路側)に設けたことにより、水温計用のサーミスタの自己発熱による熱を冷却水路及びコネクタ部に放熱することができるという、いずれも刊行物考案に刊行物2記載の考案を組み合わせただけでは奏し得ない特有の効果を奏するものである。
第4被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
刊行物考案において、本願第1考案の水温計用のサーミスタに相当する計器用サーミスタと、同電子制御装置用のサーミスタに相当する制御用サーミスタとを、同一ケース内の底部か底部から突出した部位のどちらかに、別々に配置することは、刊行物1に示されていることであって、その配置位置の選択は二者択一である。刊行物1において、計器用サーミスタをケース内の底部に配置し、制御用サーミスタをケース内の底部から突出した部位に配置することが否定されているわけではないから、そのように配置することは、利害得失を勘案した上で当業者が適宜選択し得ることである。
したがって、審決の相違点1についての判断に誤りはない。
なお、原告は、水温計用のサーミスタをセンサケースの底部側(冷却水路側)に配置した場合には、自己発熱が大きく実際の水温より多少高めの温度を指示すると予測される水温計用のサーミスタが、冷却水路との伝熱作用で自己発熱を放熱できるという利益があると主張するが、本願明細書には、水温計用のサーミスタの放熱については、「水温計用のサーミスターを伝熱材に埋設させたものは、水温計用のサーミスターの放熱を良くすることができる。」(甲第2号証6頁6~8行)と記載されているのみであるから、原告の該主張は、本願第1考案の構成に係るものではない効果を主張するものであり、本願明細書の記載に基づかない主張である。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
刊行物1には、「従来例の構造においては、次のような欠点を有する。(1)上記の計器用としての自己発熱形サーミスタのケース内における位置が定まりにくく、・・・(2) 制御用のサーミスタの位置も同様うまく定まらないため、2個のサーミスタが相互に熱干渉する。」(甲第3号証3頁18行~4頁5行)、「以上のように、本考案に係るサーミスタ式温度検出器は構成されているものであり、次のような利点を有する。・・・(2) 各サーミスタ間の間隔を自由に決めて固定することができるため、各サーミスタ相互の熱的干渉の量を一定の巾におさえることができる。」(同号証5頁20行~6頁8行)との各記載があり、計器用サーミスタと制御用サーミスタとの間の熱干渉と、それによる不都合を解決するために両サーミスタの間隔を考慮すべきことが記載されている。
他方、刊行物2には、熱干渉を防ぐために、温度センサ間に断熱材を設けることが記載されている。
すなわち、計器用サーミスタと制御用サーミスタとの間の熱干渉という技術課題は、刊行物1に明らかにされており、刊行物2には、その課題解決のために、熱干渉防止のための断熱材を設けることが記載されているのであるから、刊行物考案に刊行物2記載の断熱材を適用することによって、本願第1考案の相違点2に係る構成とすることは当業者が極めて容易に想到し得る程度のことである。
3 取消事由3(作用効果の看過)について
上記のとおり、本願第1考案の相違点1、2に係る構成は、当業者が、刊行物考案において適宜選択し得る事項であるか、刊行物2を適用することによって極めて容易に想到し得る程度のことであるところ、電子制御装置用のサーミスタの応答性がよく精度が高い小型の温度センサを得ること等は、かかる構成によって当然期待できるものであるにすぎない。
また、水温計用のサーミスタの自己発熱による熱を冷却水路及びコネクタ部に放熱することができるという効果は、上記のとおり、本願第1考案の構成に係るものではなく、本願明細書の記載に基づかないものであって、これに係る主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
刊行物1に「サーミスタ検出器のケース11内に、1個はエンジンの冷却水の温度を伝えるサーミスタと、制御用のサーミスタを組込んでおり、ケース11途中の段部に設けられた金属板に押圧されたサーミスタ14と、ケース11の内部底面に直接半田付けされたサーミスタ13とよりなるサーミスタ検出器」(審決書5頁4~10行)である刊行物考案が記載されており、刊行物考案が、「内燃機関の冷却水路に取り付けられるセンサーケースと、このセンサーケースの底部に配置されたサーミスターと、前記センサーケースの底部から突出して設けられたサーミスターであって、一方のサーミスターが水温計用であり、他方のサーミスターが制御装置用である温度センサー」(同7頁18行~8頁3行)である点で本願第1考案と一致することは当事者間に争いがない。
そうすると、刊行物考案において、本願第1考案の「センサーケースの底部に配置されたサーミスター」に相当するサーミスタ14を水温計用のサーミスタとし、同「センサーケースの底部から突出して設けられたサーミスター」に相当するサーミスタ13を制御装置用のサーミスタとするか、あるいは、サーミスタ14を制御装置用のサーミスタとし、サーミスタ13を水温計用のサーミスタとするかは、二者択一の選択であって、水温計用のサーミスタと制御装置用のサーミスタのうちの一方の配置が定まれば、他方の配置も定まる関係にあることは明らかである。
しかるところ、刊行物1(甲第3号証)には、サーミスタ14を水温計用のサーミスタとすることについて、あるいはサーミスタ13を制御装置用サーミスタとすることについて、何らかの障害ないし困難が生じる旨の記載は見当たらない。
それのみならず、刊行物1に、水温計用のサーミスタについて「自動車エンジンの冷却水の温度を時々刻々と伝えるための計器(メータ)用のサーミスタ」(審決書3頁14~16行)との、また、制御装置用のサーミスタについて「冷却水の温度をある一定の範囲内に保つために各々規定の温度を検知し何らかの制御を行なう場合などに用いる」(同頁14~18行)との各記載があることは当事者間に争いがなく、刊行物1には、さらに、「2個のサーミスタの内、1個は計器用で、他方は制御用であり、普通計器用の場合は計器の針を振らせるために多くの電流が流れ、常にサーミスタの自己発熱が生ずる範囲で使用している場合が多く、」(甲第3号証3頁6~10行)との記載があるところ、これらの記載に照らせば、刊行物考案において、運転者の冷却水温度の確認の目的に供される水温計用サーミスタよりも、自動車の動作の制御のため冷却水の温度を一定範囲内に保つ目的に供される制御装置用のサーミスタの方が、より高度の正確性及び応答性を備えることが望ましいこと、及び計器用(水温計用)のサーミスタは、自己発熱するために、実際の水温より多少高めの温度を指示しがちであることが推認される。しかして、一般に、自動車エンジンの冷却水路(水路壁)が、外気の影響によって、冷却水そのものよりも多少温度が低いこと、したがって、「一般に、ケースの先端側にサーミスターを配置した方が冷却水の水温を正確且つ応答性が速く測定できるものである」(審決書9頁10~12行)ことは、当業者の技術常識に属することと認められ、かかる刊行物1の記載及び技術常識に照らすと、当業者が、刊行物考案において、前示二者択一のうちから、サーミスタ14を水温計用のサーミスタとし、サーミスタ13を制御装置用のサーミスタとすることを選択することは、極めて容易であるものというべきである。
原告は、サーミスタが伝熱材に埋設される本願第1考案と、伝熱材を備えない刊行物考案とでは、サーミスタの配置を決定する前提が異なると主張するが、電子制御装置用のサーミスタが伝熱材に埋設されている本願第1考案の構成においては、底部から突出したサーミスタ(刊行物考案のサーミスタ13)を制御装置用のサーミスタとして選択することに、より積極的な理由があるとしても、刊行物考案における、前示のような、サーミスタ13を制御装置用のサーミスタとする選択に、何らかの困難が生じるものではない。
また、原告は、審決の判断が、本願考案の水温計用のサーミスタの放熱の技術課題を無視するものであると主張するが、本願明細書(甲第2号証)に、「水温計用のサーミスターを伝熱材に埋設させることにより、水温計用のサーミスターの放熱を良好に行なうことができるようになる。」(同号証3頁5~6行)、「水温計用のサーミスターを伝熱材に埋設させたものは、水温計用のサーミスターの放熱を良くすることができる。」(同6頁6~8行)と記載されているとおり、本願明細書は、主張の課題及びその解決を、水温計用のサーミスタを伝熱材に埋設させた構成の考案(本願明細書の請求項2記載の考案)について記載しており、したがって、そのような構成を採用していない本願第1考案との関係においては、該主張は、明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。
したがって、審決が、相違点1につき、「どちらをケースの先端側に配置するかは、この点も含め利害得失を勘案した上で当業者が適宜選択しうる程度の事項にすぎない。」とした判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
刊行物1(甲第3号証)には、「従来例の構造においては、次のような欠点を有する。(1) 上記の計器用としての自己発熱形サーミスタのケース内における位置が定まりにくく、・・・(2) 制御用のサーミスタの位置も同様うまく定まらないため、2個のサーミスタが相互に熱干渉する。」(同号証3頁18行~4頁5行)との記載、及び「本考案は前述のような従来における欠点を除去すべく創案されたものであり、以下その一実施例について第2図とともに説明する。まず、図において11は一部に段部を有して底部側の内径が開口部側のそれに対して小さい形状をした上部開口で内部中空の金属製のケース、12は上記ケース11内の段部に密着して設けられた熱伝導性良好なワッシャ形金属板で、この金属板12はその周囲にシリコンオイルのような熱伝導良好な絶縁性液体(図示せず)を塗布している。13および14はケース11の内部底面上および金属板12上に載置されたサーミスタで、サーミスタ13はケース11の内部底面に直接半田付けされている。また、サーミスタ14はワッシャ形の金属製接触板15を介してコイルスプリング16によりワッシャ形金属版12側に押圧されており、これによりサーミスタ13および14はケース11の内部底面上および金属板12上に固定されている。」(同4頁16行~5頁11行)、「以上のように、本考案に係るサーミスタ式温度検出器は構成されているものであり、次のような利点を有する。(1) 各サーミスタの位置が固定される・・・(2) 各サーミスタ間の間隔を自由に決めて固定することができるため、各サーミスタ相互の熱的干渉の量を一定の巾におさえることができる。」(同5頁20行~6頁8行)との各記載があり、これらの記載及び図面第2図によれば、刊行物1には、従来技術において、計器用サーミスタ(本願第1考案の「水温計用のサーミスター」)、制御用サーミスタ(同「電子制御装置用のサーミスター」)双方の位置が定まりにくく、自己発熱する計器用サーミスタと制御用サーミスタとが熱干渉するという課題を、前示掲記の構成を採用することにより解決し、各サーミスタの位置が固定されるだけでなく、各サーミスタ間の「間隔」を自由に決めて固定することができるため、各サーミスタ相互の熱干渉の量を一定の幅に抑えることができるとの効果を奏する考案(刊行物考案)が記載されているものと認めることができる。そして、前示掲記の構成においては、各サーミスタ(サーミスタ13及びサーミスタ14)の間には、ケース11の内部において、サーミスタ14を固定するワッシャ形金属板12が存在することになるが、「熱伝導性良好な」該金属板では、各サーミスタ相互の熱干渉(伝熱)を防ぎ得ないことは明らかであり、このことと、図面第2図の図示に照らすと、「各サーミスタ相互の熱的干渉の量を一定の巾におさえることができる」各サーミスタ間の「間隔」とは、ケース11の内部におけるワッシャ形金属板12とサーミスタ13との間の空間を意味するものと認められる。すなわち、刊行物考案は、ケース11の内部において、サーミスタ13とサーミスタ14との間に空間を設けることにより、両サーミスタ相互の熱干渉の量を一定の幅に抑えることができるサーミスタ式温度検出器(温度センサ)であって、該空間は、両サーミスタ間のケース11の内部における伝熱を遮断する機能を有するものということができる。
他方、刊行物2に、「従来の温度センサー(1A)及び(1B)にあっては、保護管(3)が金属材料または熱伝導率が5Kcal/mh℃以上の材料で構成されている為、測定したい部分に熱電対(2)の感温部(2')を配置しても、保護管(3)を通じて測定したい部分以外の熱が熱電対(2)の感温部(2')に伝導され、正確な温度測定が困難であった。」(審決書5頁13~19行)、「本考案の温度センサー(7A)及び(7B)は図示するように、保護管(3)の熱電対(2)の感温部(2')と対応する近傍の一部を切除し、この切除部分に熱電対(2)の嵌挿孔(8')を有する断熱材(8)を介在する」(同5頁20行~6頁4行)、「上記温度センサー(7A)及び(7B)であれば、測定したい部分以外の熱が保護管(3)を通じて熱電対(2)の感温部(2')に電導しようとしても、断熱材(8)により遮断され、熱電対(2)の感温部(2')は測定したい部分以外の熱の影響を受けず正確な温度測定が行なえる。」(同6頁5~10行)との各記載があることは当事者間に争いがなく、この各記載によれば、測定したい部分以外の熱の影響を受けないようにするため、すなわち、熱干渉(伝熱)を遮断するため、その遮断しようとする部位に断熱材を介在させる構成が開示されているものと認められる。
そうすると、刊行物考案において、両サーミスタ間の伝熱を遮断するため、空間を設ける前示構成に代えて、伝熱の遮断という同様の機能を有する刊行物2記載の断熱材を介在させる構成を採用し、相違点2に係る本願第1考案の構成とすることは、当業者において、極めて容易に想到し得るものであるというべきである。
原告は、本願第1考案においては、電子制御装置用のサーミスタが伝熱材に埋設されているから、センサケース内部における伝熱材を通しての伝熱が問題となるのに対し、刊行物考案は、計器用サーミスタと制御用サーミスタとの間に空間が存在するため、本願第1考案における熱干渉とは、伝熱経路が異なるものであると主張するが、刊行物考案における空間が、両サーミスタ間のケース11の内部における伝熱を遮断する機能を有することは前示のとおりであって、その点においては、センサケース内部における伝熱が問題となる本願第1考案における断熱材の機能と異なるものではなく、かつ、刊行物考案における空間と本願第1考案における断熱材とが、それぞれケース11(センサケース)内部の伝熱を遮断したことに伴う熱流の迂回経路にも相違はないものと認められる(なお、本願明細書(甲第2号証)記載の第1実施例(図1の態様)及び第2実施例(図2の態様)において、断熱材が、水温計用のサーミスタと電子制御装置用のサーミスタとの直接の伝熱を防止することにより、熱流がセンサケース側に迂回し、センサケースが伝熱経路となること、及び第3実施例(図3の態様)においては、水温計用のサーミスタと電子制御装置用のサーミスタとの間に空間が存在するから、断熱材の有無にかかわらず、センサケースが伝熱経路になること(すなわち、空間が水温計用のサーミスタと電子制御装置用のサーミスタとの直接の伝熱を防止することによっても、センサケースが伝熱経路となること)は、ともに原告の自認するところである。)。また、本願第1考案の電子制御装置用のサーミスタが伝熱材に埋設されているのに対し、刊行物考案のサーミスタ13は伝熱材に埋設されるものではないが、仮に、ケース11の内部においてサーミスタ14との間の伝熱を遮断する構成(前示空間)がなければ、サーミスタ13が伝熱材に埋設されるものではなくとも、サーミスタ14との間で、ケース11の内部における熱干渉を生じることは明らかであり、したがって、当該サーミスタが伝熱材に埋設されているかどうかは、伝熱経路に相違をもたらすものということはできない。
なお、原告は、両サーミスタ間に断熱材を設けた本願第1考案では、両サーミスタ間の間隔は、熱干渉に関しては余り問題とならないとも主張するが、刊行物考案の「間隔」が、空間を意味するもので、単なる物理的な距離を意味するものでないことは、前示したところから明らかである。
さらに、原告は、刊行物2記載の考案が、保護管3自体に断熱材を設けて、保護管3を伝わってくる熱を遮断するものであって、刊行物2には、感温部(サーミスタ)が発熱すること、この熱を遮断して感温部相互の熱干渉を防止することは記載も示唆もないと主張するが、前示のとおり、刊行物考案につき、計器用サーミスタが自己発熱すること、ケース11の内部において、サーミスタ13とサーミスタ14との間に空間を設けることにより、両サーミスタ相互の熱干渉を抑えることが、刊行物1に記載されているのであり、刊行物2より、熱干渉(伝熱)を遮断するため、その遮断しようとする部位に断熱材を介在させる構成を採用し、これを刊行物考案の空間を設ける構成に代えて、相違点2に係る本願第1考案の構成とすることが極めて容易であると認められるのであって、かかる判断をするために、刊行物1に加え、刊行物2自体に、感温部(サーミスタ)が発熱すること、この熱を遮断して感温部相互の熱干渉を防止することが記載、示唆されていなければならないものではない。
したがって、審決が、相違点2につき、「相違点2は、刊行物1記載の考案に刊行物2記載の断熱材を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到しうる程度のものにすぎない。」とした判断に誤りはない。
3 取消事由3(作用効果の看過)について
原告は、本願第1考案が、前示本願第1考案の要旨に規定する構成を採用したことにより、電子制御装置用のサーミスタの応答性がよく精度が高い温度センサを得ることができるという、刊行物考案に刊行物2記載の考案を組み合わせただけでは奏し得ない特有の効果を奏すると主張する。
しかしながら、刊行物考案において、相違点1、2に係る本願第1考案の構成を採用することが、当業者が極めて容易に想到し得る事項であるか、適宜選択し得る程度の事項であることは前示のとおりであり、かつ、「本願請求項1に係る考案(注、本願第1考案)は、センサーケースの底部から突出して設けられたサーミスターが伝熱材に埋設されているのに対し、刊行物1にはかかる構成がない点」(審決書8頁20行~9頁3行、相違点3)が、「刊行物1に記載の考案(注、刊行物考案)のサーミスタ13に・・・周知技術を適用することにより、当業者がきわめて容易に想到しうる程度のことにすぎない」(同10頁12~15行)ことも、当事者間に争いがないところ、かかる本願第1考案の構成によって、温度センサにおける電子制御装置用のサーミスタの応答性がよく精度が高くなることは、刊行物1、2の記載及び周知技術に基づき、当然予期し得る程度のことであるにすぎない。
また、原告は、本願第1考案が、前示本願第1考案の要旨に規定する構成を採用したことにより、小型の温度センサを得ることができるという特有の効果を奏すると主張するが、本願明細書(甲第2号証)には、「考案が解決しようとする課題」として、「従来の技術によると、次のような問題点がある。電子制御装置用の温度センサーと水温計用の温度センサーを別々に設けているので、・・・二つの温度センサーを取付けるので、小型化および軽量化がはかり難い。」(同号証2頁1~5行)との、また、「考案の効果」として、「この考案の温度センサーは、以上のように構成したので、次のような効果がある。電子制御装置用のサーミスターと水温計用のサーミスターを組み合わせてセンサーケースに設けているので、エンジン系統の制御装置に使用される電子制御装置用のサーミスターと、エンジン冷却水温度の温度計に使用される水温計用の温度センサーとを一つとして取付けることができる。・・・このように、本願考案では、・・・小型の温度センサーを得ることができる。」(同5頁25行~6頁10行)との各記載があり、これらの記載によれば、本願第1考案における温度センサの小型化とは、電子制御装置用のサーミスタと水温計用のサーミスタとを一つのセンサケースに組み合わせて設ける構成によって奏する効果であることが明らかであるところ、刊行物考案においても、そのような構成を採用しているのであるから、当然同様の効果を奏するものというべきであり(本願第1考案が、温度センサの小型化の点において、刊行物考案に優る効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。)、したがって、温度センサの小型化が、本願第1考案の特有の効果であるということ自体を認めることができない。
さらに、原告は、本願第1考案において、自己発熱の大きい水温計用のサーミスタをセンサケースの底部側(冷却水路側)に設けたことにより、水温計用のサーミスタの自己発熱による熱を冷却水路及びコネクタ部に放熱することができるという効果を奏すると主張するが、本願明細書上、かかる効果が本願第1考案の構成によるものとされていないことは前示のとおりであり、該主張は、明細書の記載に基づかないものである。
したがって、審決が、「本願請求項1に係る考案(注、本願第1考案)の奏する作用効果は、刊行物1及び刊行物2の記載事項並びに前記周知技術から当業者が予測しうる程度のものにすぎない。」としたことに誤りはない。
4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)