東京高等裁判所 平成11年(行ケ)72号 判決 2000年3月28日
原告
株式会社日本製鋼所
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
安田有三
同
小南明也
同弁理士
【B】
被告
株式会社神戸製鋼所
代表者代表取締役
【C】
訴訟代理人弁理士
【D】
同
【E】
同
【F】
同
【G】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1請求
特許庁が平成9年審判第20802号事件について平成11年1月18日にした審決を取り消す。
第2前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯
被告は、発明の名称を「連続混練機の混練制御装置」とする特許第2126428号(平成元年4月4日特許出願、平成9年1月28日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成9年12月4日本件特許を無効とすることについて審判を請求した。
特許庁は、この請求を平成9年審判第20802号事件として審理した結果、平成11年1月18日、本件審判の請求は成り立たない旨の審決をし、その謄本は、同年2月24日原告に送達された。
2 本件発明の要旨
供給口(2)及び排出口(3)を有するチャンバ(4)と、混練翼部(B)を有するチャンバ(4)と、混練翼部(B)を有してチャンバ(4)内に平行に配置され且つチャンバ(4)に対して軸線方向位置固定された両持ち支持の2本のロータ(5)と、チャンバ(4)の供給口(2)と排出口(3)との間でロータ(5)に対して径方向遠近位置調整自在に設けられた可動ダム(8)と、チャンバ(4)軸線に対して直角方向に開口された排出口(3)の下流側に配置されたギヤポンプ(7)とを備えており、前記可変ダム(8)はロータ(5)の混練翼部(B)の下流側に形成した断面円形部(C)に対向し且つ略沿う対向縁(12)を有し、前記ロータ(5)にはギヤポンプ(7)へ混練材料を強制押動させるべく断面円形部(C)の下流側から排出口(3)まで配置されていて混練翼部(B)とほぼ同径のスクリュ形状の送り翼部(D)が形成されていることを特徴とする連続混練機の混練制御装置。(別紙2参照)
3 審決の理由
審決の理由は、別紙1審決書の理由写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、審決は、本件発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開昭56-5719号公報)、甲第2号証(【H】監修、「押出成形」、(株)プラスチックス・エージ、1983年2月15日改訂第6版発行、190頁、191頁)、甲第3号証(特開昭61-233508号公報)、甲第4号証(特開昭58-16837号公報)及び甲第5号証(特公昭58-50533号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨の請求人(原告)の主張は、理由がなく、本件特許を無効とすることはできない旨判断した。
ただし、審決書9頁7行の「円筒部」は「円形部」の、11頁15行の「先端側」は「先端側は」の、12頁3行、4行の「密封」は「密閉」の、12頁17行の「特開昭」は「特公昭」の、13頁5行の「両ロータ」は「前記両ロータ」の、13頁8行の「部分とを」は「部分と反対方向に捩れた部分とを」の、それぞれ誤記である。
第3審決の取消事由
1 審決の認否
(1) 審決の理由1(本件の経緯)、同2(本件発明)及び同3(請求人(原告)の主張)は認める。
(2) 審決の理由4(請求人の主張についての検討)中、4-1(甲第1~5号証について)のうち、甲第1号証の記載事項の認定(審決書4頁2行ないし8頁12行)は認める。本件発明と甲第1号証に記載された発明との対比(同8頁13行ないし9頁18行)のうち、「はるかに」小径である点(同9頁17行)及び「著しく」相違している点(同9頁18行)は争い、その余は認める。なお書(同9頁19行ないし10頁11行)のうち、「論外である」こと(同10頁11行)は争い、その余は認める。同10頁12行ないし15行は争う。甲第2号証についての判断(同10頁16行ないし11頁8行)のうち、「(3)の(ZSK)のバルブ開閉機構については、それ以上の記述がない」こと(同11頁7行、8行)は争い、その余は認める。甲第3、第4号証についての判断(同11頁9行ないし12頁16行)のうち、12頁12行「甲第3号証」から16行までは争い、その余は認める。甲第5号証についての判断(同12頁17行ないし15頁14行)のうち、以下の部分は争い、その余は認める。すなわち、甲第5号証が「ギヤポンプの使用も示唆して(いる)」こと(同14頁16行、17行。示唆ではなく、明示されているものである。)、「甲第5号証に記載された発明は、甲第1~4号証に記載のものよりはるかに、本件発明に近い」こと(同14頁17行ないし19行。甲第5号証に記載の発明は、本件発明に類似しているものである。)、「両ロータの始端側の供給フライトを備えたフィード部を他部に比べて大径にしている点」(同15頁5行ないし7行)で本件発明と相違すること、本件発明と「明らかに」(同15頁8行)相違していること、同15頁8行「それには、」から14行までは争い、まとめ(同15頁15行ないし末行)も争う。
審決の理由4-2(請求人の主張について。審決書16頁2行ないし28頁9行)のうち、同17頁4行「また、」から11行まで、18頁2行「その原理の」から5行まで、19頁17行「それをもって、」から20頁6行まで、21頁15行の「それは」から18行まで、23頁2行「これ」から5行「すぎず、」まで、24頁11行「はるかに」の点、24頁12行ないし25頁2行、25頁14行「そもそも」から27頁1行まで、27頁10行「送」から17行まで、28頁7行「それらは、」から9行までは争い、その余は認める。
(3) 同5(結び)は争う。
2 取消事由
審決は、本件発明と甲第5号証に記載された発明との同一性の判断又は甲第5号証に基づく進歩性の判断を誤り(取消事由1)、また、甲第1号証に基づく進歩性の判断を誤ったものであるから(取消事由2)、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(甲第5号証による新規性欠如又は進歩性欠如)
ア 相違点1(下流側混練部)及び課題の認識
(ア) 審決は、甲第5号証に記載された発明は、「絞り機構の下流側にも混練部がある点」で本件発明と相違する旨(審決書15頁1ないし5行)認定するが、この点は実質的に同一であるというべきである。
すなわち、本件発明は、甲第5号証第1図(別紙3)記載の混練機において、そのロータ4を本件明細書第1図(甲第11号証の1、別紙2)のロータ5に置き換えたものに相当するが、甲第5号証第1図における第2混練部9は、第1混練部6での樹脂の練り不足を補うためのものであるから、二軸連続混練機で必ず要求されるものでない。そして、連続混練装置において、混練部下流のスクリュ形状の送り翼を排出口まで配置することは、当業者が適宜採用する周知の技術事項である。例えば、甲第1号証には、「デイスチャージ部(6)は、上記テーパ部(5)の前方に設けられ、混練分散された材料を排出口(12)に送るスクリュー(6a)(6b)を備える。」(2頁右下欄3行ないし5行)ことが示されている。甲第3、第9号証も同様である。
さらに、甲第15号証(1989年2月、米国テキサス州ヒューストンにおいて開催された第6回ポリオレフィン国際会議における発表論文)、及び甲第16号証(米国FARREL社の連続混練機のカタログ(1988年発行))には、2軸混練機における種々の標準ロータが記載されているところ、その中の高レベル脱気用のロータ(22番)として甲第5号証のロータ4に相当するロータが示され、滞留時間が重要な材料用のロータ(24番又は24X番)として本件発明のロータ5に相当するロータが示されている。甲第15、第16号証は、本件発明の出願当時の技術水準を示すものであり、その中に示された種々のロータは、使用目的に応じて当業者が適宜選択採用するものであるから、甲第5号証に記載された発明と本件発明は、実質的に同一である。
(イ) 審決は、「(甲第5号証には)本件明細書の(従来技術)の欄や(発明が解決しようとする課題)の欄に記載されているところのギヤポンプを用いる際の問題点についての認識も示されていないから、甲第5号証を主引用例としても、本件発明が容易に発明をすることができたとする理由を導き出すことはできない。」(審決書15頁8行ないし14行)旨判断するが、誤りである。本件発明は、甲第5号証及び甲第1、第3、第9号証(特開昭56-10411号公報)の記載から当業者が容易に想到することができるものである。
従来例におけるギヤポンプを用いる際の問題点は、可動ダムによる混練翼部(B)に対する混練制御に、排出口下部のギヤポンプによるギヤポンプから下流側の後処理装置に樹脂を送るための制御が影響を与えることである。そのため、本件発明は、可動ダム部(断面円形部(C))と排出口3との間にあって、同円形部(C)の下流側に送り翼部(D)を設けたものである。
しかし、甲第5号証においても、絞り機構7と排出口3との間にスクリュ形状の第2フィード部8を設け、ギヤポンプで生ずる上記問題点を解決している。
また甲第1、第3及び第9号証の2軸混練機も、同様である。
したがって、本件発明のように構成することは、当業者が容易に想到することができたものである。
イ 相違点2(ロータ始端側の径)
審決は、甲第5号証に記載された発明は、「両ロータの始端側の供給フライトを備えたフィード部を他部に比べて大径にしている点」で本件発明と相違する旨(審決書15頁5行ないし7行)認定するが、誤りである。
本件発明は、「混練翼部(B)と略同径の・・・送り翼部(D)」と規定するのみであり、上記の点は、構成要件に含まれていないから、相違点にはなり得ない。
(2) 取消事由2(甲第1号証に基づく進歩性欠如)
審決は、「本件発明と著しく相違している発明が記載されているにすぎない甲第1号証を主引用例として挙げて、本件発明の容易性を論じることは既に合理性がない。」(審決書10頁12行ないし15行)と判断するが、誤りである。本件発明は、甲第1号証記載の発明から当業者が容易に想到することができたものである。
ア 相違点(a)(可動ダムと回転リング)について
本件発明の可動ダムと、甲第1号証記載の回転リングは、被混練材料に対して与える流動抵抗(通過抵抗力)を増減させ、その温度、圧力(エネルギー)を上下させ、混練度を制御するという作用効果において、同じである。
しかも、甲第2号証には、スロット機構とバルブ機構とが並列記載され、混練機の混練調整機構として、スロット機構とバルブ機構が適宜選択できることが示されている。
したがって、甲第1号証に記載されている回転リング(スロット機構を発展させたもの)による混練制御機構を、甲第2号証に記載されたバルブ機構に置き換えることは、当業者が容易に想到することができるものであり、かつ、その構成の相違によって顕著な作用効果がもたらされるものでもない。
イ 相違点(b)(ギヤポンプの点)について
甲第3ないし第5号証に記載されているように、二軸混練機にギヤポンプを備えることは、周知慣用であり、本件発明においてギヤポンプを用いる目的、それによって得られる作用効果も、従来周知の慣用技術の範囲内であり、顕著な作用効果がもたらされているとは到底いえない。
ウ 相違点(c)(送り翼部の径の大小)について
甲第1号証第2図に記載された混練機のディスチャージ部のスクリュー6aは、本件発明の送り翼部(B)に比べて小径ではあるが、甲第1号証には「テーパー部(5)は、混練翼部(4a)の終端から前方にしだいに小径となる円錐台形状を為す。」(2頁右下欄1行ないし3行)としか記載されておらず、実際には、径比は約1.3倍程度であり得る(甲第7号証)。
しかして、本件発明において、混練翼部(B)と送り翼部(D)がほぼ同径である効果として、「ギアポンプ7への大容量吐出を確保する」(甲第11号証の2補2頁左欄2行ないし右欄1行)と記載されているが、送り翼部による吐出量は、スクリュ溝の深さやフライト幅等スクリュ形状によっても左右されるものであり、径の大小のみによってそのような効果が得られるものではなく、スクリュ径が小さくても十分な搬送能力を有し、排出口に向かって混練材料を強制圧動するという機能をも備え得るものである。
さらに、甲第15及び第16号証には、2軸混練機における4種類の標準ロータが記載されており、その中の24番又は24X番ロータとして、混練翼部とほぼ同径のスクリュ形状の送り翼部を備えたものが記載されている。
したがって、テーパー部の円錐の「径比」の構成を変更し、本件発明のようにほぼ同径にすることは、当業者が容易に想到することができることであり、また、テーパー部をほぼ同径に変えることのみによって、送り翼部の大容量吐出を確保することができるという顕著な作用効果がもたらされるものでもない。
第4審決の取消事由に対する認否及び反論
1 認否
原告主張の審決の取消事由は争う。
2 反論
(1) 取消事由1(甲第5号証に基づく新規性欠如又は進歩性欠如)について
ア 相違点1(下流側混練部)及び課題の認識について
(ア) 甲第1及び第9号証のみから、そもそもスクリュ形状の送り翼部(D)を断面円形部(C)の下流側から排出口3まで配置する点が周知技術であったとはいえない。
また、仮にかかる構成が周知技術であったとしても、それらに記載の「ディスチャージ部6」は「混練翼部4と略同径」ではなく、しかも「ギヤポンプへ混練材料を強制押動させる」ものかどうかも不明である。
よって、仮に甲第1及び第9号証の「ディスチャージ部6」を考慮に入れたたとしても、甲第5号証に記載された発明に係る二軸連続混練機が、円形断面部71の下流側又は第2フィード部8の下流側にも第2混練部9が形成されている二段練りタイプの混練機であることに変わりはなく、円形断面部71の下流側から排出口3までの部分を第1混練部6とほぼ同径でギヤポンプへ混練材料を強制押動させる第2フィード部8にした混練機が甲第5号証に記載されていると解釈することはできない。
(イ) 甲第5号証に記載された発明に甲第1号証等に記載のディスチャージ部6を適用することは、甲第5号証に記載された発明の本質そのものを変更することに等しく、そのような変更は当業者といえども容易に想到することができるものではない。
すなわち、甲第5号証に記載された発明は、被混練材料の混練時間を増長する効果を意図して、「軸方向前後二箇所の混練部とを配設する」(特許請求の範囲)ことを必須の構成要件としているところ、このロータ4の円形断面部71の下流側の部分を甲第1号証等に記載のディスチャージ部6に置き換えることは、甲第5号証に記載の発明が必須の構成要件として採用している「第2混練部9」を無にすることに等しい。
また、甲第5号証に記載された発明においては、第2フィード部8のフィード力はその下流側の戻し翼93の戻し力によって必ず減殺され、そのフィード力がそのまま排出口(材料排出用オリフィス)3に伝達されることはあり得ないし、また、甲第5号証の発明の詳細な説明を精査するも、第2フィード部8のフィード力とギアポンプへの材料の喰い込み不良等との関係については何ら言及されていない。したがって、甲第5号証に記載の第1実施例において第2フィード部8を設けているからといって、その第2フィード部8によって排出口3に設けたギヤポンプへの材料の喰い込み不良等が確実に防止されるとはいえず、そもそもそのような目的で採用されたものではないことは明らかである。
さらに、本件発明の「可動ダム」は、ギヤポンプが従来果たしてきた「混練作用中の混練度の制御機能」をギヤポンプにとって代わるべく設けられたものであるのに対し、甲第5号証に記載された発明の「可動壁72」は、混練作用がより強く働く第2混練部9と混練作用が働きにくい第1混練部6との間に設置されたものであり、第2混練部9の混練作用をより弱め、かつ第1混練部6の混練作用をよりを強めることにより、両者の「混練作用の平均化」を行うために採用されたものである(甲第5号証7欄15行ないし25行)。したがって、甲第1号証のディスチャージ部6等を甲第5号証に記載された発明に組み合わせることは、各構成要素の真の技術的意味を無視して単に形式的ないし抽象的に取り出して組み合わせようとするものであって、かかる認定手法は機械分野の発明の進歩性の判断としては妥当でない。
甲第15及び第16号証に記載されているのは、二段練りタイプの「No.22ロータ」と、同じく二段練りタイプの「No.24Xロータ」であり、これらのロータは、円形断面部Cの下流側から排出口3まで配置された送り翼部Dを有する本件発明のロータ5とは根本的に相違するし、しかも、甲第15及び第16号証では、「No.22ロータ」と「No.24Xロータ」は当然に置き換え可能な互換性のあるロータ同士であるともされていない。したがって、甲第15及び第16号証は、甲第5号証に記載された発明のロータ4と本件発明のロータ5との置き換えを何ら示唆するものではない。
甲第1及び第9号証に記載された発明が上記の問題点を解決したものではあると主張することは、甲第1、第9号証の開示内容を不当に広く解釈するものであり、失当である。
イ 相違点2(ロータ始端側の径)について
「両ロータの始端側の供給フライトを備えたフィード部を他部に比べて大径にしている点」が、本件発明と甲第5号証に記載された発明との相違点にならないことは、認める。
しかし、相違点1及び課題の認識についての認定及びその評価については、審決に何ら誤りはなく、相違点2についての認定の誤りは、審決の結論に何ら影響を及ぼすものではない。
(2) 取消事由2について(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について
ア 相違点(a)(可動ダムと回転リング)について
甲第1号証に記載された「回転リング」は、ロータに対するクリアランスを変更することは原則的にやめ、その代わりにロータに対する相対回転速度を変更することによって連通状になっていない左右で独立した混練室とテーパー部との間を通過する被混練材料の剪断力又は剪断速度の最適化を図る部材であるのに対して、甲第2号証に記載されたバルブ機構は、スロット機構の場合と同じように、2本のロータに対するバルブのクリアランスを積極的に変更して、2本のロータとチャンバとの間の材料通過抵抗を調節する部材である点で、両部材はその技術的機能ないし原理が全く異なるものである。
このロータに対するクリアランスを調節せずに材料の剪断力又は剪断速度の最適化を図るために採用された甲第1号証に記載された発明の「回転リング」の代わりに、ロータに対するバルブのクリアランスの調節によってしか材料の通過抵抗を変更することができない甲第2号証の「バルブ機構」を適用するということは、ロータに対するクリアランスの調節によらずとも材料の剪断力又は剪断速度の最適化を目指すという甲第1号証に記載された発明の本旨と相反した論理的に矛盾した置換であるといわねばならず、そのような置換は当業者が容易に推考することができることではない。
イ 相違点(b)(ギヤポンプの点)について
後処理装置への材料供給手段として排出口の下流側にギヤポンプを設けることがこの種の混練機において周知の慣用技術であるとしても、そのことから直ちに甲第1号証に記載された発明がギヤポンプ付きの混練機であると解釈する必然性は認められないので、甲第1号証に記載された発明にギヤポンプを接続することは、当業者が容易に想到することができることではない。
ウ 相違点(c)(送り翼部の径の大小)について
甲第1号証には、テーパー部5の径比の具体的数値について何ら記述されていないので、その具体的数値を含む当該テーパー部5の構造については甲第1号証の第2図に描かれている線図から把握するしか方法はない。他の文献(甲第7号証)に、テーパー部の径比が1.3倍である図面がたまたま描かれているからといって、そのことだけで甲第1号証に、第2図から読みとれる程度以外の径比を有するロータが甲第1号証に記載されていたとすることはできない。
したがって、甲第1号証の第2図を参酌してテーパー部5の径比を認定した審決に誤りはない。
理由
1 本件発明の概要
(1) 甲第11号証の1、2によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。
ア 産業上の利用分野
「本発明は、プラスチック、ゴム等の可塑性材料を、連続的に可塑化溶融して、添加剤、充填材等を練り込む連続混練機の混練制御装置に関する。」(甲第11号証の1第1欄15行ないし2欄2行)
イ 従来の技術
「プラスチックの連続混練機は、供給口及び排出口を有するチャンバ内に、混練翼部を有する2本のロータを平行に配置し、供給口から供給された混練材料添加剤及び充填材等を、ロータで混練して可塑化溶融しながら排出口から排出する。」(同2欄4行ないし8行)、
「この(特公昭56-3091号公報の)第1の従来技術は、チャンバの排出口の下流側に後処理装置へ混練材料を送給するためのギヤポンプを直結して、このギヤポンプを可変モータで回転速度を制御し、ギヤポンプの入口の圧力を制御することで、チャンバ内の材料の充満度を変化させて、混練度を調整するようにしている。
この第1技術は、高粘度でない樹脂の混練には利用できるに充分な効果を有するが、高粘度樹脂の混練には、ロータの押込力が小さいためギヤポンプの歯への喰い込み効率が悪くなることがあり、圧力のハンチング現象を生じ、樹脂の溶融開始点がふらついて、不安定運転になることがある。」(同2欄13行ないし3欄9行)、
「(第1技術等の)改良従来技術は、チャンバ4の排出口3の下流側にギヤポンプ7を配置し、供給口2の上方にフィード装置6を配置し、排出口3の近傍に可動ダム8′を設けて構成し、ギヤポンプ7は入口における圧力をセンサP1Cで検出して、ギヤポンプ7を安定運転できる範囲内で可変モータM4を制御し、フィード装置6によるフィード条件を常に一定にし、排出口3の温度センサT1C、ロータ用モータM2の回転数及びフィード条件等をダムコントローラ14に入力して、チャンバ4内のシャー面積、充満度等を可動ダム8′で変化させることによって、広範囲の粘度の樹脂を、安定且つ効果的に混練できるようにしている。」(同3欄23行ないし34行)
ウ 発明が解決しようとする課題
「しかしながら、前記改良技術においても、可動ダム8′はロータ5の軸方向に長いが断面積の小さい混練翼部Bに対向しているため、材料の遮蔽変化量が少なく、排出口3側の樹脂温度又は圧力は余り変化し難く、逆に、ギヤポンプ7の制御の影響を受けて、可動ダム8′通過時の材料の圧力又は温度が変化するために、制御が困難又は不正確になることがある。また、排出口3の近傍ではロータ5自体に押出能力がないので高粘度樹脂のギヤポンプ7への喰い込み不良は解消し難いものである。」(同3欄36行ないし44行)
エ 課題を解決するための手段
本件発明の要旨のとおりの構成である(甲第11号証の1第4欄3行、甲第11号証の2補1頁左欄下から18行ないし6行。なお、別紙2参照)。
オ 発明の効果
「本発明によれば、可動ダム8はロータ5の断面円形部Cに対向し且つ略沿う対向縁12を有しているので、ロータ5とチャンバ4との間の材料通過面積を略零から全開まで変化させることが可能になり、材料の流動抵抗を変えて混練度を制御する範囲を大きくすることができ、効果的な混練制御が可能になり、また、ロータ5には材料を排出口3へ強制的に押動する送り翼部Dを設けているので、ギヤポンプ7での材料喰い込み不良を減少させることができると共に、材料を後処理装置へ円滑に供給するためにギヤポンプ7を制御しても、その制御は可動ダム8による混練制御に影響することがなく、混練制御を正確且つ容易に行なうことができ、高粘度材料の混練であっても、安定的な運転ができる。」(甲第11号証の1第6欄11行、甲第11号証の2補1頁右欄7行ないし19行)
(2) これらの記載によれば、本件発明は、可動ダムとギアポンプにより混練度を制御するタイプの二軸連続式混練機における問題点である①ギアポンプの影響を受けて可動ダムの制御が困難又は不正確になることがある、②高粘度樹脂ではギアポンプへの喰い込み不良が起こる、との問題の解決を課題とし、①の点を解決するため、a)可動ダムに、ロータ5の断面円形部に対向し、かつほぼ沿う対向縁を設けるとともに、b)断面円形部の下流側から排出口まで混練翼部とほぼ同径のスクリュ形状の送り翼部を設けるとの構成を採用し、②の点を解決するため、上記b)の構成を採用したものであることが認められる。
2 取消事由1(甲第5号証による新規性欠如又は進歩性欠如)について
(1) 相違点1(下流側混練部)の存在
本件発明と甲第5号証に記載された発明とは、「その(甲第5号証記載の発明の)混練機は、軸方向の前後二箇所に混練部を配設しているため、第1図や第5図に示されるように「ロータに設けた円形断面部とその外方におけるチャンバーの一部に設けた半径方向に移動可能な可動壁とにより可動壁と円形断面部との間隙を調整可能にした絞り機構」の下流側にも混練部がある点」で相違していること(審決書14頁19行ないし15頁5行)は、当事者間に争いがない。
(2) 相違点1(下流側混練部)及び課題の認識について
ア 前記1(2)のとおり、本件発明は、可動ダムとギアポンプにより混練度を制御するタイプの二軸連続式混練機における問題点である①ギアポンプの影響を受けて可動ダムの制御が困難又は不正確になることがある、②高粘度樹脂ではギアポンプへの喰い込み不良が起こる、との問題の解決を課題とするものであるところ、このような課題の認識が当業者にとって自明であったものと認めることはできない。
イ(ア) すなわち、甲第5号証によれば、同号証には、次の記載があることが認められる。
「本発明は合成樹脂等の高分子材料の混練に用いる二軸連続式混練機に関するものである。」(2欄18行、19行)、
「旧来のこの種混練機においては、被混練材料の種類によって・・・適用困難な場合があり、その原因は・・・混練時間が不足するためである。」(2欄33行ないし3欄1行)、
「そこで、最近特に混練時間の増長を必要とする被混練材料に適用可能とするため、旧来の混練機に比べてロータのL/D(直径に対する長さの比)を大きくし、混練部を軸方向の二箇所に増設する構造が提案されている。」(3欄2行ないし6行)、
「ところが、L/Dを大きくすると、・・・旧来よりも低回転で操業する結果となり、・・・フィード力すなわち材料送給作用が低下し、・・・混練部で被混練材料に加わる圧力が低下するため、剪断、攪拌作用等がそこなわれる。」(3欄6行ないし17行)、
「本発明二軸連続式混練機の特徴とするところは」(3欄35行)、「軸方向前後二箇所の混練部を配設」(4欄、3行、4行)してなる二軸連続式混練機において、「前記両ロータの始端側の供給フライトを備えたフィード部を他部に比べて大径にし、・・・上記前後混練部の間にロータに設けた円形断面部とその外方におけるチャンバーの一部に設けた半径方向に移動可能な可動壁とにより、該可動壁と円形断面部との間隔を調節可能にした絞り機構を装備したことにある。」(4欄13行ないし20行)、
「特にフィード力を高めたい場合には第1実施例に示すように第2フィード部8を設けた構造を採用すればよいが、ロータ4始端側のフィード部5のみによっても充分なフィード力が得られるので、混練度の向上に重点を置く場合には第2実施例に示す構造を採用すればよい」(7欄33行ないし38行)、
「混練された材料を造粒するような場合は、当該混練機の排出側に押出機を接続してペレタイズするか、あるいはギヤポンプを介して押出し造粒する手段等を適宜付設すればよいが、この場合、本発明混練機で充分な混練度が得られるため、押出機を用いて練りの不足を補うという必要はなく、コンパクトなギヤポンプを採用すれば十分である。」(8欄22行ないし28行)、
「叙上の如く、本発明の二軸連続式混練機は、・・・混練時間が増長されて充分な混練度が得られ、」(8欄29行ないし34行)、
との記載がある。
そして、第1ないし4図には、第1実施例が図示され、第5図には、第2実施例が図示されているところ(別紙3参照)、第1実施例記載の混練機では、絞り機構の上流側及び下流側の2箇所に混練部が配設され、各混練部の上流にフィード部が配設されているのに対し、第5図の第2実施例の装置では、上流側の第1混練部の上流にはフィード部が設けられているが、下流側の第2混練部の上流にはフィード部が配設されていない。
(イ) これらの記載によれば、甲第5号証に記載された発明は、混練度を高めるため、絞り機構の上流側及び下流側の2箇所に混練部を配設した二軸連続式混練機におけるフィード力不足等の問題を解決することを課題とするものである。
そして、甲第5号証中には、ギヤポンプに関して、前記のとおり、「混練された材料を造粒するような場合は、当該混練機の排出側に押出機を接続してペレタイズするか、あるいはギヤポンプを介して押出し造粒する手段等を適宜付設すればよいが、この場合、本発明混練機で充分な混練度が得られるため、押出機を用いて練りの不足を補うという必要はなく、コンパクトなギヤポンプを採用すれば十分である。」(8欄22行ないし28行)と記載されていることは認められるものの、この記載は、ギヤポンプの使用について一般的に言及しているのみであり、他に、本件発明におけるような可動ダムによる混練翼部(B)に対する混練制御が排出部下部のギヤポンプによるギヤポンプから下流側の後処理装置に樹脂を送るための制御に影響を与えること等について言及しているものと認められる記載は見いだせない。
そうすると、甲第5号証には、本件明細書に記載された「(従来技術)の欄や、(発明が解決しようとする課題)の欄に記載されているところのギヤポンプを用いる際の問題点についての認識」も示されていない(審決書15頁9行ないし12行)との審決の認定に誤りはない。
ウ 原告は、排出口下部のギヤポンプによる後処理装置に樹脂を送るための制御が可動ダムによる混練翼部(B)に対する混練制御に影響を与えるとの問題点は、甲第5号証においても絞り機構7と排出口3との間にスクリュ形状の第2フィード部を設け、上記問題点を解決しているから、甲第5号証は上記課題を認識しているものである旨主張する。
しかしながら、甲第5号証第1図(別紙3参照)に示された第2フィード部はスクリュー形状をしていることが認められるが、これは、第1混練部から送られてくる材料等を受けてこれを下流側の第2混練部に供給するためであり、フィード力を高めるためであるとは認められるものの、甲第5号証の発明の詳細な説明には、第2フィード部をスクリュー形状としたその他の理由については記載されていない。したがって、甲第5号証において絞り機構7と排出口(材料排出用オリフィス)3との間にスクリュ形状の第2フィード部8が設けられていることから、甲第5号証に記載の発明が、本件発明におけるような排出口下部のギヤポンプによる後処理装置に樹脂を送るための制御が可動ダムによる混練翼部(B)に対する混練制御に影響を与えるとの問題点を認識し、その解決のために第2フィード部をスクリュ形状にしたものと認めることはできず、原告の上記主張は採用することができない。
エ さらに、甲第1号証、第3及び第9号証を検討しても、いずれも第2混練部を設けることなく送り翼部を排出口まで配置した二軸連続式混練機が記載されているにとどまり、また、甲第15及び第16号証にも、本件発明のロータ5及び甲第5号証記載のロータ4の各一部に対応するロータが標準ロータとして記載されていることが認められるにとどまり、甲第5号証に記載された発明につき、構成を変更することを動機づけるに足りる記載は見いだせない。
オ したがって、断面円形部の下流側から排出口まで混練翼部とほぼ同径のスクリュ形状の送り翼部を設ける点につき、本件発明が、甲第5号証に記載された発明から、又は甲第5号証に記載された発明と甲第1、第3、第9、第15若しくは第16号証記載の発明とを組み合わせることにより当業者が容易に想到し得るものと認めることはできないし、本件発明と甲第5号証に記載された発明とが実質的に同一であると認めることもできない。
(3) まとめ
よって、原告主張の取消事由1は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 取消事由2(甲第1号証に基づく進歩性欠如)について
(1) 相違点
本件発明と甲第1号証に記載された発明との対比・相違点の認定(審決書8頁13行ないし9頁18行)のうち、「はるかに」小径である点(同9頁17行)及び「著しく」相違している点(同9頁18行)を除き、当事者間に争いがない。
(2) 相違点(a)(可動ダムと回転リング)及び相違点(c)(送り翼部の径の大小)について
ア 前記のとおり、本件発明は、可動ダムとギアポンプにより混練度を制御するタイプの二軸連続式混練機における問題点である①ギアポンプの影響を受けて可動ダムの制御が困難又は不正確になることがある、②高粘度樹脂ではギアポンプへの喰い込み不良が起こる、との問題の解決を課題とするものであるところ、甲第1、第3、第5、第9、第15及び第16号証によっても、このような課題の認識が当業者にとって自明であったものと認めることはできないものである。
イ このように課題の認識が容易ではない以上、甲第1号証に記載されている回転リングによる混練制御機構を甲第2号証に記載されたバルブ機構に置き換え、かつ、混練翼部(B)と送り翼部(D)とをほぼ同径とすることが、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができるものであると認めることはできない。
これに反する原告の主張は採用することができない。
(3) まとめ
よって、原告主張の取消事由2は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない(なお、審決が、単に甲第1号証に基づき新規性の判断をしているにすぎず、進歩性の判断をしていないものではないことは、審決の理由全体から明らかである。)。
3 結論
以上によれば、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)