東京高等裁判所 平成11年(行コ)161号 判決 1999年12月20日
控訴人
日本商事株式会社
右代表者代表取締役
中村定治
右訴訟代理人弁護士
平野耕司
山崎哲
渡辺清朗
被控訴人
川口税務署長 野村富男
右指定代理人
大圖明
木上律子
今泉憲三
齋藤隆敏
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 控訴人の昭和六四年一月一日から平成元年五月三一日までの事業年度(本件事業年度)について平成六年一二月二六日付けで被控訴人がした法人税の更正処分(本件更正処分)のうち、所得金額二〇七三万三五七五円、課税土地譲渡利益金額一七七九万七〇〇〇円、法人税額一二八七万八七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(本件賦課決定処分)を取り消す。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
本件は、控訴人の本件事業年度の法人税について控訴人がした確定申告に対して被控訴人がした本件更正処分等(本件更正処分と本件賦課決定処分とを併せたもの)について、控訴人が、控訴人の確定申告に係る所得金額、課税土地譲渡利益金額を超える部分は、控訴人の所得、課税土地譲渡利益を過大に認定したもので違法であり、また、本件更正処分を前提とされた本件賦課決定処分も違法であるとして、被控訴人に対し、本件更正処分等の取消しを求めた事案である。
その余の事案の概要は、原判決の「事実」の「第二 当事者の主張」欄記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴人は、木元鉄工との間で、本件土地に本件建物を一億〇三七四万円で建築することを内容とする昭和六三年一二月二八日付けの民間建設耕司請負契約書(本件請負契約書)、及び、ヤマサ商事を仲介として、共立堂との間で、本件建物を一億七〇二九万円で売却することを内容とする右同日付けの建物売買契約書(本件建物売買契約書)、更には、平成元年二月二二日に清水胤正らから取得した本件土地について、ヤマサ商事を仲介として、共立堂との間で、本件土地を二億九六七五万円で売却することを内容とする同月二八日付け土地売買契約書(本件土地売買契約書)をそれぞれ取り交わしたことを根拠として、同年七月二四日、本件土地売買契約書記載の譲渡金額二億九六七五万円を基に本件事業年度の所得金額を計算して本件確定申告をしたところ、被控訴人は、本件建物の注文者は控訴人ではなく、共立堂が木元鉄工に請け負わせてその注文をしたものであるから、控訴人が本件建物を共立堂に譲渡することはあり得ず、共立堂が控訴人に対して本件建物の中間金の名目で支払った本件金員六六五五万円は、本件本件土地売買契約書の売却代金の一部であるとして、本件更正処分等を行った。そこで控訴人は、これを不服として審査請求等をしたが、棄却の裁決を受けたため、本件更正処分等の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
本件訴訟における争点は、<1>原審依頼の双方の主張に関する争点、すなわち、本件建物の注文者が控訴人、共立堂をのいずれであるか、ひいては、本件金員は本件土地売買代金の一部であるかどうかの点、及び<2>当審における控訴人の新主張に関する争点、すなわち、本件更正処分等が権利濫用若しくは信義則違反であるとの主張の成否の点である。
争点に関する双方の主張は、争点<2>に関する当審での控訴人の主張を次のとおり付加するほか、前記引用に係る原判決の「第二 当事者の主張」欄記載のとおりである。
(当審における控訴人の新たな主張)
本件確定申告に係る不動産の譲渡等は、控訴人にとって平常どおりの業務として行ってきた建売住宅販売の一つであって、控訴人は国土法の規制にも、超短期特別重課制度にもいずれにも違反することなく、取引を完了したところ、平成四年に至って税務調査が行われたものの、何らの指摘を受けることもなく推移した。ところが、その後、相当期間が経過したのち、平成元年申告に係る本件申告についての本件更正処分等が行われたのであって、このような経緯に徴すると、本件更正処分等は、正に権利濫用・信義則違反というべきである。
第三当裁判所の判断
当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
一 争点<1>について
当裁判所も、本件建物は、共立堂が木元鉄工に請け負わせて建築したものであり、したがって、控訴人が本件建物を共立堂に譲渡することはあり得ないから、控訴人が、本件事業年度において、本件建物の売買代金の一部であるとして経理した本金金員(六六五五万円)は、本件本件土地売買契約書の売買代金の一部であると認めるのが相当と判断する。その理由については、次のとおり付加するほか、原判決理由説示のとおりであるから(「理由」の「第一」欄記載のとおり。ただし、五六頁二行目の「を譲渡」を「で譲渡」に改め、六七頁四行目の冒頭に「外観上は、」を付加し、六行目の「売却し」を「売却した形式をとり」に改める。)、これを引用する。
1 控訴人は、控訴人はかねてから建売住宅又はその変形であるいわゆる建売住宅青田売り及び建築条件付住宅の販売を行ってきたものであり、本件取引も経済効果的及び法律効果的には本件土地・建物を取引する結果となるという意味で全く同一であるから、かかる視点・観点からの理解・判断が欠如している原判決は取り消されるべきである旨主張する。
しかしながら、原判決が判事するとおり、控訴人が取り交わした本件請負契約書等は、控訴人があたかも本件建物の注文者であるかのような外形を作出するために作成されたものと認められるのであって、控訴人の一般的なそれまでの事業が仮に控訴人主張のようなものであったとしても、そのことによって本件建物の注文者が控訴人であると認め得るものではない。控訴人の右主張は失当である。
2 控訴人は、原判決が本件請負契約書に図面及び仕様書の添付がない旨指摘したことに対し、その理由として、そもそも本件建物を木元鉄工に施工させることを欲していたのは共立堂であり、いかなる建物が出来上がるのかに一番利害を有していたのは共立堂であったとして、控訴人が本件建物について具体的な交渉を行わなかったのも同じ理由であるから正当であるかのような主張をする。
しかしながら、仮に控訴人が主張するように本件建物の真の注文者が控訴人であるのなら、控訴人は木元鉄工から本件建物の引渡しを受ける際には、本件建物か本件請負契約書に添付されるべき図面及び仕様書に沿って建築された瑕疵のない建物であることを確認するのが当然の筈である。にもかかわらず、そのような大きな利害を有する筈の控訴人自身が、右の点に関しては共立堂が一番利害を有する旨主張しているのであって、この点からしても、本件建物の真の注文者が控訴人であるとは認められないというべきであり、控訴人の右主張は失当である。
3 控訴人は、本件建物の工事全般につき掌握していることが控訴人の役目であり、そのため控訴人が木元鉄工より受領した仕様書(本件乙見積書)は、建物の売上金額の確認のためのものであり、木元鉄工より共立堂に交付された仕様書(本件甲見積書)は、建物の仕入金額に該当するものであって、原判決には理由がない旨主張する。
しかしながら、控訴人が本件建物の売上金額の確認のため木元鉄工から受領した本件乙見積書の見積金額(一億七〇二九万円)は、本件建物売買契約書の売買代金と全く同額であるところ、控訴人の主張するところによれば、右売買代金は、本件建物の請負代金一億〇三七四万円に控訴人の利益金額である本件金員相当額六六五五万円を加算した金額であるというのであるから、木元鉄工は、本来、全く関知するはずのない控訴人の利益金額をも含めて本件建物に関する見積書を作成したということとなり、このこと自体によっても本件乙見積書が控訴人と木元鉄工との間で交わされた実体に沿った真の見積書であるとすることがいかに不自然であるかを示すものといえる。控訴人の右主張も失当である。
4 なお、控訴人は、原判決が「原告は、当初、本件本件土地売買契約書を一平方メートル当たり約一二〇万円で売却し六四〇〇万円から七二〇〇万円の利益を得ようと計画していた」と判示した部分をとらえ、あたかも根拠のない判示であるかのように主張するが、本件で取り調べられた原判決摘示に係る証拠によれば、原判決判示に係る右の事実については、優にこれを認めることができるのであって、控訴人き右主張は失当である。
二 争点<2>について
控訴人は、本件確定申告に係る不動産の譲渡等に対して平成四年に行われた税務調査において、何らの指摘を受けることもなく推移したのに、その後、相当期間か経過したのちに至って、平成元年申告に係る本件申告についての本件更正処分等が行われたのであって、本件更正処分等は、本件確定申告に係る不動産の譲渡等を含む本件の経緯等に徴すると、権利濫用・信義則違反というべきである旨主張する。
しかしながら、納税者に対する税務調査はその必要に応じて課税庁の合理的な裁量に任されており、本件更正処分等がその処分時期との関係において権利濫用・信義則違反と認め得るに足りる証拠はない(国税通則法七〇条五項では、偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れた国税の更正決定等は、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限から七年を経過する日まですることができる旨規定されており、本件更正処分等は、本件事業年度に係る法人税の確定申告書の法定申告期限から右七年の期間内に行われている。)。
また、本件においては、原判決判示のとおり、被控訴人が本件調査の結果得られた事実関係に基づいて本件更正処分等を行ったことは明らかであり、合法性の原理を犠牲にしてもなお納税者である控訴人の信頼を保護しなければならない必要性を本件において認めることは到底できない。
したがって、控訴人の右主張も採用できない。
三 本件更正処分等の適法性について
右一、二に基づけば、本件更正処分等はいずれも適法であると認められる。その理由については、原判決「理由」欄の「第二」に判示したとおりであるから、これを引用する。
以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
よって、主文のとおり判決する
(平成一一年一一月一日弁論終結)
(裁判長裁判官 伊東瑩子 裁判官 鈴木敏之 裁判官 小池一利)