東京高等裁判所 平成11年(行ケ)397号 判決 2001年11月01日
原告
キャノン株式会社
訴訟代理人弁理士
伊東哲也
同
関口鶴彦
被告
特許庁長官 及川耕造
指定代理人
橋本栄和
同
大橋良三
同
高橋美実
同
山口由木
主文
特許庁が平成10年異議第76038号事件について平成11年10月6日にした決定を取り消す。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
1 原告の請求
特許庁が平成10年異議第76038号事件について平成11年10月6日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 原告の主張
(1) 特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「液晶素子」とする特許第2767145号の特許(平成1年11月22日出願,平成10年4月10日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許につき,その請求項1ないし6に対して特許異議の申立てがなされ,特許庁は,これを平成10年異議第76038号事件として審理した結果,同年10月6日,「特許第2767145号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年11月4日にその謄本を原告に送達した。
(2) 本件決定の理由の要旨
審決の理由は,要するに,特許第2767145号の請求項1ないし6に係る発明は,特許法29条2項に該当するので,特許を受けることができない,とするものである。
(3) 原告は,本訴係属中の平成12年9月22日,本件特許の出願の願書に添付された明細書の訂正をすることについて審判を請求し,特許庁は,これを訂正2000-39108号事件として審理した結果,平成13年9月18日に本件訂正をすることを認める旨の審決(以下「本件訂正審決」という。)をし,これが確定した。
(4) 本件訂正審決による訂正の内容
(ア) 本件訂正審決による訂正前の特許請求の範囲は,次のとおりである。
「【請求項1】電極を形成した2枚の基板を電極を対面させて所定間隔を隔てて対向配置し,両基板間の電極対面部間にギャップ材及び液晶を介装し,該電極対面部の周囲をシール材封止した構造の液晶素子であって,各基板の電極に連続して,基板上のシール材による封止部の下層を経て外部に延設されたリード電極が設けられ,該シール材封止部の少なくとも一方の基板上の該リード電極が設けられていない領域において,該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設けたことを特徴とする液晶素子。
【請求項2】前記スペーサーは,前記電極と同一工程で形成された同一材料からなることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
【請求項3】前記電極は複数の並列配置したストライプ状電極からなり,2枚の基板の各電極を直交配置してマトリックスを構成し,各ストライプ状電極に連続して同一厚さ同一材料のリード電極を各基板の少なくとも一側縁に並列して形成したことを特徴とする請求項2記載の液晶素子。
【請求項4】前記スペーサーは,前記各ストライプ状電極のリード電極と反対側にシール材配設部まで延長して各ストライプ状電極に連続して形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。
【請求項5】前記スペーサーは,最外側のストライプ状電極の外側にこれと平行に前記シール材と重なるまでの位置に形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。
【請求項6】前記シール部材に設けられたスペーサーは,対向する他方の基板側と絶縁されていることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。」
(イ) 本件訂正審決による訂正後の特許請求の範囲請求項1は,次のとおりである(下線部が訂正された箇所である。)。
「(1) 電極を形成した2枚の基板を電極を対面させて所定間隔を隔てて対向配置し,両基板間の電極対面部間にギャップ材及び液晶を介装し,該電極対面部の外周部の表示領域以外の領域の周囲をシール材封止した構造の液晶素子であって,各基板の電極に連結(判決注・甲第9号証によれば,訂正審判に係る審判請求書の請求の趣旨の欄には,「第2767145号特許発明の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書の通りに訂正請求することを認めるとの審決を求める。」と記載され,上記審判請求書に添付された訂正明細書には,訂正前「連続」と記載されていた箇所に,「連結」と記載されている。しかし,上記審判請求書の請求の理由の欄においては,「連続」を「連結」に訂正することは「訂正の内容」に挙げられていない。したがって,「連続」が「連結」と訂正されたことには疑義がある。)して,基板上のシール材による封止部の下層を経て外部に延設されたリード電極が設けられ,該表示領域以外の領域で対面する基板のどちらか一方の基板上のみで且つ該リード電極が設けられていない領域において,該基板に設けられた電極と同じ厚さのスペーサーを設け,非表示領域のシール材内部にガラスビーズを設け,及び非表示領域のシール材外部にギャップ材を設けたことを特徴とする液晶素子。
(2) 前記スペーサーは,前記電極と同一工程で形成された同一材料からなることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。
(3) 前記電極は複数の並列配置したストライプ状電極からなり,2枚の基板の各電極を直交配置してマトリックスを構成し,各ストライプ状電極に連続して同一厚さ同一材料のリード電極を各基板の少なくとも一側縁に並列して形成したことを特徴とする請求項2記載の液晶素子。
(4) 前記スペーサーは,前記名ストライプ状電極のリード電極と反対側にシール材配設部まで延長して各ストライプ状電極に連続して形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。
(5) 前記スペーサーは,最外側のストライプ状電極の外側にこれと平行に前記シール材と重なるまでの位置に形成されたことを特徴とする請求項3記載の液晶素子。
(6) 前記シール部材に設けられたスペーサーは,対向する他方の基板側と絶縁されていることを特徴とする請求項1記載の液晶素子。」
(5) 上記のとおり,本件特許については,特許法29条2項の規定に違反してなされた特許であることを理由に特許を取り消した決定の取消しを求める訴訟の係属中に,その目的に当該特許に係る特許請求の範囲の減縮を含む訂正の審決が確定したので,決定は,結果として,判断の対象となるべき発明の要旨の認定を誤ったものとなり,この誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって,決定は,取消しを免れない。
3 原告の主張に対する被告の認否
(1) ないし(4)は認める。
4 理由
原告の主張(1)ないし(4)は当事者間に争いがなく,同争いのない事実によれば,本訴請求は理由がある。そこで,これを認容し,訴訟費用の負担については,原告に負担させるのを相当と認め,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法62条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)