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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)82号 判決 1999年9月30日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

【事実及び理由】 第一 原告の求めた裁判

「特許庁が平成一〇年審判第三五一〇六号事件について平成一一年一月二九日にした審決を取り消す。」との判決。

第二 事案の概要

1  特許庁における手続の経緯

原告は、登録第二六三二三三三号商標(平成四年二月七日商標登録出願、平成六年三月三一日設定登録。本件商標)の商標権者である。本件商標は、「ORGANIC」の文字を横書きして成り、旧第二八類「酒類(薬用酒を除く)」を指定商品とする。

被告は、平成一〇年三月一七日、原告を被請求人として、商標法四六条一項一号に基づき本件商標の無効審判を請求し、平成一〇年審判第三五一〇六号事件として審理されたが、平成一一年一月二九日、本件商標登録を無効とする旨の審決があり、その謄本は同年二月二三日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決摘示の審判時の当事者の主張等は別紙審決理由抜粋のとおりであり、これに基づく審決の判断は、以下のとおりである。

(1) 本件商標は、上記のとおり「ORGANIC」の文字から成るものであって、「有機の、有機体の」などを意味するものである(例えば、小学館発行「ランダムハウス英和大辞典」参照)。

(2) しかして、被告(請求人)の提出に係る証拠によれば、以下の点を認めることができる。

ア  一九九六年(平成八年)五月一五日発行の「オーガニック食品」(審判甲第三六号証)によれば、米国では、一九七六年(昭和五一年)には、既にオーガニック農産物を栽培する農家が存在しており、これらが認証団体を組織していたこと、一九九〇年(平成二年)に「オーガニック食品生産法」が成立したこと。

オーガニック食品に関するEU(欧州連合)の統一基準「EU基準」は、一九九一年(平成三年)六月に決定され、認証の仕組みは、EUが認証機関を認可し、認可を受けた国や民間認証団体が認証を行うものであること。そして、同基準は一九九二年(平成四年)から実施され、EUが認可した認定団体(約七〇団体)に認められたオーガニック食品でないと、EU圏内ではオーガニックの文字をつけて販売することができないこと(「そして」以下は、一九九七年(平成九年)七月一五日号「食品工業」:審判甲第三九号証参照)。

フランスは、一九八〇年(昭和五五年)にオーガニック食品生産に関する法律を制定し、世界で最初に公的認証制度を確立した国であること。

イギリスでは、一九七三年(昭和四八年)に土壌協会がオーガニック食品生産の基準、一九八七年(昭和六二年)に加工基準を発表し、これが「EU基準」の土台になったこと。

イ  一九九〇年(平成二年)四月二一日付け及び一九九〇年(平成二年)九月二九日付け「朝日新聞」によれば、ニューヨークでは、徹底した無農薬、低農薬栽培のオーガニック(有機農法)素材を売り物にしたレストランが連日にぎわっていること。

ウ  一九九〇年(平成二年)六月一三日付け「夕刊読売新聞」によれば、米国で有機農法の野菜や果物等を材料にした料理を提供するレストランがオーガニックグルメとして人気を集めている旨の記載があること。

エ  一九九七年(平成九年)一〇月一五日号「食品工業」によれば、わが国では、農水省がオーガニック農産物のラベル表示に関する規定を設けており、これらのガイドラインが一九九三年(平成五年)四月に導入されたこと。

オ  一九九二年(平成四年)一月一日発行の「現代用語の基礎知識一九九二」(審判甲第七号証)によれば、米国で「オーガニック(有機野菜)」に認定された野菜など、輸入有機野菜が、わが国で人気を集めていること。

カ  一九九〇年(平成二年)一二月九日付け「毎日新聞」によれば、わが国に、米国から州認定の有機農産物を原料にしたジュース、ジャムなどを輸入し、「オーガニック(有機)」と書いたプレートを掲げたギフトコーナーで販売している百貨店があること。

岡山では、平成一年七月から有機農産物に「無農薬有機」等のシールを貼った認証制度をスタートさせていること。

北海道では、有機農産物について研究する「北海道有機農業研究協議会」が作られていること。

キ  一九九一年(平成三年)七月一八日付け「読売新聞」によれば、全国農業協同組合中央会(全中)は、有機農産物に関する自主基準を制定したこと。

兵庫に、「オーガニック(有機)ギフト」コーナーにおいて、米国のカリフォルニア州の認定基準をパスした有機無農薬果実から作ったジュース、ジャムなどとオーストラリア産のジュースを販売している百貨店があること。同記事中には、「米国産は昨年の中元から、オーストラリア産は歳暮から試験的に扱ったが、好評だったので、今年は中元の目玉に取り上げた」と記述されていること。

東京に、米国産有機農産物の認定を受けた冷凍・缶詰野菜やジュース、パスタ、ソースなどを販売している百貨店があること。

外食チェーン大手のステーキ店で、成長ホルモン剤や抗生物質を使わない米国産の肉や有機栽培野菜を使用していること、また、コーヒー、ジュースも米国の有機認定品を使用していること。

ク  一九九二年(平成四年)一月一日付け「日本食糧新聞」によれば、東京に、米国の有機栽培(オーガニック)基準にパスした無農薬栽培や有機栽培の素材を使った七〇アイテムに上る自主輸入オーガニック食品を販売している百貨店があること。

ケ  一九九二年(平成四年)九月一一日付け「日本食糧新聞」によれば、新潟で開かれた「’92新潟アメリカン・フード・ショー」において有機栽培による野菜加工品のオーガニック製品が展示されたこと。

(3) 以上を総合すれば、米国、EU諸国においては、少なくともEU基準が実施された平成四年ころには、オーガニック食品に関する認証制度が存在し、わが国においては、平成四年前に、米国等でオーガニック食品の認定を受けたジュース、ジャム等の食品が輸入、販売され、中には「オーガニック(有機)」のプレートを掲げて販売され、さらには「米国産は昨年の中元から、オーストラリア産は歳暮から試験的に扱ったが、好評だったので、今年は中元の目玉に取り上げた」との記述も認められるところである。また、(2)で述べた、アメリカン・フード・ショーが開かれた新潟の状況、岡山に有機農産物の認証制度が存在する事実、全国農業協同組合中央会が有機農産物に関する自主基準を制定した事実等に加え、平成五年四月には、わが国においても、オーガニック農産物に関するラベル表示に関するガイドラインが導入されるに至った状況からすると、少なくとも本件商標の登録査定時である平成五年九月ころには、わが国において、オーガニック(有機)農産物、加工食品に関心を寄せる取引者、需要者は少なくなかったものといわなければならない。そして、農産物のみならず加工食品に関してもオーガニック(有機)の語が使用されていた点を併せ考慮すれば、「organic」の語がその指定商品の「酒類(薬用酒を除く)」について使用した場合、これに接した取引者、需要者は、これをオーガニック(有機)農産物を原料に使用したものと理解し、商品の識別標識とは認識しないものと判断するのが相当である。

(4) 原告は、本件商標は原告が販売するビールであることを識別する周知商標として広く認識されるに至っている旨述べる。

原告が本件商標を使用しているとして提出した審判乙第九号証の一ないし三は商品パンフレット、審判乙第一〇号証一ないし三は新聞に掲載された広告と認められるところ、これらによれば、原告は、本件商標がビールに表示されていることが認められる。しかしながら、商品パンフレットがいつ、どの程度印刷され、かつ、頒布されたものか不明なものであり、また、商品広告も三回行われたことが確認し得るに止まるものであるばかりでなく、これらの商品広告は本件商標の登録査定後にされたものである。しかも、これらにおける本件商標の使用態様をみるに、例えば、審判乙第九号証の一の商品パンフレットには、「原料完全無農薬・自然有機栽培」、「有機農法ビール」と記述され、また、「缶入りビール」の缶には「ORGANIC BEER」の文字より大きな文字で「有機農法ビール」の文字が表示されている。これらの表示方法からすれば、「ORGANIC BEER」の文字は商品の識別標識として使用されているものというよりは、むしろ「有機農法ビール」であることを表すために使用されたものともいい得るものである。審判乙第九号証の二及び三の商品パンフレット、同第一〇号証の一ないし三の商品広告における表示方法も、「ORGANIC」の語が強い識別力を有するものとして使用されているとは判断し得ないものである。したがって、これらの証拠によっては、登録査定時において、本件商標が使用をされた結果、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていたものともいえず、それ以降においても、需要者間に広く知られ周知性を獲得するに至ったものとは判断することができない。

(5) 以上のとおりであって、本件商標は、その指定商品中「オーガニック(有機)」の語に照応する商品に使用しても、商品の品質、原材料を表示するにとどまるものであって、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであり、上記以外の商品に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるものといわなければならない。

したがって、本件商標は、商標法三条一項三号及び同法四条一項一六号に違反して登録されたものであるから、同法四六条一項の規定により、その登録を無効にすべきである。

第三 原告主張の審決取消事由

1  本件商標の「ORGANIC」なる語は、わが国においては平成八年若しくは平成九年ころから注目されるようになったものであって、本件商標の登録査定時の平成五年ころには、少なくともわが国では一般にはほとんど使用されておらず、現在においても、この語が本件商標の指定商品である「酒類(薬用酒を除く)」に使用された場合に、「有機農法等で生産された農産物を原料に製造された」などの意味として、わが国の取引者、一般需要者に認識されているなどという事情もない。

審決は、これに反する事実を誤って認定し、本件商標登録を無効にすべきものとしたものであって、取り消されるべきである。審決認定事実(前記審決の理由の要点(2))に即して述べると、以下のとおりである。

2  アで認定の事実は、米国、EU、フランス及びイギリスにおける「オーガニック」の語に関する事例を認定したものにすぎない。欧米における事例をもって、本件商標「ORGANIC」に対するわが国の取引者、一般需要者の認識内容を認定する根拠とはならない。しかも、アの認定証拠は、本件商標登録査定時である平成五年より後の平成八年ないし九年の文献であり、このことは、「ORGANIC」の語がわが国で注目されるようになったのは、平成八年ないし九年ころからであることを容易に推測させる。

イ及びウの認定事実も、ニューヨーク及び米国における事例である。

エの認定事実は、審判甲第四〇号証(一九九七年(平成九年)一〇月一五日号「食品工業」)に基づくものであるが、同号証の六一頁左欄二〇行目以下には、「日本政府はオーガニックフーズの認定には係わっていないが、農水省は農産物のラベル表示に関する規定を設けている。これらのガイドラインは一九九三年(平成五年)四月に導入されたが、その内容の曖昧さが批判を受け、最近大幅な改定を行った。一九九六年(平成八年)一二月に新しい『オーガニック農産物及び特殊栽培農産物のラベル表示に関する規定』が導入された」と記載されており、農水省が「オーガニック農産物」ラベル表示に関する規定を導入したのは、平成五年四月ではなく、本件商標登録査定後の平成八年一二月である。審判甲第四〇号証の発行が平成九年一〇月であることも合わせると、「ORGANIC」の語がわが国で注目されるようになったのは、平成八年ないし九年ころからであると考えるのが自然かつ妥当である。

オの認定事実もアメリカにおける「オーガニック」の後の使用実態にすぎない。

オないしケで認定の事実の多くは、輸入有機野菜若しくは有機農産物に関するもので、本件商標の指定商品である酒類に関するものではない。酒類に関して「オーガニック」の語がその品質若しくは原材料の表示として一般に認識されているという事実は、審決の認定にない。

3  原告は、本件商標を付したビールのパンフレットを本件商標登録の平成六年から一一年までの間に全国酒類販売店等に七二万四〇〇〇枚余りを配布し、日本経済新聞等の全国版に本件商標を付したビールの宣伝広告をした。そして、本件商標権の侵害と思料される他社の標章使用に対しては警告を繰り返すなどの原告の努力、さらには、平成三年ころから開始した本件商標を付してのビールの輸入、販売の継続が総量三一三万本に上ったことなどにより、本件商標は、現在では原告が販売するビールであることを識別する周知商標として業界に広く認識されるに至っている。

4  なお、審決の理由の要点(2)の事実中、ア、ウ、カ、キ、ク及びケの各項で認定された事実の記載がそれぞれの文献にあることは認める。

第四 審決取消事由に対する被告の反論

1  原告の主張はすべて失当であり、審決の認定、判断に誤りはない。

2  「オーガニック」の語は、本件商標の登録査定時より前に発行された辞典類で既に掲載されていて、日本語化されていた。また、オーガニック食品に関する認定は、本件商標登録査定時前、欧米を中心に法制化されており、食品の国際的な流通実態からすると、海外のこうした法制化の事情を考慮せず、日本にだけ「ORGANIC」の商標を一私人に独占させるべき積極的な理由はない。

3  原告は、本件商標の指定商品が酒類であることを主張するが、文献中には、有機農産物と有機加工食品を併記しているものがあり、農産物と酒類とは無関係ではない。

4  なお、商標法四条一項一六号は、査定時における判断による適用にとどまらず、登録後、後発的にその無効事由が発生した場合にも適用される。

第五 当裁判所の判断

1  審決の理由の要点(2)の事実中、ア、ウ、カ、キ、ク及びケの各項で認定された事実が審決摘示の文献に記載されていることは原告も争わないところであり、これらによると、まず、オーガニック(有機栽培)農産物ないしオーガニック食品生産に関する世界的な動きとして、次のような事実が認められる。

(1) 米国では、一九七六年(昭和五一年)、既にオーガニック農産物を栽培する農家が存在しており、これらが認証団体を組織し、一九九〇年(平成二年)に「オーガニック食品生産法」が成立した。

(2) フランスは、一九八〇年(昭和五五年)にオーガニック食品生産に関する法律を制定し、世界で最初に公的認証制度を確立し、イギリスでは、土壌協会が、一九七三年(昭和四八年)にオーガニック食品生産の基準を、一九八七年(昭和六二年)に加工基準を発表し、これが「EU基準」の土台になった。

(3) オーガニック食品に関するEU(欧州連合)の統一基準「EU基準」は、一九九一年(平成三年)六月に決定された。

2  次に、前記のとおり原告も争わない文献記載事実によると、これらの世界的な動きに照応して、日本でも次のような動きの紹介記事があることが明らかである。そして、乙第二三ないし第二七号証によれば、以下の記事中に、「オーガニック」の語が使用されていることが認められる。

(1) 一九九〇年(平成二年)六月一三日付け読売新聞(夕刊)で、米国で有機農法の野菜や果物等を材料にした料理を提供するレストランがオーガニックグルメとして人気を集めていることが紹介された。

(2) 同年一二月九日付け毎日新聞で、わが国に、米国から州認定の有機農産物を原料にしたジュース、ジャムなどを輸入し、「オーガニック(有機)」と書いたプレートを掲げたギフトコーナーで販売している百貨店があることが紹介された。

(3) また、一九九一年(平成三年)七月一八日付け読売新聞に、全国農業協同組合中央会(全中)は、有機農産物に関する自主基準を制定したこと、兵庫に、「オーガニック(有機)ギフト」コーナーにおいて、米国のカリフォルニア州の認定基準をパスした有機無農薬果実から作ったジュース、ジャムなどとオーストラリア産のジュースを販売している百貨店があることなどの有機農産物についての紹介記事が掲載された。

(4) さらには、一九九二年(平成四年)一月一日付け日本食糧新聞に、東京に、米国の有機栽培(オーガニック)基準にパスした無農薬栽培や有機栽培の素材を使った七〇アイテムに上る自主輸入オーガニック食品を販売している百貨店があることの紹介記事が掲載された。

(5) 一九九二年(平成四年)九月一一日付け日本食糧新聞に、新潟で開かれた「’92新潟アメリカン・フード・ショー」において有機栽培による野菜加工品のオーガニック製品が展示されたことの紹介記事が掲載された。

3  次に、《証拠略》によれば、一九九〇年(平成二年)四月二一日付け及び一九九〇年(平成二年)九月二九日付け朝日新聞(夕刊)に「いまトレンディなのは、「オーガニック(有機農法)グルメ」。ニューヨークでは、徹底した無農薬、低農薬栽培の素材を売り物にした……レストランが……連日にぎわっている。」、「ニューヨーク(NY)で、最近、注目されているレストランがいくつかある。それは、オーガニックな素材を主体としたレストランだ。オーガニックとは、自然食のことで、……」と記載されている記事があることが認められ、《証拠略》によれば、一九九七年(平成九年)一〇月一五日号「食品工業」六〇頁以下に、わが国におけるオーガニック認定の経緯が紹介され、「日本はオーガニック認定に係って一〇年になる。」(六〇頁右欄最終段落)、「一九九一年、日本で最初の私立認定プログラムである日本オーガニック及びナチュラルフーズ協会(JONA)が設定された」(六一頁左欄第二段落)、「日本政府はオーガニックフーズの認定には係っていないが、農水省……は農産物のラベル表示に関する規定を設けている。これらのガイドラインは一九九三年四月に導入されたが、その内容の曖昧さが批判をうけ、最近大幅な改定を行った。一九九六年一二月に新しい、「オーガニック農産物および特殊栽培農産物のラベル表示に関する規定」が導入された。」(六一頁左欄第五段落)と記載されていることが認められる。 4 さらに、一般用語としての普及度をみるに、《証拠略》によれば、一九九二年(平成四年)一月一日発行の「現代用語の基礎知識一九九二」九五三頁の「輸入有機野菜」の項目に、アメリカでは、農薬と科学(ママ)肥料を一切使用せず、収穫後も、流通、加工、貯蔵などの各段階で薬品を全く使わない農産物だけが「「オーガニック(完全有機)」と認定される。完全指向や健康指向で人気を集めており、日本国内の有機農法の厳格な基準制定を急がせそうだ。」と記載されており、翌一九九三年(平成五年)版以降の同書にも同様の記述が掲載されていることが認められ、《証拠略》によれば、「日本語になった外国語辞典第三版」一九九四年(平成六年)三月一五日発行にも、「オーガニック」の語が掲載されていることが認められ、この辞典は、編集時までの日本語化された外国語を収集したものとして、その前年の一九九三年(平成五年)までには「オーガニック」の語が既に日本語化していることを示しているものということができる。

5  以上を総合すれば、少なくとも本件商標の登録査定時である平成五年九月ころには、わが国において、オーガニック(有機)農産物、加工食品に関心を寄せ、あるいは「ORGANIC」の意味を理解していた取引者、需要者は少なくなかったものと認められ、そのような取引者、需要者が極く一部に限られていたものということはできない。もともと、「ORGANIC」とは「有機体の」「有機農法の」という意味を有するごく通常の英単語であることは当裁判所に顕著な事実であり、農産物のみならず、加工食品に関してもオーガニック(有機)の語が使用されていた点を併せ考慮すれば、「organic」の語をその指定商品の「酒類(薬用酒を除く)」について使用した場合、これに接した取引者、需要者は、これをオーガニック(有機)農産物を原料に使用したものと理解し、商品の識別標識とは認識しないものと判断するものと認めるのが相当である。

6  原告は、本件商標を付したビールのパンフレットを多数配布し、大手新聞等の全国版に本件商標を付したビールの宣伝広告をするなどして、本件商標は現在では原告が販売するビールであることを識別する周知商標として業界に広く認識されるに至っていると主張する。しかし、以上認定の事実関係、並びに、原告のパンフレットに掲載されているビールの缶又はびんには本件商標「ORGANIC」又は「ORGANIC BEER」が付されているものの、それと共に「有機農法ビール」、「自然農法」又は「JADE」、「BECKS」等の標章も大きく表示されていること(甲第九、第一〇号証の各一ないし三)に照らせば、取引者、需要者は、本件商標「organic」は、ビールの原料がオーガニック(有機)農産物によるものであると理解し、商品の識別標識とは認識しないものと認められるので、原告主張の宣伝、販売の事実が認められるとしても、本件商標が原告販売のビールであることを識別する周知商標として業界に広く認識されるに至っているとまで認めることはできない。

第六 結論

以上のとおりであり、審決には原告主張の事実認定の誤りはなく、この誤りのあることを前提とする原告の本訴請求は棄却されるべきである。

(平成一一年八月二四日口頭弁論終結)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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