東京高等裁判所 平成11年(行コ)10号 判決 2000年1月31日
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人Aは、東京都に対し、一四一万八七一〇円及びこれに対する平成八年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人Bは、東京都に対し、三一五万四一五六円及びこれに対する平成八年五月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人ら
主文第一項と同旨。
第二事案の概要
本件は、東京都(以下「都」という。)の住民である控訴人が、都財務局主計部議案課(以下「議案課」という。)が所管して行った議会対策会議に係る経費の支出に関し、(一) 執行機関側が会議、打合せと称してホテル、料亭等で宴席を設けて都議会議員を接待し、一人当たり四万七四〇〇円ないし二万五五〇〇円の費用をかけて飲食等を提供することは、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反し、社会通念を逸脱している、(二) 被控訴人A及び被控訴人Bはいずれも議案課長として右会議の経費に係る支出負担行為を行った者であるなどと主張し、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、都に代位して、右経費の支出によって都が受けた損害賠償請求として、被控訴人Aに対し、損害一四一万八七一〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年五月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、また、被控訴人Bに対し、損害三一五万四一五六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年五月三一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求めた事案である。
控訴人は、都内に住所を有する者である。
議案課長は、都財務局主計部議案課所管の会議の費用について支出負担行為をする権限を有するものであるところ、被控訴人Aは、平成四年四月から平成六年七月まで議案課長の職にあった者、また、被控訴人Bは、同年八月から平成八年七月まで議案課長の職にあった者である。
被控訴人Aは、議案課長在任期間中、次の(一)及び(二)記載の議会対策会議の開催及び場所等を決定した上、各債権者との間で、右各会議において提供する料理等の内容、金額を決定し、これらに基づき、料理等の提供に係る契約締結手続が行われ、都の公金が支出された。
(一) 平成五年四月一日開催の議会対策会議(本件会議①)
(1) 支出命令日・同年七月一三日、支出日・同月一九日(支出命令番号〇〇一五五―〇一)
(2) 支出金額 八一万二八六六円
(3) 注文料理数 一四名分
(4) 債権者 株式会社美濃吉(以下「美濃吉」という。)
(二) 平成六年四月一日開催の議会対策会議(本件会議②)
(1) 支出命令日・同年六月二〇日、支出日・同月二七日(支出命令番号〇〇〇八九―〇一)
(2) 支出金額 六〇万五八四四円
(3) 注文料理数 一〇名分
(4) 債権者 美濃吉
被控訴人Bは、議案課長在任期間中、次の(三)ないし(八)記載の議会対策会議の開催及び場所等を決定した上、各債権者との間で、右各会議において提供する料理等の内容、金額を決定し、これらに基づき、料理等の提供に係る契約締結手続が行われ、都の公金が支出された。
(三) 平成七年三月九日開催の議会対策会議(本件会議③)
(1) 支出命令日・同年四月一一日、支出日・同月二〇日(支出命令番号〇〇九七七―〇二)
(2) 支出金額 五三万八二二四円
(3) 注文料理数 一六名分
(4) 債権者 株式会社京王プラザホテル(以下「京王プラザホテル」という。)
(四) 同年三月一五日開催の議会対策会議(本件会議④)
(1) 支出命令日・同年五月一一日、支出日・同月一八日(支出命令番号〇一〇〇〇―〇一)
(2) 支出金額 四三万〇一二八円
(3) 注文料理数 一七四名分
(4) 債権者 株式会社二幸
(五) 同年九月四日開催の議会対策会議(本件会議⑤)
(1) 支出命令日・同月二八日、支出日・同年一〇月五日(支出命令番号〇〇五二六―〇一)
(2) 支出金額 六八万九一〇六円
(3) 注文料理数 二〇名分
(4) 債権者 京王プラザホテル
(六) 同年九月一四日開催の議会対策会議(本件会議⑥)
(1) 支出命令日・同月二六日、支出日・同年一〇月三日(支出命令番号〇〇五三四―〇一)
(2) 支出金額 四八万〇八一六円
(3) 注文料理数 九名分
(4) 債権者 美濃吉
(七) 同年一〇月二〇日開催の議会対策会議(本件会議⑦)
(1) 支出命令日・同年一一月一日、支出日・同月九日(支出命令番号〇〇六四一―〇一)
(2) 支出金額 三六万一七五六円
(3) 注文料理数 六名分
(4) 債権者 美濃吉
(八) 同年一一月二日開催の議会対策会議(本件会議⑧)
(1) 支出命令日・同年一二月五日、支出日・同月一三日(支出命令番号〇〇七〇三―〇一)
(2) 支出金額 六五万四一二六円
(3) 注文料理数 二二名分
(4) 債権者 日本ヒルトンホテル株式会社(以下「ヒルトンホテル」という。)
控訴人は、都監査委員に対し、平成八年二月二一日、本件会議①ないし本件会議⑧を含む各議会対策会議に係る経費として公金が支出されたことは違法であるなどと主張し、地方自治法二四二条に基づき、公金の全額を都に返還させる措置を講ずることを求める監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。これに対し、都監査委員は、平成八年四月二二日付けで、本件監査請求のうち、平成七年二月二〇日以前の行為に関する部分は、当該行為があった日から一年を経過してされたものであり、また、監査請求期間を経過して請求したことについて同条二項ただし書にいう「正当な理由」はないとして、これを却下し、その余の部分は、各議会対策会議に係る経費の支出に違法、不当性があるとは断定できないとして、これを棄却する決定をし、右決定を控訴人に通知した。
控訴人は、右監査の結果を不服として、平成八年五月二〇日、東京地方裁判所に、被控訴人らを相手方とし、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、都に代位して、本件損害賠償請求訴訟を提起した。
本件の主要な争点は、(一) 被控訴人Aに対する本件請求は適法な監査請求を経たものといえるか否か、すなわち、控訴人が、本件会議①及び本件会議②に係る経費の支出に関し、監査請求期間を経過した後監査請求をしたことについて正当な理由があるか否か、また、右正当な理由があるとして、被控訴人Aが議案課長としてした右各会議に係る支出負担行為は違法であって、被控訴人Aは都に対し損害賠償責任を負うか否か(争点1)、(二) 被控訴人Bが議案課長としてした本件会議③ないし本件会議⑧に係る支出負担行為は違法であって、被控訴人Bは都に対し損害賠償責任を負うか否か(争点2)、である。
原審において、控訴人は、争点1について、(一) 控訴人は、平成七年一一月九日付け読売新聞記事の報道によって、本件会議①及び本件会議②に係る経費が支出されていることを初めて知ることができた、(二) 平成八年二月八日付け東京新聞記事等から、本件会議①及び本件会議②等に係る経費の支出に関し、債権者名義の請求書が偽造され、実際には出席した都議会議員にお土産を贈呈していないのに、これを贈呈したかのように装うなどして裏金作りをしていたことが明らかになった、(三) 控訴人は、その後三か月半程度しか経ていない平成八年二月二一日、本件監査請求を行ったので、地方自治法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」がある、(四) 被控訴人Aは、本件会議①及び本件会議②に係る料理代等に関し、出席者数を水増しするなどした右各会議に係る支出負担行為の原議を作成し、右原議に記載されたとおりの内訳の料理等の提供に係る契約を締結するように装い、その内容の契約締結手続をさせた上、議案課の担当職員に市販の用紙を使用して出席者数等を水増しするなどした請求書等を偽造させ、右料理代等相当額の公金を支出させた、(五) 右各会議は、都の執行機関が、会議又は打合せと称して地方公務員である都議会議員のために宴席を設け、議員を接待することを目的としたものであり、料亭を利用し、一人当たり四万三三〇〇円又は四万五二〇〇円という高額な料理代等を支出することは、社会通念を著しく逸脱し、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反する違法な支出負担行為である、などと主張し、また、争点2について、(一) 被控訴人Bは、本件会議③ないし本件会議⑧に係る料理代等に関し、出席者数を水増しするなどした右各会議に係る支出負担行為の原議を作成し、右原議に記載されたとおりの内訳の料理等の提供に係る契約を締結するように装い、その内容の契約締結手続をさせた上、議案課の担当職員に市販の用紙を使用して出席者数等を水増しするなどした請求書等を偽造させ、右料理代等相当額の公金を支出させた、(二) 右各会議は、都の執行機関が、会議又は打合せと称して地方公務員である都議会議員のために宴席を設け、議員を接待することを目的としたものであり、ホテルや料亭を利用し、一人当たり四万七四〇〇円ないし二万五五〇〇円という高額な料理代等を支出することは、社会通念を著しく逸脱し、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反する違法な支出負担行為である、などと主張した。
原審は、(一) 本件監査請求は、本件会議①及び本件会議②に係る支出負担行為の関係では、地方自治法二四二条二項に定める監査請求期間を経過した不適法なものである、(二) 本件会議③ないし本件会議⑧は、会議の目的、出席者、接遇の内容等を総合的にみれば、これをもって社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでいうことはできない、などとして、被控訴人Aに対する訴えを却下し、被控訴人Bに対する請求を棄却した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
当事者双方の主張を含む本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」の「第二事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一四丁表一〇行目「支出するする」を「支出する」と、一五丁裏二行目「行われら」を「行われた」といずれも改める。)。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、本件監査請求は、本件会議①及び本件会議②に係る支出負担行為については、地方自治法二四二条二項に定める監査請求期間を経過してされた不適法なものであって、控訴人の被控訴人Aに対する本件訴えは却下を免れず、また、本件会議③ないし本件会議⑧は、これをもって社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでいうことはできないから、控訴人の被控訴人Bに対する本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次に付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第三 当裁判所の判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決二六丁表六行目の「であた」を「であった」と、二九丁裏一三行目の「得ること」を「得ることを」といずれも改める。)。
一 被控訴人Aに対する本件請求は、適法な監査請求を経たものといえるか否か、すなわち、控訴人が、本件会議①及び本件会議②に係る経費の支出に関し、監査請求期間を経過した後本件監査請求をしたことについて正当な理由があるか否か(争点1の前段)について本件においては、原判決認定のとおり、本件会議①及び本件会議②に係る支出負担行為は、平成五年又は平成六年中にされたものであり、本件監査請求は、平成八年二月二一日にされたのであるから、本件監査請求のうち右各会議の支出に係る部分については、当該行為があった日から一年を経過した後に行われたものであって、監査請求期間の経過後にされたものであることは明らかである。
これに対し、控訴人は、平成七年一一月九日付け右読売新聞記事等の報道によって、本件会議①及び本件会議②に係る経費が支出されていることを初めて知ることができたところ、平成八年二月八日付け東京新聞記事(甲一六)等から、本件会議①及び本件会議②等に係る経費の支出に関し、債権者名義の請求書が偽造され、実際には出席した都議会議員にお土産を贈呈していないのに、これを贈呈したかのように装うなどして裏金作りをしていたことは明らかであるから、監査請求期間の経過後である本件監査請求には地方自治法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」がある、などと主張する。
しかしながら、証拠(甲三五、四四、乙一一、一三、一四、原審における被控訴人B本人尋問の結果及び原審における被控訴人A本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件会議①及び本件会議②に係る料理代等の請求書は市販の用紙を使用して作成されているところ、当時は、出納長室の厳格な書面審査で不備を指摘されることによる事務の渋滞を回避するため、債権者の承諾を得て、所管課の職員が市販の用紙を使用して見積書や請求書の内訳の記入を代行することが慣例となっていたこと、本件会議①及び本件会議②に係る料理代等の請求書の内容は、債権者である美濃吉が現実に提供したことを確認して請求した内訳を議案課の職員においてその記入を代行したものであり、右各請求書の記名押印は美濃吉においてしたものであることなど右各請求書の作成は債権者である美濃吉の意思に基づくものであることを認めることができ(なお、その意思確認は十分なものと認めることができることは後記のとおりである。)、控訴人の指摘する東京新聞記事(甲二、一六、七一、七八)はいずれも疑いがあるというに止まるものであって確たる裏付けを欠き、前掲各証拠に照らし、採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、これらの事実に照らしてみると、東京新聞記事の内容や市販の用紙を使用して請求書が作成されていることをもって、本件会議①及び本件会議②に係る支出負担行為に関して、控訴人の主張するような仮装、隠ぺい等の不正行為が行われたと認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると、本件においては、本件会議①及び本件会議②に係る支出負担行為について、仮装、隠ぺい等の不正行為が行われ、これが監査請求期間を経過した後初めて明らかになった場合に当たると認めることはできないから、本件監査請求には、地方自治法二四二条二項ただし書に定める正当な理由があるということはできず、控訴人の被控訴人Aに対する訴えは、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えであるといわざるを得ない。
二 被控訴人Bが議案課長としてした本件会議③ないし本件会議⑧に係る支出負担行為は違法であって、被控訴人Bは都に対し損害賠償責任を負うか否か(争点2)について
1 控訴人は、被控訴人Bは、本件会議③ないし本件会議⑧に係る料理代等に関し、出席者数を水増しするなどした右各会議に係る原議を作成し、右原議に記載されたとおりの内訳の料理等の提供に係る契約を締結するように装い、その内容の契約締結手続をさせた上、議案課の担当職員に市販の用紙を使用して出席者数等を水増しするなどした請求書等を偽造させ、右料理代等相当額の公金を支出させた、などと主張する。
しかしながら、証拠(甲五四ないし五九、乙五ないし一〇の各二、五、乙一一ないし一四、原審における被控訴人B本人尋問の結果及び原審における被控訴人A本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件会議③、本件会議④、本件会議⑥ないし本件会議⑧に係る料理代等の請求書は市販の用紙を使用して作成されているところ、当時は、出納長室の厳格な書面審査で不備を指摘されることによる事務の渋滞を回避するため、各債権者の承諾を得て、所管課の職員が市販の用紙を使用して見積書や請求書の内訳の記入を代行することが慣例となっていたこと、本件会議③、本件会議④、本件会議⑥ないし本件会議⑧に係る料理代等の請求書の内容は、各債権者(京王プラザホテル、株式会社二幸、美濃吉、ヒルトンホテル。以下同様。)が現実に提供したことを確認して請求した内訳を議案課の職員においてその記入を代行したものであり、右各請求書の記名押印は各債権者においてしたものであることなど右各請求書の作成は各債権者の意思に基づくものであること、本件会議⑤に係る料理代等の請求書は京王プラザホテルの用紙を使用し、その作成は京王プラザホテルの意思に基づくものであることを認めることができる。しかも、当審においても控訴人から重ねて京王プラザホテルの料理代等の請求書について疑問が提示されたので、当裁判所の要望により、被控訴人ら代理人において、直接、京王プラザホテル(取締役社長C)から、請求代金と同額の金員を飲食代金として都から振込送金を受け受領したことを確認する旨の被控訴人ら代理人あての回答書を得て、書証(乙一二)として提出し、かつ右回答書取得の経緯等も報告書(乙一四)として提出されており、これらによって、京王プラザホテルの意思確認はより十分なものと認められ、また、美濃吉が請け負った四件の飲食代金の請求とその支払についても、当審において京王プラザホテルの場合と同様に、当裁判所の要望により、改めて被控訴人ら代理人において、直接、美濃吉(代表取締役D)から、請求代金と同額の金員を飲食代金として都から振込送金を受け受領したことを確認する旨の被控訴人ら代理人あての回答書を得て、書証(乙一三)として提出し、かつ右回答書取得の経緯等も報告書(乙一四)として提出されており、これらによって、美濃吉の意思確認は十分なものと認めることができる。そして、これらの事実に照らしてみると、東京新聞記事(甲二、一六、七一、七八)はいずれも疑いがあるというに止まるものであって確たる裏付けを欠き、前掲各証拠に照らし、採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、本件においては、本件会議③ないし本件会議⑧に係る支出負担行為に関して、控訴人の主張するような仮装、隠ぺい等の不正行為が行われたと認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
2 また、控訴人は、本件会議③ないし本件会議⑧は、都の執行機関が、会議又は打合せと称して地方公務員である都議会議員のために宴席を設け、議員を接待することを目的としたものであり、ホテルや料亭を利用し、一人当たり四万七四〇〇円ないし二万五五〇〇円という高額な料理代等を支出することは、社会通念を著しく逸脱し、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反する違法な支出負担行為である、などと主張する。
しかしながら、本件においては、原判決認定のとおり、(一) 議案課は、都における執行機関と議会との交渉、協議の統一的な窓口となっていて、予算案や条例案など重要議案の提出、審議、議決を円滑にする目的で、執行機関と議会双方の協議及び意見交換の場を設営することが議案課長の主要な職務内容の一つになっていること、また、議案課長において協議等の場を設定するに当たっては、出席者が執行機関側が知事、副知事及び局長など幹部職員であり、議会側が議長、副議長や各会派の役員を中心とする都議会議員の中で枢要な地位を占める立場にある者に限られ、協議内容等がほかへ漏れることがないようにするため、実績のある業者を中心とし、その中から、協議等の内容、出席者の地位、立場等を考慮して選定を行っていること、(二) 本件会議③は、第一回定例会において、信用組合の経営破綻に伴う都の対応策について、各会派の思惑が微妙に交錯し、円滑な議会運営に困難を来していたところ、正副議長の精力的な協力によって、議会運営が促進され、対応策が議決されたことから、執行機関側が、正副議長との間で当該議会運営の総括を行い、かかる正副議長の活動に対し謝意を表する目的で開催されたこと、右会議は京王プラザホテルで開催され、出席者は、正副議長と都知事を含む執行機関職員一四名の合計一六名で、料理等の単価は二万八八五〇円であったこと、そして、本件会議③の料理代等として五三万八二二四円が公金から支出されたこと(甲五四、乙九の一ないし六)、(三) 本件会議④は、第一回定例会において、信用組合の経営破綻に伴う都の対応策等を中心とする困難な議案について慎重な審議のもと議決等が行われ、同定例会が閉会し、また、都知事の任期満了が間近に迫ったこともあり、都知事が当該定例会提出議案に係る審議及び議決に対し謝意を表すること及びこれまでの都政運営に対する支援と協力に謝意を表すること等を目的とし、執行機関と都議会議長との共催として開催されたこと、右会議は都議会第一会議室で開催され、出席者は、都議会議員一二八名と執行機関職員四六名の合計一七四名で、料理等の単価は四八〇〇円であったこと、そして、本件会議④の料理代等として右総額の二分の一である四三万〇一二八円が公金から支出されたこと(甲五五、乙一〇の一ないし六)、(四) 本件会議⑤は、都議会自由民主党の役員が改選されたことに伴い、執行機関側が、旧役員に対し謝意を表するとともに、今後の議会審議及び都政運営に理解と協力を得る目的で開催されたこと、右会議は京王プラザホテルで開催され、出席者は、都議会自由民主党旧役員一〇名と都知事を含む執行機関職員一〇名の合計二〇名で、料理等の単価は二万九五五〇円であったこと、そして、本件会議⑤の料理代等として六八万九一〇六円が公金から支出されたこと(甲五六、乙五の一ないし六)、(五) 本件会議⑥は、第三回定例会において、正副議長が交代したことに伴い、執行機関側が、旧正副議長に対し、過去二年間の議会運営に対する謝意を表するとともに、今後の議会審議及び都政運営に理解と協力を得る目的で開催されたこと、右会議は美濃吉で開催され、出席者は旧正副議長と都知事を含む執行機関職員七名の合計九名で、料理等の単価は四万二〇〇〇円であったこと、そして、本件会議⑥の料理代等として四八万〇八一六円が公金から支出されたこと(甲五七、乙六の一ないし六)、(六) 本件会議⑦は、第三回定例会において、正副議長が交代したことに伴い、執行機関側が、新正副議長に対し、困難な議会運営に取り組むことに敬意を表するとともに、今後の円滑な議会審議及び都政運営に対する協力を得ることを目的として開催されたこと、右会議は美濃吉で開催され、出席者は正副議長と都知事を含む執行機関職員四名の合計六名で、料理等の単価は四万七四〇〇円であったこと、そして、本件会議⑦の料理代等として三六万一七五六円が公金から支出されたこと(甲五八、乙七の一ないし六)、(七) 本件会議⑧は、都議会自由民主党の役員が改選されたことに伴い、執行機関側が、新役員に対し、今後の都議会の円滑な運営を依頼するとともに、都政の運営について理解と協力を求める目的で開催されたこと、右会議はヒルトンホテルで開催され、出席者は都議会自由民主党役員一一名と都知事を含む執行機関職員一一名の合計二二名で、料理等の単価は二万五五〇〇円であったこと、そして、本件会議⑧の料理代等として六五万四一二六円が公金から支出されたこと(甲五九、乙八の一ないし六)、(八) 本件会議③ないし⑧に出席した執行機関職員は、都知事、副知事、総務局長、財務局長等の幹部職員であったことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、これらの事実によれば、本件会議③、本件会議⑤ないし本件会議⑧は、いずれも都執行機関側(都知事を含む幹部職員)が、正副議長、新・旧正副議長、主要会派の新・旧役員である都議会議員を招き、円滑な議会審議や都政運営への協力に謝意を表し、また、今後の都政運営への理解と協力を求めることなどを目的として開催され、その趣旨に沿う一定の接遇を行ったものであり、都知事の事務遂行上必要な範囲内の会議であると認めることができる。もっとも、右本件会議③、本件会議⑤ないし本件会議⑧は、ホテルや料亭で開催され、一人当たり四万七四〇〇円あるいは二万五五〇〇円と高額の飲食が提供されており、右金額の点だけを見れば控訴人の受ける印象ももっともな観がないではない。しかし、本件会議③、本件会議⑤ないし本件会議⑧は、都議会の定例会の閉会、都議会の正副議長の交代、都議会の主要会派の役員が交代した機会をとらえ、執行機関測が、正副議長、新・旧の正副議長、主要会派の新・旧役員を招き、円滑な議会運営によって難題が処理されたことについて、あるいは日ごろの都政の円滑な運営への協力に謝意を表し、また、今後の都政の運営について意見交換を行い、理解と協力を得ることを目的として開催され、その趣旨に沿うべく一定の接遇を行ったものであって、都知事の事務遂行上必要な範囲内のものと認められることは前記のとおりであり、また、右各会議の出席者は、正副議長、関係の都議会議員と執行機関側は都知事を含む幹部職員であって、右各会議の趣旨、目的に照らして相当な範囲の者に限定されていたと認められる。そして、以上のとおり、都議会の正副議長など議会で枢要な地位を占める議員を招いて、円滑な議会審議や都政運営への協力に謝意を表し、また、今後の都政運営への理解と協力を求めるに当たって、相当の格式のある場所で会議を開催し、相当の接遇を行うことは、執行機関側の配慮としてあながち不適当であると評価することはできず、これに右本件会議③、本件会議⑤ないし本件会議⑧は、芸妓の花代や二次会の遊興費等の費用を含むものではないことなどをも勘案すると、右の程度の各会議を実施し、接遇を行うことをもって、社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものであるとまでいうことはできない。また、本件会議④は、第一回定例会の閉会後、都議会議員に対し、当該定例会提出議案に係る審議及び議決に対し謝意を表すること及び任期満了が迫っている都知事がこれまでの都政運営に対する支援と協力に謝意を表すること等を目的とし、執行機関と都議会議長との共催として開催されたものであって、都知事の事務遂行上必要な範囲内の会議であり、その接遇の内容等も、右会議の趣旨及び目的に照らし相当な範囲であると認めることができる。
以上にみたとおり、本件会議③ないし本件会議⑧及びこれに伴う接遇は、都知事を含む執行機関側が、議会の正副議長、関係議員との十分な意思疎通を図り、今後の都政運営への理解と協力を得ることを主たる目的として行われた事務遂行上必要な範囲内のものと認められ、本件会議④の場合を除き、その費用がやや高額ではないかという問題があるものの、右各会議の目的、出席者、接遇の内容等を総合的にみれば、これをもって社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものとまでいうことはできず、また、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反するものということもできない。そうすると、議案課長である被控訴人Bには、右各会議に係る費用の支出負担行為者としてその裁量を逸脱した違法があるということはできず、また、地方自治法一条及び地方財政法四条に違反するということもできないから、控訴人の被控訴人Bに対する本件請求は、その余について判断するまでもなく、理由がないといわざるを得ない。
第四結論
以上によれば、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)