東京高等裁判所 平成11年(行ケ)416号 判決 2000年7月18日
原告
有限会社サンライト
代表者代表取締役
【A】
原告
株式会社マツモト
代表者代表取締役
【B】
原告ら訴訟代理人弁理士
【C】
被告
株式会社フタバ
代表者代表取締役
【D】
訴訟代理人弁護士
桃谷惠
同弁理士
【E】
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告ら
特許庁が平成11年審判第35266号事件について平成11年10月1日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、意匠に係る物品を「建築板用シール連結材」とし、その形態を別紙審決書の理由の写しの別紙第一表示のとおりとする登録第995898号意匠(平成7年9月22日出願、平成9年7月11日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成11年6月3日、原告らを被請求人として、本件意匠の登録を無効にすることにつき審判を請求した。特許庁は、これを平成11年審判第35266号として審理した結果、同年10月1日、「登録第995898号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、同年11月18日、原告らにその謄本を送達した。
2 審決の理由の要点
審決の理由は、別紙審決書理由の写し記載のとおりである。要するに、本件意匠は、平成3-56579号実用新案公報(平成3年12月19日公告)から認められる直線状棒材の意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するので、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができないものであるから、同法48条1項の規定により、その登録は無効とされるべきである、としたものである。
第3原告ら主張の審決取消理由の要点
審決の理由第三(当審の判断)のうち、「1 本件登録意匠」は認める。
「2 甲号意匠」は争う。「3 本件登録意匠と甲号意匠の比較検討」のうち、5頁20行ないし7頁12行まで(主な共通点と相違点の認定に係る部分)は認め、その余は争う。
審決は、引用意匠の認定を誤り(取消事由1)、また、この点をおくとしても、本件意匠と引用意匠との間の類否の判断を誤ったものであって(取消事由2)、これらの誤りが、それぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用意匠認定の誤り)
審決は、平3-56759号実用新案公報(審決の甲第2号証、本訴では甲第4号証の一部)には、「その使用時断面形が第4図に現されているものと認められる。そして、全記載から判断するに、H型鋼の枠組みの直線部分には、具体的な図面がないものの、上記連結部材と同形断面形の直線状棒材が用いられ、この直線状棒材と十字状部材が対として使用されることによって全体が完成するものと容易に推認されるものである。そうすると、当該直線状棒材の意匠(甲号意匠)は、本実用新案公報発行の時点において公然知られたものと認められるものである。」(審決5頁5行ないし14行)と述べている。すなわち、審決は、具体的図面がなく、物品として特定されず、正確にその意匠を認識することができないものを、引用意匠として推認しているのであり、この点において既に誤っている。
2 取消事由2(類否判断の誤り)
審決は、本件意匠と引用意匠との類否を判断するに当たり、一方で、共通点については、その影響はかなり大きいなどと過大に評価しつつ、他方で、相違点については、その影響は微弱であるなどと過小に評価し、その結果、誤った結論に至ったものである。
(1) 両意匠の共通点について
共通点(1)(全体が、上下逆略凹字状の下方挟持部の上辺上に略T字状の上方押さえ部を設けた断面態様の棒状体という基本的な形態である点)に係る形態は、機能的には、この種建築板用シール連結材としての基本的構成態様を成すものではあるものの、意匠の観点からは、意匠としての形態全体の基調を決定するものではないから、要部とはいえず、これが共通するという事実が、両意匠の形態の近似感を強くもたらすということはない。
共通点(2)(下方挟持部の内側について、幅太状の倒コ字状の左右辺の下方略半分の部分の内側面部を内方に向かって略過半円形状に膨出させてH鋼挟持片とし、その上側を略横長方形状の空間部とした点)及び(3)(下方挟持部の外側について、左右辺下端部分が細幅で外方に水平状に延び、その先端が角丸状に上方に曲がり、扁平U字状の樋部を形成している点)は、両意匠の具体的相違点と比較した場合には、両意匠の共通感を強くもたらすものではなく、類否判断に対するその影響は、決して大きいものとはいえない。
共通点(4)(上方押さえ部について、太幅で扁平なT字状の水平軸部の先端が下方挟持部の左右上端部位と一致し、水平軸部と縦軸部と下方挟持部で囲まれて横長方形状の空間部を形成し、水平軸部の左右端寄り部分が削がれて斜面を成し、水平軸部の左右中央位置に上方開口状の断面略擬宝珠型の楔溝を設けている点)に係る形態は、この種の建築板用シール連結材における基本的形態として、本件意匠の出願以前より一般に知られており、したがって、意匠的観点からみた場合、決して重要部分とはなり得ず、これを支配的要素とすることはできない。
(2) 相違点(イ)について
相違点(イ)(H鋼挟持片の下辺部につき、本件意匠は水平状であるのに対し、引用意匠は下方に膨出する弧状を成している点)は、類否判断において重要である。
本件意匠の左右挟持片は、内方に向かって略過半円状に膨出させるとともに、底辺をフラットにした均整のとれた安定した美観を呈しているのに対し、引用意匠の左右挟持片は、下方に向かったこぶ状の膨出部で脆弱な美観を呈しているから、両意匠は、形状的にも美観的にも全く異質なものである。特に、この種の建築板用シール連結材の性質、目的、用途、使用態様等からみて、この挟持片の部分は、具体的な取引の場において取引者・需要者が注意を引く要部というべき部分であることに鑑みると、この形状、美観の相違が両意匠の類否判断に与える影響は、極めて大きいものというべきである。
審決は、本件物品が弾性のあるものであることを考慮すると、本件意匠の左右挟持片は、H鋼挟持時には若干膨らみ状に変形する余地があり、その場合には更に上記相違点の影響が弱まる旨いうが、意匠の類否判断においては図面によって特定されたものを基準とすべきであるから、使用時のことを仮に想定して意匠の内容や類否判断をすることは誤りである。
(3) 相違点(ロ)について
両意匠の相違点(ロ)(楔溝につき、引用意匠の方が本件意匠よりも広幅である点)につき、「ジッパーを嵌設したときには、(中略)溝が隠れる点をも考慮すると、その影響は、微弱というべきである。」(審決9頁1行ないし4行)としているが、意匠の類否判断に当たっては、あくまでも意匠図面に表われた形状について比較すべきであるから、上記判断は誤っている。
(4) 相違点(ハ)について
審決は、相違点(ハ)(本件意匠には、樋の上端寄り内側の部位から下方挟持部の左右側面の上下中央よりやや下寄り部位を繋ぐ外側下がりの斜面状の覆面部を取り付けているのに対して、引用意匠には、それが存在しない点)に係る覆面部につき、「その厚さが薄いもので、その両端部は、簡単に取り外しができるように更に薄く成形されており、取り外しての使用も想定されていることからすれば、本体部に対して付加的、付属的な部分と認められ、さほど重視すべきものとはいえず」(審決9頁4行ないし9行)としている。
しかし、本件意匠において、覆面部は、正面、側面、平面のいずれにも顕著に表われ、かつ看者が最も強く注意を喚起される部分であるから、付加的、付属的な部分とはいえず、むしろ、要部というべきである。
審決は、覆面部が取り外して使用されるものであることを前提にして判断しているが、この前提が既に誤りである。すなわち、本件意匠の覆面部は、溝通路を中空状に覆って中空通路とするためのものであり、必要不可欠の構成要素であって、取り外して使用されるものではない。溝通路は、覆面部で覆われているために、室内に圧力変化が生じた場合でもこの中空通路内の水分に乱気流の影響が及ぶことなく、円滑に下流まで流通することが可能となる。本件意匠に係る物品は、室内の圧力変化によって、樋の開放部から漏水が生じるという、従来品に存在した問題を、覆面部を備えることによって初めて解決したものである。覆面部は、取付工事を行う際に、所定位置に所定間隔をおいた2つの切れ目を入れ、その間を切り離して使用するものであり、全体を切り取って使用するものではない。
(5) まとめ
以上によれば、本件意匠に係る建築板用シール連結部材におけるような物品において、具体的取引の場において取引者・需要者が注意をもって見る部分(要部)は、物品の性質、目的、用途や使用形態等からみて、明らかにH鋼挾持片の下辺部の形状と斜面状の覆面部の構成であり、本件意匠と登録意匠とは、これらの点の相違により、非類似であること、明白なものというべきである。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告ら主張のような違法はない。
1 取消事由1(引用意匠認定の誤り)について
引用意匠とされているのは、平3-56579実用新案公報に示される直線状棒材の意匠である。同棒材は、その断面形状が同公報の第4図に示されているものと同じであることは明らかであり、単に、その長さが特定されていないにすぎない。すなわち、同公報記載の考案は、天窓のH型鋼枠組部における窓枠構造であって、H型鋼の十字状に交差した部位に嵌合して使用するものが第2図に示されており、H型鋼の枠組の直線部分には上記連結部材と同形断面形状の直線状棒材が用いられ、この直線状棒材と十字状部材が対として使用されることによって全体が完成するものであるから、当該直線状棒材の意匠は、その長さが特定されていない点を別とすれば、上記実用新案公報発行の時点において公然知られたものと認められる。長尺物品においては、その長さは、使用個所に応じて種々に異なるものであるから、格別看者の目を引かず、最も目を引くのは端面である。そうすると、建築用シール連結部材は、その長さが現実に表わされていなくても、断面(端面)形状が明らかに表わされていれば十分に意匠の形状を特定することができるものというべきであり、引用意匠とされた直線状棒材の意匠は、意匠として十分に特定されている。これを公知の意匠として、これと本件意匠との類否を判断することは、何ら誤りではない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
(1) 共通点について
原告らは、本件意匠と引用意匠の共通点(1)に係る部分が意匠の要部ではない旨主張するが、この種の建築板用シール連結材のような長尺物品の場合、その端面(断面)形状が意匠の要部でないとするなら、どの部分をもって要部とするのか、理解に苦しむところである。共通点(4)についても、この種のシール連結材において、上方押さえ部分の形状は、建築構造物が完成した場合には、構造物の表側の目立つ場所に位置し、構造物の裏側に位置するものではないから、これを意匠上重要部分であって支配的要素であると判断することは、何ら誤りではない。
(2) 相違点(イ)について
原告らは、本件意匠と引用意匠との類否判断において、H鋼挾持片の形状の相違が重要である旨主張する。しかし、引用意匠の左右挾持片の下方に向かったこぶ状の膨出部はなだらかな形状であり、その表面に特別な構造物もない。しかも、本件意匠に係る物品も、ゴム部材であることを考慮すると、現実の使用場面では、膨出する可能性を有している。このようなとき、この程度の差異をもって、美感が著しく相違するとすることができるものではない。
(3) 相違点(ハ)について
本件意匠に係る物品が施工された現場の建築用シール連結部材には、覆面部が取り外されて使用されている例があるから、覆面部については、取り外して使用することが想定されているということができる。したがって、この覆面部は付加的、付属的な部分というべきであり、その有無による差異は小さいものとなる。
(4) まとめ
本件意匠に係る建築用シール連結部材のような物品において、取引者・需要者が注意を持って見る部分は、当該物品の表面部分すなわち上辺部の形状であるとするのが自然である。完成した建造物の表側が注目される部分であり、建築物の裏側は、表面側に比べて注目されにくい部分である。そうである以上、相違点(イ)、(ハ)の有する意義を強調する原告らの主張は、議論の出発点を誤ったものというべきである。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(引用意匠認定の誤り)について
審決が引用意匠としたのが、平3-56759号実用新案公報(審決の甲第2号証、本訴では甲第4号証の一部。別紙審決書の理由の写しの別紙第二は、同公報中の図面である。)の記載から認められる直線上棒材の意匠であることは、審決の記載自体で明らかである。
原告らは、審決が、具体的図面がなく、物品として特定されず、正確にその意匠を認識することができないものを、引用意匠として認めた旨主張する。しかし、まず、証拠(甲第2、第4号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠も引用意匠もともに、それに係る物品は、採光のための天窓を建築するための部材であり、鋼材等の支持材にガスケット(パッキング)を介してガラス等を固定する際に用いられるガスケットであることが認められ、また、上記別紙第二の第2図には、引用意匠に係る建築部材のうち、十字に交差する部分の斜視形態が示されて、上記認定の部材の用途に鑑みると、引用意匠に係る物品は、当然に、交差部分と連結する、同断面形の直線状棒材として、必要に応じて種々の長さで使用されることが明らかである。
次に、上記直線上棒材の断面形は、上記公報第4図(別紙審決書の理由の写しの別紙第二参照)から明らかである。
そうである以上、審決が、上記公報中にそれ自体では図面で明示されていない直線状棒材の存在を推認し、その意匠を引用意匠として認定したことには、何ら誤りはない。原告らの主張は採用することができない。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について
(1) 本件意匠及び引用意匠のそれぞれの基本的構成態様(共通点(1)に係る態様)及び具体的構成態様(共通点(2)ないし(3)、相違点(イ)ないし(ハ)に係る態様)は、いずれも当事者間に争いがない。
すなわち、本件意匠及び引用意匠の基本的構成態様は、いずれも、全体が、上下逆略凹字状の下方挟持部の上辺上に略T字状の上方押さえ部を設けた断面態様の棒状体という構成であるという点で共通している。
具体的構成態様の共通点は、①下方挟持部の内側について、幅太状の倒コ字状の左右辺の下方略半分の部分の内側面部を内方に向かって略過半円状に膨出させてH鋼挟持片とし、その上側を略横長方形状の空間部とした点(共通点(2))、②下方挟持部の外側について、左右辺下端部分が細幅で外方に水平状に延び、その先端が角丸状に上方に曲がり、偏平U字状の樋部を形成している点(共通点(3))、③上方押さえ部について、太幅で偏平なT字状の水平軸部の先端が下方挟持部の左右上端部位と一致し、水平軸部と縦軸部と下方挟持部で囲まれて横長方形状の空間部を形成し、T字の水平軸部の左右端寄り部分が削がれて斜面を成し、水平軸部の左右中央位置に上方開口状の断面略擬宝珠型の楔溝を設けている点(共通点(4))である。
具体的構成態様の相違点は、①H鋼挟持片の下辺部につき、本件意匠は水平状であるのに対して、引用意匠は、下方に膨出する弧状を成している点(相違点(イ))、②楔溝につき、引用意匠の方が本件意匠よりも広幅である点(相違点(ロ))、③本件意匠は、樋の上端寄り内側の部位から下方挟持部の左右側面の上下中央よりやや下寄り部位を繋ぐ外側下がりの斜面状の覆面部を取り付けているのに対して、引用意匠は、それが存在しない点(相違点(ハ))である。
(2) 共通点(1)ないし(4)について
本件意匠及び引用意匠の基本的構成態様(共通点(1))は、形状の組合せによって、全体としてまとまった意匠を形成し、意匠全体の基調を決定するものとして、看者に視覚を通じて共通の一つの美感を与えていると認められるから、看者に共通の美感をもたらすものであるということができる。
原告らは、上記基本的構成態様は、物品の機能の面からは基本的なものではあっても、意匠的には全体の基調を決定するものではない旨主張するが、何故に基本的構成態様の共通点が意匠的には全体の基調を決定しないかについての根拠を明らかにしていないから、採用できない。
具体的構成態様の共通点(2)、(3)は意匠全体の過半を占める下方挟持部の大部分の、共通点(4)は、意匠の上方押さえ部の形態の共通点であって、両意匠のほぼ全体が具体的形態においても共通しており、看者の共通の美感を強めるということができる。
原告らは、共通点(4)の上方押さえ部の形態は本件意匠の出願以前から一般的に知られた基本的形態であるから意匠の重要部分ではない旨主張する。しかし、よく知られた一般的な形態であっても、当然にその部分が看者の注意を引かないとはいえないから、右主張は採用できない。
このように、基本的構成態様及び意匠の大部分を占める具体的構成態様において一致が認められ、そこから共通の美感が生じ、かつ、強められる以上、その他の具体的構成態様に相違点があるとしても、その相違によって看者に上記共通の美感をしのぐ特別な美感を与える要素が付加されない限り、両意匠は、類似の範囲内にとどまるものというべきである。
(3) 相違点(イ)について
H型鋼挟持片の下辺部につき、本件意匠は水平状であるのに対し、引用意匠は下方に膨出する形状を成している点で相違することは、上記のとおりである。
原告らは、上記相違により、本件意匠の左右挟持片は均整のとれた安定した美感を呈しているのに対し、引用意匠のそれは脆弱な美感を呈しているにすぎない点で大きな差異がある旨主張する。しかし、上記相違点は、美感上、看者に安定感を与えるか否かといった点である程度の違いをもたらすとしても、H鋼を挟持する機能をはじめ、両意匠に係る物品である建築用シール連結材としての使用に関する要素に具体的な影響を及ぼすものとは認められないことからすれば、具体的な取引の場でそれ以上に取引者・需要者の格別の注意を引きつけ、看者に特別な美感を与えるものとまでは認めることができない。
(4) 相違点(ロ)について
楔溝につき、引用意匠の方が本件意匠よりも広幅である点において、両意匠が相違することは、上記のとおりである。しかし、上記相違点が看者に特別な美感を与えるものであることについては、何ら主張、立証がなく、また本件全証拠によってもこれを認めることができない。
(5) 相違点(ハ)について
本件意匠は、樋の上端寄り内側の部位から下方挟持部の左右側面の上下中央よりやや下寄り部位を繋ぐ外側下がりの斜面状の覆面部を取り付けているのに対し、引用意匠には、それが存在しない点において、両意匠が相違することは、上記のとおりである。
原告らは、本件意匠にのみ存在する覆面部は、結露を受ける溝通路を中空状に覆って中空通路とするためのものであり、従来は、覆面部がなかったため、室内の圧力変化によって、樋の開放部から漏水が生ずる問題点があったことから、覆面部を設けることによって問題を解決したものであり、このような機能の差異を生じさせる相違点は、看者に特別の美感をもたらす旨主張する。
上記覆面部の形態は薄いもので、本件意匠の中心を成す断面図全体の中に占める割合は極めて少なく、その有無による外観上の差異は小さい。また、本件意匠に係る物品が実際に建築物に取り付けられた場合には、上記覆面部は隠れてしまい外部から見えないものである。
これらのことを併せ考慮すると、覆面部に上記機能が認められるとしても、本件意匠に接した取引者・需要者の注意を強く引くものとまではいえず、上記相違点は、看者に特別な美感を与えるものとまではいえないというべきである。
なお、原告有限会社サンライトが、本件意匠に係る物品と同一の物品につき受けた実用新案登録(実用新案登録番号3035239号)に係る公報(甲第4号証中に参照文献として添付されているもの。)には、「さらに前記各横溝の下り側面の下方に下り勾配の覆面を剥脱自在にした中空通路を成す溝通路を形成した」(2頁左欄6行ないし8行)、「この覆面16を剥脱自在とするには、覆面16の両側の連結部16a、16aを薄厚に形成すればよい、そして、覆面16に開口部17を形成するには、覆面を16の所望位置で幅方向に二つの切れ目を入れ、その間の両側の薄厚の連結部16a、16aに沿って手作業で引き剥せばよい。」(8頁【0027】)との記載があり、覆面部が剥脱可能であることが示されており(原告らは、剥脱するのは一部分であり、覆面部全体を剥脱するわけではない旨主張し、上記公報にも、一部を剥脱した実施例が記載されていることが認められるが、原告らが想定した実施例が上記のものであっても、上記覆面部全体が剥脱可能であることには変わりがなく、証拠(乙第2号証)によれば、本件意匠にかかる物品が覆面部全体を剥脱して用いられている例があることが認められる。)、この事実もまた、覆面部の存否が本件意匠と引用意匠との認否判断において有する力を更に減殺する働きをするものというべきである。
(6) 以上によれば、本件意匠と引用意匠とは、基本的構成態様において一致し、具体的構成態様においても一致するところがあって、その具体的構成態様における差異を考慮しても、全体としては類似の範囲内にとどまるものと認められ、この認定の妨げとなる資料は、本件全証拠を検討しても見出せない。
したがって、本件意匠が引用意匠に類似するとした審決に誤りはない。
3 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき理由は見当たらない。
よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 山田知司 裁判官 阿部正幸)