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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)39号 判決 1999年10月14日

原告

株式会社三洋物産

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

【E】

被告

特許庁長官【F】

指定代理人

【G】

【H】

【I】

【J】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  原告の求めた裁判

「特許庁が平成8年審判第6951号事件について平成10年12月24日にした審決を取り消す。」との判決。

第2  事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成1年9月8日、名称を「パチンコ球を使用する遊技機」とする発明(本願発明)について特許出願をしたが、平成8年3月15日拒絶査定があったので、同年5月8日審判請求をし、平成8年審判第6951号事件として審理されたが、平成10年12月24日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成11年1月23日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

複数の図柄を変動表示し得る図柄変動表示装置と、該図柄変動表示装置を始動する始動口とを備え、遊技球が始動口に入賞すると前記図柄変動表示装置が始動して図柄の変動表示を行う遊技機において、賞品球を計数して排出する賞球排出装置と、前記図柄変動表示装置の変動表示が停止したときの図柄の組合せを判断して図柄の組合せに応じた信号を発する判断手段と、該判断手段からの信号に基づいて前記賞球排出装置を直接作動させて、図柄の組合せに応じて所定の賞品球を排出する制御手段と、パチンコ球が入賞すると所定の賞品球を排出する入賞口と、を設けたことを特徴とするパチンコ球を使用する遊技機。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項のとおりと認める。

(2)  これに対して、

[2-1]本件出願審査における平成7年10月24日付けの拒絶理由通知書において引用した特開昭61-172572号公報(第1引用例。別紙第1引用例図面参照)には、例えば、

(1)公報2頁左上欄16行~右上欄3行の

「第1図は、パチンコ機1の正面図であって、その遊戯板面2の中央部には、三個の7セグメントLED表示器3a,3b,3cが設けられており、その両側及び下部には、GOチャッカー(入賞玉受口器)4が配設されている。また中央下部には前後開閉式の入賞玉受口器5が配設され、その開閉制御をソレノイド6により施すようにしている。」

なる記載、

(2)同2頁右下欄1~3行の

「前記表示駆動回路22は、中央処理装置CPUからの表示制御信号に基いて7セグメントLED表示器3a,3b,3cを駆動制御する。」

なる記載、

(3)同2頁右下欄16行~3頁右上欄1行の

「前記各LED表示器3a,3b,3cは、夫々『0』~『9』までの数値を順次循環表示する。次に、遊戯者による押釦スイッチ11の押圧で、循環駆動が停止し、前記LED表示器3a,3b,3cは、夫々各別の数値を静止表示する。・・・(中略)・・・この静止表示がなされると、その表示内容に関係して、ソレノイド駆動回路24が所定時間駆動し、入賞玉受口器5が開く。

前記表示内容と、前記駆動時間の関係の一例を示すと、『0・0・0』,『2・2・2』,『4・4・4』,『8・8・8』が表示されると、・・・(中略)・・・『7・7・7』,『9・9・9』が表示されると、いわゆる『フィーバー』状態となり30秒間開き、かつ入賞玉受口器5に入賞する毎に、所定回開放時間が更新される。」

なる記載、そして、

(4)図面、特に第1図の上部中央及び下部の左右に図示されている「一般的な入賞玉受口器」(符号なし)の存在、さらに、

(5)例えば、上記のような「一般的な入賞玉受口器」あるいは特別な入賞玉受口器である入賞玉受口器5等にパチンコ球が入賞した場合、賞品としてのパチンコ球を所定の数に計数して排出する排出装置が備えられていることは、この種の公知のパチンコ機において当然の構成であること、

などからみて、

「0」~「9」までの数値を循環表示し得る7セグメントLED表示器3a,3b,3cと、該7セグメントLED表示器3a,3b,3cを作動するGOチャッカー(入賞玉受口器)4とを備え、操作ハンドル10の操作による打球がGOチャッカー(入賞玉受口器)4に入賞すると前記7セグメントLED表示器3a,3b,3cが作動して数値の循環表示を行うパチンコ機において、賞品としてのパチンコ球を所定の数に計数して排出する排出装置と、前記7セグメントLED表示器3a,3b,3cの循環表示が停止したときの数値の表示内容を判断して数値の表示内容に応じた信号を発する中央処理装置CPUにおける判断部と、該中央処理装置CPUにおける判断部からの信号に基づいて入賞玉受口器5を所定時間開き、該入賞玉受口器5への入賞球に応じて前記排出装置を作動させて、所定の賞品としてのパチンコ球を排出する中央処理装置CPUにおける制御部と、パチンコ球が入賞すると所定の賞品としてのパチンコ球を排出する一般的な入賞玉受口器と、を設けたパチンコ機、

が記載されているものと認められる。

[2-2]また、同じく引用した特開平1-107786号公報(第2引用例。なお、第2引用例は、前記拒絶理由通知書に記載した特開昭64-107786号公報と同じものである。別紙第2引用例図面参照)には、例えば、

(1)公報1頁右下欄13~16行の

「本発明は、パチンコ球を一単位としてゲームにかけ、ゲーム結果の重みに応じて予め定められた球数のパチンコ球を支払う形式の遊戯機のゲーム装置に関する。」

なる記載、

(2)同3頁左上欄13~15行の

「ゲーム装置3は数字や絵柄等の符号の表示を移動させる移動表示手段としての回転ドラム4を3個有している。」

なる記載、

(3)同4頁左下欄7~16行の

「スタートスイッチ85を押すと、スタートランプ73が点灯し、3個の回転ドラム4が一斉に回転する。任意のストップスイッチ87を押すことにより、対応する1つの回転ドラム4が停止する。遊戯者が賭けた方向ライン71上に、回転ドラム4の予め定めた特定の組合せ(賞態様)の1つが並んだときは、その組合せの重みに従って約束された得点に対応する賞球数が、賞球排出装置26(第3図)により、賞球出口18Aから供給皿18に排出される。」

なる記載、そして、

(4)図面、特に第1,3,5図の記載内容、さらに、

(5)上記(3)の記載内容から、第2引用例のパチンコ球を用いた遊戯機が、回転ドラム4のあらかじめ定めた特定の組合せを判断してあらかじめ定めた特定の組合せに応じた信号を発する「判断手段」と、該判断手段からの信号に基づいて賞球排出装置26を直接作動させて、あらかじめ定めた特定の組合せに応じて約束された得点に対応する賞球数を排出する「制御手段」とを有していることが明らかであること、

等からみて、

数字や絵柄等の符号の表示を移動させる移動表示手段としての回転ドラム4を3個有しているゲーム装置3(本願発明の「複数の図柄を変動表示し得る図柄変動表示装置」に相当する。以下、括弧内は本願発明の相当する構成等を示す。)を備え、前記ゲーム装置3(図柄変動表示装置)が始動して符号の移動表示(図柄の変動表示)を行う遊戯機(遊技機)において、組合せの重みに従って約束された得点に対応する賞球数を排出する賞球排出装置26(賞品球を計数して排出する賞球排出装置)と、前記ゲーム装置3(図柄変動表示装置)の移動(変動)表示が停止したときのあらかじめ定めた特定の組合せ(図柄の組合せ)を判断してあらかじめ定めた特定の組合せ(図柄の組合せ)に応じた信号を発する判断手段と、該判断手段からの信号に基づいて前記賞球排出装置26(賞球排出装置)を直接作動させて、あらかじめ定めた特定の組合せ(図柄の組合せ)に応じて約束された得点に対応する賞球数(所定の賞品球)を排出する制御手段と、を設けたパチンコ球を用いた遊戯機(パチンコ球を使用する遊技機)、

が記載されているものと認められる。

(3) そこで、上記第1引用例に記載されたものと本願発明とを比較すると、第1引用例に記載のものにおける「『0』~『9』までの数値」、「循環表示」、「7セグメントLED表示器3a,3b,3c」、「作動」、「GOチャッカー(入賞玉受口器)4」、「操作ハンドル10の操作による打球」、「数値の循環表示」、「パチンコ機」、「賞品としてのパチンコ球」、「排出装置」、「数値の表示内容」、「中央処理装置CPUにおける判断部」、「中央処理装置CPUにおける制御部」そして「一般的な入賞玉受口器」は、それらの機能又は作用等からみて、それぞれ、順に、本願発明における「複数の図柄」、「変動表示」、「図柄変動表示装置」、「始動」、「始動口」、「遊技球」、「図柄の変動表示」、「遊技機」あるいは「パチンコ球を使用する遊技機」、「賞品球」、「賞球排出装置」、「図柄の組合せ」、「判断手段」、「制御手段」そして「入賞口」に相当すると認められるので、本願発明と第1引用例に記載のものとは、

複数の図柄を変動表示し得る図柄変動表示装置と、該図柄変動表示装置を始動する始動口とを備え、遊技球が始動口に入賞すると前記図柄変動表示装置が始動して図柄の変動表示を行う遊技機において、賞品球を計数して排出する賞球排出装置と、前記図柄変動表示装置の変動表示が停止したときの図柄の組合せを判断して図柄の組合せに応じた信号を発する判断手段と、該判断手段からの信号に基づいて前記賞球排出装置を作動させて、所定の賞品球を排出する制御手段と、パチンコ球が入賞すると所定の賞品球を排出する入賞口と、を設けたパチンコ球を使用する遊技機、

である点で一致しており、下記の点で相違していると認められる。

制御手段が判断手段からの信号に基づいて賞球排出装置を作動させて所定の賞品球を排出するに当たり、上記第1引用例に記載のものにおいては、制御手段が判断手段からの信号に基づいて入賞玉受口器5を所定時間開き、該入賞玉受口器5への入賞球に応じて賞球排出装置を作動させて、所定の賞品球を排出するようにしているのに対して、本願発明においては、制御手段が判断手段からの信号に基づいて賞球排出装置を直接作動させて、図柄の組合せに応じて所定の賞品球を排出するようにしている点。

(4) 上記相違点について検討する。

上述したように、複数の図柄を変動表示し得る図柄変動表示装置を備えたパチンコ球を使用する遊技機において、判断手段からの図柄の組合せに応じた信号に基づいて賞球排出装置を直接作動させて、図柄の組合せに応じて所定の賞品球を排出する制御手段を備えることは、第2引用例に記載されている。

そして、第1引用例に記載のものの制御手段に代えて、上記第2引用例に記載された制御手段そのものを単に転用して、本願発明のもののように構成する程度のことは、格別の技術的困難性を要することなく、当業者が必要に応じて容易になし得たものと認められる。

また、本願発明の要旨とする構成によってもたらされる明細書に記載の効果も、第1引用例に記載のもの及び上記第2引用例に記載された制御手段から、当業者であれば予測できる範囲のものであって、格別なものとはいえない。

(5) したがって、本願発明は、その出願前に当業者が第1引用例に記載のもの及び第2引用例に記載された制御手段に基づいて容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。

第3  原告主張の審決取消事由

審決は、第1引用例に記載のものの認定を誤り、その結果、本願発明の進歩性を否定したもので違法であるから、取り消されるべきである。

1  審決は、第1引用例には、「該中央処理装置CPUにおける判断部からの信号に基づいて入賞玉受口器5を所定時間開き、該入賞玉受口器5への入賞球に応じて前記排出装置を作動させて、所定の賞品としてもパチンコ球を排出する中央処理装置CPUにおける制御部」を設けたパチンコ機が記載されていると認定している。

しかしながら、第1引用例には、「中央処理装置CPUにおける制御部」が「入賞玉受口器」を開閉している構成の示唆はあるものの、「中央処理装置CPUにおける制御部」が「排出装置」を作動させていることの開示・示唆はない。

これに対し、本願発明の「制御手段」は、特許請求の範囲に明記されているように、「賞球排出装置」を作動させる構成であるから、第1引用例の「中央処理装置CPUにおける制御部」とは、明らかに異なる。

このように、審決は、第1引用例に記載のものの中央処理装置CPUにおける制御部が、入賞玉受口器のみならず排出装置をも制御しているという、何の根拠もない拡大解釈をして、誤った認定をしたものである

なお、第1引用例に記載のものと本願発明とは発明者及び出願人が共に同一であるが、第1引用例の「排出装置」は、遊技球の入賞により機械的に賞球を排出するものであって、CPUのコントロールにより賞球を排出するものではない。

2  被告は、中央処理装置CPUにより制御される排出装置が記載された新たな公報(乙第1~第3号証)を提出したが、第1引用例に、排出装置が何によって作動されるかという記載がないことには変わりはない。被告は、排出装置を中央処理装置CPUにより制御することは周知、慣用の技術であるとも主張するが、そのように認めるべき根拠はない。

排出装置には、中央処理装置CPUにより電気的に制御される排出装置のほかに、甲第8~第10号証(実開平3-43882号公報、実開平3-83591号公報、実開平4-15984号公報)に示されるように、入賞したパチンコ球を利用して機械的に作動される排出装置がある。したがって、第1引用例に記載されたものも中央処理装置CPUを有することから、この中央処理装置CPUにより排出装置が制御されることは当然ということにならない。

本件出願時及びその後に発行された公報では、排出装置を中央処理装置CPUで電気的に制御するものは、排出装置を機械的に作動させるものに比べて圧倒的に少ない。その背景には、賭博機に限りなく近いパチンコ遊技機では、型式検査試験を迅速にしかつ不正を見逃すことなく処理するための便宜上、遊技制御用の中央処理装置CPUにより排出装置を制御することの禁止的規制があるからである。

したがって、今日に至るまで遊技制御用の中央処理装置CPUにより排出装置を制御するパチンコ機は、市場に一台も存在しない。

第4  審決取消事由に対する被告の反論

1  原告は、第1引用例には、「中央処理装置CPUにおける制御部」が「排出装置」を作動させる構成の開示や示唆はない旨主張する。

しかしながら、本件出願前、パチンコ機において、一般的な入賞玉受口器あるいは特別な入賞玉受口に入賞したとき、賞品としてのパチンコ玉を所定の数に計数して排出する排出装置を備えること、及びこの排出装置を中央処理装置CPUにより制御する制御部を備えることは、周知、慣用の技術であった。

すなわち、特開昭56-68476号公報(乙第1号証)には、「さらに中央処理部54は、基本的機能として、遊技球が入賞装置8に入ったときこれをセーフ球集合樋9の回収樋10に設けられたセーフ球検出器81によって検出し、この検出出力を入力ポート82を介して受ける。このとき中央処理部54は出力ポート83を介して賞球排出装置44のドライバ84を駆動すると共に、データメモリ55の賞球設定数エリアに記憶されているデータを読み出してこれに相当する数(例えば15個)の賞球を排出させる。」(4頁右下欄5~14行)と記載されている。

また、特開昭59-209371号公報(乙第2号証)には、「(1)遊技機の裏面に取り付けられる裏面セット盤に、一側方に偏位させて中央に空部を形成するように賞品球排出装置を取り付けるとともに、・・・、上記遊技盤に打ち込まれた打球の入賞を検知して入賞球ごとに入賞検知信号を発生する入賞検出手段と、該入賞検知信号に基づいて前記賞品球排出装置を作動させるとともに上記賞品球排出装置における排出状態を検出する手段からの信号に基づいて排出球が所定数に達したことを判別して排出動作を停止させる制御手段と、上記入賞領域への入賞状態を保持する手段とを設け、・・・たことを特徴とするパチンコ遊技機。」(特許請求の範囲)が記載されている。

さらに、特開昭64-83282号公報(乙第3号証)には、「入賞領域に打込まれたパチンコ玉が前記通常入賞口8a~8fに入賞すると、後述する電気的景品球払出装置70により所定個数(例えば13個)の景品球が払出させるようになっている。」(4頁左上欄16~20行)、「また、始動入賞口10a、10bに入賞した入賞玉は、前記した始動入賞玉検出器18a、18bによって検出され、可変入賞球装置13の開閉扉14によって導かれた入賞玉は前記した所定入賞玉数検出器20によって検出される。そして、上記した各検出器17、18a、18b、20、33a~33eによって検出された検出信号は、後述する制御回路に送られ、所定個数(13個)の景品球が払出されるようになっている。」(5頁右上欄14行~同頁左下欄3行)と記載されている。

2  審決において、「例えば、上記のような『一般的な入賞玉受口器』あるいは特別な入賞玉受口器である入賞玉受口器5等にパチンコ玉が入賞した場合、賞品としてのパチンコ玉を所定の数に計数して排出する排出装置が備えられていることは、この種の公知のパチンコ機において当然の構成である」としたのは(審決の理由の要点(2)[2-1](5))、上記乙第1~第3号証にも開示されるように、パチンコ機において、入賞玉受口器に入賞したとき、賞品としてのパチンコ玉を所定の数に計数して排出する排出装置を備えること及びこの排出装置を中央処理装置CPUにより制御する制御部を備えることが本件出願前に周知の技術であり、第1引用例に記載されたものも中央処理装置CPUを有することから、この中央処理装置CPUにより排出装置が制御されることが当然であることからのものである。

したがって、第1引用例に審決に記載のとおりのパチンコ機が記載されていると認定した点については、審決に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  本願発明の目的、作用効果等についてみると、次のとおりである。

(1)  甲第2ないし第4号証(本件願書(本願当初明細書)並びに平成7年9月7日付け及び平成8年1月12日付け手続補正書)によれば、本願明細書に以下の記載があるがあることが認められる。

〔産業上の利用分野〕

「本発明は、図柄変動表示装置を有するパチンコ遊技機の改良に関するものである。」(甲第2号証1頁19~20行)

〔従来の技術〕

「従来の図柄変動表示装置を有するパチンコ遊技機、たとえば第1種連続投物型パチンコ遊技機は、第1種始動口に遊技球が入賞すると、たとえば7セグメントLEDを用いた図柄変動表示装置がランダムな3桁の数字を変動表示するゲーム(以下、単にスロットルゲームという。)を開始する。一定時間経過後、又は遊技者が変動時間短縮スイッチを操作すると、図柄変動表示装置は変動表示を停止する。図柄変動表示装置が停止したときの表示が予め定めた特定の図柄の組合せではなく、普通の図柄の組合せであるときには、図柄変動表示装置によるスロットルゲームを終了して通常のゲーム状態(第1種始動口への遊技球の入賞待ちの状態)に移行する。・・・

また、図柄変動表示装置が停止したときに、予め定めた特定の図柄の組合せ(例えば、「7・7・7」)が得られると、大当り状態となり大入賞口が開状態となる。そして、一定時間経過するか、又は大入賞口に遊技球が10個入賞すると大入賞口は閉状態となる。また、大入賞口が開状態のときに、遊戯球が大入賞口内に配置されたV入賞口に入賞すると、大入賞口が閉状態となった後、すなわち第1ラウンドが終了した後、再び大入賞口は開状態となり、第2ラウンドに移行する。大入賞口の開状態は最初のものを含めて第10ラウンドまで継続することができる。・・・

通常は、大当り状態の間に、遊技球がV入賞口に入賞するので、大入賞口の開状態が第10ラウンドまで継続する。」(同2頁2行~4頁2行)

〔発明が解決しようとする課題〕

「しかしながら、時として、大当り状態の間に、遊技球がV入賞口に入賞せずに、大当り状態の動作が終了し、通常のゲーム状態に移行することがある。これでは、大当たり状態に移行して大入賞口が開状態になっても、遊技者は大当たり状態を有効に活用することができず、折角得た大量の賞品球を取得できる機会を逸することになり、遊技の興味が半減する。このように、従来のこの種のパチンコ遊技機は、遊技者が大当たり状態を十分に活用できない場合が生ずるおそれがあった。

本発明は上記事情に基づいてなされたものであり、大量の賞品球を獲得できる可能性を広げ、遊技内容の興趣を増大することができるパチンコ球を使用する遊技機を提供することを目的とするものである。」(同4頁4~17行、甲第4号証の補正)

〔作用〕

「本発明は前記の構成により、図柄変動表示装置が停止したときの図柄の組合せを、判断手段によって判断し、その図柄の組合せが予め定めた特定の図柄の組合せであるときには、判断手段がこれに応じた信号を発し、その信号を受けた制御手段は、その図柄の組合せに応じて賞球排出装置を直接作動させて、入賞球と無関係に所定の賞品球を排出する。したがって、図柄変動表示装置が予め定めた特定の図柄の組合せを表示して停止すると、遊技者は確実に所定の賞品球を取得することができる。」(同5頁12行~6頁2行)

〔発明の効果〕

「以上説明したように本発明によれば、図柄変動表示装置が特定の図柄の組合せを表示して停止したときには、判断手段によってこれを判断し、入賞球と無関係に所定の賞品球を排出するので、従来の装置よりも大量の賞品球を獲得できる可能性を広げ、遊技内容の興趣を増大することができるパチンコ球を使用する遊技機を提供することができる。」(同13頁5~11行、甲第4号証の補正)

(2)  これらの記載によれば、本願発明の目的及び作用効果は次のように認められる。

従来の図柄変動表示装置を有するパチンコ遊技機は、第1種始動口に遊技球が入賞すると、図柄変動表示装置を変動表示するスロットルゲームを開始して図柄変動表示装置が停止したときの図柄が特定の図柄の組合せになると大入賞口(及びその中に配置されたV入賞口)が開状態となり、遊技球の大当たり状態に移行するものであったが、遊技者の技術によっては、遊技球が大入賞口(V入賞口)に入賞せず大当たり状態を有効に活用することができず、遊技の興味が半減するという問題があった。

そこで、本願発明は、上記の問題を解決することを課題に、本願発明の要旨の構成を採用して、いったん始動口に遊技球が入賞することで図柄変動装置が始動して、次いで停止時に図柄が所定の組合せになったら、これを直接の要件として、入賞口への遊技球の入賞の有無とは無関係に、直ちに賞品球を排出するようにしたので、図柄変動表示装置により大量の賞品球を獲得し得る可能性を広げ、遊技内容の興趣を増大することができる作用効果を奏するものである。

2  次に、第1引用例の記載事項について検討する。

(1)  まず、甲第5号証によれば、第1引用例に以下の記載があることが認められる(別紙第1引用例図面参照)。

「第1図は、パチンコ機1の正面図であって、その遊戯板面2の中央部には、三個の7セグメントLED表示器3a,3b,3cが設けられており、その両側及び下部には、GOチャッカー(入賞玉受口器)4が配設されている。また中央下部には前後開閉式の入賞玉受口器5が配設され、その開閉制御をソレノイド6により施すようにしている。」(2頁左上欄16行~右上欄3行)

「前記中央処理装置CPUは、前記各球検出センサー15,16,・・・からの入力信号を演算処理し、RAM及びROMに記憶されたプログラムを実行する。・・・

次に、中央処理装置CPUの出力側には、表示駆動回路(可変表示手段)22と、スピーカー駆動回路23と、ソレノイド駆動回路24とが夫々接続されている。」(2頁左下欄10~20行)

「前記各LED表示器3a,3b,3cは、夫々『0』~『9』までの数値を順次循環表示する。次に、遊戯者による押釦スイッチ11の押圧で、循環駆動が停止し、前記LED表示器3a,3b,3cは、夫々各別の数値を静止表示する。・・・この静止表示がなされると、その表示内容に関係して、ソレノイド駆動回路24が所定時間駆動し、入賞玉受口器5が開く。

前記表示内容と、前記駆動時間の関係の一例を示すと、・・・が表示されると、いわゆる『フィーバー』状態となり30秒間開き、かつ入賞玉受口器5に入賞する毎に、所定回開放時間が更新される。」(2頁右下欄16行~3頁右上欄1行)、

(2)  これらの記載によると、第1引用例には、遊技球のGOチャッカーへの入賞に応じて表示器が作動して数値の循環表示を行い、次に循環表示が停止したときの数値の表示内容に応じて、入賞玉受口器を所定時間開くように作動させるようにした中央処理装置CPUにおける制御部を有するパチンコ機が開示されているものと認められる。

原告は、第1引用例に記載のものにおける中央処理装置CPUにおける制御部が排出装置を制御している旨の審決の認定に対し、第1引用例には、中央処理装置CPUにおける制御部が排出装置を作動させているという開示、示唆はないと主張するところ、第1引用例に記載のもののパチンコ機において、入賞玉受口器への入賞球の検出に応じて賞品球を排出する排出装置が備えられていることは当然であるものの、排出装置の作動を制御する手段については具体的な記載がなく、中央処理装置CPUにより制御されるものか否かは不明である。

3  そこで、排出装置の作動制御手段に係る周知技術について検討する。

(1)  まず、乙第1ないし第3号証によれば、以下の公開特許公報に次のような技術事項の記載があることが認められる。

<1> 乙第1号証(特開昭56-68476号公報)の記載として、

「中央処理部54は、基本的機能として、遊技球が入賞装置8に入ったときこれをセーフ球集合樋9の回収樋10に設けられたセーフ球検出器81によって検出し、この検出出力を入力ポート82を介して受ける。このとき中央処理部54は出力ポート83を介して賞球排出装置44のドライバ84を駆動すると共に、データメモリ55の賞球設定数エリアに記憶されているデータを読み出してこれに相当する数(例えば15個)の賞球を排出させる。」(4頁右下欄第5~14行)

<2> 乙第2号証(特開昭59-209371号公報)の記載として、

「上記遊技盤に打ち込まれた打球の入賞を検知して入賞球ごとに入賞検知信号を発生する入賞検出手段と、該入賞検知信号に基づいて前記賞品球排出装置を作動させるとともに上記賞品球排出装置における排出状態を検出する手段からの信号に基づいて排出球が所定数に達したことを判別して排出動作を停止させる制御手段と、上記入賞領域への入賞状態を保持する手段とを設け、・・・たことを特徴とするパチンコ遊技機。」(特許請求の範囲(1))、

「遊技盤内に打込まれた打球が入賞領域に入った場合これを電気的に検出するとともに、その入賞状態を保持させ、所定数の賞品球の払出がマイクロコンピュータを用いた制御システムにより行なえるようにして、マイコン制御化する」(2頁左上欄2~6行)、

<3> 乙第3号証(特開昭64-83282号公報)の記載として、

「入賞領域に打込まれたパチンコ玉が前記通常入賞口8a~8fに入賞すると、後述する電気的景品球払出装置70により所定個数(例えば13個)の景品球が払出させるようになっている。」(4頁左上欄16~20行)、

「また、始動入賞口10a、10bに入賞した入賞玉は、前記した始動入賞玉検出器18a、18bによって検出され、可変入賞球装置13の開閉扉14によって導かれた入賞玉は前記した所定入賞玉数検出器20によって検出される。そして、上記した各検出器17、18a、18b、20、33a~33eによって検出された検出信号は、後述する制御回路に送られ、所定個数(13個)の景品球が払出されるようになっている。」(5頁右上欄14行~左下欄3行)、

「制御回路の電源がONされて、制御がスタートするとマイクロコンピュータ100は・・・入賞玉検出器17、18a、18b、20、33a~33eがONしたか否かが判別され・・・、入賞玉が有りと判別された場合には、・・・

・・・マイクロコンピュータ100は景品玉払出駆動回路113を介して・・・景品玉を払出す。」(8頁右下欄18行~9頁右上欄10行)。

(2)  以上の公開特許公報の記載によれば、入賞玉受口器に遊技球が入賞するのを検出するとともに、これに応じて賞品球を排出する排出装置を作動させることを中央処理装置CPUにより制御するパチンコ機が開示されていることが明らかであり、遊技球の入賞検出と賞品球の排出作動とを中央処理装置CPUにより制御するパチンコ機は、本件出願前に周知の技術事項であったと認められる。

(3)  そこで、第1引用例の排出装置の作動制御手段について検討するに、第1引用例には、遊技球の入賞検出を中央処理装置CPUにより制御するパチンコ機が開示されているから、この中央処理装置CPUが賞品球を排出する排出装置をも制御しているものと理解することは、当業者の技術常識というべきである。

したがって、第1引用例には、審決が認定したように、「入賞玉受口器5への入賞球に応じて前記排出装置を作動させて、所定の賞品としてのパチンコ球を排出する中央処理装置CPUにおける制御部」が開示されているというべきである。

そして、第1引用例の上記制御部が、本願発明の「該判断手段からの信号に基づいて前記賞球排出装置を直接作動させて、図柄の組合せに応じて所定の賞品球を排出する制御手段」に相当することは明らかである。

(4)  原告は、排出装置には、中央処理装置CPUにより電気的に制御される排出装置のほかに、甲第8~第10号証に示されるように、入賞したパチンコ球を利用して機械的に作動される排出装置があるので、第1引用例に記載されたものも中央処理装置CPUを有することから、この中央処理装置CPUにより排出装置が制御されることは当然ということにはならないし、型式検査試験の便宜上、遊技制御用の中央処理装置CPUにより排出装置を制御することの禁止的規制があり、中央処理装置CPUにより排出装置を制御するパチンコ機は、市場に一台も存在しないと主張する。

しかしながら、前認定のように、第1引用例には、排出装置の作動制御手段につき具体的な記載はない(したがって、原告の主張するように、入賞したパチンコ球を利用して機械的に作動される排出装置に限定する記載もない)ところ、遊技球の入賞検出と賞品球の排出作動を中央処理装置CPUにより制御するパチンコ機は本願出願前に周知の技術と認められる以上、第1引用例のパチンコ機が、中央処理装置CPUが遊技球の入賞検出のみならず、賞品球の排出装置をも制御しているものと理解することは、当業者の技術常識であって、むしろ当然のことというべきであり、原告が主張する点は、この判断の障害となるものではない。

4  したがって、審決には、第1引用例に記載のものにおける技術内容の認定につき、原告主張の誤りは認められず、この認定に誤りがあることを前提に、本願発明の進歩性を否定した審決の結論は誤りである旨主張する原告の審決取消事由は、理由がない。

第6  結論

以上のとおりであり、本件審判請求は成り立たないとした審決の判断に誤りはなく、原告の本訴請求は棄却されるべきである。

(平成11年9月30日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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