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東京高等裁判所 平成11年(行コ)205号 判決 2000年3月23日

控訴人 池田昭男

被控訴人 建設大臣

代理人 加藤裕 飯山義雄 ほか七名

主文

一  原判決を取り消す。

二  群馬県知事が平成八年九月五日に都市計画法五九条一項に基づいてした前橋都市計画道路事業三・四・二六号県庁群大線の認可の取消しを求める控訴人の審査請求について、被控訴人が平成一〇年一一月二四日付けでした右審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

一  本件は、群馬県知事が都市計画法五九条一項に基づいてした前橋都市計画道路事業三・四・二六号県庁群大線の認可(本件認可)の取消しを求めて、控訴人が被控訴人に審査請求をしたところ、被控訴人が、審査請求期間は本件認可の告示の日の翌日から開始するとの法解釈をもとに、審査請求期間の徒過を理由として、右審査請求を却下する旨の裁決をしたため、控訴人が右却下裁決の取消しを求めた事案である。原裁決は、被控訴人と同じ解釈のもとに控訴人の請求を棄却したので、これに対して控訴人が不服を申し立てたものである。

二  右のほかの事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の該当欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の当審における主張)

原判決は、都市計画法の都市計画事業の認可が、告示によりその効力を生じると、処分の効力を受ける者が現実に告示を知ったか否かにかかわりなく、その者が処分があったことを知ったものとみなされ、行政不服審査法一四条一項本文の規定により、六〇日間の短期の審査請求期間が始まり、その期間を経過してされた本件審査請求は、不適法であると判断した。しかし、右の判断は、法の解釈を誤ったものである。

行政不服審査法一四条一項本文にいう「処分があったことを知った日」とは、処分の効力を受ける者が処分を現実に知った日と解すべきである。本件認可が告示されたのは、平成八年九月一三日であるが、控訴人が本件認可を知った日は、地元説明会が行われた平成八年一〇月二日である。本件審査請求は、その翌日から起算して六〇日以内である(六〇日の最終日である平成八年一二月一日は日曜日であり、翌日が期間の末日となる。)平成八年一二月二日にしたのであるから、適法な審査請求である。したがって、この請求を期間経過により却下した本件裁決は取り消されるべきである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所は、本件認可が告示されても、処分の効力を受ける者が本件認可の存在を現実に知らない限り、行政不服審査法一四条一項本文の「処分があったことを知った」とはいえず、本件認可の告示の日の翌日から六〇日の審査請求期間の経過を理由として、本件審査請求を却下した本件裁決は、違法であり、取消しを免れず、被控訴人は、あらためて控訴人が本件認可の存在を知った日を認定した上、審査請求について裁決すべきものと判断する。

その理由は、次のとおりである。

1  行政不服審査法一四条一項本分が、六〇日という短期の審査請求期間の始期を、処分があったことを知った日としているのは、処分の効力を受ける者が処分があったことを知らなければ、これを争うべきか否かを判断できず、そのような判断ができない状態で短期間の審査請求期間が始まり、それが経過すれば審査請求をできなくするというのでは、処分の効力を受ける者に対して酷に過ぎるからである。しかし、処分の効力を受ける者がこれを知らない以上、いつまででも処分の効力を争えるとすると、永久に処分の効力が安定しないこととなるので、行政不服審査法一四条三項は、処分の日から一年を経過して審査請求がないと、処分の効力を受ける者が処分を知る知らないにかかわらず、これを争えないものとしている。このような法の趣旨からすると、行政不服審査法一四条一項本文の「処分があったことを知った日」とは、処分の効力を受ける者が処分があったことを現実に知った日を意味するのであり、抽象的な知りうべかりし日では足りないものと解すべきである(最高裁昭和二七年一一月二〇日判決民集六巻一〇号一〇三八頁参照)。

ただ、行政庁が処分を告知しようとしても、処分の効力を受ける者がそれを回避しようとする場合など、処分を受ける側の事由で告知ができないときには、法は、これに対応する措置(公告など)を定め、処分の効力を受ける者が必ずしも現実に知らなくても、対応する措置がとられたときに、これを知ったものとして、処分の効力を生じさせ、かつ、その効力が生じた日から、短期の審査請求の期間を開始させる(最高裁昭和二七年一一月二八日判決民集六巻一〇号一〇七三頁参照)。しかし、このように、短期の審査請求の期間の開始について、処分の効力を受ける者の現実の知不知を問わないのは、あくまでも処分の告知が処分の効力を受ける者の側の事由で妨げられているからである。処分の効力を受ける者の側に原因がないのに、その知不知を問わないで、短期の審査請求期間の進行を開始させるのは、知ったときを短期の審査請求期間の開始時期とする行政不服審査法の制度趣旨を否定するに等しい。そのような法解釈は、採用することができない。

そして、このことは、処分が処分の効力を受ける者に個別に告知されず、告示によって効力が生じる場合であっても異なることはない。その告示は、処分の効力を受ける者の側の事由でされるのではないのであり、したがって、告示があっても個別の告知がないために処分があったことを知り得ない不利益を、処分の効力を受ける者に帰することは許されないからである。すなわち、その者が処分があったことを知らない場合でも、告示の時点から短期の審査請求期間の進行を開始することはできないのである。

2  もっとも、告示のみで個別の告知をしない場合でも、特に必要がある場合には、処分の効力を受ける者の現実の知不知を問わず、しかも、行政不服審査法一四条三項の一年の期間の経過を待たずに、短期の審査請求期間の経過によって審査請求を制限し、早期に処分の効力を安定させることができないではない。しかし、そのような行政不服審査法の規定と異なる法的効力を実現しようとする以上、まず第一に、一般の行政処分の場合とは異なる制度上特別の必要が認められる場合でなくてはならない。そして第二に、処分の効力を受ける者が、処分の存在についての知不知にかかわらず、短期間に審査請求の機会を失う不利益が課せられるのであるから、その不利益を緩和する代償的な制度上の措置も用意する必要があろう。そして第三として、そのような特別な必要のため譲歩を迫られる国民の側の了解を、代議制民主制により国民を代表する国会の場で得るため、法律でそのような特別の定めをする必要がある。

このような特別の規定として、例えば地方税法四一五条の固定資産税課税台帳の縦覧の制度(これは縦覧期間を法定することをもって、縦覧する機会を確実に確保することにより、個別の告知のない不利益の代償措置としたものである。)や、同法四三二条や土地収用法一三〇条の現実の知不知を問わない審査請求の短期の期間制限の制度(固定資産税や土地収用法による事業の認定の場合、制度上特別の必要があり、合理性があるために、国会において国民の側の了承が与えられているのである。)がある。

そのような法律の規定がないのに、当然に、処分の存在の知不知を問わないで、行政不服審査法一四条三項の一年の期間を短縮することはできないのであって、このことは、処分が告示によって効力を生じる場合でも、変わりはないものである。

本件の場合、裁判所の法廷での求釈明に対し、被控訴人は、早期に都市計画事業の認可処分の効力を安定させなければならない特別の必要はない旨釈明している。そうであれば、行政不服審査法とは異なる特別の規定を設けようとしても、できないことは明らかで、被控訴人は、行政不服審査法一四条の規定に従わねばならず、知ったときから六〇日または知不知を問わないで一年の審査請求期間の経過を待たないで、処分の不可争力が発生したものと取り扱うことはできないものというべきである。

3  なお、都市計画法六六条には、都市計画事業の認可の告示があったときは、施行者はすみやかに周知措置を講じるべき旨の規定がある。この規定をみると都市計画法自体が、告示だけでは、処分の効力を受ける個々の住民への周知措置として不十分であると認めているものというべきである。そうである以上、都市計画事業の認可の場合、法が周知措置として不十分だとしているその告示によって、処分の効力を受ける者が処分の存在を知ったものとみなすのは、同一の事項に関する判断として一貫しないものといわねばならない。被控訴人の主張は、この点でも採用することができないものである。

4  そして、被控訴人は、建築線の指定に関する昭和六一年六月一九日の最高裁判決(判例時報一二〇六号二一頁)をあげる。しかし、その判示の内容は、当該事案を前提として、原審の判断の結論を是認したのにとどまり、一般的な判示をしたものではないとも読める。また、最高裁判決の事案の一審判決(二審判決はこの一審判決の認定を引用している。)をみると、当該事件の原告は公告の一〇日後には指定の事実を知ったと認められるとしており、それより約半年後にされた審査請求が、審査請求期間六〇日を経過していたことは明らかであったものである。とすると、公告の日を審査請求期間の起算点とするべきかどうかの点は、当該事案では結論を出すために不可欠のものであったとは、認められないから、この点についての判示は、判例としての拘束力を認めがたい。都市計画事業の認可の場合、処分の効力を受ける者が建築線指定の場合のように処分が発せられる過程に関与する機会を与えられていないこと、事業認可のもととなる都市計画決定と事業認可との間には多くの場合長年月(本件では控訴人の主張によると約四〇年である。)が経過していることなど、多くの点で建築線の指定の場合とは異なるのであって、右の判決は本件の事案には参考とならない。

二  そうすると、被控訴人が平成一〇年一一月二四日付けでした審査請求を却下する旨の裁決の取消しを求める控訴人の請求は、これを認容すべきものである。この請求を棄却した原判決は、法の解釈を誤ったものであるから失当としてこれを取り消し、控訴人の請求を認容することとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 淺生重機 菊池洋一 江口とし子)

【参考】第一審(東京地裁 平成一一年(行ウ)第一七号 平成一一年八月二七日判決)

主文

一 原告の請求を棄却する。

二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

群馬県知事が平成八年九月五日に都市計画法五九条一項に基づいてした前橋都市計画道路事業三・四・二六号県庁群大線の認可の取消しを求める原告の審査請求について、被告が平成一〇年一一月二四日付けでした右審査請求を却下する旨の裁決を取り消す。

第二事案の概要

本件は、県知事が都市計画法五九条一項に基づいてした都市計画事業の認可について、原告がその取消しを求めて審査請求をしたところ、被告が、審査請求期間の徒過を理由として、右審査請求を却下する旨の裁決をしたため、原告が右却下裁決の取消しを求めている事案である。

一 争いがない事実

1 群馬県知事は、平成八年九月五日、都市計画法五九条一項に基づいて前橋都市計画道路事業三・四・二六号県庁群大線を認可し(以下「本件認可」という。)、同月一三日、同法六二条一項に基づいて本件認可の告示を行った。

2 原告は、同年一二月二日、被告に対し、本件認可の取消しを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

3 これに対し、被告は、平成一〇年一一月二四日、本件審査請求は処分があったことを知った日の翌日から起算して六〇日の期間を徒過してされたものであるから、行政不服審査法一四条一項所定の期間経過後になされた不適法な請求であるとして、本件審査請求を却下する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をした。

二 当事者双方の主張

(被告の主張)

都市計画法五九条一項に基づく都市計画事業の認可は、その性質上、利害関係を有する者全員につき画一的に効力を生じさせることが不可欠であるところ、通常、広範囲の土地をその対象とするために利害関係人は多数にのぼり、その利害の態様も様々である上、権利の移動が頻繁に行われることが予想される。そのため、都道府県知事において、ある時点における利害関係人全員の住所、氏名等を網羅的に確知することは到底不可能であることから、右認可処分の効力は告示によって生ずることとされている。

このように、法が告示等の公示手段により利害関係人に対する周知を行うことを予定している処分については、行政不服審査法一四条一項本文にいう「処分があったことを知った日」は、利害関係人が現実に知ったか否かにかかわりなく、当該告示等の公示手段が行われた日を指すものと解すべきである。

したがって、本件の場合も、本件認可についての審査請求期間は、本件認可についての都市計画法六二条一項所定の告示がされた日の翌日である平成八年九月一四日を起算日とすべきであるから、右起算日から六〇日を経過した後にされた本件審査請求は、行政不服審査法一四条一項所定の期間経過後にされた不適法な請求であり、これを却下した本件裁決に違法はない。

(原告の主張)

行政不服審査法一四条一項本文にいう「処分があったことを知った日」とは、その文言どおりに国民である処分の対象者が当該処分を現実に「知った日」と解すべきである。

原告が本件認可を知った日は、地元説明会が行われた平成八年一〇月二日であり、本件審査請求は、その翌日から起算して六〇日以内になされた適法な請求である。

したがって、実質的な判断を行わないまま本件請求を却下した本件裁決は違法である。

三 争点

本件の争点は、都市計画法五九条一項に基づく都市計画事業の認可の不服申立てにつき、行政不服審査法一四条一項本文にいう「処分があったことを知った日」とは、利害関係人が右認可がされたことを現実に知った日をいうのか、それとも、都市計画法六二条一項に基づいて右認可の告示がされた日をいうのか、の点にある。

第三争点に対する判断

一 都市計画法五九条一項に基づく都市計画事業の認可がされると、認可をした都道府県知事は、遅滞なく、建設省令(同法施行規則四八条)で定めるところにより、施行者の名称、都市計画事業の種類、事業施行期間及び事業地を告示するものとされている(同法六二条一項)。

そして、右告示後は、当該事業地内において都市計画事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更、建築物の建築その他工作物の建設等については都道府県知事の許可を要することとなる(同法六五条一項)。

また、都市計画事業については、土地収用法二〇条の規定による事業認定は行わず、都市計画事業の認可をもって、これに代えるとともに、右認可の告示をもって、同法二六条一項の事業認定の告示とみなされる(都市計画法七〇条一項)ことから、右認可の告示後は、施行者が土地収用法による収容手続を進めることにより、土地を収用することができることとなり、また、告示の時をもって、土地収用法における関係人の範囲が確定され(都市計画法七一条一項、土地収用法八条三項)、買収価格が固定される(都市計画法七一条一項、土地収用法七一条)等の効果が発生する。

そして、都市計画法には、都市計画事業の認可につき、告示以外に利害関係人に対して個別に通知がなされるべきことを定めた規定はないが、都市計画事業の認可の告示があったときは、施行者は、すみやかに、都市計画事業の施行について周知のため必要な措置を講じるべきものとされており(都市計画法六六条)、具体的には、事業施行を公告して(同法施行規則五二条)、その旨を掲示し(同法施行令四二条二項、同法施行規則五八条)、土地建物等の有償譲渡についての制限の内容を事業地内又はその周辺の適当な場所に掲示するとともに、土地建物等の所有者に対して通知し、又は新聞紙に広告し(同法施行規則五三条、三八条の三第一項)、事業地及びその附近地の住民に対し、事業の概要についての説明会を開催すべきもの(同法施行規則五四条)とされている。

二 ところで、都市計画事業の認可は、その性質上、利害関係人全員に対し画一的かつ同時に認可の効力を生じさせることが不可欠であるところ、右認可は事業地内という通常広範囲にわたる土地を対象とするために利害関係人が多数にのぼり、その利害の態様も様々で、権利の変動が頻繁に行われることも予想され、仮に都道府県知事において、利害関係人全員の住所、氏名を把握して、各別に通知を行うという方法によるとすれば、画一的かつ同時に認可の効力を発生させることは事実上困難となり、当該事業の目的の達成は期し難いことから、都市計画法は、告示という方法によって右認可の効力を生じさせることとし、さらに、関係者、一般市民に対する周知の徹底という観点から、施行者に対し、前記のとおり告示後の周知義務を課したものと解される。

そこで、右のとおり、都市計画法においては、都市計画事業の認可の効力は、利害関係人に対する個別の通知によって発生するものとはされておらず、告示によって画一的に発生することが予定されていることからすると、行政不服審査法一四条一項本分にいう「処分があったことを知った日」とは、右告示の性質上、利害関係人が現実に右告示を知ったか否かにかかわりなく、告示が適法になされた日であると解するのが相当である。

三 したがって、本件においては、本件認可に対する審査請求期間の起算日は、本件認可の告示が適法になされた日の翌日である平成八年九月一四日と解すべきであるから、同日から六〇日を経過した後である同年一二月二日にされた本件審査請求は行政不服審査法一四条一項の規定に反した不適法な請求であるというべきである。

四 以上のとおり、本件審査請求を却下した本件裁決には違法はないから、原告の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 市村陽典 阪本勝 村松秀樹)

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